交通ネットワークの形状と敷設順序に関する考察

交通ネットワークの形状と敷設順序に関する考察
02900440 筑波大学
*渡辺泰弘
01205430 筑波大学
鈴木勉
WATANABE Yasuhiro
SUZUKI Tsutomu
1. はじめに
ことが多く,一方 c=0.8 では,逆の傾向がみられ,高速
都市には,道路網や鉄道網といった交通ネットワーク
が存在する.これらのネットワークは,全てが同時に構
築されるわけではなく,時間とともに成長してつながっ
ていく.ネットワークの成長過程を決める敷設順序とネ
ットワーク形状の最適性を評価することは,新たな敷設
または既存路線廃止の計画の順序を決定する一助とな
ると考えられる.そこで,本稿ではネットワークの形状
と成長過程に着目し,ネットワークの速度との関係を明
らかにすることを目的とする.
交通路の速度によって最小平均所要時間を与えるネッ
トワークの形状は異なることがわかる.速度によって最
適なパターンが変わるのは,l=28 の時の Linear-Ring
(c=0.2)と Cross-Ring (c=0.8)の形状であった.図 1 の 6
つの形状の成長する交通ネットワークモデルを構築し,
成長パターンとその要因を考察する.
2.4
成長過程
ネットワークの最終形状は決まっているものとし,逐
次最適敷設によってネットワークを成長させる.成長過
2. ネットワーク成長モデル
2.1 仮想都市空間
程のそれぞれの時点で,平均所要時間を最小にする高速
交通路のリンクを仮想都市空間上に逐次的に敷設して
13×13 の正方格子状に並んだ 169 個の需要点(かつ高
いくアルゴリズムを用いて計算を行った.
速交通路のアクセス・イグレス点)からなる仮想都市空
間を考える.仮想都市は,Cross, Ring, Linear-Ring,
Cross-Ring, Grid の 5 種類の高速交通路(図 1)のいずれ
かを有するものとする.
Cross(l=12)
Ring(l=24)
Linear-Ring(l=28)
3. 結果
2 で選定した 6 種類の形状のネットワークについて,
成長をシミュレートした.各形状別の成長パターンの特
徴と成長に影響を与える要因,速度による成長の違いを
考察する.
3.1 形状別成長パターンの特徴
Cross は,まず一方向へ成長していき,その後もう一
つの方向ができる.これは,高速交通路が一方向へ延び
るほど平均所要時間の減少に与える効果が大きいため
Cross-Ring1(l=28)
Cross-Ring2(l=48)
Grid(l=72)
であると考えられる.
Ring は,初期の段階では離れて成長するが,交通路
がつながると大きく平均所要時間が減少する.これは交
通路が接続することによる効果のためと考えられる.
Linear-Ring は,初期段階の Linear の形状が平均所
図 1:高速交通路の種類(l:リンク数)
2.2
経路に関する仮定
一般の交通路は全方向に存在するものとし,需要点の
要時間を効果的に減少させている.放射状の交通路が 1
本しか敷設されてないために,環状の交通路が接続して
も所要時間はあまり減少せず,効果は小さい.
任意の 2 点間はそれらを結ぶ直線上を移動できるもの
Cross-Ring2 は,初期において,中央の交通路が 6
とする.また,高速交通路上では一般のリンク上の c
つの枝分かれした交通路をつなぐ大きな役割を果たし
倍(0<c ≤ 1)の速さで移動できるものとする.2 点間の移
ていると考えられる.また Ring と同様に環状の交通路
動経路は,一般交通路のみの経路および高速交通路経由
が接続することで,所要時間の減少に効果を与えている.
の経路のうち,最短移動時間をもたらす経路とする.
2.3
ネットワークの形状
高速交通路の形状は無数に考えられるが,本稿では高
速交通路は格子点間を縦横につなぐものとしている.高
Grid の初期の成長は,Cross-Ring2 と似ている.平
均移動時間の減少率が逓減していることから,後期に建
設される外側の路線リンクによる効果は大きくないこ
とがわかる.
速交通路の速度を c=0.2, 0.8 としてそれぞれ計算を行
l=28 の形状で c=0.8 の場合,Cross-Ring1 が平均所
い,最終的な形状としては同じリンク数の中で平均所要
要時間を最小にする形状である.このとき,高速交通路
時間が最小になるものを選定した(図 1).c=0.2 では,
上での移動速度が遅いために,近隣の需要点からの高速
Cross-Ring よりも Linear-Ring の形状の方が望ましい
交通路の利用しか期待できない.よって,その路線リン
●Cross(l=12, c=0.2)
l=2
l=6
c=0.2
平均所要時間
l=8
l=10
7
Cross
Ring
Linear-Ring
Cross-Ring_1
Cross-Ring_2
Grid
6.5
6
5.5
5
●Ring(l=24, c=0.2)
l=8
l=14
4.5
l=16
l=22
4
3.5
3
2.5
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
リンク数
●Linear-Ring(l=28, c=0.2)
l=8
l=14
c=0.8
平均所要時間
l=20
l=26
6.8
Cross
Ring
Linear-Ring
Cross-Ring_1
Cross-Ring_2
Grid
6.75
6.7
6.65
●Cross-Ring2(l=48, c=0.2)
l=20
l=32
l=40
l=42
6.6
6.55
6.5
0
l=44
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
リンク数
●Grid(l=72,c=0.2)
l=38
5
l=50
l=66
図 3:形状別平均所要時間の減少(上:c=0.2,下:c=0.8)
c=0.8 の交通ネットワークでは,形状別の平均所要時
間の減少割合の差は小さくなっている(図 3 下図).これ
は,移動速度が速いと遠方の需要点からの利用が期待で
きるのに対して,高速交通路上の移動速度が遅くなると,
●Cross-Ring1(l=28, c=0.8)
l=12
l=14
平均所要時間を減少させる効果が小さく,路線リンクが
l=18
l=26
つながった需要点やその近隣地域のみにしか影響を与
えることができないためであると考えられる.同様の理
由で,ネットワークは一方向へ成長するのではなく,近
隣地域の平均時間所要時間を減少させるために,近い場
図 2:形状別成長パターン
クが中央付近に多く敷設されている Cross-Ring1 の方
が Linear-Ring よりも効果的であると考えられる.
3.2 速度が与える成長への影響
所に枝分かれするように成長する傾向がみられた.
4. おわりに
ネットワークは,平均所要時間の減少により効果的に
影響を与えるために,一方向に一定の長さまで成長する
c=0.2 の路線リンクの敷設によって交通ネットワー
こと,成長の時点によって望ましいパターンが異なるこ
クが成長したとき,初期段階では,形状が Linear-Ring,
と,速度の違いは,所要時間の減少に効果を与える対象
Cross-Ring, Ring の順で平均所要時間の減少に大きな
地域の違いとなり,ネットワークの成長パターンを変化
効 果 をあ げてい る こと がわか る ( 図 3 上 図 ) .特 に
させることなどが明らかとなった.今後は,動的計画な
Linear-Ring のもつ直線の形状がその効果をあげてい
ど異なるアプローチによる成長モデルを構築し,成長過
る.一方,Ring の初期段階は不利に見えるが,環状に
程と形状の最適性を評価する予定である.
リンクが接続されると平均所要時間は一気に減少し,最
終的なパターンはリンク数が多い Linear-Ring よりも
望ましいことがわかる.このように,成長の過程で最適
であるパターンが必ずしも最終的に適したパターンで
あるとは言えない.
参考文献
1) 鈴木勉:高速交通路が都市空間構造に与える影響につい
て-逐次型施設配置モデルを用いた分析-,『都市計画
論文集』,Vol.41, No.3, pp.181-186, 2006.
2) 北国大太:高速道路建設の効果に関する数理的分析,筑
波大学大学院 経営政策科学研究科 修士論文,1997.