﹃春と修羅﹄ 宮沢賢治 3 心象スケツチ 春と修羅 大正十一、二年 5 みんなが同時に感ずるもの︶ 過去とかんずる方角から これらは二十二箇月の ︵ひかりはたもち その電燈は失はれ︶ ひとつの青い照明です 因果交流電燈の いかにもたしかにともりつづける せはしくせはしく明滅しながら 風景やみんなといつしよに ︵あらゆる透明な幽霊の複合体︶ ひとつの青い照明です 仮定された有機交流電燈の わたくしといふ現象は 巨大に明るい時間の集積のなかで けれどもこれら新生代沖積世の みんなのおのおののなかのすべてですから︶ ︵すべてがわたくしの中のみんなであるやうに ある程度まではみんなに共通いたします それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで 記録されたそのとほりのこのけしきで たゞたしかに記録されたこれらのけしきは それらも畢竟こゝろのひとつの風物です それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが 宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら これらについて人や銀河や修羅や海胆は そのとほりの心象スケツチです かげとひかりのひとくさりづつ ここまでたもちつゞけられた 紙と鉱質インクをつらね 正しくうつされた筈のこれらのことばが 序 ︵すべてわたくしと明滅し 6 ︵因果の時空的制約のもとに︶ それのいろいろの 論料 といつしよに 記録や歴史 あるいは地史といふものも そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに 風景や人物をかんずるやうに けだしわれわれがわれわれの感官や 傾向としてはあり得ます それを変らないとして感ずることは しかもわたくしも印刷者も すでにはやくもその組立や質を変じ ︵あるいは修羅の十億年︶ わづかその一点にも均しい明暗のうちに 大正十三年一月廿日 第四次延長のなかで主張されます 心象や時間それ自身の性質として すべてこれらの命題は 発見するかもしれません 透明な人類の巨大な足跡を あるいは白堊紀砂岩の層面に すてきな化石を発掘したり きらびやかな氷窒素のあたりから データ われわれがかんじてゐるのに過ぎません おそらくこれから二千年もたつたころは それ相当のちがつた地質学が流用され 相当した証拠もまた次次過去から現出し みんなは二千年ぐらゐ前には 青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ 新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層 宮沢賢治 7 春と修羅 8 屈折率 七つ森のこつちのひとつが 水の中よりもつと明るく そしてたいへん巨きいのに ラムプ わたくしはでこぼこ凍つたみちをふみ あえん このでこぼこの雪をふみ きやくふ 向ふの縮れた亜 鉛 の雲へ 陰気な郵便 脚夫 のやうに ︵またアラツデイン 洋燈 とり︶ 急がなければならないのか ︵一九二二、一、六︶ 9 くらかけの雪 たよりになるのは くす くらかけつづきの雪ばかり 野はらもはやしも ぽしやぽしやしたり 黝 んだりして かうぼ すこしもあてにならないので おぼ ほんたうにそんな 酵母 のふうの ろなふぶきですけれども 朧 ほのかなのぞみを送るのは こふう くらかけ山の雪ばかり ︵ひとつの 古風 な信仰です︶ ︵一九二二、一、六︶ 10 日輪と太市 めん 日は今日は小さな天の銀盤で 雲がその 面 を フ キ どんどん侵してかけてゐる けつと 雪 も光りだしたので 吹 太市は 毛布 の赤いズボンをはいた ︵一九二二、一、九︶ 11 丘の眩惑 ひとかけづつきれいにひかりながら でん インデイゴ そらから雪はしづんでくる しんばしらの影の藍 電 や かつぱ ぎらぎらの丘の照りかへし あすこの農夫の 合羽 のはじが だい まつ どこかの風に鋭く截りとられて来たことは 一千八百十年 代 の 佐野喜の木版に相当する ぎよくせいれいろう 野はらのはてはシベリヤの天 末 土耳古 玉製玲瓏 のつぎ目も光り ︵お日さまは そらの遠くで白い火を どしどしお焚きなさいます︶ 笹の雪が 燃え落ちる 燃え落ちる ︵一九二二、一、一二︶ 12 カーバイト倉庫 サーベンタイン まちなみのなつかしい灯とおもつて さんけふ いそいでわたくしは雪と 蛇紋岩 との 峡 をでてきましたのに 山 これはカーバイト倉庫の軒 はくめい すきとほつてつめたい電燈です ︵ 薄明 どきのみぞれにぬれたのだから 巻烟草に一本火をつけるがいい︶ これらなつかしさの擦過は 寒さからだけ来たのでなく またさびしいためからだけでもない ︵一九二二、一、一二︶ 13 さんち コバルト山地 ひようむ コバルト 山地 の 氷霧 のなかで けなしのもり けんたう あやしい朝の火が燃えてゐます 無森 のきり跡あたりの 毛 見当 です たしかにせいしんてきの白い火が 水より強くどしどしどしどし燃えてゐます ︵一九二二、一、二二︶ 14 ぬすびと らん 青じろい骸骨星座のよあけがた 凍えた泥の 乱 反射をわたり 店さきにひとつ置かれた 提婆のかめをぬすんだもの にはかにもその長く黒い脚をやめ 二つの耳に二つの手をあて 電線のオルゴールを聴く ︵一九二二、三、二︶ 15 恋と病熱 からす けふはぼくのたましひは疾み さへ正視ができない 烏 ブロンヅ あいつはちやうどいまごろから ば ら つめたい 青銅 の病室で 透明 薔薇 の火に燃される ほんたうに けれども妹よ けふはぼくもあんまりひどいから やなぎの花もとらない ︵一九二二、三、二〇︶ 16 せいはり れいろうの天の海には 聖 玻璃 の風が行き交ひ ︵正午の 管楽 よりもしげく いちめんのいちめんの 諂曲 模様 のばらのやぶや腐植の湿地 あけびのつるはくもにからまり 心象のはひいろはがねから ︵玉髄の雲がながれて おれはひとりの修羅なのだ はぎしり燃えてゆききする ああかがやきの四月の底を 雲はちぎれてそらをとぶ まことのことばはうしなはれ ︵かげろふの波と白い偏光︶ 天山の雪の稜さへひかるのに 春と修羅 春のいちれつ ZYPRESSEN エーテル くろぐろと 光素 を吸ひ 琥珀のかけらがそそぐとき︶ どこで啼くその春の鳥︶ ︶ mental sketch modified いかりのにがさまた青さ 日輪青くかげろへば ︵ 四月の気層のひかりの底を 修羅は樹林に交響し その暗い脚並からは し はぎしりゆききする 唾 陥りくらむ天の椀から てんごく おれはひとりの修羅なのだ 黒い木の群落が延び め ぢ くわんがく ︵風景はなみだにゆすれ︶ その枝はかなしくしげり つばき 砕ける雲の 眼路 をかぎり 17 喪神の森の梢から すべて二重の風景を いよいよ黒く ZYPRESSEN 雲の火ばなは降りそそぐ いてふのこずゑまたひかり ひらめいてとびたつからす ︵気層いよいよすみわたり ひのきもしんと天に立つころ︶ 草地の黄金をすぎてくるもの ことなくひとのかたちのもの けらをまとひおれを見るその農夫 ほんたうにおれが見えるのか まばゆい気圏の海のそこに ︵かなしみは青々ふかく︶ しづかにゆすれ ZYPRESSEN 鳥はまた青ぞらを截る ︵まことのことばはここになく 修羅のなみだはつちにふる︶ あたらしくそらに息つけば ほの白く肺はちぢまり ︵このからだそらのみぢんにちらばれ︶ 一九二二、四、八 18 春光呪咀 いつたいそいつはなんのざまだ どういふことかわかつてゐるか 髪がくろくてながく しんとくちをつぐむ ぼう ただそれつきりのことだ 春は草穂に 呆 け うつくしさは消えるぞ ︵ここは蒼ぐろくてがらんとしたもんだ︶ 頬がうすあかく瞳の茶いろ ただそれつきりのことだ ︵おおこのにがさ青さつめたさ︶ ︵一九二二、四、一〇︶ 19 有明 起伏の雪は しる あかるい桃の漿 をそそがれ の ど 青ぞらにとけのこる月は やさしく天に咽 喉 を鳴らし ハラサムギヤテイ ボージユ ソ もいちど散乱のひかりを呑む ハ カ ︵ 波羅僧羯諦 菩 提 薩 婆訶 ︶ ︵一九二二、四、一三︶ 20 谷 ひかりの澱 三角ばたけのうしろ かれ草層の上で わたくしの見ましたのは やう 顔いつぱいに赤い点うち 硝子様 鋼青のことばをつかつて しきりに歪み合ひながら 何か相談をやつてゐた 三人の妖女たちです ︵一九二二、四、二〇︶ 21 陽ざしとかれくさ くわう どこからかチーゼルが刺し 光 パラフヰンの 蒼いもや わをかく わを描く からす 烏の軋り⋮⋮からす器械⋮⋮ ︵これはかはりますか︶ ︵かはります︶ ︵これはかはりますか︶ ︵かはります︶ ︵これはどうですか︶ ︵かはりません︶ ︵そんなら おい ここに 雲の棘をもつて来い はやく︶ ︵いゝえ かはります かはります︶ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮刺し 光パラフヰンの蒼いもや わをかく わを描く からす からすの軋り⋮⋮からす機関 ︵一九二二、四、二三︶ 22 雲の信号 あゝいゝな せいせいするな 風が吹くし 農具はぴかぴか光つてゐるし がんけい がんしよう 山はぼんやり 頸 だつて 岩 岩鐘 だつて みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ かか そのとき雲の信号は もう青白い春の 禁慾のそら高く 掲 げられてゐた 山はぼんやり きつと四本杉には 今夜は雁もおりてくる ︵一九二二、五、一〇︶ 23 風景 雲はたよりないカルボン酸 さくらは咲いて日にひかり また風が来てくさを吹けば きうひ 截られたたらの木もふるふ さつきはすなつちに廐 肥 をまぶし だん ︵いま青ガラスの模型の底になつてゐる︶ ふう ひばりのダムダム 弾 がいきなりそらに飛びだせば 風は青い喪神をふき 黄金の草 ゆするゆする 雲はたよりないカルボン酸 さくらが日に光るのはゐなか 風 だ ︵一九二二、五、一二︶ 24 か ┃ かんがへたのはすぐこの上だ こんな舶来の草地でなら ︵つめくさ つめくさ︶ 班尼 製です 西 キンキン光る へ ┃ 柘植 さんが ら ┃ すぎなを麦の間作ですか そ ┃ すぎなだ は ┃ ほうこの麦の間に何を播いたんだ り ┃ ⋮⋮仕方ない と ┃ 据ゑつけられてゐたのだから こ ┃ 船のやうに ら ┃ じつさい岩のやうに 黒砂糖のやうな甘つたるい声で唄つてもいい と ┃ ひやかしに云つてゐるやうな 習作 と ┃ また鞭をもち赤い上着を着てもいい ん ┃ そんな 口調 がちやんとひとり すぱにあ ら ┃ ふくふくしてあたたかだ で ┃ 私の中に棲んでゐる わ が つ げ よ ┃ 野ばらが咲いてゐる 白い花 行 ┃ 和賀 の混 んだ松並木のときだつて こ くてう と ┃ 秋には熟したいちごにもなり く ┃ さうだ ︵一九二二、五、一四︶ す ┃ 硝子のやうな実にもなる野ばらの花だ れ ┃ 立ちどまりたいが立ちどまらない こくたん ば ┃ とにかく花が白くて足なが蜂のかたちなのだ そ ┃ みきは黒くて黒 檀 まがひ の ┃ ︵あたまの奥のキンキン光つて痛いもや︶ 手 ┃ このやぶはずゐぶんよく据ゑつけられてゐると 25 そらにも悪魔がでて来てひかる 青ぞらは巨きな網の目になつた 雲はみんなむしられて もう極上のクツシヨンだ このかれくさはやはらかだ そのきらびやかな空間の それが底びかりする鉱物板だ 休息 上部にはきんぽうげが咲き ︵一九二二、五、一四︶ よしきりはひつきりなしにやり ひでりはパチパチ降つてくる バツ タカツ プ ︵上等の butter-cup ですが バター 牛酪 よりは硫黄と蜜とです︶ 下にはつめくさや芹がある ぶりき細工のとんぼが飛び 雨はぱちぱち鳴つてゐる ︵よしきりはなく なく それにぐみの木だつてあるのだ︶ からだを草に投げだせば 雲には白いとこも黒いとこもあつて みんなぎらぎら湧いてゐる 帽子をとつて投げつければ黒いきのこしやつぽ ふんぞりかへればあたまはどての向ふに行く あくびをすれば 26 おきなぐさ 風はそらを吹き くわんもう しつぢき そのなごりは草をふく おきなぐさ冠 毛 の質 直 松とくるみは宙に立ち きん ︵どこのくるみの木にも いまみな 金 のあかごがぶらさがる︶ ああ黒のしやつぽのかなしさ くわうさん おきなぐさのはなをのせれば 幾きれうかぶ光 酸 の雲 ︵一九二二、五、一七︶ 27 かはばた オート かはばたで鳥もゐないし た ね ︵われわれのしよふ 燕麦 の種 子 は︶ 風の中からせきばらひ おきなぐさは伴奏をつゞけ 光のなかの二人の子 ︵一九二二、五、一七︶ 29 真空溶媒 30 真空溶媒 ︵ ︶ Eine Phantasie im Morgen そんなにふしぎなことでもない おれはやつぱり口笛をふいて 大またにあるいてゆくだけだ いてふの葉ならみんな青い 冴えかへつてふるへてゐる 瓶のなかのけしき いまやそこらは alcohol きうん 白い輝 雲 のあちこちが切れて おれは新らしくてパリパリの しきりにさつきからゆれてゐる はんぶん溶けたり澱んだり もう二哩もうしろになり さうとも 銀杏並樹 なら 眩ゆい芝 生 がいつぱいいつぱいにひらけるのは こんなににはかに木がなくなつて かいさう あの永久の 海蒼 がのぞきでてゐる くら 融銅はまだ眩 めかず それから新鮮なそらの 海鼠 の匂 杏 なみきをくぐつてゆく 銀 野の緑 青 の縞のなかで なまこ 白いハロウも燃えたたず ところがおれはあんまりステツキをふりすぎた かげ 地平線ばかり明るくなつたり 陰 つたり その一本の水平なえだに あさの練兵をやつてゐる ろくしやう しばふ りつぱな硝子のわかものが うらうら湧きあがる 昧爽 のよろこび いてふなみき もうたいてい三角にかはつて 氷ひばりも啼いてゐる いてふ そらをすきとほしてぶらさがつてゐる そのすきとほつたきれいななみは まいさう けれどもこれはもちろん 31 そらのぜんたいにさへ それはあすこにみえるりんごでせう︶ ︵りんご ああ なるほど あるいてゐることはじつに明らかだ うまぐらゐあるまつ白な犬をつれて むかふを鼻のあかい灰いろの紳士が 地平線はしきりにゆすれ ぽつかりぽつかりしづかにうかぶ ︵いや王水はいけません ふんふん なるほど︶ ︵王水 口をわつてですか はやく王水をのませたらよかつたでせう︶ ︵そいつはおきのどくでした ︵金皮のまゝたべたのです︶ えい かなりの 影 きやうをあたへるのだ はるかに 湛 へる花紺青の地面から ︵やあ こんにちは︶ やつぱりいけません たた すなはち雲がだんだんあをい虚空に融けて その金いろの 苹果 の樹が ︵いや いゝおてんきですな︶ 死ぬよりしかたなかつたでせう りんご たうとういまは もくりもくりと延びだしてゐる ︵どちらへ ごさんぽですか うんめいですな だんご ころころまるめられたパラフヰンの 団子 になつて なるほど ふんふん ときにさくじつ せつりですな ︵いゝえ ちつとも おききでしたか︶ いつたいなにをふざけてゐるのだ ︵えゝえゝ もうごくごく遠いしんるゐで︶ あなたとはご親類ででもいらつしやいますか︶ な ゾンネンタールが没 くなつたさうですが ゾンネンタールと はてな︶ みろ その馬ぐらゐあつた白犬が あた ︵りんごが中 つたのださうです︶ 32 いつぱい琥珀をはつてゐる 東のそらが苹 果林 のあしなみに 犬も紳士もよくはしつたもんだ ただいつぴきの蟻でしかない おれなどは石炭紀の 鱗木 のしたの おまけにのびた 果 の樹がむやみにふえた 苹 さよなら︶ おさへなくてはなりません ︵いや あれは 高価 いのです ︵追ひかけてもだめでせう︶ ︵あ わたくしの犬がにげました︶ いまではやつと 南京鼠 のくらゐにしか見えない はるかのはるかのむかふへ遁げてしまつて あんまりせいが高すぎるよ ︵どうなさいました 牧師さん︶ なんといふとげとげしたさびしさだ そらがせはしくひるがへる 風のヂグザグや黄いろの渦 こここそわびしい雲の焼け野原 くさはみな褐藻類にかはられた それからけはしいひかりのゆきき 雲はみんなリチウムの紅い焔をあげる すばやくそこらをはせぬけるし 画かきどものすさまじい幽霊が もう冗談ではなくなつた 瘠せた肩をぷるぷるしてるにちがひない つめたい板の 間 にへたばつて かあいさうにその 無窮遠 の むきゆうゑん そこからかすかな 苦扁桃 の匂がくる ︵ご病気ですか りんごばやし ちやう た か りんぼく くへんたう ま すつかり 荒 さんだひるまになつた たいへんお顔いろがわるいやうです︶ なんきんねずみ どうだこの天頂 の遠いこと ︵いやありがたう りんご このものすごいそらのふち べつだんどうもありません ひばり す 愉快な 雲雀 もとうに吸ひこまれてしまつた 33 ︵さうです︶ ︵はなのあかいひとでせう︶ ︵りつぱな紳士です︶ ︵どんなひとですか︶ いま途中で行き 倒 れがありましてな︶ ︵ありがたう 今日なんかおつとめも大へんでせう︶ ︵さうですか いろいろはひつてゐるんだな そのなかに苦 味丁幾 や硼 酸 や いやに四かくな 背 嚢だ ︵わたくしは保安掛りです︶ あなたはどなたですか︶ たうとう参つてしまつたな もしもし しつかりなさい ︵しつかりなさい しつかり 気流に二つあつて硫黄華ができる 気流に二つあつて硫黄華ができる しようとつして渦になつて硫黄 華 ができる つまりこれはそらからの瓦斯の気流に二つある ほかに無水亜硫酸 たしかに硫化水素ははひつてゐるし 沙漠でくされた 駝鳥 の卵 たふれてしまひさうだ まつたくひどいかぜだ ううひどい風だ まゐつちまふ︶ まあちよつと黄いろな時間だけの 仮死 ですな か し ︵犬はつかまつてゐましたか︶ たしかにまゐつた くみちんき はい ︵臨 終 にさういつてゐましたがね そんならひとつお時計をちやうだいしますかな︶ だふ はうさん 犬はもう十五哩もむかふでせう おれのかくしに手を入れるのは だてう じつにいゝ犬でした︶ なにがいつたい保安掛りだ くわ ︵ではあのひとはもう死にましたか︶ 必要がない どなつてやらうか りんじゆう ︵いゝえ露がおりればなほります 34 保安掛りとはなんだ きさま︶ あんまりひとをばかにするな きさま 飄然たるテナルデイ軍曹だ 黄いろな時間の追剥め ︵だまれ きさま 何が大丈夫だ おれははね起きる もう大丈夫です︶ ︵しつかりなさい しつかり 悪い瓦斯はみんな溶けろ ありがたい有難い神はほめられよ 雨だ 水が落ちてゐる どなつ⋮⋮ どなつてやらうか どなつてやらうか だからあんなにまつくらだ ひかりはすこしもとまらない そらの 澄 明 すべてのごみはみな洗はれて ウーイ いゝ空気だ︶ みちからのたたふべきかな ︵ウーイ 神はほめられよ ほんたうに液体のやうな空気だ どうでもいゝ 実にいゝ空気だ それと赤鼻紳士の金鎖 ぬれた大きな靴が片つ方 稲 の種子がひとふくろ 陸 カムチヤツカの蟹の缶詰と 保安掛り じつにかあいさうです 背嚢なんかなにを入れてあるのだ ざまを見ろじつに 醜 い泥炭なのだぞ たゞ一かけの 泥炭 になつた でいたん いゝ気味だ ひどくしよげてしまつた 太陽がくらくらまはつてゐるにもかゝはらず みにく ちゞまつてしまつたちひさくなつてしまつた おれは数しれぬほしのまたたきを見る をかぼ ひからびてしまつた ことにもしろいマヂエラン星雲 ちよう 四角な背嚢ばかりのこり 35 それどこでない おれのステツキは すつととられて消えてしまふ 零下二千度の真 空溶媒 のなかに いまは一むらの軽い 湯気 になり 虹彩はあはく変化はゆるやか ⋮⋮もうおそい ほめるひまなどない あらゆる変幻の色彩を示し 天のサラアブレツドだ 雲だ︶ 雲だ 競馬だ ︵うん きれいだな まるで天の競馬のサラアブレツドです︶ あの馳せ出した雲をごらんなさい ︵もしもし 牧師さん 泥炭がなにかぶつぶつ言つてゐる もうよろこびの脈さへうつ 葡萄糖を含む月 光液 は 草はみな葉緑素を恢復し ︵どれですか︶ あなたの上着はそれでせう︶ ︵なるほど はてな ︵上着をなくして大へん寒いのです︶ あなたは一体どうなすつたのです︶ ︵ありがたう しかるに たうとう犬がおつかまりでしたな︶ ︵おお 赤鼻紳士 ︵いやあ 奇遇ですな︶ ぐんぐんものが消えて行くとは情ない この明らかな牧師の意識から といつたところでおれといふ べつにどうにもなつてゐない それでもどうせ質量不変の定律だから まるで熊の胃袋のなかだ こんどはおれに働きだした 恐るべくかなしむべき真空溶媒は チヨツキはたつたいま消えて行つた しんくうようばい ゆ げつくわうえき いつたいどこへ行つたのだ ︵あなたが着ておいでになるその上着︶ げ 上着もいつかなくなつてゐる 36 ︵なるほど ははあ 犬神のやうに東へ歩き出す その北極犬のせなかにまたがり ところがどうもをかしい ︵えゝ さうですとも そしてそこはさつきの 銀杏 の並樹 おれたちの影は青い沙漠 旅行 まばゆい緑のしばくさだ ツリツク 真空のちよつとした 奇術 ですな︶ それはわたしの金鎖ですがね︶ こんな華奢な水平な枝に すつかり三角になつてぶらさがる いてふ りよかう ︵えゝどうせその泥炭の保安掛りの作用です︶ 硝子のりつぱなわかものが ツリツク ︵ははあ 泥炭のちよつとした奇 術 ですな︶ ︵さうですとも 犬があんまりくしやみをしますが大丈夫ですか︶ ︵なあにいつものことです︶ ︵大きなもんですな︶ ︵これは北極犬です︶ ︵馬の代りには使へないんですか︶ ︵使へますとも どうです お召しなさいませんか︶ ︵どうもありがたう そんなら拝借しますかな︶ ︵さあどうぞ︶ おれはたしかに 一九二二、五、一八 37 アンネリダタンツエーリン せつかくをどつてゐられます 赤い 蠕 虫 舞 手 は まもなく浮いておいででせう︶ いゝえ けれども すぐでせう とがつた二つの耳をもち 蠕 虫 舞 手 ︵えゝ 水ゾルですよ 燐光珊瑚の環節に アンネリダタンツエーリン おぼろな寒 天 の液ですよ︶ 正しく飾る真珠のぼたん ことにもアラベスクの飾り文字︶ 真珠もじつはまがひもの ちからいつぱいまはりはするが ぜんちゆう アガア 日は黄 金 の薔薇 くるりくるりと廻つてゐます 羽むしの死骸 ガラスどころか空気だま き ん 赤いちひさな蠕 虫 が ︵えゝ 8︽エイト︾ γ e 6︽スイツクス︾ α いちゐのかれ葉 ︵いゝえ それでも かがや 真珠の泡に エイト ガムマア イー スイツクス アルフア アルフア 水とひかりをからだにまとひ ことにもアラベスクの飾り文字︶ ちぎれたこけの花軸など ことにもアラベスクの飾り文字︶ ガムマア イー ひとりでをどりをやつてゐる 背中きらきら 燦 いて アルフア ︵ナチラナトラのひいさまは 水晶体や 鞏膜 の ガムマア イー ︵えゝ 8︽エイト︾ γ e 6︽スイツクス︾ α いまみづ底のみかげのうへに オペラグラスにのぞかれて きようまく 黄いろなかげとおふたりで 38 真珠の泡を苦にするのなら をどつてゐるといはれても ことにもアラベスクの飾り文字︶ エイト ガムマア イー スイツクス アルフア ︵はい まつたくそれにちがひません ︵一九二二、五、二〇︶ おまへもさつぱりらくぢやない それに日が雲に入つたし なまこ わたしは石に座つてしびれが切れたし イー アルフア 水底の黒い木片は毛虫か 海鼠 のやうだしさ それに第一おまへのかたちは見えないし ほんとに溶けてしまつたのやら それともみんなはじめから おぼろに青い夢だやら ︵いゝえ あすこにおいでです おいでです ガムマア ひいさま いらつしやいます 8︽エイト︾ γ e 6︽スイツクス︾ α ことにもアラベスクの飾り文字︶ ふん 水はおぼろで ひかりは惑ひ 虫は エイト ガムマア イー スイツクス アルフア ことにもアラベスクの飾り文字かい ハツハツハ 39 小岩井農場 40 つ や け 黒塗りのすてきな馬車だ 馬も上等のハツクニー 沢消 しだ 光 このひとはかすかにうなづき 小岩井農場 さつき盛岡のていしやばでも そつくりおとなしい農学士だ あのオリーブのせびろなどは 化学の並川さんによく肖 たひとだ けれどももつとはやいひとはある そのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた わたくしにも乗れといへばいい どうも農場のらしくない これはあるいは客馬車だ わたくしはあるいて馬と並ぶ すこし屈んでしんとしてゐる その 陽 のあたつたせなかが ︵わづかの光の 交錯 だ︶ 馬車にのぼつてこしかける 載つけるといふ 気軽 なふうで きがる それからじぶんといふ小さな荷物を たしかにわたくしはさうおもつてゐた 馭者がよこから呼べばいい パート一 このひとが砂糖水のなかの 乗らなくたつていゝのだが かうさく つめたくあかるい待合室から これから五里もあるくのだし ひ ひとあしでるとき⋮⋮わたくしもでる くらかけ山の下あたりで に 馬車がいちだいたつてゐる ゆつくり時間もほしいのだ ぎよしや 者 がひとことなにかいふ 馭 41 きつといつでもかうなのだ︶ ︵あいまいな思惟の蛍 光 馬車に乗れないわけではない 今日ならわたくしだつて 本部まででも乗つた方がいい そこでゆつくりとどまるために わたくしを款待するだらう 野はらは黒ぶだう 酒 のコツプもならべて もちろんおきなぐさも咲いてゐるし 樹でも艸でもみんな幻燈だ あすこなら空気もひどく明瞭で あたりへ往くらしい 繋 みんな丘かげの茶褐部落や さつきたくさんあつたのだが 汽車からおりたひとたちは のから函や わらぢや sun-maid 夏みかんのあかるいにほひ ガラス障子はありふれてでこぼこ 新開地風の 飲食店 つつましく肩をすぼめた停車 場 と うしろからはもうたれも来ないのか いかにもきさくに馳けて行く その 端 は向ふの青い光に尖り はじ もう馬車がうごいてゐる 西にまがつて見えなくなつた ば ︵これがじつにいゝことだ いまわたくしは歩測のときのやう な しゆ どうしようか考へてゐるひまに しんかい地ふうのたてものは いんしよくてん それが過ぎて 滅 くなるといふこと︶ みんなうしろに片附 けた けいくわう ひらつとわたくしを通り越す そしてこここそ畑になつてゐる プラウ つなぎ みちはまつ黒の腐植土で 黒馬が二ひき汗でぬれ づ あがりだし弾力もある 雨 をひいて往つたりきたりする 犁 あま 馬はピンと耳を立て 42 いまは青ぐろいふちのやうなとこへ このひとはもうよほど世間をわたり 紳士もかろくはねあがる 大きくゆれるしはねあがる 馬車はずんずん遠くなる ハンスがうぐひすでないよと云つた︶ ︵ほんたうの鶯の方はドイツ読本の その透明な群青のうぐひすが 鶯もごろごろ啼いてゐる ずうつと遠くのくらいところでは 葉 がさまざまにひるがへる 嫩 山ではふしぎに風がふいてゐる ひはいろのやはらかな山のこつちがはだ つめたくそしてあかる過ぎた 空気がひどく稠密で ほんたうにこのみちをこの前行くときは どんなに新鮮な奇蹟だらう いかにも確かに 継起 するといふことが 小岩井のきれいな野はらや牧場の標本が すみやかなすみやかな 万法流転 のなかに それよりもこんなせはしい心象の明滅をつらね あをじろい春になつただけだ 幹や芽のなかに燐光や 樹液 がながれ 雲が 展 けてつちが呼吸し 変つたとはいへそれは雪が往き みんなすつかり変つてゐる 冬にきたときとはまるでべつだ わかば すましてこしかけてゐるひとなのだ 今日は七つ森はいちめんの 枯草 ひら そしてずんずん遠くなる 松木がをかしな緑褐に かれくさ ばんぼふるてん じゆえき はたけの馬は二ひき 丘のうしろとふもとに生えて けいき ひとはふたりで赤い 大へん陰欝にふるびて見える こ 雲に濾 された日光のために や いよいよあかく 灼 けてゐる 43 パート二 たむぼりんも遠くのそらで鳴つてるし 雨はけふはだいぢやうぶふらない しかし馬車もはやいと云つたところで そんなにすてきなわけではない いままでたつてやつとあすこまで ここからあすこまでのこのまつすぐな 火山灰のみちの分だけ行つたのだ ぼ あすこはちやうどまがり目で すがれの草 穂 もゆれてゐる ︵山は青い雲でいつぱい 光つてゐるし かけて行く馬車はくろくてりつぱだ︶ みぢん ひばり ひばり 銀の微 塵 のちらばるそらへ たつたいまのぼつたひばりなのだ くろくてすばやくきんいろだ そらでやる Brownian movement はね おまけにあいつの 翅 ときたら 甲虫のやうに四まいある ふたへ 飴いろのやつと硬い漆ぬりの方と たしかに 二重 にもつてゐる よほど上手に鳴いてゐる そらのひかりを呑みこんでゐる 光波のために溺れてゐる もちろんずつと遠くでは もつとたくさんないてゐる そいつのはうははいけいだ 向ふからはこつちのやつがひどく勇敢に見える うしろから五月のいまごろ 黒いながいオーヴアを着た 医者らしいものがやつてくる たびたびこつちをみてゐるやうだ それは一本みちを行くときに ごくありふれたことなのだ 冬にもやつぱりこんなあんばいに くろいイムバネスがやつてきて 本部へはこれでいいんですかと 44 ブ イ 本部へはこれでいゝんですかと 辛うじて 咀嚼 するといふ風にあるきながら でこぼこのゆきみちを ここはよつぽど高いから いつかおれは羽田県属に言つてゐた 白樺は 好摩 からむかふですと また鉄ゼルの fluorescence はたけ 向ふの 畑 には白樺もある 遠くからことばの 浮標 をなげつけた 細 さうにきいたのだ 心 柳沢つづきの一帯だ かうま おれはぶつきら棒にああと言つただけなので やつぱり好摩にあたるのだ そしやく ちやうどそれだけ 大 へんかあいさうな気がした どうしたのだこの鳥の声は こころぼそ けふのはもつと遠くからくる なんといふたくさんの鳥だ たい 雨のやうだし湧いてるやうだ 鳥の小学校にきたやうだ 居る居る鳥がいつぱいにゐる パート三 もう入口だ︹小岩井農場︺ なんといふ数だ 鳴く鳴く鳴く こ ︵いつものとほりだ︶ ︵いつものとほりだ ぢき医院もある︶ ︹もの売りきのことりお断り申し候︺ 禁猟区のためだ 飛びあがる あの木のしんにも一ぴきゐる Rondo Capriccioso ぎゆつくぎゆつくぎゆつくぎゆつく んだ野ばらやあけびのやぶ 混 ︹禁猟区︺ ふん いつものとほりだ ︵禁猟区のためでない ぎゆつくぎゆつく︶ こ 小さな沢と青い 木 だち 一ぴきでない ひとむれだ にぶ 沢では水が暗くそして鈍 つてゐる 45 木立がいつか並樹になつた 両方ともだ とりのこゑ︶ あるいはちゆういのりずむのため うしろになつてしまつたのだ ︵その音がぼつとひくくなる のぼせるくらゐだこの鳥の声 青びかり青びかり 赤楊 の木立 三またの槍の穂 弧をつくる ︵ぎゆつく ぎゆつく︶ 十疋以上だ 弧をつくる 陰気にあたまを下げてゐられると おまけになみだがいつぱいで 三日月みたいな眼つきをして ︵おい ヘングスト しつかりしろよ 脚のゆれるのは年老つたため 馬は払ひ下げの立派なハツクニー この荷馬車にはひとがついてゐない こんなしづかなめまぐるしさ さくらの並樹になつたのだ 竹 いろの花のかけら 石 せきちく この設計は飾 絵 式だ おれはまつたくたまらないのだ ん けれども偶然だからしかたない 威勢よく桃いろの舌をかみふつと鼻を鳴らせ︶ は 荷馬車がたしか三台とまつてゐる ぜんたい馬の眼のなかには複雑なレンズがあつて 向ふのどてのかれ草に かざりゑ な松の丸太がいつぱいにつまれ 生 けしきやみんなへんにうるんでいびつにみえる⋮⋮ 一台だけがあるいてゐる 腰をおろしてやすんでゐる ひ なま がいつかこつそりおりてきて 陽 ⋮⋮馬車挽きはみんなといつしよに けれどもこれは樹や枝のかげでなくて 三人赤くわらつてこつちをみ じようきあつ あたらしいテレピン油の 蒸気圧 しめつた黒い腐植質と 46 馬車のラツパがきこえてくれば 天狗巣ははやくも青い葉をだし 桜の木には天 狗巣病 がたくさんある ペンキ︶ こどもらがひどくわらつた 冬にはこゝの凍つた池で どの建物かにまがつて行つた 五月の黒いオーヴアコートも いまごろどこかで忘れたやうにとまつてようし け わたくしはもう見出さない ここが一ぺんにスヰツツルになる ︵から松はとびいろのすてきな脚です つ や また一人は大股にどてのなかをあるき さつきの 光沢消 しの立派な馬車は 遠くでは鷹がそらを截つてゐるし 向ふにひかるのは雲でせうか粉雪でせうか ふう なにか忘れものでももつてくるといふ 風 ⋮⋮︵蜂函の白 からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし それとも野はらの雪に日が照つてゐるのでせうか てんぐすびやう いま向ふの並樹をくらつと青く走つて行つたのは 氷滑りをやりながらなにがそんなにをかしいのです はたけは茶いろに掘りおこされ の花芽 ももうぼやける⋮⋮ 楊 じんば 本部の 気取 つた建物が 廐肥も四角につみあげてある しやくどう 桜やポプラのこつちに立ち 並樹ざくらの天狗巣には ベ ム ベ ロ 葱いろの春の水に おまへさんたちの頬つぺたはまつ赤ですよ︶ ︵騎手はわらひ︶ 赤銅 の 人馬 の徽章だ パート四 そのさびしい観測台のうへに いぢらしい小さな緑の旗を出すのもあり ど ロビンソン風力計の小さな椀や 遠くの縮れた雲にかかるのでは き ぐらぐらゆれる風信器を 47 橇 も通つていつたほどだ 馬 ふゆのあひだだつて雪がかたまり 耕耘部へはここから行くのがちかい ︵白樺だらう 楊ではない︶ まがりかどには一本の青木 右にまがり左へ傾きひどく乱れて みじかい素朴な電話ばしらが ぐらぐらの雲にうかぶこちら そのキルギス式の逞ましい耕地の線が ひばりやなんか一ダースできかない︶ ︵育馬部と本部とのあひだでさへ あんまりひばりが啼きすぎる みづみづした鶯いろの弱いのもある⋮⋮ ひばりはしきりに啼いてゐる そのまばゆい 明暗 のなかで 雲はけふも 白金 と白 金黒 きれいにはたけは耕耘された 春のヴアンダイクブラウン も少しそつぽに 灼 けるだらうし muscovite たく おれたちには見られないぜい 沢 だ︶ ︵もつともそれなら 暖炉 もまつ 赤 だらうし それは雪の日のアイスクリームとおなじ どんなによくつりあつてゐたことか 風やときどきぱつとたつ雪と けれどもあの調子はづれのセレナーデが ︵四列の茶いろな 落葉松 ︶ 往つたりきたりなんべんしたかわからない だんろ きし はくきんこく めいあん さんか らくえふしよう ︵ゆきがかたくはなかつたやうだ ︵雲の 讃歌 と日の 軋 り︶ か なぜならそりはゆきをあげた それから眼をまたあげるなら や たしかに酵母のちんでんを 灰いろなもの走るもの蛇に似たもの 雉子だ はくきん 冴えた気流に吹きあげた︶ 鉛鍍金 の雉子なのだ 亜 ばそり あのときはきらきらする雪の移動のなかを あんまり長い尾をひいてうららかに過ぎれば あえんめつき ひとはあぶなつかしいセレナーデを口笛に吹き 48 へんくわう さびしい 反照 の偏 光 を截れ はんせう もう一疋が飛びおりる いま日を横ぎる黒雲は 内面はしだれやなぎで みんなさくらの幽霊だ なんといふ気まぐれなさくらだらう 向ふの青草の高みに四五本乱れて いま見はらかす耕地のはづれ それが雉子の声だ 啼いてゐる 雉子はするするながれてゐる オレンヂいろの日光のなかを あるくのははやい 流れてゐる ︵山鳥ですか? 山で? 田舎ふうのダブルカラなど引き裂いてしまへ それでいけないといふのなら 大びらにまつすぐに進んで たれがいつしよに行けようか こんなきままなたましひと たつたひとりで生きて行く いまこそおれはさびしくない 水は濁つてどんどんながれた たれも見てゐないその地質時代の林の底を その氾濫の水けむりからのぼつたのだ 虫 がけはしく歯を鳴らして飛ぶ 爬 羅 や白堊のまつくらな森林のなか 侏 けんてう はちゆう いろの花をつけてゐる 鴾 それからさきがあんまり青黒くなつてきたら⋮⋮ じゆら 山鳥ではない 夏に?︶ ︵空でひとむらの海 綿白金 がちぎれる︶ そんなさきまでかんがへないでいい とき それらかゞやく氷片の懸 吊 をふみ ちからいつぱい口笛を吹け プラチナムスポンヂ 青らむ天のうつろのなかへ 口笛をふけ 陽 の錯 綜 さくそう かたなのやうにつきすすみ たよりもない光波のふるひ た ひ すべて水いろの哀愁を焚 き 49 みんなはしつたりうたつたり たのしい太陽系の春だ 口笛をふき歩調をふんでわるいだらうか 五月のきんいろの外光のなかで きままな林務官のやうに わたくしは白い雑嚢をぶらぶらさげて 青々とかげろふをあげる︶ ︵五本の透明なさくらの木は これらはあるいは天の鼓 手 緊 那羅 のこどもら 金寂静 のほのほをたもち 緑 めいめい遠くのうたのひとくさりづつ ちらちら 瓔珞 もゆれてゐるし みんなすあしのこどもらだ またほのぼのとかゞやいてわらふ ひかり かすれ またうたふやうに小さな胸を張り すきとほるものが一列わたくしのあとからくる 過ぎて来た方へたたんで行く みちがぐんぐんうしろから湧き きまぐれなひよろひよろの酋長だ︶ ︵ぜんたい笛といふものは けれどもたしかにふいてゐる それはわたくしにきこえない どのこどもかが笛を吹いてゐる ︵コロナは七十七万五千⋮⋮︶ 磁石のやうにもひとりの手に吸ひついた それは太陽のマヂツクにより ひとりがかつぎ棒をわたせば ひとつのせきをこえるとき ああ陽光のマヂツクよ ︵コロナは八十三万四百⋮⋮︶ 光炎菩薩太陽マヂツクの歌が鳴つた 液肥をはこぶいちにちいつぱい ろくきんじやくじやう やうらく はねあがつたりするがいい むら気な四本の桜も きんなら ︵コロナは八十三万二百⋮⋮︶ 記憶のやうにとほざかる こしゆ あの四月の実習のはじめの日 50 みんなうたつたりはしつたり たのしい地球の気圏の春だ すぱすぱ渉つて進軍もした︶ 泥に一尺ぐらゐ踏みこんで ネー将軍 麾 下の騎兵の馬が き はねあがつたりするがいい 雲は白いし農夫はわたしをまつてゐる トツパースの雨の高みから またあるきだす︵縮れてぎらぎらの雲︶ パート五 パート六 もうせんごけも生えてゐる こゝはぐちやぐちやした青い湿地で 汽車の時間をたづねてみよう ︵まるで行きつかれたたび人だ︶ こんどはゆつくりあるきだす つくづくとそらのくもを見あげ そのふもとに白い笠の農夫が立ち すきとほる雨のつぶに洗はれてゐる とびいろのはたけがゆるやかに傾斜して ︵青い草穂は去年のだ︶ あんなにぐらぐらゆれるのだ 用がなくてはこまるとおもつて じぶんだけせつかく待つてゐても しばらくあるきださないでくれ 白い手甲さへはめてゐる もう二十米だから 笠をかしげて立つて待ち ︵ Miss Robin ︶働きにきてゐるのだ 農夫は富士見の飛脚のやうに まつすぐにいそいでやつてくる シベリヤ風に赤いきれをかぶり けらを着た女の子がふたりくる ︵そのうすあかい毛もちゞれてゐるし あんなにぐらぐらゆれるのだ パート七 どこかのがまの生えた沼地を 51 ほんたうの鷹がぶうぶう風を截る うしろのつめたく白い空では どこかに鷹のきもちもある 博物館の能面にも出てゐるし ずゐぶん悲しい顔のひとだ ︵三時だたべが︶ 盛岡行ぎ汽車なん時だべす︶ ︵ちよつとお 訊 ぎ申しあんす このひとはもう五十ぐらゐだ シヤツポをとれ︵黒い羅紗もぬれ︶ ここからはなしかけていゝ さはやかだし顔も見えるから なにか大へんはばかつてゐる この人はわたくしとはなすのを ︵ふう︶ ︵ずゐぶん気持のいゝ 処 だもな︶ ︵あんさうす︶ 堆肥 ど 過燐酸 どすか︶ ︵こやし入れだのすか やつぱりあの 蒼鉛 の労働なのか こはがつてゐるのは けはしく翔ける鼠いろの雲ばかり そこには馬のつかない 廐肥車 と そつちにあるとおもつてゐる ひじやうに恐ろしくひどいことが き ら くわりんさん スカイライン どご こやしぐるま 雨をおとすその 雲母摺 りの雲の下 それはふたつのくるまのよこ ぎ はたけに置かれた二台のくるま はたけのをはりの 天末線 ねこぜ さうえん このひとはもう行かうとする ぐらぐらの空のこつち側を たいひ 白い種子は燕 麦 なのだ すこし 猫背 でせいの高い オートま もご ず ︵ 燕麦播 ぎすか︶ くろい外套の男が オート ︵あんいま 向 でやつてら︶ 雨雲に銃を構へて立つてゐる ぢい この爺 さんはなにか向ふを畏れてゐる 52 ︵三時の次あ何時だべす︶ またもつたいらしく銃を構へる かけて行く雲のこつちの射 手 は から松の芽の緑 玉髄 ︵あん 曇るづどよぐ出はら︶ ︵ぶどしぎて云ふのか︶ ︵ぶどしぎ︶ ︵あの鳥何て云ふす 此処らで︶ やつてるやつてるそらで鳥が わたしはどつちもこはくない どつちも心配しないでくれ あるいは Miss Robin たちのことか それとも両方いつしよなのか 急に鉄砲をこつちへ向けるのか あの男がどこか気がへんで わかい農夫がやつてくる 爺さんの行つた方から いつたいなにを射たうといふのだ ぼとしぎはぶうぶう鳴り ︵ぼとしぎのつめたい発動機は⋮⋮︶ 射手は肩を怒らして銃を構へる さんはもう向ふへ行き 爺 さつきの娘たちがねむつてゐる 薩樹 皮の厚いけらをかぶつて 菩 かれくさと雨の雫との上に 少しばかり青いつめくさの交つた めざましく雨を飛んでゐる 灰いろの咽喉の粘膜に風をあて 遠くのそらではそのぼとしぎどもが 雨はふるしわたくしの黄いろな仕事着もぬれる ぢい ま だ 大きく口をあいてビール瓶のやうに鳴り ︵五時だべが ゆぐ知らない︶ かほが赤くて新鮮にふとり クリソプレース 過燐酸石灰のヅツク袋 セシルローズ型の円い肩をかゞめ しやしゆ 溶 十九と書いてある 水 燐酸のあき袋をあつめてくる すゐよう 学校のは十五%だ 53 これらのからまつの小さな芽をあつめ 農夫も戻るしわたくしもついて行かう 赤い焔もちらちらみえる 火をたいてゐる ︵なあにすぐ霽れらんす︶ ︵降つてげだごとなさ︶ 二つはちやんと肩に着てゐる すつかりぬれた 寒い がたがたする ぼとしぎどもは鳴らす鳴らす 由射手 は銀のそら 自 火は雨でかへつて燃える まだ一時にもならないも︶ ︵三時四十分 ︵汽車三時すか︶ フライシユツツ わたくしの童話をかざりたい このひとは案外にわかいのだ まつ赤になつて石臼のやうに笑ふのは にはかにそんなに大声にどなり ︵うな いいをなごだもな︶ みんなはあかるい雨の中ですうすうねむる たしかにわたくしの感官の 外 で 眼にははつきり見てゐない わたくしはそれを知つてゐるけれども さつきの 剽悍 な四本のさくら すきとほつてゆれてゐるのは パート九 すきとほつて火が燃えてゐる つめたい雨がそそいでゐる ひとりのむすめがきれいにわらつて起きあがる 青い炭素のけむりも立つ ︵天の微光にさだめなく へうかん わたくしもすこしあたりたい うかべる石をわがふめば そと ︵おらも中 つでもいがべが︶ おゝユリア しづくはいとど降りまさり あだ ︵いてす さあおあだりやんせ︶ 54 ⋮⋮⋮⋮⋮はさつき横へ 外 れた ペムペルがわたくしの右にゐる ユリアがわたくしの左を行く 大きな紺いろの瞳をりんと張つて ユリアがわたくしの左を行く カシオペーアはめぐり行く︶ さうです 農場のこのへんは 雨はしきりに降つてゐる︶ 腐植質から麦が生え ︵ひばりが居るやうな居ないやうな 血みどろになつて遁げなくてもいいのです わたくしはこの巨きな旅のなかの一つづりから きみたちとけふあふことができたので わたくしはずゐぶんしばらくぶりで ユリア ペムペル わたくしの遠いともだちよ わたくしははつきり眼をあいてあるいてゐるのだ もうにんげんの壊れるときだ こゝいらの匂のいゝふぶきのなかで この冬だつて耕耘部まで用事で来て と der heilige Punkt 呼びたいやうな気がします どうしてかわたくしはここらを まつたく不思議におもはれます そ あのから松の列のとこから横へ外れた きみたちの巨きなまつ白なすあしを見た なにとはなしに聖いこころもちがして 幻想が向ふから迫つてくるときは どんなにわたくしはきみたちの昔の足あとを いつたり来たりしてゐました 凍えさうになりながらいつまでもいつまでも さつきもさうです 白堊系の頁岩の古い海岸にもとめただらう わたくしはなにをびくびくしてゐるのだ どこの子どもらですかあの瓔珞をつけた子は あんまりひどい幻想だ どうしてもどうしてもさびしくてたまらないときは そんなことでだまされてはいけない ひとはみんなきつと斯ういふことになる 55 じぶんとそれからたつたもひとつのたましひと そのねがひから砕けまたは疲れ それをある宗教情操とするならば 至上福祉にいたらうとする じぶんとひとと万象といつしよに もしも正しいねがひに燃えて この不可思議な大きな心象宙宇のなかで ちひさな自分を劃ることのできない 発散して酸えたひかりの澱だ いま疲れてかたちを更へたおまへの信仰から これらはみんなただしくない もう決定した そつちへ行くな 底の平らな巨きなすあしにふむのでせう その貝殻のやうに白くひかり あなたがたは赤い瑪瑙の棘でいつぱいな野はらも 雨のなかでひばりが鳴いてゐるのです まるで銅版のやうなのに気がつかないか それにだいいちさつきからの考へやうが ちがつた空間にはいろいろちがつたものがゐる ひとはくるまに立つて行く 馬車が行く 馬はぬれて黒い 明るい雨がこんなにたのしくそそぐのに あたらしくまつすぐに起て これら実在の現象のなかから 明確に物理学の法則にしたがふ さあはつきり眼をあいてたれにも見え それがほんたうならしかたない けれどもいくら恐ろしいといつても わたくしにはあんまり恐ろしいことだ この命題は可逆的にもまた正しく さまざまな眼に見えまた見えない生物の種類がある すべてこれら漸移のなかのさまざまな過程に従つて この傾向を性慾といふ むりにもごまかし求め得ようとする 決して求め得られないその恋愛の本質的な部分を そしてどこまでもその方向では この変態を恋愛といふ 完全そして永久にどこまでもいつしよに行かうとする 56 もうけつしてさびしくはない なんべんさびしくないと云つたとこで またさびしくなるのはきまつてゐる けれどもここはこれでいいのだ すべてさびしさと悲傷とを焚いて ひとは透明な軌道をすすむ ラリツクス ラリツクス いよいよ青く 雲はますます縮れてひかり わたくしはかつきりみちをまがる ︵一九二二、五、二一︶ 57 グランド電柱 58 林と思想 そら ね ごらん きのこ むかふに霧にぬれてゐる のかたちのちひさな林があるだらう 蕈 あすこのとこへ わたしのかんがへが ずゐぶんはやく流れて行つて みんな 溶け込んでゐるのだよ こゝいらはふきの花でいつぱいだ ︵一九二二、六、四︶ 59 霧とマツチ ︵まちはづれのひのきと青いポプラ︶ 霧のなかからにはかにあかく燃えたのは しゆつと擦られたマツチだけれども ずゐぶん拡大されてゐる スヰヂツシ安全マツチだけれども よほど酸素が多いのだ ︵明方の霧のなかの電燈は まめいろで匂もいゝし 小学校長をたかぶつて散歩することは まことにつつましく見える︶ ︵一九二二、六、四︶ 60 芝生 風とひのきのひるすぎに 小田中はのびあがり あらんかぎり手をのばし 灰いろのゴムのまり 光の標本を 受けかねてぽろつとおとす ︵一九二二、六、七︶ 61 ざ エレキづくりのかはやなぎ 風が通ればさえ冴 え鳴らし 馬もはねれば黒びかり そらのエレキを寄せてくる 雲は来るくる南の地平 ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ たれを刺さうの槍ぢやなし りんと立て立て青い槍の葉 ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ 泥のコロイドその底に 黒くをどりはひるまの 燈籠 土のスープと草の列 青い槍の葉 ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ 鳥はなく啼く青木のほずゑ ひかりの底でいちにち日がな ︶ mental sketch modified くもにやなぎのくわくこどり 泥にならべるくさの列 ︵ ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ 雲がきれたかまた日がそそぐ 雲がちぎれて日ざしが降れば 雲がちぎれてまた夜があけて とうろ 金 の幻 黄 燈 草 の青 そらは黄 水晶 ひでりあめ くさ 気圏日本のひるまの底の 風に霧ふくぶりきのやなぎ げんとう 泥にならべるくさの列 くもにしらしらそのやなぎ キ ン ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ シトリン 雲はくるくる日は銀の盤 62 りんと立て立て青い槍の葉 そらはエレキのしろい網 かげとひかりの六月の底 気圏日本の青野原 ︵ゆれるゆれるやなぎはゆれる︶ 一九二二、六、一二 63 報告 さつき火事だとさわぎましたのは虹でございました もう一時間もつづいてりんと張つて居ります ︵一九二二、六、一五︶ 64 やうかん たとへそれが 羊羹 いろでぼろぼろで あんなまじめな直立や あるいはすこし暑くもあらうが 風景のなかの敬虔な人間を 風景観察官 も わたくしはいままで見たことがない ろくしやう ︵一九二二、六、二五︶ あの林は あんまり 緑青 を 盛 り過ぎたのだ それでも自然ならしかたないが たうわうせん また多少プウルキインの現象にもよるやうだが も少しそらから 橙黄線 を送つてもらふやうにしたら どうだらう ああ何といふいい精神だ 株式取引所や議事堂でばかり シトリン フロツクコートは着られるものでない さを むしろこんな黄 水晶 の夕方に ぐん まつ青 な稲の槍の間で ホルスタインの 群 を指導するとき よく適合し効果もある 何といふいい精神だらう 65 さんらんはんしや 岩手山 そらの 散乱反射 のなかに みぢんけいれつ 古ぼけて黒くゑぐるもの よど ひかりの 微塵系列 の底に きたなくしろく 澱 むもの ︵一九二二、六、二七︶ 66 高原 海だべがど おら おもたれば やつぱり光る山だたぢやい かみけ ホウ しし 毛 風吹けば 髪 踊りだぢやい 鹿 ︵一九二二、六、二七︶ 67 印象 ラリツクスの青いのは 木の新鮮と神経の性質と両方からくる そのとき展望車の藍いろの紳士は X型のかけがねのついた帯革をしめ すきとほつてまつすぐにたち 病気のやうな顔をして ひかりの山を見てゐたのだ ︵一九二二、六、二七︶ 68 高級の霧 こいつはもう ハイグレード あんまり明るい 高級 の霧です 白樺も芽をふき からすむぎも 農舎の屋根も 馬もなにもかも 光りすぎてまぶしくて ひ ざ ︵よくおわかりのことでせうが ラリツクス 日射 しのなかの青と金 落葉松 は たしかとどまつに似て居ります︶ まぶし過ぎて 空気さへすこし痛いくらゐです ︵一九二二、六、二七︶ 69 電車 トンネルへはひるのでつけた電燈ぢやないのです 車掌がほんのおもしろまぎれにつけたのです こんな豆ばたけの風のなかで なあに 山火事でござんせう なあに 山火事でござんせう あんまり大きござんすから はてな 向ふの光るあれは雲ですな 木きつてゐますな いゝえ やつぱり山火事でござんせう おい きさま 日本の萱の野原をゆくビクトルカランザの配下 ひえ 帽子が風にとられるぞ こんどは青い稗 を行く貧弱カランザの末輩 きさまの馬はもう汗でぬれてゐる ︵一九二二、八、一七︶ 70 ほくさい 天然誘接 北 斎 のはんのきの下で てんねんよびつぎ 黄の風車まはるまはる つき いつぽんすぎは 天然誘接 ではありません と杉とがいつしよに生えていつしよに育ち 槻 てんくわう たうとう幹がくつついて 険しい 天光 に立つといふだけです 鳥も棲んではゐますけれど ︵一九二二、八、一七︶ 71 はらたいけんばひれん 体剣舞連 原 ぶな じやもんさんち かがり 楢と 椈 とのうれひをあつめ 紋山地 に篝 蛇 をかかげ ひのきの髪をうちゆすり まるめろの匂のそらに の黒尾を頭 鶏 巾 にかざり dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah いさう こんや 異装 のげん月のした こんや銀河と森とのまつり 敬虔に年を 累 ねた師 父 たちよ 月 に日光と風とを焦慮し 月 dah-dah-sko-dah-dah き ふ 膚 を腐植と土にけづらせ 肌 ︶ mental sketch modified 刃 の太刀をひらめかす 片 平原の天 准 末線 に ︵ 体 村の 原 舞手 たちよ さらにも強く鼓を鳴らし あたらしい星雲を燃せ いろのはるの樹 鴾 液 を うす月の雲をどよませ アルペン農の辛 酸 に投げ かたは はらたい とき せい をどりこ しんさん とも つきづき じゆん かさ てんまつせん し ふ こくやじん 筋骨はつめたい炭酸に 粗 び あら しののめの草いろの火を 生 Ho! Ho! Ho! たつた あくろわう むかし 達谷 の 悪路王 ま だ か は づきん 高原の風とひかりにさゝげ まつくらくらの二里の 洞 とり 提樹皮 と縄とをまとふ 菩 わたるは夢と 黒夜神 じゆえき 気圏の戦士わが 朋 たちよ 首は刻まれ漬けられ かうき ほら 青らみわたる顥 気 をふかみ 72 獅子の 星座 に散る火の雨の せいざ アンドロメダもかゞりにゆすれ 消えてあとない 天 のがはら よる きじん よ 一九二二、八、三一 dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah あま 青い 仮面 このこけおどし 打つも果てるもひとつのいのち め ん 太刀を浴びてはいつぷかぷ く も 夜風の底の蜘 蛛 をどり 胃袋はいてぎつたぎた へきれき dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah やいば あ さらにただしく 刃 を合 はせ しはう 靂 の青火をくだし 霹 じゆえき 方 の 四 夜 の鬼 神 をまねき 液 もふるふこの 樹 夜 さひとよ ひよううん 赤ひたたれを地にひるがへし 雲 と風とをまつれ 雹 い dah-dah-dah-dahh よかぜ 風 とどろきひのきはみだれ 夜 は 月は射 そそぐ銀の矢並 きし 打つも 果 てるも火花のいのち 太刀の 軋 りの消えぬひま dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah いなづまかやぼ 太刀は 稲妻萱穂 のさやぎ 73 グランド電柱 あめと雲とが地面に垂れ すすきの赤い穂も洗はれ はなまき でんちゆう 野原はすがすがしくなつたので がいし 巻 グランド電 花 柱 の 百の碍 子 にあつまる雀 掠奪のために田にはひり うるうるうるうると飛び はなまきだいさんさろ 雲と雨とのひかりのなかを すばやく 花巻大三叉路 の 百の碍子にもどる雀 ︵一九二二、九、七︶ 74 山巡査 おお ナ イ ト 何といふ立派な楢だ 緑の勲 爵士 だ ナ イ ト 雨にぬれてまつすぐに立つ緑の 勲爵士 だ 栗の木ばやしの青いくらがりに しぶきや雨にびしやびしや洗はれてゐる その長いものは一体舟か それともそりか あんまりロシヤふうだよ よし 沼に生えるものはやなぎやサラド きれいな 蘆 のサラドだ ︵一九二二、九、七︶ 75 電線工夫 でんしんばしらの気まぐれ碍子の修繕者 雲とあめとの下のあなたに忠告いたします それではあんまりアラビアンナイト型です からだをそんなに黒くかつきり鍵にまげ 外套の裾もぬれてあやしく垂れ ひどく手先を動かすでもないその修繕は あんまりアラビアンナイト型です あいつは悪魔のためにあの上に つけられたのだと云はれたとき どうあなたは弁解をするつもりです ︵一九二二、九、七︶ 76 たび人 うみばうずばやし あめの稲田の中を行くもの 坊主林 のはうへ急ぐもの 海 雲と山との陰気のなかへ歩くもの もつと合羽をしつかりしめろ ︵一九二二、九、七︶ 77 竹と楢 はんもん 悶 ですか 煩 煩悶ならば なら 雨の降るとき 竹と楢 との林の中がいいのです ︵おまへこそ髪を刈れ︶ 竹と楢との青い林の中がいいのです ︵おまへこそ髪を刈れ そんな髪をしてゐるから そんなことも考へるのだ︶ ︵一九二二、九、七︶ 78 銅線 おい 銅線をつかつたな とんぼのからだの銅線をつかひ出したな くわうらんてん はんのき はんのき 交錯光 乱転 気圏日本では たうとう電線に銅をつかひ出した ︵光るものは碍子 過ぎて行くものは赤い萱の穂︶ ︵一九二二、九、一七︶ 79 滝沢野 くわうはそくてい ご さ とちやう 波測定 の誤 光 差 から からすうり から松のしんは 徒長 し 柏の木の 烏瓜 ランタン うつ ︵ひるの鳥は曠野に啼き あざみは青い棘に 遷 る︶ 太陽が梢に発射するとき 暗い林の入口にひとりたたずむものは 四角な若い樺の木で といふ品種 Green Dwarf 日光のために燃え尽きさうになりながら 燃えきらず青くけむるその木 羽虫は一疋づつ光り 鞍掛や銀の錯乱 よだ ︵寛政十一年は百二十年前です︶ そらの魚の 涎 れはふりかかり スカイライン 末線 の恐ろしさ 天 ︵一九二二、九、一七︶ 81 東岩手火山 82 これから外輪山をめぐるのですけれども もすこし明るくなつてからにしませう いまはまだなんにも見えませんから えゝ 太陽が出なくても 東岩手火山 もしゆ あかるくなつて ご や 月は水銀 後 夜 の喪 主 西岩手火山のはうの火口湖やなにか ちんでん 火山 礫 は夜 の沈 澱 見えるやうにさへなればいいんです よる 火口の 巨 きなゑぐりを見ては お日さまはあすこらへんで拝みます れき たれもみんな愕くはずだ 黒い絶頂の右肩と おほ ︵風としづけさ︶ そのときのまつ赤な太陽 わたくしは見てゐる へうちやく 頂上の石標もある あんまり真赤な幻想の太陽だ ぐわいりんざん いま 漂着 する薬師外 輪山 ︵月光は水銀 月光は水銀︶ あすこのてつぺんが絶頂です ここのつづきの外輪山です それはここのつづきです 向ふの黒い山⋮⋮つて それですか この岩のかげに居てください 寒いひとは提灯でも持つて いや四十分ありますから ちやうど一時間 三時四十分? いまなん時です 向ふの? ああ 暗い雲の海だ こんなことはじつにまれです 向ふのは御室火口です 83 向ふの黒いのはたしかに早池峰です あるいは水酸化礬土の沈澱︶ 夜が明けたら見えるかもしれませんよ けれども 海山 は見えないやうです 鳥 あんなに雲になつたのです 上にあがり 駒ヶ岳にぶつつかつて 水蒸気を含んだ風が 雲が駒ヶ岳に被さつたのです あれは雲です 柔らかさうですね あれですか うしろ? これが気温の逆転です 上に浮んで来るのです 暖い空気は 霜さへ降らせ つめたい空気は下へ沈んで 今夜のやうなしづかな晩は 却つて暖かなくらゐです さつきの九合の小屋よりも 麓の谷の底よりも そして暖かなことはなかつたのです こんなにしづかで わたくしはもう十何べんも来てゐますが じつさいこんなことは稀なのです ︵柔かな雲の波だ 御室火口の盛 りあがりは 線になつて浮きあがつてるのは北上山地です あんな大きなうねりなら 月のあかりに照らされてゐるのか てうかいさん 月光会社の五千噸の汽船も それともおれたちの提灯のあかりか ひはいろで暗い も 動揺を感じはしないだらう 提灯だといふのは勿体ない glass-wool その質は 蛋白石 84 下には斜めに房が下つたやうになり 縦に三つならんだ星が見えませう それから向ふに あの七つの中なのです それは小熊座といふ 北斗星はあれです いま山の下の方に落ちてゐますが 北斗七星は さうさう 北はこつちです 寄り合つて待つておいでなさい ああ頁が折れ込んだのだ 藤原が提灯を見せてゐる 事によると月光のいたづらだ 書いた分がたつた三枚になつてゐる はてな わたくしの帳面の 私もスケツチをとります まだ一時間もありますから けれども行つてごらんなさい 雪ぢやありません 向ふの白いのですか さあみなさん ご勝手におあるきなさい 夏の蝎とうら表です 右と左とには さあでは私はひとり行かう それではもう四十分ばかり 赤と青と大きな星がありませう 外輪山の自然な美しい歩道の上を アースシヤイン あれはオリオンです オライオンです 月の半分は 赤銅 地 球照 しやくどう あの房の下のあたりに どう お月さまには黒い処もある 星雲があるといふのです いま見えません 私のひとりごとの反響に はるゑ 後藤 又兵衛いつつも拝んだづなす その下のは大犬のアルフア 小田島 治衛 が云つてゐる め だ 冬の晩いちばん光つて目 立 つやつです 85 蛋白石の雲は遥にたゝへ わたくしは地球の華族である 薬師火口の外輪山をあるくとき 二十五日の月のあかりに照らされて どつちにしてもそれは 善 いことだ もうかまはない 歩いていゝ 噴火口へでも入つてごらんなさい 御室 の方の火口へでもお入りなさい 外套の袖にぼんやり手を引つ込めてゐる それはきつと河村慶助が 一升のところに停つてゐる 残りの一つの提灯は さうでなければ 高陵土 カオリンゲル 雪でなく 仙人草のくさむらなのだ オリオン 金牛 もろもろの星座 硫黄のつぶは拾へないでせうが 山中鹿之助だらう 澄み切り澄みわたつて 斯んなによく声がとゞくのは い 瞬きさへもすくなく メガホーンもしかけてあるのだ 先生 中さ 入 つてもいがべすか ろ わたくしの額の上にかがやき しばらく躊躇してゐるやうだ お む さうだ オリオンの右肩から はひ ほんたうに鋼青の壮麗が 提灯が三つ沈んでしまふ えゝ おはひりなさい 大丈夫です そのでこぼこのまつ黒の線 ふるへて私にやつて来る 三つの提灯は夢の火口原の すこしのかなしさ 大きな帽子をかぶり けれどもこれはいつたいなんといふいゝことだ 白いとこまで降りてゐる 雪ですか 雪ぢやないでせう 困つたやうに返事してゐるのは 86 わたくしを呼んでゐる呼んでゐるのか 一点しろく 光 るもの いま火口原の中に 一つの夜の幻覚だ みぎへすばやく擦過した 月のひかりのひだりから 雲平線をつくるのだといふのは それは一つの雲 平線 をつくるのだ 雲の海のはてはだんだん平らになる 宮沢の声もきこえる 火口のなかから提灯が出て来た 下向の道と書いてあるにさうゐない この石標は しづかな月明を行くといふのは 薬師火口の外輪山の ちぎれた繻子のマントを着て 海抜六千八百尺の 鳥の声! 鳥の声! 幾条かの軌道のあと その 妙好 の火口丘には 火山弾には黒い影 わたしはやつぱり睡いのだ︶ ︵つかれてゐるな これが気温の逆転だ なまぬるい風だ あすこからこつちへ出て来るのだ とにかく夜があけてお鉢廻りのときは 熔岩か集塊岩 力強い肩だ 向ふの黒い巨きな壁は また月光と火山塊のかげ たしかに気圏オペラの役者です 唇を円くして立つてゐる私は 速かに指の黒い影はうごき ひか うんぴやうせん 私は気圏オペラの役者です 月明をかける鳥の声 めうかう 鉛筆のさやは光り 87 ︵あんまりはねあるぐなぢやい あくびと月光の 動転 月のまはりは熟した瑪瑙と葡萄 オリオンは幻 怪 かすかに光る火山塊の一つの面 やつぱり疲れからの乱視なのだ 月はいま二つに見える 私はゆつくりと踏み 鳥はいよいよしつかりとなき ひとりの修羅に見える筈だ︶ ︵その影は鉄いろの背景の わたくしの影を見たのか提灯も戻る わたくしも戻る また口笛を吹いてゐる 灯 はもとの火口の上に立つ 提 東は淀み また水を加へたやうなのだらう 濃い 蔗糖溶液 に きつと屈折率も低く ふつと 撚 になつて飛ばされて来る より 汝 ひとりだらいがべあ さう考へたのは間違ひらしい うな どうてん わらしやど うな ちやうちん しよたうようえき 子 供等 も連れでて目にあへば とにかくあくびと影ぼふし げんくわい 汝 ひとりであすまないんだぢやい︶ 空のあの辺の星は微かな散点 くわこうきう 口丘 の上には天の川の小さな爆発 火 すなはち空の模様がちがつてゐる ちぢ みんなのデカンシヨの声も聞える そして今度は月が 蹇 まる ︵一九二二、九、一八︶ 月のその銀の角のはじが 潰れてすこし円くなる 天の海とオーパルの雲 あたたかい空気は 88 ︵犬、マサニエロ等︶ うなりの尖端にはエレキもある 犬は薄明に溶解する なぜ吠えるのだ 二疋とも 犬が吠えたときに云ひたい 誰かとならんであるきながら ちやんと顔を見せてやれと ちやんと顔を見せてやれ いつもあるくのになぜ吠えるのだ 吠えてこつちへかけてくる 帽子があんまり大きくて 犬 ︵夜明けのひのきは心象のそら︶ おまけに下を向いてあるいてきたので じやうたう 頭を下げることは犬の常 套 だ 吠え出したのだ ︵一九二二、九、二七︶ 尾をふることはこはくない それだのに はくめい なぜさう本気に吠えるのだ その薄 明 の二疋の犬 一ぴきは灰色錫 一ぴきの尾は茶の草穂 うしろへまはつてうなつてゐる わたくしの歩きかたは不正でない それは犬の中の狼のキメラがこはいのと もひとつはさしつかへないため 89 風のなかで繰り返してさしつかへないか すゞめ すゞめ 赤い蓼 の花もうごく ︵お城の下の桐畑でも ゆれてゐるゆれてゐる 桐が︶ 七つの銀のすすきの穂 ぐみの木かそんなにひかつてゆするもの ︵濠と橄 欖天鵞絨 杉︶ 雲母 のくもの幾きれ 白 そこで烏の群が踊る 伊太利亜製の空間がある 城のすすきの波の上には ︵ロシヤだよ ロシヤだよ︶ はこやなぎ しつかりゆれろゆれろ ︵ロシヤだよ チエホフだよ︶ 蘆の穂は赤い赤い もひとりこどもがゆつくり行く 金属製の桑のこつちを こんどは茶いろの雀どもの抛物線 羽織をかざしてかける日本の子供ら こどもがふたりかけて行く 屋根は矩形で傾斜白くひかり またからすが横からはひる いまは鳥のないしづかなそらに 崖をおりてきていゝころだ︶ ゆつくり杉に飛んで稲にはひる 烏がもいちど飛びあがる ︵もうみんな鍬や縄をもち そこはどての陰で気流もないので 稀硫酸の中の亜鉛屑は烏のむれ マサニエロ そんなにゆつくり飛べるのだ お城の上のそらはこんどは支那のそら たで しろうんも ︵なんだか風と悲しさのために胸がつまる︶ 烏三疋杉をすべり かんらんびろうど ひとの名前をなんべんも 90 四疋になつて旋転する ︵一九二二、一〇、一〇︶ 91 古い壁画のきららから ステツドラアのならいいんだが ステツドラアのみじかいペンか 色鉛筆がほしいつて 樺の向ふで日はけむる 来月にしてもらひたいな 再生してきて浮きだしたのだ つめたい露でレールはすべる まああの山と上の雲との模様を見ろ 栗鼠と色鉛筆 靴革の料理のためにレールはすべる よく熟してゐてうまいから ︵一九二二、一〇、一五︶ 朝のレールを栗鼠は横切る 横切るとしてたちどまる ピンク 尾は der Herbst 日はまつしろにけむりだし アツプルグリン 栗鼠は走りだす 水そばの苹 果緑 と石 竹 たれか三角やまの草を刈つた ずゐぶんうまくきれいに刈つた 緑いろのサラアブレツド うんくわん 日は白金をくすぼらし はやちね 一れつ黒い杉の槍 その早 池峰 と薬師岳との 雲環 は 93 無声慟哭 94 ああとし子 これらふたつのかけた陶 椀 に 青い蓴 菜 のもやうのついた ︵あめゆじゆとてちてけんじや︶ みぞれはびちよびちよふつてくる うすあかくいつそう 陰惨 な雲から ︵* みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ けふのうちに あめゆじゆとてちてけんじや︶ みぞれはさびしくたまつてゐる ⋮⋮ふたきれのみかげせきざいに そらからおちた雪のさいごのひとわんを⋮⋮ 銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの おまへはわたくしにたのんだのだ はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから ︵あめゆじゆとてちてけんじや︶ わたくしもまつすぐにすすんでいくから ありがたうわたくしのけなげないもうとよ おまへはわたくしにたのんだのだ こんなさつぱりした雪のひとわんを わたくしをいつしやうあかるくするために おまへがたべるあめゆきをとらうとして わたくしはそのうへにあぶなくたち 死ぬといふいまごろになつて わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに 雪と水とのまつしろな 二相系 をたもち 永訣の朝 このくらいみぞれのなかに飛びだした すきとほるつめたい雫にみちた たうわん いんざん ︵あめゆじゆとてちてけんじや︶ このつややかな松のえだから さうえん じゆんさい 鉛 いろの暗い雲から 蒼 わたくしのやさしいいもうとの にさうけい みぞれはびちよびちよ沈んでくる 95 わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ さいごのたべものをもらつていかう わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに どうかこれが天上のアイスクリームになつて 一九二二、一一、二七 みなれたちやわんのこの藍のもやうにも もうけふおまへはわかれてしまふ ︵* ︶ Ora Orade Shitori egumo ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ あああのとざされた病室の くらいびやうぶやかやのなかに やさしくあをじろく燃えてゐる わたくしのけなげないもうとよ この雪はどこをえらばうにも あんまりどこもまつしろなのだ あんなおそろしいみだれたそらから うまれでくるたて このうつくしい雪がきたのだ ︵* こんどはこたにわりやのごとばかりで くるしまなあよにうまれてくる︶ おまへがたべるこのふたわんのゆきに わたくしはいまこころからいのる 96 り す 鳥のやうに 栗鼠 のやうに はげしく頬を刺させることは そんな植物性の青い針のなかに そのみどりの葉にあつい頬をあてる おお おまへはまるでとびつくやうに あのきれいな松のえだだよ さつきのみぞれをとつてきた この新鮮な松のえだをおかう わたくしは緑のかやのうへにも なんといふけふのうつくしさよ おまへの頬の けれども 泣いてわたくしにさう言つてくれ わたくしにいつしよに行けとたのんでくれ ほんたうにおまへはひとりでいかうとするか ああけふのうちにとほくへさらうとするいもうとよ どんなにわたくしがうらやましかつたらう むさぼるやうにさへすることは いまに雫もおちるだらうし おまへは林をしたつてゐた どんなにわたくしたちをおどろかすことか そら 松の針 そんなにまでもおまへは林へ行きたかつたのだ さはやかな ターペンテイン おまへがあんなにねつに燃され の匂もするだらう terpentine ああいい さつぱりした 一九二二、一一、二七 あせやいたみでもだえてゐるとき わたくしは日のてるとこでたのしくはたらいたり * ほかのひとのことをかんがへながら森をあるいてゐた まるで林のながさ来たよだ 97 き おまへはけなげに母に 訊 くのだ おまへはじぶんにさだめられたみちを わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき また純粋やちひさな徳性のかずをうしなひ ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ おまへはまだここでくるしまなければならないか こんなにみんなにみまもられながら ほんたうにそんなことはない うんにや いつかう * あたらしく天にうまれてくれ どうかきれいな頬をして まるでこどもの苹果の頬だ 髪だつていつそうくろいし ほんたうにさうだ けふはほんとに立派だぢやい︶ ひとりさびしく往かうとするか かへつてここはなつののはらの ︵うんにや ずゐぶん立派だぢやい 信仰を一つにするたつたひとりのみちづれのわたくしが ちひさな白い花の匂でいつぱいだから 無声慟哭 あかるくつめたい 精進 のみちからかなしくつかれてゐて ただわたくしはそれをいま言へないのだ ︵* わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは それでもからだくさえがべ? 毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき ︵わたくしは修羅をあるいてゐるのだから︶ 何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら ああそんなに しやうじん おまへはひとりどこへ行かうとするのだ またわたくしのどんなちひさな表情も かなしく眼をそらしてはいけない おら おかないふうしてらべ︶ けつして見遁さないやうにしながら 98 註 一九二二、一一、二七 *あめゆきとつてきてください *あたしはあたしでひとりいきま す *またひとにうまれてくるときは こんなにじぶんのことばかりで くるしまないやうにうまれてき ます *ああいい さつぱりした まるではやしのなかにきたやう だ *あたしこはいふうをしてるでせ う *それでもわるいにほひでせう 99 ああおらはあど死んでもい ︵かしはのなかには鳥の巣がない きらきらつといま顫へたのは 向ふの柏木立のうしろの闇が さうでなければ小田島国友 ︵それはしよんぼりたつてゐる宮沢か あんまりがさがさ鳴るためだ︶ おらも死んでもい ここは艸があんまり 粗 く にちがひない Egmont Overture たれがそんなことを云つたかは 風林 とほいそらから空気をすひ わたくしはむしろかんがへないでいい︶ あら おもひきり倒れるにてきしない それをうしろに ︵かげはよると亜鉛とから合成される︶ 一列生徒らがやすんでゐる きつと口をまげてわらつてゐる しやつのぼたんをはめながら 月光の反照のにぶいたそがれのなかに せいの高くひとのいい佐藤伝四郎は 伝さん しやつつ何枚 三枚着たの わたくしはこの草にからだを投げる 降つてくるものはよるの微塵や風のかけら そこに水いろによこたはり 月はいましだいに銀のアトムをうしなひ よこに鉛の針になつてながれるものは月光のにぶ 言ひかけてなぜ堀田はやめるのか ほお おら⋮⋮ かしははせなかをくろくかがめる やなぎさは 沢 の杉はコロイドよりもなつかしく 柳 ばうずの 沼森 のむかふには おしまひの声もさびしく反響してゐるし ぬまもり 騎兵聯隊の灯も澱んでゐる 100 おまへはその巨きな木星のうへに居るのか きつとおまへをおもひだす また風の中に立てば 野原へ来れば とし子とし子 ︵言はないなら手帳へ書くのだ︶ さういふことはいへばいい かしははいちめんさらさらと鳴る 月光は柏のむれをうきたたせ やつぱりさうだ 川村 おゝ 俊夫てどつちの俊夫 わたくしははね起きなければならない あの青ざめた喜劇の天才﹁植物医師﹂の一役者 俊夫といふのはどつちだらう 川村だらうか 手 凍 えだ ひ な い づ ︵一九二三、六、三︶ 鋼青壮麗のそらのむかふ ︵ああけれどもそのどこかも知れない空間で こ ご 光の紐やオーケストラがほんたうにあるのか いちにぢ ⋮⋮⋮⋮此 処 あ日 あ永 あがくて 一 日 のうちの何 時 だがもわがらないで⋮⋮ ただひときれのおまへからの通信が いつか汽車のなかでわたくしにとどいただけだ︶ 手凍えだ? かげ とし子 わたくしは高く呼んでみようか 俊夫ゆぐ凍えるな こなひだもボダンおれさ掛げらせだぢやい 101 それはわたくしのいもうとだ 兄が来たのであんなにかなしく啼いてゐる 死んだわたくしのいもうとだ ︵それは一応はまちがひだけれども 白い鳥 鮮かな青い樺の木のしたに おきなぐさの冠毛がそよぎ 古風なくらかけやまのした けれどもそれも夜どほしあるいてきたための 熟してつかれたひるすぎらしい︶ ︵あさの日光ではなくて 朝のひかりをとんでゐる まつたくまちがひとは言はれない︶ みんなサラーブレツドだ 何匹かあつまる茶いろの馬 な銀の錯覚なので vague キン ︵ちやんと今朝あのひしげて融けた 金 の液体が じつにすてきに光つてゐる 青い夢の北上山地からのぼつたのをわたくしは見 あんなにかなしく啼きながら ︵日本絵巻のそらの群青や どうしてそれらの鳥は二羽 あゝいふ馬 誰行つても押へるにいがべが はめづらしくないが 天末の turquois あんな大きな心相の そんなにかなしくきこえるか よつぽどなれたひとでないと 光の環 は風景の中にすくない︶ それはじぶんにすくふちからをうしなつたとき た︶ バ ー グ 二疋の大きな白い鳥が わたくしのいもうとをもうしなつた タ コ イ ス 鋭くかなしく啼きかはしながら そのかなしみによるのだが くわん しめつた朝の日光を飛んでゐる 102 ︵ゆふべは柏ばやしの月あかりのなか 水が光る きれいな銀の水だ その菩薩ふうのあたまの 容 はガンダーラから来た︶ かたち けさはすずらんの花のむらがりのなかで さああすこに水があるよ 口をすゝいでさつぱりして往かう なんべんわたくしはその名を呼び またたれともわからない声が こんなきれいな野はらだから ︵一九二三、六、四︶ 人のない野原のはてからこたへてきて わたくしを嘲笑したことか︶ そのかなしみによるのだが またほんたうにあの声もかなしいのだ いま鳥は二羽 かゞやいて白くひるがへり むかふの湿地 青い蘆のなかに降りる 降りようとしてまたのぼる ︵日本武尊の新らしい御陵の前に おきさきたちがうちふして嘆き そこからたまたま千鳥が飛べば それを尊のみたまとおもひ 蘆に足をも傷つけながら 海べをしたつて行かれたのだ︶ 清原がわらつて立つてゐる ︵日に灼けて光つてゐるほんたうの農村のこども 103 オホーツク挽歌 104 じつは駅長のかげもないのだ こんなやみよののはらのなかをゆくときは わたくしの汽車は北へ走つてゐるはずなのに かばんにもたれて睡つてゐる︶ 油のない赤 髪 をもじやもじやして こんな車室いつぱいの液体のなかで 客車のまどはみんな水族館の窓になる ここではみなみへかけてゐる ︵その大学の昆虫学の助手は ︵乾いたでんしんばしらの列が 焼杭の柵はあちこち倒れ 青森挽歌 せはしく遷つてゐるらしい はるかに黄いろの地平線 水いろ川の水いろ駅 け きしやは銀河系の 玲瓏 レンズ それはビーアの 澱 をよどませ 枕木を焼いてこさへた柵が立ち ︵おそろしいあの水いろの空虚なのだ︶ れいろう 巨きな水素のりんごのなかをかけてゐる︶ あやしいよるの 陽炎と ︵八月の よるのしじまの 寒天凝膠 ︶ 汽車の逆行は 希求 の同時な相反性 おり りんごのなかをはしつてゐる さびしい心意の明滅にまぎれ 支手のあるいちれつの柱は こんなさびしい幻想から ば けれどもここはいつたいどこの停車 場 だ なつかしい陰影だけでできてゐる わたくしははやく浮びあがらなければならない アガアゼル 黄いろなラムプがふたつ 点 き そこらは青い孔雀のはねでいつぱい ききう せいたかくあをじろい駅長の 真鍮の睡さうな脂肪酸にみち つ 真鍮棒もみえなければ 105 おれはその黄いろな服を着た隊長だ ばかのやうに引つぱつたりついたりした まつたくおれたちはあの重い赤いポムプを けはしく光る雲のしたで 今日のひるすぎなら なるべくおもひださうとしない︶ わたくしはいたみやつかれから ︵考へださなければならないことを いよいよつめたく液化され 車室の五つの電燈は ぼくたちのことはまるでみえないやうだつたよ こおんなにして眼は大きくあいてたけど ギルちやんまつさをになつてすわつてゐたよ 一本の木もです︶ ︵草や沼やです たつたひとりでさびしくあるいて行つたらうか どの種類の世界へはひるともしれないそのみちを どこへ行くともわからないその方向を たつたひとりで通つていつたらうか あいつはこんなさびしい停車場を ドイツの尋常一年生だ︶ アイリ ーガー ゲゼ ルレ だから睡いのはしかたない 鳥がね たくさんたねまきのときのやうに ギルちやん青くてすきとほるやうだつたよ し 環をお切り そら 手を出して わ いきなりそんな悪い叫びを オー ヅウ ︵おゝお まへ せ はしいみちづれよ だんだん 環 をちひさくしたよ こんなに 投げつけるのはいつたいたれだ ばあつと空を通つたの アイレドツホ ニヒト フオン デヤ ステルレ ナーガラがね 眼をじつとこんなに赤くして どうかここから急いで去 ら な い で く れ けれども尋常一年生だ でもギルちやんだまつてゐたよ 尋常一年生 ドイツの尋常一年生 夜中を過ぎたいまごろに お日さまあんまり変に飴いろだつたわねえ こんなにぱつちり眼をあくのは 106 にはかに呼吸がとまり脈がうたなくなり ギルちやんちつともぼくたちのことみないんだもの それからわたくしがはしつて行つたとき あのきれいな眼が ぼくほんたうにつらかつた さつきおもだかのとこであんまりはしやいでたねえ とし子はみんなが死ぬとなづける どうしてもかんがへださなければならない かんがへださなければならないことは 忘れたらうかあんなにいつしよにあそんだのに 遠いところから声をとつてきて わたくしがその耳もとで おれたちのせかいの幻聴をきいたらう それはまだおれたちの世界の幻視をみ それからあとであいつはなにを感じたらう それはもうわたくしたちの空間を二度と見なかつた そのやりかたを通つて行き そらや愛やりんごや風 すべての勢力のたのしい根源 なにかを索めるやうに空しくうごいてゐた それからさきどこへ行つたかわからない 万象同帰のそのいみじい生物の名を どうしてギルちやんぼくたちのことみなかつたらう それはおれたちの空間の方向ではかられない ちからいつぱいちからいつぱい叫んだとき 白い尖つたあごや頬がゆすれて 感ぜられない方向を感じようとするときは ちひさいときよくおどけたときにしたやうな あいつは二へんうなづくやうに息をした さう甘えるやうに言つてから あんな偶然な顔つきにみえた たれだつてみんなぐるぐるする たしかにあいつはじぶんのまはりの けれどもたしかにうなづいた 耳ごうど鳴つてさつぱり聞けなぐなつたんちやい 眼にははつきりみえてゐる ヘツケル博士! なつかしいひとたちの声をきかなかつた 107 凍らすやうなあんな卑怯な叫び声は⋮⋮ 仮 睡硅酸 の雲のなかから 任にあたつてもよろしうございます わたくしがそのありがたい証明の ぼんやりとしてはひつてきた おしげ子たちのあけがたのなかに かん護とかなしみとにつかれて睡つてゐた ほんたうにその夢の中のひとくさりは どんなにねがふかわからない かすゐけいさん ︵宗谷海峡を越える晩は そしてわたくしはそれらのしづかな夢幻が ここでみるやうなゆめをみてゐたかもしれない ねつやいたみをはなれたほのかなねむりのなかで とし子はまだまだこの世かいのからだを感じ わたくしたちが死んだといつて泣いたあと 胸がほとつてゐたくらゐだから そしてあんなにつぎのあさまで たしかにあのときはうなづいたのだ そしてわたくしはほんたうに挑戦しよう︶ からだはけがれたねがひにみたし あたまは具へなく陰湿の霧をかぶり 音をたてて飛んできたあたらしいともだちと やがてはそこに小さなプロペラのやうに かなしくうたつて飛んで行つたらうか を風にききながら I’estudiantina 水のながれる暗いはやしのなかを いつぴきの鳥になつただらうか そしてそのままさびしい林のなかの ほかのひとのことのやうにつぶやいてゐたのだ 野はらをひとりあるきながら 落葉の風につみかさねられた まだこの世かいのゆめのなかにゐて たしかにとし子はあのあけがたは 黄いろな花こ おらもとるべがな つぎのせかいへつゞくため 無心のとりのうたをうたひながら わたくしは夜どほし甲板に立ち 明るいいゝ匂のするものだつたことを 108 わたくしはその跡をさへたづねることができる 大循環の風よりもさはやかにのぼつて行つた それがそのやうであることにおどろきながら われらが上方とよぶその不可思議な方角へ 交錯するひかりの棒を過ぎり はなやかな雲やつめたいにほひのあひだを かがやいてほのかにわらひながら 日光のなかのけむりのやうな 羅 をかんじ あたらしくさはやかな感官をかんじ あかつきの薔薇いろをそらにかんじ それらひとのせかいのゆめはうすれ どうしてわたくしはさうなのをさうと思はないのだらう 母が夏のかん病のよるにゆめみたとおなじだ 許されてゐる そして私のうけとつた通信は なぜ通信が許されないのか わたくしはどうしてもさう思はない たよりなくさまよつて行つたらうか 立つてゐるともよろめいてゐるともわからず あいつはその中にまつ青になつて立ち これらをそこに見るならば 亜硫酸や 笑気 のにほひ 意識ある蛋白質の砕けるときにあげる声 暗紅色の深くもわるいがらん洞と それともおれたちの声を聴かないのち それらのなかにしづかに立つたらうか 遠いほのかな記憶のなかの花のかをり 巨きなすあしの生物たち 移らずしかもしづかにゆききする また瓔珞やあやしいうすものをつけ 紐になつてながれるそらの楽音 天の瑠璃の地面と知つてこゝろわななき やがてはそれがおのづから研かれた ただしくうつすことをあやしみ さめざめとひかりゆすれる樹の列を 未知な全反射の方法と うすもの そこに碧い寂かな湖水の面をのぞみ 頬に手をあててゆめそのもののやうに立ち せうき あまりにもそのたひらかさとかがやきと 109 感ずることのあまり新鮮にすぎるとき あんまりひどいげんじつなのだ あたらしくぎくつとしなければならないほどの いまわたくしがそれを夢でないと考へて けれどもとし子の死んだことならば なにもかもみんないいかもしれない そして波がきらきら光るなら 夜があけて海岸へかかるなら みんなよるのためにできるのだ わたくしのこんなさびしい考は 斯ういつてひとりなげくかもしれない⋮⋮ そしてほんたうにみてゐるのだ︶と いつたいありうることだらうか わたくしといふものがこんなものをみることが いつたいほんたうのことだらうか ︵わたくしがいまごろこんなものを感ずることが 大てい月がこんなやうな暁ちかく 青森だからといふのではなく なめらかにつめたい窓硝子さへ越えてくる いよいよあやしい苹果の匂を発散し それはあやしい 蛍光板 になつて 月のあかりはしみわたり 積雲 のはらわたまで 巻 半月の噴いた瓦斯でいつぱいだ おもては 軟玉 と銀のモナド 二度とこれをくり返してはいけない 倶舎がさつきのやうに云ふのだ むかしからの多数の実験から なんべんこれをかんがへたことか どんな感官をかんじただらう あらたにどんなからだを得 ほんたうにあいつはここの感官をうしなつたのち いつでもまもつてばかりゐてはいけない おいおい あの顔いろは少し青かつたよ なんぎよく それをがいねん化することは 巻積雲にはひるとき⋮⋮ けんせきうん きちがひにならないための けいくわうばん 生物体の一つの自衛作用だけれども 110 ぢきもう東の鋼もひかる どの空間にでも勇んでとびこんで行くのだ 力にみちてそこを進むものは もう無上道に属してゐる あいつはどこへ堕ちようと きさまにどう斯う云はれるか まつ青だらうが黒からうが おれのいもうとの死顔が だまつてゐろ さういのりはしなかつたとおもひます あいつだけがいいとこに行けばいいと わたくしはただの一どたりと あいつがなくなつてからあとのよるひる ああ わたくしはけつしてさうしませんでした けつしてひとりをいのつてはいけない まことはたのしくあかるいのだ おまへにくらくおそろしく おまへの武器やあらゆるものは ︵一九二三、八、一︶ みんなむかしからのきやうだいなのだから ほんたうにけふの⋮⋮きのふのひるまなら もひとつきかせてあげよう おれたちはあの重い赤いポムプを⋮⋮ ね じつさいね あのときの眼は白かつたよ すぐ瞑りかねてゐたよ まだいつてゐるのか もうぢきよるはあけるのに すべてあるがごとくにあり かゞやくごとくにかがやくもの 111 そつちだらう 向ふには行つたことがないからと いまわたくしを親切なよこ目でみて さう云つたことでもよくわかる ︵その小さなレンズには オホーツク挽歌 たしか樺太の白い雲もうつつてゐる︶ 年老つた白い重挽馬は首を垂れ いまさつきの曠原風の荷馬車がくる モーニンググローリのそのグローリ しづくのなかに朝顔が咲いてゐる あるいはみじかい変種だらう かはるがはる風に押されてゐる︶ ︵それは青いいろのピアノの鍵で かはるがはるかぜにふかれてゐる チモシイの穂がこんなにみじかくなつて ぬれて寂まつた褐砂の上についてゐる 馬のひづめの痕が二つづつ たのしく激しいめまぐるしさ それにあんまり雲がひかるので 軟玉の花瓶や青い簾 またちひさな黄金の槍の穂 無数の藍いろの蝶をもたらし もうどうしても 妖精のしわざだ ああこれらのするどい花のにほひは まつ赤な朝のはまなすの花です ピオネア 海面は朝の炭酸のためにすつかり銹びた 朝顔よりはむしろ 牡丹 のやうにみえる またこの男のひとのよさは もちろん馬だけ行つたのではない アズライト わたくしがさつきあのがらんとした町かどで 広い荷馬車のわだちは ろくしやう 青 のとこもあれば 緑 藍銅鉱 のとこもある おほきなはまばらの花だ るりえき むかふの波のちゞれたあたりはずゐぶんひどい 瑠璃液 だ 浜のいちばん賑やかなとこはどこですかときいた時 112 おほきな赤いはまばらの花と まつ青なこけももの上等の 敷物 と なぜならさつきあの熟した黒い実のついた わたくしはしばらくねむらうとおもふ ひときれの貝殻を口に含み 波できれいにみがかれた 白い片岩類の小砂利に倒れ 波はよせるし砂を巻くし 萱草の青い花軸が半分砂に埋もれ 貝殻のいぢらしくも白いかけら またほのぼのと吹きとばされ 小さな蚊が三疋さまよひ 波の来たあとの白い細い線に こんなに淡いひとつづり どちらもとし子のもつてゐた特性だ それらの二つの青いいろは 強くもわたくしの胸は刺されてゐる 一きれのぞく天の青 雲の累帯構造のつぎ目から 青 は水平線までうららかに延び 緑 わびしい草穂やひかりのもや あやしい鑵鼓の蕩音さへする 日射しや幾重の暗いそらからは 眩ゆい緑金にさへなつてゐるのだ つかれのためにすつかり青ざめて それにだいいちいまわたくしの心象は 雲のひかりから恢復しなければならないから しめつたにほひのいい風や いまこれらの濤のおとや ろくしやう 不思議な 釣鐘草 とのなかで わたくしが樺太のひとのない海岸を カーペツト サガレンの朝の妖精にやつた ひとり歩いたり疲れて睡つたりしてゐるとき ブリーベル 透明なわたくしのエネルギーを 113 ごちやごちや漂ひ置かれたその向ふで とゞ松やえぞ松の荒さんだ幹や枝が なにをしてゐるのかわからない とし子はあの青いところのはてにゐて この十字架の刻みのなかをながれ やうやく乾いたばかりのこまかな砂が 白いそのふちばかり出てゐる︶ ︵貝がひときれ砂にうづもれ 悼んでゐるかと遠いひとびとの表情が言ひ いまはもうどんどん流れてゐる 鳥は雲のこつちを上下する またわたくしのなかでいふ 波はなんべんも巻いてゐる ここから今朝舟が滑つて行つたのだ 海がこんなに青いのに 砂に刻まれたその船底の痕と ︵ Casual observer ! Superficial traveler︶! 空があんまり光ればかへつてがらんと暗くみえ その巻くために砂が湧き 巨きな横の台木のくぼみ いまするどい羽をした三羽の鳥が飛んでくる わたくしがまだとし子のことを考へてゐると それはひとつの曲つた十字架だ あんなにかなしく啼きだした 潮水はさびしく濁つてゐる 幾本かの小さな木片で わたくしの片つ方のあたまは痛く なぜおまへはそんなにひとりばかりの妹を と書きそれを LOVE となほし HELL ひとつの十字架をたてることは 遠くなつた栄浜の屋根はひらめき ダイアル よくたれでもがやる技術なので 鳥はただ一羽硝子笛を吹いて ︵十一時十五分 その蒼じろく光る 盤面 ︶ とし子がそれをならべたとき 玉髄の雲に漂つていく なにかしらせをもつてきたのか わたくしはつめたくわらつた 114 町やはとばのきららかさ その背のなだらかな丘陵の鴾いろは りんごせい いちめんのやなぎらんの花だ 爽やかな 苹果青 の草地と 黒緑とどまつの列 ︵ナモサダルマプフンダリカサスートラ︶ 五匹のちひさないそしぎが 海の巻いてくるときは よちよちとはせて遁げ ︵ナモサダルマプフンダリカサスートラ︶ 浪がたひらにひくときは 砂の鏡のうへを よちよちとはせてでる ︵一九二三、八、四︶ 115 おお満艦飾のこのえぞにふの花 きつとポラリスやなぎですよ やなぎが青くしげつてふるへてゐます そつと見てごらんなさい ごく敬虔に置かれてゐる︶ 線路のよこの赤砂利に ︵灼かれた馴鹿の黒い頭骨は 鈴谷山脈は光霧か雲かわからない 松脂岩薄片のけむりがただよひ やなぎらんやあかつめくさの群落 太陽もすこし青ざめて にせものの大乗居士どもをみんな灼け みんな大乗風の考をもつてゐる︶ 焼けた野原から生えたので ︵こゝいらの樺の木は やなぎらんの光の点綴 黒い木柵も設けられて ︵樺の微動のうつくしさ︶ ごく精巧ないちいちの葉脈 その緑金の草の葉に 夕陽にすかし出されると ︵光るのは電しんばしらの碍子︶ それはツンドラを截り 月光いろのかんざしは 山脈の縮れた白い雲の上にかかり 青びかり野はらをよぎる細流 すなほなコロボツクルのです 列車の窓の稜のひととこが 樺太鉄道 ︵ナモサダルマプフンダリカサスートラ︶ 草地に投げられたスペクトル プリズムになつて日光を反射し の雲の白髪の崇高さ Van’t Hoff セントベチユラアルバ 崖にならぶものは 聖 白 樺 116 そのためにえぞにふの花が一そう明るく見え またフレツプスのやうに甘くはつかうさせるのだ やうやく葡萄の 果汁 のやうに サガレンの八月のすきとほつた空気を たしかに日はいま羊毛の雲にはひらうとして ︵ナモサダルマプフンダリカサスートラ︶ まばゆい 白金環 ができるのだ かくされた後には威神力により かくされる前には感応により 日さへまもなくかくされる ︵雲はさつきからゆつくり流れてゐる︶ ︵濁つてしづまる天の青らむ一かけら︶ いまにも結婚しさうにみえる 一きれはもう錬金の過程を了へ その下ではぼろぼろの火雲が燃えて こんなすてきな瑪瑙の 天蓋 ここらの樺ややなぎは暗くなる︶ ︵向ふが燃えればもえるほど 燃えあがる雲の銅粉 結晶片岩山地では ︵ナモサダルマプフンダリカサスートラ︶ 風に削り残された黒い梢だ 一本のごくせいの高いとどまつの マスト はくきんくわん 松毛虫に食はれて枯れたその大きな山に いちめんいちめん海蒼のチモシイ ラ ー チ キヤノピー 桃いろな日光もそそぎ マホガニー めぐるものは神経質の 色丹松 またえぞにふと 桃花心木 の柵 すべて天上技師 ごく斬新な設計だ こんなに青い白樺の間に 氏の Nature 山の襞 のひとつのかげは 鉋をかけた立派なうちをたてたので ひだ 緑青のゴーシユ四辺形 これはおれのうちだぞと 瓏 のなかに そのいみじい 玲 その顔の赤い愉快な百姓が トランスリユーセント からすが飛ぶと見えるのは 117 井上と少しびつこに大きく壁に書いたのだ ︵一九二三、八、四︶ 118 鈴谷平野の荒さんだ山際の焼け跡に だから新らしい蜂がまた一疋飛んできて うれひや悲しみに対立するものではない 荘厳ミサや雲 環 とおなじやうに それはたのしくゆれてゐるといつたところで チモシイの穂が青くたのしくゆれてゐる さびしい未知へとんでいつた︶ ちやんと抛物線の図式にしたがひ ︵私のとこへあらはれたその蜂は 蒼い眼をしたすがるです 琥珀細工の春の器械 蜂が一ぴき飛んで行く たしかさはしぎの発動機だ︶ ︵さはしぎも啼いてゐる 遠くから近くからけむつてゐる 光ともやの紫いろの花をつけ いちめんのやなぎらんの群落が いつぱいに生えてゐるのです︶ あをいまつ青いとどまつが クリスマスツリーに使ひたいやうな ︵うしろの方はまつ青ですよ 三稜玻璃にもまれ 青ぞらにわづかの新葉をつけ また夢よりもたかくのびた白樺が まつすぐに天に立つて加奈太式に風にゆれ ほんたうにそれらの焼けたとゞまつが ぼくのまはりをとびめぐり こんやはもう標本をいつぱいもつて わたくしはこんなにたのしくすわつてゐる また茨や灌木にひつかかれた わたくしは宗谷海峡をわたる 鈴谷平原 わたしのすあしを刺すのです だから風の音が汽車のやうだ うんくわん こんなうるんで秋の雲のとぶ日 119 流れるものは二条の茶 蛇ではなくて一ぴきの栗鼠 いぶかしさうにこつちをみる ︵こんどは風が みんなのがやがやしたはなし声にきこえ うしろの遠い山の下からは 好摩の冬の青ぞらから落ちてきたやうな すきとほつた大きなせきばらひがする これはサガレンの古くからの誰かだ︶ ︵一九二三、八、七︶ 120 思ひ余つたやうにとし子が言つた とし子は大きく眼をあいて ︵車室は軋みわたくしはつかれて睡つてゐる︶ どこから来てこんなに照らすのか いゑんどうの澱粉や緑金が 稚 大きなくるみの木のしただ︶ ︵栗鼠の軋りは水車の夜明け そんなにさはやかな林を恋ひ 鳥のやうに栗鼠のやうに あの林の中でだらほんとに死んでもいいはんて うごいで熱は高ぐなつても あの林の中さ行ぐだい 烈しい薔薇いろの火に燃されながら 一千九百二十三年の おらあど死んでもいゝはんて ︵あの七月の高い熱⋮⋮︶ とし子はやさしく眼をみひらいて 鳥が棲み空気の水のやうな林のことを考へてゐた 透明薔薇の身熱から 噴火湾︵ノクターン︶ ︵かんがへてゐたのか 青い林をかんがへてゐる わか いまかんがへてゐるのか︶ す フアゴツトの声が前方にし り 車室の軋りは二疋の 栗鼠 があやしくいままたはじまり出す Funeral march ︵車室の軋りはかなしみの二疋の栗鼠︶ ことしは勤めにそとへ出てゐないひとは みんなかはるがはる林へ行かう 銅 の半月刀を腰にさげて 赤 ︵二等室のガラスは霜のもやう︶ 栗鼠お魚たべあんすのすか どこかの生意気なアラビヤ酋長が言ふ もう明けがたに遠くない しやくどう 七月末のそのころに 121 天井のあかしのあたりを這つてゐる 一ぴきのちひさなちひさな白い蛾が 車室の軋りもいつかかすれ 崖の木や草も明らかに見え どうしてもどこかにかくされたとし子をおもふ わたくしのかなしみにいぢけた感情は とし子がしづかにわらはうと たとへそのちがつたきらびやかな空間で ︵そのさびしいものを死といふのだ︶ ︵一九二三、八、一一︶ ︵車室の軋りは天の楽音︶ 噴火湾のこの黎明の水明り 室蘭通ひの汽船には 二つの赤い灯がともり 東の天末は濁つた孔雀石の縞 黒く立つものは樺の木と楊の木 駒ヶ岳駒ヶ岳 暗い金属の雲をかぶつて立つてゐる そのまつくらな雲のなかに とし子がかくされてゐるかもしれない ああ何べん理智が教へても 私のさびしさはなほらない わたくしの感じないちがつた空間に いままでここにあつた現象がうつる それはあんまりさびしいことだ 123 風景とオルゴール 124 いましつかりした執政官だ︶ 防火線のひらめく灰いろなども 慈雲尊者にしたがへば ︵一九二三、八、二八︶ ことことと寂しさを噴く暗い山に 不貪慾戒のすがたです 不貪慾戒 油紙を着てぬれた馬に乗り くわんじやうせうはく つめたい風景のなか 暗い森のかげや ゆるやかな環 状削剥 の丘 赤い萱の穂のあひだを かうもりがさ ゆつくりあるくといふこともいゝし すなさ 黒い多面角の洋 傘 をひろげ 砂 糖を買ひに町へ出ることも 砂 ごく新鮮な企画である ︵ちらけろちらけろ 四十雀︶ 粗剛なオリザサチバといふ植物の人工群落が タアナアさへもほしがりさうな じうんそんじや しじふから 上等のさらどの色になつてゐることは ふとんよくかい 雲尊者 にしたがへば 慈 貪慾戒 のすがたです 不 ︵ちらけろちらけろ 四十雀 そのときの高等遊民は 125 銀の水車でもまはしていい 無細工の銀の水車でもまはすがいい あたまの奥ではもうまつ白に爆発してゐる︶ ︵赤紙をはられた火薬車だ 雲は羊毛とちぢれ カフカズ風に帽子を折つてかぶるもの 無細工な銀の水車でもまはしていい 黒緑赤 楊 のモザイツク 感官のさびしい盈虚のなかで 雲とはんのき またなかぞらには氷片の雲がうかび 貨物車輪の裏の秋の明るさ ゆふべ一晩の雨でできた つめたくぬるぬるした蓴 菜とから組成され 朧ろな秋の水ゾルと 沼はきれいに鉋をかけられ おれの崇敬は照り返され 天の海と窓の日おほひ おれの崇敬は照り返され わづかにその山稜と雲との間には 豆畑だつてほんたうにかなしいのに 山も大へん尖つて青くくらくなり こんなにそらがくもつて来て 手宮文字です 手宮文字です おまへに男らしい償ひを強ひるかわからない︶ やがてどんな重荷になつて おまへが刻んだその線は ︵ひのきのひらめく六月に は ん すすきはきらつと光つて過ぎる 陶庵だか東庵だかの蒔絵の あやしい光の微塵にみちた 北ぞらのちぢれ羊から 精製された水銀の川です じゆん アマルガムにさへならなかつたら 126 幻惑の天がのぞき またそのなかにはかがやきまばゆい積雲の一列が こころも遠くならんでゐる せいとう これら葬送行進曲の層雲の底 鳥もわたらない 清澄 な空間を わたくしはたつたひとり つぎからつぎと冷たいあやしい幻想を抱きながら 一梃のかなづちを持つて 南の方へ石灰岩のいい層を さがしに行かなければなりません ︵一九二三、八、三一︶ 127 どうしておまへはそんな医される筈のないかなしみを 西ならあんな暗い立派な霧でいつぱい がさがさした稲もやさしい 油緑 に熟し さあなみだをふいてきちんとたて みかねてわたしはいつてゐるのだ あんまりおまへがひどからうとおもふので けれども悪いとかいゝとか云ふのではない いまはもうさうしてゐるときでない 草穂はいちめん風で波立つてゐるのに もうそんな宗教風の恋をしてはいけない わざとあかるいそらからとるか 可哀さうなおまへの弱いあたまは そこはちやうど両方の空間が二重になつてゐるとこで 宗教風の恋 くらくらするまで青く乱れ おれたちのやうな初心のものに ゆりよく いまに太田武か誰かのやうに 居られる場処では決してない ︵一九二三、九、一六︶ 眼のふちもぐちやぐちやになつてしまふ ほんたうにそんな偏つて尖つた心の動きかたのくせ なぜこんなにすきとほつてきれいな気層のなかから 燃えて暗いなやましいものをつかまへるか 信仰でしか得られないものを なぜ人間の中でしつかり捕へようとするか 風はどうどう空で鳴つてるし 東京の避難者たちは半分脳膜炎になつて いまでもまいにち遁げて来るのに 128 トマト その電燈の献策者に もちろん農夫はからだ半分ぐらゐ ひとりの農夫が乗つてゐる 一疋の馬がゆつくりやつてくる 曜 ひのきやサイプレスの中を 黒 雲がどんどんかけてゐる つめたくされた銀製の薄 明穹 を 爽かなくだもののにほひに充ち 璃末 の雲の稜に磨かれて 玻 ほんたうに鋭い秋の粉や 黒白鳥のむな毛の塊が奔り 薄明穹の爽かな銀と苹果とを 下では水がごうごう流れて行き 風景が深く透明にされたかわからない 電線も二本にせものの 虚無 のなかから光つてゐるし クレオソートを塗つたばかりのらんかんや どんなにこれらのぬれたみちや だちやそこらの銀のアトムに溶け 木 磨銀彩 に尖つて光る六日の月 紫 わたくしは青い 蕃茄 を贈る またじぶんでも溶けてもいいとおもひながら 橋のらんかんには雨粒がまだいつぱいついてゐる 風景とオルゴール あたまの大きな曖昧な馬といつしよにゆつくりくる なんといふこのなつかしさの湧きあがり こ しまぎんさい ごけんもり くわとうめい デ サ イ ト ああ お月さまが出てゐます きよむ 首を垂れておとなしくがさがさした南部馬 水はおとなしい膠朧体だし はくめいきゆう 黒く巨きな松倉山のこつちに わたくしはこんな 過透明 な景色のなかに こくえう 一点のダアリア複合体 松倉山や 五間森 荒つぽい石 英安山岩 の岩頸から はりまつ その電燈の企 画 なら 放たれた剽悍な刺客に プラン じつに九月の宝石である 129 崖にぶつつかるそのへんの水は わたくしは古い印度の青草をみる ︵気の毒な二重感覚の機関︶ 風が口笛をはんぶんちぎつて持つてくれば ︵杉のいただきは黒くそらの椀を刺し︶ ︵たしかにわたくしがその木をきつたのだから︶ 暗殺されてもいいのです ︵しづまれしづまれ五間森 盲ひた黒い暈をつくつて光面を過ぎる雲の一群 月はいきなり二つになり ︵オルゴールをかけろかけろ︶ わたくしの上着はひるがへり そんな恐ろしいがまいろの雲と ︵何べんの恋の償ひだ︶ そこから見当のつかない大きな青い星がうかぶ そ 葱のやうに横に 外 れてゐる 木をきられてもしづまるのだ︶ ︵一九二三、九、一六︶ そんなに風はうまく吹き 半月の表面はきれいに吹きはらはれた だからわたくしの洋傘は しばらくぱたぱた言つてから ぬれた橋板に倒れたのだ 松倉山松倉山尖つてまつ暗な悪魔蒼鉛の空に立ち 電燈はよほど熟してゐる カルパ 風がもうこれつきり吹けば まさしく吹いて来る 劫 のはじめの風 キヤルセドニ ひときれそらにうかぶ暁のモテイーフ 電線と恐ろしい 玉髄 の雲のきれ 130 いま硅酸の雲の大部が行き過ぎようとするために 意識のやうに移つて行くちぎれた蛋白彩の雲 五日の月はさらに小さく副生し すきとほつて巨大な過去になる すべてこんなに錯綜した雲やそらの景観が 研ぎ澄まされた天河石天盤の半月 ︵虚空は古めかしい 月汞 にみち︶ 逞しくも起伏する 暗黒山稜 や クレオソートを塗つたばかりの電柱や 風が偏倚して過ぎたあとでは 白いあやしい気体が噴かれ 月の彎曲の内側から 微塵からなにからすつかりとつてしまつたのだ ひるまのはげしくすさまじい雨が どんどん雲は月のおもてを研いで飛んでゆく ︵山もはやしもけふはひじやうに峻儼だ︶ 月は水銀を塗られたでこぼこの噴火口からできてゐる じつに空は底のしれない洗ひがけの虚空で 風や酸素に溶かされてしまつた︶ いまはその小さな硫黄の粒も まへにはよく硫黄のにほひがのぼつたのだが ︵月あかりがこんなにみちにふると 月の尖端をかすめて過ぎれば そのために却つて一きれの雲がとかされて みちはなんべんもくらくなり そのまん中の厚いところは黒いのです ︵杉の列はみんな黒真珠の保護色︶ 風の偏倚 ︵風と 嘆息 との 中 にあらゆる世界の 因子 がある︶ そらそら B氏のやつたあの虹の交錯や顫ひと なか げつこう あんこくさんりよう きららかにきらびやかにみだれて飛ぶ断雲と 苹果の未熟なハロウとが いんし 星雲のやうにうごかない天盤附属の氷片の雲 あやしく天を覆ひだす たんそく ︵それはつめたい虹をあげ︶ 131 レールとみちの粘土の可塑性 ひそ 杉の列には山烏がいつぱいに 潜 み 月はこの変厄のあひだ不思議な黄いろになつてゐる ︵一九二三、九、一六︶ ペガススのあたりに立つてゐた いま雲は一せいに散兵をしき 極めて堅実にすすんで行く おゝ私のうしろの松倉山には 用意された一万の硅化流紋凝灰岩の弾塊があり 川尻断層のときから息を殺してしまつてゐて 私が腕時計を光らし過ぎれば落ちてくる 空気の透明度は水よりも強く 松倉山から生えた木は 敬虔に天に祈つてゐる 辛うじて赤いすすきの穂がゆらぎ ︵どうしてどうして松倉山の木は ひどくひどく風にあらびてゐるのだ あのごとごといふのがみんなそれだ︶ 呼吸のやうに月光はまた明るくなり 雲の遷色とダムを超える水の音 わたしの帽子の静寂と風の塊 いまくらくなり電車の単線ばかりまつすぐにのび 132 それが売れてこんどは持つて戻らないのか もし車の外に立つたらはねとばされる 山を下る電車の奔り 風は吹く吹く 松は一本立ち たくましくも赤い頬 また農婦のよろこびの オリオンの幻怪と青い電燈 ︵ 昴 がそらでさう云つてゐる︶ 二つの星が逆さまにかかる 沈んだ月夜の楊の木の梢に わたくしが壁といつしよにここらあたりで どうしてもこの貨物車の壁はあぶない ︵豆ばたけのその 喪神 のあざやかさ︶ 一心に走つてゐるのだ もう蝎かドラゴかもわからず 軌道から青い火花をあげ 見たまへこの電車だつて 東京はいま生きるか死ぬかの堺なのだ 市民諸君よなんてふざけたものの云ひやうをするな おおきやうだい これはおまへの感情だな 市民諸君よ 電燈に照らされたそばの畑を見たことがありますか 山へ行つて木をきつたものは 投げだされて死ぬことはあり得過ぎる そのまつ青な夜のそば畑のうつくしさ どうしても帰るときは肩身がせまい 金をもつてゐるひとは金があてにならない 昴 ︵ああもろもろの徳は 善逝 から来て からだの丈夫なひとはごろつとやられる すばる そしてスガタにいたるのです︶ あたまのいいものはあたまが弱い さうしん 腕を組み暗い貨物電車の壁による少年よ あてにするものはみんなあてにならない スガタ この籠で今朝鶏を持つて行つたのに 133 たゞもろもろの徳ばかりこの巨きな旅の資糧で スガタ スガタ そしてそれらもろもろの徳性は 逝 から来て善 善 逝 に至る ︵一九二三、九、一六︶ 134 ち ひ 七つ森第二梯形の あやしいそらのバリカンは ︵三 角山 はひかりにかすれ︶ の穂の満 萱 潮 そらは霜の織物をつくり 日本の九月の気圏です きれいにそらに溶けてゆく 明るい雨の中のみたされない唇が 青い抱擁衝動や 一本さびしく赤く燃える栗の木から 萱の穂は満潮︶ ︵萱の穂は満潮 とんぼは萱の花のやうに飛んでゐる 縮れて雲はぎらぎら光り ︵おお第一の紺青の寂寥︶ こならやさるとりいばらが滑り 梯形第三のすさまじい羊歯や ラテライトのひどい崖から まひるの夢をくすぼらし 手帳のやうに青い 卓状台地 は 白い雲からおりて来て 七つ森の第四 伯林青 スロープは テーブルランド 新鮮な 地被 が刈り払はれ 早くも七つ森第一 梯形 の やまなしの匂の雲に起伏し 第四梯形 松と雑 木 を刈 りおとし すこし日射しのくらむひまに か ていけい さんかくやま まんてう 野原がうめばちさうや山羊の乳や そらのバリカンがそれを刈る かや 沃度の匂で荒れて大へんかなしいとき ︵腐植土のみちと天の石墨︶ べるりんせい 汽車の進行ははやくなり 夜風太郎の配下と子孫とは ざふぎ ぬれた赤い崖や何かといつしよに 135 大きな帽子を風にうねらせ 落葉松のせはしい足なみを しきりに馬を急がせるうちに 早くも第六梯形の暗いリパライトは ひ ハツクニーのやうに刈られてしまひ たうとうぼくは一つ勘定をまちがへた ななめに琥珀の 陽 も射して 第四か第五かをうまくそらからごまかされた どうして決して そんなことはない いまきらめきだすその真鍮の畑の一片から 明暗交錯のむかふにひそむものは まさしく第七梯形の 雲に浮んだその最後のものだ 緑青を吐く松のむさくるしさと さんかく ちぢれて悼む 雲の羊毛 ︵三 角 やまはひかりにかすれ︶ ︵一九二三、九、三〇︶ 136 口笛を吹きまた新らしい濃い空気を吸へば 米国風のブリキの缶で 四面体聚 形 の一人の工夫が 黒い保線小屋の秋の中では 古枕木を灼いてこさへた ラツグの音譜をばら撒きだ 鳥は一ぺんに飛びあがつて 雲はカシユガル産の苹果の果肉よりもつめたい 萱の穂は赤くならび 小さな三角の前山なども だからわたくしのふだん決して見ない 枯れた野原に注いでゐる 白い雲のたくさんの流れは 氷河が海にはひるやうに 逞ましい向ふの土方がくしやみをする その陰影のなかから 私の着物もすつかり 酸性土壌ももう十月になつたのだ 松林なら地被もところどころ剥げて 森はどれも群青に泣いてゐるし たしかメリケン粉を 捏 ねてゐる はつきり白く浮いてでる たれでもみんなきのどくになる 鳥はまた一つまみ 空からばら撒かれ 栗の梢のモザイツクと 火薬と紙幣 一ぺんつめたい雲の下で展開し 葉細工 のやなぎの葉 鉄 thread-bare こんどは巧に引力の法則をつかつて 水のそばでは堅い黄いろなまるめろが しゆうけい 遠いギリヤークの電線にあつまる 枝も裂けるまで実つてゐる こ 赤い碍子のうへにゐる ︵こんどばら撒いてしまつたら⋮⋮ ぶりきざいく そのきのどくなすゞめども 137 ふん ちやうど四十雀のやうに︶ 雲が縮れてぎらぎら光るとき 大きな帽子をかぶつて 野原をおほびらにあるけたら おれはそのほかにもうなんにもいらない 火薬も燐も大きな紙幣もほしくない ︵一九二三、一〇、一〇︶ 138 わるもの ひじやうな 悪漢 にもみえようが 雲はぐらぐらゆれて馳けるし わたくしは移住の 清教徒 です きらびやかな雨あがりの中にはたらけば あたらしい腐植のにほひを嗅ぎながら 截られた根から青じろい樹液がにじみ 豪奢な織物に染めたりする からやさしい月光いろまで 紅 いぢけたちひさなまゆみの木を こんなきれいな露になつたり そのたよりない 性 質が これらげんしやうのせかいのなかで なにもかもみんなあてにならない なにもかもみんなたよりなく 梨の葉にはいちいち精巧な葉脈があつて そんならもうアカシヤの木もほりとられたし わたくしはゆるされるとおもふ 短果枝には雫がレンズになり いまはまんぞくしてたうぐはをおき 過去情炎 そらや木やすべての景象ををさめてゐる わたくしは待つてゐたこひびとにあふやうに おうやう じやうえん せい わたくしがここを環に掘つてしまふあひだ 揚 にわらつてその木のしたへゆくのだけれども 鷹 ピユリタン その雫が落ちないことをねがふ それはひとつの 情炎 だ べに なぜならいまこのちひさなアカシヤをとつたあとで もう水いろの過去になつてゐる ていちよう ︵一九二三、一〇、一五︶ わたくしは鄭 重 にかがんでそれに唇をあてる えりをりのシヤツやぼろぼろの上着をきて 企らむやうに肩をはりながら そつちをぬすみみてゐれば 139 火口の雪は皺ごと刻み かど からまつはふたたびわかやいで萌え きよめられるひとのねがひ すみわたる海 蒼 の天と ベーリング市までつづくとおもはれる 電信ばしらはやさしく白い碍子をつらね かぎりなくかぎりなくかれくさは日に燃え のはらがぱつとひらければ 松がいきなり明るくなつて あんまりへんなをどりをやると ︵おい やまのたばこの木 こひびととひとめみることでさへさうでないか わたくしはそれをはりつけとでもとりかへる いつたいなんといふおんけいだらう はんにちゆつくりあるくことは こんなあかるい 穹窿 と草を やまのたばこの木つていふつてのはほんたうか︶ てめいのあだなを ︵おい かしは 青ぞらに星雲をあげる 幻聴の透明なひばり 未来派だつていはれるぜ︶ くらかけのびんかんな 稜 は 時雨 の青い起伏は 七 わたくしは森やのはらのこひびと 一本木野 また心象のなかにも起伏し のあひだをがさがさ行けば 蘆 きゆうりゆう ひとむらのやなぎ木立は つつましく折られたみどりいろの通信は かいさう ボルガのきしのそのやなぎ いつかぽけつとにはひつてゐるし てんわん ななしぐれ 椀 の孔雀石にひそまり 天 はやしのくらいとこをあるいてゐると やくしたいしや よし 師岱赭 のきびしくするどいもりあがり 薬 140 みかづき 日月 がたのくちびるのあとで 三 肱やずぼんがいつぱいになる ︵一九二三、一〇、二八︶ 141 ブロツク 雲はあらはれてつぎからつぎと消え なにかあかるい曠原風の情調を わたくしはさつきの柏や松の野原をよぎるときから 畏るべくかなしむべき砕 塊熔岩 の黒 日かげになつた火山 礫堆 の中腹から 薬師火口のいただきにかかり 喪神のしろいかがみが その白つぽい厚いすぎごけの それは恐ろしい二種の苔で答へた 見ようとして 私 の来たのに対し どんな植物が生えたかを どれくらゐの 風化 が行はれ これら清洌な 試薬 によつて 空気のなかの酸素や炭酸瓦斯 およそ二百三十五年のあひだに 貞享四年のちひさな噴火から ばらばらにするやうなひどいけしきが 表面がかさかさに乾いてゐるので いちいちの 火山塊 の黒いかげ 展かれるとはおもつてゐた わたくしはまた麺麭ともかんがへ 鎔岩流 けれどもここは空気も深い淵になつてゐて ちやうどひるの食事をもたないとこから ふうくわ わたし それをみてよろこぶもので きやうおう すこしの小高いところにのぼり それからあとはたべるものだから︶ ブロツクレーバ しやく ごく強力な鬼神たちの棲みかだ ひじやうな 饗応 ともかんずるのだが れきたい 一ぴきの鳥さへも見えない ︵なぜならたべものといふものは さらにつくづくとこの焼石のひろがりをみわたせば ここらでそんなかんがへは ブロツク わたくしがあぶなくその一一の 岩塊 をふみ 雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き 142 あんまり僭越かもしれない とにかくわたくしは荷物をおろし りんご 灰いろの苔に靴やからだを埋め 一つの赤い苹 果 をたべる うるうるしながら苹果に噛みつけば べに キン 雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き 野はらの白樺の葉は 紅 や金 やせはしくゆすれ 北上山地はほのかな幾層の青い縞をつくる ︵あれがぼくのしやつだ 青いリンネルの農民シヤツだ︶ ︵一九二三、一〇、二八︶ 143 イーハトヴの氷霧 ひようむ けさはじつにはじめての凜々しい氷 霧 だつたから みんなはまるめろやなにかまで出して歓迎した ︵一九二三、一一、二二︶ 144 凍つたしづくが燦 々 と降り パツセン大街道のひのきからは せはしく野はらの雪に燃えます かげろふや青いギリシヤ文字は そらにはちりのやうに小鳥がとび ︵窓のガラスの氷の羊歯は うららかな雪の台地を急ぐもの つめたく青らむ天椀の下 茶いろの瞳をりんと張り にせものの金のメタルをぶらさげて ︵でんしんばしらの赤い碍子と松の森︶ 幾重のあえかな氷をくぐり の指揮する あゝ Josef Pasternack この冬の銀河軽便鉄道は さめざめとしてひかつてもいい︶ 銀河ステーシヨンの遠方シグナルも だんだん白い湯気にかはる︶ けさはまつ赤 に澱んでゐます パツセン大街道のひのきから 冬と銀河ステーシヨン 川はどんどん氷 を流してゐるのに しづくは燃えていちめんに降り ザエ さんさん みんなは 生 ゴムの長靴をはき はねあがる青い枝や か 狐や犬の毛皮を着て 紅玉やトパースまたいろいろのスペクトルや なま 陶器の露店をひやかしたり ︵一九二三、一二、一〇︶ もうまるで市場のやうな盛んな取引です た こ いちび ぶらさがつた章 魚 を品さだめしたりする あのにぎやかな土沢の冬の 市日 です ︵はんの木とまばゆい雲のアルコホル あすこにやどりぎの黄金のゴールが 145 後註 ページの左右中央 ﹁心象スケツチ﹂は1段階小さな文字 ﹁大正十一、二年﹂は1段階小さな文字 2字下げ ﹁序﹂は大見出し ページの左右中央 7字下げ ﹁春と修羅﹂は大見出し 2字下げ ﹁屈折率﹂は中見出し 2字下げ ﹁くらかけの雪﹂は中見出し 2字下げ ﹁日輪と太市﹂は中見出し 2字下げ ﹁丘の眩惑﹂は中見出し 2字下げ ﹁カーバイト倉庫﹂は中見出し 2字下げ ﹁コバルト山地﹂は中見出し 2字下げ ﹁ぬすびと﹂は中見出し 2字下げ ﹁恋と病熱﹂は中見出し ここから中見出し ここで中見出し終わり 2字下げ ﹁春光呪咀﹂は中見出し 146 ﹁おきなぐさ﹂は中見出し 2字下げ ﹁休息﹂は中見出し 2字下げ ﹁習作﹂は中見出し 2字下げ ﹁風景﹂は中見出し 2字下げ ﹁雲の信号﹂は中見出し 2字下げ ﹁陽ざしとかれくさ﹂は中見出し 2字下げ ﹁谷﹂は中見出し 2字下げ ﹁有明﹂は中見出し 2字下げ ﹁パート一﹂は小見出し 3字下げ ﹁小岩井農場﹂は中見出し 2字下げ ﹁小岩井農場﹂は大見出し 7字下げ ページの左右中央 ﹁蠕虫舞手﹂は中見出し 2字下げ ここで中見出し終わり ここから中見出し ﹁真空溶媒﹂は大見出し 7字下げ ページの左右中央 ﹁かはばた﹂は中見出し 2字下げ 147 ﹁グランド電柱﹂は大見出し 7字下げ ページの左右中央 ﹁パート九﹂は小見出し 3字下げ ﹁パート七﹂は小見出し 3字下げ ﹁パート六﹂は同行小見出し ﹁パート五﹂は同行小見出し 3字下げ ﹁パート四﹂は小見出し 3字下げ ﹁パート三﹂は小見出し 3字下げ ﹁パート二﹂は小見出し 3字下げ ﹁高原﹂は中見出し 2字下げ ﹁岩手山﹂は中見出し 2字下げ ﹁風景観察官﹂は中見出し 2字下げ ﹁報告﹂は中見出し 2字下げ ここで中見出し終わり ここから中見出し ﹁芝生﹂は中見出し 2字下げ ﹁霧とマツチ﹂は中見出し 2字下げ ﹁林と思想﹂は中見出し 2字下げ 148 ﹁電線工夫﹂は中見出し 2字下げ ﹁山巡査﹂は中見出し 2字下げ ﹁グランド電柱﹂は中見出し 2字下げ ここで中見出し終わり ここから中見出し ﹁天然誘接﹂は中見出し 2字下げ ﹁電車﹂は中見出し 2字下げ ﹁高級の霧﹂は中見出し 2字下げ ﹁印象﹂は中見出し 2字下げ 2字下げ ﹁犬﹂は中見出し 2字下げ ﹁東岩手火山﹂は中見出し 2字下げ ﹁東岩手火山﹂は大見出し 7字下げ ページの左右中央 ﹁滝沢野﹂は中見出し 2字下げ ﹁銅線﹂は中見出し 2字下げ ﹁竹と楢﹂は中見出し 2字下げ ﹁たび人﹂は中見出し 2字下げ 149 ﹁無声慟哭﹂は中見出し 2字下げ ﹁*﹂は行右小書き ﹁松の針﹂は中見出し 2字下げ ﹁*﹂は行右小書き ﹁*﹂は行右小書き ﹁*﹂は行右小書き ﹁永訣の朝﹂は中見出し 2字下げ ﹁無声慟哭﹂は大見出し 7字下げ ページの左右中央 ﹁栗鼠と色鉛筆﹂は中見出し 2字下げ ﹁マサニエロ﹂は中見出し ﹁もえるほど﹂は底本では﹁もえるほど︶﹂ ﹁樺太鉄道﹂は中見出し 2字下げ ﹁オホーツク挽歌﹂は中見出し 2字下げ ﹁青森挽歌﹂は中見出し 2字下げ ﹁オホーツク挽歌﹂は大見出し 7字下げ ページの左右中央 ﹁白い鳥﹂は中見出し 2字下げ ﹁風林﹂は中見出し 2字下げ ﹁*﹂は行右小書き ﹁*﹂は行右小書き 150 2字下げ ﹁風景とオルゴール﹂は中見出し 2字下げ ﹁宗教風の恋﹂は中見出し 2字下げ ﹁雲とはんのき﹂は中見出し 2字下げ ﹁不貪慾戒﹂は中見出し 2字下げ ﹁風景とオルゴール﹂は大見出し 7字下げ ページの左右中央 ﹁噴火湾︵ノクターン︶﹂は中見出し 2字下げ ﹁鈴谷平原﹂は中見出し 2字下げ 2字下げ ﹁イーハトヴの氷霧﹂は中見出し 2字下げ ﹁鎔岩流﹂は中見出し 2字下げ ﹁一本木野﹂は中見出し 2字下げ ﹁過去情炎﹂は中見出し 2字下げ ﹁火薬と紙幣﹂は中見出し 2字下げ ﹁第四梯形﹂は中見出し 2字下げ ﹁昴﹂は中見出し 2字下げ ﹁風の偏倚﹂は中見出し 151 ﹁冬と銀河ステーシヨン﹂は中見出し 底本: 「宮沢賢治全集 1」ちくま文庫、筑摩書房 1986(昭和 61)年 2 月 26 日第 1 刷発行 1998(平成 10)年 5 月 12 日第 17 刷発行 ※底本で注を表す記号として用いられていた「※」は「*」に置き換えました。 ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号 5-86)を、大振りにつくっています。 入力:柴田卓治 校正:かとうかおり 2000 年 10 月 4 日公開 2011 年 5 月 11 日修正 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。 入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。 お断り:この PDF ファイルは、青空パッケージ(http://psitau.kitunebi.com/aozora.html)を使っ て自動的に作成されたものです。従って、著作の底本通りではなく、制作者は、WYSIWYG(見たとおりの形) を保証するものではありません。不具合は、http://www.aozora.jp/blog2/2008/06/16/62.html までコメントの形で、ご報告ください。
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