二次検診大腸内視鏡検査を最小限の苦痛で安全に行うための工夫

調査研究ジャーナール 2013 Vol.2 No.2
実践報告
二次検診大腸内視鏡検査を最小限の苦痛で安全に行うための工夫
山口和也 1)、渡邉綾子 1)、中川由紀 1)、三橋佳苗 1)、田中栄子 1)、岡田右子 1)、吉井京子 1)、林學 1)
Ideas of Reducing Discomfort During Safely Colonoscopy
Kazuya Yamaguchi1), Ayako Watanabe1), Yuki Nakagawa1), Kanae Mitsuhashi1), Eiko Tanaka1),
Yuko Okada1), Kyoko Yoshii1), Manabu Hayashi1)
要旨
[はじめに]二次検診大腸内視鏡検査は、苦痛を最小限にした、安全な検査であることが求められる。
鎮痛剤、鎮静剤の薬物投与は、呼吸状態管理や回復ベッドの用意等、手間、コストが必要である。
[目的]
二次検診を中心とした当施設における大腸内視鏡検査の工夫を紹介する。[方法]検査の前処置、前
投薬、内視鏡、送気、体位変換等の検討項目について、工夫を述べる。[結果]前処置は、検査前日
に低残渣食を用い、検査当日検査前のゴライテリー液の内服量を 1.5 リットルに減量している。便
秘傾向の方は、前日夜にクエン酸マグネシウム液を追加する。前投薬は鎮痙薬のみ。鎮痛剤、鎮静
剤は用いない。内視鏡はフードを装着し、最小限の送気での視野確保を可能としている。送気は低
流量で最小限度炭酸ガスを用いる。検査中積極的な体位変換を行い、検査後の腹部膨満感を軽減し
ている。[結語]以上の工夫で、大腸内視鏡検査の苦痛を最小限としている。
キーワード:大腸内視鏡検査、最小限の苦痛、安全、工夫
はじめに
当財団は、市町村が行う対策型大腸がん検診
として毎年約 8 万件の便潜血検査を行っており、
毎年約 150 例の大腸がんが発見されている。当
財団総合健診センター内視鏡室で行われている
大腸内視鏡検査は二次検診が主たる目的で、そ
の受診者は、初めて大腸内視鏡検査を受ける方
が多いという特徴がある。
一次検診はもちろん、二次検診こそ、
「来年も
受けたい、受けてもいい。」と思っていただけ
る検査を心がける必要があり、苦痛を最小限に
した、安全な検査が求められる。
大腸がんの罹患者数は増加しており、その死
亡者数を抑制するためには、治療可能な早期の
大腸がんを発見し治療に結びつけることが必要
である。早期の大腸がんのほとんどは症状が出
ないため、早期で見つけるためには大腸がん検
診を受けていただく以外に方法は無く、死亡数
連絡先:山口和也
〒 261-0002 千葉市美浜区新港 32-14
1) 公益財団法人ちば県民保健予防財団
(E-mail: [email protected])
(Received 30 Jun 2013 / Accepted 14 Aug 2013)
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抑制には検診の受診者数を増加させることが必
要である。一次検診の受診者が増加すれば当然、
二次検診が必要な受診者の数も増え、二次検診
大腸内視鏡検査数も増加する。今後、次の世代
の内視鏡医にも、二次検診大腸内視鏡検査に加
わっていただく必要があり、経験数の少ない内
視鏡医でも、実現しやすい検査方法の開発が望
まれる。
鎮痛剤、鎮静剤の薬物投与は、呼吸状態管理
や検査後の回復ベッドの用意等、手間、コスト
が必要である。内視鏡室の間取り、構造から考
え直さないと対応できない部分もあり、当内視
鏡室では鎮静剤、鎮痛剤は、基本的には用いて
いない。
目的
二次検診を中心とした当施設における大腸内
視鏡検査を最小限の苦痛で安全に行う工夫を紹
介する。
対象と方法
2013 年度、当財団内視鏡室で標準的に行われ
ている大腸内視鏡検査において、最小限の苦痛
山口ほか:大腸内視鏡検査の工夫
で安全に行うための工夫を次の検討項目につい
て述べる。
検討項目
1.前処置
2.前投薬
3.内視鏡
4.送気
5.体位変換
6.受診者用モニター
7.ファイリングシステム
結果
1.前処置
大腸内視鏡検査を行う上で、通常大腸の中に
存在する便を洗浄排泄する事が不可欠である。
腸管の中に便が残った状態で大腸内視鏡を挿入
しても、粘膜面の観察が不良であり、再度検査
を受けていただく必要がある。多くの施設で、
検査当日、ゴライテリー液 2 リットルを 2 時間
かけて内服し腸管洗浄を行う方法がとられてい
る。ゴライテリー液は、開発当初よりは味が改
善され、内服しやすく改良されているが、以前、
受診者へアンケート聴取した際も、飲みにくい、
量も多いといった意見が聞かれた。そこで、検
査当日のゴライテリー液が少なくても、良好な
腸管洗浄を行う方法を検討した 1)。
我々が、現在、標準的に行っている前処置の
方法を示す。検査前日、低残渣食を召し上がっ
ていただく。検査前日夜、ピコスルファート水
和物(ラキソベロン内容液 0.75%)10ml 内服。
日頃、毎日排便の無い便秘傾向の方には、検査
前日夜にクエン酸マグネシウム液を追加内服し
ていただいている。以上を検査前日に行う事で、
検査当日のゴライテリー液の標準内服量を 1.5
リットルに減らす事が可能となった。
当内視鏡室は、ゴライテリー液を内服する専
用の部屋と、部屋の隣に専用個室トイレを用意
しており、施設によっては廊下で内服せざるを
得ない施設もある中、受診者にとっての苦痛の
一つを軽減している。
2.前投薬
前投薬は、世界的にも鎮痙薬として、ブチル
スコポラミン臭化物が用いられており、当内視
鏡室も使用している。基礎疾患によって、ブチ
ルスコポラミン臭化物が禁忌となる方にはグル
カゴンを使用している。基礎疾患によって、ブ
チルスコポラミン臭化物もグルカゴンも禁忌と
なる方には鎮痙薬は使用せず大腸内視鏡検査を
行っている。鎮静薬、鎮痛薬は、必要となる方
は少数であるため、標準的には使用しない。他
の鎮痙薬としては、千葉大学医学部第一内科で
鎮痙薬としての臨床応用が研究された、芍薬甘
草湯 2) や、主に胃に用いられているペパーミン
トオイル 3, 4) についても、臨床応用を検討中で
ある。
3.内視鏡
内視鏡診断装置は、オリンパス、LUCERA、
ELITE シ リ ー ズ(Olympus Medical Systems
Corporation, Tokyo, Japan)を用いている。オ
リンパスの大腸内視鏡の特徴として、硬度可変
機能の搭載がある。硬度とは、内視鏡の軸の硬
さである。大腸の部位により、屈曲の特徴があ
る。また、個人差でも屈曲が異なる。特徴により、
軸の硬度を変える事で挿入が容易になる場合が
あり 5)、現在当内視鏡室で使用するすべての大
腸内視鏡は硬度可変機能を備えている。
内視鏡の先端に装着する「先端フード」とい
うアタッチメント(オリンパス MB-46)を使用
している。視野確保に優れ、送気量を最小限に
できる。
4.送気
大腸内視鏡検査の送気は、炭酸ガスを用いて
いる。炭酸ガスを送気に用いると、検査後の腹
部膨満感が減少する 6)。我々は炭酸ガス送気装
置(オリンパス UCR)(図 1)を用いている。
送気流量設定は、低流量チューブを使用し、弱
の設定としている。専用の送ガス、送水ボタン
を使用し、最小限の送気量にコントロールして
いる。最近は、送気を使用せず、代わりに注水
により視野を確保しながら挿入していく挿入法
7, 8)
を用いて、挿入時苦痛軽減効果の検討を行っ
ている。
図 1 炭酸ガス送気装置(OLYMPUS UCR)
検査後の腹部膨満感の減少に有効。
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調査研究ジャーナール 2013 Vol.2 No.2
5.体位変換
以前から行われている注腸造影検査は大腸の
確立された検査法である 9)。注腸造影検査にお
いて、バリウムと空気との二重造影像を撮影す
る際には体位変換を行い、腸管内をバリウムと
空気を移動させ、撮影を行っていた。伝統的な
空気の移動手法を大腸内視鏡検査にも取り入れ
(図 2、図 3)、必要最小限の送気量で大腸粘膜
観察が可能となり、検査後の腹部膨満感の軽減
を可能としている 10)。一例を示すと、下行結腸
は、仰臥位では内腔が虚脱している場合(図 4)
でも、右側臥位に体位変換をするだけで、追加
の送気をせずとも、内腔に空気が移動し充満さ
れ(図 5)、粘膜の観察が可能となる。
図 4 仰臥位、下行結腸
内腔が虚脱している。
図 2 標準的観察時体位
仰臥位と左側臥位のみ。
図 5 右側臥位、下行結腸
体位変換のみで、空気が移動し充満される。
6.受診者用モニター
受診者用モニターを検査台の左右に用意し、
受診者にとっても、現在の検査の進行状況が理
解しやすい環境作りを心がけている。苦痛削減
効果につながっていると考える。
7.ファイリングシステム
内視鏡画像はファイリングシステムに保存さ
れ、フィルム現像を待たずに、検査終了直後に、
読影ならびに受診者への説明に活用している。
所見記録や受診者への説明を正確に行う事が出
来る。
図 3 積極的体位変換法
仰臥位、左側臥位に加え、右側臥位を行う。
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考察
欧米では、苦痛を取るためには、大腸内視鏡
挿入のテクニックを検討するよりも、鎮痛剤、
山口ほか:大腸内視鏡検査の工夫
鎮静剤を使うことが優先して行われている。鎮
静剤、鎮痛剤の量を大量ではなく、少量とする
ための方法が論じられることもある。鎮静剤、
鎮痛剤無しで、大腸内視鏡検査を行うことは欧
米では想定されていなかったが、投薬の合併症
の危険性に着目し、鎮静剤無しで検査を行う事
を検討する余地がある旨の論文も存在する 11,
12)
。
近年の日本において、日本消化器内視鏡学会
のアンケートでは、約半数の施設で、鎮痛剤、
鎮静剤が使われているとのことである。鎮静薬
を使うとすると、検査後のリカバリールームが
広く必要となる。そのためには、建物の構造を
変更する必要があり、多額の投資が必要となる。
大腸内視鏡検査件数が比較的少ない無床診療所
等では、多くのリカバリースペースは必要無い
であろうが、多くの件数をそれも複数の検査台
で行う施設であれば、リカバリースペースが多
く必要となる。しかし、我々のような工夫を行
う事で、最小限の投資でも、大腸内視鏡検査を
安全で最小限の苦痛で行う事ができる。
不要な薬を投薬することは過剰医療である。
内視鏡検査時の鎮静剤投与は、程度の軽い静脈
麻酔の一つである。静脈麻酔は、呼吸状態や循
環動態を管理するための人員やモニター機器が
必要で、人件費や、機器整備の資金も必要であ
る。医師不足、看護師不足の昨今では特に人員
の確保は大きな問題である。
大腸がん検診の一次検診は、便潜血検査であ
る。全く侵襲のない、安全な検査である。しか
し、二次検診の大腸内視鏡検査が、苦痛が大き
く、一次検診で要精密検査判定を受けても、精
密検査を受けていただけない方が多いのでは、
大腸がんが潜んでいても発見に至らない例が増
えてしまい、大腸がん検診としては不十分な検
診になってしまう。二次検診施設側が、大腸内
視鏡検査の苦痛を減らす努力を続けることは勿
論必要である。あわせて、一次検診を受けてい
ただく際に、陽性になった際には必ず二次検診
の大腸内視鏡検査を受けていただきたい旨の説
明も行わないといけない。住民を取り巻いてい
る、市町村、便中ヘモグロビン濃度測定施設、
大腸内視鏡検査施設、大腸がん治療施設、各施
設スタッフが密に連携を取って、更には住民同
士も誘い合って、円滑に検診から治療までを進
め、潜んでいる大腸がんを発見し、大腸がん死
を減らしていく事を望む。
おわりに
苦痛を最小限にし、かつ安全な大腸内視鏡検
査を実現し、大腸がん検診の精密検査受診率の
向上に貢献したい。
引用文献
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