変革のためのアジェンダ:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ (UHC)達成に向けた G7 伊勢・志摩サミットの役割 セーブ・ザ・チルドレン 2016 年 今年の G7 伊勢・志摩サミットは、持続可能な開発のための 2030 アジェンダの採択 後、初のサミットとなります。サミットにおいて UHC が議論されるのは初めてとな るでしょう。セーブ・ザ・チルドレンは、伊勢・志摩サミットにおいて UHC に対す る明確なコミットメントがなされることを求めます。各国による明確なコミットメン トは、衡平性の改善やすべての⼈の健康への権利を推進する強⼒なきっかけとなりま す。 以前の G7、G8 では、様々な健康の優先課題(HIV/エイズ、子どもの死亡、ポリ オ、結核)にコミットしてきました。G7・G8 各国はまた、2015 年ドイツの G7 を含 め、これまでの公式声明において、保健システムの強化を表明してきました。 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ採択後の今年の G7 は、UHC に関するター ゲットに焦点を当てており、大きな変革をもたらす G7 となる可能性があります。 「すべての人に対して、基本的な保健サービスを廉価もしくは無料で提供する UHC は社会の安定的な発展に必要であると信じています。」と安倍首相は述 べました。 セーブ・ザ・チルドレンは、予防可能な子どもや妊産婦の死亡を終わらせることを目 標に掲げ、保健資⾦調達や保健システムの強化に向けて⻑年取り組んできました。私 たちは、UHC の原則に強くコミットしています。UHC 達成に向けた世界の取り組み が確実に進んでいくために、私たちは以下のことを 2016 年 G7に望みます。 1 G7 への提言 私たちは以下の6つを G7 に要請します。 1. UHC の原則を明確に支持すること:経済的に困窮することなく、すべて の⼈が質の⾼い必要な保健サービスを受ける権利を持つことが UHC の原 則です。 UHC を支持することは本来、単に保健システムの強化を支持するよりも革新的です。 WHO の報告に、「保健システムの強化とは、様々な手段(政策的手法)により実施 されるものである一方、UHC とは、(手段ではなく)政策の結果達成されるべき状態 を表すものである」1と記述されています。保健システムの強化には、UHC 目標を達 成するための国内の保健システムの能⼒向上に関する⾏動が含まれますが、G7 の成果 ⽂書は、⼿段としての⾏動のみならず、 明確に最終目標、つまり経済的に困窮するこ となく、最低限必要な保健サービスにアクセスできるという目標を反映しなければな りません。また、強⼒な保健システムは、抗⽣物質の不適切な使⽤を規制するため や、薬剤耐性を持つウイルスを防⽌するために必要不可⽋です。 G7 の声明・コミュニケが、病気の⼈に医療費を負担させるのではなく、広く⼈々から 事前に徴収された資⾦をプールすることで医療費を確保するという、衡平かつ累進的 な資⾦確保を含む、UHC の原則を明確に支持することを要請します。 エボラ危機に⾒たように、SDGs ターゲットで示された UHC2にコミットメントする ことが、特定の病気に焦点を当てること以上に、保健への包括的なアプローチを確保 するために必要です。また、保健システムが、すべての人びとに対して統合的かつ人 間中心の保健サービスを提供するようにするためにも、UHC にコミットすることが必 要です3。 2 2. UHC を漸進的に普遍化していくこと:社会グループによって差別をせ ず、また誰も取り残さず、早急に最貧困層や周縁化されている人々を包含 する UHC を強く推進する必要があります。衡平性の格差をなくすこと が、SDGs の成功に不可⽋です。 UHC は、サービスの利⽤における衡平性、サービスの質、資⾦⾯の保護といった、健 康への権利を根拠とした⼀連の目標から成り⽴っています。あらゆる国が、その目標 達成に向けて努⼒する必要があります。UHC は、衡平性に焦点を当て、「誰一人取り 残さない」SDGs のコミットメントを可能にすることができます。つまり、各国が UHC を達成するための保健政策を実施しようとすれば、社会、経済グループによって 差別してはならず、早急に最貧困層や周縁化されている人々を包含しなければいけま せん。 各国が UHC の「漸進的な普遍化」を追求し、「貧しい、もしくは不利な⽴場に置か れている⼈々が、少なくとも裕福な⼈と同じくらい、あらゆる⾯において利益を得る ことができるようになる」4ことを要請します。UHC の優先事項の決定は公正でなけ ればなりません。 a). 費⽤対効果を考慮して介⼊の優先度合いを分析した結果によると、資⾦⾯ のリスク保護を実施し、より貧しい人々を優先する必要があることが示さ れています。 b). また、保健サービスの範囲やその対象者を拡⼤する前に、優先度の⾼いサ ービスをすべての人に対して提供できるようにする必要があります。 c). その際に、不利な状況に置かれた⼈々が取り残されないようにすることが 必要です。サービスに関する決定には複雑な要素が伴いますが、公正で透 明かつ包摂的なプロセスが鍵となります。 3 セーブ・ザ・チルドレンは、「性と生殖・妊産婦・新生児・子ども・思春期の保健」 (SRMNCAH)サービスには未だに不平等が蔓延していると考えています。 保健サービスの範囲を拡げる前に、こうした不平等に対処し、基礎的な保健サービス のパッケージのユニバーサル・カバレッジを達成するために、最も周縁化されている 人々や脆弱なコミュニティへのサービス提供が優先されなければなりません。UHC の 成果は、不平等・格差がいかに是正されたかによって、測定されるべきです。 3. G7 の UHC への支持をパンデミック・危機対応以上のものにすること UHC は日常の健康問題に対応するための優先事項であるだけでなく、感染症のアウト ブレイクを予防する保健システムを構築するためにも必要です。しかし、感染症のア ウトブレイクと闘う⼒のない国においては、国際的な⽀援が迅速かつ効果的に⾏われ ることが必要です。私たちは、支援活動の充実や協調した対応を支持する一方、発生 後の対策よりも予防策を講じたほうが効果的であると考えます。各国に強⼒な UHC の仕組みを構築することが、何か起きた後の対策よりも優先順位が下げられるような ことがあってはなりません。 必要なサービスを供給するにあたり、混乱を吸収し、適応し、応答する能⼒を兼ね備 えた、さらに強靭で敏速に対応できる保健システム5 が喫緊で必要とされていること が、近年の⻄アフリカにおけるエボラ危機や、ラテンアメリカのジカ熱で明らかにな りました。その際、個人、集団の保健の安全保障に対し、脆弱な保健システムがどの ような結果をもたらすかを私たちは思い知らされました。世界中で起きている移⺠の 危機の増加は、移⺠に対する保健の衡平性に喫緊で取り組む必要性を⽰しています。 これらすべての緊急事態は、これまでと異なる対応を⾏うことを要請しています。し かし世界の保健の枠組みは、この野心的な目標を達成するには十分ではありません。 私たちは、G7 諸国の政府が、世界の保健の枠組みを改革するこの重要な機会に、G7 コミュニケにおいて UHC に向けた保健システム強化および保健の安全保障の一貫し た提案を⾏うことを要請します。また、それがドイツ政府と WHO によるロードマッ プ “保健システム-健康な生活”の優先課題や枠組みと矛盾しないようにする必要があ ります。 4 G7 は、⼗分な保健⼈材が揃い、資⾦投⼊を受けた保健サービスの重要性を明確に⽰す 必要があります。これはパンデミックの予防や対応をするためだけでなく、アウトブ レイクよりもはるかに多くの命を奪い、障害を引き起こしている日常の健康危機に対 処するためも不可⽋です。パンデミック発⽣後の対策よりも、予防策を講じたほうが 効果的です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは、⽇本やヨーロッパ、北アメリカ に国境を越えて拡がる感染症を防ぐためのみならず、世界の保健の不公平に対処する ためにも必要です。 4. 不公平な医療費の⾃⼰負担をなくすために、公正で、累進的な国内資⾦の 調達を支援すること UHC の目的を達成するためには、追加の資⾦調達、資⾦プール、財政⽀出が必要とな ります。主要な資⾦は、国内の財源がもとになっており、累進的な資⾦調達を通して 公正に増やす必要があります。 政府は健康への権利を“利⽤可能な資源を投じて、最⼤限までに”実現する義務があり ます。⼗分な国内資⾦の投⼊のために、推奨される最低限のラインは、GDP の 5%で す。低所得国では、一人あたり最低 86 ドル/年を確保する必要があります。これら の目標値の適切さに関しては、多くの議論がありますが、明らかなことは、多くの低 所得国は保健への資⾦ 配分が十分でないということです。G7 および Providing 4Health といった関連したイニシアチブは、マクロ経済の状況(成⻑、税収⼊、⾰新 的な資⾦調達)、保健政策の優先、適切な借⽤、効率性の向上に取り組むことで、保 健に対する財政的な⽀援⾏うことが望まれます。国家は、医療費の⾃⼰負担への依存 から、前払いと資⾦プールに基づいたシステムに移⾏する必要があるということは、 広く合意が得られています。しかし、ほとんどの低所得および中所得国では、必要な 保健サービスを受けるための主な財政的負担は各家庭が負っています。医療費の自己 負担は、貧しく、周縁化され、脆弱な⽴場に置かれた⼈々に不均衡に影響を与えま す。家庭の収⼊へのアクセスや管理の権限を持たない⼥性も、この中に含まれます。 G7 は、医療費の⾃⼰負担をなくし、⽀払能⼒と保健サービスへのアクセスとを切り離 5 すこと、税収⼊や義務的な保険⽀払いを通して医療費負担から衡平な前払い⾦制度に 移⾏することへのコミットメントを⽰すべきです。公平な前払い⾦は、健康で裕福な ⼈から、病気で貧しい⼈へ相互補完するために、国⺠全体から徴収され、プールされ る必要があります。 国家が租税回避や不正な資⾦流出を取り締まり、その結果により多くの資⾦が国家予 算に流れ、必要不可⽋なサービスに配分されるよう、G7 が国際社会を導くことが強く 求められています。 5. 保健への援助が UHC の達成につながるようにすること 国内資⾦が増加したとしても、最貧国の UHC を実現するためには年間 270 億円が不 足しています 6 。SDGs の達成のためには、責任を分担することが必要です。G7 は GNI の 0.7%を開発協⼒に割り当てるという以前からのコミットメントを実現し、効 果的な開発協⼒の原則を守らなければいけません。私たちは、すべての援助国が少な くとも GNI の 0.1%を保健 ODA として割り当てることを求めます。 現在、保健システムへの投⼊は不⾜し、世界の保健の枠組みは、様々に分断されてい る 状 態 で す 。 G7 は 、 IHP + や ド イ ツ 政 府 の Roadmap for Health System Strengthening(保健システム強化のためのロードマップ) を通して、国家の保健 計画に沿った保健の援助の増加にコミットするべきです。 また、GAVI ワクチ ン・アライアンス、エイズ・結核・マラリア対策基⾦(グローバルファンド)、「⼥ 性、⼦供及び⻘少年の健康のための世界戦略(Every Woman Every Child)を支援 する「グローバル・ファイナンシング・ファシリティ」といった多国間のイニシアチ ブは、互いに協調し、包括的かつ普遍的な保健サービスへの貢献を示す必要がありま す。G7 はすべての DAC、非 DAC ドナーが、国家の保健システムを支援し、援助効果 の原則を満たすように実施策の改善を確保するべきです。 6. 世界的なモメンタムを推進し、すべてのアクターが役割を果たす新しいグ ローバル・パートナーシップや UHC アライアンスを支持すること 6 政府、国連、市⺠社会、多国間組織そして⺠間セクターは、UHC の達成に向けて、政 策や貢献策を再確認し、活動を協調させる必要があります。ハイレベルな UHC2030 アライアンスは、政治的モメンタムを醸成し、UHC に向けた世界共通のビジョンを発 信する政治的、技術的フォーラムとなりうるものです。そのビジョンとは、十分、適 切、かつ調整された資⾦を保健システム強化のために結集すること、保健予算が費⽤ 対効果に優れ、衡平性を高める保健介入と技術に活用され、そして UHC に向けた成 果に対する説明責任を強化するものとなるようにすることです。 さらに、UHC2030 アライアンスはすべてのアクターが UHC に対する貢献への説明責 任を果たすことを目指し、ガバナンスと活動に市⺠社会の強い参加が求められます。 WHO のディレクター級のリーダーシップ、そして UHC を構築するための一貫したア プローチを形成するために、Global Health Workforce Alliance の後継者、R&D の 専門諮問作業部会 Global Health Data Collaborative、Montreux Collaborative Agenda、そして特に IHP+、保健システム強化のためのロードマップ、そして PH4 Initiative を含む既存もしくは新しい一連のイニシアチブをまとめるハイレベルなアラ イアンスとする必要があります7。 G7 は、財政支援を含む新しいアライアンスの⽴ち上げを⽀持することによって、 UHC の変革的なアジェンダが人々の命を救い、保健へのアクセスの不平等を是正し、 各国において重要な変化をもたらし続けるようにすることができます。 世界銀⾏総裁のジム・ヨン・キムは、「⽇本が議⻑を務める5月の G7 伊勢志摩サミ ットは、⼒強く積極的な⾏動のための時機である。アルマ・アタ宣言の実現されてい ない約束に対してついに⾏動を起こし、UHC に向けて迅速に動く機会である。そし て、次のパンデミックが襲う前に、私たちが準備する機会でもある。」と述べていま す。 1 Joseph Kutzin a & Susan P Sparkes Health systems strengthening, universal health coverage, health security and resilience Bulletin of the World Health Organization 2016;94:2. doi: http://dx.doi.org/10.2471/BLT.15.165050 7 2 To “achieve universal health coverage (UHC), including financial risk protection, access to quality essential health care services, and access to safe, effective, quality, and affordable essential medicines and vaccines for all” 3 Joseph Kutzin a & Susan P Sparkes Health systems strengthening, universal health coverage, health security and resilience Bulletin of the World Health Organization 2016;94:2. doi: http://dx.doi.org/10.2471/BLT.15.165050 4 Gwatkin D, Ergo. 2011. A Universal health coverage: friend or foe of health equity? The Lancet. Vol. 377; Issue 9784: 2160-2161. DOI: 10.1016/S0140-6736(10)62058-2 5 Joseph Kutzin a & Susan P Sparkes Health systems strengthening, universal health coverage, health security and resilience Bulletin of the World Health Organization 2016;94:2. doi: http://dx.doi.org/10.2471/BLT.15.165050 6 Save the Children, Within Our Means, 2015. 7 As outlined in the WHO Health Systems Technical Networks Concept Note, presented at the 20th January meeting on Health Systems Healthy Lives 8
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