7.4.5 コロイドの動電現象 コロイド粒子が電荷をもつと、粒子周辺に等量

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7.4.5 コロイドの動電現象
コロイド粒子が電荷をもつと、粒子周辺に等量の対イオンが電気的中性を
保つように分布する。そのため、コロイド粒子の周りに電気二重層(electric
double layer)が形成される。荷電したコロイド粒子に電場をかけると、粒子
は反対電荷の電極側へ移動する。この現象を電気泳動 (electrophoresis)とい
う。媒質中にコロイド粒子の充填層を入れて電場をかけると、粒子の移動方
向とは逆の方向に水が移動する。この現象を電気浸透(electroosmosis)とい
い、そのときに生じる電位差を電流電位 (streaming potential)という。こ
れらの電気現象は界面動電現象(interfacial electrokinetic phenomena)と
呼ばれている。
(1) 電気二重層
水中に分散するコロイド粒子の表面に電荷(0)が存在すると,粒子の周囲
に対イオン( - 0)が引きつけられるので、荷電粒子の表面に電気二重層がで
きる。Helmholtz は粒子表面からある距離離れた位置に対イオンが存在する
として,電気二重層を平行平板コンデンサーと同様なモデルを提出した。し
かし、対イオンは粒子の周囲に分布してイオン雰囲気を形成していると考え
られる。このような考えに基づいて、Gouy と Chapman は拡散二重層(diffuse
electric double layer)のモデルを提出した。その後 Stern は粒子表面に特異吸
着したイオンによるStern層(固定層)が存在し、その外側にイオン雰囲気の
拡散層が存在すると考えた。そして,Helmholtz の固定二重層と Gouy‐
Chapman の拡散二重層とを組み合わせ, 図7.10 のような電気二重層モデル
(Stern モデル)を提出した。いま、粒子の表面電荷をσ0 とすれば,この粒
子の周りの対イオンの全電荷は単位面積あたり(-σ0 ) である。 これらの
図 7.10 電気二重層
対イオンの一部(-σ)は粒子の表面の Stern 層 ( 例えば、 水和層) 中に
存在して Stern 層 を形成するので,Stern 層をも含めた粒子の有効表面電荷
σは、σ=σ0 − σである。残りの対イオン(-σ)は拡散層中に分布して
拡散二重層を形成している。拡散二重層の厚さ 1/κ の位置(図7.10参照)
の表面電位  は,平行コンデンサーの考えから,

 
4 1
(・)
 
となる。また、粒子の表面から x の距離にある電位は近似的に()式
で表すことができる。したがって、
(・)
    exp(- x)  
0
拡散二重層の厚さ1/は、粒子の表面電位 の 1/e になる点までの距離に相当
する(図 7.10 参照)。Stern 層と拡散層の間の電位をゼータ電位(ζpotential)
といい、界面動電現象の実験から求められる。このゼータ電位は Srern 層の
表面電位  と近似的に等しい。ゼータ電位が大きいとコロイド粒子表面の電
荷が大きく、安定性が高くなる。一方、ゼータ電位が小さいとコロイド粒子
は凝集しやすくなる。
0

1
2
界面から遠ざかるほど、電位の相対値((x) /は低下することを示してい
る。例えば、界面が電解質と接している場合、電解質溶液の濃度が高いほど
界面近くの対イオンが多くなって電場を遮蔽するので、電位が低下する傾向
が著しく大きくなる。また、電解質の濃度が同じでも電解質の型(例えば、1
価‐1 価、2 価‐2 価などの電解質)が異なると、電位が小さな電解質より低
下する。すなわち、電荷の大きな電解質は電場を遮蔽する効果が強いため、
電位が低下するのである。この遮蔽効果はイオン−イオン間や界面−イオン
間の相互作用を制御しているため極めて重要である。多価イオンは界面と直
接あるいは間接的に相互作用し、界面電位に影響を与えることがある。特異
吸着した対イオンによって電位0 は界面からのところ (Stern layer、固定層)
まで急激に低下し、その外側の拡散二重層にの電位を想定して特異吸着現
象の解析が行われる。特異吸着は界面電荷の符号を逆転することがあるが、
この電荷の逆転を利用して、コ口イド分散系の安定性や不安定性の制御や排
水処理などに応用されている。
(2) イオン雰囲気
イオン雰囲気の厚さは–1 で表され、電気二重層の厚さを表す。その厚さは
(7.45)式で与えられる。

1
 2000F 2 I 

 


RT

 0 r
(7.45)
ここで、 F はファラデー定数、I はイオン強度である (5.2.3 項参照 ) 。
イオン強度は、イオン種のモル濃度 Ci とイオン価 zi の積の総和の平均値で、
イオン‐イオン相互作用の強さを表すパラメータである。多少複雑な形をし
ているが、(7.45)式の物理的意味は界面電荷によって引き寄せられた対イオ
ンの雲 (雰囲気) が界面電位を遮る度合いを示しており、定量的には拡散して
いる電位の平均値を与える間隔 (距離)である。界面から離れた面上に界面電
荷σと同量の反対電荷(‐σ)が相対しているのと等価である。
 

 0 r
(7.46)
つまり、(7.46)式は間隙 –1 に誘電体 (誘電率 = 0r) を満たした平行板
コンデンサーにσの電気量を荷電したときの電位0 を与える式と同じである。
25℃では、–1 は(7.46)式から、
 1 
0.3
z C
(7.47)
となる。ここで、 z は電荷、C はモル濃度 mol L-1 である。静電相互作用が
およぶ範囲の目安として有用である。また、この距離はイオン強度を変える
ことで制御でき、コロイド粒子、赤血球等の細胞間の相互作用や反応性に大
きな影響を与えている。
(3) 電気泳動
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電気泳動は、荷電したコロイド粒子や高分子の溶液に電場をかけると、粒
子がその電荷と反対符号の電極の方へ移動する現象である。電荷 Q をもつ半
径 a の球状粒子に電場 E をかけると、静電気力 QE が働き、粒子は電荷と反
対方向に速度 v で移動する。しかし、粒子が移動すると、媒質(粘度η)に
よる粘性抵抗を受ける。粘性抵抗はストークスの法則から 6πηa v である。
したがって、粒子は静電気力と粘性抵抗が釣り合ったところで、速度 v で等
速運動(移動)する。さらに、電気泳動移動度(electrophoretic mobility)は単
位電場あたりの泳動速度であるので、電気泳動移動度 u は次式で与えられる。
v
Q

QE = 6 av 
u=

E
6 a

()
一方、電気二重層の厚さ 1/κのときの対イオンのゼータ電位は、

Q
4a

Q
Q

4 (a 1/ ) 4a(1 a)
(7.49)
となる。
荷電粒子の半径より電気二重層の厚さが非常に大きい a << 1/κのとき、ゼ
ータ電位は(7.49)式から(7.50)式となる。

Q
4a
(7.50)
したがって、電気泳動移動度(7.48)式は(7.50)式のゼータ電位を用いて、
(7.51)式で表される。
u
Q
6a

Q
4a

2 2

3 3


()
この式は、ゼータ電位が分散媒の誘電率εと粘度ηと近似し、電気泳動移
動度 u の測定から求められることを示している。この式は Hückel の式とい
う。一方、荷電粒子の半径より電気二重層の厚さが非常に小さい a >>1/κの
とき、電気泳動移動度は(7.51)式となる。この式は Smoluchowski の式とい
う。
u


()
以上の2つの極限の間の分散系の場合は、電解質を加えて κa>> 1 の状
態にして測定すればよい。
電位は界面電位よりその絶対値は小さく、|0| > |の関係がある。したがっ
て、比較的に容易に測定できる電位を測定して、近似的に界面電位0を推定
することができる。
電気泳動法は、支持体を使わず電解質溶液中で行う動界面電気泳動法
(moving boundary electrophoresis)と支持体を用いるゾーン電気泳動法(zone
electrophoresis)がある。支持体に寒天ゲルやでんぷんゲル,ポリアクリルア
ミドゲルを用いるゲル電気泳動(gel electrophoresis)があり,タンパク質や核
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酸などの分離に高い性能をもっている。
ガラス管壁のように帯電表面が動かないときは、電場を加えると壁の近く
の対イオンが動き,管内の液体がこれに引っぱられる。これが電気浸透(electro
osmosis)である。電場の代りに管の両端に静水圧をかけると、荷電した溶液
が移動するので電流が流れる。これを流動電流 (streaming current)という。ま
た、重力場でコロイド粒子が沈降すれば、これも荷電粒子の移動であるため
沈降容器の上下に電位差が発生する。この電位差を沈降電位 (sedimentation
potential)という。電気浸透、電気泳動、流動電流および沈降電位はいずれも
荷電界面とバルク溶液の相対運動に起因するものを異なった状況で観察した
ものである。この4者の関係は不可逆過程の熱力学でまとめられる。
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