「その後の『イスラム国』と中東情勢」

平成26年 12月18日号
「その後の『イスラム国』と中東情勢」
外務省
中東・アフリカ局長
上 村 司 氏
(平成 26 年 11 月 28 日 於日本記者クラブ)
前回の月例会で「イスラム国」が勃興して1カ月 いますが、その頭文字をとりましてISILと。彼
ぐらいの状況をお話ししましたが、それが半年近く ら自身、イスラミック・ステート、ISとだけ名乗
経ちましてどうなっておるのかというのが今日のテ っております。しかし、我々は、「イスラム国」と
ーマであります。それから、イスラムあるいはアラ いうものは認めたこともありませんし、国家承認す
ブ圏を見る視点を、今日はちょっと応用問題を加え るわけでもありませんので、世界の常識に従いまし
まして、他のこの地域の抱える問題がその視点の中 てISILと略称させていただきます。実は、「イ
でどこに位置するのかということを横軸でご説明す スラム国」、イスラムに非常に価値を置く考え方と
ることによって、私なりの中東の見方を少しシェア いうのは、近代中東の歴史の中で 100 年ぐらい前に
させていただいて、さらに皆様のご理解が深まれば できてきた考え方です。イスラム第一主義という考
と思っております。
え方ですね。なぜ、イスラム第一主義かというと、
火が燃えている中東・北アフリカ
1,400 年前、この地域では世界有数の、世界トップ
まず、『
「イスラム国(ISIL)
」と中東情勢』 のイスラム帝国そして文化、文明、科学技術が花開
ですが、この中東地域の問題を見て、これがどうい いたという民族的なDNA、記憶、があります。こ
うレベル、どういう難しさの問題なのかということ れを当時 100 年前のインテリが堀り起こしたわけで
をこれから説き起こしていきたいと思います。この す。それを 1990 年代にだれが改めて解釈したかと
中東・北アフリカは幾つか今、火が燃えています。 言うと、オサマ・ビン・ラーディンです。2010 年
イランの核の問題のように非常に政治的に重要な大 の世の中になりましてこのイスラミック・ステート
きな問題は三つ、それからやや小さな問題が二つ、 を信奉する男たち、特に 30 代、40 代以下の若い男
三つある。
たちですが、彼らの思想も元をたどるとすべて 100
一番大きな問題はやはりこのISIL、「イスラ 年前のアラブの、特にエジプトですが、そのインテ
ム国」の問題であります。
リの思想にたどり着くわけです。
二つ目が今年の夏、中東で大きな動乱が起こりま
2003 年にアメリカがイラクのサダム・フセイン
した。それはイスラエルとパレスチナ、ハマスとい 政権を倒す。あっという間に当時のイラクのサダ
う一分派とイスラエルとの間の戦い。これは古くて ム・フセイン政権が倒れました。サダムの出自はス
長い中東の抱える問題でありますが、これが二番目 ンニ派です。しかし、イラクという国は多くは国民
の中東の大きな火種だと思います。
がシーア派なんです。サダムがこの国を 35 年間牛
そして、三つ目がイランの問題です。イランの核、 耳っていました。それがアメリカの影響で一夜にし
欧米と根競べの交渉を行っておりますが、イランの て倒れた。そのときにスンニ派の部族たち、主要な
立場についても、後ほどご説明します。
部族で 20 数族あると言われている。スンニ派の大
それから、リビアやイエメンという、これは3年 部族がバグダッド以北に住んでいるわけですが、ア
前の「アラブの春」でアラブが民主化に向けて動き始 メリカの侵攻で一夜にして天国から地獄に落とされ
めましたが、ここでも現地では大変多くの血が流れ ました。
ております。
そこで生まれてきたのがアルカイダ・イラク(A
復活したイスラム第一主義
QI)というアメリカに抵抗する組織。スンニ派の
さて、早速「イスラム国」。ISIL、そもそも 中に出てきたアメリカ軍に対する抵抗組織です。極
英語で Islamic State of Iraq and the Levant とい 左、宗教的に言っても決して真っ当な王道を歩んで
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