アクセントのはなし

アクセントのはなし
どの本で読んだか忘れたが、面白かったので、ここに紹介しておきたい。
ある日本人がアメリカに行ったときの話である。アメリカ人の知人がその日本人を訪ね
て来て、彼の部屋をノックしました。日本人は「お入り」というつもりで、Come in. と言
いましたが、アメリカ人はいっこうに入って来ず、ドアの前で待っていたそうです。その
訳は、日本人がアクセントを副詞の in ではなく、Come に置いたからでした。アメリカ人
には Coming.「今、行く」と聞こえたのです。ありそうな話ですね。
In には前置詞と副詞があります。In this room のように前置詞のときは、普通、アクセ
ントは来ません。が、副詞のときは、そこにアクセントが来ます。彼は「カム イン」と言
うべきだったのです。
この話にはもう1つ注目すべきことがあります。それは、日本人が「今、行く」という
ところを、ネイティヴの話し手は come を使い、
「今、来る」
(I’m coming.)と言う点です。
「行く」とは話し手から遠ざかる行為、これに対して、「来る」とは話し手に向かって来る
行為です。これは英語でも同じです。でも、もし相手の立場になって見たら、
「行く」は「来
る」となります。だから、ネイティヴはそういうとき、視点を移動させるのが習慣となっ
ているのでしょう。ことばとは主観的なものですね。そして、皆がそう言うという意味で、
社会的・制度的でもあります。
「制度的」で思い出したのですが、翻訳するとき困るのが brother と sister です。単数
形を「兄弟」、「姉妹」とは訳しにくいので、文脈から適当に兄か弟としますが、はっきり
しないときもあります。いつも兄と弟を区別するのは大変ですね。中国語も、その二つの
漢字があることからして日本語と同じでしょう。しかし、日本語では一人の男に対して「よ
お、兄弟」と言いますから、兄か弟という意味で「兄弟」と訳していいのかも知れません。
でも、ちょっと抵抗があります。
その逆の場合もあります。foot「足」と leg「脚」です。日本語では両方とも「あし」で
あり、区別しません。それでもそんなに困らないのは、書くときは二つの漢字があるから
でしょうか。そして、話すときは、やはりコンテキストがあるからでしょう。「あしが短い
ね」と言われたら、すぐ「脚」のことだと分かりますからね。