ヒラメ企業文化をどう変えるか?

特定非営利活動法人失敗学会論文
論文番号:05-FP-001
原稿受付: 2005 年 7 月 2 日
ヒラメ企業文化をどう変えるか?
福田吉展
NPO 失敗学会
神奈川県横浜市
悪い失敗を起こす企業文化
一般的に強力なリーダシップは良いものとされる。
2. ヒラメ文化
しかしリーダーが強力で失敗を許す風土がなく、安易
いに従業員を解雇するような場合、下の者は萎縮し上
企業であるからには当然社内に勝ち組負け組がある。
司の顔色ばかり見るようになる。一見効率も良く顧客
ヒラメ君が多くいる会社の問題点は勝ち組もヒラメ君
志向に見えるが実は顧客より社員の保身が顧客利益よ
ばかりでロクなのがいない場合に起こる。こういう会
り優先される。このような場合,畑村洋太郎先生の“失
社では,上位下達ばかりで、現場や下からの提案など
敗学の進め”[1]にあるように失敗が経営者に上がり
は強制されない限り出てこない。またこういう会社で
にくく既知の障害を繰り返す性質がある。こういう会
は、上司の悪い評価を恐れ、失敗が上に報告されにく
社をどうしたら良くなるのか考察する。
い。自分のライバルを蹴落とすための密告などはある
が,その場合は歪んだ形で上に報告される。
キーワード: 企業文化, 失敗
2.1 こういう会社をどうすれば良いのか
1. はじめ
芳賀茂の“失敗のメカニズム”[2]にという著書にジ
ヒラメ君という言葉がある。ヒラメは両眼が上を向
ェームズリーズンという博士の考えが述べられている。
いており、サラリーマンにこれを例えに使う場合には
博士によると、組織が安全な文化を獲得するためには
上役の顔色ばかりみている人という意味に使う。当然
“報告する文化”,“正義の文化”,“柔軟な文化”,そ
であるが,上ばかり見ている人は、前にいる人,例えば
して“学習する文化”が必要という。博士の基準を用
お客様が見えていない。顧客第一主義とか口先では言
いどのようにすべきか考察したい。
うが,実際は上司がそのように言うので同じにように
2.2 ヒラメ文化は“報告する文化”を獲得できる
言っているだけで顧客について考えてはいない。
か?
ジェームズリーズン博士によると報告する文化とは
問題が発生した場合に隠さす上に報告される文化であ
るという。ヒラメ君は報告が嫌いという訳ではない。
人の失敗は、脚色して一生懸命上に報告する。ただ、
自分の不利益になる報告は極力しない。ヒラメ君自身
に,包み隠さず報告しなさいというのは無理なようで
ある。そうであるなら,積極的に密告を推奨しても良
いと思う。ヒラメ君はその強力な上昇志向から、部下
に厳しい人が多いだろうから,会社にご意見箱などを
図 1. 陶器のヒラメ(目が両方上を見ています。
)
設けあくまで匿名で報告できるシステムが望ましい。
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2.3 “正義の文化”は獲得できるか?
題を解決しなくて良いと思っているわけではないので,
正義の文化とは罰するべきは罰するという規律があ
現場の力をフル活用する。但し,功績は現場に渡さず
ることをいう。正義の文化が曇るのは,人が長く同じ
独り占めする。ヒラメ君にとって重要なのは何を言っ
職場にいて,色々なシガラミに捕らわれて相手との人
たかでなく,だれが言ったかである。何を言ったかが
間関係を重視するあまり正義が行使できなくなる場合
重視されるようになれば,それはすなわち,タイトル
である。紋切り型ではあるが、一般に言われている日
でなく内容で評価されることになり,結果として柔軟
本企業と欧米系の企業の人事に対する基本的な考え方
な文化の浸透に繋がると思う。
を比較すると、日本企業の方が正義の文化を行使しに
2.5 “学習する文化”は獲得できるか?
くいと思う。
学習する文化とは失敗情報を学ぶ文化があることを
欧米系
日本企業
人に入ってくるもの出て
人は石垣。長期にわたって
行くもの。
就労してもらうつもりで採
(People come and go!)
用する。
いう。”失敗学のすすめ” [1] によると,既知の失敗
を防ぐには失敗の経験が蓄積されていること。そして
それが共有されて伝承されていることが重要という。
効率や成果が優先で,失敗情報が共有されにくいのは,
学習することによる直接のメリットがあまりないから
成果主義的傾向があり,
人間関係が濃くなり,これ
実績重視だが,目の前の
からも長く付き合う相手だ
成果しか見ないので近視
と思うと言いたいことも言
眼的という批判もある。
えない。村社会を形成しが
である。リスクと利益を天秤にかけて,あえてリスク
を取ることも考えられる。ヒラメ君のような上昇志向
が強い社員が多い場合,学習することで本人が喜ぶこ
とをして上げて,人工的なメリットを享受してもらう
と良いと思う。例えば,失敗情報を活かし成果を上げ
ち。
ていると認識できる場合は,社長との食事会の参加な
表 1.人事に対する考え方の違い
どで本人を認知(Recognition)してあげる。こういった
認知は上昇志向のヒラメ君にとってはこの上ない名誉
日本の会社では人は石垣。終身雇用はさすがに崩れ
なはずである。
てきたように思えるが何社も会社を移っていくような
2.6 トップの率先垂範が重要
人はやはりジョブホッパー(Job hopper)と見る人が多
いのではないだろうか。それに対して欧米系の人事の
悪い失敗を繰返す企業文化が安全な文化を獲得するた
考え方は、人は入ってくるもの,出ていくものという
めの具体的施策は色々考えられるが,それを実現する
考え方すなわち People come and go である。
ためにはトップの率先垂範が重要である。特に,ヒラ
メ君タイプにはトップのツルの一声が有効なのは言う
日本の伝統的な企業文化を持った同じ職場でヒラメ
君が長く勤めていることは“正義の文化”の視点から
までもない。
好ましいことではない。村社会の馴れ合いの世界では
謝辞
正義の実行は難しい。ジョブローテーションや行動基
私にこういった研究の時間を与えてくれた私の家族
準を明確に定め改善すべきである。またヒラメ君を移
に謝辞を表したい。
動させることは,彼の専制から部下を開放することに
参考文献
繋がり組織の活性化が促進されると考えられる。
参考文献は本文中該当箇所に角括弧で引用する.
2.4 “柔軟な文化”はどうだろうか?
[1] 畑村洋太郎, “失敗学のすすめ”, 講談社, 2000.
柔軟な文化とは緊急時には現場に指揮権がゆだねら
[2] 芳賀
れ問題に柔軟に対応できることをいう。ヒラメ君も問
繁, “失敗のメカニズム“,
株式会社日本出版サービス, 2000.
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