心肺持久力が効果的に向上するトレーニング方法 運動時呼吸負荷トレーニングとは 埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科 助教 木戸聡史 心肺持久力の向上を目的としたこれまでのトレーニング方法で代表的なものには、ランニング、ウォーキン グ、自転車運動などがあることは広く知られています.心肺持久力が向上すると、全身運動を長時間持続して 行うことができますが、心肺持久力が低下すると、階段を登るときや歩くときに息切れを起こしやすくなりま す.心肺持久力は、中~高強度、長時間の大筋群を用いた運動において重要ですが、このような運動パフォー マンスは、呼吸、循環、および筋機能に依存します(文献 1) . ランニングなどのトレーニング方法では循環、 および筋機能の改善効果は大きいですが、呼吸に対する負荷は小さいという課題がありました.また、呼吸機 能の改善を目的としたトレーニングとしては健常者や呼吸器疾患患者向けに呼吸筋トレーニングがあります. しかし身体を安静にして行うものであり、これまでは運動時呼吸負荷トレーニング(Combined training with breathing resistance and sustained physical exertion : CBS)が意識されていなかったため、運動中に呼吸負 荷をかけるためのトレーニング機器はありませんでした. これに対して 2005 年に運動時呼吸負荷を行うためのトレーニングマスクが開発されました(特許第 4413217 号) .この時点では運動時呼吸負荷トレーニングの効果を科学的に検証した報告は国内外ともにほと んどみられなかったため、身体にどのような効果があるかわかりませんでした.そのため、我々の研究グルー プでは心肺持久力の向上を目的として、トレーニングマスク(図 1)と固定式自転車を使った運動時呼吸負荷 トレーニングプログラムを作り、科学的検証を行いました.その結果、運動時呼吸負荷トレーニングでは従来 のトレーニングと比較して、心肺持久力を反映する指標が大きく向上する(図 2)ことが明らかになり心肺持 久力の向上を要するスポーツ選手や、健康増進を目的とした若者のトレーニング方法の 1 つとして有効である ことが示唆されました(文献 2) . 今後はトレーニングのメカニズム解明や安全性、効果の検証を重ねて、対象者に合わせてトレーニング概念 を応用した方法を構築することで、高齢者の健康増進や、呼吸器疾患患者のリハビリテーションへ役立てられ ると考えています. 図2. トレーニング前後の身体指標の変化(従来トレーニング群(CONT)と運動時 呼吸負荷トレーニング群(MASK)の比較) MASK では呼吸筋機能と心肺持久力に関連する指標(MVV と VT)がトレーニング 図 1.トレーニングマスク(パテン トワークス社製 ReBNA)を装着し た若年成人男性 後に向上した. 参考文献 1. American College of Sports Medicine(2011)運動処方の指針原書第 8 版 南江堂 2. 木戸聡史, 田中敏明, 中島康博 他(2011) 呼吸負荷を組み合わせた新たなトレーニング方法は心肺持久 力の改善に寄与するのか? 理学療法学 38 巻 Suppl.2, OF1-084
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