国際ビジネストラブル、紛争への対応

国際商事紛争への対応/仲裁協会
国際ビジネストラブル、紛争への対応─対応の鍵は国際商事仲裁─ 一般社団法人 日本商事仲裁協会 理事 大貫雅晴 氏
海外展開を行う企業が急増していますが、その一方、国
契約書を交わす段階でできる予防的な措置であり、紛争
際ビジネスでは、商慣習、法制度等の相違から、トラブル、
が発生してから仲裁合意をすること(仲裁付託合意)は、
紛争が発生することが多くあります。そのようなトラブ
当事者の利害が対立して難しいのが現実です。
ル、紛争への対応の鍵は国際商事仲裁にあります。危機
管理対策として、
検討してみてはいかがでしょうか。
仲裁条項例(日本商事仲裁協会のモデル条項)を以下
にあげます。
1.企業の海外展開に伴う、国際ビジネス紛争の増加
“ All disputes, controversies or differences which may
海外に市場を求めて、海外取引を進める企業が増えて
arise between the parties hereto, out of or in relation to
いますが、これまでのメーカー、商社のみならず、流通小
or in connection with this Agreement shall be finally
売業も増加していくと思われます。
これに伴い、国際ビジ
settled by arbitration in(name of city), in accordance
ネスの多様なトラブルの発生が予想されます。 with the Commercial Arbitration Rules of the Japan
そのようなトラブルに対応する鍵は、まず、当事者間で
Commercial Arbitration Association.”
契約書を交わし、万が一トラブルが発生した場合の解決
〈この契約からまたはこの契約に関連して、当事者の間に
手段を予め取り決めておくことが重要なのです。紛争解
生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、
決手段には、直接交渉や裁判の他に、裁判外紛争解決手続
一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、
(ADR)
、例えば、仲裁や調停などがありますが、国際ビジ
ネスでは、
特に、
仲裁が利用されています。
(都市名)において仲裁により最終的に解決されるものと
する〉
①仲裁のメリット 仲裁とは、当事者が合意に基づき紛争の解決を中立的
3. 契約書の仲裁条項が紛争解決に機能した事例
な第三者(仲裁人)に委ね、その判断(仲裁判断)に服す
契約書に仲裁条項を挿入しておくことで、紛争を解決
る紛争解決手段です。仲裁判断は法律により確定判決と
するにあたって当事者がさまざまなメリットを享受する
同一の効力が認められているため強制力があり、任意に
ことができます。実際に日本を仲裁地とする仲裁条項を
履行されない場合には裁判所を通じて強制執行ができる
契約書に挿入していたことで、有利な形で紛争解決を成
というのが、
大きなメリットの1つなのです。 功した事例を紹介します。 ②仲裁のメリットとその機能 −裁判との対比-
事例1 交渉の切り札として仲裁条項が活用された例
裁判と比較した場合の仲裁のメリットとしては、
相手企業が商品代金の支払を拒否してきた。契約書に
・国際性:外国仲裁判断の承認・執行に関するニュー
は日本商事仲裁協会による仲裁条項が挿入されていた。
ヨーク条約加盟国(150か国)では、外国仲裁判断の
日本企業は、
「商品代金を支払わないならば、仲裁を申し
承認・執行が認められます。
立てる」旨の通告を相手企業に出したところ、相手企業は
・迅速性:仲裁は一審限りで迅速な解決が図れます。
・専門性:当事者は、国際取引に精通した専門家を仲裁
人に選ぶことができます。
・秘密性:手続、仲裁判断は原則非公開です。
代金全額を支払ってきた。
事例2 海外での訴訟停止、
日本での仲裁で勝った例
販売店契約の終了を巡り紛争が発生、海外で裁判を一
方的に提起された。
しかし、契約書には日本商事仲裁協会
の仲裁条項が挿入されていたため、相手国の訴訟は却下
2. 仲裁を行うためには仲裁合意が必須要件
され、日本商事仲裁協会の仲裁手続きが行われ、最終的に、
仲裁を行うには仲裁合意が不可欠です。仲裁合意には、
日本企業の主張が全面的に認められた。
仲裁条項と仲裁付託合意があります。仲裁条項は、通常、
当事者間の契約の一条項(仲裁条項)として、予め契約書
に規定が設けられます。仲裁条項は、相手企業との間の
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一般社団法人日本商事仲裁協会 電話:03-5280-5200
(代)
2014年10月秋号 日本小売業協会発行
2014/09/26 11:24