「14」アパレルP社・ミラノ事務所への訪問 8 月 24 日(木) アパレル P の

「14」アパレルP社・ミラノ事務所への訪問
8 月 24 日(木) アパレル P のミラノ駐在員事務所 X 氏とのインタビュー記録である。
Q:駐在員事務所の任務は?
A:2つの重要な任務がある。ひとつは「新規ブランドのリサーチ」。アパレルPは商社。自社ブランド
は持たない。ミラノのブランドと日本市場を結ぶ契約をして独占輸入・販売を行う。商品は動くが現地
法人ではないので駐在員事務所の売り上げはない。ミラノブランドが直接アパレル P と取引する。
Q:情報収集を行うのか?
A:「このブランドが面白そう」
「こんなブランドがあるが調査して欲しい」となれば直接会う。ブラン
ドとコンタクトを取り、オフィスやショールームに行き、体質・条件・商品・生産量・取引経歴を聞き、
出張したバイヤーとコンタクトさせじっくり商談に及ぶ。話がまちまれば独占輸入販売を結ぶ。アパレ
ル P は日本の窓口でインポーター・ディストロビュータとしてデパートやセレクトショップ・ブティッ
クに卸す。
Q:別の商社が介在するか?
A:①輸入権+販売権を独占する場合、②輸入権は他のインポーターに任せ販売権のみを独占とがああ
る。②の場合は大手商社に介在させる。同業者には A・B・C がある。
Q:アパレル P の得意先は?
A:大手デパート、専門店ブティック、大手セレクトショップ。ことに全国に専門店ブティックを抱え
ている。Luxury Brand ビジネスとちがった高級品であって、地場の社長婦人が好む高級素材を使った逸
品ブランドであるから、モンテナポレオーネ通りのメゾンの商品とはカテゴリーが異なる。
Q:素材で強いのは?。
A:素材よりデザイン重視だが、あえて素材でいえば、ここ3~4年はコットンが強い。アライをかけ
たものだ。コットンは春夏ファッション素材イメージだったが、いまは通年素材だ。デニムも多く見ら
れる。
Q:日本との違いは?
A:IT ではレーヨン・ニットの評価が高い。気候の差がある。蒸し暑い JP では多汗ゆえレーヨンニッ
トは敬遠される。ミラノは乾燥だからレーヨンニットを着るとヒヤッとして着やすい。したがって春夏
でもコレクションにレーヨンニットを使う。日本では難しい。
Q:シルク素材はどうか?
A:レーヨンニットに比べてシルクは低いが、IT では良く使う。日本では春夏の洗濯が必須なのでシル
ク製品は敬遠される。IT では乾燥している分、シルク素材の評価は高く商品も多い。ブラウス・カット
ソーはもとよりドレス(ワンピース)はとくにシルク素材が多い。Luxury Brand ではドレスのシルク比
率がさらに高い。柔らかさとしなやかさ、プリントの仕上がりが評価される。しかし IT のシルクの売れ
筋は日本でまったく売れない。
Q:シルクの価格はどうか?
A:IT はレーヨンやポリエステル素材のほうが高い。IT は化学繊維を日本か輸入するから価格は高い。
日本ほどシルクと化学繊維に価格差はない。シルクが売れないのは価格の問題ではない。
Q:勢いと魅力のあるブランドは?
A:ドルチェ&ガッバーナ。IT でも JP でもいまが旬といわれて長い。追随できるブランドが出ない。
ほかにファッションエディターが評価する少し尖った感じのブランドもあるが、ドルチェ&ガッバーナ
の勢いと安定感にはかなわない。アルマーニに接近している。
Q:アルマーニと比較すると?
A:アルマーニの年齢層(エリアカバー)は広いからボリュームは大きい。勢いはドルチェ&ガッバー
ナ、総合力でアルマーニ。
Q:アルマーニは LVMH やエルメスと比較するとどうか?
A:アルマーニはもともとアパレル。エルメスやヴィトンはバックや小物から出た。その差がある。同
じバックであっても素材の良いものを使用するから必然的に価格も高くなる。それが洋服の価格差にも
現れるのではないか。
しかし売り上げ比率は全然違う。ヴィトンやエルメスはアルマーニと比べるとアパレル製品の売り上
げ比率は非常に低い、つまり売れていない。アパレルは小物類のおまけ程度にしか置かない。アクセサ
リーが非常に増えているのは、IT に限らず全世界同じ。ドルチェ&ガッバーナでもいえる。
Q:ヴェルサーチはどうか?
A:厳しい状況だ。継承した妹がはジャンニほどの才能が無い。総合力はあるにはあるがファッション
は厳しい。
Q:アルマーニのボリュームはどうなのか?
A:アルマーニも、ジョルジオ・アルマーニやエンポリオ・アルマーニ、アルマーニ・コレッツィオー
ニなど多彩だが、ターゲットや価格からみてエンポリオ・アルマーニがファーストラインである。ジョ
ルジオアルマーニより大きい。3~4ラインすべて確立されており売上が安定している。
Q:その他のブランドはどうか?
A:エトロが元気だ。ボリュームも IT ブランドのトップ 10 に入る。ブランドは栄枯盛衰が激しい。モ
ンテナポレオーネ通りやスピーガ通りで5年以上ショップを構えているブランドは少ない。非常に入れ
替わりが激しい。プラダに比べるとグッチのほうが安定している。洋服の比重が高くなったプラダは売
上に陰りがある。
Q:ネクタイ・スカーフ系はどうか?
A:ネクタイは絶対数が減少している。アパレル P でも扱い数が減る。スカーフは安定しており、ほと
んどがシルクである。FR ブランドでも IT コモからシルクを仕入れる。しかしコモも CN に押され厳しい。
5年ほど前まで大手アパレルメーカーはとくにニットの生産拠点を東欧においた。CN に追われて東欧が
空洞化した。
Q:日本の素材はどうか?
A:デニムが非常に強い。シルクは IT のシルクを使う傾向にある。IT はシルクのプリントにある種の
付加価値を求めている。
Q:Luxury Brand のデザイン力はさすがと思うのだが、縫製力はどうかと思うが?
A:縫製の質は日本製品の方がはるかに高い。日本人は Luxury Brand にヨーロッパの雰囲気を求めてい
る。日本のアパレは工業製品。EU アパレルアート・芸術品。芸術品はなんども見たくなる。縫製の質に
関わらずリピーターがつく。
Q:デザイナーの力が強いようだが?
A:日本のアパレルでは企画・MDに発言権があるが、EUブランドではデザイナーが発言権を持つ。
その違いも製品のデザインや魅力に大きな影響を及ぼす。ひとりのクリエーターが生み出す芸術品が
Luxury Brand なのである。工業製品ゆえに日本のアパレル製品には“風”を感じないという。よりオリ
ジナリティを前面に出すべきだ。ジャポニズムの評価は中世よりあったのだから。EUは着心地を最優
先で評価する。日本とは製品評価の基準が異なる。
Q:ミラノブランドのこれからは?
A:これまでどおりアルマーニが強いであろう。トレンドはドルチェ&ガッバーナ。アントニオ・マラ
スやメニケッティもこれからだんだんと伸びていく。
Q:価格という意味では?
A:たしかに Luxury Brand は高い。自信を持っている。どんなものであろうと、自分の国が一番だし、
自分の国の製品が最高であると評価している。最高の製品に最高の価格を出すのは当たり前だ。だから
いつかはあのブランドをという買い手の欲求がおきる。そこが日本とは異なる。縫製ではなく着心地や
デザインを重視する。
Q:素材の質にも関係するか?
A:素材差も価格差に大きく影響をする。シルクはその質の差が価格に反映する。シルクの質差は物質
差もあるが、IT では機屋としてブランドも大きい。機屋も一種の Luxury Brand である。長い歴史のな
かで培われてきた機屋のプライドが作り出すものでもある。希少性が求められる現代では、シルクであ
っても「他と同じはイヤ」ということで、プリントや素材加工で新たな付加価値が求められる。それに
いかに応えるかである。