ひめぎん情報 ■ 2014.新春 道後温泉本館改築120周年記念事業 「道後オンセナート 2014」の 成功に向けて 株式会社ワコールアートセンター チーフプランナー 松田 朋春 ■フェスティバルの概要 四国・松山の道後温泉では本年、本館改築 テーマ:最古にして、最先端。温泉アートエ ンタテイメント。 120周年を記念したアートフェスティバルを 会 場:道後温泉およびその周辺エリア 開催します。 「道後オンセナート 2014」と銘 会 期:プレオープン 2013年12月24日㈫ 打ち、3千年の歴史ある温泉郷らしく「最古 グランドオープン 2014年4月10日㈭ にして、最先端。 」をコンセプトに、グラン フィナーレ 2014年12月31日㈬ ドオープンに向けて準備が進行中です(プレ 主 催:道後温泉本館改築120周年記念事業 オープンとして昨年12月より一部公開中) 。 道後温泉は、団体旅行から個人旅行への観 <「道後オンセナート 2014」の特色> 光動向の変化や、道後温泉本館修復など対応 1.道後温泉本館が気鋭のアーティストに 課題を抱えており、歴史文化に重点をおいて よってアート作品へと変貌! きたこれまでの特色づくりから踏み出し、現 大還暦(120歳)を迎える道後温泉本館を、 代アートの持つ自由さや批評性を取り込みな テクノポップユニット Perfume のプロジェ がら未来に向けた新しい魅力づくりにチャレ クトで国際広告賞(※)を受賞するなど先端 ンジしようとしています。 技術を駆使した表現方法で注目を集め、国内 「道後オンセナート 2014」は愛媛県下では 外で高い評価を得ているクリエイター集団ラ 初めてとなる大規模なアートフェスティバル イゾマティクスと、霧を用いた環境作品で霧 です。 の彫刻家として世界で活躍するアーティスト 私ども株式会社ワコールアートセンター 中谷芙二子が演出。ひかりと霧のコラボレー は、2012年度に松山市からの調査委託を受け、 ションにより、最古の歴史を誇る道後温泉本 実行委員会設置後は同フェスティバルのプロ 館が、最先端のメディアアート作品へと変貌 デュースを受託し企画立案のお手伝いをして します。 きました。以下、ニュースリリースより同フェ ※第60回カンヌライオンズ国際クリエイティ スティバルの概要をご紹介します。 <開催概要> 名 称:道後オンセナート 2014 (DOGO ONSENART 2014) 実行委員会 ビティフェスティバル2013銀賞 2.著名アーティストたちが手がける、泊まれ るアート作品群「HOTEL HORIZONTAL」 道後エリアの10のホテル・旅館に泊まれる ひめぎん情報 ■ 2014.新春 アート作品群「HOTEL HORIZONTAL(ホ ■コラボレーション型の展開 テル ホリゾンタル) 」が誕生します。主な参 企画立案のお手伝いをしている立場から 加アーティストは、荒木経惟、石本藤雄、草 少々解説を加えてみたいと思います。 間彌生、谷川俊太郎、皆川明。それぞれのアー 近年は地方でのアートフェスティバルが目 ティストがホテルや旅館の1室を担当し、 「最 白押しです。同じ四国では香川県で「瀬戸内 も深い夢」を共通テーマに、実際に泊まれる 国際芸術祭」が開催され、記録的な数の観 部屋として作品を展開。ホテル・旅館が“水 光客を集めています。大分県の別府温泉でも 平(Horizontal) ”に参加するこれまでに例の アートフェスティバルが継続的に開催され、 ない試みです。 美術関係者からの評価は高く、また都市部で 3.アート作品が道後に点在。道後エリアの は、昨年は「あいちトリエンナーレ」 、今年は 魅力も味わえる体験型アート 「横浜トリエンナーレ」と、あちこちで国際美 道後オンセナートの会場である道後地域全 術展が開催されるようになってきました。 体にアート作品を点在。商店街周辺の路地裏 近年のアートフェスティバルの多くは、① や上人坂エリアなど、まちを散策しながら地 中山間地等の広域にアート作品を点在させ観 域の魅力を知ることができる体験型アートを 光客の巡回を促すツーリズム型、 ②シャッター 展開します。夜間滞在がより楽しくなる夜景 商店街や空き家の目立つ停滞した地区に、 演出プログラムも豊富に用意します。 アーティストが穴を埋めるように手を入れて 4. これからを担う地元クリエイターたちが いくエリア再生型、③都市部において美術館 アートディレクションと運営を担当 などの専用空間をつないで展開される国際美 地元(ローカル)に重きを置いてコミュニ 術展、のいずれかもしくはその組合せです。 ティを形成する試みとして、アートディレク 道後温泉は本館を中心に宿泊・商業のビジ ションと運営はこれからの未来を担うクリエ ネスが密集している地区で、実はいずれの型 イターたち(道後アートプロジェクト)が担当。 にも当てはまりません。そのような地域の性 次代のまちづくりを担う若者たちに主体的な 格にあわせた展開として、我々プロデュース チャレンジの場を提供します。 サイドとしては「地域事業者とアーティスト 5.アーティストと地元と観光客が混ざり合 のコラボレーションで、地域のサービス自体 う、持続可能なコミュニティづくり を面白くする」方向を重視しました。いわば 「道後オンセナート 2014」は 2013年10月 コラボレーション型です。 10日のプレイベントを皮切りに、12月24日か たとえば、道後温泉にあるホテル・旅館の らのプレオープン、2014年4月10日のグラン それぞれ1室をアーティストが実際に「泊まれ ドオープンから2014年の年末のフィナーレま る作品」に変える「HOTEL HORIZONTAL」 で、常設型の作品と時期ごとのイベントを組 の企画や、 「ゆだまん」という新キャラクター み合わせて展開されます。地区の祭りや市民 を商店街ぐるみで開発し、お土産品開発につ 発信のイベントとも積極的に連携し、オンセ なげるプロジェクトなどはその代表です。 ナート期間終了後もアートと市民、観光客が どちらもアート作品の設置というレベルで つながる、持続可能なコミュニティを築いて はなく、事業者の本業に関わる商材にアー いきます。 ティストが関与して、一過性ではない変化を 促そうとしています。その他にも、地元小中 ひめぎん情報 ■ 2014.新春 学校が参加する大規模なアートパレードや、 ものになりそうです。 街中に点在して夜の散策を誘発する影絵のプ ロジェクトなど、市民参加でつくり、地域と 無関係なアートが乱立するようなことがない よう企画ディレクションを行っています。 観光客はアート愛好家だけではありませ ん。来訪者が道後温泉という地域と出会うた めにアートがうまく機能することが重要で、 コラボレーション型の展開はそれを目指して います。 ■アートフェスティバルの成功とは HOTEL HORIZONTALウェブサイト http://www.hotelhorizontal-dogo.com/ 実行委員会の議論では、本フェスティバル ■フェスティバルのブランディング形成 は地元クリエイターが担う は明確にまちづくり活動の一環として位置づ けられており、将来の展開に有効に継承され る必要があります。しかし、それがどのよう なかたちで行われるかは今後の議論です。は さて、 「特色」でも強調されていたことで じめてのアートフェスティバルであり、実施 すが、もうひとつのポイントは地域のクリエ 前から将来の展開を十分に議論できないのは イターとのプロデュースの分業です。 「道後 当然でしょう。企画者の一員として思うこと オンセナート 2014」では、シンボルマークに は、アートフェスティバルとして打ち出す限 始まるビジュアルデザイン一切をフェスティ り単なる観光振興策でなく文化事業としての バルのブランディングと位置づけ、プロポー 性格を伴うということに注意を向けたいと思 ザルコンペで選ばれた地元クリエイターに委 います。文化は人類共通の財産ですが、実行 嘱することになりました。同時に会場運営や 委員会の議論も地域経済にとっての有用性に ボランティアの組織化、より地域に密着した 傾きがちです。 イベントの展開などについても同様に、地域 アートプロジェクトは、 「うまくいくところ」 での受託を前提としました。 と「いかないところ」があります。その違い これは実行委員会の議論において繰り返さ は明白で、文化発信をする場として、地元だ れた「一過性のイベントにならないように」 けではなく社会から評価されるかどうか、と という意見に沿ったもので、フェスティバル いうことです。観光集客の数とは別に、現代 が幅広く地域の経験として残り、今後のノウ アートの前線を分け合う存在として独自の意 ハウや仲間関係の形成に役立つものになっ 義を発揮できれば文化事業として成長する てほしいと考えています。国際的な視点での し、いずれ大きな波及効果に至ります。その アートプロデュースは我々が、地域のフェス ような事例は世界にいくつもあります。 「道後 ティバルとしてのキャラクター形成は地元の オンセナート 2014」の実施を経て、地域にそ クリエイターが担うという分業関係です。 の「野心」が宿るかどうかが将来の成否を分 申し添えておくならば、受託したチームの けることになるでしょう。 クリエイティブは非常にレベルが高く、松山 という都市の文化的実力が十分に反映された 10 中谷芙二子「霧の彫刻」イメージ写真 (※実物とは異なる可能性があります) 「道後オンセナート 2014」ウェブサイト http://www.dogoonsenart.com/
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