平成 28 年度 日本獣医公衆衛生学会(近畿)プログラム

平成 28 年度 日本獣医公衆衛生学会(近畿)プログラム
E 会場(B3 棟 2 階 207 号室)
① 開会の辞(近畿地区学会長挨拶)
10:00~10:10
三宅 眞実
② 一般講演(午前の部)
10:10~11:40
E1~ E9
③ 合同ランチョンセミナー(A 会場 B3 棟 116 号室)
12:00~12:40
④ 一般講演(午後の部)
13:00~13:40
⑤ 日本獣医公衆衛生学会学会長・副学会長挨拶
13:40~14:10
E10~ E13
O 会場(学術交流会館 多目的ホール)
⑥ 近畿地区連合獣医師大会
15:00 〜 17:00
⑦ 閉会の辞(褒賞演題公表・講評)
17:00 〜 17:20
談話会会場(P 会場・学術交流会館 サロン)
⑧ 談話会
17:30 〜 19:00
審 査 委 員
E 会 場
柴 田 直 樹(三重県)
長 石 貞 保(奈良県)
佐 谷 泰 親(滋賀県)
小笠原 治枝子(和歌山県)
安 藤 明 典(京都府)
池 隆 雄(京都市)
高 橋 知 子(大阪府)
貫 名 正 文(神戸市)
福 永 真 治(兵庫県)
井 川 久 史(大阪市)
1.公衆衛生学会(近畿)審査委員会会議
9:30 〜9:50
会場:B3 棟 2 階 210 号室(審査委員兼幹事会議室)
2.公衆衛生学会(近畿)幹事会会議
12:00 〜 12:30
会場:B3 棟 2 階 210 号室(審査委員兼幹事会議室
昼食を用意しております。
3.獣医学術近畿地区学会合同幹事会会議
12:30 〜 12:50
会場:B3 棟 2 階 205 号室
4.審査委員会
各学会の一般講演終了後、直ちに各学会審査委員兼幹事会議室にて実施。
会場:B3 棟 2 階 210 号室(審査委員兼幹事会議室)
各学会長
日本獣医公衆衛生学会(近畿) 一般講演プログラム
E 会場(B3 棟 2 階 207 号室)
—午前の部—
(演題番号 E1 ~ E9)
10:00 ~ 10:10
近畿地区学会長挨拶
開会の辞
10:10 ~ 10:50
座長
勢戸祥介(大阪府)
E1
ATP 検査を利用した衛生指導と ATP 検査数値の基準作り
井上英耶(滋賀県)
E2
小学校高学年向け食中毒予防啓発冊子の作成
宮野前亜希(京都府)
E3
T 食肉センターにおける衛生指導状況
山崎悠高(兵庫県)
E4
経験ゼロから始める野生獣肉の衛生的な解体処理
星 英之(大阪府)
10:50 ~ 11:40
座長
星 英之(大阪府)
E5
管内の野生獣肉および狩猟者に関する実態調査
吉田時子(滋賀県)
E6
牛の筋肉および腎臓のモネンシンナトリウム残留分析法の検討
服部涼子(兵庫県)
E7
と畜検査技術の標準化を目的とした豚の尿毒症保留基準の検討
金本永芝(三重県)
E8
干物製造業者におけるヒスタミン食中毒事例について
硲 一樹(和歌山県)
E9
舞鶴港における不法上陸猫事例と全国自治体の対策実態調査
岡本裕行(京都府)
― 85 ―
12:00 ~ 12:40
座長
東 泰孝(大阪府大)
合同ランチョンセミナー (A 会場 B3棟116号室)
「フルオロキノロン系抗菌薬の特徴を最大限生かすための使用法」
池端敬太(バイエル薬品株式会社)
協賛:バイエル薬品株式会社
—午後の部—
(演題番号 E10 ~ E13)
13:00 ~ 13:40
座長
安木真世(大阪府)
E10 リアルタイムPCR 法によるB 型インフルエンザウイルスの同定及び系統型別の同時検査法
押部智宏(兵庫県)
E11
三重県におけるノロウイルス GII.17の流行状況とその特徴
楠原 一(三重県)
E12 レジオネラ属菌により高濃度汚染された入浴施設への対応事例
大野哲司(三重県)
E13 と畜場で発見された牛のロドコッカス・エクイ感染症の一例
中川涼子(三重県)
13:40 ~ 14:10
日本獣医公衆衛生学会学会長・副学会長挨拶
「日本獣医師会の活動状況と獣医学術地区学会の連携について(仮題)」
苅和宏明 副編集委員長
15:00 ~ 17:00
近畿地区連合獣医師大会 (学術交流会館 多目的ホール)
17:00 ~ 17:20
褒章発表および閉会の辞 (学術交流会館 多目的ホール)
― 86 ―
各学会長
演題番号:E1
ATP 検査を利用した衛生指導と ATP 検査数値の基準作り
○井上英耶,諸岡剛俊
滋賀県食肉衛生検査所
1.はじめに:当所では、平成 25 年度より ATP ふき取り検
査(以下「ATP 検査」という。)および細菌検査(一般細菌数、
大腸菌群数および大腸菌数)を実施し、その数値の結果を用
いて内臓用容器(以下「サンテナ」という。)の衛生指導をして
おり、昨年度も同様の検査を実施したところ、衛生状態の改
善がみられた。また、大腸菌の検出有無と ATP 検査数値との
関係に着目し、一般的なサンテナの指導目安値を設定したの
で、報告する。
2.材料および方法:食肉センターの牛の内臓処理室および
サンテナ保管室において、サンテナのふき取りを平成 27 年 7
月(22 検体)に実施し、文書指導後、再度同様のふき取りを平
成 27 年 9 月(20 検体)に実施した。方法は、サンテナ底面 2
か所を 100 cm2 ふき取り、ATP 検査と細菌検査を実施した。
また、目安値設定のため、サンテナ洗浄の衛生指導で用いた
42 検体の大腸菌検出の有無と ATP 検査数値を用いてロジス
ティック回帰分析を行い、モデルを作成した。
3.結 果:7 月に比べ、指導した後の 9 月では、洗浄良好
の業者が 22.8 %増える一方、洗浄不良の業者は 28.6 %減少し
た。大腸菌検出の有無と、ATP 検査数値は有意に関連があり
(p<.05)
、ATP 検査数値が 10 倍高くなると、大腸菌の検出確
率が約 4.3 倍高まることが分かった。また、ATP 検査数値が
10,000 RLU 未満では大腸菌が検出されにくいことが分かった。
4.考察および結語:各業者に対して、ATP 検査数値および細
菌検査数値を基に指導した結果、サンテナの衛生状態が改善
したことより、今後も継続的にこれらを用いて指導していき
たい。また今回、ATP 検査数値と大腸菌の有無について関連
があり、ATP 検査数値が 10,000 RLU を洗浄良好、10,000 RLU
以上を洗浄不良として判断できると考えられた。今後は、こ
の目安値を使用し、使用直前に洗浄方法が良好か不良かを判
断し、再度の洗浄を指導するなど、より効果的なサンテナの
衛生指導に役立てていきたいと考える。
演題番号:E2
小学校高学年向け食中毒予防啓発冊子の作成
○宮野前亜希 1),半田典子 1),大石剛史 2),太田義博 1),入江祐子 1)
1)
京都府生活衛生課,2)京都府保環研
1.はじめに:食肉を生で喫食すると腸管出血性大腸菌やカ
ンピロバクター等の食中毒を引き起こす危険性があり、これ
らは抵抗力の弱い子供や高齢者で発症しやすく、かつ重篤化
しやすいと言われている。このため、ハイリスクグループで
ある子供を対象に、親しみやすい漫画媒体を活用して食中毒
の予防法を学んでもらい、また、子供を通じ保護者への啓発
を図ることを目的に冊子を作成した。
2.材料および方法:京都府では、平成 26 年に京都精華大学
と包括協定を締結し、府民啓発・府民運動等に取り組んでい
る。その一環で、当課から「小学生向け肉の生食による食中
毒の防止方法」を題材とした漫画作成を希望したところ適当
と認められたため、取り組みを開始した。作成した資料は、
バーベキューに来た子供達に石けんの妖精「あわわ」が食中毒
の予防方法等について説明する内容とした。小学校校長会理
事会において当課から冊子を紹介し、食育の授業等で栄養教
諭等が漫画の内容に触れながら食中毒予防方法について説明
するなどし活用してもらうことを依頼した。各小学校には教
育委員会等を通じ、7~9 月を中心に児童に配布できるよう依
頼した。
3.結 果:当初考えていた対象年齢(小学校低学年)では内
容の理解が難しいとの意見や実際にトングの使用機会があま
りないと考えられたため、対象を調理機会のある小学校高学
年(5 年生)の児童に変更した。また、資料を配布するだけで
は漫画でも内容を読まない児童も多いと助言されたため、家
庭科や食育等の授業で活用してもらえるよう関係機関に協力
を依頼し、内容について意見照会を行ったところ、男女の役
割の固定概念の排斥等の意見が出された。
4.考察および結語:通常の配布物作成時には男女の役割の
固定概念の排斥等は配慮しておらず、学校からの配布物作成
時には人権的配慮をはじめ、一層注意すべき点があることが
判明した。教育委員会あてに活用時期や方法について依頼文
を発出したものの、それが各学校まで伝わらず、当課からの
送付後すぐに配布されてしまう事例が多く見られたため、今
後は各学校あてにも依頼文を同封するなどの改善策が必要と
思われた。現在、各学校において順次活用がされており、来
年度も同様に配布を予定している。今後、本冊子がハイリス
クグループである子供及びその保護者に対し、食中毒予防の
基礎知識の普及に役立つことを期待する。
― 87 ―
演題番号:E3
T 食肉センターにおける衛生指導状況
○山崎悠高 1),谷口明博 1),源田規子 2)
1)
兵庫県但馬食肉衛検,2)兵庫県明石健福
1.はじめに:T 食肉センターはベッド解体方式で、牛につ
いて年間約 1200 頭のと畜を行っている。施設は築 40 年以上
が経過し、老朽化が目立っているが、改修工事予定はない。
そのため、ソフト面の改善により HACCP 対応を検討してお
り、今回、牛枝肉の拭き取り検査結果に基づく衛生指導状況
を比較検討した。
2.材料および方法:平成 27 年 4 月から 12 月、月 2 回程度、
洗浄後の牛枝肉胸部表面及び肛門周囲の一般生菌数と大腸菌
群数の拭き取り検査を行った。検体数については、T 食肉セン
ターのと畜頭数 8 割を占めると畜業者(A・B・C)の業者 A19
検体、業者 B23 検体、業者 C6 検体、合計 48 検体であった。
3.結 果:以下、単位は全て CFU/cm2 ; であり、調査期間
における平均値を示す。一般生菌数について、胸部では A:
311.4、B:7.3、C:403.8 であり、肛門周囲では A:263.0、
B:27.2、C:415.1 であった。また、大腸菌群数について胸部
では A:1.1、B:0.1、C:0.3 であり、肛門周囲では A:0.7、
B:0.4、C:0.8 であった。A・C 業者の一般生菌数は、平成
26 年度全国平均を上回っていた。B 業者の一般生菌数は、全
国平均以下であり、変動は少なく、一貫して低値であった。
4.考察および結語:いずれの業者も作業環境は同じであり、
作業工程を反映した数値と考えられる。業者 A は、解体作業
時間が比較的早く、衛生的作業不足があり、と体の獣毛付着
が多々見受けられる。指導直後には一時的に細菌数が減少す
るが、時間経過に伴い増加する傾向がある。そのため、頻繁
に指導を行い、意識向上を目指している。業者 B は、各作業
従事者が、拭き取り検査結果を気にしており、食肉衛生検査
所に助言を求めたり、提案するなど前向きな姿勢が見受けら
れる。検査結果を示し、対話・考察し、モチベーション維持
を図っている。業者 C は、作業従事者の入れ替わりが頻繁で
あり衛生的作業維持が出来ていないため、口頭指導等を行っ
ているが改善傾向が見られていないのが現状である。業者 B
の結果は、ベッド解体方式でも衛生指導の徹底により衛生的
食肉の提供が可能であることを示している。T 食肉センター
は、複数の業者が解体に関わるため、画一的な指導を行うの
は難しい面がある。今後も、衛生的な作業習得を指導し、各
業者に応じた作業工程等の改善を促し、衛生的作業や意識向
上といったソフト面の指導により、安全安心な食肉の提供に
繋げたい。
演題番号:E4
経験ゼロから始める野生獣肉の衛生的な解体処理
○星 英之,高山珠恵
大阪府大
1.はじめに:対馬市は、2014 年に対馬市イノシシ・シカ衛
生管理ガイドラインを策定し、同年 9 月からは対馬猪鹿加工
処理施設において野生イノシシ・シカの解体処理と食肉製品
製造に取り組んでいる。この施設の従事者は、いずれも解体
処理の経験がゼロだったが、市外の獣肉解体処理施設での研
修、と畜場見学を経て、衛生ガイドラインに沿った解体処理
を学んだ。本研究は、解体経験ゼロの従事者でも、学習によ
り衛生的な解体処理を行えるか調べる目的で、処理場で生産
されたイノシシ肉における一般生菌数、大腸菌群数および腸
管出血性大腸菌、サルモネラ属菌の保有について検査し、市
販の肉との比較を行った。
2.材料および方法:対馬猪鹿加工処理施設で生産されたイ
ノシシ肉の衛生状態を調べる目的で、常法に従い一般生菌数
および大腸菌群数、腸管出血性大腸菌およびサルモネラ属菌
の検出を行った。イノシシ肉 57 検体は、冷凍便で大阪府立大
学まで輸送され、分析まで−20℃で保管し、検査前 4℃で解
凍してから用いた。イノシシ肉と比較をする目的で、市販の
ブタ肉およびトリ肉それぞれ 8 検体ずつについても同様に検
査を行った。
3.結 果:一般生菌数および大腸菌群数(平均値 ± S.D.)
cfu/g は、イノシシ肉(2.9 × 103 ± 8.7 × 103 および 3.4 × 10
、ブタ肉(1.1 × 106 ± 2.9 × 106 および 7.0 × 104
± 1.3 × 102)
5
、トリ肉(2.2 × 106 ± 2.2 × 107 および 5.2 × 103
± 1.2 × 10 )
3
± 5.9 × 10 )で、どちらもイノシシ肉がブタ肉およびトリ肉に
比べ有意に低い値を示した。サルモネラ属菌は、イノシシ肉
から O4 群 1 検体(1.8%)
、トリ肉から O7 群 3 検体(37.5%)
、
O4 群 1 検体(12.5%)
、O4 群および O7 群 1 検体(12.5%)が検
出された。ブタ肉からのサルモネラ属菌の検出はなかった。
腸管出血性大腸菌は、いずれの肉からも検出されなかった。
4.考察および結語:今回の調査で、解体処理経験ゼロであっ
ても、衛生的な解体処理方法を学べば、市販の肉と同等以上
の衛生状態でイノシシ肉を生産できることが確認された。未
経験者に衛生的な解体処理方法を教育する仕組みを整備すれ
ば、野生獣肉の衛生管理のみならず、新規雇用創出にも有利
だと考えられた。
― 88 ―
演題番号:E5
管内の野生獣肉および狩猟者に関する実態調査
○吉田時子
滋賀県甲賀保(現 滋賀県動保管セ)
1.はじめに:当県において平成 27 年に「滋賀県野生鳥獣肉
衛生管理ガイドライン」
(以下、当県ガイドライン)が制定さ
れた。しかし、当県の野生鳥獣肉に関する実態については、
これまで十分に把握されていない。今回、野生獣肉の実態把
握と啓発を行うため、狩猟者に対するアンケート調査を行う
とともに、解体工程における衛生状況を把握するため拭き取
り検査を行った。また、シカ、イノシシがゴルフ場の芝等を
食べることが確認されていることより、野生獣肉の残留農薬
検査を行った。
2.材料および方法:
(1)狩猟免許更新講習会の受講者である
狩猟者 98 名を対象に、狩猟方法、食用活用、解体および食経
験についてアンケート調査を行った。同時に当県ガイドライ
ンについて情報提供した。
(2)自家消費を目的に狩猟者が行う
シカの処理工程における枝肉、部分肉および器具について拭
き取り検査を行った。
(3)シカ、イノシシの筋肉および内臓の
残留農薬検査を行った(82 項目)。
3.結 果:
(1)狩猟は、74 %が有害鳥獣対策を目的としてお
り、半数は年中行っていた。方法は散弾銃や箱わなが多かっ
た。6 割が野生獣肉の自家消費をしており、処理工程のほと
んどは、捕獲現場で行われていた。8 割が野生獣肉の食経験
があり、調理法は鍋が多かったが、刺身が 19 人いた。動物
由来の病原微生物については、O157、E 型肝炎ウイルスおよ
びサルモネラは約半数知っていたが、それ以外の微生物につ
いては各 10 割以下しか知らなかった。2 割以上が処理施設の
建設や肉を利用した営業を検討していた。
(2)枝肉の肛門周囲
部の汚染度が高く、部分肉のモモ肉内側で糞便性大腸菌が陽
性で汚染が見られた。これらの結果およびナイフの消毒前後
の結果より、作業者に衛生的取扱いについて啓発を行った。
(3)全ての検体で、農薬は不検出であった。
4.考察および結語:アンケート調査や拭き取り検査より、野
生獣肉の自家消費や今後営業を考えている狩猟者に対し、当
県ガイドラインにそった衛生管理について啓発を行うことは
食中毒予防につながると考えられた。調査中狩猟者は、野生
獣の内臓等における異常の有無の判断に迷っており、今後、
相談窓口が必要である。今回、野生獣肉中の農薬の残留は認
められず、これら食肉への影響は低いことが考えられるが、
季節や生育場所によっても結果は変動する可能性が考えられ
る。
演題番号:E6
牛の筋肉および腎臓のモネンシンナトリウム残留分析法の検討
○服部涼子,後藤 操,川元達彦,吉田昌史
兵庫県健生研
1.はじめに:ポリエーテル系抗生物質であるモネンシンナ
トリウム(MNS)は、家畜の増体性、飼料利用効率の向上を目
的として、飼料に添加される抗コクシジウム剤である。平成
28 年 2 月、基準値超過の MNS が添加された可能性のある飼
料を給餌された肉用牛について、香川県でと畜場から出荷さ
れたものが自主回収又は店舗から撤去された状態であった。
その後、MNS 不検出の検査結果を受けて出荷が再開され、兵
庫県内のと畜場に同一ロットの牛が搬入されたため、当該牛
の安全性確認のための残留検査が必要となった。厚労省通知
法である「HPLC による一斉試験法Ⅰ」に従い、分析を試みた
が十分な回収率を得られなかった。そこで今回、通知法を改
良して LC/MS による MNS の分析法の検討を行った。
2.材料および方法:試料に、牛の筋肉および腎臓、鶏の腎臓
を用いた。試料 3 g をアセトニトリル(ACN)30 mL により抽
出し、ODS および PSA 各 300 mg による分散固相抽出後、シ
リカゲルカラムで精製して 40 % ACN 溶液とした。測定には
高速液体クロマトグラフ飛行時間型 - 質量分析計を用いた。本
法について厚労省のガイドラインに基づく妥当性評価を行っ
た。また、本法を適用して搬入牛 2 頭の筋肉および腎臓を検
査した。
3.結 果:
(1)通知法からの改良点;① ACN による抽出回
数を 2 回から 1 回に減少 ② n- ヘキサン液液抽出を脂質除去
に有効な ODS および PSA の分散固相抽出に変更 ③シリカ
ゲルカラムによる精製の追加 ④マトリックス(夾雑物)添加
標準溶液を用い、イオン化抑制による回収率の減少を補正 ①~④により操作が簡便化し、回収率が改善した。また、精
製率がさらに向上し、クロマトグラフ上でベースラインが安
定した。
(2)妥当性評価;真度、併行精度、室内精度の全てに
おいて目標値を満たした。
(3)本法による残留検査;全て不検
出であった。
4.考察および結語:通知法で低回収率の原因に、MNS の nヘキサンへの移行、煩雑な操作に伴うロス、マトリックスに
よる測定時の MNS のイオン化抑制作用等が推察された。本
法では抽出溶液の検討、固相抽出の採用で操作が簡便化し、
LC/MS による測定で安定した回収率を得ることが可能となっ
た。また、本法は、妥当性が確認されたことで行政検査とし
て適用でき、今回、搬入牛について安全性を示す上で役立て
ることができた。
― 89 ―
演題番号:E7
と畜検査技術の標準化を目的とした豚の尿毒症保留基準の検討
○金本永芝,川波恵子,山本彩加,南川喬子
三重県松阪食肉衛検
1.はじめに:尿毒症は一般に、
「腎機能不全および尿排出不
全により、尿中の代謝産物が血中に蓄積され、その結果起こ
る症状群」と定義される。しかし、消費者に正常な食肉のみ
を提供すると畜検査の観点からは必ずしも症状群に固執せず
に、
「尿老廃物が体内に蓄積された状態にあるもの」ととらえ
ることが実際的と考えられている。と畜場法では尿毒症の家
畜は全部廃棄の対象で、尿毒症を疑う家畜は保留をして、血
液尿素窒素(BUN)の測定を行い、合否を判定するが、その保
留判断については検査員によりばらつきが生じることは否定
できない。当検査所でも、豚の尿毒症の保留判断についてば
らつきがあった。そこで、過去の豚の腎病変と BUN の値の相
関の報告を元にして、平成 27 年 9 月より、豚のと畜検査にお
いて、腎病変を主とした尿毒症の保留基準を設け、検査員の
技術の標準化を検討した。
2.材料および方法:内臓検査を行う前に検査員が腎病変を
確認することとし、過去の報告から保留基準を設けた。標準
化前の平成 26 年 4 月から平成 27 年 8 月の期間に、管轄と畜
場に一般畜として搬入された豚 109,402 頭のうち、尿毒症の
保留頭数とその内の全部廃棄頭数と、標準化後の平成 27 年 9
月から平成 28 年 7 月の期間に、一般畜として搬入された豚
62,669 頭のうち、尿毒症の保留頭数とその内の全部廃棄頭数
で比較検討を行った。
3.結 果:標準化前の尿毒症保留は豚 2 頭で、その内の全
部廃棄は 0 頭であった。標準化後の尿毒症保留は豚 8 頭で、
その内の全部廃棄は 1 頭であり、全部廃棄の 1 頭は尿毒症を
疑う所見が腎病変のみで、BUN は 153 mg/dl であった。
4.考察および結語:尿毒症を疑う所見が腎病変のみでも、
BUN が高値を示す豚は、と畜検査合格とはし難い。今回の検
討で標準化前と比較して、標準化後は尿毒症保留の頭数が増
え、また、BUN の測定で高値を示したことから、全部廃棄し
た事例もあった。また、内臓検査を行う前に腎病変の確認を
行うことで、尿毒症保留時には内臓と枝肉を確保し、全部廃
棄にも速やかに対応できた。このことから、尿毒症を疑う豚
を発見するため、保留基準を設け、検査員の技術の標準化を
図ったことは、有効だったと考えられ、今後も継続していく
ことで、安全な食肉の提供に寄与できると思われる。
演題番号:E8
干物製造業者におけるヒスタミン食中毒事例について
○硲 一樹 1),高木文徳 1),山東史典 1),岸尾美公 1),坂本広典 1),雑賀博子 1),東嶋祐興 2)
1)
和歌山県新宮保、2)和歌山県海南保
1.はじめに:平成 27 年 5 月、管内で製造されたウルメイワ
シ加工品を原因とするヒスタミン食中毒が発生した。食中毒
後、当該施設の改善指導を行い、県内の干物製造業者に対し
アンケートを実施し、今後の監視指導方法を検討した。
2.材料および方法:当該施設に対し、3 日間の営業停止処分
を下し、原因食品と同一ロットであるウルメイワシ丸干しを
回収させ、温度管理について指導及び汚染工程の検証を行っ
た。その後県内干物製造業者50業者にアンケートを実施した。
3.結 果:
(1)指導内容:冷凍保管庫の温度管理等の徹底
(2)汚染工程の検証:搬入直後ではヒスタミンは定陵下限値以
下であったが、乾燥工程を追うごとに生成されていく結果と
なった。
(3)アンケート結果:①乾燥方法では、天日干しと屋
内乾燥を行っている業者がほぼ同数であった。②アレルギー
様症状に関する苦情を受けたことのある業者は 1 業者のみで
あり、自身でアレルギー様症状を経験したのは 2 業者のみで
あった。③約半数の業者がヒスタミンについて知っていると
回答した。④干物喫食時にヒスタミン食中毒発生の可能性を
認識していた業者は約 4 割であった。この業者のうち、ヒス
タミンがどのような工程で生成されるか知っておりかつ対策
を行っていると回答した業者は約半数であり、知っているが
対策を行っていないと回答したのは約 3 割、どのような工程
で生成されるか知らなかったと回答したのは約 2 割であった。
4.考察および結語:本事例では、患者が喫食後短時間でア
レルギー様症状を呈しており、残品及び同一ロットの製品か
ら高値のヒスタミンが検出されたことから、製造業者による
食中毒事例と断定した。検証により、乾燥工程を経ることで
ヒスタミン値が増加したので、4 日間の冷風乾燥を経て高値
のヒスタミンが生成されたと考えられた。和歌山県では、海
産物が豊富であるため、干物製造業者は多くみられる。これ
らの業者にアンケートを実施したところ屋内での冷風乾燥を
行っている業者は約半数を占め、ヒスタミン食中毒発生の可
能性を認識していた業者は約 4 割であった。このうち対策を
実施している業者はさらに減少し、ヒスタミン検査を行って
いる業者はいなかった。食中毒予防のため、今後は監視指導
だけでなく事業者への啓発活動及び乾燥方法の検討を勧める
など予防のために更に指導を行っていく必要があると感じた。
― 90 ―
演題番号:E9
舞鶴港における不法上陸猫事例と全国自治体の対策実態調査
○岡本裕行 1),山本京子 2)
1)
京都府生活衛生課,2)京都府中丹東保
1.はじめに:京都府の舞鶴港は、重要港湾に位置づけられ
る国際港である。京都府では外国からの犬や猫が狂犬病予防
に係る検疫がないまま上陸すること防ぐため、
「舞鶴港におけ
る不法上陸犬連絡会(以下、連絡会)」を設置し、毎年、情報
交換等行っている。今回、ロシア船から猫が不法に上陸する
事案に遭遇したため、連絡会の連携により船長等に指導した
経過及び対応策を報告すると共に、全国の国際港を管轄する
自治体に不法上陸動物対策について実態調査を行い、課題等
を検証した。
2.方法:(1)連絡会の構成メンバーは管轄の農水省動物検
疫所、府獣医師会、海上保安庁、舞鶴税関、舞鶴市、京都府
警、京都府(港湾事務所、保健所、生活衛生課等)からなる。
平成 27 年 3 月、舞鶴税関から生活衛生課に、舞鶴港に停泊
中のロシア船から猫が不法上陸したとの通報があった。
(2)平
成 28 年 6 月、全国の国際港 124 港について、管轄する 39 都
道府県を対象に、連絡会設置の有無、猫逸走時の捕獲対策の
有無、動物検疫所から国際港までの移動時間等についてアン
ケート調査した。
3.結 果:
(1)今回、船内の飼い猫が上陸したことが原因で
あった。関係機関で調整し、通報の数時間後に舞鶴税関、保
健所、舞鶴市が当該船に立入し、船長にロシア語啓発チラシ
を手交・指導すると共に、当該猫を現認した。また、再発防
止のため、舞鶴港に新たにロシア語等の啓発看板を設置する
と共に、猫の捕獲対応が必要な場合、舞鶴市の有害鳥獣対策
部局の小動物用檻を使用できる体制を確立した。
(2)全国調査
の結果、連絡会を組織しているのは 3 自治体、逸走猫の捕獲
対応が可能なのは 11 自治体のみで、捕獲体制未整備の自治体
が 28 あった。また、動物検疫所から国際港への移動に 3 時間
以上必要な港が 32 港、14 自治体もあることが判明した。
4.考察および結語:本府では定期的に連絡会を開催して、非
常時対応や緊急連絡網の確認を行っていたことから、今回の
不法上陸猫事例にも円滑な対応や再発防止策が講じられた。
一方、全国調査の結果、動物検疫所から国際港への移動に半
日近くも必要な港が 14 自治体あったことから、初動対応は地
元自治体が担わざるを得ないことが明らかになった。初動体
制整備のため、連絡会の設置を検討する必要性があると思わ
れる。また、今回の事例を通して、猫の捕獲手段整備が水際
対策の課題であることが判明した。
演題番号:E10
リアルタイムPCR 法によるB 型インフルエンザウイルスの同定及び系統型別の同時検査法
○押部智宏,荻 美貴,髙井伝仕,近平雅嗣,秋山由美,望月利洋
兵庫県健生研
1.はじめに:B 型インフルエンザウイルスは、抗原性の違い
により Yamagata 系統と Victoria 系統に分類される。近年の
流行動向では、同時期に両系統の流行が見られており、次季
のワクチンの選定等において、これらの流行状況の把握が重
要となっている。今回、B 型ウイルスの同定と同時に系統の
型別を行うことを目的として、インターカレーター法で B 型
ウイルスを検出し、融解曲線解析により系統の型別を行うリ
アルタイム PCR 法を開発したので報告する。
2.材料および方法:今回開発したプライマーは、ウイルス
ゲノムのデータベースを用いてヘマグルチニン(HA)遺伝子
の HA1 領域に設計した。PCR 産物の全長は 199bp であり、
GC 含量は、Victoria 系統:約 42 %、Yamagata 系統:約 45 %
であった。陽性コントロールは、当所で分離した B 型ウイル
ス株を用いてプラスミドを作製した。また、本法の有用性と
他の呼吸器系の病原体との交差反応の有無を検討するため、
2011/12 から 2015/16 シーズンに患者から採取され、病原体
が同定された咽頭・鼻腔拭い液等の臨床検体を使用した。ウ
イルス RNA はキットで抽出し、逆転写酵素により cDNA を
合成し、リアルタイム PCR を行った。
3.結 果:今回開発した検査法では、10~100 コピー /tube
が検出限界と推定された。また、臨床検体に適用した結果、
ウイルス分離や既報のリアルタイム PCR 法で B 型と同定され
た 235 検体中 230 検体(98 %)が本法で同定された。融解曲線
解析で得られた B 型 Victoria 系統(n=114)の Tm 値(平均値±
SD)は 80.6 ± 0.40、Yamagata 系統(n=116)は 82.4 ± 0.38 と
なり、この差を検出することで系統の型別が可能であった。
その他、FluA、hMPV、RSV、AdV、百日咳菌等の呼吸器系
の検体に交差反応は見られなかった。
4.考察および結語:本法を検討した結果、B 型ウイルスの同
定に十分な検出感度を持つこと、同時に系統が型別できるこ
と、さらに、高い特異性を持つことから有用な検査法である
ことが示された。また、高価な TaqManプローブ等を必要と
しないことから、低コスト化が図られる。ウイルス分離の際
の同定においても、従来の赤血球凝集阻止試験法ではなく、
本法を採用することにより、省力化、迅速化が期待できる。
― 91 ―
演題番号:E11
三重県におけるノロウイルス GⅡ.17の流行状況とその特徴
○楠原 一 1),赤地重宏 1),西中隆道 2)
1)
三重県保環研,2)
(一財)サナテック
1.はじめに:2014/15 シーズンに県内で多発した食中毒等の
集団事例から,これまでに検出例の少ない遺伝子型(GⅡ.17)の
ノロウイルスが相次いで検出された。そこで同時期に小児の
感染性胃腸炎から検出されたノロウイルスの遺伝子型を決定
し,両者における流行状況の比較と GⅡ.17 の動向を調べた。
また,医療機関で汎用されるノロウイルス簡易検査キットに
より GⅡ.17 が検出可能であるか検討した。
2.材料および方法:
(1)2014 年 11 月から 2016 年 3 月までに
県内で発生した食中毒事例,有症苦情事例等の集団事例およ
び三重県感染症発生動向調査で小児の感染性胃腸炎の患者か
ら採取された糞便を検体として,ノロウイルスのリアルタイ
ム PCR を実施し,陽性例については N/S 領域の塩基配列をも
とに遺伝子型を決定した。
(2)検体の一部について,市販の簡
易検査キットを使って検査を実施した。
3.結 果:(1)2014/15 シーズンに多発したノロウイルスを
原因とするほとんどの集団事例から GⅡ.17 が検出された。し
かし,4 月以降はノロウイルスによる食中毒と断定された事例
はなく,散発的に有症苦情事例等が報告され,その半数近く
からは従来の流行株(GⅡ.4)が検出された。一方,調査期間を
とおして小児の感染性胃腸からの GⅡ.17 の検出は少なく,集
団事例と比較して検出されるノロウイルスの遺伝子型に違い
が認められた。
(2)GⅡ.17 の検体は,遺伝子が 108 コピー以上
でも簡易検査キットでウイルスが検出できない場合があり,
従来の流行株と比較して検出されにくい傾向が認められた。
4.考察および結語:2014/15 シーズンは,複数の事例で飲食
店の従業員からも GⅡ.17 が検出されたことから,成人の間で
GⅡ.17 が流行していたと推測され,食品を介した健康被害の
拡大につながったと考えられる。一方でこれまで小児の間で
GⅡ.17 の流行は認められていない。このような流行株の違い
が今後も続くのか,引き続き動向を監視したい。また,GⅡ.17
は十分なウイルス量があるにも関わらず簡易診断キットでは
陰性となりやすく,その使用は注意が必要である。以上の成
果を県内外に広く情報提供したところ,多くの問い合わせが
あり,関係機関においてノロウイルス対策の一助となる情報
になったと考えられた。今後も遺伝子型の調査を継続する予
定である。
演題番号:E12
レジオネラ属菌により高濃度汚染された入浴施設への対応事例
○大野哲司,樋口奈津子,長坂裕二
三重県桑名保
1.はじめに:レジオネラ症は、医師から保健所への届出が必
要な感染症で、感染原因として入浴施設が疑われる場合は、
施設所在地の保健所に患者情報が提供され、当該施設に対し
調査実施される。今回、3 度目の調査で、当該施設は循環系
の問題でなく、貯湯タンクの維持管理が不適であったことが
主な原因と考えられた。
2.材料および方法:
(1)過去2回の調査内容:ア.平成21年11
月:A 自治体から情報提供。浴槽水から 20~2900 cfu/100 ml
のレジオネラ属菌を検出。浴槽水のレジオネラ属菌陰性化に
難渋したが、最終的に陰性を確認。イ.平成 25 年 12 月:B
自治体から情報提供。浴槽水の行政検査でレジオネラ属菌は
陰性。1 回目以後の自主検査で浴槽水は毎年陰性。
(2)今回の
調査:平成 27 年 7 月:C 自治体から情報提供。過去 2 回の調
査結果をふまえ、貯湯タンクを含む入浴施設全体水系のレジ
オネラ属菌検査と、施設の衛生状況調査を実施。
3.結 果:浴槽水の残留塩素濃度は実測値 0.05~0.2 mg/L。
浴槽水から 98~9500 cfu/100 ml、貯湯タンクから 30000 以上
cfu/100 ml のレジオネラ属菌を検出。循環系の設備の衛生状
況はおおむね良好であったが、貯湯タンクの昇温機能は 50℃
まで、塩素剤添加はなし。貯湯タンク等にヌメリを確認。源
泉は 5 km 先から 16 時~22 時にパイプラインで配湯。源泉は
温度 35℃、pH 8.4 のアルカリ性温泉水。
4.考察および結語:当該施設は、源泉がレジオネラ属菌で
汚染されている可能性が高く、貯湯タンクに塩素系殺菌剤の
添加や 60℃以上の加温がないため、タンク内でレジオネラ属
菌が増殖していたと考えられた。さらに、アルカリ性の温泉
水は、残留塩素濃度 0.4~0.6 mg/L の高濃度で殺菌する必要が
あるが、浴槽水は 0.2 mg/L 以下と低く、レジオネラ属菌を十
分殺菌できなかったと推察される。そのため、レジオネラ属
菌で高濃度汚染されたタンク内の源泉が、配管・浴槽等設備
内に侵入・定着しヌメリ(=生物膜)ができ、汚染が拡大した
と考えられた。今回の施設のように、入浴施設の監視や調査
では、調査が浴槽水や浴室等浴場設備のみに留まり、根本的
原因の除去がされず、レジオネラ属菌の発生を繰り返す施設
もある。発生を繰り返さないために、調査時には入浴施設の
全体水系を総合的に判断し、指導する必要がある。
― 92 ―
演題番号:E13
と畜場で発見された牛のロドコッカス・エクイ感染症の一例
○中川涼子 1),茂木啓陽 1),林 和秀 1),大庭 要 2),徳山京里 2),角田 勤 2),高井伸二 2)
1)
四日市市食品衛検,2)北里大
1.はじめに:ロドコッカス・エクイ感染症は、Rhodococcus
equi(以下、R.equi)によって起こり、主に仔馬に重篤な肺炎
や腸炎を引き起こす感染症である。今回、一般畜として搬入
された牛が敗血症で全部廃棄となり、分離された菌が R.equi
であった。当該牛は、解体後検査において肺の多発性腫瘤お
よびリンパ節の腫大が認められた。
2.材料および方法:一般畜として搬入された黒毛和種、牝、
19ヶ月齢について、肝臓、腎臓およびリンパ節を、血液寒天
培地にて培養を行った。分離された菌について、生化学性
状検査および R.equi 特異的 choE 遺伝子 PCR を行い、さらに
R.equi の病原性プラスミドの解析を行なった。また、リンパ
節の HE 染色およびグラム染色(ハッカーの変法)を行った。
3.結 果:
(1)肉眼所見:当該牛は、解体後検査にて、肺に
多発性の腫瘤がみられ、肺門、肝門、腸間膜、第四胃のリン
パ節が腫大していた。腫大していたリンパ節は、硬く、肉様
で、白色砂粒状の病巣がみられた。
(2)微生物学的検査:好気
培養で、肝臓、腎臓および各リンパ節から類似したコロニー
形態の菌が分離された。分離された菌は、生化学性状検査お
よび choE 遺伝子 PCR から R.equi であると判断した。vapA、
vapB、vapN 特異的 PCR を行ったところ、vapN 陽性であるこ
とがわかった。
(3)病理組織学的検査:HE 染色では、肺門、肝
門、第 4 胃のリンパ節において、髄質で、多数のマクロファー
ジの浸潤、類上皮細胞やラングハンス型巨細胞が認められ、
肉芽腫巣を形成していた。グラム染色ではマクロファージ内
に球桿菌様の菌体が確認できた。
4.考察および結語:本症例は、多臓器から R.equi が分離さ
れ、病理組織学的検査により特徴的な肉芽腫病変がみられた
ため、ロドコッカス・エクイ感染症であると判断した。牛の
ロドコッカス・エクイ感染症の報告は稀である。病原性プラ
スミド解析において、vapN 遺伝子が検出された。vapN 保有
菌による牛のロドコッカス・エクイ感染症は、本邦初であ
る。今回の症例が敗血症という重大な病態を呈していたこと
から、牛のロドコッカス・エクイ感染症が、全部廃棄となり
うる重要な疾病であることがわかった。また、病変が肺やリ
ンパ節に多く、肉芽腫を作る結核様の病相を示すため、その
鑑別も重要である。
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平成 28 年度日本産業動物医学会(近畿)・
日本獣医公衆衛生学会(近畿)合同
ランチョンセミナー
A 会場(B3 棟 116 号室)
時間(12:00 ~12:40)
講 演
フルオロキノロン系抗菌薬の特徴を
最大限生かすための使用法
バイエル薬品株式会社
池端敬太
座 長
大阪府立大学大学院 応用薬理学教室
東 泰孝
協賛:バイエル薬品株式会社
当セミナーには、 弁当がつきます(先着 70 名)
フルオロキノン系抗菌薬の特徴を最大限生かすため使用法
バイエル薬品株式会社
池端敬太
動物の感染症治療に用いられる抗菌薬は、MIC 以上の濃度が保たれる時間が長いほど高い臨床効果が期待
できる「時間依存性抗菌薬」と、Cmax/MIC(最高血中濃度 / 最小発育阻止濃度)あるいは、AUC/MIC(血中
濃度曲線下面積 / 最小発育阻止濃度)が大きければ高い臨床効果が期待できる「濃度依存性抗菌薬」とに分類
される。フルオロキノロン系抗菌薬は「濃度依存性抗菌薬」に分類される。
抗 菌 薬 を 安 全 に か つ 効 果 的 に 使 用 す る た め に は、PK(Pharmacokinetics; 薬 物 動 態 学 )と PD
。
(Pharmacodynamics;薬力学)のパラメータを総合的に判断することが重要と言われている(PK/PD 理論)
PK とは薬物の生体内での吸収・分布・代謝・排泄などの薬物動態を表すもので、Cmax や AUC などが代表
的な指標である。PD とは細菌に対する薬物暴露濃度と薬効の強さとの関係を表すもので、MIC や PAE など
が代表的な指標である。
また、PK/PD 理論に基づいた抗菌薬の使用は、薬剤耐性菌の選抜を抑制する意味でも重要と言われている。
本講演では上記に関連する内容について、エンロフロキサシン製剤「バイトリル」の知見を用いて紹介する。
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