酔った女の子のセックス

22 不貞行為の意義
最高裁判所昭和 48 年 11 月 15 日第一小法廷判決
(昭和 48 年(オ)第 318 号離婚等請求事件)
民集 27 巻 10 号 1323 頁、判時 728 号 44 頁
1010010054
法律学科
坂口
<事案>
X女・Y男は昭和42年3月に婚姻をし、A子をもうけた。
↓
Aが生まれた翌年から、Yは友人B男と謀って、5 人の女性に対し
輪姦あるいは強姦未遂行為を繰り返す。
↓
被害女性の通報により、始めた時から8ヵ月後に逮捕。
通常、「不貞行為」
その 5 ヵ月後、強姦、猥褻誘拐未遂の罪により懲役 3 年の刑に処せられ、服役中。
が離婚事由となる
↓
ためには、1回だけ
Xは上記のYの一連の行為は770条1項 1 号の不貞行為に当たるとして離婚
ではない反復した
(+子の親権者をXとすること、慰謝料等)の請求をする。
「不貞行為」が必要
とされるため
↓
1 審で、Yは「他の女との1回の性行為は不貞行為とは言い得ない」などを主張。
しかし、Xの請求が認められる。Yは控訴。
↓
2審で、Yは「離婚原因としての不貞行為とは、貞操義務違反行為をさし、配偶者である者が配
偶者以外の者と性的行為を結ぶことであって、内心的には自由意志を必要とし、本件のようなY
による姦淫の場合は被害者側からは自由意志がないのだから不貞行為ということはできない。
また、XがAを出産してからのXのYとの性関係の拒否がYの姦淫の誘因となった
理由なく性交を
ともいえるし、Xの本件請求は周囲の強制による面もあり、X,Y,Aの家族関係
拒絶することは、
を維持することは可能であるとして、770条 2 項の適用による離婚請求の棄却
770 条 1 項 5 号に
当たる
を求めた。しかし、2 審も姦淫が不貞行為に当たるとしてXの請求を認容。
Yから上告。
つまり
妻子(XA)持ちの夫Yが、強姦、猥褻未遂の罪により服役する。
Xは周りに「離婚しろ」と言われたこともあり、770条の不貞行為 に当たるとし、
裁判所へ離婚の請求をする。裁判所は1・2審とも、不貞行為に当たるとし、
Xの請求を許容した。そして、Yから上告。
1
<争点>
① 離婚原因としての不貞行為とはなにか。
② 不貞行為については行為を行うについて行為者双方の自由意志が必要か。
③ 不貞行為による離婚請求について 770 条 2 項を適用すべきか。
<判旨>
上告棄却。
・ 770条1条1項1号所定の「配偶者に不貞の行為があったとき」とは、配偶者ある者が、
自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうものであって、この
場合、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わないものと解するのが相当で
ある。
・ 原判決が確定した事実によれば、Yは約6ヶ月間Bと共謀のうえ、自己の自由な意思にもと
づいて、自ら婦女 3 名を強いて姦淫し、性的関係を結んだというのであるから、Yに不貞な
行為があったと認めるのが相当であり、これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認する
ことができる。
・ 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右
事実関係のもとにおいては、本件につき770条2項の規定を適用しなかった原審の判断は、
正当として是認できる。
770条 2 項の適用の可能性は
本件で否定されているように、
ほかの判例でも、
適用されるのは稀である。
2
(裁判上の離婚)
第 770 条①
ポケット六法平成 22 年版P468 中段 引用
夫婦の一方は、次に揚げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一
配偶者に不貞な行為があったとき。
二
配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三
配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五
その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
② 裁判所は、前項第一号から第四号までに揚げる事由がある場合であっても、一切の
事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することがで
きる。
<不貞行為とは何か>
争点①、②
一夫一婦制に反する行為、その他貞操義務に反する行為であり、最高裁では、この不貞行為を
「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と解釈し
ている。また、旧法において離婚原因とされていたもののうち、配偶者の重婚、妻の姦通及び
夫の姦淫罪による処刑のほか、夫の姦通もこれに含まれる。判例の中には、必ずしも相手方の
自由意志の存在を有するものではないから、男女の自由意志に基づく肉体的結合だけでなく、
強姦も不貞行為に含まれる、とするものがあり、また、夫から生活費が支給されなくなり、自
らと子の生計を維持するためにやむをえず行った妻の売春も、不貞行為となる。
つまり
浮気といっても
デートや、
キスなどは
含まない。
「浮気」のこと。配偶者以外の人と性的関係を結ぶことや、強姦など、
悪いことをしたら、離婚の原因になる。
自由意思を欠く場合として、配偶者以外の者からの 強い働きかけによって不貞行為がなされる
場合もあろうが、そのような場合であっても不貞行為を回避する義務が求められる。とはいえ、
強姦の被害者となった場合や、心神喪失の状況で性的関係をもった場合などは、不貞行為と解す
べきではない。
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Q では、なぜ『通常、「不貞行為」が離婚事由となるためには、1回だけではない反復
した「不貞行為」が必要とされるため。』なのか。(P.1 ふきだし)
(770条 2 項 離婚請求の棄却)
争点③
配偶者の一方が他方に不貞行為や悪意の遺棄があったとして離婚を請求しても、他方がその行
為を悔い改めて婚姻の継続を望む場合には、裁判官が婚姻の継続を相当と判断すれば、離婚請
求を棄却しうる。
つまり
条文にある
「一切の事情」
というのは
たとえ 1 回限りであっても配偶者以外と性的関係をもてば、
その行為は「不貞行為」に違わないが、
本人も深く反省しているという場合には、一時的な気の迷いとして、
婚姻関係は夫婦の努力しだいで修復可能と裁判所に判断されることもある。
『相手の悪事
の程度・内容、
反省の態度』
などのこと
これは、
「肉体関係未満は不貞行為ではない」「1 回限りの不貞行為は許される」
というわけではなく、裁判上の離婚原因として認められる「不貞行為」とは
ある程度の継続性のある肉体関係を伴う男女の関係を指す。
<770条2項が適用される例>
次々と妾をつくる等の不貞行為をした夫に対する妻からの離婚の請求の場合。
夫の経済上の能力や反省等を理由に、不貞行為を認めつつも離婚の請求を棄却した。
(東京地裁
昭和30年5月6日。判例時報51号12頁。ジュリスト90号90頁)。
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<ではこんな時は?>
Q1 夫婦の収入では生活費を賄うことができず、家族の生活費のために売春を行った妻に対
する離婚の請求の場合。
Q2 酔った勢いで他の女性と不貞行為を行った夫に対する離婚の請求の場合。(夫は、「酔っ
ぱらいすぎて記憶がなかったのだからしょうがない」つまり、「自由な意思に基づいていない」
と主張)
A1 夫が十分な生活費を渡さない等のために売春せざるをえなくなったことは、夫に相当の
責任があることは認めなければならないが、その点については妻から夫に対する財産分与の請求
の点において考慮すれば足り、子どもを抱えて生活苦に悩む女性が生活費を得るために売春する
ことが通常であり、やむをえないことであるとは到底考えられず、婚姻の継続を強いることは相
当ではない。
A2 自由な意思に基づかない場合は不貞行為にあたらないが、自己の過失によって泥酔などの
無意識状態になった場合は不貞行為にあたる。
<番外編>
不貞行為を配偶者以外の者との「性的関係」を結ぶこととしているが、この性的関係の理解につ
いては、異性との性的関係を意味するのか、同姓との性的関係も含むのか、あるいは一夫一婦婚
の貞操義務違反をうかがわせ婚姻関係の継続を困難とする行為一切を指すのかについては議論
があるところだ。これについて、不貞行為については端的に異性との性行為と理解し、その他の
事情については770条1項5号の問題としてとらえるべきである。
つまり
現在、不貞行為とみなされるのは異性との性的関係としており、同姓愛の場合は
770条 1 項 5 号「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたる。
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<私見>
私自身の考える不貞行為とは、性的関係のみならず、手をつなぐ、キスをするなどの行為も、
不貞行為に含まれると思っていたので、法律上の不貞行為の成立は思っていたより緩いと感じた。
また、事案に関しては、妻や子がいながら他の女性に対し性的関係を結ぶ以上に、犯罪に手を出
しているということは、人としてどうかと思う。さらに、それでも離婚の棄却を求めるYが信じ
られない。離婚したくないなら、はじめからそのような行為をしなかったらよかったのにと思う。
<プチ辞書>
謀る だます
企てる
悪事の場合につかう
(P.1)
輪姦 多人数の男が次々に一人の女を強姦すること
貞操義務
(P.1)
夫婦が互いに負う貞操を守るべき義務
(=夫婦が相互に配偶者以外の者と性的関係を持たない義務)
姦淫 不正な男女の交わり
(P.1)
(P.1)
首肯 もっともだと納得すること
(P.2)
姦通 配偶者のある者(特に妻)が配偶者以外の者とひそかに肉体関係を結ぶこと
妾
正妻のほかに養って愛する女
(P.4)
(参考文献)
・松本恒雄、潮見佳男「判例プラクティス 民法Ⅲ
親族・相続」
(信山社 2010)
・柳澤秀吉、緒方直人「親族法・相続法」(嵯峨野書院
2006)
6
(P.3)