高 高校 校講 講座 座H HO OM MEE >> 生 生物 物 >> 第23回 DNA研究とその応用 第23回 第3部�遺伝 DNA研究とその応用 講師:東京都立芦花高等学校教諭�平山 大 これまで、遺伝を担う物質としてDNAのことを学習してきました。今日は、そのDNAの塩基配列がどのようにして解明 されたのか。また、どのような方法で遺伝子のはたらき調べるのか。このようなことについて学習します。また生物の進 化とDNAの関係についても見ていきます。 D DN NA A研 研究 究と とそ その の応 応用 用 今 今日 日の の学 学習 習�� こんにちは、講師の平山大です。 今日は、『DNA研究とその応用』について学習していきます。 DNAはその一部が遺伝子としての機能を持ち、親から子へと伝わり、生物の持つさまざまな形質を決めていること を学習してきました。そのDNAは、この模型のようにAとT、GとCがペアになって結びついて二重らせん構造をつくっ ています。私たちヒトは22種類の常染色体とX、Yの性染色体を持っていて、そこに含まれるDNAをつなぎ合わせる と約1mの長さになります。この1mのDNAの中には、約32億もの塩基が並んでいます。ヒトの場合、32億の塩基の 鎖の中で、4種類の塩基がどのような順番で並んでいるのか、すでに読み取られています。そして、どの部分が、ど のような遺伝子としてはたらいているのかも、ある程度わかってきています。 そこで今日は、 (1)ヒトのDNAの塩基配列は、どのようにして決められたのか。 (2)遺伝子のはたらきは、どのようにして調べるのか。 (3)そして最後に、DNAを使ってと進化を研究することについて学習します。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る ヒ ヒト トゲ ゲノ ノム ム計 計画 画 ゲノムとは、それぞれの生物のもっている遺伝情報すべてのことです。具体的にいうと、それぞれの生物の全DNA のATGCの並び順のことです。ゲノムは、生物によってすべて異なりますが、基本的には、この図のように高等で複 雑な生物ほどゲノムの大きさ(塩基対の数)は大きくなります。 これは、ヒトのゲノムマップです。この棒は、ヒトの1 22番目までの常染色体とX、Yの性染色体です。ゲノムマップ には、どの染色体のどの位置に、どのような遺伝子があるかが記されています。もちろん全部の遺伝子を書くことは できませんので、一部です。例えば、1番染色体には、アミラーゼをつくる遺伝子があります。アミラーゼは、だ液に 含まれている、デンプンを分解する酵素です。 このゲノムマップをつくることができたのは、ヒトゲノム計画というプロジェクトの成果です。ヒトゲノム計画で、ヒトの ゲノムの全塩基配列が明らかにされてきたからです。ヒトゲノム計画の目的は、ヒトのゲノムの全塩基配列を解読す ること、そして遺伝子を全て明らかにすることでした。解読には莫大な費用と労力が必要なため、アメリカを中心とし て、イギリス、日本、ドイツ、フランス、中国の6か国の協力により行われました。計画は1990年に始まり、2005年 に終了する予定でしたが、予定より2年早く2003年の4月に完了しました。 ヒトゲノム計画の成功には、遺伝子技術とコンピュータ技術の目覚ましい進歩が背景にあったのです。特にATGCの 配列を自動的に読んでくれるシークェンサーという機械が大きな力を発揮しました。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る シ シー ーク クェ ェン ンサ サー ーの のし しく くみ み これが、DNAの塩基配列を自動的に調べてくれる機械、シークェンサーです。 まず下準備として、配列を調べたいDNAにプライマーという薬品などを加えます。すると、調べたいDNAがコピーさ れ、長さの違うDNAがつくられます。このとき、コピーされたDNAの先端には、シークェンサーで読み取ることのでき る特殊な印の付いた塩基が結合しています。 準備ができたDNAをシークェンサーにセットすると、コピーされたDNAが長さの順に分けられます。そして、先端の塩 基を長さの順番に読み取ります。ここで読み取られた塩基の並びは元のDNAをコピーしたものの並びです。ここから 元のDNAの塩基配列がわかります。シークェンサーは、このようにして自動的にDNAの配列を読み取るのです。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る 遺 遺伝 伝子 子を をみ みつ つけ ける る方 方法 法 ヒトゲノム計画によってヒトゲノムの全塩基配列の解読が終わり、ヒトの遺伝子の数が約22000 あることがわかって きました。ではどうして、遺伝子の数がわかるのでしょうか。 実はDNAの中の遺伝子には、特徴的な塩基配列が隠れています。この隠れている遺伝子の特徴を探せばよいので す。遺伝子からはmRNAが転写され、それからタンパク質が翻訳されることを勉強しました。その翻訳を始める部分 は翻訳開始点といって、ATGという特徴的な配列があります。また翻訳終止点はTAG、またはTAA、TGAという並 びがあります。ですから、この配列を探せば、遺伝子が、どこにいくつあるかがわかるわけです。こうして現在、ヒトゲ ノムには、約22000の遺伝子があることがわかってきたのです。 この22000の遺伝子のうち、現時点ではたらきが分かっているもの、あるいは予測できているものは7割あります。 どんな遺伝子がわかっているか、ゲノムマップで見てみましょう。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る ゲ ゲノ ノム ムマ マッ ップ プ 先ほど1番染色体のアミラーゼを見ましたが、9番染色体にはABO式血液型遺伝子がありあります。これは赤血球の 表面にある糖の鎖をつくる遺伝子です。この糖の鎖によって、血液型が決まります。12番染色体には、アルデヒド分 解酵素2の遺伝子があります。この酵素は、お酒を飲んだときにできるアルデヒドを分解する酵素です。17番染色体 には、体内時計調節タンパク質をつくる遺伝子があります。私たちの体内時計をコントロールしているのが、この遺 伝子です。他にも色々な遺伝子があります。インターネットでも見られますので、興味をもった人は見てください。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る ノ ノッ ック クダ ダウ ウン ン方 方式 式と と実 実験 験に に適 適し した た動 動物 物 22000のヒトの遺伝子の約7割は、はたらきがわかっている、あるいは推定できるものです。でもまだ、はたらきのわ からない遺伝子がたくさんあります。このはたらきの分からない遺伝子のはたらきを調べることができるでしょうか。 例えば、仮の話ですが、あるはたらきのわからない遺伝子があって、この遺伝子をはたらかないようにしたら、爪が できなくなったとします。すると、この遺伝子は爪をつくるのに関係していることが推定できます。このような方法を、 ノックダウン方式といいます。こんな実験は、もちろんヒトではできませんから、他の動物を使って実験しています。 これは系統樹と呼ばれるもので、生物の進化の道筋を示したものです。右の棒グラフは、ヒトの遺伝子のうち、はた らきがわからない遺伝子の数を100としたグラフです。マウスは、はたらきがわからないヒトの遺伝子の約7割の同じ 遺伝子を持っています。メダカは約5割、ショウジョウバエでは1割ちょっとです。ヒトと同じ遺伝子をある程度持ってい る動物は、ヒトの遺伝子を調べるのに使うことができるのです。 メダカは、飼育が簡単で、卵もほぼ毎日産みます。卵が透明で観察しやすいので、実験に使うには都合の良い生物 です。メダカを使って、遺伝子のはたらきを調べている大学の先生がいるので取材にいってきました。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る メ メダ ダカ カを を使 使っ った たノ ノッ ック クダ ダウ ウン ン方 方式 式の の実 実験 験 慶應大学医学部、分子生物学教室の清水厚志先生は、メダカを使って遺伝子のはたらきを研究しています。研究 室で飼っているメダカは、1000匹以上。このメダカの卵を遺伝子の研究に使います。採取したばかりのメダカの受 精卵の直径は、約1mm。この受精卵の胚になる部分に、特定の遺伝子のはたらきを抑える薬品を入れます。そし て、その卵の発生のようすを毎日観察し、ノックダウンした遺伝子の影響を調べるのです。 この結果、清水先生の研究では、3つの遺伝子がメダカの脳の形成に重要なはたらきをしていることがわかりまし た。つまり、この3つの遺伝子はヒトの脳の形成にも関係があるのではないかと考えられるのです。 清水先生たちは、今後この遺伝子がいつ、どこではたらくのかなどを調べて、ヒトの脳の形成のしくみや、病気との 関わりについて明らかにしていこうと考えています。現在、日本だけでなく世界の生物学者が遺伝子の研究を盛んに 行っています。これらの研究が進めばゲノムマップにもどんどん新しい情報が書き加えられかも知れません。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る D DN NA Aか から ら見 見る る進 進化 化 ゲノムは、生物によってそれぞれ違っています。これを利用して、異なる生物のゲノムを比較すると、いろいろなこと がわかります。 これは、ヒトと類人猿の進化を示す系統樹です。上の方は、化石から推定した系統樹です。化石の出た地層の年 代、化石や類人猿とヒトの形態的特長を比較してつくられたものです。下の方は、それぞれの生物のDNAを比較す ることで推定された系統樹です。上の系統樹より、類縁関係がより詳しく記されています。このDNAから推定された 系統樹は、どのようにしてつくられたのでしょうか。 共通の祖先を持つ生物Aと生物Bを仮に考えます。これはその生物AとBの、ある共通遺伝子の塩基配列とします。 4か所の違いがあります。突然変異で塩基配列が変わったのです。この生物AとBは、共通の祖先から進化し、200 万年かけて今の姿になりました。これは化石の情報からわかるとします。では今の生物AとBの塩基配列は、共通の 祖先の塩基配列から何か所変化したでしょうか。 共通の祖先の塩基配列はわかりませんが、仮の配列を考えます。すると、A、Bそれぞれ2か所変化すれば、今の配 列になることがわかります。つまり200万年で2か所の変化です。ですから、この遺伝子の1個の塩基が変化するの には、200万年 2=100万年 かかると計算できます。この値をものさしにして、共通の遺伝子やDNAを持つ生物ど うしで、分岐年代を推定することができます。このものさしを分子時計と呼んでいます。 実際、オランウータンとヒトは1300万年 1600万年前に分かれたことが化石の情報からわかっています。これを 使って分子時計のものさしをつくり、ゴリラやチンパンジーとの分岐年代がわかったのです。今後研究が進んで、さら に多くの生物のゲノム情報が蓄積されると、より詳しい系統樹がかけるようになるでしょう。 ペ ペー ージ ジト トッ ップ プへ へ戻 戻る る ま まと とめ め 今日は、 ①ヒトゲノムの塩基配列は、ヒトゲノム計画によって解読された。 ②遺伝子のはたらきを調べる方法の1つとして、ノックダウン方式がある。 ③生物のゲノム、DNAの塩基配列の違いから、「分子時計」を使って進化の道筋を推定する方法を学びました。
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