Mars Observing Project

Mars Observing Project
理化学研究所
木村かおる
ハンズ・オン・ユニバース(HOU)と日本ハンズ・オン・ユニバース(JAHOU)の国際協力の一環と
して、2003 年 8 月の火星の再接近に向けて共同観測を計画している。このプロジェクトで利用可
能な望遠鏡は、科学技術館(東京)の屋上の設置された北の丸インターネット望遠鏡(KIT)と、シ
カゴ大学・ヤーキス天文台(アメリカ、ウィスコンシン州)の屋上の設置されたヤーキス・ルーフトッ
プ望遠鏡(YRTs)、24 インチ望遠鏡の 4 台である。また、日本の公共天文台や火星観測者に協力
を求め、観測内容を検討、実施したいと考えている。さらに、観測のガイドとアーカイブをオンライ
ンで公開する予定である。
1.KIT と YRTs の相互利用と共同観測
2001 年、科学技術館とヤーキス天文台は、インターネット回線を用いて遠隔操作が可能なリモ
ート望遠鏡をそれぞれ設置した。私たちは、この双方のリモート望遠鏡を HOU および JAHOU の天
文教育普及活動として相互利用している。ヤーキス天文台との共同観測は、1997 年から科学技
術館で行われている、サイエンス・ライブショー「ユニバース・ライブショー」でのライブ天体観測の
実績から実現した。
リモート望遠鏡の相互利用の利
点は、時差を利用することで、日米
の中学・高校の生徒が昼間に星を
観測し、自ら画像を取得・解析でき
ることである。実際には、日本とシカ
ゴの時差は 15 時間(夏時間では 14
[Fland-Ae より]
時間)あり、2002 年秋からシカゴ郊
外にあるオーク・パーク&リヴァー・
フォレスト高校の天文学の授業で、定期的に KIT が利用されている。また、KIT と YRTs を用いて
の共同観測は、Jupiter プロジェクト 2002、2003、Jupiter Week がある。Jupiter プロジェクト 2003
においては、日本の高校生らが YRTs と KIT を操作して、木星の衛星の連続撮影に挑戦した。こ
の観測には、日本(12)をはじめ、アメリカ(3)、スペイン
(2)、フィンランド(1)、ポーランド(1)からの参加登録が
あり、参加した観測者数は 60 名(Jupiter プロジェクト
2003 web 管理者:佐々木 貴宏氏による)であった。参加
者は中学生、高校生、大学生、教員、天文台職員、天文
学研究者、一般個人となっている。観測データは、
JAHOU のウェブ・ページで公開している。
参照:http://jahou.riken.go.jp/
現在は、8 月の火星の再接近に向けて、火星観測プロ
ジェクトの準備を進めている。
シカゴ大学ヤーキス天文台
2.KIT、YRTs と 24 インチ望遠鏡
北の丸インターネット望遠鏡(KIT
北の丸インターネット望遠鏡(KIT)
KIT)
望遠鏡:ミード LX-200
口 径:30cm F6.3
SBIG ST8E CCD, 9 ミクロンピクセル
CFW-8A フィルター切替器
0.98 秒角/ピクセル、視野角:25×16.7 分
制 御:五藤光学 CATS-I システム
CATS-I サーバー、DB サーバー、CCD カメラサーバー、
監視カメラ、雨滴センサー
ヤーキス・ルーフトップ望遠鏡(YRTs
ヤーキス・ルーフトップ望遠鏡(YRTs)と24インチ望遠鏡
YRTs)と24インチ望遠鏡
サウス スコープ
HOU 24 インチ望遠鏡
望遠鏡:ミード LX200
望遠鏡:Boller & Chivens
口径:20 センチメートル F6.3
口径:24 インチ F13.5
SBIG ST-8 CCD, 9 ミクロンピクセル
Apogee Ap7p CCD, 24 ミクロンピクセル
CFW-8 フィルター切替器
0.62 秒角/ピクセル
1.45 秒角/ピクセル、視野角:37.1×24.7
HOU-ELM ノース スコープ
望遠鏡:ミード LX200
口径:25 センチメートル F10
SBIG ST-9 CCD, 20 ミクロンピクセル
CFW-8 フィルター切替器
1.62 秒角/ピクセル、 視野角:13.8×13.8
3.NASA プロジェクト – SSIT Space Day への参加
2003 年 1 月に、ヤーキス天文台のビビアン・ヘディ氏および、NASA センターのジム・シュバイツ
ァー氏より、5 月 1 日にシカゴのデュ・ポール大学で開催される Space Day において、現地から KIT
を操作したいという依頼があった。そこで、シカゴ大学によって運営される NASA IDEAS: Explore
and Discover Observing(EDO)プロジェクトの一環として、日米の教師と生徒のために火星の観測
プロジェクトを計画することになった。EDO プロジェクトは、研究者、教師、生徒が一緒に観測の計
画を作り、天文学者らがその活動をサポートするというものである。その活動には、リモート望遠
鏡を使っての観測も含まれている。そこで、今までの実績を踏まえて、火星をターゲットにした
Space Day に参加することになった。また、日本の公共天文台の協力が得られないだろうかという
相談を受け、このイベントへの協力を呼びかけたところ、美星天文台、みさと天文台、西はりま天
文台から参加の意思表明があり、(株)アストロ・アーツの協力により、火星のインターネット中継
が実現した。デュ・ポール大学での Space Day は、シカゴエリアの小中学生と教師を対象に行われ、
約 250 名の参加があった。
Space Day では、
1) 日米の観測協力によって、何ができるかをさぐる。
2) 日本の望遠鏡を操作することで、リアルタイムに天体画像を手に入れることができることを
知る。
3) インターネットを用いることで、さらに大きい望遠鏡で観測された画像にアクセスでき、その
画像を利用できることを体験する。
ことを目的とした。デュ・ポール大学のスタッフにより、会場には今年 8 月に再接近する火星をテー
マに 6 つのハンズ・オン活動を用意された。また、生徒たちによる火星のポスター発表や、太陽系
探査についての講演も催された。
Space Day のハンズ・オン活動は次の通りである。
(1) Finding Mars in the planetarium sky - Star Lab
(2) Where is Mars in the Solar System and how does it
compare with other planets?
(3) How do rockets work?
(4) How can we land safely on Mars?
(5) How do robots explore Mars?
(6) Displays of students' projects and research.
*Operating a REMOTE TELESCOPE,
LIVE Mars Images from JAPAN
Space Day での様子
コンピュータのコーナーでは、アストロ・アーツで作成していただいた Space Day のウェブ・ページ
を紹介した。このウェブ・ページでは日本の地理、日本とシカゴの時差、天候を調べることができ、
各天文台や NASA や火星のプロジェクトへのリンクを張った。当日各天文台で撮像された火星の
画像や会場の様子の写真は、画像を添付したファイルを指定したアドレスに送信することで、自動
的にウェブ・ページにアップロードされるようなシステムを作っていただいた。また午後からは、生
徒たちが実際に KIT を操作し、メシエ天体や火星の撮像を試みた。このイベントでは、美星天文
台・川端氏、みさと天文台・豊増氏、西はりま天文台・時政氏、KIT 管理者グループとアストロ・アー
ツ:安喰氏、泉水氏、本庄氏、上山氏にご協力いただいた。
参照:http://www.astroarts.co.jp/special/spaceday2003/
4.Mars Observing Project
Mars Observing Project では日米の共同観測で何ができるのかを探り、日本のアマチュア観測
者や公共天文台への協力を呼びかけ、観測プログラムを作成したいと考えている。このプロジェク
トでは、「つねに新しいデータを提供すること」を目標にしている。
現在、考えられる観測方法は、
‹火星の動きを追いかけろ!順行・留・逆行
半月おきに火星を含む星野写真を取り、火星の動きを調べる。順行・留・逆行の日付けを求める。
星図を用意し、なるべく同じ条件で撮影したデータを集めて解析する。三脚とデジタルカメラあるい
は 35mm 判一眼レフカメラを使用して撮影する。6 月~12 月、7 月 31 日と 9 月 29 日が留。HOU-IP*
および Q-FITS**を使い解析を試みる。
‹火星の軌道を求めよう!
上記の観測をさらに続けて、火星の軌道を描いてみる。火星の軌道が楕円形であることを確か
める。発展として、ケプラーの第二法則を確かめてみる。
‹火星の大きさを測る
火星の見かけの大きさを測り、火星までの距離の変化を求める。HOU-IP および Q-FITS を使い
解析を試みる。5 月上旬~12 月中旬。ヤーキス天文台 24 インチ望遠鏡。視直径は、5 月上旬:
9.5°、8 月下旬:25°、12 月下旬 9°。
‹火星の四季:極冠の大きさ
極冠の大きさの変化を調べ、火星の季節変化を調べる。HOU-IP および Q-FITS を使い解析を
試みる。ヤーキス天文台 24 インチ望遠鏡。
‹火星の模様から、自転周期を調べる
火星の目立つ模様に注目し、火星の自転周期を求める。
注釈)HOU-IP*および Q-FITS**
FITS 形式のファイルを表示するツール。HOU-IP は有償で HOU のサイトから手に入れるこ
とができる。参照: http://www.handsonuniverse.org
Q-FITS は、KIT 管理者グループの小池邦明氏が開発したもので、フリーソフトである。利用
に関しては、フィードバックをお願いしている。動作環境は windows2000 以上。
参照: http://jahou.riken.go.jp/~koike/QFITS
火星の観測については、月惑星研究会の池村氏と安達氏から貴重なアドヴァイスをいただいた。
火星の撮影する際に、赤と青のフィルターを使用するとよいこと。赤いフィルターでは、地表の様
子が観測でき、青いフィルターは雲の様子を観察できる。大黄雲が発生したときなど、両方の画像
を比べることにより、雲の広がる様子を観測できる。極冠の様子を撮影するときには、火星の中央
経度を決めておくこと。火星の自転速度は地球とほぼ同じであるため、日米で画像を提供しあうこ
とで、お互い観測できない領域を調べることができる。共同観測の 1 つに、火星のなぞの発光現
象を加えるのも面白いと思った。また、webcam を用いた観測方法などを教えていただいた。さらに
池村氏が作成した火星のシミュレーションを使うことで、火星観測の初心者でも火星の表面の様
子を想像することが容易になるであろう。このシミュレーションは、是非利用させていただこうと思
った。
今のところ KIT および YRTs を活かした観測は何か、思いつかないが、再接近の頃には、これら
の望遠鏡と 24 インチ望遠鏡でのビデオによる撮影も検討している。また、日本での火星観測のイ
ベント、プロジェクトがあれば可能な限りデータは提供したいと考えている。火星の観測を通じ、国
際協力の輪を広げ、次の金星のイベントにつなげて行けたと思う。
5.Northwestern 大学---コラボラトリー・プロジェクト
ノースウエスタン大学(アメリカ:イリノイ州)のコラボラト
リー・プロジェクトは、幼稚園から高校までの教師と生徒を
対象に、インターネット技術を楽しく利用して学べるプログ
ラムを提供している。コンテンツの作成、プログラムの利
用、情報の共有、オンラインによる質問、e メールの利用、
チャット、テレビ会議システムによる遠隔授業が可能であ
る。また、このプログラムを利用するにあたってのコンサ
ルタント、トレーニング、技術サポートや情報公開も行って
いる。
HOU では 2002 年春よりノースウエスタン大学と協力し、天文学分野のコンテンツ、Saturn Week、
Jupiter Week、Get To Know the Moon や NFSI - SKYWatch North などを提供してきた。Mars
Observing Project も、このコラボラトリー・プロジェクトを利用して、プロジェクトのコンテンツをウェ
ブで提供することを計画している。しかし、コラボラトリー・プロジェクトは日本語には対応していな
いので、日本語でのサイトを準備する必要がある。アストロ HS との協力が可能であれば、双方の
コンテンツの有効利用を考えていきたい。参照:http://collaboratory.nunet.net/