日本バイオロギング研究会会報 第22号 - 生物圏情報学講座

ミナミマグロに標識を装着する調査員(写真提供:藤岡 紘)
日本バイオロギング研究会会報
第22号
日本バイオロギング研究会会報 No. 22
発行日 2008年3月1日 発行人 荒井修亮 発行所 日本バイオロギング研究会
〒606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 生物圏情報学講座内
電話 075-753-3137 Fax 075-753-3133 E-mail [email protected]
Contents
ミナミマグロを追いかける
藤岡 紘(長大院生産)
2
17th Biennial Conference on the Biology of Marine Mammalsへの参加報告
菊池夢美 (東大海洋研)
2
国際ウミガメ会議参加報告 (28 th Annual Symposium on Sea Turtle Biology and Conservation)
渡辺国広(東大海洋研)
3
山に登って、ジュゴンの観察―ジュゴン調査報告2008―天本奈々子 (京大院情報)
4
第5回世界水産会議のお知らせ
4
研究会事務局
日本バイオロギング研究会総会を3月30日東海大学海洋学部にて開催します
(1)
Field Report
ミナミマグロを追いかける
2008年2月25日
藤岡 紘 (長大院生産)
ミナミマグロに発信器を装着する筆者(写真左)。揺れる船上で
の手術はなかなか難しい。 Tasmanian giant crabを持ち上げる
も顔が引きつる筆者(写真右)。この大きなキングクラブは普段
ロブスター漁をしている船長のTonkinが仕掛けた籠で漁獲した
ものである。容易に人の腕を折る力を持っているらしい・・・
発信機装着個体を確保すべく、大海原でミナミマグロを漁獲するための仕掛けを見つめる
調査員ら。航海期間は13日間にも及んだ。その過酷さは筆者(右)の表情が物語っている
2008年1月中旬から2月初旬にかけて、オーストラ
リア南西海域においてミナミマグロ未成魚の標識放
流調査を行った。この夏期で6年目となる本研究は、
当海域に越夏滞留するミナミマグロ未成魚の回遊動
態を解明するために、来遊した魚に発信器を埋め込
み放流して、大陸棚にカーテン状に配置した受信機
でモニタリングするというものである。私の参加した標
識放流調査ではミナミマグロを曳縄で漁獲し、38個
体に発信器を装着して放流することに成功した。標
識魚の分布状況は受信機で記録されるため、受信
機回収予定である5月が楽しみである。また、ミナミ
マグロの他にはカツオ、ハガツオ、ゴマサバ、バラ
クーダが漁獲された。。。。。。。。。。。。。。
Conference Report
17th Biennial Conference on the Biology of Marine
Mammalsへの参加報告
2008年2月26日 報告者:菊池夢美(東大海洋研)
2007年11月29日から12月3日、南アフリカ共和
国のケープタウンで第17回国際海棲哺乳類学会
が開催されました。初の国際学会、これを機に海
外の 研究者の方達に話しかけてみようと意気込ん
でいたのですが初日のパーティーはこのような状態
で、名札だけで顔も知らない人を探すのは
困難なことでした(写真2) 。
今学会では、Ecology and conservation of
sireniansというカテゴリーで口頭、ポスター発表が
行われており、学会の前日にはワークショップも開
催されました。発展途上国での海牛類保護につい
ての報告は非常に印象に残っています。アフリカで
は、それまでマナティーを密猟していた人々が観光
ガイドとしての転身に成功し、保護プロジェクトに
よって人々の保護への認識を深める活動を行って
いるということです。その他、海牛類の衛星追跡に
関する発表も多くみられました。 そして、今学会に
一緒に参加した帝京科学大学アニマルサイエンス
学科の山本知里さん(写真3)が飼育下のイルカの
遊び行動に関する研究発表でベストポスター賞を
写真1 テーブルマウンテンにて。レシェック博士(一番右)と筆者(左から2番目)
受賞されました。本当におめでとうございます。
国際学会によって南アフリカという素晴らしい国へ行く機会を得られまし
た。学会でお世話になったレシェック博士(写真1)には、忙しい中ケープタ
ウン市内や壮大なテーブルマウンテンに案内して頂き色々なお話を伺うこ
とができました。心より感謝致します。 南アフリカでの学会に参加して、これ
からの研究活動に対する意欲が高まりました。そして次こそは、もっと英語
力を磨き、世界各国の著名な研究者の方々と臆すること無く交流できるよ
うに努力していきたいと思います。。。。。。。。。。。。。。。。
写真2 Castle of good hopeで開催された
前夜祭の様子
(2)
写真3ケープタウンの水族館にて、山本
知里さん
Conference Report
国際ウミガメ会議参加報告 (28th Annual Symposium on Sea
Turtle Biology and Conservation)
2008年2月20日 渡辺国広(東大海洋研)of British ColumbiaのBrian Bostrom
国際ウミガメ会議の第28回会議が1 によるオサガメの体温制御に関する研
月22日から26日の日程でメキシコのカ 究、University of FloridaのKimberly J.
リ フ ォ ル ニ ア 半 島 南 部 に 位 置 す る Reichによる北大西洋アカウミガメの摂
Loretoにおいて開催され、日本からは 餌戦略に関する研究が受賞した。前者
日本ウミガメ協議会、ELNA、京大、東 はオサガメが水温に応じて活動度を変
大から筆者を含む計7名が参加した。こ えることで体温を維持していること、ヒレ
のLoretoという町は人口わずか1万人 の血流を変化させることでヒレからの熱
たらずの小さな町であるが、 クロウミガメ の損失をコントロールしていることを綿密
が最初に報告された地としてウミガメ関 な室内実験によって示した研究で、彼
係 者 に と っ て は 著 名 な 地 で あ る 。 の明確な狙いをもったロガーの利用法
国際ウミガメ会議は例年、1000人を は見習うべきと感じた。後者は日本のア
超える研究者、保護活動家、ウミガメ愛 カウミガメで畑瀬英男博士が発見した
好家が集結する。そのため、巨大リゾー 外洋型と浅海型の摂餌戦略が北大西
トを借り切り、その中で会議場や宿泊施 洋のアカウミガメでも見られることを安定
設を全てまかなうことで効率化している 同位体分析により示しただけでなく、摂
のだが、今回は参加者にこの田舎町を 餌戦略に雌雄差があること、戦略の違
フルに味わってもらいたいという主催者 いによって甲羅に付着するワレカラ類の
側の意向により、町の体育館や広場、 種組成が明確に異なることまで報告し
大学の教室などを利用した分散型の会 ていた。多様なアプローチで疑問に取り
議となった(写真1)。 実際に口頭発表 組もうとする姿勢に感銘を受けた。ちな
が行われる体育館からワークショップの みに彼女は2度目の受賞という快挙で
開催される大学の教室まではてくてくと あ っ た 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。
20分以上歩かねばならない。特にポス
なお、科学研究ではないものの、
ターセッションは野外広場で青空の下、 Colorado State Universityに在籍する
行うというまさにフィールド屋の集会なら Asuka Ishizaki氏が小笠原の住民を対
ではの企画であった。あいにく、砂漠地 象に行ったアオウミガメの保全に対する
帯の乾季にとっては異常とも言える雨が 社 会 心 理 学 的 な 調 査 も S t u d e n t
3日間に渡って降り続いてしまったのは Awardを受賞した。昨年の楢崎友子氏
残念であったが、教会前の広場に300 (東大海洋研)に続いて2年連続で日本
題 も の ポ ス タ ー が 並 べ ら れ た 光 景 のウミガメ関係者が受賞するという快挙
を目にして、我々日本の男児も頑張ら
は圧巻であった(写真2)。
一箇所で口頭発表をさばかねばなら ね ば と 強 く 思 っ た 次 第 で あ る 。
ないという制約のため、今回は発表時
余談であるが、会議中に乾季の砂漠
間を5分に制限し、質疑の時間もとらな 地帯に3日も雨が降ったのは、強烈な
いスピードセッションが導入された。この 雨男である筆者と京大O山氏が参加し
セッションで登壇する発表者はいずれも たことが原因との誠に不名誉な噂が流
上級者に限られていたが、時間の不足 れた。しかしつい先日、「人が動けば雨
を感じさせないテンポの良い発表技術 が降る」という研究結果をNASAが発表
に感心させられた。
してくれた。雨が降ったのは、急に町の
今年のStudent AwardはUniversity 人口が1割も増えたことが原因と信じた
い。。。。。。。。。。。。。。。。。
関連学会情報
•勇魚会(海棲哺乳類の会)シンポジウム
3月1日、2日、三重大学で勇魚会シンポジウムが開催さ
れました。
http://www.geocities.jp/isana_kai/
•大きなナマズのミニシンポジウム
2月23日、岐阜県世界淡水魚園アクア・トトぎふで開催さ
れました。
http://www.aquatotto.com/
(3)
写真1 メイン会場は町の小さな体育館
写真2 野外で行われたポスターセッション
(撮影:楢崎友子氏)
2008年2月28日 天本奈々子(京大院情報)
写真1 調査船に乗り込む頃ようやく夜が明け始める
(撮影者:筆者)
写真 2
写真 3
写真 4
編集後記
会報22号をお届けします。来年度から事
務局移転ということで会報の編集も今号で
最後となりました。この2年間、至らぬ点が
多々あったとは思いますが、大変良い経験
をさせていただきました。どうもありがとうご
ざいました。
Y
来年度以降の事務局体制について、来る
総会でおはかりします。会員の皆様のご出
席をお願いします。 同封の葉書にて出欠
をご連絡下さい。
A
第5回世界水産学会議のお知らせ
写真5 崖下にジュゴン発見!! 息継ぎをするジュゴン
(撮影者:エム)
とまで言われるにいたった。長期調査で
は疲労の蓄積も考え、ゆとりある計画を
立てることが重要であることを痛感した。
しかし、眼下にジュゴンを発見したときは、
参 加者一 同、 しば し 疲 れを忘れて見
入った(写真5)。この瞬間がフィールド
調査の醍醐味である。。
。。。
本調査で得た、多くの人の汗と涙の結
晶ともいえるデータは現在解析中。その
成果はいずれバイオロギング研究会シ
ンポジウム等で報告する予定である。
世界水産学会議は、世界水産学協議会(World
Council of Fisheries Societies)が母体団体と
なって4年ごとに開催される国際会議です。今
大会のメインテーマは、世界の福祉と環境保全
のための水産業となっております。テクニカルプ
ログラム セッション1 「Fisheries and Fish
Biology」にバイオロギングサイエンスがサブ
セッションとして設けられております。皆様奮っ
てご参加ください。。。。。
。。。。。。
日 時: 平成20年10月20日(木)∼24日(月)
会 場: パシフィコ横浜会議センター パシフィ
コ横浜国立大ホール(国立横浜国際会議場)
事前参加登録・研究発表申し込み
平成20年4月10日〆切
詳しくは第5回世界水産学会議HP
http://www.5thwfc2008.com/index_j.html を
ご覧ください。
日本バイオロギング研究会総会への出欠を同封の葉書にてご連絡下さい
(4)
A井先生の積極的かつ寛
大な編集方針がなければ
このマンガは成立しなかっ
た!
写真3 山頂で目視観察を行う調査員たち(矢印)。
尖った岩でおしりが痛くなるのでマットは必須である。
(撮影者:松田)。写真4 頭からバスタオルをかぶり目
視観察を行う筆者。一応目視観察を行うのに支障は
無 い ( 撮 影 者 : 荒 井 ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) )))
最後に読者の皆様方に
心より感謝する!
写真2 目視調査を
行った山。この山か
ら見える位置にジュ
ゴンが良く通過する
海域がある(撮影者:
エ ム ) ) ) ) ) )
まずはマカロニ先生
ことS見女史!
艶
いつもスタイリッシュな
紙面デザインを
構築したY田先輩!
2008年1月7日-27日にタイで行った
ジュゴンの生態調査の模様を報告
する。
本調査では自動水中音録音装置ジュ
ゴン用(AUSOMS-D) を海底に設置し、
ジュゴンの鳴音と摂餌音を収集した。ま
た同時に船上と崖上から目視観察を
行った。調査目的は音響と目視それぞ
れの手法によるジュゴンの検出率の比
較および、本種の摂餌場である海草藻
場での行動観察である。調査は2チー
ムに分かれて行った。ひとつは曳航式
の水中音録音装置を用いてジュゴン鳴
音のモニタリングを行いつつ、船上から
目視を行うチーム。もうひとつは海草藻
場でジュゴンの食み跡の記録と海草の
サンプリングを行った後、山に登り崖上
からAUSOMS-D設置ポイントを中心に
設定した区画内に現れるジュゴンの観
察・記録を行うチームである。私はこの
海から山まで活動するチームに参加し
た 。 。 。
。 。 。 。 。 。 。 。 。
摂餌場での調査は海草藻場が干出し
ている時間帯しか行えないため、調査
時間が潮汐に左右される。すなわち最
干時間が朝であれば早朝に出発しなけ
ればならない。ちなみに初日のホテル
出発時間は午前5時半であった。当然
屋外は真っ暗である。星を見ながら暑
いはずのタイで早朝の寒さに震えつつ港
まで移動する (写真1)。干潟の海草藻
場での調査が終わると、次は急峻な崖
を登り崖上から3時間の目視観察 (写
真2、3)。このころになると日差しも厳しく
気温も上がっているため、サウナの中に
いるように汗が噴出する。ただし、他の
人が私同様サウナの中にいるかのよう
に感じていたかは不明である。というのも
私は日焼け防止のために風通しを犠牲
にしてバスタオルを頭からかぶっていた
からだ(写真4)。暑いのは当然。ところで、
日が経つにつれ干出時間がずれて、作
業開始時間が遅くなり楽になるのではな
いかと思われるだろうが実はそうはなら
ない。一時は確かにそうなるのだが、そ
の内に、先に山へ行った後、海草藻場
へ行くというサイクルに変わるからである。
したがって調査期間中、日の出前に出
発し、毎日12時間を超える労働というこ
とになった。当然調査参加者からの不
満噴出である。私は自分の研究のため
の調査ということで、調査の一部を計画
し、皆さんに調査への協力を依頼する
立場にあったわけだが、しまいには 鬼
仰げば尊し
我が師の恩
―ジュゴン調査報告2008―
彼女の天才的作画
このハナウタロギング
センスには毎号助け
研究所も卒業式を
られた
迎える
本日は私を支えて
くれた人々の紹介を
行うのである!
Field Report
山に登って、ジュゴンの観察