サンゴ礁魚類の逆方向性転換に関する研究 魚類課 1.目的 ベラ科魚類では雌から雄に性転換する種が多数知られているが、ホンソメワケベラでは雄から 雌への逆方向性転換もすることが当館で初めて確認された(Kuwamura et al., 2002) 。ベラ科には 体色に性差がみられる種も多く,それらにおいては雌と同じ IP 体色(Initial Phase)の小型雄と、 より派手な TP 体色(Terminal Phase)の大型雄(雌から性転換した二次雄、または IP 雄が成長し た一次雄)が存在することが知られている。IP 雄は性転換をしない生涯雄だと考えられていたが、 最近になって、IP 雄から雌への性転換がミツボシキュウセンにおいて野外個体追跡で1例確認さ れ(鈴木ほか、 2003) 、キュウセンにおいても水槽飼育実験によって1例確認された(福井ほか、 2004) 。本研究では。ミツボシキュウセンの IP 雄が雌に性転換することを追認するとともに、そ の性転換を引き起こす社会的状況を明らかにするため飼育実験を実施した。 2.方法 前年度から実験継続中の 0.5 t 水槽 3 基(各 2-4 雄)と 1 t 水槽 2 基(各 26-31 雌雄)のミツボシ キュウセンについて、2005 年 5 月に計測と性判定を行った。その後、0.5 t 水槽 3 基については新 たに雌雄 10 個体以下の組み合わせに変えて、1 t 水槽 2 基については構成メンバーをなるべく変 えずに飼育を継続し、約 2 ヶ月おきに計測と性判定を行った。また、早朝点灯直後に産卵するこ とが多いことがわかったので、10 月下旬から約 3 週間、性転換候補個体を中心に詳細な行動観察 を実施した。 3.今後の予定 野外で1例だけ確認されていたミツボシキュウセンIP 雄の雌への性転換を4 例追認することが できた。さらにうち1例では、のちに雌から IP 雄に逆戻り性転換したことが確認でき、これはベ ラ類では初めての発見である。また雌から TP 雄へ性転換したあと、また雌に逆戻り性転換する 例も1例確認できた。このような双方向の性転換能力を持つことが確認できたが、多数個体を同 居させた水槽であったため、 社会関係と性転換の関わりについてははっきりしたことはわからず、 今後は行動観察により社会関係の変化を確認することが必要だと考えられた。 学会発表・講演 田中直美・大内英二・桑村哲生・狩野賢司 2005 サンゴ礁魚類ミツボシキュウセンにおける双方向の性転換. 日本動物行動学会第 24 回大会 (2005.11.25) 桑村哲生 2006 魚たちの振る舞いを水族館で追求する. 水族館技術者研究会第 50 回大会記念フォーラム(2006.2.1)
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