12 食事姿勢のポイントⅠ(イスとテーブルの場合) わたしたちのやりたいケア 介護の知識 50 介護の知識 食事姿勢のポイントⅠ(イスとテーブルの場合) 食事ケアの第一歩は、高齢者が食事しやすい姿勢の確保です。 正しい食事姿勢で食べることは誤嚥予防にもなります。 きちんとした食事姿勢がとれるようにケアをすれば、それまでよ りも食事の摂取量が増えることがあります。 今回は、イスとテーブルで食事をするときの、正しい食事姿勢の ポイントについて紹介します。 1.ずっこけ座り・仙骨座りに注意 施設でよく見る『ずっこけ座り』 。 大げさかもしれませんが施設に入居されている要介護度の高い方 は、施設職員のケアがなければほとんどの方が『ずっこけ座り』に なるといってもいいかもしれません。 『ずっこけ座り』は、股関節が 90 度まで曲がらない方や体幹の 筋力が低下している高齢者に多く見られます。 円背(えんぱい)の高齢者は骨盤が後ろに傾いている(1)ことか (1)骨盤が後ろに傾 ら、自然と『ずっこけ座り』になってしまいます。私たちも研修が くとは 長くなったり、映画館で映画を見るときに『ずっこけ座り』になる 〉 〉 〉 1 場合があります。これは、体幹の筋肉を使わず座れるため“楽”だ からです。 この『ずっこけ座り』が高齢者には危険なのです。 骨盤 褥瘡の原因となったり、食事摂取量減少の要因となったり、誤嚥 の要因となったりします。 正常な座位姿勢時の骨盤の位 『ずっこけ座り』になると、首の筋肉が張ってしまって、食べ物 置 が飲み込みづらくなります。 食事をお皿から口元に運ぶ動作もしづらくなります。食事時間も 長くなります。食べこぼしも増えます。 骨盤 円背高齢者の座位姿勢時や 『ずっこけ座り』時の骨盤の 位置 【ずっこけ座り/斜め上から】 【ずっこけ座り/横から】 全国高齢者ケア研究会 12 食事姿勢のポイントⅠ(イスとテーブルの場合) 2.かかとをつける 大腿部を床に平行にし、なるべく膝の角度を 90 度にした状態で 足裏をしっかりと床につけます。 足に体重がかかり筋肉が緊張することで、覚醒が促されます。 かかとが床についていないと、食べ物をかむ力が弱くなります。 食べ物をしっかりとかんでもらう(咀嚼)ためにも、床にかかとが ついていることが大切です。 3.やや前傾姿勢をとる(自然な前傾姿勢) 嚥下をしやすい前傾姿勢は、人により異なります。 約5度くらいのほんのわずかな前傾姿勢が適している人もいれ ば、円背の方などは、約5度の前傾姿勢を保持することが難しい人 もいます。その人にあった自然な前傾姿勢を保持できるようにして ください。 前傾姿勢になったときにチェックして欲しいのが、首の筋肉のは りです。首の筋肉が張っていると、食事摂取がうまくいかない場合 があります。 また、前傾になることで、体重が足に分散させることができるた め座位姿勢が安定します。 2 4.正しい姿勢を保持できるイスを選ぶ 食事ケアの第一歩は正しい姿勢の保持です。 正しい姿勢を保持するためには、まず、利用者の体格にあったイ スを選ばなくてはなりません。 利用者の体格に合っていないイスを使っているのをよく目にしま す。施設に入居している今の高齢者は小柄な方が多いです。小柄な 入居者に合っていない大きなイスを使っているケースがよくありま す。 ① イスの高さ まず、最初にチェックしたいのがイスの高さです。 座ったときに、かかとが床につく高さのものを使います。 目安としては座面の高さ=下腿長(2)マイナス 1cmです。 特別養護老人ホームに入居している高齢者の座面の高さは、小柄な (2)下腿長とは 〉 〉 〉 女性の方が多いことから 38cm程度が適していると言われていま す。あくまでも目安なので、人により異なります。 大切なことは、 「足裏全体」がしっかりと床につくような高さのイ スを選ぶことです。 大腿骨下部の突起部からくる ぶしまでの長さ 全国高齢者ケア研究会 12 食事姿勢のポイントⅠ(イスとテーブルの場合) ② イスの奥行き つぎに注意したい点が座面の奥行きです。 正しい姿勢が 一般的な車イス とれるイス (JIS規格) 高さ 38cm 45cm 奥行き 38cm 40cm 幅 38cm 42cm イスの奥行きは、座ったときに背中が背もたれにぴったりとくっ つき、姿勢が安定するものを選びます。 特別養護老人ホームに入居している高齢者の座面の奥行きも、小 柄な女性の方が多いことから 38cm程度が適していると言われて います。これもあくまでも目安なので、人により異なります。 また、背もたれは、体をあずけたときに 1 度か 2 度、かすかに前 傾にするようになっていることが大切です。 3 【クッション使用により奥行き調整】 ※写真のイスは座面の高さ=38cm、奥行き=38cmです。 奥行きが身体に合っていない場合は、右の写真のようにクッショ ン等で調節します。 奥行きが長いと背中が背もたれにつかず、 「ずっこけ座り」になっ てしまいます。 「ずっこけ座り」になったときの結果は、 「ずっこ け座り」の項目で説明した通りです。 ③ イスの左右幅 イスの左右幅も広くないものを選びます。左右幅が広いと横倒れ してしまいます。 左右幅も 40cm以下のものを選びます。もちろんこれも目安です。 ※ 目安は38㎝。高さ、奥行き、幅すべて38㎝くらいと覚えます。 全国高齢者ケア研究会 12 食事姿勢のポイントⅠ(イスとテーブルの場合) (横倒れの場合) 横倒れする場合は、クッションなどで倒れないように支えます。 支える場合は、必ず骨盤からまっすぐにします。 骨盤が曲がった状態でクッションを入れると状態は一見まっすぐ になったように感じますが、骨盤から上(上肢)と骨盤より下(下 肢)がねじれた状態になります。 姿勢を直す場合は、骨盤をまっすぐにしてからクッションを入れ ます。骨盤がまっすぐになっているかは、必ず確認してください。 ※ 姿勢を直す場合は、まず骨盤から直す。 下の左の写真に横倒れしている状態で、右側にクッションを入 れただけでは、右の①の写真のようにからだ全体が正面を向きま せん。 上肢は、まっすぐでも、足は右を向いている(骨盤が右倒れして いる)ため、ねじれた状態になります。 ②の写真のようにからだ全体の姿勢を正して(骨盤をまっすぐ にして)からクッション等を使用してください。 4 ① 【横倒れ/正面から】 【姿勢を正さず、クッション使用】 ② 【姿勢を正して、クッション使用】 また、骨盤で安定した体重支持が行えるよう、クッションには、 こしのあるものを使用します。 全国高齢者ケア研究会 12 食事姿勢のポイントⅠ(イスとテーブルの場合) ④ イスと車いすで食事をすることの違い 車いすに座って食事している入居者をよく見かけます。 食べこぼしが多い、食事時間がかかる、食事摂取量が減ってきた、 ムセがあるといった状態の場合は、できるだけイスで食事する方が 状況が改善される場合が多いです。 古いタイプの車いすは、食事するための条件に合っていないもの がほとんどです。 自分の施設にある車いすの座面の高さ、奥行き、横幅をはかって みましょう。適合しているか、いないかがよく分かります。 なかでもその違いがよくわかるのが、座面の奥行きです。古いタ イプの車いすは、座面の奥行きが深いものがほとんどです。座面の 奥行きが長い車いすに座ると、 「ずっこけ座り」になります。 どうしても、車いすで食事をする場合は、背もたれと背中の間に クッションをはさむなどして、 「ずっこけ座り」にならないように調 整してください。 車いすと食事用のイスに座り比べてみることを、食事ケアの研修の 中に取り入れてください。イスと車いすの違いが実感としてわかり ます。 できれば、食事に適したサイズのイスに座りかえて食事をしてい ただくよう支援してください。 5 5.正しい高さのテーブルを選ぶ (テーブルの高さ) イスに合わせてテーブルも低くしないと、座位姿勢は安定しま せん。 イスの高さが 38cmであれば、テーブルの高さは約 65cmくらい が適しています。もちろん、これも目安です。家庭で一般的に使わ れているテーブルは 70cmくらいの高さです。 テーブルの高さは、座ったときに、机の上に置いた前腕が自由に 動かせる高さがいいです。机の高さの目安は、おへそのあたりと覚 えておくといいでしょう。 左の写真は 机の高さ=66cm 座面の高さ=38cm 全国高齢者ケア研究会 12 食事姿勢のポイントⅠ(イスとテーブルの場合) テーブルの高さの調整は、座位姿勢の安定以外に、食事の器の中 が見える高さでなければ、食べづらいということを理解しなくては いけません。 6.イスとテーブルの高さを合わせる イスとテーブルはセットです。片方だけを低くするとさらに食べ にくい状況を生んでしまうこともあります。 ○ テーブルが高すぎるときの影響 ・ お茶碗や皿の中身が見えない。 ・ 前傾姿勢をとりづらくなり、あごが上を向いた食事姿勢にな る。 ・ 食べ物をお皿からすくい、口に運ぶまでの動作が大変にな る。 (食べこぼし増加、お皿を太ももの上において背中を丸めて食べる) 〈70cmテーブルの足を 5cmカットすると一目瞭然〉 6 70cm 65cm 【これでは、お茶碗やお皿の中が見えません】 全国高齢者ケア研究会
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