製薬会社における新薬開発と、システム対応

製薬会社における新薬開発と、システム対応
吉田 康夫 S42年(1967年)経営工学科卒(松田研)
新薬の開発競争とシステム支援の話をする。
◆山之内製薬会社勤務時、前の2/3は情報システム担当として、物流・販売オンライン・システム、
生産の伝票入力システムの開発後に、製薬会社の生命線の新薬開発のシステム支援に従事した。
・1976年安全性研究(毒性)データ解析レポートシステム稼働:後にFDAのGLP査察合格
・1978年臨床データの解析レポート(英数カナ):年間2品目の新薬申請に対応
(遠隔処理の印刷機を酷使した)
・1982年日本語出力:申請までの期間を3ヶ月短縮により、年間4品目申請に対応。
・1983年技術士合格
◆本社システム部門の技術担当管理職も兼務で、1991年数百人のMR(医薬情報担当者)に、
ノート・パソコン(NEC98ノート)を、各1台持たせる営業支援システムのために、IBMの超大型コン
ピューター(約4倍)への増強で、富士通の互換機(アムダール)と競わせて、国際価格(米国価格の
為替換算)で調達した。同時に、電算室の増設(光チャネルで接続)、自動磁気テープ装置
(StorageTek)の増設などを実施。
◆後の1/3は図書室のおじさん(次長待遇)で、DB、雑誌の国際価格への値下げの努力もしました。
大半を筑波研究所に勤務。
◆2005年1月末の退職後は、仕事を引き継いた後輩が転職し業務が滞ったため、同年4月に藤沢と
合併したアステラス製薬の子会社で、派遣の人に業務伝授、引き続き図書システムの統合を支援し、
Y出身、F出身の中年社員の気風の違いに気づいた。
また皆様の関心が高い「バイオ医薬品、日本のドラッグ・ラグ」に独自の解説。
2012.4.9
1
グローバル市場における日本企業の売上高と主要製品
2010年 医薬品業界 売上高世界ランキング
順位 会 社 名
1
ファイザー
2
M & A
ワーナー・ランバート、
本拠地
ファルマシア・アップジョン、
ワイス
米
ノバルティス
チバ・ガイギー+サンド
スイス
3
メルク(MSD)
シェリング・プラウ、万有
4
サノフィ・アベンティス
5
グラクソ・スミスクライン
6
ロシュ
7
アストラゼネカ
ジョンソン&ジョンソン
イーライリリ-
アボット
ブリストル・マイヤーズ
スクイブ
テバ:ジェネリック最大手
アムジェン
バイエル
武田薬品工業
アストラ+ゼネカ
ヤンセン
18
19
8
9
10
11
12
13
14
BASF、クノール
ブリストル・マイヤーズ
+スクイブ
ラチオファーム(独)
41,994 ディオバン9月×、グリベック
グリベック、
米
39,811 シングレア
インドメタシン、
仏
37,378 プラビックス×、ランタス
英
英
米
米
米
36,149 アドエア×
リツキサン、アバスチン、
35,613
ハーセプチン
32,515 セロクエル×、ネキシウム×
22,396 レミケード
21,051 ジプレキサ×
19,984 ヒュミラ
米
19,484
スイス
タガメット(SK)、
ハーセプチン、
インデラル、
遺伝子組換インシュリン、
カプトリル(BM)
ナイコメッド(スイス)
米
独
日
独
米
15,480
15,083 エンブレル、プロクリット
14,475
14,455 アクトス×、プロブレス6月×
12,872
12,797
第一三共
三共+第一、
日
11,119
メバロチン
ノボ・ノルディスク
アステラス製薬
ノボ+ノルディスク
山之内+藤沢
デンマーク
10,818
10,683
ハルナール、プログラフ
15
16 ベーリンガーインゲルハイム
17 バクスター
20
サノフィ・サンテラボ+
アベンティス
グラクソ・ウエルカム+
スミスクライン・ビーチャム
ジェネンテック完全子会社化、
中外
バイオ医薬品 ×米国での特許切れ
世 界 初
主 要 製 品
(百万ドル) (一般名での合計40億ドル以上)
(first in class)
バイアグラ、
58,523 リピトール(WL)×
マクジェン、
売上高
ランバクシー(インド)
イスラエル
日
出典:国際医薬品情報2011年4月25日(通巻936号)
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2
日本で創製の医薬品の発売状況
2008年売上高5億ドル以上19/202品目の初上市(発売)国と販売提携先
順 日本での
位
16
17
21
26
30
31
35
39
41
49
58
61
105
138
143
153
154
168
190
製 品 名
クレストール
アクトス
プロブレス
アリセプト
エビリファイ
タケプロン
クラビット
パリエット
ハルナール
オルメテック
リュープリン
プログラフ
メロペン
クラリス
ベシケア
メバロチン
セボフレン
カンプト
ガスター
一 般 名
ロスバスタチン
ピオグリタゾン
カンデサルタン
ドネプジル
アリビプラゾール
ランソプラゾール
レボプロキサンシン
ラベプラゾール
タムスロシン
オルメサルタン
カンデサルタン
タクロリムス
メロペネム
クラリスマイシン
ソリフェナシン
プラバスタチン
セボフレン
イリノテカン
ファモチジン
世界初
売上高 日本 発売 初 上 市
企 業 名
海 外 で の
日本
(百万ドル)
順位 国数~1994 国 1995~ 国 販 売 提 携
発売時 現 在
発売
塩野義
4,103
64
2003 英 アストラゼネカ
2005
武田
4,083
61
1999 米 イーライリリー
1999
1997 独 アストラゼネカ/アルミラル 1999
武田
3,769 2 65
エーザイ
3,438 1 62
1997 米 ファイザー
1999
大塚
3,312
62
2002 米 BMS(ブリストル・マイヤー・スクイ 2006
8
武田
3,241
66 1991 仏
1992
第一
第一三共 2,852
62 1993 日
J&J、ヘキスト
同左
同左
エーザイ
2,7XX
56
1997 日 ヤンセン(J&J子会社)
ベーリンガーインゲルハイム他
同左
山之内 アステラス 2,6XX
63 1993 日
2002 米
2004
三共
第一三共 2,342 6 49
アストラゼネカ
1992
武田
2,025 10 57 1984 独
藤沢
アステラス 1,958
63 1993 日
同左
住友
大日本住友 1,199
49
1995 インド アストラゼネカ/New Medicon Pharm1995
アイルランド
アボット
1991
大正
大正富山
885
66 1990
山之内 アステラス
826
45
2004 EU GSK(グラクソ・スミスクライン) 2006
三共
第一三共
795
61 1989 日
BMS(ブリストル・マイヤー・スクイ 同左
丸石
787
44 1990 日
アボット
同左
ヤクルト
714
57 1994 日
ファイザー
同左
山之内 アステラス
556
65 1984 イタリア
メルク 1985
ベスト製品 約600億/年↑ 先行/全体= 4/10
8/9
ドラッグ・ラグ(中央値)= 2年
米国
特許
×
6月
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
一般名で集約した売上高で、導出先の別商品名の売上も、特許切れ以降の後発医薬品の売上も、集計されている。
出所:売上高は、Pharma Future No.227(2009.6.20)をもとに作成。 発売国数は、(C)2011 IMS Health.IMS Lifecycle 2009/07をもとに作成。
2011年11月30日の日本製薬団体連合会会長 庄田 隆氏の講演「国際化の中で日本の臨床開発を見直そう 日本の製薬企業の立場
から」の付表を加工した。日本順位は2011年の先発品のみで10位まで、IMS 医薬品市場統計より。
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3
新薬の開発プロセス
2~3年
低分子化合物
化合物の
デザイン
⇓
リード探索
疾患の
⇒
⇓
病態解析
標的分子
最 適 化
⇒ の同定
着 想
バイオ医薬品
⇒ 例:抗体医薬
抗体開発
⇓
タンパク質の
調整
⇓
RNA合成
3~5年
ライフサイエンスの知見
疫学研究
⇓
3~7年
非 臨 床 試 験
Y社の1986年までのシステム対応
1~2年
臨 床 試 験(治 験)
治
⇒
特
許
出
願
⇒
薬効薬理試験
薬物動態試験
安全性試験
G
安全性薬理試験
一般毒性試験
特殊毒性試験 L
・生殖発生毒性
・変異原性
・がん原性
P
・免疫毒性 等
製 造 法 研 究
製 剤 化 研 究
⇒験
届
G C P
第一相 第二相
第三相
(Phase (Phase
(Phase
Ⅰ)
Ⅱ)
Ⅲ)
(臨床
(探索的
(検証的
⇒ Invest薬理
試験)
試験)
New 試験)
Drug
米国:FDAとの開発初期から相談
治験薬製造
安定性試験
品質管理規格
紙と
審 査
電子 日 医薬品
申請 本 医療機器
総合機構
承 ⇒ (PMDA)の 承
認
審査
⇒申
認
請
食品薬品
⇒ 庁(FDA
電子 米 CDER等)
申請 国 の審査
4~6年
製造販売後
販 売
薬価
基準
収載
民間
保険
会社
等との
折衝
⇒
発
G V P
製造販売後
売
安全管理
⇒ G P S P
市販後調査 ⇒
(Phase Ⅳ)
G M P
製 造
製剤の改良
特許出願から20年+特許権延長期間の後
再
再
審
評
査
価
特
⇒許
切
れ
特許権延長期間(臨床試験開始か特許権設定登録の遅い方から、承認までの期間、最大5年)
先発品の売上低下
薬価切下げ
特許切れ以降の先発品の売上比率は、その国の医療保険制度に因る。
・ 日本では、組合健保、国民健保などが後発医薬品を推奨するが、先発品は約7割です。
・ 米国は、民間保険会社が、ジェネリック薬品を指定するので、先発品は1割に下がる。
後発医薬品 ・ 欧州では、財政赤字から、特許切れの低分子医薬品を、可能な限りジェネリック医薬品に
(ジェネリック
切り替える施策が強まっている。
薬品)の発売
改良新薬の発売
が出来たら最高-> 特許切れへの数年の回避
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4
臨床データ解析のY社の歴史
1971年(S46年)
1978年(S53年)
概 薬効検定システム 臨床データ解析レポート
BMD統計プログラム (英数カナ)(CACへ外注)
要 (UCLA)へのリンク 手作り統計ソフト
(CACへ外注)
→年間2品目の申請達成
IBM3776
IBM8100
印刷機を酷使する
処理 カード入力
カード入力
形態 バッチ処理
遠隔処理
1982年(S57年)
富士通の統計ソフト(ANALYST)
に一部追加した臨床データ
解析レポート(日本語出力)
→3カ月短縮で、◎社内表彰
年間4品目の申請達成
富士通中型コンピュター(M-160)
高速プリンター
日本語端末も使用
バッチ処理
オンライン優先CPU(IBM370-158 1.5MB)で、
総費用約2億円<
処理は12:00~13:00、16:00~3:00
ガスター年間利益
*3/12
抗潰瘍剤/H2ブロッカーの歴史
発明 一 般 名 製 品 名
順位 経口の1日量
1 シメチジン タガメット
400mg 1976年
上市
2 ラニチジン ザンタック
150mg
4 ファモチジン ガスター
20-40mg ペプチド
5 ニザチジン アクシド
150mg アシノン
開 発 社 本拠地
日
CDMSの市販システム:
Clinical,Oracle Clinical
H2ブロッカー=ヒスタミンH2受容体拮抗薬
現
状
↙(長時間持続)
PPI:プロトンポンプ阻害薬の方が売れている。
グラクソ・スミスクライン
日本:大日本住友製薬
SK&F
英
1981年日本上市
(スミスクライン藤沢)
グラクソ
英
1988年
1981年
1984年日本 世界売上1位
上市
上市(三共)
1982年申請
◎社内表彰
山之内製薬 日 1985年日本上市
Best of
(メルク)
1985年上市
H2Blocker
1984年イタリア承認
イーライリリー 米
1987年 1990年日本上市
上市 (ゼリア新薬)
3 ロキサチジン アルタット 帝国臓器
150mg
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2010年
臨床データ管理システム
(CDMS)と連携した
解析レポート(日本語)
1986年日本上市
グラクソ・スミスクライン
日本も自販
アステラス製薬
メルク
イーライリリー
日本:ゼリア新薬
あすか製薬
5
医療費への国民経済的視点
米国は、近年、医療の高度化=高価なバイオ
医薬品等の普及で、医療費のGDP比率が立ち
上がっている。医療機関、医療保険会社、ファーマ
企業・バイオベンチャーの連合体が、他の分野の
財源から搾取とも見れる。
2009年バイオ医薬品の約80%は米国で使用。
近年、加入している医療保険の対象外治療の
高額医療費で破産する家庭が増えている。
皆保険の、カナダ、フランス、英国、ドイツ、
スウェーデンも2009年、バイオ医薬品普及などの
影響で、GDP比率が立ち上がった。
日本は、2007年までの医学部の定員抑制、病院
勤務医師と看護師への過負荷と改善遅れ、薬価の
継続的値下げなどで、GDP比率は抑え込まれたが、
日本10年 病院の現場は疲れ切っている。
8.6%(23.1%) 日本では、,2009年バイオ医薬品の約
2%は使用している。高齢化の進展も
日本09年
あって、2010年以降GDP比率が上がる。
8.5%
生活保護世帯の医療費無料、70歳
以上の医療費1割負担などは、医療資源のムダ
使い排除で、早期に是正する必要がある。
私の提言
1.バイオ医薬品で、週当たりの薬価が50万円
以上は薬価基準から外す。
日本は、製造承認と、薬価基準収載が連動して
いる状況で、バイオ医薬品のドラッグ・ラグを問題に
すると、米国のファーマ企業の仕掛けにはまる。
2.同時に、混合診療を解禁し、薬価収載のない
薬剤のみ、自己負担とする。
参考資料:
川渕孝一「国民皆保険はまだ救える-崩れ去る
「公助」「共助」から「自衛」の時代へ」 自由工房、2011.11、
1,890円、978-4-901450-12-6。
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6
日本の新薬開発の問題点と、ドラッグ・ラグ(=申請ラグ+審査ラグ)
1.日本で創製の治験薬でも、米国、EUでの臨床試験が先行する。
米国の市場が大きく(47%=低分子43%+バイオ約80%)、ファーマ企業が薬価を値上げできるので、開発費用を
早く回収可能。
EUの市場が大きく(独仏英のみで14%、バイオも14%程度。EU合計約20%程度)。
日本は市場シェアが8.2% (低分子9%+バイオ2%)に低下した見込で、役所が設定する薬価は安い。
申請ラグは、1.5年。
2.医療環境からの、臨床試験の格差
米国は、人口約3億人で、健康保険に入れない人が多く、病気になると治験を希望する人がすぐに見つかる。しかも、
バイオ医薬品の開発ベンチャーが多く活躍している。
EUでは、人口約5億人で、人種も多様で、国際共同臨床試験も多く行われる。
日本は人口約1億人で、患者からの治験への参加希望が少ない。治験の1例当りの費用が、米国の2倍程度。治験
の費用を、欧米では医師の研究費に使用できるのに、備品購入程度しか使用できない。->医師が忙しく、治験への
意欲が湧きにくい。
3.審査の体制の格差
米国では、審査人員は2,200人で、2004年の優先審査は6か月、通常審査は10.5か月(中央値)。
EUでは、窓口は欧州統一医薬品庁(EMEA)に一元化され、審査を英、仏、独などの加盟国で分担して、比較的審査
も速い。
日本の審査人員は、2011年415人に増員したが、育成に時間が掛かる。
イレッサの反動
手術不能または再発した非小細胞の「肺癌」の、特定の分子を狙い撃ちする分子標的薬(一般名:ゲフィチニブ)で、
アストラゼネカが2002年7月に、世界に先駆けて日本で承認を受け、「イレッサ」錠を、間質性肺障害の副作用を喚起
せずに拡売した。2003年米国の承認などを受けたが、日本などで死亡例が多発して、2005年6月に米国は、新規使用
禁止にした。->最近は検査薬で効く患者を選別して投与することになった。新しい分子標的薬は市販後の状況を見
てから、日本は治験・承認したい。
2012.4.9
7
謝 辞
技術士、工学博士 魚井 徹さん(Y社の元臨床統計リーダー)
医薬産業政策研究所、CDS ユートブレイン、IMS Japan KK
おすすめボランティア
1.ゴミ拾い兼ウォーキング(早朝)
2.リユース推進
ブックオフの105円書架のもったいない本を、知人や会社の後輩、娘・孫などに寄贈
空き瓶(団地から出る、リユース瓶を選んで)を、本格焼酎の安い酒屋(町田のまさるや)へ持込
雑木林の維持管理(萌芽更新、しいたけ栽培、炭焼きなど)
2012.4.9
8