ストックマネジメント 公的他機関における補修工事の品質

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ストックマネジメント
現場リポート
公的他機関における補修工事の品質管理について
ショーボンド建設(株) 上條 達幸
1 はじめに
農業水利施設の維持管理手法として,
最近では,
紹介します。
2 下水道施設の補修工事における品質管理
既存施設の有効利用と長寿命化を図り,これによ
ご存じの方も多いと思いますが,下水道施設で
りライフサイクルコストを低減しようとする取組
もコンクリートの劣化が問題となっています。特
み,即ちストックマネジメントの考え方が積極的
殊なバクテリアの活動で,下水道施設内のコンク
に取り入れられるようになりました。
これに伴い,
リート表面に硫酸という非常に強い酸ができ,こ
既設水利施設の補修・補強工事が増えており,と
の酸によりコンクリートが短期間で著しく浸食さ
りわけ開水路コンクリートのポリマーセメントモ
れてしまいます。このため,日本下水道事業団(以
ルタル等による表面被覆や目地充填などの補修工
下 JS と略記する)では,下水道コンクリート施
事が多く発注されています。
設の防食対策として,平成 3 年に「コンクリート
開水路等の水利施設コンクリート構造物の補修
防食指針(案)」を作成しました。しかし,防食
工事は,従来から行われている一般的な陸上構造
工事が本格化すると,新設・補修ともに防食被覆
物の補修工事とは異なり,水辺環境での厳しい施
工のトラブル事例が多く発生しました。また,そ
工条件となります。このため,施工後短期間の内
の原因を調べると,設計仕様と現場施工の再現性
に,表面被覆材に浮きや剥がれなどの不具合を生
が両輪となって機能していなかったようです。そ
じた事例も少なからず見受けられます。また,こ
こで,防食被覆の性能を確保するためには,施工
れら農業水利施設の補修工事は,公共工事として
における品質の確保が極めて重要であるとして,
発注されているわけですが,公共工事における品
平成 19 年 7 月に改訂された「下水道コンクリー
質に関しては,平成 17 年 3 月付けで「公共工事
ト構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュア
の品質確保の促進に関する法律(公共工事の品確
ル」では,
「専門技術者の常駐管理」が明記され
法)
」が制定されています。この法律ができた背
ることとなりました。これを受けて,現在の下水
景には,
従来の価格重視の入札制度による弊害(品
道施設のコンクリート防食工事では,JS を始め
質の低下や労働条件の悪化など)を無くして,価
都下水道局など各事業者の発注条件として,専門
格と品質と技術力の総合力を評価する入札制度を
技術者の選出と届け出および常駐管理が義務付け
構築することの狙いがあるようです。
られています。なお,専門技術者の役割は,施工
したがって,今後の農業水利施設の補修工事に
管理全般の実施と品質に対する責任者としての対
おいては,“補修工事の品質を如何に確保してい
応ですが,その資格要件は次のように記載されて
くか”が極めて重要なテーマとなってきます。そ
います。
こで,重要な社会インフラとして,大量のコンク
① 防食被覆工法の施工管理経験を 3 年以上有
リート構造物を維持管理している他機関の中か
し,工事に使用する防食被覆材料の製造業者
ら,
日本下水道事業団と東海旅客鉄道株式会社(以
および施工者を網羅するような団体(協会)
下,JR 東海と略す)における品質確保の事例を
が行う認定試験に合格した者。
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② 職業能力開発協会の行う国家技能検定のう
要因および防食工事の施工管理や品質管理につい
ち,
「強化プラスチック成形(積層防食作業)」
ての知識と技術の理解を深めるため,技術検定試
1 級の合格者で,防食被覆工法の施工管理経
験の前に開催される防食技士講習会を受講しなけ
験を 3 年以上有していること。
ればなりません。平成 22 年度の防食技士講習会
防食業界では当初,それぞれの工法協会ごと
は,全国 3 会場(東京,大阪,福岡)で実施され,
に専門技術者の認定制度(プライベートライセン
285 名が受講予定とのことです。
ス)の創設に乗り出しました。しかし,工法協会
コンクリート防食技士は,塗布型ライニング工
ごとに材料や施工方法が異なり,また認定のため
法,シートライニング工法,モルタル被覆工法に
の講習等の内容にも大きなバラツキが生じていた
分類されて認定されます。資格取得者には,認定
ため,
「下水道施設という重要な社会インフラの
された工法名を記載した認定証と認定カード(免
品質確保が,
メーカ個別の取り組みで良いのか?」
許証サイズ,写真付き)が交付されます。有効
との指摘も出てきました。そこで,防水・防食に
期間は 5 年間とのことですが,更新試験の実施は
関係する協会等 14 団体,
施工会社 250 社が加盟し,
勿論のこと,有効期間中に必要知識を取得するた
防食業界をほぼ網羅する一般社団法人「日本コン
めの研修を計画しているようです。そして,最終
クリート防食協会」
が発足することになりました。
的には上級資格として「主任技士制度」を確立す
日本コンクリート防食協会では,防食工事の専
ることにより,今後の市場変化として顕在化しつ
門技術者を育成し,防食被覆工の耐久性向上を図
つある提案型発注に対応しようとしているようで
る目的で,
「コンクリート防食技士制度」を創設
す。
しています。コンクリート防食技士は,日本コン
クリート防食協会が実施する技術検定試験の合格
者に与えられる技術資格の称号で,防食工事の専
3 東海道新幹線高架橋の補修工事におけ
る品質確保
門技術者として認定されます。技術検定試験は,
東海道新幹線は,東京オリンピック開会直前の
防食工事における日常の技術的業務の実施能力を
1964 年 10 月に開業して以来,東京・名古屋・大
検定するものです。したがって,コンクリートの
阪の 3 大都市間を高速移動するための重要な交通
基礎知識とその各種劣化に関する知識,およびコ
手段として日本経済の成長を支えてきました。こ
ンクリート防食工法や使用材料の基礎知識,その
の東海道新幹線を支える鉄筋コンクリート構造物
施工管理と品質検査などに関する知識と能力が求
は,施工時の管理が行き届き,比較的良好な施工
められます。
コンクリート防食技士の受験資格は,
がなされているため,現状においても全般的に健
次のように定められています。
全な状態にあります。しかし,東海道新幹線の社
① 防食被覆工法(塗布型ライニング工法)の
会的重要性を考慮すると,経年劣化にも備えた計
施工管理経験を 3 年以上有し,当協会の 1 種
画的な維持管理が求められます。そこで,同施設
正会員,または同等の条件を有する防食被覆
の鉄筋コンクリート構造物の経年劣化要因につい
材料の製造業者および施工者を網羅する団体
て検討した結果,特に考慮すべき劣化要因は,コ
が行う認定講習を受講し,認定試験に合格し
ンクリートの中性化に伴う鉄筋腐食であることが
た者
判明しました。そこで,中性化の進行が未だ軽微
② 職業能力開発協会の行う国家検定のうち,
なうちに,コンクリートの劣化対策工として保護
「強化プラスチック成形(積層防食作業)」1
塗装を行うことが予防保全の観点から有効である
級合格者で,防食被覆工法(塗布型ライニン
と判断し,2000 年度よりラーメン高架橋を対象
グ工法)の施工管理経験を 3 年以上有してい
に保護塗装などの工事を行っています。
ること。
また,JR 東海では,統一した維持管理手法を
また,受験者は,コンクリートの特性や劣化
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継続的に実施して行くため,
「東海道新幹線鉄筋
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コンクリート構造物維持管理標準」を 1999 年に
制定しています。この維持管理標準は,当時の東
京大学国際産学共同研究センター・魚本健人教授
なっていることです。
4 おわりに
(現,独立行政法人・土木研究所の理事長)を委
日本下水道事業団と JR 東海の補修工事におけ
員長とする維持管理指針編集委員会において検討
る資格者制度について紹介しました。農業水利
作成されたものです。
この維持管理標準の中には,
施設の分野でも補修工事が多くなってきています
コンクリートの中性化防止対策やはく落防止対策
が,資格者制度についてはまだ検討がなされてい
として実施する保護塗装工の性能規定や施工管理
ないようです。しかしながら,新規に構造物を作
基準などが示されています。保護塗装工の期待耐
る技術と,それを補修する技術では,使用する材
用年数は,当時としては画期的な 20 年という長
料や工法が大きく異なり,これらについての知識
期設定になっており,これを達成するため,使用
がないと,工事の品質確保を期すことが難しいと
材料の性能評価方法や施工および品質管理におい
考えられます。農業水利施設の補修工事は,他の
て,新たな方法が取り入れられています。その一
分野と共通する点もありますが,構造物が水中に
つとして,“検査および施工を十分に理解した技
ある時間が長いこと,開水路では,野外環境に曝
術者が常駐し,施工および品質の管理を行う”と
されている点で,独自の品質管理が必要となる部
いう管理体制が設けられ,これを実施するために
分もあります。紹介しました他機関の事例を参考
「東海道新幹線鉄筋コンクリート施工管理技士」
に,農業水利施設の補修工事の品質管理のための
という資格制度を導入しています。
テキストを早急に作成し,担当技術者の養成を行
「東海道新幹線鉄筋コンクリート施工管理技士」
うことが今後の大きな課題であると考えます。
の資格を取得するためには,JR 東海からの委託
を受けた機関が実施する講習会(テキストは,先
の維持管理標準などを使用)を受講し,その後に
実施する資格試験に合格する必要があります。こ
の試験では,保護塗装工に関する事項とともに,
東海道新幹線コンクリート構造物の現状やその検
査方法,さらには中性化による劣化機構について
の理解力も求められており,かなり高度な試験内
容となっているようです。また,注目すべきは,
この講習会と資格試験には,発注者側の施設管理
技術者も参加しており,施設管理者としての意識
の高さがうかがえることです。さらには,保護塗
装工の施工個所では,その仕様や施工業者名とと
もに,施工管理技士の氏名・認定番号を塗装履歴
(A3 版サイズ程度の大きさ)として残すことに
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参考文献
1)
日本下水道事業団(2007 年)
『下水道コンクリー
ト構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル』
財団法人下水道業務管理センター
2)
『日本下水道新聞』第 1985 号 p.18「一般社団法人
日本コンクリート防食協会の進路」
3) 一般社団法人日本コンクリート防食協会(2010 年)
『平成 22 年度コンクリート防食技士講習会及び検定
試験のご案内』
4) 東海旅客鉄道株式会社(2007 年)
『東海道新幹線
鉄筋コンクリート構造物維持管理標準』(2007 年 5
月 1 日第 8 版)社団法人日本鉄道施設協会
5) 筑摩栄ほか(2001 年)「コンクリート構造物維持
管理の取組」
『日本鉄道施設協会誌』
(2001 年 8 月号)
pp.24∼25. 社団法人日本鉄道施設協会
6)大竹敏雄ほか(2009 年)
「東海道新幹線の橋梁と保
守」
『橋梁と基礎』(2009 年 8 月号)pp.45∼47. 株式
会社建設図書
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