アフガニスタンは世界の中でも最も貧困な国の一つであり、2003 年

第1章 アフガニスタン国の経済・農業の概況および国家開発政策
1-1 経済の概況
アフガニスタンは世界の中でも最も貧困な国の一つであり、2003 年における一人あたり
GDP は 180~190 USD にすぎない。統計によって数字にばらつきがあるものの、国民の
60%~80%は貧困下に置かれており、識字率は成人人口の 30%程度しかない。
通貨の改革が 2003 年初頭に行われて以来、健全な財政政策と慎重な債務管理政策によっ
て、アフガニスタンのインフレ率は比較的低く抑えられている。厳しい環境にも関わらず、
企業活動は着実に回復しており、世界銀行の”The Investment Climate in Afghanistan” (2005 年
12 月)によれば、2000 年から 5 年間で企業における雇用数は 67%増加しており、製造業の平
均稼働率は約 60%にまで回復している、とのことである。海外からの投資はいまだ非常に
限られているものの、既存の企業による投資活動は活発化しており、世銀の調査の対象とな
った企業のうち約 70%が、過去 1 年以内に機械などの投資を行ったと報告しており、また
過去 2 年間に、3/1 の企業が新規の生産ラインを導入し、40%が既存の生産ラインを拡充し
た、と回答している。
このように、工業・建設分野、そしてそれに関連する商業・サービス業に牽引される形で、
アフガニスタン経済は全体として成長の軌道に乗っていると言える。農業・畜産業を中心と
する第一次産業は、生産高はほぼ横ばいであるものの、GPD に占める割合は 2002/03 年の
50%から 2005/06 の 38%に減少し、第二次産業は同時期に 20%から 25%へ、第三次産業は
30%から 38%へと、シェアを拡大してきている。
以下に、アフガニスタンの名目 GDP 及びインフレ率の推移、並びに産業別 GDP の推移を
示す。
図 1-1
アフガニスタン国 名目 GDP
(百万 USD、推計値)
図 1-2
8,000
30.0
7,000
7,139
6,000
20.0
4,585
4,000
2,000
25.0
23.9
5,971
5,000
3,000
アフガニスタン国インフレ率(%)
4,084
15.0
2,463
14.3
10.0
1,000
12.0
5.0
5.0
0
2001/02
2002/03
2003/04
2004/05
2005/06
0.0
2002/03
(出所:IMF Country Report 2006 年 3 月)
2003/04
2004/05
2005/06
(出所:IMF Country Report 2006 年 3 月)
図 1-3 アフガニスタン産業別 GDP
(百万アフガニ、2002/03 年価格)
表 1-1 アフガニスタン産業別 GDP
(百万アフガニ、2002/03 年価格)
2002/03
第1次産業
第2次産業
第3次産業
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
2003/04
2004/05
2005/06
第1次産業
穀物
その他の作物
畜産
89,834
73,751
4,652
11,431
105,000
85,442
7,981
11,577
87,027
67,752
7,582
11,693
95,770
75,882
7,961
11,927
第2次産業
鉱業
工業
建設
電力
36,179
261
27,151
8,700
67
40,495
250
29,148
10,941
156
53,617
315
35,531
17,506
265
62,480
347
39,084
22,758
292
第3次産業
商業
交通・通信
公共サービス
その他のサービス
54,278
18,167
17,343
8,500
10,267
61,749
17,160
24,463
9,704
10,422
83,096
22,320
36,695
12,033
12,048
95,349
24,530
44,034
13,718
13,068
20,000
0
2002/03
2003/04
2004/05
2005/06
(出所:IMF Country Report 2006 年 3 月)
(出所:IMF Country Report 2006 年 3 月)
1-2 農業の概況 1
1-2-1 農業セクターの構造
アフガニスタン国の人口の 85%は農村部に居住しており、農業は GDP の約半分(2002/03 は
49%、2004/05 は 36%と、年によってばらつきがある)、労働力の 2/3 を占めている。農村経済
は長期にわたる紛争によって疲弊しており、農業技術、道路・潅漑などのインフラ、教育とい
った基礎的な条件が整っていないことから、ほとんどの農民は限られた土地における小麦栽培
及び数頭の家畜の飼養による自給自足を強いられている。農村部における家族構成は平均約 11
名であり、農業のみでは生活を支えることができずに、家族のうち数名は都市部ないしは周辺
国に出稼ぎに出ている。
農地はおしなべて小さく、合計 128 万世帯の農家の農地面積は平均で 5 ヘクタールとなってい
る。土地なし農民は全世帯の 23%を占めている(Vulnerability Analysis Unit, MRRD, 2004 年 8
月)。乾燥地域であることから潅漑がきわめて重要であり、6.5 百万ヘクタールの全耕地のうち、
一部なりとも潅漑されている土地は、約 3 百万ヘクタール(43%)となっている。
1-2-2 農業生産
食糧確保のために極めて重要であることから、ほとんどの農家が穀物を生産しており、全耕
作地の 2/3 を占め、うち小麦の栽培面積が 8 割を占めている。穀物の栽培面積のうち、4 割が天
水地、6 割が潅漑地となっている。小麦の自給については地域間でばらつきがあるが、2007 年に
おけるアフガニスタン国全体での小麦の自給率は約 90%と言われている。
小麦の生産は、2003/04 の旱魃時には一時落ち込んだものの、2001 年から 2007 年にかけて約 2
倍に増加している。単位面積あたり収量が 2001/02 の 1.0 t/ha から 1.82 t/ha へと増加するととも
に、同時期に、穀物の栽培面積が 2.1 百万ヘクタールから 3.0 百万ヘクタールへと増加したため
である。なお、小麦の天水地での平均収量は 1.0 t/ha で潅漑地では 2.8 t/ha となっており、周辺国
とほぼ同じ水準となっている(世界銀行 2004 年)。
1
本項の記述は、”Afghanistan - Economic Incentives and Development Initiatives to Reduce Opium
Production” (Christopher Ward, David Mansfield, Peter Oldham and William Byrd, 20 December 2007)による。
以下に、主要な穀類及びジャガイモの生産量の推移を示す。
表 1-2 主要な穀類及びジャガイモ生産量の推移
(千トン)
小麦
米
大麦
メイズ
ジャガイモ
2002/03
2003/04
2004/05
2005/06
1,597
242
87
160
2,686
388
345
298
3,480
260
240
210
2,884
325
337
315
235
230
350
300
図 1-4
穀物及び小麦の生産量の推移(千トン)
穀物生産量
うち、小麦生産量
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
2001/2
(出所:IMF Country Report 2006 年 3 月)
2002/3
2003/4
2004/5
2005/6
2006/7
(出所:IMF Country Report 2006 年 3 月)
穀物生産量の増加については、種・肥料の調達、潅漑の補修に対するドナー・NGO の集中的
な支援がその背景にある。小麦生産地の半分以上において、生産性の高い種が導入されており、
潅漑地における肥料の平均投入量は 180kg/ha に及ぶ、と報告されている。
また、麦わらやフスマは家畜の飼料としても重要であることから、食糧確保の観点、そして
飼料確保の観点から、穀物生産はアフガニスタンの農家にとって極めて重要である。小麦の生
産性を向上させることより、農家の食料を確保するとともに残りの土地を換金作物の生産にあ
てることができるようになり、ひいてはケシ栽培からの脱却を図れるようになることが期待さ
れている。
1-3 国家開発政策
1-3-1 アフガニスタン国家開発戦略(ANDS)における農業・農村開発
2006 年 1 月に採択された暫定アフガニスタン国家開発戦略(I-ANDS)において、農業・農村
開発は、第 3 の柱である 「経済・社会開発」におけるセクター6として位置づけられている。
その他の優先セクターとしては、治安(セクター1)、ガバナンス・法律・人権(セクター
2)、インフラ・自然資源(セクター3)、教育(セクター4)、保健(セクター5)、社会
保障(セクター7)、経済ガバナンス・民間セクター開発(セクター8)が挙げられている。
農業・農村開発については、市場へのアクセス、電気、冷蔵施設、品質管理、規格の改善に
よって、農業及び畜産の生産が向上し、付加価値の高い農産品を生産することによって、都市
への移動が抑制されることが期待されている。また、これらに注力することによって、生産の
現場から市場へのつながりができて産業が活性化し、農産品の加工・輸出・輸入代替が促進さ
れることが目標とされている。
政府の果たすべき役割としては、(1)農業生産を促進するための総合的な社会経済開発と自然
資源の持続的な利用を進める、(2)潅漑用水管理を含む農村インフラを改善することによって、
農家が農業用水、基礎的な農業サービス、市場にアクセスできるようにする、(3) 村落レベルに
おいて参加型による意思決定とガバナンスを促進し、コミュニティーによる計画策定とプライ
オリティづけができるようにする、(4)マイクロファイナンスと農村金融へのアクセスを向上さ
せる、(5)農村部における企業化を促進し、農業分野・非農業分野における生産能力を向上させ
る、ということが挙げられている。
1-3-2 農業開発戦略
農業・潅漑・畜産省(MAIL)によるセクター開発計画として、「アフガニスタン農業マスタ
ープラン」が 2005 年に作成されており、これに基づき、上記 ANDS 作成プロセスの一環として
「農業戦略」が 2007 年に作成されている。
農業戦略における目的は、以下のとおりとされている。
「アフガニスタン国全体において食料確保と貧困削減を達成することにより農業経済を再構
築し、農民が生産・生産性を向上させて自然資源を持続的な成長のために管理・保護すること
ができるようにし、農村部のインフラと潅漑システムを向上させ、市場を拡大して人的資源・
能力を向上させる。」
農業戦略は、7 つの国家プログラムから構成されるが、これらのプログラムによって達成すべ
き目標値として、以下が設定されている。
•
•
•
•
農業分野における公共投資が 2010 年までに 30%増加する。
農地の所有権及び牧草地へのアクセスを初めとする土地所有権の問題を解決する実効
性のある戦略が 2010 年までに作成され、実施に移される。
プログラムのそれぞれが、何らかの形でケシ栽培の漸進的な減少につながる。
2010 年から、合法的な農業セクターが GDP の増加に貢献するようになる。
7 つの国家プログラムの概要は以下のとおりである。
(a) 食糧の確保
質の高い種と肥料を効率よく用い、潅漑施設を改修・拡大することにより、小麦の輸入を
減らせるのみならず、現金収入につながる高付加価値の園芸作物に耕地を充てることがで
き、食べ物と収入源の両者を多様化させることができることから、穀物生産が最重要課題
として位置づけられている。そのために、小麦の生産量・生産性の向上、病虫害対策、収
穫後処理・輸送・加工、共同の貯蔵施設を支援し、農業生産の多様化を促す。
(b) 輸出のための園芸作物の振興
アフガニスタンは伝統的に、果実、ドライフルーツ、ナッツ類の輸出国であり、周辺の
国に対して比較優位を有していたことから、潅漑システムの拡大と果樹の植栽を行うとと
もに、苗木の生産と輸送、そして将来的には生産物マーケティングを行うための生産者組
合を形成し、2015 年まで年間 8%の成長率を達成することを目標としている。
(c) 畜産物の生産の拡大と生産性の向上
アフガニスタンは、肉牛や鶏肉、鶏卵、牛乳を含む多くの畜産物を輸入している。特に
酪農や養鶏に必要となる飼料の生産が集中的に行われていないこと、獣医師補の養成が遅
れており獣医サービスが多くの農民に届いていないこと、畜産物の加工を中心とした販路
への投資が遅れていることが、主たる制約要因となっている。そこで、家畜の栄養を改善
して生産性を拡大し、公共・民間のパートナーシップによって獣医サービスのネットワー
クを構築して家畜の健康を向上させ、畜産物の加工・利用のための投資を促進する。
(d) 自然資源の管理と保護
アフガニスタンの自然資源は、過去 20 年にわたる紛争によって大きな圧力を受け続け、
著しく疲弊している。政府は、法整備及びコミュニティーによる自然資源管理の導入によ
って、自然資源を管理する戦略計画を立てているところである。中でも、流域管理計画、
森林再生、森林資源の持続可能な利用、牧草地管理、自然遺産の保護に力を入れていく。
(e) 農村インフラと潅漑システムの改善
アフガニスタンにおける伝統的な潅漑システムの多くが、紛争の影響及び維持管理の不
足によって機能を失っていることから、改修を行うとともに、水資源を有効に使うための
点滴潅漑といった新しい技術を導入していく。加えて、農家経済の成長を促し、農民の国
内・国際市場へのアクセスを向上するために、電力、通信、道路・交通、貯蔵・マーケテ
ィング施設といった基礎インフラへの投資を促進する。
(f) 成長する市場に対する生産の拡大
農業・家畜生産の拡大のためには、民間投資を促すメカニズム、特に農民金融の構築が
欠かせない。また、輸出促進のために、規格の導入、そしてそのための制度改革を行うこ
ととする。農民が、市場、技術サービス、投入物についての情報にアクセスでき、市場メ
カニズムの中で交渉力を増すための、農民の組織化を促していく。
(g) 持続的成長のための人材育成
農業開発の促進のためには、MAIL の職員が、省・ドナー・民間のプログラム・プロジェ
クトの計画立案、実施、モニタリング・評価ができるようにすることが不可欠であり、そ
のための人材育成をドナーの支援のもとで行うこととする。併せて、農業生産、農業生産
性を拡大するための制度的枠組みを構築するための人材育成を行い、民間セクター・
NGO・研究機関と共同でリサーチ・普及活動を行えるように、地方部の行政組織の改変を
行っていく。
1-3-3 農村開発戦略
(1)
農村開発戦略
農村復興開発省(MRRD:Ministry of Rural Rehabilitation and Development)においても、やは
り ANDS 作成プロセスの一環として「農村復興開発戦略」が 2007 年に作成されている。
農村復興開発戦略の目的は、以下のとおりとされている。
「基礎的サービスの提供、ローカルガバナンスの構築及びケシ栽培に頼らない持続可能な生
活を推進することによって、農村コミュニティー、特に貧困者や脆弱な立場にいる人たちの社
会的、経済的、政治的な幸せを達成する。」
農村部の人々が貧困から脱却できるための条件を整えるために、基礎インフラ、人的資本形成、
及びローカルガバナンスを充実させることが、農村復興開発における基本戦略とされている。
これを達成するための国家プログラムとして、国家連帯プログラム(National Solidarity
Program:NSP)、国家地域ベース開発プログラム(National Area Based Development Program:
NABDP)、国家農村アクセスプログラム(National Rural Access Program: NRAP)、農村給水衛
生プログラム(Rural Water Supply and Sanitation Program:RuWatSan)及びマイクロファイナン
ス投資支援ファシリティー(Microfinance Investment Support Facility for Afghanistan :MISFA)が実
施されており、これらに加えて、新たにアフガニスタン農村企業開発プログラム(Afghanistan
Rural Enterprise Development Program :AREDP)が開始された。これらのうち、本プロジェクト
形成調査との関連性の強い、NSP、NABDP、AREDPについて以下に詳述する(MISFAについて
は、第4章において詳述する)。
(2)
国家連帯プログラム(National Solidarity Program:NSP)
内戦等によって荒廃・疲弊した農村社会の復旧・復興を図るため、2003 年から世界銀行の支
援のもと、MRRD は国家連帯プログラム(NSP)を開始した。本プログラムは、コミュニティー
主導によって農村の開発ニーズを満たすことを目的としており、中央政府、開発支援パートナ
ー(Facilitating Partner:FP)である 27 の NGO と国際連合人間居住計画(UN-HABITAT)、そして
住民を代表するコミュニティー開発委員会(Community Development Council:CDC)の協力によ
って実施されている。NSP を通じて、インフラや社会サービスへのアクセスを向上させて農村
の生活を向上させるとともに、地方におけるガバナンスが樹立され、安定した国家形成に寄与
することが期待されている。
NSP の実施戦略は、以下の 4 つの要素で成り立っている。
(a) コミュニティーレベルで選挙を通じて CDC を形成し、農村のニーズについてのプライオ
リティづけを行って、NSP の基準に合致したサブプロジェクトを決め、承認されたサブ
プロジェクトを実施する。
(b) 上記 CDC によって計画された開発・復興活動(サブプロジェクト)の実施のために、ブ
ロック・グラント(1CDC 当たり約6万ドル)を提供するシステムを構築する。
(c) CDC(男性及び女性)のメンバーの会計・調達能力や技術を向上させ、透明性を確保す
る。
(d) CDC と政府・ドナーとの関係を構築し、サービスやリソースへのアクセスを可能にする。
NSP の実施体制としては、全体のマネジメント及び監理を GTZ が行い、22 の NGO が
Facilitating Partners として、CDC が NSP のブロック・グラントを用いてサブプロジェクトを実施
する上での実施促進を行っている。NSP1(389 百万 US ドル、うちブロック・グラント 214 百
万 US ドル)では、2007 年末までに、アフガニスタンの全 34 州における 193 郡において 16,500
の CDC が形成されている。新たに約7千 5 百の CDC がつくる予定で、計画通り進めば、 2010
年 3 月末までにアフガニスタン全国 34 州すべてのコミュニティーにおいて CDC が設置されるこ
ととなる。
(3)
国家地域ベース開発プログラム(National Area Based Development Program:NABDP)
アフガニスタン国内において諸種の原因によって特に窮状に陥っている地域に対して、総合
的、ボトムアップ、参加型、柔軟な支援を行うことにより、比較的有利な条件にある他の地域
とのギャップを減らして、将来的に国家政策・プログラムの恩恵を受けら得るようにすること
が「地域ベースの開発アプローチ」である。技術的・資金的支援によって MRRD の組織・能力
を強化して、緊急に復興を必要とする 10 ヶ所の地域に対して、投資の計画と運営を行えるよう
にすることを目標として、UNDP と MRRD とのパートナーシップのもと、2002 年 4 月から 2005
年 12 月までの期間で NABDP フェーズ1が実施された。
フェーズ1は、以下の 3 つのコンポーネントから構成されていた。
(a) 緊急復興:優先地域の 320 のサブプロジェクト(道路、橋、排水、保健施設、学校、家屋、
小水力発電、潅漑、水管理施設、水道、政府の建物等)が実施され、肥料が全州の 7 万世
帯に、家畜のワクチン投与が 14 州において行われた。
(b) 能力開発:700 名の MRRD 職員のプログラム運営管理・モニタリング・評価、パソコン、
英語能力が強化され、15 の州の MRRD のオフィスが改修された。
(c) マクロ経済活性化:優先地域の経済活性化のために、いくつかの分野においてフィージ
ビリティ調査が行われた。
フェーズ1に引き続き、2006 年 2 月から 2008 年末までの予定で以下の項目が、フェーズ2と
して実施されている。
(a) コミュニティー・エンパワーメント:郡レベルにおいて、CDC の代表によるインフォー
マルな開発ワーキンググループ(District Development Working Groups:DDWG)を形成し
て能力開発を行い、CDC や郡レベルのニーズを州レベルの計画策定に反映できるように
する。
(b) 経済活性化:社会・経済に関するアセスメントを行い、開発にかかる機会や制約を把握
して、地域農村経済活性化戦略を策定する。
(c) 能力開発:MRRD の本省及び州の職員の能力強化を行い、また、州開発委員会
(Provincial Development Committee:PDC)の能力強化も行う。
(d) 公共投資実施支援:コミュニティーによる開発計画及び地域農村経済活性化戦略をもと
に、総合的な農村開発計画を策定し、プライオリティづけを行い、財源を確保するため
の支援を行う。さらに、フェーズ 1 より小規模ながら、実際の投資も行う。
(4)
アフガニスタン農村企業開発プログラム(Afghanistan Rural Enterprise Development
Program :AREDP)
AREDP は、MRRD が主導している「民間セクターのポテンシャルを開花させて、経済成長及
び農村における持続的な雇用と収入創出を達成させる」国家プログラムであり、2008/09 年の事
業費として 19.83 百万 US ドルの予算について財務省が合意している。
AREDP の事業内容として、有望産品(Champion Products)の育成、金融アクセスの向上、
BDS(Business Development Service)支援、品質管理、幼稚産業保護、Private-Public Partnership、
他の国家プログラムとの連携、Community Mobilization が挙げられており、これらを通じて、輸
入代替(例えば、サラダ油、鶏肉、乳製品、ウール・糸、加工食品、石鹸・洗剤、マッチ、塩、
ミネラルウォータ、魚、木製品、靴、パスタ、ポテトチップ、使い捨て食器)及び輸出振興
(薬草、サフロン、絹、皮革、カラクル羊皮、ドライフルーツ、フレッシュフルーツ、カーペ
ットなど)により、有望産品を実現するものである。
実施体制としては、AREDP の監督機関として省庁横断的な委員会 Afghanistan Enterprise
Development Council(MRRD、財務省、商業省、農業灌漑牧畜省、女性課題省、水・エネルギー
省、運輸省、公共事業省、労働社会省、投資促進庁、ANDS 事務局)を作り、法制度の改正・構
築、金融支援、デザイン・ブランド戦略、ロジスティックス、インフラ、技術の問題を解決し
て、民間セクターがスムーズに活動できるビジネス環境を整えていく。AREDP の事務局は
MRRD が担う。
マーケット・オリエンテッドなトップダウン・アプローチと、コミュニティー開発(Self Help
Group:SHG の形成・育成)を通じたボトムアップ・アプローチを採用することとしており、そ
れぞれ政策金融(SME Development Facility 及び Micro-Enterprise Promotion Facility)を利用する
ことを考えている。予算規模は、10 年間で 447 百万 USD を想定して、主として世銀の融資を期
待しており(世銀は 2008 年 4 月~5 月に Preparation Mission を出し、2009 年からの Finance を考
えている)、MRRD 内部の AREDP の準備室に対して DFID が職員の給与を支援している。
現場レベルでの準備作業として、コミュニティー開発については、インドでの SHG 支援の経
験の豊かな NGO の Hand in Hand が、バルフ州で SHG 育成、Village Bank 設立にむけてのパイロ
ット事業を行い、有望産品の発掘については、NABDP(National Area Based Development
Program)の経済活性化ユニットが有望産品のビジネスプランを作っているところである。
AREDP の初年度予算のうち、約 5 million USD がトレーニング、残りの約 15 million USD が
中小企業融資となる。AREDP への支援を検討している世銀は「無償資金(Grant)によるコミュ
ニティー支援」、財務省は「ローンによる SME 支援」を重要視していること、また、農業分野
への投資については農業省との役割分担上、全面に出すことができないことから、AREDP が実際
にどのような仕組みで誰を対象に運営されていくのか、2008 年春の段階では明確にはなってい
ない。ただし、実施体制については、以下のような仕組みが想定されている。
•
•
プロジェクトの一つ目の柱である「Business Development Services (BDS)」については、
全国を 6~7 の Region にわけて BDS センターを設置し、その下に州レベルの BDS センタ
ーをおいて、それぞれの州に数名の SME アドバイザーをおく。またコミュニティーレベ
ルでは 10 の CDC に 1 人の割合で Community Enterprise Facilitator が配置される予定。
第二目の柱「Rural Access to Credit」では、各州に最低 1 名の融資アドバイザーを置
き、MISFA ないしは商業銀行を通じて商業ローンを貸し付ける。対象は Self Help Group
や個人企業家である。
第2章 アフガニスタン農村部における地場産業の概要
2-1 果樹・ナッツ生産/加工の概況と課題
2-1-1 果樹・ナッツ栽培の概要
アフガニスタンにおいて、果樹を含む園芸作物は、現金作物として農家の所得向上につなが
るうえ、輸出品目として国家経済にとっても重要である。また、単位面積あたりの収入が比較
的高いことから、ケシ栽培の代替作物としても注目されている。アフガニスタンの自然条件は、
乾燥した水はけの良い大地と、気温の日較差が大きいことから、果樹栽培に適している。一方
で、夏季は雨が降らないため、果樹栽培には灌漑用水を必要とする。かつてはオーガニックな
果樹生産がほとんどであったが、最近は化学肥料を用いた果樹生産がほとんどであると報告さ
れている。
下表のとおり、果樹全体の栽培面積は約 12 万 ha、生産量は約 76 万トンと推定される。全果
樹園の 90%以上が、ブドウ、桑の実、アーモンド、ピスタチオ、アンズ、リンゴの 6 種の果樹
で占められており、作物多様性は比較的低いと言える。園芸分野で果菜に分類されるメロン、
スイカの栽培も盛んで、特にメロンは良質のものが生産される。標高が高いため周辺国より気
温が低く、近隣国へ落葉果樹の果実を輸出し、熱帯果樹類を輸入している。
表 2-1 アフガニスタンにおける果樹栽培面積、単位面積当たり収量、および推定生産量 2
(2002/2003)
栽培面積
単位面積当た
果樹種類
(ha)
り収量(t/ha)
推定生産量(t)
ブドウ
60,618
8.5
515,253
リンゴ
6,117
10.0
61,170
アンズ
6,739
8.9
59,977
ザクロ
2,435
9.5
23,133
アーモンド
11,485
1.4
16,079
クルミ
2,522
3.5
8,827
スモモ
944
7.0
6,608
モモ
891
7.0
6,237
カンキツ類
214
8.0
1,712
桑の実
16,550
2.5
41,375
ピスタチオ
9,158
0.9
8,242
オリーブ
623
10.4
6,479
その他
1,651
----計(概算)
120,000 ha
760,000 t
出所:「アフガニスタンにおける果実の生産と利用」小崎格著
2003 年にFAOが行った調査によると、調査対象となったブドウを除く果樹のうち 58%が、10
年生以下の若木であった 3。過去 25 年間で果樹の栽培面積も増加傾向にあり、長年にわたる戦乱
にもかかわらず、果実生産の需要が伸びていたと推測できる。
2
3
桑およびピスタチオは散在果樹の推定値。ピスタチオは森林にある野生樹を除く。
FAO Afghanistan Survey of the Horticulture Sector
囲み記事1
ザクロの市場可能性
ザクロはカピサ州、バルフ州及びカンダハル州で多く作られており、品質によって 0.25~0.55 USD/kgの小売価
格で販売されていることから、1,800 USD/Jerib 4の収益を上げることができる。世界的にザクロの需要が急増し
ており、例えばアメリカではザクロジュースは 0.50 USD/kgの価格で売れている。苗木を供給し、水管理及び品
種に応じた接ぎ木・剪定を行うことにより、果実の品質を上げ、パッケージを改善していけば、将来的に輸出は
可能であるものの、品質を安定させるためには、果実が割れること、果実の中に虫が入り込む問題を解決する必
要がある。
出所:Life of Project Workplan, USAID ASAP
2-1-2 ブドウ
(1)
ブドウの種類、生産高
ブドウは、アフガニスタン全土で古くから栽培されてきた果樹である。年間約 52 万トンが生
産されており 5、果樹の全生産量 76 万トンの 68%を占めている。栽培面積でも半数を占め、下
図のとおり増加傾向にある。
図 2-1
ブドウの栽培面積の推移
80,000
Hectares
60,000
40,000
20,000
0
1978
1996
2003
出所:UNDP/Altai Consulting Market sector assessment in horticulture, (Phase 1) June 2004
ブドウの種類は種無し品種だけで 40 種以上と豊富で、高品質である。最も代表的な品種は、
キシュミシュという淡黄緑色のやや小粒の種無し品種で、その他にフサイネ、タイフィなどの
大粒高品質品種などがある。
現在のところ、多くは、商品としての栽培ではなく家庭で消費されている。国内に適切な貯
蔵施設がないこともあり、出荷時期が集中し市場は飽和状態になる。そのため、当然ながら低
価格となり、農家にとって利益が少ない。ブドウ栽培は、質量ともに天候に左右されやすく、
苗木を植えてから収穫までに時間がかかることから、農民による投資意欲は低い。
4
5
5 jerib = 1 ヘクタール
UNDP/Altai Consulting Market sector assessment in horticulture, (Phase 1) June 2004
(2)
ブドウのサプライチェーンの現状と課題
図 2-2 ブドウのサプライチェーン
ブドウの生産
収穫
農家
荷造り・荷送り業者
選別・分類
包装・梱包
国外へ輸出
仲買業者
郡、州の卸売市場
生産
アフガニスタンでは、近代的な栽培方法はほとんど採用されておらず、Juiとよばれる土塀の
中で、株仕立ての短幹、短梢の整枝・剪定方法がとられており、生産高は近代的な栽培方法で
ある棚作りの約半分である 6。ブドウの栽培においては灌水が不可欠であるが、非効率な伝統的
な方法 7で行われてきた上に、戦乱により潅漑施設の多くが打撃を受けた。また、受粉、摘果な
どの結実管理はほとんどされていないか、不十分である。夏季乾燥するため、果樹の病害は少
なく、病害防除の対策はほとんど取られていなかったが、新品種の導入などに伴って近年各地
で害虫被害が確認されており、今後全土に被害が拡大する恐れがある。
流通
主に、農村から近郊都市市場への出荷が最も多いと推測される。一般に、農家は収穫前に値
段の交渉を行い、収穫・箱詰め作業の段階からは荷造り/荷送り業者が行うことが多い(作業に
ついては、季節的な労働者が利用されている)。農家が自ら出荷を行わない理由には、一般の
農家には適切な梱包材料・輸送手段がないこと、さらに都市の市場とのコネクションがないこ
とにより、収穫後生果を 1 週間以内に市場に届けるためには他にオプションがないことが挙げ
られる。結果として、農家の交渉力は限られており、非常に不利な状況にある。農家が卸売業
者に直接交渉するケースもあるが、個人ベースで行われるため、交渉力に欠ける。また、農家
は市場の情報が入手しづらい状況にある。農協はあっても形骸化している一方で、集団化によ
る農家相互の協力体制が文化的に発達してこなかったことが、現在の農民の交渉力不足の原因
となっている。
収穫後の市場までの輸送は、仲買業者によるトラック輸送が一般的である。輸送時の包装、
梱包の基準はなく、麻製の袋に入れるか、木枠に詰めるのが一般的な生果の梱包方法である。
コンテナの深さや容量が適切でないことも多く、劣悪な道路状況による輸送時のダメージが大
きい。輸送時のダメージを減らして商品価値を減らさないようすることの重要性を認識して、
6
単位面積あたりの収量は、アフガニスタンの果樹園で 8.5t/ha に対して、アメリカにおいては 16.6t/ha であった。
(ASAP Life of Project Workplan)
7
畦間潅水または水盤潅水と言われる方法が用いられている。畦間潅水は作物の植わったうねの間に水を通して
満たす方法で、水盤潅水は水田のように畦で囲んだ場所に湛水する方法である。この方法は、蒸散、地中への流
亡が大きいため、水効率が低く、地中の養分が流亡してしまう問題、また極端な過湿と乾燥を繰り返して水スト
レスによる裂果の症状を起こす場合がある(「アフガニスタンにおける果実の生産と利用」)。
梱包の方法、貯蔵方法の改善を行う必要がある。特に夏季の高湿期には、生果を収穫してから
市場までの時間と取り扱い方法が、損傷物の割合に大きく影響する。ブドウの適切な保存温度
は摂氏 1 度であるが、国内で冷蔵設備のあるトラックは 50 台以下と非常に限られている 8。適切
な梱包がなされていないために、ブドウをはじめとする傷みやすい園芸作物の 20~40%は、最
終目的地に到達した時点でその商品価値はないに等しいとの報告9もあり、ポスト・ハーベスト
のありかたが作物市場の発達を妨げている大きな要因となっている。
国境近くに住む農家は近隣国に出荷できるという利点があるが、交通手段に乏しく、集団出
荷体制も存在しないため、地理的利点を十分に活用できているとは言い難い。国外への空輸は、
現在のカブールその他の空港での貨物取扱におけるコスト面、衛生面、運営面で問題が多いこ
とから、トラック輸送が一般的である。パキスタン、イランなどの近隣諸国から、商人がトラ
ックで買いに来る場合や、仲買人が農家もしくは卸売業者から直接買い集め、輸送する場合が
ある。
市場との距離、市場の大きさ、消費者の嗜好の観点から、アフガニスタンにとって最も有望
な市場はインドとなっている。例えばブドウをカンダハルからパキスタン経由でデリーに運ん
だ場合、インドにおけるブドウの生産地から運ぶ場合よりも距離が近い。しかしながら、パキ
スタンを経由するときに高い関税がかけられるうえに、パキスタンの通過の際には同国のトラ
ックへの積み替えが求められることから商品へのダメージが大きく、輸出が伸び悩んでいる。
インドへの輸出に加え、年間 2 万トンから 3.5 万トンのブドウが、主にパキスタン、サウジア
ラビア、アラブ首長国連邦に輸出されている。
売値 485
500
小売業者の
利益, 50
卸売業者の
利益, 26
400
輸送費, 10
300
パッケージ費,
50
200
12,000
6,000
10,000
5,000
8,000
4,000
6,000
3,000
4,000
2,000
2,000
1,000
輸出量(トン)
600
図 2-4 ブドウの輸出量と輸出額の推移
輸出額(
図 2-3 ブドウの売値の内訳(1 トンあたり USD)
農場, 360
100
0
0
95 96 97 98 99 00 01 02
19 19 19 19 19 20 20 20
0
出所:UNDP/Altai Consulting Market sector assessment in
horticulture, (Phase 1) June 2004
輸出量(トン)
輸出額(000US$)
出所:Central Statistics Office, 2003
2-1-3 ドライフルーツ・ナッツ
(1)
ドライフルーツ・ナッツの種類、生産高
1970 年代にはアフガニスタンはドライフルーツ世界流通量の 10%を占めていたが、長年にわ
たる戦乱や旱魃の影響で、現在では 2%に落ち込んでいる 10。とはいえ、現在もレーズンをはじ
めとするドライフルーツは、同国の重要な輸出品目である。2002 年において、ドライフルー
ツ・ナッツの輸出額は約 5.8 千万USDとなっており、国の全輸出総額である 1 億USDの半分以上
を占めた。
8
AISA Market Prospects
UNDP/Altai Consulting Market sector assessment in horticulture, (Phase 2-3) August 2004
10
UNDP/Altai Consulting Market sector assessment in horticulture, (Phase 1) June 2004
9
図 2-5
ドライフルーツ輸出量の割合(2002 年)
アプリコッ
ト
4%
クルミ
3%
ピスタチオ
3%
その他
4%
アーモンド
10%
レーズン
76%
出所:Central Statistics Office
ドライフルーツでは、レーズンの生産が主であるが、アプリコット、イチジク、桑の実など
の果実の生産に適した、乾燥した気候条件が整っている。戦乱前は、30 以上のレーズン加工工
場が存在していたが、現在稼動している加工工場は三分の一以下で、設備も老朽化している 11。
加工方法はこの 25 年間で変わっておらず、現在の国際競争下における市場の拡大は困難な状況
にある。
囲み記事 2
乾燥アプリコットの市場可能性
アプリコットは中央アジアが原産であり、アフガニスタンではグリシュク州、ヘルマンド州、バーミヤン州を中
心に 2 万トン程度は作られているといわれている。アフガニスタンの生アプリコットを輸送することはコールド
チェーンの不備により困難であるものの、硫黄燻蒸、乾燥、選別、洗浄させれば、国際的競争に耐えうる品質の
乾燥アプリコットを作ることは十分可能である。パキスタン、インドのみならず、ヨーロッパへの輸出も可能で
あり、トルコ産と同様の 2000 USD/トンの商品価値はあると見られている。このためには、サンプルをインドや
ドバイに輸出したり、国際的に嗜好される品種を特定したり、苗木生産を拡大し、乾燥アプリコットの情報をフ
ァームストアのネットワークなどを通じて農民に伝えたり、仲買人組合の活動を活発化させてマーケティング機
能を強化したりしていく必要がある。
出所:Life of Project Workplan, USAID ASAP
ナッツ類としては、アーモンド、ピスタチオ、クルミ、パインナッツ(松の実)などがあり、
品質も良い。これらのナッツ類は種類によって、収穫後の処理や、適切な保存温度を変える必
要がある。例えば、パインナッツやピーナッツは、香り、品質を保持するため、炒る必要があ
る。ピスタチオは、皮の除去のあと、洗浄し、乾燥させて保存する。しかしながら、国内での
ナッツの加工施設・能力が不十分であることから、市場では通常殻つきのまま生果で出回って
おり、付加価値がほとんどつかない状態で国外へと輸出されるケースが多い。
11
AREU Understanding the raisin market in Afghanistan: A case study of the raisin market, 2004
(2)
レーズンのサプライチェーンの現状と課題
図 2-6
レーズンのサプライチェーン
ブドウの収穫
生のブドウ
農家
選別
天日乾燥
陰干し乾燥
レッドレーズン
(Aftabi)
グリーンレーズン
(Kishmish)
包装、出荷
卸売市場
加工・洗浄
仲買業者
小売店
国外へ輸出
(パキスタン、インド等)
レーズンの生産
アフガニスタンのレーズンは、陰干し乾燥させたグリーンレーズン(Kishmish)と呼ばれる
ものと、天日乾燥させたレッドレーズン(Aftabi)との 2 種類に大きく分類される。グリーン
レーズンは、Kishmish khana と呼ばれる、土レンガでできた建物でブドウを乾燥させる。
Kishmish khana は、格子戸により風通しの良い構造になっており、通常ブドウ園の中にある。
通常、陰干し乾燥には 1 ヶ月を要するが、乾燥させる前に炭酸カリウムに浸すことで、乾燥時
間を大幅に短縮できる。陰干し乾燥させたレーズンは高品質で、天日乾燥させたものより 2~3
倍の値がつく。長年にわたる戦争で、Kishmish khana の多くは破壊されてしまい、現在のグリ
ーンレーズンの生産量は限られている。
天日乾燥については、直接地面や屋根の上で乾燥させる方法が一般的であり、その結果、ご
みや砂などの不純物が混じっていて不衛生で質が低い。JICA の女性の経済的エンパワーメント
プロジェクトなどにおいて、乾燥技術を向上させ衛生面に配慮することで、市場価値の高いレ
ーズンを生産することが可能であることが実証されているが、あわせて、アフガニスタンのレ
ッドレーズンについて回る「低品質な副産物」としてのイメージを払拭する必要性がある。
流通
一般に、農家個人が 50-100kg のレーズンをバッグに詰め、近郊の市場に販売しに行く。仲買
人が農場まで出向いて集荷し、卸売市場へ輸送する場合もある。輸出用のレーズンは卸売市場
において、形、大きさ、色、質で選別される。グリーンレーズンは、それ以上の処理はなされ
ないが、レッドレーズンは、輸出のためには水での洗浄処理が必要とされる。アフガニスタン
国内では設備が限られているうえ、電気・水などの面から費用が高くつくため、一般に輸出後
に国外の工場で洗浄処理される。
アフガニスタン産のグリーンレーズンの品種は近隣諸国で高く評価されていることから、主
にインドとパキスタンへと輸出されており、今後生産地での生産方法の標準化が達成され、選
別・加工処理技術が向上されれば、EU諸国への輸出拡大の可能性もある。一方で質の低いレッ
ドレーズンは、インド、ロシアへと輸出される。2002 年においては、3万4千トンのレーズン
(22,448,000 USD)が輸出され、その年の総輸出額の 22.4%を占めた 12。主に、ジャララバード
からパキスタンへ、パキスタンを介してインドへ、またマザリシャリフからモスクワへと輸出
されている。パキスタンへの輸出は、輸送時に 2~3 週間もの間、摂氏 40 度の列車の荷台に置
き去りにされることも少なくなく、幾度にわたる荷積み・荷おろし作業により、産品の損傷率
も高くなる。インドにおけるレーズンの需要は極めて高く、インドとは特別措置の輸入関税協
定が結ばれていることから、アフガニスタンのレーズンに関しては、他国産の 105%に対して
52%の輸入関税が適用される。モスクワへの列車での輸送は 15~20 日間を要するが、作物への
ダメージは比較的少ないとされる。
表 2-2
レーズンの種類
レッドレーズン
(中級品)
グリーンレーズン
(高級品)
(3)
レーズンの流通価格の例
産地と輸出先
マザリシャリフ産→モスクワ
1kg あたりの値段(USD)
農場での売値 $0.43
国内仲買業者の取引値 $0.47
加工、包装費 $0.02
関税 $0.10
モスクワでの取引値 $0.80
カンダハル産→インド
農場での売値 $4.50
国内卸売業者/輸出業者の買値 $6.26
インド輸入業者の買値 $6.97
インド消費者の買値 $12.50
出所: AREU Understanding Markets in Afghanistan: A Case Study of the Raisin Market
アーモンドのサプライチェーンの現状と課題
図 2-7
アーモンドのサプライチェーン
アーモンドの収穫
農家
選別・分類
仲買業者
殻の除去
女性
(仲買人の家族等)
梱包・輸送
卸売市場
(殻つき:殻なし=2:1)
加工
選別・分類
殻の除去
包装
国外輸出
12
Central Statistics Office, 2003
仲買業者
小売店
アーモンドの生産
アーモンドの栽培面積は 11,000 ヘクタールで、年間約1万6千トンが生産されており、特に
アフガニスタン北部での栽培が盛んである。中でも、バルフ州では年間を通して 5,500 トンが
生産され、種類も豊富である。通常アーモンドの木は成熟するまで 7 年間を要し、その後 30 年
以上にわたって実を実らせる。北部では、7 月から 10 月が収穫時期となる。アーモンドに関し
ても、伝統的な栽培方法が一般的で、より効率的な生産方法が知られていないことから、収穫
量は少ない。
加工および流通
アフガニスタン国内においては、アーモンドを加工することによって付加価値をつけるシス
テムがほとんど存在しない。国内市場では一般に、殻つき、もしくは殻を除去した状態
(Kernel)のどちらかで売られている。農家は生産、収穫にたずさわるのみで、分類・選別、
殻の除去は仲買業者によって行われるのが一般的である。通常、市場で売られている殻つきの
アーモンドを仲買業者が購入し、殻を取り除く作業は、仲買人がインフォーマルな形で委託し
た労働者によって行われている 13。
品質管理には課題が多く、仲買人のインタビューによれば、30%は汚かったり乾燥の度合い
が悪かったりして受け入れ不可能なもので、質の高いものは全体の 50~60%にすぎない、との
ことである。包装も、35~105kg の大きな袋に輸送用に詰めるという簡易な方法であり、外国で
高い価格で販売するためには、自動のパッケージング機械などが必要である。さらに、ロース
ト、スライス、塩での味付けなどの加工方法を導入することで、付加価値を得ることが可能と
考えられる。ナクルキャンディーとよばれる砂糖づけのアーモンドが国内販売向けに生産され
ているが、それ以外の加工品の生産は非常に限られており、アーモンドオイルなどの付加価値
の高い加工品の生産も検討の余地がある。
輸出入
主要なアーモンドの市場は、カブール、マザリシャリフ、クンドゥズで、カブールはパキス
タン、インドへの輸出拠点でもある。国内市場では、輸入品との競合が存在し、殻つきのもの、
ローストしたもの、砕いたもの、など様々な種類のアーモンドが売られている。アフガニスタ
ンで生産されるアーモンドの 80%は、パキスタン、インド、ドバイへと輸出されている。イン
ドへの輸出は主にパキスタンを経由するため、仲買人の数、荷積み、荷おろしの回数が必然的
に増える。インドは、アーモンドの世界流通の 35%を輸入しており、そのほとんどがアメリカ
産であるが、アフガニスタン産のアーモンドは、高品質であると評価されており、アメリカか
らの輸入品より高いが、それでも売れている。加工方法の改善、インドへの輸送ルートの拡大
は、今後のマーケットの拡大に貢献すると考えられる。
価格
アーモンドの種類や質によって価格には幅がある。通常、農場での価格は、1kg あたり 1.50
~10.00USD となっており、卸売市場では、1kg あたり 4.00~18.00 USD で売られている。
2-2 畜産業・畜産加工業の概況と課題
2-2-1 畜産業の概要
アフガニスタンにおける畜産業は、穀作が共存する混合農業の形態をとり、ほとんどの農家
が何らかの家畜を飼養している。家畜の飼養方法は、遊牧民による放牧と定住農家による飼養
とに分けられる。アフガニスタンには、全労働人口の2割にあたる150万人の遊牧民(クチ)が、
13
女性が自宅で行う場合が一般的で、殻を燃料として与える条件で、労働コストを下げている。
家畜の放牧により生計を立て暮らしている。一方で、定住農家にとっても家畜の飼養は現実的
かつ持続可能な収入源である。家畜は、役畜として農作業や物資の運搬にも利用され、その排
泄物は肥料や燃料となるなど有益な存在である 14。さらにミルク、卵、羊毛などの畜産品は、農
家にとって貴重な現金収入源となる。特に多くの貧困層にとって家畜は、農作物の収穫変動に
対する一種のリスクヘッジ(ないしは貯金)としての機能を持つものでもある。
農家にとって牛は非常に重要な家畜であり、主な用途は耕作とミルクの生産である。自家消
費として、牛を屠畜することは結婚式や宗教的な儀式以外ではほとんどない。一般に農家は、
商品用として処理された牛肉を、村の中心地などの食肉販売店で購入している。牛の糞は、肥
料や調理用の燃料として活用される。ヤギや羊などの小型家畜は、乾燥した環境にも適応力が
高く、出産率も高いうえ、食用肉、ミルク、繊維、皮などが現金収入にもつながる。また、小
型家畜は、現金が緊急に必要なときに売却される、「貯金」としての役割も果たしている。ヤ
ギのミルクは家庭で消費されるが、通常は乳製品に加工される。また毛も家庭で使用されるほ
か、販売される。カシミヤヤギは西部、北部地域で多く飼養されており、年間、1,000 トンのカ
シミアが輸出されている。羊は年に 1 度か 2 度刈られ、年間 1 頭につき 0.5~2.0kg の羊毛が採
取できる。
ガズニ州やバルフ州で多く飼養されているカラクル羊は、羊毛の質が高い上に、生後まもな
くの子羊は特にカラクール・ラムと呼ばれ、非常に高級な毛皮として輸出されている。
アフガニスタンにおいては国際的な水準の屠畜場はなく、規模的に大きなものは、国防省が
カブールに所有している、1 日あたり牛 20~30 頭を処理する屠畜場が唯一のものとなってい
る 15。現在の一般的な屠畜方法は、牛のような大型家畜は家畜市場の近くのオープンスペースで
屠畜を行い、枝肉をトラックに載せて食肉小売店まで運んでき、羊・ヤギといった小型家畜は
通常小売店のそばで屠畜される。家畜主が自ら家畜市場に家畜を運んでくる場合と、仲買人が
農家から家畜を買って家畜市場に運んできて小売店に売る場合の 2 つの方法がある。
主に、家畜に餌を与える、水をやる、乳搾りは女性の仕事とされ、放牧中の家畜の番は子ど
もの仕事とされる。家畜の売買や飼料の購入に関する決定権は男性にあるが、ミルクや毛の販
売に関しては、女性に決定権がある場合も少なくない。しかし、地域によってばらつきが見ら
れる 16。
畜産業は、輸出産業としても非常に重要で、絨毯などの毛織り製品、畜産加工、そして皮革
製品などの軽工業部門への原材料供給も担っており、製造業に対して果たす役割は大きい。
1999 年以降の干魃の影響により家畜の屠畜(草がないため、餓死する前に屠畜したもの)と死
亡が増加し、家畜をすべて失った農家の数も相当数に上った。2003 年における家畜頭数と一農
家あたりの平均家畜数を以下に示す。
14
ASAP Life of Project workplan。
15
Livestock Value Chain Analysis, February 2007, ADB/ Landell Mills。なお、USAID による ALP-E と
UNDP が、屠畜業者組合とジャララバード市と協同で屠畜場を建設する動きがある。
16
FAO Afghanistan National Livestock Census 2003
表 2-3
アフガニスタンにおける、家畜の数と一農家あたりの平均家畜数(2003 年)
家畜
家畜の数(千)
一農家あたりの
平均家畜数
ヤギ
7,280
3.91
羊
8,772
4.28
牛
3,715
1.60
馬
142
0.05
ロバ
1,587
0.64
ラクダ
1,75
0.10
ニワトリ
12,155
5.87
カモ
422
-
シチメンチョウ
599
-
出所:FAO Afghanistan National Livestock Census 2003
家畜の斃死率、罹患率は、アフガニスタンにおける家畜飼養の大きな課題である。良質の牧
草地が不足しており、特に冬場の家畜飼育は困難なものとなる。一般に、家畜の生産性は全般
的に低い。下図のとおり、獣医サービスへのアクセス、家畜の栄養状態を改善するための方策
が必要とされる。
図 2-8
牛の飼養において、家畜主にとって優先順位の高い課題 17
畜産の
知識
4.5%
水の確保
4.1%
市場への
アクセス
1.1%
クレジット
8.8%
健康管理
11.5%
飼料の
向上
70.0%
出所:FAO Afghanistan National Livestock Census 2003
家 畜 の 健 康 向 上 を 促 進 す る た め に 、 2004 年 か ら 2006 年 に か け て 、 USAID は Rebuilding
Agricultural Markets Program (RAMP)において、Dutch Committee for Afghanistan(DCA)を
通じて、獣医(Veterinary Field Units:VFU)の全国ネットワークの構築を行っており 18 、本
プログラムはASAPに引き継がれることとなった。本プログラムの特徴は以下の通りである。
•
•
•
17
18
アフガニスタン全国34州のうち、31州の284郡において、415のVFU(616名の職員)が設
立された。このうち、ASAPでは北・中部地域を中心とした230のVFUへの支援を継続し、
新たに107のVFUの設立を支援する。
郡レベルの高卒者で家畜飼養の経験のあるものに6ヶ月のトレーニングを提供して獣医師
補としてコミュニティーに対して獣医サービスを提供できるようにする。
VFU(及び獣医師補)に対して基本的な治療具、バイク、太陽電池つきの冷蔵庫などを提
供し、またスタートアップのためのワクチンや薬剤を提供する。彼らは、これらの初期
投資の支援を受けることにより、効果的な家畜治療を有料でコミュニティーに対して提
供できるようになる。
7 州の家畜主 1900 人を対象にした調査に基づく。
Afghan Veterinary Association (AVA)及び Partners in Revitalization and Building (PRB) が、DCA のサブコントラク
ターとして全国をカバーした。
•
カブール及び地域センターにワクチンのコールドチェーンを設立し、DCAがこれを運営す
ることにより、各VFUに対する薬剤の供給を滞りなく行うことを可能とする。本コールド
チェーンの資産については、将来的にDCAとAVAが設立する民間企業VetServe社が引き継
ぐことになる。
2-2-2 乳製品
(1)
牛乳の生産および乳製品加工の現状
2003 年の FAO の調査によると、アフガニスタンにおける 2 歳以上の雌牛の数は 210 万頭で、
うち授乳可能な雌牛は全体の 60%の 130 万頭であった。1996 年の FAO の調査において、一頭あ
たりの年間授乳量が 1,000~1,500kg との結果から、年間約 130 万トンの牛乳が生産されている
と推計されている。
牛乳の生産は、特に地方経済にとって非常に重要である。1986 年の一人当たりの牛乳の年間
消費量は 60kgであった。他の開発途上国と比べてその量は多いが、家畜数の減少に伴い、減少
傾向にある。現在の消費量のデータは存在しないが、36kgに減少していると推測されている19。
牛乳、乳製品の生産および販売は、特にカブールとアフガニスタン北部で盛んである。凝乳
とバター牛乳を始めとする乳製品は、人々の食生活にとって重要で、通常家庭で加工される。
牛乳の用途の調査において、対象者の 37%は家庭消費、60%が販売すると回答した。中でも、バ
ルフ州においては、90%以上の回答者が牛乳を販売していると答えた20。一方、アフガニスタン
東部、南部においては、牛乳や乳製品は、主に自家消費を目的として生産されており、牛乳、
ヨーグルト、バターミルクの販売は文化的に推奨されていない(すなわち、困っている人には
無償で提供すべき、という意識がある)。一方で、保存食品であるギー(バター)、チーズ、
クルト(脱脂粉乳)は売られている。現在では、販売を目的とした乳製品の生産も増えており、
その伝統は変わりつつある。
アフガニスタン国内には 4 つの加工工場があって牛乳の低温殺菌、乳製品加工が行われてい
るが21、その供給量が限られており、都市の店頭で売られているロングライフミルクやヨーロッ
パタイプのチーズなどの乳製品は、ほとんど輸入品である。近年の人口増加により、乳製品の
需要も増加すると予測される。飼料の向上や家畜の健康や栄養のケア向上、品種改良は牛乳の
生産の増加につながることがら、今後重要視すべき分野である。
19
ASAP Life of Project Workplan
FAO Afghanistan National Livestock Census 2003
21
Sector analysis, AISA/Altai consulting
20
(2)
乳製品のサプライチェーンの現状と課題
図 2-9
乳製品のサプライチェーン
牛の飼養・繁殖
搾乳
生乳
自家消費
ヨーグルト
遠心分離
クリーム
市場→加工工場
自家消費
発酵
低温殺菌
脱脂乳
攪拌
ホエー
(乳清)
乾燥
ギー
(バター)
バターミル
ク
販売
自家消費
牛乳
凝乳酵素を加える
凝乳
販売
自家消費
乾燥
クルト
チーズ
販売
販売
牛の飼養・繁殖
村共有の群れでは、雌牛と雄牛は共に群れを成し、放牧地での自然交配が一般的である。本
来、品種のよい雄牛と繁殖させるのが理想的であるが、多くの農家は個々の農場で飼養してい
るため、繁殖期の雄牛と交配させる機会が乏しい。中には料金を課して雄牛を貸し出している
農家もあるが、あまり一般的ではない。人工授精は政府所有の農場のみで行われていた。現在
はカブール、カンダハル、ナンガハル州でも導入されているが、いまだ一般的ではないことか
ら、この分野における支援の効果が高いことが予想される。
牛乳の生産と加工および流通
搾乳された生乳は、主に自家消費されるか、発酵させてヨーグルトとして保存される。過剰
分は、未処理の状態で、地方市場や小売店で売られる。牛乳の集荷体制が整備されておらず、
地方での牛乳の保存は大きな課題である。例えばバーミヤン州では電気が普及しておらず、保
冷タンクや加工設備への投資等が望まれる。
保存されたヨーグルトは、そのまま消費されることは多くない。通常、ギーと呼ばれるバタ
ーと液体状の脱脂乳とに分別される。ギーは、数ヶ月間保存が可能である。脱脂乳は、漉して
水分を取り除いたあと、白い残留物を小さな袋に入れて日干し乾燥させて「クルト」とよばれ
るクッキー状のものに加工される。また、生乳を少し発酵させたものに、酵素を加えて静置す
ることで水分状のホエーと凝乳にわけられ、凝乳を熟成させたものがチーズ、ホエーを乾燥さ
せたものはやはり「クルト」となる。
乳製品の生産や販売は、通常女性の仕事と位置づけられている。ギー、クルト、チーズは販
売目的で生産されることが多いが、村内での売買が一般的である。カブール州、ヘラート州、
バルフ州、クンドゥズ州においては、乳製品加工の施設が存在し、加工品は都市で販売される
が、生産量は限られている。乳製品のさらなる輸入代にあたっては、乳製品の流通および市場
の可能性に関してのフィージビリティ調査が必要とされる。
価格
農場での乳製品の値段は下表のとおりである。一般に、牛乳、乳製品の値段は、冬から春に
かけて最も高い。
表 2-4
1kgあたりの農場での平均価格(US$) 22
生乳
0.32
クリーム
0.44
ヨーグルト
0.32
脱脂乳
0.31
クルト
1.1
ギー(バター)
2.8
チーズ
1.4
出所:ICARDA Needs Assessment of Feeds, Livestock and Rangelands
2-2-3 養鶏業
(1)
養鶏業の現状 23
2003 年の FAO の調査によると、アフガニスタンにおける鶏の数は約 12 百万羽で、1 世帯あた
り平均 4 羽となっていた。このうち 30%が雄鶏、70%が雌鶏と推定され、1 羽の雌鶏が年間 60
個の卵を産むことから、年間に生産されている鶏卵数は 5.1 億個と推計される一方、鶏 1 羽あ
たりの重量が 1.5kg であることから、年間 18 千トンの鶏肉が生産されていると推計される。
RAMP の資料によると、アフガニスタン国内には 250 の小規模な孵卵場(200~400 個の孵卵能
力)があると推定されている。鶏卵はディーゼルによって温められており、コスト高となるた
め冬は操業されていない。20,000~27,000 個のレベルの孵卵場も 2~3 社存在しており、うち 1
つは稼動していることが確認された。
一方、カブール、ジャララバード、カンダハル、マザリシャリフには、FAO によって支援され
た小規模な飼料工場がある。これらは、6~8 トン/日の生産量で、人力によって攪拌されている。
加えて、数百という製粉所がアフガニスタン全域にわたってあることから、配合飼料そのもの
を作ることは可能と考えられる。しかしながら、どのような作物を混ぜれば栄養価の高い飼料
となるか、といった蓄積がないことから、養鶏の生産性は低い。
22
バルフ州、ガズニ州、ヘラート州、クンドゥズ州、ラグマン州での調査の平均値
本項の記述は、RAMP Afghanistan Poultry Sub-sector Assessment, Findings and Recommendations (April 2004),
Chemonics International Inc.による。
23
(2)
養鶏業のサプライチェーンの現状と課題
図 2-10
鶏肉・鶏卵のサプライチェーン
種鶏場
輸入
受精卵
農家
孵卵場
配合飼料業者
輸入
雛
配合飼料
輸入
養鶏場
鶏
鶏卵
屠畜場
鶏肉
包装
販売
販売
生産
アフガニスタンにおける養鶏は粗放的であり、自己消費を主とし、余剰分を地元の市場で販
売するのが、一般的なスタイルとなっている。1 件あたりの飼養数はおおむね 10 羽以下で、食
べ物の残り物などを与えられて、一羽あたり年間 60 個程度産卵する。土着の品種であることか
ら、病気に比較的強いものの、ワクチンなどを特別に与えられていないため、死亡率は例年
50%に達している(RAMP)。1,500 羽程度の半集約的な養鶏場が、カブール、ヘラート、バルフ
など主要な 6 州にはそれぞれ 10~15 件程度あり、合計で 135,000 羽程度の採卵鶏が商業的に飼
育されていると推計されているが 24、優良品種による大規模な養鶏場は現在のところ存在しない。
アフガニスタンの養鶏における問題は、①生産者に専門的・技術的な知識が欠けること、②
病気に対するワクチンが手に入りにくいこと、及び③飼料や獣医サービスを受けるシステムが
不十分であること、が挙げられることから、商業的生産を行うためにはこれらについてそれぞ
れ対策が講じられる必要がある。
24
例えば、カブールの養鶏業者組合は、合計 21,000 羽の採卵鶏を所有している。
バルフ州ディダディ郡における養鶏場の孵卵機及び飼料を砕く器具
鶏卵の流通・価格
アフガニスタンでは、2003 年には 2 億個の鶏卵が輸入されており、小売総額 13 百万 USD に上
っている。輸入業者は主としてカブール、カンダハル、ジャララバード、ヘラート及びマザリ
シャリフに位置しており、パキスタンあるいはイランから鶏卵を輸入している。輸入業者は、
親戚などを通じてパキスタンやイランの業者と長期的な取引関係を有し、一方でアフガニスタ
ン国内における小売業者とも緊密な関係を保っていることから、比較的成熟した流通システム
が形成されていると言える。一方において、国内産の卵は小売店で売られている一方で、農村
部では女性が近所で販売したり、子供がマーケットに運んで売ったりしている。RAMP の調査に
よれば、小売店で売られている卵の 12%は国内産、88%が輸入品だそうである。
国内産の鶏卵は、栄養価が高く新鮮であると思われていることから、輸入品(平均 3.35Afs/
個)に比べて高い価格(平均 5.22Afs/個)で売られている(カブール)。国内産が希少であるこ
とから、小売店での粗利益は、国内産が 0.91Afs/個、輸入品が 0.52Afs/個と、国内産のほうが
高くなっている。
鶏肉の流通・価格
アフガニスタンでは、生きた鶏を売買する習慣がある。近年はパキスタンなどから安価な冷
凍の鶏肉が輸入されるようになったが、①冷蔵庫がなくても困らない、②イスラムのハラルの
方法で屠畜されたかどうかわからない、という理由で、一般的に生きた鶏のほうが好まれる傾
向にあり、冷凍の鶏肉は貧しいものが食べるもの、という意識がある。イラン及びパキスタン
から鶏が生きたまま大量に輸入されてくるが 25、基本的に国内産の鶏のほうが高い価格で取引さ
れる。小売業者は、輸入業者から鶏を購入するが、国内産の場合は、自ら農家を回って鶏を集
める場合と、町に鶏を売りに来た農家から買う場合の両者がある。
輸入の生きた鶏は、1.5kg のもので 1.71USD であるが、同重量の国内産の価格の半分となって
いる。また、輸入された凍った鶏(脚部)は、1kg あたり 1.58 USD であり、粗利益は 1kg あた
り 0.15USD となっている。
25
2004 年の 3 月~4 月に、鳥インフルエンザの影響により、生きた鶏及び卵の輸入が 5 週間にわたり全面的に停
止された。
2-2-4 カーペット
(1)
カーペット産業の現状
アフガニスタンにおいて、カーペットはその多様な文化を反映した伝統的な産物として受け
継がれ、古くから重要な輸出品目であった。アフガニスタンで生産される手織カーペットには、
キリムの名で親しまれている綴織や、毛足があり起毛した状態の織り方であるパイル織、羊毛
の天然色を生かして文様を配置し、繊維をそのまま圧縮させたフェルトなどがある。
カーペットの生産は、特にアフガニスタン北部で盛んであり、国内のカーペットの約 70%が生
産されている。年間で 200 万枚のカーペットが輸出されており、輸出総額は 140 百万 USD 程度
と推計されている。現在、アフガニスタンで生産されるカーペットのほとんどは、パキスタン
に不法輸出されて最終的な仕上げ(洗浄及び刈り込み)がなされ、パキスタン産として輸出さ
れている。アフガニスタン国産としてのブランドを確立し、国内でより多くの付加価値を得る
ためには、多くの課題があげられる。カーペットの生産には幾つもの工程があり、100 万人以上
の人々がなんらかの形でカーペット産業に関わっていると推測されている。そのため、アフガ
ニスタン国内でのカーペット産業の活性化は、国民の所得の向上、雇用の拡大につながると期
待される。
(2)
カーペットのサプライチェーンの現状と課題
図 2-11
カーペットのサプライチェーン
羊の飼養
家畜主
毛を刈る
仲買人
羊毛市場
輸入
洗浄、乾燥
女性
糸を紡ぐ
紡糸
糸を染める
織り糸
織る
輸入
パキスタンで行う
場合も多い
輸入
女性
(アフガニスタン国内)
カーペット
パキスタンへ出荷
洗浄、裁断、仕上げ
包装、出荷
仲買人
羊毛生産
カーペット生産のための国内産の羊毛は質量ともに不足している。下図のとおり、現在国内
で製産されるカーペットのうち、アフガニスタン産の羊毛が使われている割合は三分の一程度
にとどまっている。主に中東から輸入しているが、ベルギー産の羊毛は質が高いとされている。
図 2-12
アフガニスタン産カーペットの羊毛の輸入国
イラン
8%
イラク
8%
ベルギー
5%
ニュージー
ランド
1%
サウジアラ
ビア
37%
パキスタン
9%
アフガニス
タン
32%
出所:MRRD/NABDP Central Highlands (Bamyan) Sub Sector Analysis
羊毛の質は、羊の種類や栄養状態、その年の天候、毛を刈る時期によって左右される。水、
飼料が豊富にあり、気温が低く標高の高い放牧地で飼養された、春に刈られた毛が最も質が高
いとされる。アフガニスタン産の羊毛はいくつか種類があるが、ガズニ産のカラクル羊の毛が
最も品質が高いとされている。戦乱や旱魃の影響で、現時点における羊毛の国内生産量が低い
ことから、国内での羊毛生産量を増やすことは大きな課題である。獣医サービスへのアクセス、
飼料の改善などの対策が望まれる。
毛を刈る
毛を刈る作業は、通常家畜主が行う。専用のナイフを使用するが、均等に刈るのが難しく時
間がかかる作業である。作業中に羊の皮膚を傷つけてしまうことも多く、傷口からの感染病も
懸念されるため、よりよい鋏の導入といった技術の向上が課題とされる。また、予防接種を含
めた適切な獣医サービスは、良質の毛の生産につながる。
刈られた毛は、仲買業者によって卸売市場へと運送されるか、家畜主自身が直接卸売市場へ
出向いて売る。羊毛を生産する家畜主は散らばっており、集荷体制が確立されていないことか
ら、ある程度の量の羊毛を集荷するのは、コストが高くなってしまっている。村内で、刈られ
た毛を収蔵するスペースも限られており、都市へと輸送する手段もほとんどない。家畜主は、
特に処理を施していない状態で売り渡すが、羊毛の選別、分類作業を、家畜主で行うことによ
り、より高値で売ることが可能となる。
洗毛、毛を梳かす、紡ぐ
羊から刈り取った原毛は、脂肪(ラノリン)や汚れがついていて染着性を弱めるために、石
鹸やソーダを使い、繰り返し水で洗う。これを天日で乾燥させてから選別し、梳毛具を用いて
絡まった羊毛の塊を梳きほぐす。
次に、梳かされた毛を紡ぐ作業となる。アフガニスタン国内では、手で紡ぐのが一般的で、
通常は自宅で行われている。少しずつ羊毛を撚りながら繰り出し、キルマンという道具を使っ
て縒る。次に、糸巻きを使い、2 本の糸を撚り合わせ毛糸にして巻きつける。これらは主に女性
の仕事とされる。ていねいに手で紡がれた毛糸は、羊毛の繊維の長さが生かされており、機械
で紡いだものよりも丈夫で光沢のあるものに仕上がる。また、染料の吸収率が高く、彩度に多
様性を産み出し、織るうえで、適切な密度、強度を生み出す。
羊毛の仲介人は、市場で購入した羊毛を、人々(主に女性)に分配して、羊毛を洗う、梳か
す、紡ぐ作業を委託し、回収する。地方の村から羊毛の買い付けに市場へ来て、自分の村の女
性に分配して紡がせ、それらを仲買業者へと売る場合もある。女性個人が、洗いの終わった羊
毛を直接業者から買い(輸入品ないしは国内産)、毛を梳かし、紡ぐ作業を行う場合もある。
紡いだ糸1kg につき、0.50~0.85 USD が支払われる。通常、女性は家事などの合間に作業を行
うため、一日に 1~2 時間をさいて、一ヶ月で約 3~4kg を紡ぐ。
アフガニスタン産の羊毛は、一般に国内で紡がれる。しかし、輸入されている紡ぎ糸の多く
は、羊毛の生産地は異なるものの、モンゴル、中国、インド、パキスタン、イランなどにおい
て機械で紡がれたものである。
染色
染料には、天然染料か合成染料の二種類がある。天然染料は、主に野菜から作られており、
羊毛の吸着性によって繊維の内部にまで染料が吸収されるために比較的褪色し難いうえに、落
ち着いた色合いに染め上がる。一方で、合成染料は、天然染料とは異なり栽培や加工の手間が
省け、低廉で使いやすい。また、天然染料からは得られない鮮やかな色を出すことができる。
アフガニスタン国内では、紡いだ糸を染める作業は、織り手の家族などによって手作業で行わ
れる。しかし、国内において、染料および染色を行う設備が不足しており、紡いだ糸をいった
んパキスタンに輸送して、染色する場合も多い。一方で、機械で紡がれ工場で染色された糸を
輸入する場合もある。工場で大量生産された糸は、手作業で生産されるものよりも品質は低い
が、種類の多様化にもつながるため、手作業での伝統も保ちつつ、工房や工場での機械生産を
導入することも、産業の活性化につながると考えられる。
織る
カーペット生産の工程の中で、アフガニスタン国内で重点的に行われているのは、織る作業
である。通常、カーペット業者が個々の織り手と契約し作業を委託する。織り手のほとんどは
女性で、社会文化的に、アフガニスタンの多くの地域では、女性が工場など外に出て働くこと
が許されていない、もしくは推奨されていないことから、アフガニスタンで織られる 95%のカー
ペットは、家内作業として在宅で織られている。織る技術は一般的に、家族の中で年配の女性
が若い世代に教えていくという形で伝えられる。パキスタンの難民キャンプで収入を得る手段
としてカーペット織りに携わっていた人々の多くが、2001 年以降アフガニスタンへと徐々に戻
ってきており、国内の織り手の数は増えている。ちなみに国内で羊毛を購入する場所は非常に
限られており、織り手個人でペシャワールまで買い付けにいくことは不可能なため、カーペッ
ト業者と契約している。
通常、織るペースは、1 ㎡につき 1 ヶ月で、一枚のカーペットは 6~9 ヶ月かけて織られる。
通常カーペット業者が個々の織り手に作業を委託する。最も一般的な委託の形態は、カーペッ
ト業者が、織るのに必要な投入の全て(織機、パターン、糸)を織り手に支給し、織り賃を支
払う。カーペット業者から支給される投入の内容によって、1㎡あたり 30~80 USD が織り手に
対して支払われる。織り手が、個人所有の織機を使い、また自らパターン(柄)を用意して糸
を購入し、最終的に織りあがったものを業者に売る場合もあり、その場合は織り手の取り分が
多くなる。
地域によってカーペットの色やデザインは異なるが、パターンもパキスタンなどから輸入さ
れたものが多い。アフガニスタンの手織りカーペットとしての付加価値を高めていくためには、
特有のデザインの普及を推奨していく必要がある。一方で、国際市場の消費者のスタイル、色、
デザインの好みを知る必要があるが、現在のところ、織り手がそういった情報を得るルートは
皆無に近い。
洗浄、刈り込み、仕上げ
カーペットの最終工程にあたる洗浄作業において、過剰な染料を取り除き、緩んだ繊維を洗
い落とすことで、光沢、つやが出る。織り上げていく間にたまったホコリやムダ毛など取り除
くために、大量の水でブラシを使って洗い流す。次に水を含んだカーペットから鍬のような形
の道具で水をこすり出した後、強い太陽と乾燥した空気の下で自然乾燥させる。その後、乾燥
させたカーペットの表面をティーグという刃物で刈り込む。この作業でパイルの長さが揃えら
れ、文様が浮かび上がってくる。
アフガニスタン国内でこれらの作業を行える施設は非常に限られている。また、洗浄用の薬
品について安価で良質のものを入手することが困難なこと、水・電力が不足していること、冬
の気温が低すぎて工場立地に適切な地域が限られている(冬はジャララバード州など、東部地
域のみ可能)など、課題が多い。そのため、アフガニスタンで織られたカーペットの 60~80%
は、洗浄・刈り込みのためペシャワールへ送られ、パキスタン産として売られ、アフガニスタ
ン産としての銘柄を失う。現在、アフガニスタン国内では、バルフ州で小規模の工場がいくつ
か稼動しているのみで、今後本格的な投資が行なわれるためには、ある程度の広さの土地、
水・電力の確保、排水・汚水処理の整備など、諸条件を一つ一つ満たしていく必要がある26。ま
た、洗浄に必要とされる化学薬品を安定的に輸入する必要もある。刈り込み、洗浄過程での熟
練者が不足しているが、パキスタンで働いているアフガニスタン人の職人が戻ってくることも
考えられる。一方で、薬品の使用に伴う環境や健康への影響も懸念されている。しかしながら、
今後のカーペット産業の市場拡大において、この最終過程を国内で行うことは、非常に重要な
課題とされる。
マザリシャリフ市内におけるカーペットの洗浄と刈り込み
流通
カーペットを売買する業者は、カーペット産業が集中している北部、西部、そしてカブール
に集中しており、ほとんどが男性である。バルフ州マザリシャリフは、カーペットの売買の中
心拠点となっており、国内で生産されるカーペットの 60~80%はマザリシャリフ経由で、パキ
スタンへとトラックで輸送される。マザリシャリフからは貨物飛行機はなく、カブールからの
空輸は高くつくため基本的に敬遠されている。パキスタンで最終仕上げを終えたカーペットは、
アメリカやドイツを始めとする EU 諸国へとパキスタン産として輸出される。このように、①洗
浄・刈り込みの必要性、②最終市場への販路の確保、及び③輸送費の優位性から、アフガニス
タンのカーペット市場は、パキスタン業者によって独占されている。パキスタン経由以外での
26
USAID の ASMED プログラムのグラント及び ARFC の融資を利用して、糸の染色およびカーペットの洗浄・刈
り込みができる工場が、ジャララバードの Shiekh Mistri(250ha)というカーペット専用の工場団地に設立され
る動きがある。
取引のリンケージの確立は、アフガニスタンにおける今後のカーペット産業の発展にとって極
めて重要であると考えられる。
価格
1 ㎡あたりのカーペットの値段は 100~250 USD である。羊毛の種類や質、結び目(ノット)
の密度、デザインなどによって決まる。手で紡がれたガズニ産の羊毛を使用した、手織りカー
ペットは特に高値がつく。
2-2-5 皮革
(1)
皮革生産の現状
牛皮や羊皮は、食肉産業の価値の高い副産物であり、輸出品目としても古くから重要とされ
てきた。羊の皮の生産は主に、中央アジア、アフガニスタン、ナミビア、モンゴル、中国など
で行われている。1979 年のソビエト侵攻の前まで、アフガニスタンは年間 300 万枚の羊の皮を
輸出していたが、戦争及び旱魃の影響により、一時は 20 万枚に落ちこんだ。2005 年の時点では、
54 万枚を輸出しており、前年と比べて 42%増加した。良質の皮革は、一枚につき 45 USD で売
買される。近年家畜の数が増加していることから、年々輸出量は増える見込みである。
(2)
カラクル皮のサプライチェーンの現状と課題
図 2-13
カラクル皮のサプライチェーン
屠畜
家畜主
毛皮を剥ぐ
原皮
収集市場
仲介業者
保存
(塩を摺り込む
加工のため輸出
水浸け、脱脂、なめし、乾燥
毛皮
カラクル羊の飼養はアフガニスタンの北部で盛んで、その数は 5 万頭と推定される。カラク
ル羊は、羊毛、ミルク、肉、毛皮、など様々な用途で飼養されているが、特に毛皮と羊毛は、
輸出品目として重要である。毛皮の生産は、その年の飼料(特に牧草)の量、つまり降水量と
関係しており、一般に降水量が少なく飼料が不足する年は、家畜主は多くの羊の毛皮を剥ぐ。
毛皮はあくまで副産物と認識されていることから、羊の皮膚のケアに対しての積極的な投資は
されておらず、予防接種を始めとする獣医サービスの普及が必要とされる。また、旱魃に対す
る耐性を強化するためにも、家畜の健康管理の改善が求められる。
羊毛と同じく、集荷体制が確立していないことは、毛皮のサプライチェーンの課題の一つで
ある。また、原皮の保存・管理のシステムが未発達で、都市への輸送手段も限られている。屠
畜場で毛皮の集荷を行うなど、食肉産業とのリンクを確立することが必要とされる。
通常、村の肉屋は、仲買業者に生の皮を売る。業者は、それらを都市の収集場所へと運ぶ。
収集場所に集められた皮を、選別し、保存のために塩を摺りこんだあと、輸送用に積み重ねる。
収集場所は、通常屋根つき建物ではあるが、外気にさらされた状態で、温度調節が不可能で極
めて不衛生な環境である。特に夏の高温時には、皮へのダメージは大きく質が落ちる。マザリ
シャリフにおいて、未処理の羊皮は 25~30 USD である。国内で付加価値を得るための設備が整
っておらず、加工のためにパキスタンへと輸出される。
2-2-6 カシミア
(1)
カシミア生産の現状
カシミアはヤギやラクダのうぶ毛を梳きとったものであり、セーター、コート、マフラーな
どの高級品に用いられる。カシミヤヤギ 1 頭あたりの採取量は年間 150 グラム~200 グラム程度
で、カシミヤセーターを作成するのに通常 4 頭分のうぶ毛が必要になる。カシミアの主要な生
産国は、下図に示されるように中国、モンゴル、アフガニスタン、イランなどであり、世界の
カシミア生産量のうち 85%は中国において加工されている。
図 2-14
アフガニ
スタン,
7%
カシミアの生産国 27
イラン
その他,
5%
モンゴル,
15%
中国,
73%
出所:Altai Consulting, USAID ASAP
アフガニスタンのカシミアの 80%は、ヘラート州、バドギス州、ゴール州、ファラ州産であ
り、その他、ヘルマンド州、ファリャブ州、ジョージャン州においても生産されている。年間
のカシミア生産量は 1,150 トンであり、国内に加工工場が存在しないことから、原毛のままほ
とんどがヘラート市を経由して、ベルギー(70%)、イラン(30%)、中国(20%)に輸出さ
れている。また、アフガニスタン産のカシミアの質は、国際的には最低水準に位置している28。
2005 年のアフガニスタンのカシミア原毛の価格が 23 USD/kgであったことから、約 23 百万USD
27
モンゴルから中国に不法に輸出されているカシミア原毛が多くあることから、必ずしも正確な生産量である
とはいえない。
28
中国産の細くて白いカシミアが高い価格で購入されており(90 USD/kg)、アフガニスタンやイラン産の太く
て暗い色のカシミアの価格は低くなっている(50 USD/kg)。なお、これらの価格は、洗われて選別された価格
である。
の外貨収入をもたらしたことになる 29。一般に、短く、太く、暗い色のアフガニスタン産のカシ
ミア毛は、国際的には品質が低いものとされているが、それでも世界的なカシミア需要の増加
により、他の畜産物に比べて高い価値を有している。
アフガニスタンの乾燥した気候はカシミア生産に適しているが、ヤギの飼養が小規模かつ全
国に散らばっていて集荷がコスト高になることから、カシミアは輸出地であるヘラート周辺で
のみ集められる結果となっている。2003 年のFAOのLivestock Surveyによると、当時 730 万頭の
ヤギがアフガニスタンにおいて飼養されており、遊牧民であるクチ民族が統計に含まれていな
いことを勘案すると、2007 年時点において、おおよそ 900 万頭のヤギが国内で使用されている
と推計されている 30。
(2)
カシミアのサプライチェーンの現状と課題
図 2-14
カシミアのサプライチェーン
カシミヤヤギの飼養
家畜主
毛を梳く
原毛
収集市場
仲介業者
加工のため輸出
(中国、イラン、ベルギー、キルギス等)
洗毛、選毛
染色
紡績、撚糸
編立、縫製
カシミア製品
中国やモンゴルといったカシミアの主要生産国においては、毛梳きがカシミアの収穫方法と
して一般的であるが、アフガニスタンでは通常、鋏を用いてヤギの毛をすべて刈り取ってしま
っていることから、うぶ毛以外の毛や不純物が多く混じることとなり、輸送費が嵩む一方で洗
毛・選毛がコスト高となることから、原料の買い取り価格が下落してしまう結果となっている。
また、一般の農民や放牧民に、カシミアの価値が知られていないことから、高品質のカシミア
を得るような交配も行われておらず、カシミアの質がもっとも高くなる晩春から初夏にかけて
の毛梳きも行われていない。こうしたことから、アガ・ハーン財団は 2007 年に、バダクシュタ
ン州において 250 名の放牧民(42 の CDC に分布)に対して、カシミアの収穫方法に関するトレ
ーニングを行っており、また、USAID の ASAP においても、普及の専門家を使って、VFU や農民
に対して啓蒙活動(毛梳きの方法、交配、選別、ヤギの健康増進等)を進めて毛梳きの道具を
29
30
Life of Project Workplan, USAID ASAP, 2007 年 3 月
Altai Consulting, USAID ASAP による。
配布したり、仲買人が良質のカシミアを高い価格で買うシステムを構築したりすることを計画
している。
収穫された原毛は、手などで選別された上で、ほとんどがそのまま輸出されている。アフガ
ニスタン国の輸出業者は 20 社程度あるといわれており(Altai Consulting)それぞれ 100~400
名の労働者を季節的(春~夏)に雇用して、カシミアの収集と選別を行っている。USAID ASAP
の報告によると、Aghan Maccaoという洗毛・選毛を行う工場が 2007 年 3 月にヘラートに建設さ
れ、中国人のエンジニアと機械を導入して、カシミア及びヤギ皮を洗浄して中国に輸出してい
る、とのことである 31。
2-3 野菜類の生産の概況と課題 32
2-3-1 野菜生産・流通の概要
アフガニスタンの気候と土壌は様々な野菜生産に適しており、全国の耕作地の 6.7%である
525 千ヘクタールにおいて野菜が栽培されている33。アフガニスタンの東部とパキスタンとの間
で、野菜の季節的な輸出入が若干行われているものの、アフガニスタン産の野菜のほとんどは
国内にて消費されている。
アフガニスタンにおける野菜生産については、地域間の高度や気候の差によって出荷時期を
ずらせるなど所得創出の機会がある一方で、病虫害対策が不十分であること、希少な水を無駄
に使っていること、施肥が効果的でなく生産性が低いこと、といった改善すべき問題も多くあ
る。
生産者にとって短期的に収入を向上させられる方法として、「トンネル」と呼ばれているビ
ニルハウス栽培がある。これは温水を要しない単純なものであり、点滴潅漑を導入することに
より、より高い効果が得られるものである。以下に露地栽培とビニルハウス栽培の生産性の比
較を示す。
トマト
キュウリ
表 2-5 露地栽培とビニルハウス栽培における土地生産性と収入の差
露地栽培
ビニルハウス栽培(点滴潅漑)
生産性(kg/ha)
収入(Afs/ha)
生産性(kg/ha)
収入(Afs/ha)
29,250
387,500
69,300
1,881,000
30,375
375,000
34,650
1,254,000
出所:Life of Project Workplan, USAID ASAP
31
処理量を 1 日あたり5トンと言っているが、実際のところは定かでない。
32
本項の記述は、Life of Project Workplan, USAID ASAP, 2007 年 3 月に基づく。
Life of Project Workplan, USAID ASAP, 2007 年 3 月。
33
囲み記事 3
USAID RAMP のビニルハウス栽培プロジェクト
USAIDのRAMPは 2004 年~2006 年に、ICARDAをコントラクターとして、ビニルハウス栽培の振興を目的としたプ
ロジェクト “Introducing Protected Agriculture for Cash Crop Production in Marginal and Water
Deficit Areas of Afghanistan”を実施した。カブールにProtected Agriculture Centerを設立して、ビニルハ
ウスによる価値の高い作物栽培のデモンストレーションを行うとともに、普及員や農民、NGOスタッフ(合計
364 名)を対象としたトレーニング(土地造成、レイアウト、水管理、施肥、栽培技術)を行う一方で、パイロ
ット事業として 35 のビニルハウスをクンドゥズ、ガズニ、パルワン、ナンガルハル、カブール及びヘルマンド
の各州に建設した。ビニルハウス栽培は露地栽培に比べて、必要な水は 10 分の1で土地生産性は 5 倍であり、
労働生産性は 7 割多いことが確認された。さらに、病虫害にかかりにくいこと、作物の品質があがること、1~
2 jerib (0.2~0.4 ヘクタール)の土地で栽培可能であることから(1 jerib内に 6 つのビニルハウスが建設可
能)土地なし農民でも適用可能なことといったアドバンテージが挙げられている。しかしながら、建設コストが
高くて通常の農民には購入できない 34ことに加え、高度に集約的な栽培方法であることから、肥料やハイブリッ
ドの種がタイムリーに手にはいらないこと、農民に集中的投資を行うための資金ソースがないことが問題とされ
ている。
出所:Final Project Report, ICARDA, 1/1/2004 – 31/3/2006
バーミヤン州におけるビニルトンネル栽培
あわせて、品種に応じた潅漑、施肥、病虫害対策の方法を適用することにより、生産性を大
幅に向上させることが可能であり、デモンストレーション用の圃場を運営することによって、
農民の目に見えるかたちで普及を進めることは可能である。以下に、アフガニスタンにおける
野菜の平均的な生産性及びデモ圃場における生産性のデータを示す。
ジャガイモ
玉ねぎ
トマト
ニンジン
オクラ
ナス
表 2-6 平均的な生産性とデモ圃場における生産性の差
平均的生産性(t/ha)
デモ圃場の生産性(t/ha)
12
18
22
35
21
30
12.5
30
7.5
17.5
24
34
差
50%
59%
43%
140%
133%
42%
出所:Life of Project Workplan, USAID ASAP
野菜の収穫・輸送方法はごく初歩的であり、通常木枠の箱につめられて卸売市場へ、また小
売店へと輸送されるが、コールドチェーンのない摂氏 40 度の環境におかれることから、急速に
質が低下し、48 時間以内に腐り始めると言われている。
34
報告書には明示されていないが、FAO からの聞き取りによると 3,000 USD とのことである。
野菜の加工施設としては、USAID の支援によりパルワンに近代的乾燥野菜の工場が建設され、
ヨーロッパへの輸出を開始している、という報告がある。また、ヘラートには民間企業がトマ
トの加工工場への投資を開始しており、周辺の農業協同組合との契約栽培を計画している。
野菜を含む農業生産における制約要因として、肥料、農機具、種といったインプットがタイ
ムリーに手に入りにくい、ということが挙げられている。USAID は RAMP の中で、Village-based
Seed Enterprise (VBSE)Development in Afghanistan というプロジェクトを実施しており
(ICARDA が実施機関)、ガズニ、ヘルマンド、クンドゥズ、ナンガルハル及びパルワンの各州
に合計 21 の VBSE の設立を支援した。それぞれの VBSE は 10~15 の進歩的な農家を集めた企業
体であり、小麦、米、ヤエナリ、ジャガイモ、トマト、玉ねぎの種を、年間平均 226 トン生産
する能力をもつこととなった。また、また、RAMP の別のプロジェクトとして Clean Seed
production , multiplication and marketing for increased potato production in
Afghanistan が、やはり ICARDA と International Potato Center によって実施されており、上
記と同じ 5 州において、72 のデモ圃場が設立され、種イモの生産者グループが病害対策のされ
た種イモ(通常より 40%の収穫増)を毎年 3,000 トン作る能力が得られた。これらに加えて、
USAID の ASAP では、肥料、農薬、農機具といったインプットを提供する 300 の Farm Store をネ
ットワーク化し、インプットの調達・輸送を組織的に行って、どこの郡でも必要なものが手に
入るようなシステムを構築する予定である。
2-3-2 メロン
(1)
メロン生産の概要
アフガニスタンの北部のクンドゥズ州及びバルフ州では、メロンの生産が盛んであり、特に
バルフでは全世帯の 3 割程度がメロン生産に携わっている、と報告されている。アフガニスタ
ン北部のメロンの種類は 38 あると言われている 35。代表的な種類は、alapookaq、chedreee、
lobeiee、amiri、agnaba、subz sarmath及びarkaniであり、賞味期限は通常 4~5 日であるもの
の、arkaniは外皮が高いことから 7 ヶ月までもつと言われている。バルフ州では、881 の村で、
7,000 ヘクタールの土地で年間 90,000 トンのメロンが生産されている(1ヘクタールあたり平
均 15 トンの生産量)。しかしながら、メロンは近年ミバエの被害を受けており、それによって
メロンの 50%近くが被害を受けるとともに、バルフ州のメロンの評判を著しく傷つける結果と
なっている。
FAO によると、ヘラートからタカールまでの 10 州にわたってミバエの被害が出ているとのこ
とである。USAID の ASAP において農薬の散布が推奨されているが、価格が高いこともあってあ
まり普及していない。
35
Subsector Analysis and Business Plan Development / North and North East Regions, Aghanaid, Hand in Hand, Kaweyan
BDS, 2007 年 12 月による。一方、USAID/ASAP によれば、アフガニスタンのメロンは 87 種類あるとのことであ
る。
(2)
メロンのサプライチェーンの現状と課題
図 2-15
メロンのサプライチェーン
メロンの収穫
農家
ごく限られた量のみ
仲買業者による
労働者
選別
乾燥
ドライメロン
出荷
国外へ輸出
(パキスタン、インド等)
農家
小売店
自家消費
近隣の市場
にて販売
マザリシャリフの Merayin 市場には、バルフ州全体から農家及び仲買業者によってメロンが
運ばれてきており、100 名以上の仲買人や小売業者が集まってきており、400 以上の果実店が市
場の内外に開かれて売買が行われている。ここからトラックで別の場所に搬送されたり、地元
の店に卸されたりしている。市場では、季節的に雇われた労働者がメロンの選別(種類別、品
質別)を行っているが、作業は粗く、文字通りメロンをトラックに「投げいれて」いる。メロ
ンが出荷される際にはいかなるパッケージもなく、トラックに平積みされている。
バルフ州の仲買業者によれば、州のメロンの約 20%(長持ちする arkani 種)はパキスタン、
インド、ドバイに輸出されており、中でもインドへの輸出量が最も多い、とのことである。ほ
とんどのメロンは生のまま売買・消費されているが、農村地域では限られた数の世帯において、
傷んだメロンを乾燥させており、通常自家消費されているが、一部小売店においても売られて
いる。メロンは通常、30~60 afs で売買されているが、ミバエのダメージを受けているメロン
の価格は 10 afs にまで下がってしまう。
2-4 手工芸品の生産・流通の概況と課題
アフガニスタンにおける手工芸品としては、既に述べたカーペットのほかに、北部地域、特
にクンドゥズ州における、伝統的な服に刺繍を施したものや、ブラックと呼ばれるバーミヤン
の皮製品などが多く売られており、その他、財布や手袋といった小物がある。地方部では一般
に縫製技術が不十分であることから、刺繍された布やなめし皮が一旦カブールに輸送され、カ
ブール市内で縫製されて販売されるのが、一般的である。
流通ルートとしては、手工芸品の売買の仲介を行う仲買人はほとんどおらず、都市の販売店
が地方まで買い付けに行くか、地方の生産者が都市まで自らもってくるのが、一般的となって
いる。刺繍の材料については、パキスタンなどからの輸入品を使うのがほとんどである。輸出
のルートをもっている販売店はごく限られており、ほとんどは、アフガニスタン人や国内の外
国人を主たる顧客としている。これらの手工芸品の販売上の限界は、国内の消費者にとっては
高価な商品である一方、国際市場での品質・価格競争力は低い、というものである。
アフガニスタンにおける手工芸が発展する上での鍵は、海外の市場への直接のルートをもつ
ことにより、外国人の嗜好を把握し、需要をかきたてる魅力ある商品の開発をすることである。
実際にこれを実現しつつあるカブールの企業について、以下の囲み記事に記す。
囲み記事 4
カブールにおける手工芸品輸出企業 Zardozi 社
Zardozi は、2005 年に NGO ダカールから独立して事業を実施した会社である。刺繍を扱う理由は、刺繍は女性
のみが行う作業であること、そして、刺繍で得られた収入は、その収入を得た女性が使途を決めることができる
ことによる。
女性、特に土地なし難民などの貧困層を主に支援している。Woman Agent をコミュニティーの中から選び、ト
レーニングを施して、縫い子に対する作業の指導・品質管理を行わせている。女性たちへの刺繍研修は約 4~6
ヶ月であり、研修開始後後約 10-15%の女性が 1~2 ヶ月の間に技術を習得し、時間が進むにつれて習得者数が
増えていく。技術を習得するまでの間は、補助が与えられ、習得後は Zardozi の正式な縫い子として仕事を請け
負うことになる。
刺繍作業は各家庭内で女性たちによって行われる。縫製以降の作業については、家での作業は埃などで商品を
汚してしまうことになるため、センターにおいて、刺繍終了後の布の洗浄、染め、カラーテスト、加工などの最
終工程が行われる。センターには男性・女性スタッフがおり、女性は自宅から通勤をしている。現在センターは
ペシャワールにあるが、今後ジャララバード、バーミヤンにも建設したいと考えている。
原材料はパキスタンから輸入しているが、治安の関係上、定期的な原材料調達が難しい事態も発生する。よっ
て、アフガン原材料の調達も検討中であるが、アフガニスタン国内に良質な材料を供給できる業者を見つけるこ
とが困難である。
成功の鍵は消費者が望むデザインを商品に反映することである。カブールでのショップでの販売が売上の中心
で、売上高は年間約 300 千ドル。米国、英国、日本、オランダに輸出もしている。現在 1,000 名の縫い子がいる
が、最近、海外からの引き合いが急増していることから、3,000 名に増加させたいと思っている。しかしなが
ら、縫い子の数を増やすためのファンドがないことから少しずつしか生産を増やすことができず、せっかくの輸
出機会・雇用機会が失われている。この部分についてドナーの支援が得られると助かると考えている。
刺繍製品
バーミヤンの布を使った商品
刺繍製品
第3章 プロジェクト候補地域の概要
3-1 バルフ州
3-1-1 バルフ州の社会・地理的状況
バルフ州はアフガニスタンの北部に位置し、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニス
タンと国境を接している。標高は 300m(マザリシャリフ市)~1,600m にわたる。約 112 万人が
15 の郡に居住しており、うち 66%が農村部に居住している。バルフ州にはタジク人及びパシュ
トゥーン人が主として居住しており、次いでウズベク人、ハザラ人、トルクマン人、アラブ人、
バルチ人となっている。人口の約 50%(農村部人口の 58%)がダリ語を主たる言語としており、
次いでパシュトゥー語(人口の 27%)、トルクマニ語(12%)、ウズベキ語(11%)となって
いる。遊牧民のクチ族については、季節により 5~6 万人が住んでいる。以下に郡別の人口を示
す。
表 3-1 バルフ州の郡別人口
郡
Mazar-i-Sharif
Dihdadi
Nahri Shahi
Marmal
人口(千人)
375,181
66,009
38,791
9,510
Khulm
Kaldar
Shortepa
Dawlat Abad
49,207
Balkh
97,055
Chahar Bolak
Chimtal
Sholgara
69,975
Chahar kint
32,306
Kishindih
49,083
Zari
合計
17,932
30,314
79,638
81,311
85,269
42,367
1,123,948
出所:CSO/UNFPA Socio Economic and Demographic Profile
バルフ州の面積は 16,840km2(岩手県よりやや大きい)であり、平地と山地がほぼ半分ずつと
なっている。以下にバルフ州の地形の特徴を示す。
Mountainous
42.0%
Semi-Mountainous
6.7%
表 3-2 バルフ州の地形の特徴
Semi-Flat
Flat
0.9%
50.2%
Not reported
0.3%
Total
100%
出所: CSO/UNFPA Socio Economic and Demographic Profile
3-1-2 農業・地場産業の概況
バルフ州では、農業と工業の両者が営まれており、肥料工場も州内に 1 つ稼動している。商
業活動の多くが農業に関係しているか小規模なビジネスとなっており、農村部においても 21%
の世帯が商業・サービス業から収入を得ている。以下に州の住民の収入源を示す。
表 3-3 バルフ州の住民の収入源
農村部
農業
61%
畜産
29%
ケシ栽培
12%
商業・サービス業
21%
工業
11%
非農業賃労働
25%
送金収入
2%
その他
2%
収入源
都市部
7%
3%
2%
58%
14%
35%
1%
3%
出所: National Risk and Vulnerability Assessment 2005
農業に従事している一世帯あたりの農地面積は、15~20 jerib(3~4 ヘクタール)と、ナン
ガルハル州よりも大きく、農民の中では 1,000 jerib(200 ヘクタール)もの土地を所有してい
るものも見受けられる 36。小麦、大麦、豆類のほか、果実・ナッツ、ブドウ、野菜(トマト、玉
ねぎ、ジャガイモ、きゅうり、にんじん、かぶ等)、メロンといった園芸作物が多く栽培され
ており、生産拡大のポテンシャルは高いものの、潅漑施設の不備や旱魃・戦争の影響により、
自家消費のみか、余剰分を地元の市場で販売する程度の生産規模でしかない。さらに、害虫対
策も遅れており、2005 年にはメロン及びスイカの 75%が被害にあった 37。これらの作物に加え、
綿花(全村落の 38%)、ゴマ(37%)、タバコ(13%)、サトウキビ(11%)といった換金作
物が栽培されており、一部地域ではオリーブやベニバナ、ピスタシオも栽培されている。
バルフ州では家畜の飼養も広く行われている。FAO の Livestock Census(2003 年)によると、
一世帯あたり 0.48 頭の牛、3.05 頭の羊、0.94 頭のヤギが飼養されていることが報告されてい
る。以下にバルフ州の農村部において家畜を所有している世帯の、家畜別の割合を示す。
表 3-4 バルフ州農村部において家畜を所有している世帯の比率
家畜の種類
比率
乳牛
56%
肉牛
21%
馬
11%
ロバ
41%
ラクダ
4%
ヤギ
31%
羊
33%
鶏
35%
出所: National Risk and Vulnerability Assessment 2005
農畜産業以外の地場産業としては、カラクル羊皮の生産地として有名であり、Dawlat郡、
Abad郡、Balkh郡、Chimtal郡及びSholgara郡の村落が、カラクル羊皮を生産する全村落の 3/4
を占めている。また、Chahar Kint郡、Sholgara郡、Dawlat Abad郡、Dehdadi郡, Balkh郡及び
Chahar Bolak郡がカーペット製造に、Dhdadi郡及びChahar Kint郡が宝石製造に、Dawlat Abad
郡, Chimtal郡、Chahar Kint郡及びSholgara郡がショール製造に携わっている 38。
バルフ州では、全郡において精英樹を含む森林保全と植林を実施し、1385 年及び 1386 年
(2006 年 3 月~2008 年 3 月)にそれぞれ 250 万本(5 割はアプリコット、桑、桃、リンゴ、マ
メ科の木、ザクロ、イチジク、クルミなどの果樹、残りの 5 割はマツなどの常緑樹)を植えた。
36
Agribusiness Assistance Programs in Afghanistan, Altai Consulting, March 2006
JICA「アフガニスタン国農業農村開発部分野支援基礎調査」(平成 19 年 8 月)による現地聞き取りによれば、
バルフ州のメロンの生産量の 6 割が州外に販売される、とのことである。なお、アルコ・ニミランという在来種
のメロンは、皮が硬く乾燥に強いため、室温でも 6 ヶ月保温できる。
38
Agribusiness Assistance Programs in Afghanistan, Altai Consulting, March 2006
37
8 郡に官営の採種園(Seed Orchard、総面積 1.6 ヘクタール)があり、生産された種子や苗木を
貧困層(寡婦や戦火の被害を受けた世帯)に優先的に配布される、とのことである39。
3-1-3 コミュニティー開発の概況 40
農村復興開発省(Ministry of Rural Rehabilitation and Development)の実施している
National Solidarity Program(NSP)及び National Area-Based Development Program
(NABDP)のもと、バルフ州では地方レベルで開発計画の作成と実施を担う組織が比較的多く立
ち上がっており、14 郡において郡開発議会(District Development Assemblies:DDA)が形成
され、293 名の男性と 388 名の女性が議員として参加している。各 DDA では、独自の郡開発計画
(District Development Plan)が策定されている。また、州内には 676 のコミュニティー開発
議会(Community Development Councils:CDC)が形成されている。以下に郡別の CDC の数及び
NSP の実施を支援した Facilitating Partners を示す。なお、バルフ州における村落の数は
1,140 である。
表 3-5 バルフ州の CDC の数と NSP を実施した FP
郡
Balk
Dihdadi
Nahri Shahi
Marmal
Khulm
Kaldar
Shortepa
Dawlat Abad
Chahar Bolak
Chimtal
Sholgara
Chahar kint
Kishindih
Zari
合計
CDC の数
n.a.
36
35
n.a.
73
21
25
62
83
81
60
59
83
58
676
NSP を支援した FP
PIN
UN Habitat
UN Habitat/ PIN
CARE
CARE
PIN
PIN
CHA
CHA
CHA
CARE
CARE
CH
PIN
出所:MRRD - NSP
2005 年には、バルフ州では、21 の農業協同組合が運営されており、1,617 名の組合員が加入
していた。これらの協同組合は、11,714 ヘクタールの土地を管理して、90,000 トンの余剰作物
を販売し、その結果、組合員は 703,000 Afs の資本金を持つに至っている、とのことである。
3-1-4 農業・地場産業に対するドナーの支援
FAO:Development of Integrated Dairy Schemes
USAID:Dairy Industry Revitalization
2003 年から 2008 年 3 月までの期間における、牛乳生産を総合的に支援するプロジェクト
であり、人工授精による品種改良、餌の生産・調達、飼養管理、獣医サービス、衛生管理、
集乳、販売のそれぞれの改善への支援を行っている。Balkh Livestock Development Union
が形成され、将来的に自立的に運営されることが期待されている。その一環として、USAID
39
JICA「アフガニスタン国農業農村開発部分野支援基礎調査」における、農業省州局長への聞き取りによる。
本項の情報は Balkh Provincial Profile, NABDP による。なお、バルフ州の州政府のデータによれば、バルフ州で
は 541 の村落に 741 の CDC があり、61 の農業協同組合がある、とのことである。
40
はLand O’Lakeを通じて、マザリシャリフに牛乳の加工工場(5,000 リットル/日)をBLDU
が建設するのを支援した(USAIDが 60 万 USDで施設建設と機材供与を行い、BLDUが 10 万
USDで土地と機材を購入した)。州都から 50kmの範囲で、4 つの村のそれぞれで形成された
Milk Production Cooperative Societies (MPCS)が、牛乳冷却タンクを供えた集乳ポイン
トに朝の 6:30 に牛乳を運び、そこからトラックで工場に運ばれている。旱魃の影響で乳牛
が減少して 2,000 リットルしか調達できなくなったことから、今後牛乳の調達先を拡大す
ることを希望している 41。また、飼料の生産を委託している工場の能力が不十分であること、
及び、生産された牛乳が輸入品と競合するためマーケティング能力を強化すべきことが、
今後の課題となっている。
バルフ州ディダディ郡における FAO 支援の酪農工場
EU:Perennial Horticulture Development Project (PHDP)
バルフにおいて園芸に関するトレーニングセンターを設立し(現在設立中)、様々な樹
種のデモンストレーションやトレーニングを行う予定である。あわせて、苗木生産業者・
農民・普及員に対して、栽培方法、接木の方法などに関する情報や、病気対策をした芽が
提供される予定である。
UNDP:NABDP Economic Regeneration Unit
2007 年にバルフにおいて、カーペット、アーモンド、メロンについての Value Chain
Analysis が実施された。これらについて、フィージビリティを考慮したビジネスプランを
作っているところであり、これをもとにプロポーザルの提出を NGO や民間企業に依頼する
予定である(実際にこれらの産品が商業化できるか否かは、プロポーザルを提出してくる
機関次第になる)。
JICA:Integrated Rural Development Program (IRDP)
ウルズガニ及びヤンギカラにおけるクラスターCDC において、それぞれ 70 台程度のミシ
ン(インド製、1 台 20USD 程度)を提供し、村の中の適当な部屋で裁縫トレーニングを提供
している。布カバンや帽子などを作り、収入を創出していくことを考えている。サルデ及
びハイデラバードのクラスターCDC では、ヤギをグループメンバーに配布し、生まれた子供
を別のメンバーに配分する仕組みを作って実施している。
41
このためには、乳牛の飼養状況、餌の状況、乳牛農家の意思、集乳ポイントの設定などを、まず調査する必
要があるが、そのための資金手当ができていない。
ADB(JFPR):Rural Business Support Project
バルフ州での養鶏のプロジェクトを検討しており、Feed Mill や孵卵場を作り、200~400
戸の農家と契約して卵を市場に供給する一方で、屠鶏場を建設する可能性がある。また、
機織の器具と材料を貧しい家庭に無償で提供してカーペットの製作を促進する一方で、カ
ーペットの洗浄・刈り込みの工場をカブールないしはバルフに建設して、カーペット販売
の組合を通じて直接海外との市場と取引することも検討している(工場などの投資資金に
ついては、本プロジェクトと生産者組合が半分ずつ負担するなど、検討中)。
WFP:Green Afghanistan Initiative (GAIN)
バルフ州 Dihdadi 郡、Baokh 郡、Nahri Shahi 郡及び Khurm 郡の 800 人の女性(脆弱、か
つ、600~1000m2 の土地をもつもの)にそれぞれ 2,000 の果樹・ナッツの苗を供与して、1
年後に市場に苗木を出荷して生活向上を図るもの(BRAC が実施)。灌漑用水のある土地は
限られた地域にあることから、苗木生産が集中するため、地元の市場に出荷できない一方
で、生産者である女性が、他の地域に運ぶための輸送手段・ネットワークをもたないこと
が、最大の問題となっている。
FAO:Regional Initiative for Sustainable Economy (RISE)
Nahri Shahi 郡、Sholgara 郡、Kishendi 郡及びマザリシャリフ市の 27 村(630 世帯)の、
0.4~1.0 ヘクタールの土地をもつ貧困農民を対象として、基本パーケージ(小麦種子、肥
料、穀物貯蔵庫、野菜種子、手工具)及び、選択パッケージ(果樹苗木生産<アップリコ
ット、アーモンド、ピーチ>、野菜温室栽培<きゅうり、なす、豆、トマト、唐辛子、オ
クラ、オニオン、ほうれん草、コリアンダー、ニラネギ、大根>、家畜配布)を提供した。
道具はすべて現地調達することにより、現地の産業の活性化にもつながっている。それぞ
れの選択パッケージには技術トレーニングが入っている。
囲み記事 5
RISE プロジェクトの問題点
本プロジェクト形成調査のリサーチアシスタントがナリシャヒ郡にて行った、RISE プロジェクトの裨益者
に対するインタビュー調査によると、本プロジェクトには以下のような問題点があることが明らかになっ
た。
•
苗木生産に関しては、高い質を確保しつつ寒い気候に耐えるための、接ぎ木の技術を農民に教えてい
ないため、接ぎ木処理前の苗木が販売できずに農民は困っている。さらに、GAIN プロジェクトによっ
てバルフ州全体で大量の苗木が生産されていることから、州内の苗木価格は急落してしまい、一般の
農民は他州への輸送手段をもたないことから、苗木生産は他の産物に比べて収益性が低くなってしま
っている。
•
ナリシャヒ郡内の 2 つの村のうち、1 つでは野菜生産が成功して収益が上がっており、もう 1 つで
は、種が環境に合わずにほとんど枯れてしまった、とのことである。
•
旱魃の影響で飼料価格が高騰したことから、十分な餌を与えることができずに、配布された牛を売っ
てしまった農家が少なからずあった。また、約束されていた集乳所が近くに設立されなかったことに
より、牛乳を個別に売らざるを得なくなり、十分な販売の機会が得られなくなった村がある。
Hand In Hand:Mass Mobilization into Entrepreneurship
Khlum 郡及び Nahri Shahi 郡において、MRRD の AREDP のベストプラクティスとするため
重点的に活動を行っている(2008 年 2 月~8 月)。Self Help Group あるいは Common
Interest Group を形成して、毎週の会合において 25 Afs を 6 ヶ月にわたって集めるととも
に、会合の議事録をとらせ、話し合いで問題を解決し、会計の帳簿をつけさせる、という
基本的なことを繰り返しやることにより、コミュニティーとしてのダイナミズムを形成し
ようとしている(男、女は別々のグループ)。当初は内部での貸し借りから始まり、将来
的にマイクロファイナンスを受けられるようになるのが、グループの目標となっている。
USAID:ASAP (Accelerated Sustainable Agriculture Program)
質の高い家畜用薬剤をコールドチェーンを通じて供給するシステムを構築するとともに
(当面は、Dutch Committee for Afghanistan がコールドチェーンを自ら所有・運営する)、
獣医の能力を向上させて、民間ベースによる獣医サービスを提供できるようにするプロジ
ェクトコンポーネントを実施している。
一方において、マザリシャリフの郊外で、政府による土地のリースを受けて、40 百万ド
ルを USAID が、80 百万ドルを OPEC(Overseas Private Enterprise Corporation)が出資
し、100 ヘクタールの総合的な食品加工工場(10,000 ヘクタールの農場をもつ)を建設す
ることを検討している。400 人規模の職が確保される。現在、水や電気の確保を含めて、土
地の選定が行われている。輸出を目的としており、マザリシャリフからウズベキスタンへ
の鉄道のルートを利用する計画である。工場は最終的には、アフガニスタンの投資家に売
却していくことになる。
USAID:RAMP (Rebuilding Agricultural Markets Program, 2003-2006)
本プロジェクトのうち、FAOが養鶏のコンポーネントをバルフ州にて実施した。1,350 世
帯にそれぞれ 12 羽の鶏を分配しトレーニングを行ったものだが、プロジェクト期間終了後
に養鶏を継続しているものが少ない、という報告が上がっている。養鶏をやめてしまった
理由については定かでないが、問題としては、①配布したハイブリッドの鶏には 4 種類の
ワクチンが必要であるが、全部揃えるのは容易でなく、ワクチンを打たないと病気にかか
ってしまう、②バランスのとれた餌が必要であるが、マザリシャリフのFeed Millがそれを
供給できていなかった可能性がある、ということが挙げられている 42。
また、Dutch Committee for Afghanistan (DCA) によって実施されたLivestock Health,
Production and Marketing Programにおいて、DCAの地域事務所がマザリシャリフに設置さ
れ、ワクチンやその他の薬剤が、ジェネレーターによるバックアップをもつ保冷室に保管
されて販売されている。加えて、22 名の宿泊施設を備えたトレーニング機能(4 名のトレ
ーナー)が整備されており、北部 5 州の 51 名の獣医師を支援するための 3 名のフィールド
モニターが常駐している。加えて、これらの獣医が持続可能なサービスを提供できるよう
に、カシミア採集の技術トレーニングを獣医に与え、これらの獣医がカシミアの仲買人と
して機能するコンポーネントも実施している43。
3-2 バーミヤン州
3-2-1 バーミヤン州の社会・地理的状況
バルフ州はアフガニスタンの中北部の高原地帯位置し、約 34 万人が 7 つの郡に居住しており、
うち 80%が農村部に居住している。バーミヤン州にはハザラ人が最も多く、タジク人、タター
ル人、パシュトゥーン人も居住している。都市人口の 96%、農村人口の 98%がダリ語を主たる
言語としている。遊牧民のクチ族については、夏にのみ約 2 千人が移動してきている。
以下に郡別の人口を示す。
42
43
世界銀行の Horticulture and Livestock Project オフィス(GTZ が運営を受託)への聞き取りによる。
クンドゥス州では、民間のイニシアティブにより、こうした組織的活動が既に行われている。バルフ州の場
合は、イタリアの業者がアフガニスタンの獣医からカシミアを買い取る仕組みが構築されている。
表 3-6 バーミヤン州の郡別人口
郡
Bamyan
Shebar
Saighan
Kahmard
Yakawlang
Panjab
Waras
合計
人口(千人)
70,028
22,933
23,215
31,042
66,158
48,397
82,119
343,892
出所:CSO/UNFPA Socio Economic and Demographic Profile
バーミヤン州の面積はバルフ州よりやや大きい 17,414km2 であり、ほとんどが乾燥した山地
で(バーミヤン市の標高は 2,800m)、多くの川が流れている。以下にバーミヤン州の地形の特
徴を示す。
Mountainous
77.5%
表 3-7 バーミヤン州の地形の特徴
Semi-Mountainous
Semi-Flat
Flat
16.1%
1.8%
0.0%
Not reported
0.5%
Total
100%
出所: CSO/UNFPA Socio Economic and Demographic Profile
3-2-2 農業・地場産業の概況
バーミヤン州の産業のほとんどは農業と手工芸である。農村居住者の 92%が、州の面積の
7%にしか満たない耕地において、何らかの形で農業を営んでおり、商業・サービス業を営んで
いる世帯は 8%と極めて少ない。一方で、約半数の世帯が、非農業の賃労働に携わっていること
から、農業のみで家計を支えることの難しさを物語っている。畜産も重要な収入源である。以
下に州の住民の収入源を示す。
表 3-8 バーミヤン州の住民の収入源
収入源
農村部
農業
86%
畜産
36%
ケシ栽培
0%
商業・サービス業
8%
工業
1%
非農業賃労働
47%
送金収入
4%
その他
4%
出所: National Risk and Vulnerability Assessment 2005
一世帯あたりの農地面積は、2~5 jerib(0.4~1 ヘクタール)と極めて小さく、比較的裕福
な農家でも 15~20 jerib(3~4 ヘクタール)程度に過ぎない 44。バーミヤンでもっとも一般的
な農作物は、小麦、大麦、ジャガイモ及び豆類である。ジャガイモはカブール経由でパキスタ
ン、タジキスタンなどに輸出されている 45。加えて、果実とナッツ(全世帯の 80%)、野菜
(8%)も作られている。換金作物としては、Waras郡及びSaighan郡などの限られた地域におい
て、綿花、サトウキビ、ゴマ、タバコ、オリーブ、ベニバナが作られており、Kahmard郡及び
44
45
Agribusiness Assistance Programs in Afghanistan, Altai Consulting, March 2006
JICA「アフガニスタン国農業農村開発部分野支援基礎調査」における、農業省州局長への聞き取りによる。
Shaighan郡では、アプリコット、リンゴなどの果樹栽培が盛んである。乾燥アプリコットは、
カブール向けに出荷されて、選別、汚れを取り除いた後パッケージングされて輸出されている 46。
JICA「アフガニスタン国農業農村開発部分野支援基礎調査」によれば、バーミヤンにおける
農業分野の制約として、以下のことが挙げられている。
•
作物の販路及び貯蔵施設の不備(ジャガイモは、収穫時期によって 1sere(7kg)あたり
30Afs(9 月)~100Afs 以上(1~2 月)と変動するが、価格の高い時期まで貯蔵できな
い。)
改良種子の不足
低品質の肥料(パキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ロシアなどから輸
入)
普及員の能力不足、普及施設の不足
獣医及び家畜疾病用薬剤の不足
•
•
•
•
囲み記事 6
バーミヤンにおけるジャガイモ生産及びマーケティング
バーミヤンにおけるジャガイモ生産の問題として、以下の問題が挙げられている。
•
バーミヤンではジャガイモは通常 8 月から 9 月にかけて収穫される。9 月には仲買人に Seer(7kg)あた
り 50 afs で販売するが、それ以外の季節であれば 90 afs で販売することができる。高い価格で販売す
るためには貯蔵方法が重要となるが、伝統的な地下貯蔵庫の場合は、凍結や乾燥によるダメージを受け
てしまうことから、品質を保つことが困難である。
•
農民たちは自力でトラックで輸送することができず、仲買人に対して弱い立場にある。
•
カブールやマザリシャリフといった大都市につながる道路の状況が悪く、輸送コストが高い上に商品が
ダメージを受けやすく、ジャララバードやパキスタンのペシャワール、またはイランから来るジャガイ
モに競争条件が著しく劣ることも、生産者価格が引き下げられる原因となっている。
そこで、以下のプロジェクトが、バーミヤンのジャガイモの生産・流通の向上を目的として実施されてきた(こ
れらの協力の効果については、まだ確認されていない)。
•
ペルーに本部を置く International Potato Center がウィルスを除去された種イモをジャララバードに
て生産してバーミヤンに供給した。
•
米国農業省が Citizens Network for Foreign Affairs (CFNA) を実施組織として、1.1 トンのサイズの
ジャガイモの貯蔵庫の建設を振興し、22 ユニットが建設された。CNFA は木材・石及び技術を供与し、農
民が労働を提供した。
•
USAIDが、Local Governance and Community Development – North and West (LGCD-NW)のプロジェクト
において、35 トンのサイズのジャガイモの貯蔵庫(6,000 USD)を 50 ユニット建設することにより、ジ
ャガイモを時期をずらして出荷することを可能にするもの。1 ユニットあたり 1,200 USD/年の利益向上
が可能となる 47。
•
JICA が国立農業試験場再建計画(NARP)のプロジェクトにおいて、バーミヤンにおいて、2007 年から、
50cm、1m、1.5m(それぞれ、縦横 1m×2m)の 3 種類の竪穴を掘り、木とムギワラで蓋をし、中の空洞部
分にムギワラを詰めることにより、温度を常に 2℃~6℃に保ち、湿度を常に 90%以上に保つための実験
をしている。冬を越せることが可能なことが実証できれば、より大きな規模で実証することを考えてい
る。
出所:JICAプロジェクト形成調査団及びEnabling or Disabling? The Operating Environment for Small and Medium
Enterprises in Rural Afghanistan, AREU, 2007年9月
46
47
同上。
バーミヤンでの調査団によるインタビューによれば、個人であれグループであれ、35 トンのジャガイモ
を貯蔵できる能力のある農家が裨益者として選定され、農家は土地と掘削を提供し、その他の建設費用・資材費
はすべて USAID のグラント、とのことである。
バーミヤン州におけるジャガイモ貯蔵庫(USAIDプロジェクト)
農業適地が限られていることもあり、バーミヤン州の農村世帯の 93%は家畜ないしは家禽の
飼養を行っている。一世帯あたり 1.44 頭の牛、4.20 頭の羊、1.11 頭のヤギが飼養されている
ことがFAOのLivestock Census(2003 年)により報告されている。州内 5 郡にそれぞれ家畜診療
所(Veterinary Field Unit)があり、現在新たに 2 つを建設中である。その他にNGOの支援に
よる診療所が 2 ヶ所ある。各診療所には獣医が 1~2 名常駐している48。以下にバーミヤン州の
農村部において家畜を所有している世帯の、家畜別の割合を示す。
表 3-9 バーミヤン州農村部において家畜を所有している世帯の比率
家畜の種類
比率
乳牛
55%
肉牛
36%
馬
5%
ロバ
79%
ラクダ
1%
ヤギ
36%
羊
鶏
42%
52%
出所: National Risk and Vulnerability Assessment 2005
農畜産業以外の地場産業としては、手工芸が州全域にわたって盛んであり、特に、Waras 郡、
Panjab 郡及においてカーペットが多く作られている。宝石製造、ショールなどの生産もも盛ん
である。その他、ごく限られた地域において、蜂蜜、シルク、ジャム、カラクル羊皮、砂糖キ
ャンディーなどが見られる。
3-2-3 コミュニティー開発の概況 49
バーミヤン州においては、539 の CDC が形成されて、コミュニティーレベルの開発計画を作成
している。以下に郡別の CDC の数及び NSP の実施を支援した Facilitating Partners を示す。
なお、バーミヤン州における村落の数は 1,839 である。
48
49
JICA「アフガニスタン国農業農村開発部分野支援基礎調査」における、農業省州局長への聞き取りによる。
本項の情報は Bamyan Provincial Profile, NABDP による。
表 3-10 バーミヤン州の CDC の数と NSP を実施した FP
郡
Bamyan
Shebar
Saighan
Kahmard
Yakawlang
Panjab
Waras
合計
CDC の数
109
74
37
60
143
36
80
539
NSP を支援した FP
UN Habitat
AKDN
UN Habitat
UN Habitat
UN Habitat
AKDN
AKDN
出所:MRRD - NSP
2005 年には、バーミヤン州では、19 の農業協同組合が運営されており、2,438 名の組合員が
加入していた。これらの協同組合は、6,199 ヘクタールの土地を管理して、25,000 トンの余剰
作物を販売し、その結果、組合員は 287,300 Afs の資本金を持つに至っている、とのことであ
る。
3-2-4 農業・地場産業に対するドナーの支援
NABDP Economic Regeneration Unit
2007 年にバーミヤンにおいて、ジャガイモ及び観光についての Value Chain Analysis が
実施された。これらについて、さらにフィージビリティを考慮したビジネスプランを作っ
ているところであり、これをもとにプロポーザルの提出を NGO や民間企業に依頼する予定
である(実際にこれらの産品が商業化できるか否かは、プロポーザルを提出してくる機関
次第になる)。
FAO/DFID:Development of Sustainable Agriculture Livelihoods in Eastern Hazarajat (DSALEH)
2002 年 6 月から 2008 年 9 月までの期間で、DFID が 6 百万ドルの資金提供をし FAO が実
施している、農民の食糧確保・生活向上を主眼としたプロジェクトであり、現在プロジェ
クト終了にむけてマーケティングにも力を入れ始めている。Panjab、Waras、Yakawlang 及
び Shibar の 4 郡を対象に、CDC に相当する 68 の Farm-Based Organizations (FBO)を形成して、
コミュニティー行動計画を作成させて、小規模な農業開発プロジェクトを運営させている。
16 の果樹のデモ苗畑、28 のモデル果樹園(ファーマーズ・スクールを実施)、新規果樹園
への 50%の補助金の供与、小規模植林(ポプラ)、野菜栽培、種イモ栽培振興、養蜂、養
鶏、小規模潅漑、識字教育などが実施された。
囲み記事 7
DSALEH の問題点
本プロジェクト形成調査のリサーチアシスタントが Yakawlang にて行った、本 FAO プロジェクトの裨益者
に対するインタビュー調査によると、本プロジェクトには以下のような問題点があることが明らかになっ
た。
•
アプリコットやアーモンドの苗が提供されたが、これらの果樹は当地の環境で育てることが難しいこ
とから、育てた苗木を売ることができていない。また、寒い気候で苗木を育てるための技術トレーニ
ングが不十分であり、技術が定着していない。限られた潅漑地を 3 年間苗木生産に充てることは、リ
スクが高すぎる。
•
ローカル市場における果実の需要は小さい一方で、郡外、州外に果実を輸送するにはコストが高すぎ
て、市場に果実を出荷できない。また、果樹栽培の改善についても、長期的なトレーニングが必要で
ある。
•
野菜のビニルトンネル栽培については、農民に受け要られつつあるものの、市場への販売ルートがな
く収入にむすびついていないため、種の購入や破れたビニールを更新することができず、持続可能性
がない。
•
ポプラは、育ちの早い外来樹種が導入されたが、苗木の育て方や病害虫対策などについての知識が農
民に伝えられておらず、土地を林地にあてることにリスクが大きすぎる。
JICA:Integrated Rural Development Program (IRDP)
Yakawlang 郡のシベルト及びナイタックのクラスターCDC においてカーペットのトレーニ
ングを実施している。アフガニスタンで一般的に行われている委託生産(フレーム、糸、
デザインをすべて支給)だと織り賃のみになって収入が限られることから、フレーム、そ
の他器具、トレーニングを提供することにより、トレーダーに依存することなく(洗浄・
カットの最終工程のみパキスタンで行う)、より多くの収入が村に入ることが意図されて
いる。シベルトでは、従来行われているようにマーケットで販売しているが、一方のナイ
タックでは、当地出身でカブール在住のカーペット業者が、急増する需要に対応するため
に、本プロジェクトの販売を一手に引き受けている。
カルワラのクラスターCDC では、4つの CDC のそれぞれにおいて、45 名程度の Self Help
Group に対して 25 名に 2 頭ずつ羊を提供した。配布したものは特にリボルビング化してい
ないが、最初に配布した羊の子供を SHG の残りの 20 名がもらう仕組みを作ることにより、
少なくともプロジェクトの実施期間中は羊が売られないで持続されるように設計されてい
る。
アガ・ハーン財団(AKF):Micro and Small Enterprise Development (MSED) プロジェクト
AKF は、CIDA、米国農業省及びノルウェー大使館の支援により、バーミヤンセンター、
Waras 郡、Panjab 郡、Shivar 郡、Khamard 郡、Sheikh ali 郡及び Surkhi Parsa 郡において、
以下の収入創出プロジェクトを行っている
•
•
•
•
カーペット製造:2,400 人(70%は女性)に対してカーペット織りのトレーニングを
行い、材料と市場機会を提供し、必要に応じてマイクロファイナンス(ARMP)につ
ないでいる。ARMP により、機織機を購入し、カーペットの製造を始めたものが多く
出ている。
果樹の生産:90 名の農民にアプリコットの乾燥方法、仕分け、パッケージング、マ
ーケティングのトレーニングを行い、60 名にリンゴのポスト・ハーベストのトレー
ニングを提供した。
養蜂:25 名の女性に対して、20 日間の養蜂やそれに関するビジネスのトレーニング
を行い、養蜂箱などのスタートアップ・キットを提供した。
養鶏:バーミヤンセンターにおいて、3 つの養鶏場の設立を支援し、カブールやパキ
スタンからの鶏卵に代替して、地元産の卵を販売している。
•
•
家畜:日生産量 500 リットルの牛乳加工施設の設立のためのリサーチを行い、150 世
帯が今後バーミヤンセンターにおいて牛乳販売を行う予定である。あわせて、人工
授精、獣医サービスを行うシステムを整備している(現在も、人件費はすべて補助
されている)。
ハンディクラフト:20 名のマスタートレーナーがハンディクラフトに関するトレー
ニングを行う一方、市場調査を実施している。
上記に加え、AKF はバーミヤンにおいて、マスの養殖を含めた Fish Farming を実験して
いる。また、Panjab 郡及び Waras 郡において、河川流域を改良して雪を溜めて水源を確保
し、あわせて植林を行う、という実験を行っている。
USAID:Literacy and Community Empowerment Program
LCEP は、コミュニティーにおいて、①ガバナンス能力(計画立案・実施、参加型意思決
定、各活動のモニタリング)の向上、②経済的エンパワーメント(Self-Help Savings and
Investment Group から預金を集め、ニーズのある村人に貸し出す Village Bank の設立・
運営及びビジネストレーニング)及び③識字教育、を行うプログラムである。UN Habitat が
LCEP の FP として、Saighan 郡 24 村、バーミヤンセンター22 村において活動した結果、
CDC(村のそれぞれにおいて男性 CDC と女性 CDC がある)のガバナンス及びマネジメント能
力が向上し、Saighan 郡の 24 の各村において Village Bank が設立された。同郡における
64 村を対象としたフェーズ 2 の実施について、現在検討中である。
囲み記事 8
バーミヤンにおける LCEP の問題点
UN Habitat のプロジェクトオフィスによれば、1 つの CDC あたり 2,000 USD のグラントを提供することに
より、年間 400 USD の売上がもたらされている、とのことであり、成功しているかの印象をもつ。しかし
ながら、本プロジェクト形成調査のリサーチアシスタントによるインタビュー調査によると、LCEP には
以下の問題がある、とのことである。
•
すぐにでも融資を受けられるという過大な期待に基づいて貯蓄が開始されたため、融資がなかなか
実現しないことによる、Village Bank に対する不信感が芽生えてきている。
•
一方、融資を受けて生産活動に結びつけるために必要なキャパシティーの強化に時間がかかるた
め、プロジェクト実施期間内に成果が出てこない。実際の能力としては、貯蓄の明細を記録する程
度のことまでしかできておらず、ビジネスの経験のない村民が起業するためには、様々なトレーニ
ングやアドバイスが必要である。
•
プロジェクトで導入されたトレーニング教材やマニュアルが難しすぎて、全く理解されていない。
上記により、フェーズ 1 のみにて支援が終了した場合には、Village Bank は消滅してしまう可能性が少
なくない、とのことである。
Solidarités(フランスNGO)
Solidarités は、バーミヤンセンター、Khamard 郡、Saighan 郡、Yakawlang 郡において以下
の活動を行っている。
•
•
•
•
作物の多様化及び農業生産技術(小規模機械化、野菜の種子生産能力、ビニルハウ
ス、デモ圃場)の向上
小規模農村企業への支援(獣医クリニックの民営化、脱穀農家の活性化、果樹苗市
場の活性化等)
販売能力の向上
太陽光によるビニルハウス栽培
3-3 ナンガルハル州
3-3-1 ナンガルハル州の社会・地理的状況
ナンガルハル州はアフガニスタンの東部に位置し、パキスタンと国境を接している。約 134
万人が 21 の郡に居住しており、うち 87%が農村部に居住している。ナンガルハル州にはパシュ
トゥーン人が主として居住しており(90%)、残りは Pashayee 人、タジク人、Gujjar 人等であ
る。人口の約 92%がパシュトゥー語を主たる言語としている。遊牧民のクチ族は、冬には 56 万
人と最も多くなり、夏には 8 万人程度まで減少する。以下に郡別の人口を示す。
表 3-11 ナンガルハル州の郡別人口
郡
人口(千人)
Jalalabad
205,423
Behsood
118,934
Sorkhrood
91,548
Chaparhar
57,339
Roodat
63,357
Kame
52,527
KoozKonar
42,823
Dare Noor
28,202
Shirzad
63,232
Hesarak
28,376
Khogiani
111,479
Pachiro Akam
40,141
Deh Bala
33,294
Koot
52,154
Acheen
95,468
Nazian
16,328
Darbaba
13,479
Shinvar
64,872
Beti Koot
71,308
Mehman Darre
42,103
Ghoshte
31,130
Lael Poor
18,997
合計
1,342,514
出所:CSO/UNFPA Socio Economic and Demographic Profile
ナンガルハル州の面積は 7,616km2(静岡県程度)であり、バルフ州と同様に平地と山地がほ
ぼ半分ずつとなっている。以下にナンガルハル州の地形の特徴を示す。
Mountainous
35.7%
表 3-12 ナンガルハル州の地形の特徴
Semi-Mountainous
Semi-Flat
Flat
19.1%
5.1%
39.5%
Not reported
0.1%
Total
100%
出所: CSO/UNFPA Socio Economic and Demographic Profile
3-3-2 農業・地場産業の概況
ナンガルハル州では、農村居住者の 28%が商業・サービス業に従事し、40%が非農業賃労働
を行っていることから、人・物の動きが活発であることがわかる。一方、家畜から収入を得て
いる世帯は、バルフ州やバーミヤン州に比べて少なくなっている。また、(統計に出ている)
送金収入を受けている住民の割合が多いのは、パキスタン国内に多くの親戚が住んでいること
と関係が深いと考えられる。以下に州の住民の収入源を示す。
表 3-13 ナンガルハル州の住民の収入源
収入源
農業
畜産
ケシ栽培
商業・サービス業
工業
非農業賃労働
送金収入
その他
農村部
55%
14%
4%
28%
1%
40%
10%
8%
都市部
12%
0%
0%
58%
1%
27%
0%
0%
出所: National Risk and Vulnerability Assessment 2005
ナンガルハル州は、ヒルマンド州に続いてケシ栽培が多く行われているところであったが、
地方政府の強いコミットメント及びドナーによる代替作物栽培の振興により、2005 年には、前
年に比べて 2 割くらいの生産量にまで激減した。
ナンガルハル州のわずか 13%のみが耕地であり、農業に従事している一世帯あたりの農地面
積は、約 1.5 jerib(0.3 ヘクタール)と、極めて小さい 50。主たる作物は小麦や、メイズ、ア
ルファルファ、クローバーといった飼料作物、そして米である。加えて、果実・ナッツ、グレ
ープが、それぞれ農家の半数で収穫されている。換金作物としては、綿花、サトウキビ、タバ
コ、オリーブ、野菜(トマト、メロン、スイカ、などがそれぞれ局地的に栽培されている。か
つてソビエト時代には、オリーブとかんきつ類のプランテーションが経営されていたが、現在
はオリーブは栽培されているものの、限られた量のオリーブ油が国内消費用に生産されている
に過ぎない。
ナンガルハル州では家畜の飼養数は比較的少ないが、乳牛は多くの家庭が 1 頭は所有してお
り、養鶏も多くの家庭で営まれている。FAO の Livestock Census(2003 年)によると、一世帯
あたり 2.7 頭の牛、3.7 頭の羊、3.3 頭のヤギが飼養されていることが報告されている。以下に
ナンガルハル州の農村部において家畜を所有している世帯の、家畜別の割合を示す。
表 3-14 ナンガルハル州農村部において家畜を所有している世帯の比率
家畜の種類
比率
乳牛
72%
肉牛
4%
馬
1%
ロバ
22%
ラクダ
1%
ヤギ
26%
羊
9%
鶏
75%
出所: National Risk and Vulnerability Assessment 2005
農畜産業以外の地場産業としては、乾燥させた砂糖(Kama 郡)や蜂蜜(Bati Kot 郡、Rodat
郡、Pachiro Akam 郡)が作られている。
50
Agribusiness Assistance Programs in Afghanistan, Altai Consulting, March 2006
3-3-3 コミュニティー開発の概況 51
MRRD の実施している NSP により、州内には 605 の CDC が形成されている。さらに、EU の支援
により、すべての郡の事務所が整備されつつあり、CDC で作成された開発計画が、クラスター
CDC を経て、郡事務所に集中的に管理される体制が整いつつある。なお、ナンガルハル州におけ
る村落の数は 1,400 である。
表 3-5 ナンガルハル州の CDC の数と NSP を実施した FP
郡
CDC の数
NSP を支援した FP
Bihsud
47
BRAC
Surkh Rod
77
BRAC
Chaparhar
73
BRAC
Rodat
72
BRAC
Kama
25
UN Habitat
Kuz Kunar
39
NPO/RRAA
Dara-I-Nur
36
GAA
Dih Bala
42
BRAC
Achin
87
BRAC
Nazyan
31
GAA
Dur Baba
18
GAA
Bati Kot
43
BRAC
Goshta
15
UN Habitat
合計
605
出所:MRRD - NSP
2005 年には、ナンガルハル州では、61 の農業協同組合が運営されており、7,220 名の組合員
が加入していた。これらの協同組合は、8,129 ヘクタールの土地を管理して、75,000 トンの余
剰作物を販売し、その結果、組合員は 2,333,100 Afs の資本金を持つに至っている、とのこと
である。
3-3-4 農業・地場産業に対するドナーの支援
ケシ栽培の集中している地域ということと、降雨量が比較的多く農業のポテンシャルが高い
地域であることから、農業・農産加工分野に対するドナーの支援が、ナンガルハル州に集中し
ている。
EU:Perennial Horticulture Development Project (PHDP)
果樹・ナッツの栽培に関するトレーニングセンター(デモ圃場を兼ねる)を運営してお
り、様々な樹種の栽培のデモンストレーションを行うとともに、政府の普及員、民間の普
及員(NGO など)、関心をもっている農民、学生などにトレーニングを行っている。特に、
点滴潅漑、新しい品種、剪定の方法など、新しい技術を教えている。
GTZ Project for Alternative Livelihoods in Eastern Afghanistan (PAL)
ナンガルハル、ラグマン、クナールの東部 3 州の 3 郡で郡庁舎を整備しつつコミュニテ
ィー開発を実施しており、2007 年に開始された PAL II は Outreach を目的として、残りの
51
本項の情報は Nangarhar Provincial Profile, NABDP による。
17 郡の庁舎整備を行いつつ、プランニング能力を向上させ、そして完成した郡のプランを
Social Organizer が中心となってドナーに売り込む体制ができることとなる。
上記プログラムとは別個のコンポーネントとして主要な産品への支援が行われており、
これまで 30 の農産物・農産加工品について、技術を確立させた普及教材を作成し、すべて
の CDC に配布した。その中でも、Rose oil(香水)はケシ栽培に負けない利益率があがる
が、最適な設備投資のサイズについてまだ検討の余地があり、実験段階の域を出ていない。
ひまわり油も一定の利益率を達成することができるが、やはり油の精製工場への投資が必
要である。2007 年にアフガニスタン人が USAID の支援を受けて建設した工場が、今後ひま
わり油を精製して国内供給をはじめられる予定である。また、カーペットを、紡糸、染色
から最終の洗浄まで一貫して一つの村でできる体制もできつつある(水力発電も利用)。
養魚池への関心も高く、普及が急速に進んでいる。稚魚をペシャワールからの輸入に頼っ
ていた制約があるが、ハッチェリーを作る業者が出てきたため、まもなく国内産の稚魚が
手に入るようになることが期待される。
本プロジェクトでは、農業普及センターの役割を民間企業に委託している。普及教材を
プロジェクトが用意し、トレーニング費用及び苗木の価格の 80%をプロジェクトが負担す
ることにより、トレーニング会社はデモ用の農場を運営して、農民や普及員へのトレーニ
ングを実施している。
JICA:Rice Improvement Project オフィス
研究よりも実証を中心としたリサーチから始まって、普及に至るプロジェクト。デモ圃
場(一般の農民に対して資材等を提供して管理してもらい、収穫は農民のものになる)に
おいて、高収量の品種、除草、施肥/追肥、条植、水管理などについて、実証しつつ、生産
性の高い米生産のモデルを周辺の農民に示していく。
USAID:Alternative Livelihood Program – Eastern Region (ALP-E)
緊急的・短期的支援として、零細農家を対象に、2006 年に 90,000 人に小麦と大麦の種を
供与し、2007 年には野菜の種と肥料を 45,000 人に供与した。2006 年には全額、2007 年に
は 50%の補助とし、2008 年はさらに補助率を減少させていく。
より長期的な支援として、園芸農家のうち、果樹・ナッツの木を 1/2 jerib(0.1 ヘクタ
ール)植えることのできる零細な農家 3,000 件を対象に、苗木、農具、肥料及びトレーニ
ングを提供し、また商業ベースの農家に対して 80%の苗木費用とトレーニングをプロジェ
クトが負担することにより、古い果樹園が 500 ヘクタールあったものを、リハビリ・新規
をあわせて 7,000 ヘクタールに拡大されることを目指している。その結果、東部の対象 4
州で 2007 年に 2,000 トンのフルーツ・ナッツの収穫量があるが、これが 2012 年に 50,000
トンに拡大する予定である。なお、果樹の間における野菜の Intercropping も支援してい
る。実施体制として、114 の Self-Help Group(20 人~70 人)を形成して、生産や収穫の
技術の向上のためのトレーニングを行っている。民間からリクルートした人やナンガルハ
ル大学の若い教員などを雇用して(Field Technicians)、プロジェクトから集中的なトレ
ーニングを行い、彼らが農民組織のリーダーたちに対して定期的にトレーニングを行い、
モニタリングも行っている。あわせて、Field Technicians のネットワークを利用して、マ
ーケットに関する情報を農民に伝え、有利な条件で作物を売れるようにしている。
養鶏のコンポーネントについては、まず鶏の餌として、コーンや野菜を作る農家と餌工
場(ARIES - SME への融資プロジェクト – と連携させて、1 社に対して融資を実現し、TA
も実施)をリンクさせた。一方で、(養鶏用の卵は現在はアメリカ及びオランダから輸入
しているものの)2 つのブリーダー農家を支援しており、2 つのハッチェリー(ARIES 及び
TA による支援)に卵が提供できるようにしている。対象 4 州にまたがって、200 世帯の男
性及び 200 世帯の女性に、養鶏用の簡易な施設の建設、餌、ヒヨコ、ワクチン等の購入費
の 3/4 を支援し、世帯あたり 1,000~3,000 羽の養鶏ができるようにした。ターゲットとし
ては、年間 2 百万羽のブロイラーの製造である。
ジェンダーのコンポーネントでは、チーズ工場(2 ヶ所)、野菜の苗木のビニルハウス栽
培(7 ヶ所)、果樹・ナッツの苗木栽培(5 ヶ所)、養魚場(20 ヶ所)、手工芸、パッキン
グ材料の工場が、それぞれ女性の SHG によって運営されている(10 名~30 名)。また、
4,000 人の女性に、ビジネスのスキルのトレーニングを行い、メンターシッププログラムを
行っている(実際にビジネスに結びつくケースは 1~2 割程度)。
FAO:Regional Initiative for Sustainable Economy (RISE)
Surkhud 郡、Kama 郡、Behsud 郡及び Batikot 郡の 41 村(870 世帯)の、0.4~1.0 ヘクタ
ールの土地をもつ貧困農民を対象として、基本パーケージ(小麦種子、肥料、穀物貯蔵庫、
野菜種子、手工具)及び、選択パッケージ(果樹苗<アップリコット、アーモンド、ピー
チ>、野菜温室栽培<きゅうり、なす、豆、トマト、唐辛子、オクラ、オニオン、ほうれ
ん草、コリアンダー、ニラネギ、大根>、家畜配布、養魚池の建設)を提供した。道具は
すべて現地調達することにより、現地の産業の活性化にもつながっている。それぞれの選
択パッケージにはテクニカルトレーニングが入っている。ただし、基本パッケージとして
無償で配布した種はハイブリッドの種であるため、種を農民が作ることはできないため、
毎回買う必要がある。
農業省の郡レベルの普及員及び IP(ARIA)を通じて、農民に対する技術支援を行った。
まず、FAO のナンガルハルの技術スタッフが、普及員及び IP の職員に対して、(FAO がも
っているトレーニング教材などを用いて)理論と実践に関するトレーニング行った。
選択パッケージの一つである 250 ㎡の養魚池から、年間 400~450USD の利益が出ており、
成功例と呼べる。ただし、稚魚を生産するハッチェリーがアフガニスタン国内では(存在
はするが)運営されていないため、パキスタンから稚魚を輸入した。家畜の配布では、最
低限の土地はもっているが、寡婦や障害者といった貧困者(276 世帯)を対象として行い、
地元の牛(500~600USD)と飼料 50kg、獣医サービス、トレーニングを提供した。支援後の
飼料については、アルファルファなどの生産を各世帯が自らできることが想定されている。
第4章 コミュニティー開発とマイクロファイナンス
4-1 コミュニティー開発
長い戦乱によりコミュニティーが疲弊・分断されたことが、アフガニスタンの国家形成、そ
して治安の回復の妨げとなっていたが、2003年からコミュニティーを主体とした農村開発プ
ログラムが開始され、大きな進歩が見られている。第一章でも述べたが、国家連帯プログラ
ム(National Solidarity Program: NSP)をはじめとするプログラムを通して、これまでに全
国の村落のうち合計3万以上ものコミュニティー開発委員会(CDC)が設立され、農村インフラ
を 中 心 と した 開 発プ ロジ ェ ク ト が実 施 され てき た 。 ま た、 郡 レベ ルで は 、 郡 開発 委 員会
(District Development Assembly:DDA)も設立されている。これらの組織の設立にあたって、
コミュニティーレベルの参加と、NGOといった地域横断的組織とのパートナーシップを育成する、
ボトムアップのアプローチが取られてきた。CDCやDDAといった組織は、コミュニティーの声を
開発計画に反映させる仕組みであることから、プロジェクト実施の際の開発プラットフォー
ムとして、農村経済の発展に貢献する可能性を多いに秘めている。
4-1-1 国家連帯プログラム(National Solidarity Program: NSP)の進捗と課題
(1)
NSP のサイクル
NSP の実施においては現在、27 の NGO と国際連合人間居住計画(UN-HABITAT)が、開発支援パ
ートナー(Facilitating Partner :FP)として、個々のコミュニティーでの事業実施促進を行
っている。FP は、NSP の方針やプロジェクト実施の手順の周知、公正公明な選挙の実施促進、
コミュニティー開発計画やプロポーザル策定の支援、サブプロジェクト実施の支援、CDC メンバ
ーに対するマネジメントトレーニング、モニタリング、評価の実施、といった役割を担ってい
る。
各コミュニティーでのプロジェクトのサイクルとして、以下の 5 つの段階があり、通常、2 年間
で全ての段階を終了することとなっている。
(a) コミュニティーのグループ化:各州内の郡を担当する FP を割り当て、その助言と指
導のもとで、村をグループ化する。
(b) CDCのメンバーの選出: 各コミュニティーに住民の自治組織となるCDCを設立するた
め、秘密投票による選挙 52によってメンバーを選出する。
(c) コミュニティー開発計画の策定:新しく設立された CDC は、FP の指導・支援の下、
コミュニティー自らの開発ニーズに基づいて、優先開発サブプロジェクトの選択を
行い、コミュニティー開発計画を策定し、サブプロジェクトプロポーザルを NSP に
提出する。
(d) サブプロジェクトの実施: FP の監理の下、CDC は与えられた交付金(ブロック・グ
ラント)でサブプロジェクトを実施し、コミュニティーに対してその進捗状況や資
金の利用状況を報告する。
(e) サブプロジェクトの評価・報告:サブプロジェクト終了後、FP は評価を行い、教訓
を取りまとめる。
(2)
NSP の進捗
NSP の現在までの進捗は以下のとおり。
52
立候補ではなく、自らふさわしいと思う人物の名前を書いて投票する。
•
•
•
2008 年 3 月の時点で、全 34 州、398 郡中 346 郡の 32,455 の村落において、合計で
20,502 の CDC が民主的な選挙によって設立された。そのうち、20,182 がコミュニティー
開発計画を策定した。
2008 年 4 月上旬の時点で、支給された交付金の額は、US$ 469,741,681 である。そのう
ち US$ 443,617,884 は 17,037 のプロジェクトとして、支給された。
2008 年 4 月の時点で、34,043 のコミュニティープロジェクトを支援した。主なプロジェ
クトのセクターは、以下のとおりである。
図 4-1 NSP によって実施されたプロジェクトの分野(数)
その他
8%
教育
12%
給水設備
25%
電化
16%
道路
22%
灌漑施設
17%
出所:MRRD Strategy and Programme Summary
上記のとおり、NSP では、水道、道路、潅漑施設、電気、学校、医療施設などの経済・社会イン
フラ建設が主として採用されているが、数にして 30%、金額にして 10%程度は、Human
Capital Development と呼ばれる識字教育や収入創出活動に用いられている。女性を対象とした
活動に交付金の 10%が用いられることが MRRD のガイドラインにより決められているが、実際に
女性に直接裨益するプロジェクトは遥かに限られている。
(3)
CDC の役割
NSP を通じて形成された CDC は、コミュニティーにおいて以下のような役割を担いつつある。
•
•
•
(4)
以前から各コミュニティーでは、伝統的なシューラ(長老ら有力者たちの寄り合い会合)に
よって、重要課題が討議され決定されていたが、現在は、組織化された CDC がシューラに取
って代わり、コミュニティーの意思決定機関として機能しつつある。地元の有力者がそのま
ま CDC のメンバーになっているケースが実際には多いが、選挙というプロセスを経たことに
より、公的な代表として住民からプレッシャーを受ける立場になり、コミュニティーから信
頼される関係作りも進んでいる。
設立された CDC には、男性のみ、女性のみ、男女混成と 3 つのタイプがあり、コミュニティ
ーの意志決定における女性の参入の機会を創出したという点でも非常に重要な成果といえる
(ただし、後述するように、女性の参加が実際は形だけの場合も多々存在する)。
NSP 以外のコミュニティー開発プロジェクトでは、CDC 主導による開発プロセス(意思決定、
基金のマネジメント等)を活用したり、CDC をエントリーポイントとしてプロジェクトが実
施されたりしていることから、CDC が NSP の枠組みをこえ、各コミュニティーを代表する組
織として認知されつつあると言える。
CDC の課題
治安
治安回復の見通しがない地域での円滑な復興支援活動は難しい。特に南部の 4 つの州において、
FP がコミュニティーで活動することは非常に困難な状態となっており、またサブプロジェクト
の実施に際する治安の影響は非常に大きい。治安の悪い地域では、必然的に NSP の導入、すなわ
ち CDC の形成が遅れる傾向にある。
CDCへの住民の参加度合い
CDCへの住民の参加の度合いは、各コミュニティーで大きな差がある。また、コミュニティーに
よっては実際には秘密選挙でない方法で選挙が行われている例も報告されている53。CDCのメン
バーがNSPを自らの利益のために利用する場合や、例えば電化や道路建設が一部の住民にのみ裨
益するように設計される場合などがあり、民主的でない方法でCDCが運営されているケースも少
なくない。
女性の参加
混成 CDC の組織化が事実上困難な地域も多く、コミュニティーによって男女混成 CDC の有無や
数に差が多く見られる。さらに、女性 CDC とは形ばかりで、規定を満たすために設立されてい
るが、交付金の用途に関して発言力がない、CDC の活動自体を知らされていないなど、本来の役
割を全く果たしていないようなケースも多く存在している。
持続性および長期的構造
現段階では、長期的な持続性には不安が残る。CDC が他のコミュニティー開発プロジェクトのエ
ントリーポイントとなり、CDC の存在が認知され定着しているようにも受け取れる一方で、CDC
はあくまで NSP のサブプロジェクトを実施するための組織であり、NSP 終了後に資金援助なしに
CDC がローカルガバナンスの役割を果たし続ける可能性は低いとの見方もある。NSP は、CDC の
地方行政組織としての法制化にむけ、2006 年 11 月に“CDC By Law”を草案し承認を得たが、
CDC に対する支援は農村復興開発省の範囲内にとどまっており、国家政策および他省庁の政策へ
の統合には至っていない。農村復興開発省は、Social Organizer を各郡に配置して、FP 撤退後
にも CDC への支援を継続しようとしているが、彼らの実質的な役割は、FP と同様にドナーのプ
ロジェクトと CDC との調整役に留まっており、活動はドナーの予算頼りというのが実情である。
上記のように、CDC の形成や運営には様々な困難が生じているが、コミュニティー開発には
コミュニティー内の利害の調整を含むローカルガバナンスの形成が不可欠であることから、
CDC の活動を支援、促進、継続することは、今後の地域経済活性化、農村復興、ローカルレベ
ルでの組織の連携強化において、非常に重要である。
4-1-2 コミュニティー開発プログラム
NSP によって設立された CDC を通じた、コミュニティー開発プログラムが多数実施されている。
以下に、コミュニティー開発に関連したプログラムの概要を示す。
53
AREU: Investigating the Sustainability of Community Development Councils in Afghanistan
表 4-1
プログラム基礎情報
国家地域ベース開発プロ
グラム
(National Area-Based
Development Programme
Phase II: NABDP)
期間:2006 年~2008 年
ドナー:UNDP
対象地域:全国
Literacy and
Community Empowerment
Programme (LCEP)
期間:2004 年~2006 年
(現在フェーズ 2 検討中)
ドナー:USAID
対称地域:パルヴァー
ン、バーミヤン、ヘラー
ト、カンダハル、ファラ
ーの 5 州
プログラムの目的
州および郡レベルのガバナ
ンス強化、地域経済再生の
ための計画策定とその実施
の促進、コミュニティーか
らの要請に基づいた農村に
おける生産基盤プロジェク
トの構築を通して、ボト
ム・アップアプローチによ
る貧困削減、農村復興開発
を推進する。
地方住民、特に女性や若者
を中心とした人々の能力強
化 を支援することによ
り、コミュニティー開発の
参加を促進し、また、コミ
ュニティー参加型ガバナン
スを促進するため、女性や
若者の声が反映される民主
的なコミュニティーの代表
組織の強化をはかる。
主なコミュニティー開発プログラムの概要
プログラムの重点分野、アプローチ
主な成果
課題・教訓
①コミュニティー・エンパワーメント:郡レ
ベルにおいて、CDC の代表による郡開発委員
会(District Development Assembly:DDA)
を形成して能力開発を行い、CDC や郡レベル
のニーズを計画策定に反映できるよう支援す
る。
②経済活性化:各地域の社会・経済に関する
アセスメントを行い、開発にかかる機会や制
約を把握して、地域農村経済活性化戦略を策
定する。
③組織開発:MRRD の本省及び州の職員、州開
発委員会(Provincial Development
Committee:PDC)の能力強化を行う。
④公共投資実施支援:コミュニティーによる
開発計画及び地域農村経済活性化戦略をもと
に、総合的な農村開発計画を策定し、財源を
確保するための支援を行う。
①コミュニティー・ガバナンス:CDC の統治
能力強化のため、CDC メンバーに集中的なト
レーニングを行い、若者グループや自助グル
ープの設立を支援する。
②基本的計算能力、識字教育:住民の基本的
計算能力と読み書きのスキル向上のため、カ
スケード方式(伝達講習方式)で識字教育のト
レーナーを育成し、識字教育のカリキュラム
と教材の開発、また、各コミュニティーにお
いてコミュニティー学習センターを設立す
る。
③経済エンパワーメント:貯蓄投資自助グル
ープ、コミュニティー銀行の設立を支援し、
ビジネス開発サービスとして、零細企業者の
能力強化、ネットワーク構築を支援する。
• これまで計 297 の DDA が設立され、これらの郡
において PDC が策定された。また、34 州全てに
おいて、州開発計画が、郡開発計画を踏まえた
うえで策定された。(2007 年 12 月)
• 地域農村経済活性化戦略策定のための、包括的
なコミュニティーレベルの分析が実施され、ま
た、経済的利点やバリューチェーンが検証、認
識された。
• 農村部での経済発展、雇用機会を促進すること
を狙いとした、アフガニスタン農村企業開発プ
ログラム(AREDP)の設立において、資金面、技
術面での支援を提供した。
• 農村復興開発省のスタッフに対して、プロジェ
クト計画立案、組織開発、トレーナー養成のト
レーニングを実施した。
• 計 312 のプロジェクトが既に完了しており、305
のプロジェクトが現在進行中である。
• 現地コミュニティー機関との
協力、現地契約、労働集約的
工事などによりできるだけ地
域の主体性とコミュニティー
参加を推進することにより、
開発と治安回復を結びつけた
取り組みを促進することが重
要である。
• DDA の法的なステータスの確保
が必要とされる。
• MRRD の組織能力の低さは、プ
ログラム実施に総合的に影響
を与えるため、優先課題とし
取り組む必要がある。
• 380 の CDC が設立され、CDC によって 371 の若者
グループが形成された。
• 851 の貯蓄投資自助グループ(427 の女性グルー
プ、424 の男性グループ)が形成され、
$75,500USD が 19 ヶ月の間で貯蓄された。
• 16 名(女性 10 名)のリードトレーナー、74(女
性 37 名)の郡レベルのトレーナー、371 名(女性
178 名)の村落レベルの講師が養成された。
• 9,275 名が村落レベルの講師より数学・識字教
育をうけ、そのうち 95%が 3 年生レベルを習得
した。
• 形成されたグループの能力開
発が不十分な状態でプログラ
ムが終了してしまうなど、プ
ログラムの実施期間が非常に
限られていた。
• 能力強化トレーニングや、プ
ログラムで提示した教材や貸
付の規則などにおいて、住民
にとって複雑すぎるものが多
かった。
• 基本的な読み書きや計算スキ
ルの向上は、貯蓄や投資とい
った活動を推進するうえで重
要な要素であるとわかった。
カンダハル帰還民社会復
帰・コミュニティー開発
支援計画
(JSPR: JICA Support
Programme for
Reintegration)
期間:2005 年 1 月~
2009 年 3 月
ドナー:JICA
対象地域:カンダハル州
地方開発支援プロジェク
ト
(Inter-communal Rural
Development Project:
IRDP)
期間:2005 年 12 月~
2009 年 3 月
ドナー:JICA
対象地域:バルフ州 2
郡、バーミヤン州 3 郡、
カンダハル州 2 郡
政府機関、CDC、パートナ
ーNGO の協働により、持続
可能な参加型のコミュニテ
ィー開発活動の運営に関わ
る開発従事者の能力開発を
通して、帰還民や貧困地域
住民の、社会復帰ならびに
コミュニティー開発を支援
する。
国家連帯プログラム
(NSP)により形成された
CDC を複数束ねた、住民主
導型クラスターCDC 地域開
発モデルを構築することに
よって、持続的かつ広域的
な開発効果を生みだし、地
域住民の生計向上や貧困削
減を促進し、ひいてはロー
カルガバナンス強化に貢献
する。
①コミュニティー開発従事者の能力開発:参
加型コミュニティー開発実施に必要な知識や
考え方を普及するため、開発従事者に研修を
提供する。
②コミュニティー開発の実施:開発従事者
が、研修での成果を活かし実際にコミュニテ
ィー開発プロジェクトを実施するのを支援す
る。
③関係者間の調整の促進:コミュニティー開
発に関する利害関係者の間での調整や効果的
な連携をはかる。
④CDC 強化システムの開発:プロジェクトの
経験に基づいて、地元資源の有効活用による
CDC の強化システムのモデルを開発し、関係
者と共有する。
①クラスターCDC の形成:サブプロジェクト
の計画立案・実施を通し、コミュニティー開
発事業実施のためのクラスターCDC を形成す
る。
②能力強化:サブプロジェクトの計画立案・
実施を通して、クラスターCDC の参加型事業
計画立案および実施を支援する。
③モニタリング評価:クラスターCDC の有効
性を検証し、教訓をとりまとめる。
• MRRD の職員、CDC メンバー、ローカルスタッ
フ、JSPR スタッフ、NGO スタッフなど、延べ
289 名が研修プログラムに参加した。
• 9 村でインフラタイプのサブプロジェクトが実
施され、90 名の住民に対するスキルトレーニン
グによる訓練を受けた。
• 定例会等を通じて日常的に関係者との調整、意
見交換を行っており、そのプロセスにはスタッ
フの参加を促進している。
• モデルの開発にむけて、関係者間で目的やプロ
セスについて共有するなど、基盤づくりが始ま
っている。
• 対象地域 3 州 7 郡において、19 のクラスター
CDC が設立され、29 の社会経済インフラ・社会
サービス改善のためのサブプロジェクトが計画
され、実施されている。
• 農村復興開発省(MRRD)と対象 3 州の農村復興
開発局(RRD)の職員を対象に、プロジェクト計
画立案、品質管理、スケジュール管理等の研修
を実施し、能力開発をはかっている。
• 「クラスターに基づく開発モデルに関するワー
クショップ」を実施し、モデルの骨子案が紹介
された。
• 複数の部族が村にいる場合
に、土地や水の問題で意見が
統一しないことがあり、ま
た、便益の配分に困難が伴う
ことがある。
• 治安上リモートコントロール
の下で人材育成、能力開発を
実施することは非常に難し
く、特にノンインフラタイプ
のプロジェクト実施には困難
が伴う。FP スタッフ及びプロ
ジェクトが雇用しているナシ
ョナルスタッフの能力強化を
プロジェクトの進行と同時に
進めることにより、現場レベ
ルにおいても成果を挙げつつ
ある。
• MRRD および RRD の能力強化が
いまだ不十分である。
• サブプロジェクト実施によっ
て地域の一体化を促進し、対
象地域の治安の改善につなが
るというインパクトがあった
一方で、治安状況はプロジェ
クトの実施に影響を与えてお
り、プロジェクトの自立発展
性において重要な問題であ
る。
• 支援の対象を、CDC レベルか、
CDC クラスターレベルかにする
かについては、支援の内容に
より、例えば家畜の配布は CDC
レベルが適切である。
• 家畜をリボルビング化して裨
益者を増やすことについて
は、CDC の能力開発を短期間で
達成できないという理由で、
考慮されていない。
4-2 マイクロファイナンス
4-2-1 マイクロファイナンスの概要
マイクロファイナンスは、貧困層や女性、社会的に疎外されている人々といった、商業銀行や
その他の金融機関へアクセスを通常持たない、あるいは顧客としてみなされない人々を対象に
した、小規模金融サービスのことである。マイクロファイナンスによって、貧困層へ融資や貯
蓄へのアクセスを開くことで、貧困層の脆弱性を軽減し、貧困からの脱却が実現されることが、
期待されている。具体的なマイクロファイナンスの役割は、一般的に以下のとおりである。
•
•
•
•
•
賃金労働者の、収入創出活動や零細自営業への参入の支援
既存の零細自営業の生産性や生産能力の向上
小口出し入れが可能な貯蓄制度など、資産蓄積が可能な環境や仕組みの提供
自然災害や経済変動等の予期せぬ影響への脆弱性の軽減
顧客の生活環境の向上、貧困や社会的疎外からの脱出
マイクロファイナンスは、バングラデッシュのグラミン銀行をはじめとして、世界各地で実施
されており、多くの団体では、女性をマイクロファイナンスの主な対象としている。経験的に、
女性への貸し付けは男性への貸し付けよりも家計に恩恵をもたらすことが多い。また女性が小
額貸付の管理を行い、家計に貢献することにより、家庭内での社会的な地位が向上するという
ことも実証されており、女性のエンパワーメントとしての役割も重要である。
4-2-2 Microfinance Investment Support Facility for Afghanistan (MISFA)
(1)
概要
長年の戦乱によりアフガニスタンの経済、金融システムは崩壊し、機能している信用組合やマ
イクロファイナンス組織は皆無に等しく、人々はインフォーマルな金融貸付システムに頼って
いた。親戚、知人間での貸し借りに加え、地方に住む貧しい人々の多くは、アヘンの取引ディ
ーラーに対する負債をかかえていた。このような状況をうけ、2003 年 6 月、Microfinance
Investment Support Facility for Afghanistan (MISFA)が、マイクロファイナンスサービス
の育成、貧困層がアクセス可能な金融セクターの発達を目的として、世銀(日本社会開発基金
を利用)、CIDA、DFID 及び USAID の支援をうけ、農村復興開発省(MRRD)主導のもと、18 ヶ月
のプロジェクトとして始まった。その後、2006 年 3 月に、MISFA はアフガニスタン投資支援組
織として登録され、財務省管轄下の独立組織となった。MISFA は、マイクロファイナンス組織
(Microfinance Institutions : MFI)を通して、マイクロファイナンスのサービスを顧客に提
供すると同時に、MFI の能力開発も重点的に行っている。
MISFA の直接的な対象者は MFI であり、MFI への支援において以下の 3 つを重点項目としている。
①持続性・自立発展性
5 年以内にドナーによる補助金を必要としなくなるマイクロファイナンス組織の設立を支援
する。
②アウトリーチ
マイクロファイナンスのサービスをアフガニスタン 34 州全てに拡大し、特に貧困層を対象
により広範な人々へ様々な商品やサービスを提供する。
③“アフガナイゼーション”
アフガニスタン人の管理運営によるアフガン組織のセクターを開発する。
(2)
仕組み
MISFA の主な資金源は、世界銀行の管理の下各国ドナーの支援によって運営されている
Afghanistan Reconstruction Trust Fund(ARTF)である。MISFA は、契約した MFI に対してロ
ーンとグラント (補助金) を提供する。ローンは、MFI が顧客に支給するマイクロクレジットと
して利用され、返却された資金は、さらにクレジットとしてまわされる。一方で、グラントは、
MFI スタッフの能力強化トレーニングや、MFI が地方にサービスを拡大する際の初期投資にあて
られる。MFI に支給されるグラントの額は、3 年目、4 年目にかけて徐々に削減され、MFI は 5
年以内に運営面において自立した組織として機能することが求められている。また、MISFA は
MFI に提供するサービスに対して料金を課すことで、自らの自立発展性をも目指している。MFI
へのローンとグラントの拠出額の推移は、下図 4-2 のとおりである。
図 4-2
MFIへの拠出額の推移 54
$60
$50
US$ (
$40
$30
$20
$10
$0
グラント
ローン
2003年
2004年
2005年
2006年
(2007年) (2008年)
$0.9
$0.9
$5.0
$3.9
$7.6
$12.0
$6.8
$12.1
$27.3
$50.7
$4.0
$63.0
出所:世界銀行 Expanding Microfinance Outreach and Improving Sustainability Technical Annex vol. 1
(3)
マイクロファイナンス組織(MFI)
MISFA は、マイクロファイナンス組織(MFI)と契約を結び、MFI がマイクロファイナンスのサ
ービスを顧客に提供する。一般に、MFI は、NGO、信用組合、政府系銀行、商業銀行、ノンバン
ク系金融機関などである。MISFA は、MFI 選定の際、提供するサービスや商品、対象地域や対象
者に関して特に規定を設けておらず、それは結果として、アフガニスタンのマイクロファイナ
ンスセクターの多様化につながっている。それぞれの MFI は、顧客のスクリーニング方法や基
準、提供するサービス内容などを決めることができる。一部の MFI は、融資や貯蓄サービスに
とどまらず、グループの組織化やトレーニング等の社会的仲介サービスを提供している。
表 4-2 のとおり、現在 MISFA は 15 の MFI と契約しており、そのうち 13 組織が NGO、1 組織が
銀行、1 組織が信用組合である。多くの NGO は国際 NGO であるが、4 組織(AFSG, MADRAC,
Parwaz, WWI)は、アフガニスタン人によって運営されており、Parwaz はアフガニスタンで最初
の、アフガニスタン人所有、女性主導のマイクロファイナンス組織である。アフガナイゼーシ
ョンの達成に向けて、MISFA は、より多くのアフガニスタン人をトレーニングし、事業のマネジ
メントを担当させることを推進している。
54
2007 年度、2008 年度の額は予定されている拠出額。
表 4-2
マイクロファイナンス組
織
Ariana Financial
Services Group
Afghanistan
Microfinance Initiative
The Afghanistan Rural
Microcredit Programme
Microfinance Program
of BRAC Afghanistan
Child Fund Afghanistan
FINCA - Afghanistan
The First Microfinance
Bank
Hope for Life
対象
州の
数
対象
郡の
数
Mercy Corps
2
28
CHF
3
8
AKH
12
56
BRAC
21
101
4
11
10
96
-
8
8
-
1
13
パートナー組織
Christian
Children’s Fund
FINCA
International
貸付開
始時期
2003 年
9月
2004 年
6月
2002 年
9月
2002 年
9月
2002 年
9月
2004 年
2月
MADRAC
DACAAR
6
12
2005 年
10 月
The Micro Finance
Agency for
Development
CARE
Afghanistan
1
15
2004 年
7月
OXUS - Afghanistan
ACTED
5
19
PARWAZ
-
2
15
SUNDUQ
MADERA
3
12
WOCCU
-
5
19
-
2
16
85
429
Microfinance Program
of WWI
合計
2005 年
5月
2003 年
3月
2004 年
6月
2004 年
7月
2005 年
6月
マイクロファイナンス組織の概要
現役の顧
客数
現役の借
手の数
累積貸付
件数
9,572
9,572
33,735
$8,410,400
9,572
$2,117,081
-
4,517
4,517
12,743
$6,436,800
4,517
$1,056,661
-
29,004
29,004
91,527
$69,797,498
29,004
$19,482,176
-
174,508
136,656
448,046
$99,583,116
136,656
$24,684,221
$5,689,774
17,785
17,785
38,640
$9,176,822
17,785
$3,106,009
$177,152
62,738
62,738
161,881
$536,945,325
62,738
$113,203,030
35,524
24,854
57,151
$94,137,943
24,854
$28,041,733
累積貸付額
発行中の
貸付件数
発行中の貸付総
額
貯蓄総額
$5,036,331
2,212
2,212
6,932
$1,978,149
2,212
$391,801
-
16,666
14,437
30,778
$6,490,150
14,437
$2,418,681
$114,204
13,743
7,444
20,340
$5,108,978
7,444
$1,755,334
$112,550
10,963
10,963
27,349
$6,705,959
10,963
$1,958,295
-
13,352
13,352
33,236
$552,276
13,352
$1,650,788
$79,699
12,005
11,500
26,423
$5,633,756
11,500
$1,816,782
$138,754
6,877
2,750
7,909
$4,492,070
2,750
$1,309,013
$251,496
13,368
13,368
33,576
$7,476,182
2,212
$1,506,562
442,834
361,152
1,030,266
$862,925,424
349,996
$204,498,167
$11,599,960
出所:MISFA
(4)
成果
MISFA は現在にいたるまで、以下のような成果を挙げている。
•
•
•
•
2008 年 2 月の時点で、合計 15 の組織がマイクロファイナンス組織として、23 の州、111 の郡
で、合計 261 の支局を通して、サービスを提供している。
顧客のアウトリーチにおいては、紛争の影響を受けた他諸国の同様のプログラムと比べても、
特に傑出している。マイクロファイナンス組織の現役顧客数は 361,000 名、ローンの総額は
$483 百万 USD である。また、累積返済率は約 90%である。
顧客のうち 173,852 名(顧客の 70%)は女性である。また、これまでにマイクロファイナンス
に関するトレーニングを 400 名の女性を対象に実施しており、マイクロファイナンス組織で働
くスタッフのうち、3 分の 2 は女性である。
2005 年 5 月に、アフガニスタンマイクロファイナンス連盟が設立された。
(5)
課題
アフガニスタンにおけるマイクロファイナンスはいまだ発展途上にあり、以下のような課題を今後
克服していく必要がある。
•
•
•
•
•
•
•
•
資金源において、MISFAの他国ドナーや国際機関の依存度並びに、マイクロファイナンス組
織のMISFAへの依存度がともに非常に高いことから、持続性に不安が残る 55。
顧客のアウトリーチ数においては、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、シエラレオネといった
国と比べて多いが、マイクロファイナンス組織の自立発展性には、これらの国々よりも時
間を要している。その理由としては、地方組織の能力やガバナンス能力が低いこと、治
安・インフラの整備の遅れ、他金融セクターの未発達などから、オペレーションコストが
高くつくことがあげられる 56。
マイクロファイナンスを必要としている人々は、3.5百万人にのぼると言われており、現在
のカバー率には未だ大きなギャップがある 57。
マイクロファイナンス組織の法的なステータスが未だ確立されていない 58。
イスラム教国であるゆえに、金融機関が利子を科すことが基本的に許されない土壌がある
(許される、許されないについては、個々のコミュニティーや個々人が判断している)。
MFIによっては、融資にかかる「手数料」の名目で運営費を課するなど、コミュニティーに
受け入れられるための工夫をしている。
顧客による確実な返済を促すため、現行のマイクロファイナンスは、融資直後から毎週返
済が必要とされるものが主となっている。この場合、資金の回転の早い小規模の商売や洋
裁などの手工芸などには有用であるが、農業といった中・長期的な返済期間を要するもの
とは資金の回収期間が合致せず、実質上利用ができない。
顧客の 70%は女性であるが、そこから言えるのはお金の取引が女性を介して行われている
ということのみで、実際にどれだけ女性がマイクロファイナンスによって恩恵を受けてい
るのかを見ることはできない。また、女性の収入創出活動や零細事業への参入を促すため
には、カーペットや手工芸といった女性の仕事として定着しているセクター以外のスキル
トレーニング、マーケティングや識字教育の提供、また、女性が様々なセクターで働くこ
とができる環境の構築も重要である59。
MFIが顧客を選定する際、コストをカバーできる利率を設定し、返済能力を重視するため、
マイクロファイナンスの顧客層は「貧者の中の貧者」というわけではない。マイクロファ
イナンスは自営業を支援するうえでは効果的だが、最貧困世帯の場合、働き手の確保すら
55
Mid-Term Review of the Microfinance Sector and MISFA in Afghanistan
4 と同じ
57
MISFA: Facing the challenge of Scaling up Microfinance in Afghanistan
58
6 と同じ
59
6 と同じ
56
61
困難であったり、字が読めないために情報を得られなかったりするため、サービスの枠か
ら除外されてしまっている。
4-2-3 マイクロファイナンスの実施形態
一般的にマイクロファイナンスサービスには、貯蓄と融資(クレジット)が含まれる。マイクロフ
ァイナンスが導入された当初は、その日暮らしが精いっぱいの貧困層には貯蓄は不可能と考えられ
ていたが、魅力的な金利やアクセスが便利な設備、小口の出し入れが可能な口座があれば、たとえ
貧しい世帯であっても貯蓄に意欲的であるとの認識が広まった。さらに、零細企業にとって貯蓄は
融資と同様に重要であり、また、外部資金に依存しない持続性を確保するという観点から、貯蓄制
度を組み込む機関が増えている。また、貯蓄や融資以外に、保険や送金といったその他のサービス
を提供しているMFIも存在する。
貯蓄には任意貯金と強制貯蓄の二種類があり、強制貯蓄はMFIの融資戦略の一部であることが多い。
強制貯金の制度では、融資を受ける場合定められた額の預金を必要とし、預金の引き出しには制限
が設けられる。
融資の実施形態やサービス内容は各 MFI によって様々であるが、通常初回の貸付額は少なく、返済
実績によって新たなローンやより大きな額のローンが申請できる。また、零細企業、自営業を行っ
ている人に対しては、大きな額を融資する MFI も存在する。これまでの MFI の実績をみると、貸付
金額は各顧客につき平均して 200USD で、貸付期間は 3 ヶ月以上 1 年未満である。
マイクロファイナンス組織が採用している最も一般的な貯蓄担保の代替として、グラミン銀行のシ
ステムを規範としたグループ連帯保証制度がある。通常、5-10 人からなる貯蓄信用グループ
(Saving and Credit Group)、連帯グループ(Solidarity Group)といったグループを形成し、グ
ループメンバー全員が相互の返済においての連帯責任を誓約する。またグループは、定期的に会議
を開き、グループ形成、家計管理、識字教育、ビジネス基礎等のトレーニングを受けることが義務
付けられていることが多く、ネットワーク構築や能力強化の手段としても活用される60。
また一般的に、経済的・社会的な必要性から組織される団体(農協、コミュニティー銀行、村落銀
行)などの形態を用いて、グループ全体または個人に対して資金が提供される手法もあるが、共同
体意識の低いアフガニスタンにおいてこれらが実際にどれだけ機能しているかについては、定かで
はない。また、MRRDのAREDPにおいては、CDCが村レベルにおけるマイクロファイナンスの運営主体
となることも検討されているが、そのためには集中的な能力開発に加えて透明性を確保するような
仕組みが必要となることから、実現に至るまでの道のりはいまだ遠いと言えよう。
4-2-4 コミュニティー開発との連携
マイクロファイナンスは、住民のグループ化、コミュニティーの組織化を支援し能力強化を行う
ことで、コミュニティー開発の一環として実施されている場合も多い。MISFAは、CDCを直接的な
サービス対象者とはしていないが、マイクロファイナンス組織が、コミュニティーでグループを
形成する際には、必ずCDCもしくは有力者の理解を得る必要がある61。また、マイクロファイナン
スを受けるために設立されたグループとCDCから派生したグループとが重複する場合もある。
LECP(表 4-1 参照)の経済エンパワーメントのコンポーネントは、既存のCDCの枠組みを基盤にし
たマイクロファイナンスの一例である。LECPでは、対象地域のCDCにおいて、20 人以下からなる貯
蓄投資自助グループ (男女別) の設立を支援し、それら自助グループを基礎として、コミュニティ
ー銀行を設立した。グループメンバーは、毎月定められた額をコミュニティー銀行に預金し、相互
60
ただし、こうしたグループ活動をコミュニティーに根づかせるためには、外部からの支援による相当な支援と時
間がかかることから、マイクロクレジット機関のみの努力で実際にどれだけこれらが実現しているかについては、
疑問なしとしない。
61
MFIが貸し倒れを防ぐために、村の有力者の「債務保証」をとりつけることを要求する場合もある(Microcredit,
Informal Credit and Rural Livelihoods: A Village Case Study in Kabul Province, AREU, 2007年11月による)。
62
信頼と協力をベースに、コミュニティー内での貸付へと進んでいることが期待されている。メンバ
ーはコミュニティー銀行への資金の提供者でもあり、かつ利用者でもあることから、貯蓄された資
金の帳簿管理のスキル、また資金の貸し出しのスキルの両者が必要とされる。こうしたスキルを蓄
積することにより、コミュニティー内の組織は、将来的にマイクロファイナンス組織やその他の銀
行から融資を受ける媒体となりうる。しかし、プログラム終了後も、グループ内でマイクロファイ
ナンスを続けていく上での課題は多く、コミュニティー住民の能力に見合った方法で、マネジメン
ト能力を強化する必要がある 62。
また、第 1 章 1.3.3 農村開発戦略 (4) AREDPの項でもふれたが、Hand in Handがバルフ州の 2 つの
郡を対象に実施しているパイロットプロジェクト、Mass Mobilization into Entrepreneurship
Projectでは、自助グループの能力強化と収入創出を支援しており、既に、52 の自助グループが形
成された。自助グループの形成にあたって、まずCDCの代表や地域の有力者に自助グループに関す
る説明を行って、地域住民にグループへの参加を呼びかけてもらい、その後グループを形成するた
めの会議を開いた。グループは、週に一度会議を開いて、各メンバーは毎週 25Afsを半年の間支払
い、集まったお金はグループ内部での貸し借りに使用される 63。グループメンバーは、貯蓄、ビジ
ネスの基礎知識、会計帳簿のつけ方などを学び、グループが 6 ヶ月間持続して活動を実施できた場
合、補助金へのアクセスが可能となる。今後の課題としては、こうして形成された自助グループを、
より規模の大きい収入創出事業に結びつけていくことである。
62
メンバーを対象にした本プロジェクト形成調査によるインタビュー調査で、LCEP が提供したトレーニングや、
マイクロファイナンスに関する規定文書は、メンバーにとって非常に難しく複雑であったという意見があがった。
またメンバーは、預金することで将来的に補助金をうけることが可能になるという高い期待を持っていたため、そ
れが実現されずグループ活動に対して意欲を失っていると報告されている。
63
本プロジェクト形成調査によるインタビュー調査によれば、夏の農繁期が近づくにつれ毎週の会議への参加を継
続することが次第に困難になること、また、貧困女性は、毎週 25Afs であってもそれを払い続けることが難しく、
グループから抜けるメンバーが少なからずいることが確認された。
63