「小さな冬みつけた」:通号

2013 年度 第 2 号(通巻 42 号)
キビシロタンポポ
2013 年 度
第2回調査
「 小 さ い 冬 み つ け た 」 調 査 報 告
季節というものは不思議なもので、忙しさにかまけてぼんやりとしていると、ある日
突然季節が変わったことに驚かされます。ですが、身の回りの何げない空気感や生きも
のたちの様子などをじっと見つめていると、ゆっくりと近づいてくる新しい季節の足音
を感じ取ることもできます。
今回の「小さい冬みつけた」調査を通して、私もみなさんと一緒に身近な冬の気配に
じっと耳をすませてきたつもりです。調査に参加してくれたみなさんも同じことを感じ
ていると思いますが、季節の気配に感覚をとぎすませていると、何でもない見なれた光
景の中にも素敵な再発見ができます。
今回の調査では、冬という季節に感覚をとぎすましたレポーターからのさまざまな小
さい冬がよせられました。設問への答えや送られてきた写真やイラストを見ると、やは
り冬=雪を挙げる方が多かったものの、生きもの関係や生活関係など、多種多様な場面
で冬を感じるという意見がよせられました。他のレポーターからのさまざまな冬を読ん
だり、見たりすると、きっと自分が意識していなかった冬の存在に気づかせられること
と思います。また、今回の調査であらためて感心したことは、滋賀の各地域で見られる
特徴的な冬の様子です。県北部在住の方からのレポートは多くないものの、北部と南部
での冬の景色やその印象が大きく異なっていることがはっきりとわかります。調査報告
を通して滋賀の風土の豊かな地域性を感じていただければと思います。
どんなことに冬の季節を感じるのかは、人それぞれ、地域それぞれです。今回、その
ような“それぞれ”を集めてみて、さまざまな人や地域を育む豊かな滋賀を実感するこ
とができました。今回の調査は、まさに「地域だれでも・どこでも博物館」の魅力を感
じることの出来るものだったと思います。これからも、フィールドレポーター調査をと
おして、さまざまな人・地域の面白さを発見し、博物館に報告していただきたいと思い
ます。この調査報告を読んでいただければ、きっと自分でも身近な季節の気配を探して
みたくなることでしょう。
学芸技師・林
-1-
竜馬
琵琶湖博物館フィールドレポーター
2013 年度第 2 回調査
「小さい冬みつけた」調査のまとめ
フィールドレポーター・スタッフ 前田雅子
この調査は身近な冬の様子に着目し、個人や地域ではごく普通の「小さい冬」にスポットライト
を当ててそれを発信してもらおうと計画しました。いつものフィールドレポーター調査とは少し異
なるスタイルに「今度の調査は難しいわぁ」という声も聞かれましたが、動植物、冬景色、冬の暮
らしなどの写真とともに、たくさんの報告を寄せていただきました。調査票には、降雪が人の意識
や生活に深く入り込んでいることや、冬の地域行事が街でも行われていることが記されていました。
調査に参加してくださった皆様、本当にありがとうございました。調査結果をご報告いたします。
1.調査の方法
この調査では、冬に対する意識や地域の行事等を問うアンケート(設問1~6)と、自然や暮ら
しの中にある“冬の光景”を探して写真に撮る自由調査(設問7)を行いました。冬の光景の写真
については1人で複数件の報告を可能としました。
調査期間は 2013 年 11 月中旬から 2014 年 2 月末でした。
2.調査件数と調査地点
31 人の方から 46 通の調査票が寄せられました。調査件数は、調査票の設問1~6のアンケー
ト部分については 31 件(31 人)
、設問 7 の冬の写真は 33 件(18 人)でした。
調査者は女性よりも男性がやや多く、年代別では 10 歳代が 1 人と 30 歳代~80 歳代までの幅
広い年代にわたりました(表1)
。調査者の居住地は、県北部(米原市、長浜市、高島市)が 6 人、
県南部の南湖周辺(大津市、草津市、守山市)が 21 人、湖東・甲賀地域が 3 人のほか、大阪府が
1 人ありました(表1)。大阪府以外の全調査地点を図1に示します。
表1 調査者の年代と居住地
年齢
10 歳代
20 歳代
30 歳代
40 歳代
50 歳代
60 歳代
70 歳代
80 歳代
未記入
合 計
男性
女性
0人 1人
0人 0人
2人 2人
1人 2人
4人 1人
4人 3人
5人 2人
3人 0人
0人 1人
19 人 12 人
居住地
人
大津市
11 人
数
草津市
5人
守山市
5人
甲賀市
1人
東近江市
2人
米原市
1人
長浜市
2人
高島市
3人
豊中市(大阪府)
1人
合 計
31 人
調査地点
撮影のみ
図1 全調査地点
-2-
3.冬のイメージは
―― やっぱり“雪” ――
“冬”で連想するもの・ことがらを 3 つ記入してもらったところ、31 人で 90 件の回答があり
ました。大まかに分類したものを図 2 に示します。最も多かったものは「雪」の 12 件でした。ま
た 31 人中の 21 人が、
「雪景色」
「雪かき」のように雪の文字が入ったことばを挙げていました。
そこでは、例えば「雪」を挙げた 12 人のうち県北部在住は 2 人、県北部以外は 10 人であったよ
うに、県北部以外の人も雪のつくことばを挙げたことが注目されます(図2)。雪が比較的少ない
県中部・南部の人にとっても、冬は雪のイメージが強いようです。
90 件のうち自然に関するものは 47 件、暮らしに関するものは 43 件ありました。自然関連は
雪、北風、結氷、日没などの「気象・天体とその風景」
(34 件)と、水鳥、冬枯れの木、冬眠など
の「生物とその風景」
(13 件)に分けられましたが、後者はあまり挙がりませんでした。これは植
物も動物も冬季に活動を低下させる種が多く、姿が見えにくいためかも知れません。
一方、暮らし関連では、具体的で多様なものが挙げられていました。その中で多かったものはこ
たつ(5 件)で、次いで正月、スキー、スタッドレスタイヤ(各 3 件)でした。「衣食住」「健康」
「遊び」「行事」に分けて示していますが、雪が暮らしに関連していること(雪かき、野菜の雪囲
い、スキーなど)と、冬は年中行事のウエイトが大きいことがうかがえました。
暮らし(行事) … 7 件
自然(気象・天体とその風景) … 34 件
正月 3、 クリスマス 2、
年末年始 1、 よし刈り 1(1)
雪 12(2)、 氷 2、 雪や氷 1、 氷・霜 1(1)、
時雨 1(1)、 霜柱 1、 寒い 2、 冷たい風 1、
北風 2、 寒波 1、 木枯らし 1、 早い日没 1、
オリオン座 1、 雪景色 2、 雪山 1、
比良山の雪 1、 雪をかぶった綿向山 1、
山の雪景色 1、 野洲川ダムの凍結 1
暮らし(遊び) … 5 件
スキー3(1)、 雪合戦 1、
わかさぎ釣り 1(1)
暮らし(健康) … 5 件
風邪 2、 しもやけ 1、
乾燥肌荒れ 1、
道路が滑って歩き難い 1
暮らし(衣食住) … 26 件
自然(生物とその風景) … 13 件
ヒートテック 1、 鍋物 2(1)、 みかん 1、
もち 1、 松葉カニ 1、 おでん 1、
大根干し 1、 こたつ 5(1)、 ストーブ 2(1)、
たき火 1、 暖房 1、 火の用心 1、
スタッドレスタイヤ 3(1)、 雪かき 1(1)、
寒さ対策 1、 野菜の雪囲いを作る 1(1)、
障子の桟洗い 1、
こも巻き 1(1)
魞影に水鳥が浮き始めた時 1(1)、 鴨 1、
野鳥の群舞 1、 氷魚が漁協に揚る時 1(1)、
冬眠 2、 意外と色々生物がいる 1、
山茶花の満開 1、 冬枯れの樹木と渡り鳥 1、
冬枯れの木 1、 落葉 1、 落ち葉の下 1 、
山がよく見える(樹木が葉を落とした状態)1
* 数字はそれを挙げた人数で、( )内はそこに含まれる県北部在住者の数。
図2 冬のイメージとして挙がった事項
-3-
4.冬の到来を感じるのは
――自然現象を見て冬を実感――
各人がイメージする冬に対して、どのような時にその到来を実感するかを記入してもらいました。
この設問の回答は 41 件ありました。
冬の到来を感じるものとして自然現象 32 件、暮らしの場面 9 件が挙げられていました(表 2)。
自然現象で多かったのは「雪」
「冠雪」
「霜」の各 4 件でした。冬のイメージの設問と同様に雪との
関連が比較的強く表れていましたが、
「吐く息が白い」「雷鳴」「早い日没」などの冬を感じる多様
な場面がさまざまに書かれていました。これに対して暮らしの場面を挙げた人は 9 人で少なく、冬
の到来は自然現象によって強く印象づけられているといえそうです。けれども、暮らしの場面とし
て挙げられた冬の実感は、「手袋がないと自転車に乗るのがつらい」など、個性的でしかも誰もが
納得できる事がらでした。また、冬支度をする際に冬を実感するというのは不思議なように思いま
すが、冬を予兆する寒さ等を感じた後に行う冬支度は、冬が間近に迫っていることを実感する行為
ということができます。
、触覚(7件)、
五感の何で冬の到来を感じているかを調査票の文章から区分すると、視覚(28件)
聴覚(2件)に分けられました(冬支度などの行為4件を除く)。臭覚と味覚はありませんでした。
以上のことから、冬の到来は自然現象を視覚でとらえた時に感じることが多いと言えるでしょう。
皮膚感覚として寒さを感じつつ、冬を連想する自然現象を見ることで実感するのではないでしょう
か。
表2 冬の到来を実感するものとして挙げられた事象
自然現象から感じる
降水
気温
霜
結氷
雷
天文
生物
・雪 (4 件)
・冠雪(4 件)
・時雨(2 件)
・息白(3 件)
・寒冷(3 件)
・霜柱(1 件
・霜 (4 件)
・結氷(1 件)
・雷鳴(1 件)
・日没(3 件)
・生物(3 件)
・落葉(3 件)
…「雪が降り始めた時」 「雪が積もる」 など
…「凩(こがらし)が止んだ後若狭と近江の境の山脈が白くなった時」 など
…「時雨の空(湖北時雨)」
…「吐く息が白く感じた時」 など
…「空気が冷たくなって、雪がちらほら降って、こおりが張ると」 など
…「5 ㎝を超える霜柱」
…「車の前面ガラスに霜がつくようになった頃」など
…「金魚池の氷」
…「この時期に地元で『雪おこし』と古老が呼んでいる寒冷前線通過の際の
雷鳴を聞いたとき」
…「日暮れが早く、午後 5 時にはまっ暗になってしまう時」 など
…「晩菊が枯れ、庭に花が咲かなくなった」 「冬鳥の飛来」 など
…「庭のシデコブシの葉が全て落ちた時」 「葉を落とした木々を見て」 など
暮らしの場面で感じる
生活の実感 (5 件)
冬支度
(3 件)
音と風景
(1 件)
…「朝おきるのがつらいとき」 「手袋がないと自転車に乗ることがつらい時」など
…「ストーブやこたつ、コートなどの冬物を出した時」 など
…「~木枯らしが大根を干した竹竿を鳴らしてモガリ笛となる(抜粋)」
-4-
5.冬に必ずすること
――まずは冬支度、次に雪対策と行事――
寒い冬に対峙し、その中で快適で楽しく過ごすために、私たちはどのようなことをしているので
しょうか。皆さんにご自身の“冬ならではの行動”を挙げてもらい、暮らしの中に入り込んでいる
“冬”を探しました。この設問では 47 件の回答がありました。冬に必ずする行動を「冬支度」
「行
事関連」「除雪」
「調理・食事」「諸行動」に区分したものを図3に示します。
全回答の半数近くを占める「冬支度」には、暖房器具の準備などの屋内作業(7 件)と、家周り
の屋外作業(15 件)がありました。屋内作業は主に女性が行い、屋外作業は主に男性が行うのが
特徴的でした(図3、冬支度の枠内において女性の回答には下線)。
冬の行動で件数が最も多かったのは「冬タイヤへの交換」(7 件)、次いで「雪かき」
(4 件)で
した。タイヤ交換を挙げた 7 人中 6 人は県中部と南部の人だったことから、冬支度として行うタ
イヤ交換作業は、滋賀県における冬の風物詩と言えるかもしれません。「雪かき」については、こ
れを挙げたのは県北部在住の人ばかりで、積雪の多い地域性が冬の行動に表れていました。
このほか、「諸行動」には興味深い内容が多くあり、冬の楽しみ方は様々にあることが書かれて
いました。編み物やスキーだけでなく、積雪測定や冬芽を眺めることも個人的な趣味の領域に含ま
れる楽しみでしょう。人は経験を重ねる中で、季節の変化に対応した行動を身につけていきます。
「特に無し」と記した人は、「例年通りで特に変わったことはしていない」という意味なのでしょ
う。
諸行動 … 9 件
・寝具に毛布を添える 1 ・防寒に雨戸を閉める 1
・編み物をする 1 ・積雪測定 1 ・氷の厚さ測定 1
・冬芽をながめる 1 ・子供のころはスキー1
・カレンダーの必要部数を知らせる 1 ・特に無し 1
調理・食事 … 3 件
・甘酒作り 1
・こたつでおなべを食べる 1
・魚揚場に氷魚を求めて、
氷魚の釜あげを作る 1(1)
除雪 … 5 件
・雪かき 4(4)
・屋根雪が垂れ下がると
庇が傷むので、道具を
使って下から垂れた雪
を落とす 1(1)
冬支度:屋内作業 … 7 件
・こたつを出す 3
・ストーブの整備・準備 2
・温風ヒーターを出す 1
・こたつや湯たんぽなどの準備 1
冬に必ず
すること
47 件
冬支度:屋外作業 … 15 件
・冬タイヤに交換 女 3 男 4(1)
・水道管の凍結防止 2(1)
・初冬に雪囲いをして家の近
くに野菜を確保する 1(1)
・鉢植えの植え替え 1
・ベランダの植物鉢の防寒 1
・植木鉢の屋内避難 1(1)
・果樹、花木の剪定 2
・竹刈 1
行事関連 … 8 件
・しめ飾り作り 1 ・裏白採り 1 ・餅つき・年越しそばを食べる 1
・正月行事 1 ・初もうで 1 ・暦に合わせて餅つき、節分 1
・寒の水をもらいに行く1
* 冬支度の枠内では女性の行動を下線で区別。
数字はそれを挙げた人数で、( )はそのうちの県北部在住者の数。
図3 暮らしに入り込んでいる冬ならではの行動
-5-
6.冬に地域で行われる行事
――多かったのは「どんど」――
冬はお正月や節分などの年中行事がありますが、レポーターの居住地で行われている地域の行事
について記入してもらいました。
冬に実施される地域行事の有無は「ある」が 16 人、
「特にな
い」が 15 人で半々に分かれました(図4)。ただし「特にない」
を選択した人の中に「行事があるかどうかを知らない」と付記
したものが 2 通ありました。そのため、実際にはこれよりも多
特にない
15 人
ある
16 人
くの地域で行事が行われている可能性があります。
地域別では、都市化が進む県南部で行事が少ないのではないか
と予想されましたが、大津市や草津市などの市街地でも地域行事
図4 冬に実施される地域行事
が行われており、地域による差は見られませんでした。
報告された行事の名称と内容を実施日の順に示します(表3)。行事名や内容は地区によって異
なりますが、12 月はクリスマスや歳末行事、1 月は正月および小正月そして年頭行事、2 月は
表3 報告された「地域の行事」
行 事 名
お火炊き
年末の夜回り
クリスマス
おおみそか
除夜のししまい
歳旦祭
年始会
山の神
山の神 *
初蛭子祭
獅子舞
左義長 *
実 施 日
12 月 10 日
12 月 20 日頃より毎日
12 月 24 日頃迄の土曜
12 月 31 日
12 月 31 日
1月1日
1月1日
1 月 2~3 日
1月7日
1 月上旬
1 月 11 日
1 月 13 日
どんど *
1 月 14 日
どんどや *
1 月 14 日夜
左義長 *
どんど *
初寄り
どんど焼 *
お祈祷さん
1 月第 2 日曜
1 月 15 日
1 月 15 日に近い日曜
1 月 19 日
1 月中旬の日曜
秋葉講初寄り
立木神社節分祭
節分祭
団子まき(涅槃会)
1 月 25 日
2月1日
2月3日
2月3日
2 月中旬
神事(おこない)
2 月 18 日
びわ湖一斉水鳥観察会
地域
守山市
大津市
東近江市
東近江市
東近江市
守山市
甲賀市
大津市
甲賀市
大津市
草津市
守山市
行 事 の 内 容 (要約)
神社で巫女が榊の枝を湯に浸して四方を清める。
防犯・防火の呼びかけ(自治会班長)。
金屋会館。子供のためにぜんざいをふるまう。
お札などをたき火の中に入れる。
野々宮神社。おやま道中。
集落にある神社で新年を迎える。
区民が公民館に集まり、新年の挨拶や祝い酒等。
(記載なし)
どんどの火でしめ飾りなどを森で燃やす。区民。
蛭子神社の祭礼。神官の詞と幣帛(へいはく)。
鏡開き。商店等に訪問して庭先で舞う。
中学生が各戸から正月飾りやお札を集め、竹で組
んだやぐらと一緒に燃やす。
高島市
書き初めが高く舞い上がると書道が上達し、正月
の餅をこの火で焼いて食べると1年健康と伝承。
高島市
正月飾りなどを焼く。この火で焼いた餅を食べると
夏負けしない。
守山市
正月飾りの納め(御神符等)。習字の上達を願う。
高島市
お神札やしめ縄等を家から持ち寄り神社で燃やす。
大津市
町内会ごとに当番の家に集まる新年儀礼。
大津市
(記載なし)
高島市
寺の住職が読経し、祈祷札を集落の出入り口に張
りつけて悪霊が入らないようにする行事。
大津市
講の当番の家で行なう新年儀礼。
草津市
世界湿地の日にあわせて水鳥観察をする。
草津市
節分行事。
東近江市 豆まき
高島市
寺で講和等の後、まかれた団子や長餅、みかんなど
を拾って持ち帰り、無病息災を願って食べる。
長浜市
神社の祭典。五穀豊穣等を祈る祈年祭。
*は小正月の火祭り行事
-6-
節分行事や涅槃会など、いわゆる年中行事と呼ばれるものが多くありました。このほかに講や神事
などもありました。ここでは詳しく示していませんが、地区住民が主催する行事(年末の夜回り、
クリスマス、初寄りなど)や、寺社との関わりが強い行事(除夜のししまい、お祈祷さん、初蛭子
祭、おこないなど)があることが、調査票の文中に記されていました。行事の主催者や住民の参加
形態が判れば、より興味深い結果を得られたと思います。
最も多かった行事は「どんど」「左義長」などと呼ばれる小正月の火祭りでした。これは7人に
よって報告され、県内各地で見られました(表 3、行事名の右に*で表示)。行事名は「どんど」2
件、
「どんど焼」1 件、
「どんどや」1 件、
「左義長」2 件、
「山の神」1 件といろいろですが、正月
飾りや書初めなどを焼くという内容は共通していました。実施日は 1 月 13~15 日を中心にして、
早いところでは 1 月 7 日、遅いところで 1 月 19 日と、地域によって多少の違いがありました。
また、この火で焼いたお餅などを食べると「風邪をひかない」
「1 年間健康で過ごせる」
「夏負けを
しない」と、効能の伝承が地域により多少異なる点が面白いと思いました。
「どんどや」
高島市マキノ町 2014.1.14
1 月 14 日の夜、正月に使った門松や
〆縄などを焼く。神主さんが白衣を着
てご神火で着火する。この火で焼いた
餅を食べると夏負けしないと言われ
る。書初めを燃やし高く揚がると筆が
上達すると言われて、今 も続いてい
る。
(K さん撮影)
「秋葉さんの初寄り」
大津市 2014.1.25
大字木戸の中に、火の神様の秋葉神社の講
があり、新年初寄りの当番がまわってきた。
夜8:00集合。ゆでた大豆、昆布、するめ、栗、
みかんをお供えして、御神酒を戴いて終るらし
い。男性の集まりなので、女性は出ない。村の
新年の行事です。
(O さん撮影)
図5 レポーターから寄せられた写真と記録文
(「
」は写真の表題、 撮影場所と撮影日、説明記録文)
-7-
7.初雪はいつ降った?
――ほとんどの所では 12 月末までに――
「この冬、あなたの地域で初めて雪が降ったのはいつですか」という設問は、皆さんを悩ませた
ようです。どの程度の雪を初雪とするかが曖昧ですし、四六時中空を見ているわけではないので、
確信をもって記録しにくかったと思います。調査方法に問題がありましたが、県内各地で初雪がい
つ頃見られるかを観察していただきました。
記録された初雪観察日を図 6 に示します。初雪が最も早かったのは東近江市の旧能登川町で 11
月 13 日でした。その後 12 月 10 日頃から 12 月 20 日過ぎにかけて県中部と県北部で、12 月
28 日には大津市南部でも初雪が観察されました。県全体でみると、2013 年度の初雪は県中部以
北で 12 月 20 日頃までに、県南部で 12 月末までに降ったようです。ただ、県中部の低地に位置
する旧能登川町で最初に初雪が観察されたことと、最も北の観察地であるマキノ町で 12 月 28 日
と遅かったことは、意外でした。マキノ町在住のレポーターは住まいが湖岸近くですので、地理的
条件(滋賀県の冬の気温は内陸よりも湖岸の方が高い)が関係しているかも知れません。
初雪が 2014 年 1 月以降だったという報告は、8 件ありました。甲賀市土山町で初雪が 1 月
19 日だったのは興味深く思われます。降雪範囲はその時の気圧配置とその結果生じる風向き・風
力に影響されるため、12 月中に
雪が降らなかった地域もあると
思います。けれども「年末に留
守をしたため、雪を見たのは 1
月になってから」と書かれた調
査票がありました。他の調査票
でも同様な状況があるかもしれ
12/28
ません。草津駅周辺で初雪の観
12/20
察が 12 月中旬から翌年の 2 月
4 日と大差があるのは、このよ
12/21
12/10
うな理由によるのでしょう。
12/21
12/10
なお、気象庁の観測データに
よると、県内に 4 地点ある積雪
12 月上旬
観測の初雪と積雪深は、
11/13
・柳ケ瀬:12 月 13 日(13 ㎝)
12/27
・米 原:同 21 日(2 ㎝)
・今 津:同 27 日(1 ㎝)
・彦 根:同
28 日(11 ㎝)
でした。
今回の調査では滋賀県の初雪
日が北から南へ、また内陸から
湖岸へ移る状況はみられません
でしたが、気象庁のデータには
表れない現地情報として、面白
12/28
12/13
守山市(5 人)
12 月中旬、
1/9、 1 月、
1 月、不明 、
1月
12/28
不明
大津市瀬田周辺
(4 人)
12/28、 12/28、
12 月、 1/19、
い結果ではないでしょうか。
草津駅周辺(5 人)
12 月中旬、
1/10、 2/4、
不明、 不明、
1/19
図6 県内各地の初雪観察日
-8-
8.調査票の自由記述より
調査票の自由記述欄には冬の自然の厳しさ、昔の冬の生活の様子、冬に見出す楽しみ等が書かれ
ていました。全件を載せることができませんので、スタッフが選んだものをいくつか紹介します。
【冬の思い出】
・子供の頃は実家(福知山)では良く雪が降り、通学も大変で父母が道路の雪かきをしてくれて
道を開けてくれた事などを思い出す。
―守山市
K さん―
・かつては、湖西のこのあたりでも積雪が多く、ひと冬に何度も大人の腰くらいまで積った屋根
雪を下ろした記憶があるが、近年は地球温暖化のためか根雪になることもなく、2、3日で解
けてしまう。(抜粋)
―高島市
H さん―
・休耕田で凧揚げ。母が読んでくれて姉妹で百人一首。羽子板つき。つらら落して遊んだ。雪の
中に温州みかんをうずめてこおらせて食べた。(抜粋)
―東近江市
S さん―
・故郷の厳しい北風・玄界灘の海風、通学時の寒さ。昔の冬の暖房は火鉢(お餅を焼いて食べた)、
煉炭(いつもお湯がシュンシュンと沸騰していた)、湯たんぽ。(抜粋)
―大津市
A さん―
【冬に困ること】
・何年か前に雪で駐車場から車が出られないでなかなか出勤できなかった。最近はこんな沢山の
雪は降らなくなりました。温暖化が進んでいる様です。
―東近江市
・寒さがこたえる(旧の民家で暖房きかない)
―大津市
N さん―
・朝寒いため、起きる時刻が遅くなってしまう。
―大津市
Y さん―
S さん―
・積雪時は、いつもより 2~3 時間早く起きて雪かき、そして早く出勤。雪国の暮しは大変です。
でも、外では何もできないため、こたつに入ってゆっくりくつろげます。
(抜粋)
―長浜市
T さん―
【冬の楽しみ】
・楽しみはお正月に親・兄弟が集う時
―大津市
H さん―
・実家の長崎に帰ってやる餅つきが子供も私も楽しみにしています。
―守山市
S さん―
・寒いからこそ、暖かい部屋に戻った時、こたつに入ったり、温かい飲み物を飲んだりすること
の楽しみが増えると思います。
―草津市
T さん―
・冬は比較的暖かい日を選んでバードウォッチングを楽しんでいます。木の葉が少なく見やすい
上にスズメバチやヤブ蚊がいないので野山でのバードウォッチングには快適なシーズンです。
―大津市
H さん―
【そのほか】
・子供たちが雪での遊びをしなくなった。雪だるまつくり、雪合戦。暖房の中へ入れないで親が
外で遊ばせなくなったのはなぜ?
―草津市
K さん―
・小さい頃(小中学生)は雪が降ってくるとそれを見るだけでワクワクしてなぜかうれしく感じた
けど、仕事をするようになって車に乗り出すとイヤなものに変わった。
-9-
―米原市
O さん―
9.わたしがみつけた「小さい冬」
自然や暮らしの中に“身近な冬のたたずまい”を見いだして写真に撮り、そこでの発見や感動な
どを書き添えてもらいました。
この「小さい冬」の写真は 33 件(鉛筆画 3 件を含む、以下写真)寄せられました(表 5)
。
その中には地域に特有のもの(
「秋葉さんの初寄り」
「野菜の雪囲い」など)や、一般には馴染みの
ない地衣類(「マッチ棒?」
)の写真もありましたが、多くは誰もが知っているものを題材として、
各人の観点で冬の光景が描写されていました。面白いことに、被写体には植物が多く取り上げられ、
南天、千両、柿、冬イチゴなど、赤色の目立つ写真が多くありました。前述の「冬のイメージ」で
は植物があまり挙がりませんでしたが、実際にカメラを向けるとなると、身近な植物でしかも色彩
の美しいものが撮影対象になったように思われます。また、雪が写っている写真は 33 件中 14 件
あり、他の設問に見られたように雪との関連が強く表れていました。
皆さんから寄せられた「小さい冬」の写真はどれも興味深いものでした。2014 年 5 月 24 日
開催のフィールドレポーター交流会ではすべての作品を展示して紹介しますが、ここでは紙面の関
係で6点を掲載します。なお、フィールドレポーター便りは白黒印刷のため、グレースケールで比
較的はっきりわかる写真を選びました。ご了承ください。
表5 「小さい冬」の写真の表題一覧
(動物)
(気象)
ハト
辛夷(こぶし)の枝に憩う鵯(ひよどり)
神社の雨樋にツララを見つけた
迫る雪雲
初冬のキトンボ
これは誰?
寒いニャー
初氷
清滝山の雪
(植物)
南天
パンジー
マッチ棒? 冬イチゴ
北風のしわざ
残り柿 薄雪に映る千両
名残のセンダンの実と雪の比良山
ヒメガマ
美味しそう(冬イチゴ)
ウバユリのふるさと
南天に雪
雪の中に見る春の気配
衣替えの前と後
メタセコイヤと雪
(暮らし)
雪囲い
鎮守の杜-冬のしつらいかまくらができたよ 遊びに来た雪だるま
秋葉さんの初寄
どんどや
お祈祷さん
野菜の雪囲い 冬下(ふゆした)の仕事
「辛夷(こぶし)の枝に憩う鵯(ひよどり)」
甲賀市 2014.1.17
鵯はウメモドキの赤い実を最初に食べ尽くし、次に柊の
実を食べ、そのあとに南天の実を食べてゆく。千両の実
は食べないで残っていることが多い。 (K さん撮影)
- 10 -
「ハ
ト」
長浜市 2013.12.30
首をすぼめて皆集まっている。
体を大きくふくらませて寒さに耐
えている。 南を向いている。
(T さん)
「寒いニャー」
長浜市 2014.1.11
一冬の間にお昼になっても、屋内で氷が
解けない日が何度かあります。この冬は、
12 月 28 日、1 月 11 日、1 月 19 日の 3 回
でした。
(T さん撮影)
「これは誰?」
守山市 2014.1.19
野洲川右岸(新庄町)の堤上に残っていた
小鳥の足跡。何かひきずったような歩き方に
興味をひかれた。
(T さん撮影)
「冬下(ふゆした)の仕事」
高島市 2014.1.15
毎年冬になると、秋に収穫した豆類を母がたきます。
練炭に火をおこし、一日かけて青大豆や小豆などを、
まとめてやわらかくたいて、冷凍しておきます。
画的にはバックが雪景色のほうがよかったかもしれま
せんが、実際には雪のないおだやかな日に家の軒下
でたいています。(抜粋)
(T さん撮影)
- 11 -
「遊びに来た雪だるま」
守山市 2014.1.19
大雪の時、小五の息子がつくりました。
口や胸のかざりは彼なりの力作らしいで
す。もっと大きな雪だるまをつくりたかっ
たようです。
(S さん撮影)
おわりに
“冬”を見つけるという今回の調査は意外に難しかったようです。それは、対象範囲が広すぎて
漠然としていたためと、皆さんがより冬らしいものを見つけようとしてくださったからだと思いま
す。
調査の結果は、冬は雪の印象が強く、自然現象を見て冬の到来を感じる人が多いという特徴があ
りました。また、比較的雪が少ない県南部の人にとっても、遠景としての雪景色が冬を感じさせる
ことが推察されました。暮らしにおいては、冬支度が欠かせない作業であり、冬季中は降雪に備え
た生活をおくりつつ、お正月などの年中行事やほっこりした時間を楽しんでおられる様子が浮かび
上がりました。さらに、寒い時期でも地域の行事が県内各地で行われ、伝統行事が継承されている
ことがわかりました。
これらの結果では、冬と雪の関連が随所に表れていました。ただ、冬で真っ先に雪を思い浮かべ
るのは、滋賀県という地域性があるように思われます。福岡県出身の人が冬のイメージとして「冷
たい北風」を挙げておられましたが、冬の姿は地方によって異なり、それに伴って冬のイメージも
また地方によって異なるのが自然でしょう。冬を象徴するものとしてフィールドレポーターは、寒
風や乾燥や寒冷などではなく、雪を一番に選びました。滋賀県では寒風や乾燥などはあまり問題と
ならず、降雪による暮らしへの影響が大きいことが表れたのでしょう。
予想される回答の中で意外に挙がらなかった事がらは、服装と食関連でした。コートやマフラー
を身につけた人を見ると冬を感じますし、寒くなるとおでんや白菜などがおいしくなります。衣食
を挙げる人が少なかった理由として、一つには生活の中での季節感が薄れてきたことが考えられま
す。このほか、フィールドレポーターは自然に対する意識が高い(「身の回りの生き物と環境につ
いて」2013)ため、服装や食に関する回答が後回しになったことも考えられます。
「小さい冬」の写真は、冬を象徴するようなショットだけでなく、秋の名残を感じさせるもの、
また春の気配を感じさせるものがありました。これらの写真にはフィールドレポーターらしい鋭く
詳細な観察が添えられており、そこに住む人だからこそ知っている冬の姿が写真に表れていたこと
に意義があります。この調査は各人の意識や記憶を呼び起こして回答し、さらに自由課題の下で自
ら目的を設定して被写体を探す活動でした。当たり前と思うものが実はその地域に特有のものだっ
たり、知っているようでも知らないことが多々あったりするのは、フィールドレポーター活動の醍
醐味でしょう。これから夏に向かいますが、「小さい夏」あるいは「大きな夏」を見つけて楽しん
でいただければと思います。
参考文献
・気象庁 HP 過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
・
「滋賀県の気象」彦根気象台(1993)
・
「身の回りの生き物と環境について」フィールドレポーター便り通巻 40 号(2013)
http://www.lbm.go.jp/fieldrep/report/2012_2nd_report.pdf
- 12 -
《 添付資料1 》
フィールドレポーター2013 年度第 2 回
「小さい冬みつけた」調査のご案内
ドングリの林でパラッパラッと実が落ちる音を聞くと、「秋だなあ」と思います。今は木々の彩が
美しい時期ですが、山から冬が駆け下りてくるのももう直ぐでしょう。
今回のフィールドレポーター調査は、「あなたが感じる冬・あなたが見つけた冬」がテーマです。
厳しい冬の生活はネガティブに捉えられがちですが、厳しいからこそ、人を含めて生き物は皆そ
れぞれに工夫を凝らしてたくましく生きています。寒い時期は屋内で過ごされることが多いでしょ
うが、外に出る際には自然や動植物のたたずまいに“冬”を感じてみてください。また、私達の暮
らしの中にある“冬”を見つけて、ご報告ください。
――「小さい冬」とは――
見ていただきたいのは、身近な冬のようすです。観光ポスターなどに載るような良く知られた冬
の姿ではなく、フィールドレポーターの視点で捉えたオリジナリティーのあるものを「小さい冬」と表
現しました。冬の始まりや、スケールの小さいものという意味でもありませんので、初冬から晩冬
までの期間に見られる全てのもの(自然・社会)が対象です。
――冬の写真 大募集――
小さい冬を見つけて写真に撮り(スケッチや絵も可)、そこでの発見や感動をお知らせください。
好きな冬景色、生き物のようす、生活にとけ込んでいる冬の光景を、皆さんの感性で自由に写し
撮っていただきたいと思います。
写真はプリントして調査票とともに送ってください。なお、寄せられた写真(絵)の展示を計画し
ていますので、可能であれば、写真データを電子メールに添付して、下記のフィールドレポーター
のアドレスへも送っていただきますようお願いいたします。
◇ 調査期間は 2014 年 2 月末までです。
◇ 表題の異なる写真を 2 枚以上送られるかたは、調査票を別にしてください。
その際は、2 枚目以降の調査票で設問1~6を記入する必要はありません。
◇ フィールドレポーターの電子メールアドレスは [email protected] です。
大容量のメールは受信できませんので、1 通が 3MB 以内になるようにお願いします。
なお、今回も博物館のホームページ http://www.lbm.go.jp から調査票(ワード版)をダウ
ンロード*することができますのでご利用ください。
*トップページで「活動紹介」を選択。次に「交流・サービス活動」の中の「フィールドレポーター」
をクリックすると(「フィールドレポーターのページを見る」がある時はそこへ入って)、少し下の方
に「1.アンケート型調査」があります。その中の「2013 年度 第 2 回調査」をクリックして、必要な
ファイルをダウンロードしてください。 http://www.lbm.go.jp/fieldrep/index.html#1 で開くと、
すぐに「1.アンケート型調査」にたどりつけます。
◇ 分からないことなどがありましたら下記にお問い合わせください。
琵琶湖博物館フィールドレポーター係 (担当学芸員 林竜馬)
TEL. 077-568-4811 FAX. 077-568-4850
- 13 -
《 添付資料2 》
フィールドレポーター 2013 年度 第 2 回調査
「 小
さ
い
冬
み
つ
け た 」 調査票
(
調査者
市・町)
(10 歳代 20 歳代 30 歳代 40 歳代 50 歳代 60 歳代 70 歳代 80 歳以上)
1.“冬”で連想するもの・ことがらを3つ挙げてください。
2.冬が来たなあと思うのはどんな時ですか?
3.あなたが冬に必ずする事がありますか?
4.この冬、あなたの地域で初めて雪が降ったのはいつですか?
(1) 降らなかった
(2)
月
日(または
月
頃)
(3) 分からない
5.あなたの地域で冬(12 月~2 月)に行なう行事がありますか?
(1) 特にない
(2) ある
行事名
行なわれる日
趣旨や内容など
①
②
6.冬の思い出、楽しみ、困ることなど、自由にお書きください。
7.生き物の冬の様子や好きな冬の景色・光景など、身近で見つけた「小さな冬」を写真に撮り、
調査票に添えて送ってください。(調査案内文を参照)
撮 影 日
写真の
表題
撮影場所
(あなたの発見や感動、また、撮影場所などの説明をお書き下さい)
- 14 -
年
月
日
市・町