点分布間の相互関係を分析する手法の提案と適用 貞広幸雄 Analysis of

点分布間の相互関係を分析する手法の提案と適用
貞広幸雄
Analysis of the relationship among point distributions
Yukio Sadahiro
Abstract: Points are the most fundamental spatial objects in GIS. They represent the distribution of
animals, plants, stations, and so forth. This paper proposes a new method of analyzing multiple
distributions of points with a focus on a discrete space. The method includes symbolic representations
that depict the local structure of the relation among point distributions in the spatial dimension. A tree
representation based on Hasse diagram is also proposed. The method is applied to the analysis of
school plans in Japan. The application reveals the properties of the method and quantitative measures
used in analysis.
Keywords: 点分布(point distribution),空間関係(spatial relation),階層性(hierarchy)
1. はじめに
これらはいずれも,点分布間の空間的近接性に着
点分布は,空間情報科学において都市施設や移動
目した分析手法である.しかしながら,空間関係と
体を表現する,最も基本的な空間分布の一つである.
はもっと多様であり,例えば空間的階層性や局所的
公共施設の配置計画や,商業施設の立地分析,人間
空間関係などは特に重要な概念である.そこで本論
の移動行動分析など,様々な場面で点分布が用いら
文では,空間的近接性に加え,空間的階層性を含む
れている.
空間的位相性,及び,その場所による変動を分析す
複数の点分布が与えられている場合,その相互関
る手法を提案する.ここでは特に,点の分布可能空
係はいくつかの手法で分析することができる.2 つ
間を通常の連続平面ではなく,平面上の所与の有限
の点分布間の関係は,相互 K 関数法(Ripley, 1981)
地点に限定して論ずる.
や最近隣分割表(Ceyhan, 2009),J-関数(Lieshout &
以下,2 節では具体的な手法の提案,3 節でその
Baddeley, 1999)などの統計的手法によって分析でき
適用についてそれぞれ述べる.4 節で結論をまとめ,
る.また,より多くの点分布の分析には,空間デー
今後の課題を述べる.
タマイニングなどの探索的データ分析手法も有効
である.
貞広幸雄 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻
Phone: 03-5841-6273
E-mail: [email protected]
2. 分析手法
2.1 点分布間の位相関係
いま,地域 S に存在する位置集合Λ={Qi, i∈[M]}
([M]={1, 2, ..., M})を考える.この集合上で定義さ
れる点分布群をΩ={Ωi, i∈[N]}とし,それぞれを点の
位置{Qi1, Qi2, …, Qimi}によって記述する.
の地点から成る核よりも優先する.第 2 に,互いに
2 つの点分布ΩiとΩjが同一の地点群に分布する点
近距離にある地点で構成される核を,遠く離れた地
集合で構成されているとき,ΩiとΩjは等価であると
点同士を含む核よりも優先する.第 3 に,地点群が
いう.また,ΩiとΩjが等価ではなく,一方が他方の
核であるか否かという情報を与えることにより,分
持つ全ての点を含む場合,ΩiとΩjは包含的であると
析者が受け取る情報量(エントロピーにより評価)
いう.ΩiとΩjが共通要素を持たないとき,これらは
を大きなものを優先する.なおこれらの方針は独立
排他的であるという.ΩiとΩjが共通要素を持ち,等
ではなく,全てを同時に満たすことは現実的には不
価及び内包的のいずれでもない場合,ΩiとΩjは重複
可能である.従って適用の際には,分析の目的に応
的であるという.
じてこれらの方針内及び方針間の優先順位を改め
どの点分布対の関係も,上記 4 つのうちいずれか
1 つに属する.さらに,立地可能点集合Λを考慮し,
て決定し,それによって可視化の手順を定める(詳
細は Sadahiro, 2009 参照).
ΩiとΩjの和集合がΛであるときにΩiとΩjは完覆,Λ
ではないときに不覆と呼ぶ.これら 2 つの関係は,
2.3 点分布間相互関係のグラフ表現
前記 4 つと相互独立であり,点分布対について
次に,グラフ表現を用いて点分布間の相互関係を
4*2=8 通りの関係が定められることになる.この中
記述する.地点集合の冪集合 2Λ={Ψ1, Ψ2, ..., ΨP}に
で特に,完覆かつ排他的な点分布対を補完的と呼ぶ.
ついて,代数的構造(Ψ, ∩, ∪)は最大元Λ,最小元∅
の束を成すことから,ハッセ図を用いて可視化する
2.2 点分布間相互関係の空間表現
ことができる.ハッセ図において縦軸に各集合Ψi
同様の議論を,3 つ以上の点分布,及び,地点群
の要素数n(Ψi)をとれば,分布間の類似性の高低を図
についても展開することができる.ある地点群にお
的に表現することができる.いま,点分布Ψi とΨj
いて,全ての点分布が少なくとも一点を持つ場合,
の間の個数距離及び包含距離をそれぞれ以下のよ
それらを完覆と呼ぶ.完覆な地点群において,全て
うに定義する.
の点分布が一点のみを持つ場合,それらを補完的と
呼ぶ.
完覆なK個の地点群のうち,完覆な部分集合を含
まないものをK-核と呼ぶ.例えば,ある地点対のう
ちいずれか一方が全ての点分布に含まれており,か
dS (Ψi , Ψ j ) = n (Ψi ) − n (Ψ j )
(
= min ( n ( Ψ ) , n ( Ψ ) ) − n ( Ψ
(1)
d I ( Ψ i , Ψ j ) = n ( Ψ j ∪ Ψ j ) − max n ( Ψ i ) , n ( Ψ j )
i
j
j
)
∩Ψj)
(2)
つ,いずれの地点もΩの積集合に属していない場合,
前者は二つの分布に含まれる点の個数の差であり,
この地点対を2-核と呼ぶ.全点分布の積集合の要素
後者は分布に含まれる点の構成の差を表す指標で
は1-核とする.K-核はさらに排他的なKC-核と重複
ある(図- 1).包含的な二つの分布では包含距離が 0
的なKO-核の二つに分類できる.
となるため,分布が一つのリンクによって結ばれる
K-核は互いに重複する場合が多く,それら全てを
ことになる.同数の点で構成される二つの分布では
図化すると判読は極めて困難になる.この問題を避
個数距離が 0 であり,この図は左右対称となる.ま
けるために,ここでは以下の 3 つの方針を提案する.
た,排他的な分布ではn(Ψi∩Ψj)=0,完覆な分布では
第 1 に,少数の地点から構成される核を,より多く
n(Ψi∪Ψj)=Νである.
木の構築を所与のクラスター数が得られた時点
n(Ψ)
で停止すると,その結果から点分布群を分類するこ
とができる.その結果をデンドログラムにより可視
Ψ1»Ψ2={Q1, Q2, Q3, Q4, Q5, Q6}
n(Ψ1»Ψ2)
化すれば,点分布群のクラスター分析も可能である.
dI(Ψ1, Ψ2)
Ψ1={Q1, Q2, Q3, Q4}
2.4 手法の拡張例:点分布の平滑化
n(Ψ1)
dS(Ψ1, Ψ2)
Ψ2={Q1, Q5, Q6}
以上提案した手法は,点分布集合の積集合という
概念に大きく依拠しており,それが空集合になると
n(Ψ2)
必ずしも有効ではないという問題点がある.これに
dI(Ψ1, Ψ2)
対応するために,平滑化関数
Ψ1…Ψ2={Q1}
s ( Ωi , Q j ) =
n(Ψ1…Ψ2)
∑ a (Q , Q )σ ( Ω , Q ) ,
∑ a (Q , Q )
j
k
i
k
k
j
(3)
k
k
図- 1 点分布間の関係(Ψ1={Q1, Q2, Q3, Q4}, Ψ2={Q1,
Q5, Q6}の場合)
を用いて(a(Qj, Qk)は 2 点 Qi,Qj の間の近接性を表
す),各地点 Qi における点の有無を 0~1 の間の実
数値として表現する.s(Ωi, Qj)が大きな場合,点分
多数の点分布を含むハッセ図は複雑過ぎて図化
布Ωi において Qj の周囲に点が多く集まっているこ
に適さない.そこでここでは,骨格となる相互関係
とを表す.なおこの場合,点分布Ωi と積集合はそれ
のみを抽出する方法を提案する.積結合木とは,Ω
ぞれ以下のように再定義される.
{
}.
S ( Ω i ) = s ( Ωi , Q j ) , j ∈ 
の中で最も類似している分布対を選び(Ωi,Ωjとす
る),ΩからΩi とΩj を除外,代わりにその積集合
Ωi∩ΩjをΩに加えるという操作を,n(Ω)=1あるいは
{ (
)
(4)
}
I S ( S ( Ω ) ) = min s ( Ω i , Q j ) , j ∈ 
i∈
…Ω=∅となるまで繰り返す過程を図的に表現した
(5)
ものである(図- 2).
n(Ω)
Ω1={Q1, Q2, Q3, Q4}
4
3. 適用例
Ω2={Q1, Q2, Q4, Q5}
前節で提案した手法を,本節では A 市 B 区にお
ける小学校統廃合案の分析に適用する.B 区では,
3
Ω1…Ω2={Q1, Q2, Q4}
Ω3={Q2, Q3, Q5}
小学校までの最大通学距離と小学校の最大生徒数
を制約条件,小学校数を目的関数として最小化する
と,学校数を現在の 20 から 15 に削減することがで
2
きる.これを実現する多数の配置案のうち,生徒の
1
Ω1…Ω2…Ω2={Q2}
平均通学距離の短いものから順に 100 を抽出して
分析を行う(詳細は Sadahiro, 2009 参照).
図- 3は,B区における計画案を 9 つに分類した結
0
図- 2 積結合木の例
果(図中のa, ..., i)と,それらをさらに集約する過
程を示す.Dmax=1(平滑化の際に用いるパラメータ)
図- 4 9 分類された計画案集合の核の分布(Dmax=1 で
とする平滑化により,比較的均等かつ有用な分類が
平滑化した場合.np は各分類に含まれる計画案数).
行われていることがわかる.
黒点は 1-核,実線で囲まれた点は 2C-核及び 3C-核,点
線で囲まれた点は 2O-核及び 3O-核をそれぞれ表す.
0.80
0.50
4. おわりに
0.30
d(Yi, Yj)
0.20
本論文では,複数の点分布間の相互関係を分析す
0.10
る手法を提案した.点分布対の関係を基礎とし,K-
0.05
核や積結合木などによる表現手法を開発,小学校配
0.01
a b c d e f g h i
a b c d e f g h i
a b c d e f g h i
(a)
(b) Dmax=1
(c) Dmax=2
図- 3 計画案の分類.d(Ψi, Ψj)は結合距離,a, ..., i は
計画案を 9 分類した場合の集合を表す.
図- 4は 9 分類された計画案集合のK-核の分布を
表す.1-核は,各集合に含まれる全ての計画案にお
いて存続する小学校,2C-核及び 3C-核は全ての計画
案においていずれか一つが存続する小学校群,2O核及び 3O-核は,全ての計画案において少なくとも
一つが存続する小学校群をそれぞれ表す.従って例
えば,最も多くの計画案が含まれる分類について,
1-核の小学校を全て,2C-核及び 3C-核の小学校から
置案の分析に適用して手法の有効性を確認した.
積結合木の構築方法,K-核の選択方法については,
今後さらに理論と実証の両面からの検討が必要で
ある.特に前者については,クラスター分析との類
似性という視点からの評価が不可欠である.また後
者については,空間的最適化問題としての定式化の
可能性も検討する必要がある.いずれも今後の研究
課題としたい.
参考文献
Ceyhan, E., 2009. Overall and Pairwise Segregation
Tests Based on Nearest-Neighbor Contingency
は各一校ずつ,2O-核及び 3O-核の小学校からはそれ
Tables. Computational Statistics and Data Analysis,
ぞれ少なくとも一校を存続させるものとし,その他
53, 2786-2808.
の小学校については空間的最適化という枠組みを
Lieshout, M. N. M. van. and Baddeley, A. J., 1999.
越えた広範な議論を改めて実施する,といった将来
Indices
of
Dependence
Between
Types
in
計画の議論が可能である.
Multivariate Point Patterns. Scandinavian Journal of
Statistics, 26, 511-532.
Ripley, R. D., 1981. Spatial Statistics. New York: John
Wiley.
Sadahiro, Y., 2009. Analysis of the relation among point
(a) np=24
(c) np=13
(g) np=13
distributions on a discrete space,Discussion Paper,
No.
98,
Department
University of Tokyo.
(e) np=11
(i) np=11
of
Urban
Engineering,