5. 医療保険 5.1. 保険のメカニズム 病気になると医療費必要→誰にでもあるこの類の 不安を和らげるのが医療保険の役割である ●保険のメカニズム 100人いる.どの人も同質的.各人が病気に罹る 確率は10%.病気になると10万円の医療費必要. ↓ 事前に各自1万円ずつ出し合い集めた100万円に より,100人中10人の病気に備えることが可能.こ れこそまさに「保険のメカニズム」 1 ●図1は人々の効用が所得水準に依存するものとして, 効用関数を描いたもの.横軸は「所得」,縦軸は「効用水 準」である.所得の限界効用は逓減している. ●この効用関数の下で,加入の場合と未加入の場合の期 待効用を比較する.保険加入の場合に所得は確実に19 万円で期待効用はu(19).未加入の場合の期待効用は, 0.9×u(20)+0.1×u(10).この期待効用値をu*とすると, 図よりu*<u(19).このケースでは,人々は所得が不確実 に変動するリスクよりも所得が確実な方を選択. ●ここで重要な仮定は,所得の限界効用が逓減するとい う性質である.この仮定は,人々がリスクに対して危険回 避的な態度をもっていることを意味している.このようなと き,保険加入は魅力的なわけである. 4 保険加入者多数→実際に病気に罹る人の割合は 各人の罹病率に近づく.多数だと事前予測可能. 「大数の法則」.保険はリスク分散であり,各人のリ スクを小さくする役割. 5.2. 完全情報のもとでの保険 5.2.1. 完全情報下の最適保険 「健康」か「病気」かというリスクに直面しているとし よう. なぜ1万円払い加入するか? 不確実性が存在す るとき,多くの人は危険を回避しようとする.期待 効用を考えることになる.所得より効用重要. 人々は確率pで病気に罹り,所得はYとする.医療 サービス消費量はMであり,医療サービス供給の 限界費用をcとする.ただし,cは供給量にかかわら ず一定(限界費用一定).医療サービスの価格が 限界費用cに等しいとすると,治療費はcMとなる. ⇒次頁の図1参照 2 5 ●保険加入すると,健康時所得y1,病気時所得y2.保険 加入にあたり,事前に保険料を支払うため,健康のままな ら所得はy1=Y−保険料.病気になると,治療費cMがか かる一方,保険金が支給されるので,所得はy2=y1−cM +保険金となる. u(y) u(19) u* ●換言すると,人々は事前にY−y1を払い込むと,病気時 に保険金としてy2−y1+cMが給付されることを約束され たことになる.「大数の法則」より,保険金の総支払額は, 保険加入者1人あたりp(y2−y1+cM).したがって,保険 料で保険給付額を賄う条件は,Y−y1=p(y2−y1+cM). 変形すると,Y−pcM=(1−p)y1+py2 ⇒ (1)式. O ●病気時に消費される医療サービスをM*として,この式を 満たすような(y1, y2)の組み合わせを図示したのが図2(a) の直線Eである. y 10 19 20 図 1 なぜ保険に加入するのか? 3 6 1 いま健康と病気それぞれの場合の効用をu(y1),v(y2, M) とすると,罹病率pが与えられると,期待効用は, y2 (a) (b) (Y−pcM*)/p [Y−(1−p)y1*]/p (1−p)u(y1)+pv(y2, M) E線 y2* α ここで,Mを一定値M*としたときの無差別曲線を描いたの が図2(a)である. β U U,U’はいずれも無差別曲線で,左上ほど高い期待効用. α’ V Y−cM* U’ V’ F線 M y1 Y y1* O M* 図 2 最適医療保険 ●傾きの意味を考える.健康時の所得y1を1円減らすと, 期待効用は(1−p)×(健康時の所得の限界効用)だけ低 下.一方,病気時の所得y2を1円増やすと,期待効用は p×(病気時の所得の限界効用)だけ高まる. 7 10 このことより,y1を1円減らしたときに同じ期待効用 を維持するのに, (1)式は, y2=[−(1−p)/p×y1]+[(Y−pcM)/p] と書き換えられるから,直線Eの傾きは(1−p)/pで ある.(1−p)/pは,健康時の所得を1円犠牲にして, 病気時の所得をどれだけ増やせるかを表しており, 両者の「交換比率」あるいは「相対価格」を意味して いる. だけy2を増加させればよい. ●健康時の効用は所得のみに依存するが,病気 時の効用は所得だけでなく,医療サービス消費量 にも依存.医療サービスの連続的増加が効用を連 続的に高めると仮定. 上の関係は,健康時の所得の病気時の所得に対 する限界代替率.所得の限界効用が逓減するから, MRSはy1が大きくy2が小さくなるほど低下.だから 各無差別曲線は原点に対して凸. 8 ●図2(b)では,縦軸に病気時の所得y2,横軸に医療サー ビスの消費量Mをとって,病気時の効用を無差別曲線で 記述. ●右上ほど効用高い(VやV’).無差別曲線の傾きは,医 療サービスの所得に対する限界代替率である.復習にな るが,この場合のMRSは,医療を1単位減らしたときに補 わなければならない所得額,つまり「所得で測った医療 サービスの価値」を表す. MRS =医療サービスの限界効用 / 病気時の所得の限界効用 ●MRSは医療の消費量が多いほど逓減すると仮定⇒無 差別曲線は原点に対して凸 9 (1−p)×(健康時の所得の限界効用) p×(病気時の所得の限界効用) 11 最適保険の導出 ここでの目標は,人々から集めた保険 料を無駄なく使い,期待効用を最大にする問題を解くこと である.まず,医療サービス量がすでに適切な水準M*に あるとしよう. ●図2(a)では,点αが健康時と病気時の所得の最適な組 み合わせとなる.保険のカバーが全くない点α’での無差 別曲線U’の傾きは直線Eより緩やかである.無差別曲線U が直線Eと接する点αが,調整が行き着いた点である. ●この点は,保険料で保険金を賄うという条件下で,期待 効用が最大になる点である.無差別曲線のスロープが(1 −p)×(「健康」時の所得の限界効用)/ p×(「病気」時の所 得の限界効用)で表されることを考慮すると,点αでは, 12 2 「健康」時所得の限界効用 =「病気」時所得の限界効用 (☆) が成立する(これが成り立てば,→(1−p)/pとなり傾きに一 致).このとき所得水準はそれぞれy1*,y2*という最適水準 に確定する.所得の限界効用が健康か病気かに依存しな いとすれば,どの状態についても同じY−pcM*が保証さ れることになる(Y−pcM=(1−p)y1+py2). ●次に健康時所得y1*が所与としよう.この条件下で,病 気時所得と医療サービス消費量をどのように決定するか 考えよう.以前の式より,病気時に割り振られる{Y−(1− p)y1*}/pの予算のうち,どれだけ医療サービスにまわせる かは, 13 {Y−(1−p)y1*}/p=cM+y2 と表せる.この条件は図2(b)の直線Fで描かれる.傾きは 医療サービスの限界費用cである.すると,病気時の効用 が最も高くなるのは,病気時の無差別曲線がこの直線と 接する点βにおいてである.ここでは, 医療サービスの限界効用/「病気」時の所得の限界効用 =医療サービスの限界費用 (☆☆) が成立する.このようにして求めた医療サービスの消費量 が当初のM*と一致し,病気時の所得がy2*と一致するとき, 問題は整合的に「解かれた」ことになる.すなわち,(☆), (☆☆)が同時に満たされるとき,医療サービスの適切な供 給を含む最適保険が達成される. 14 3
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