伝送数学 伝送数学

やり直しのための
伝送数学
三谷 政昭
連載第 9 回の今回は,アナログ情報から‘0’と‘1’のディジタル情報に符号化した値を信号波形にのせるディジタル変復調処理とし
て,パルス符号変調(PCM)を取り上げる.特に,位相を変える PSK 変調はディジタル通信を支える屋台骨に位置付けられるものなの
で,しっかりと理解してもらいたい.
第9回
(編集部)
ディジタル通信の主役 PSK 変調の基礎
前回(2010 年 4 月号,pp.160-170)は,電気通信の基礎
携帯電話や地上デジタル・テレビ放送などの基幹技術と
を成す「情報を効率良く信号波形にのせるための変調」処
し て 利 用 さ れ る パ ル ス 符 号 変 調( PCM, Pulse Code
理の代表格,振幅変調(AM),角度変調(FM,PM)の数
Modulation)がある.これは,音声や画像などのアナログ
式表現とその物理的な意味について解説した.
情報を,‘0’と‘1’で表す 2 進符号であるディジタル信号
今回からは,ディジタル通信伝送におけるコア技術とし
にして送受信する方法である.
ディジタル変調においては, B (t ) cos {2π f (t ) t + ϕ (t )} で
ての変復調処理について説明する.
まずは,
「ディジタル情報‘0’と‘1’を信号波形にのせる」
記述する変調信号(PCM 波)を,ディジタル情報‘0’と‘1’
ためのパルス符号変調のうち,現在のディジタル通信で広
のパルスにより,振幅 B(t),瞬時周波数 f (t)および位相 ϕ (t)
く利用される PSK 変調について,基本的な考え方の理解
を変化させて情報を伝送する.
を深めてもらうことを念頭に,わかりやすく具体的に解説
つまり PCM 波は,ある短い時間の範囲内では情報を表
する.
す信号パラメータ(振幅,周波数,位相)が同じ値を有す
る信号となる.図 9.1 に示す PCM 波は上から順に,
① AM 方式で振幅
1.パルス符号変調は
ディジタル通信の主役なり
② FM(周波数変調)方式で周波数
③ PM(位相変調)方式で位相
④ AM と PM 同時方式で振幅と位相
ディジタル通信を基礎になす広汎な応用分野,たとえば
搬送波
出力
変調
①振幅
時間
[
t 秒]
ASK
t
②周波数
c Hz]
周波数f[
t
FSK
③位相
ディジタル信号
‘1’
‘0’
TS
シンボル間隔T[
S 秒]
図 9.1 ディジタル変調方式の種類と信号波形
May 2010
‘1’
‘0’
TS
t
PSK
TS
t
TS
④振幅と位相
t
APSK
TS
TS
TS
KEYWORD ―― パルス符号変調,ASK,FSK,PSK,APSK,正規直交性,基底ベクトル,直交性,正規性
TS
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