建物解体現場の死亡事故続発 業者、コスト優先で穴

建物解体現場の死亡事故続発 業者、コスト優先で穴
2010/12/6 0:49 日本経済新聞 電子版
老朽化した建物の解体工事中の事故が後を絶たない。10月には岐阜市の女子高校生(17)が倒壊し
た建物の外壁の下敷きになって死亡した。解体工事の安全対策をめぐっては、国土交通省が定めたガ
イドラインがあるが、現場ではコスト削減が優先され、徹底されていない。高度経済成長期の建物が建
て替え期を迎える中、専門家からは法整備の必要性を指摘する声が上がっている。
「自転車で通りかかった女の子の真上に壁が倒れてきた」。10月に発生した岐阜市の死亡事故の瞬
間を目撃したタクシー運転手は振り返る。金属加工会社の工場の解体作業中、高さ約11メートル、幅
約18メートルの壁が現場前の道路に向かって倒壊した。
岐阜県警によると、工事を請け負った同市の解体業者は、壁が道路側に倒れないようにする固定ワ
イヤを張らずに作業していたとされる。労働安全衛生法で配置が義務付けられている「作業主任者」も
いなかったという。県警は安全管理に問題があった可能性があるとして、業者を業務上過失致死容疑
で調べている。
全国解体工事業団体連合会(全解工連、東京・中央)によると、2008年の解体現場での死亡事故は
前年比11件増の42件。建設業全体の死亡事故は直近ピークの04年(594件)から08年までに3割近く
減ったが、解体絡みは逆に2割強増えた。一般市民が巻き添えになる惨事も後を絶たず、静岡県富士
市では03年に解体中のビルの外壁が崩落し、通行人ら4人が死亡、2人が負傷した。
国土交通省は富士市の事故を受け、解体工事の事故防止対策のガイドラインを策定。事故防止に配
慮した工事計画の作成のほか、周囲に被害を及ぼす可能性がある場合は安定性を保つ工法を選択す
ることなどを業者に求めた。だが、強制力はなく、対応は業者任せになっているのが実情だ。
全解工連は岐阜市の事故を受け、加盟する約1500社の会員企業にガイドラインの順守を通知した
が、業者は全国で数十万社に上る。建設業法には「解体工事業」という分類はなく、建築工事業やと
び・土工工事業などの認可があれば参入できるため、技術的に未熟な業者もいるとされる。
最近は公共工事の縮小や景気低迷で解体コストの削減圧力が強まり、「手抜き工事で利益を出そう
とする悪質な業者もいる」(全解工連)。
建設産業システム研究所(東京・新宿)の中村秀樹コンサルティング研究部長は「解体は壊すだけ、と
軽く見られがちなところに事故の芽がある。作業や安全管理を怠らないよう法規制も含めて検討すべき
だ」と指摘している。
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