編集後記 - 特定非営利活動法人(NPO法人)アジア・アフリカ研究所 The

編集後記
「風化」という言葉は、もともと物理的・科学的作用による長期的な自然現象という意味合いが
強く感じられる。もちろん「戦争体験が風化する」のように比喩的にも使われる。最近、この「風
化」が意識的・意図的に、それも急速に作り出されているのが気になる。
「忘れっぽい日本人」と
いう言葉も同じ脈絡で考えられる。政治学的・社会学的に考えれば、
「風化」の創出は対抗するイ
デオロギーの側面を持っている。別の言葉でいえば、上からの「同意の調達・創出」とも結び合う。
2011年3月11日に発生した福島原発事故は、エネルギー問題を超えた人類の生存にもかかわる課
題をわれわれに突きつけた。しかし、福島原発事故の被災者と生活基盤の再建は取り残され、コス
ト優先の論調とともに「風化」の世論が意識的につくられている。
中野論文が主張するように、福島原発事故後の原発問題は人類に共通した現代的問題であること
を明らかにした。本論文は、中国の「原発大国」への道と中国の原発産業の現状を、とりわけ、中
国の原発輸出の展開と問題を分析している。
中国では急激な経済発展の影で多くの問題群が浮き彫りになってきている。貧富の拡大、党幹部
や政府官僚の職腐、新疆ウイグル自治区やチベット自治区などの民族問題も深刻化、大気汚染や水
汚染などの環境破壊と悪化、治安悪化、等々。こうした状況下で、原発の新設は「場合によっては
大きな社会問題となる可能性もある」と警告する。
岡野内論文(下)は、同論文(上)でのジェフリー・サックスとヴォルフガング・ザックスの検
討に続いて、スーザン・ジョージの近著を取り上げる。同論文は、グローバル資本主義に対抗して
人類史の流れを変えようとする上記3人の意図を肯定的に評価するが、
「ミクロな社会実践とマクロ
なシステム転換を結合する分析視点」の弱点と課題を指摘している。
すなわち、サックスに対しては「グローバル資本主義の複雑な階級支配の仕組み」を考察する課
題が、ザックス等には「グローバル社会的公正の観点から賃労働依存脱却」の展望を示す課題が、
そしてジョージに対しては「生活世界の抵抗の潜在力を解放する道筋」を発見する課題が、著者の
ベーシック・インカム論の立場からそれぞれ投げかけられている。こうしたグローバル資本主義の
膨大な成果を批判的に検討した上で、新しい人類の歴史を展望する学問的探求は不可欠の作業であ
ろう。
山根論文は、市民社会組織が治安部門に参加することで国軍改革を推進しているフィリピンの事
例研究である。市民社会組織が軍部に乗っ取られ下請け役となることなくこのような取り組みが可
能なのか。山根論文は、ラナオ・デル・ノルテ州の事例に焦点を当て、市民社会組織のネットワー
クの実態、監視・監督活動の内容を明らかにし、活動の効果を検討している。そして、国軍の思惑
や動機はどうであれ、一旦治安改革の空間が創造されれば、その空間を「統制することは決して容
易ではなく、意図せざる結果が生じることもある」
、と論じている。
[2015/04/10 松下 記]
アジア・アフリカ研究
2015 年 第 55 巻 第 2 号(通巻 416号)
2015 年 4 月 25 日発行
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