謝辞 316 謝辞 1970年、BBN社のRay Tomlinsonが二つのマシーンの間で最初の電子メールを 送信した年に私は生まれた。しかし、私が初めて電子メールを送ったのは大学院の 修士課程に入った頃だった。20年数年間、私は電子メールを知らなかったのだ。実 は、記憶をたどると電子メールのことを聞いたのはその数年前にさかのぼる。北欧 のフィンランドに旅行に行ったとき、ヘルシンキ経済大学の学生から「電子メール を使っていないのか」と聞かれたのだ。私はそれが何なのか全然わからなかったの で、ただ使っていないと答えたきり忘れていた。その時すでにヘルシンキ経済大学 では学生全員に電子メールアドレスを配っていたのだ(1992年夏のことである)。 初めて自分で買ったパソコンは、アップル社のノート型パソコン、Macintosh PowerBook165だった(教育機関限定モデル)。アップルのパソコンはそれまで使っ ていたコンピューターとは全然違うものだった。そこから何か新しいものを作り出 そうという気概、そして60年代末から70年代の社会変革の息吹が聞こえてきそうだっ た。ローリング・ストーンズやビートルズなど、その時代の音楽ばかりを聴いてい た私は、マック(Macintosh)にもまたのめり込んでしまった。 もともとは私は日米半導体摩擦を研究していたのだが、半導体技術への興味と重 なり、研究分野は徐々に、情報通信技術が社会や国際関係に与える影響へと移って いく。そして、パソコンを毎日いじりながら、友人たちにパソコンを買わせて電子 メール仲間を増やそうと「布教」に励んだ。 私はインターネットの開発時期の20数年を何も知らずに過ごした。しかし、世の 中が1995年のウインドウズ95発売に伴うインターネット・ブームにわき出すわずか 前にインターネットに接することができたのは幸運であった。少なくともインター ネットとはこんなものだということを友人に説明できたからだ。本論文は、そうし たインターネットとはいったい何なのか、それをどうやって位置づけていったらい いのかと考えるところから始まった。 本論文をまとめるあたって多くの方々にお世話になった。全ての方の名前を挙げ ることは到底できないにしろ、特にお力添えをいただいた方々についてここで謝意 を表させていただきたい。 まず、私の指導教授として常に励ましと適切なアドバイスを下さった慶應義塾大 学総合政策学部の草野厚先生に感謝したい。先生の研究に対する並ならぬ情熱は、 そばにいるだけで研究意欲をかき立てるものであった。時に拡散しがちな私の関心 に方向性を与えて下さったのも先生である。 また、最初に私を大学院に受け入れて下さり、研究者への道を切り開いて下さっ た慶應義塾大学常任理事の薬師寺泰蔵先生にもお礼を言わなければならない。先生 の直感の鋭さと豊富なアイデアは学生の知的好奇心を刺激してやまない。 謝辞 317 目白大学の石井貫太郎先生もまた、良き兄貴分として、先達として常に励まして 下さった。先生の力強いお言葉に研究者としての喜びを見いだすことができた。 私の情報通信への関心を引き出して下さったのは国際大学グローバル・コミュニ ケーション・センター(GLOCOM)の公文俊平先生、山内康英先生、木村忠正先 生(現在は東京都立大学科学技術大学)である。グローコムへアルバイトとして通 い始めた頃は、先生方が何の話をしているのかさっぱりわからなかった。それだけ グローコムは研究の最先端を走っているのである。そんな私を特に木村先生は熱心 に指導して下さり、二人の研究成果として『ネットワーク時代の合意形成』(NTT 出版、1998年12月)を公刊できたことは大きな喜びであった。三人の先生方だけで なくグローコムの多くの研究員・スタッフのみなさんにも大変お世話になった。 私は大学院の後期博士課程から、日本のインターネット研究においてグローコム と並んで最先端をいく慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)の大学院政策・ メディア研究科へと移籍した。グローコムと同じくSFCもまた常に新しい何かが起 きており、最初の一年間はSFCにおける自分の研究の位置づけすらわからず、途方 に暮れることもあった。しかし、研究指導グループの田村次朗先生(現在は法学 部)、安村通晃先生、小島朋之先生の他、大学院の国際開発協力プロジェクトでお 世話になった香川敏幸先生、彦谷貴子先生などのアドバイスによってどうにか自分 の研究に一区切りつけることができたことに感謝したい。また「日本のインターネッ トの父」である村井純先生にも「政策・メディア21」プロジェクトを通じて接する ことができたことは大きな収穫であった。 多くの同僚にも恵まれた。オーストラリア国立大学大学院の阿久津博康さんは丁 寧に本論文のドラフトを読んでくれ、多くの改善点を示してくれた。分かりやすい 議論になったすれば彼のおかげである。他にも、草野研究室の野本啓介さん、池田 洋一郎さん、田中靖人さん、中山実花さんの各院生をはじめ、多くの学部生と共に 学べたことは励みになった。学部時代からの友人として、三枝木明美さん、原克利 さん、西友紀さん、堀井信浩さん、佐川桂子さん、大澤淳さん、堀真奈美さん、花 輪幾夫さん、荒井さとみさん、沖田美香さんたちには折に触れてアドバイスをもら うことができた。感謝してもしきれない。 家族の協力なくして研究を続けることはできなかっただろう。父と弟は何も言わ ず支えてくれた。 最後に、本論文は、愚息の成果を何も見ることもなく天に向かった母に捧げるこ とにしたい。 1999年2月 土屋 大洋
© Copyright 2024 Paperzz