実施計画書 - Uro.jp

ビアペネムの泌尿器科領域における薬物動態/薬力学
(Pharmacokinetics / Pharmacodynamics;PK/PD)に関する研究
実施計画書
研究代表医師 :公文裕巳
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
〒700−8558
岡山県岡山市鹿田町二丁目5番1号
℡:086-235-7287
Fax:086-231-3986
2006 年 11 月 30 日
計画書案
第 1 版作成
標題:自主臨床研究「ビアペネムの泌尿器科領域における薬物動態/薬力学
(Pharmacokinetics / Pharmacodynamics;PK/PD)に関する研究」
試験実施計画書
1.研究の背景
呼吸器感染症においては、非臨床・臨床とも、薬物動態 /薬力学 (Pharmacokinetics /
Pharmacodynamics:PK/PD)の概念が浸透し、ガイドラインも作成されつつある。一方、泌尿器科
領域において尿路感染症は、呼吸器感染症と並んで、患者数の多い細菌感染症であり、原因菌、
抗菌力、患者背景、特性(薬物動態、結石・憩室の有無)など、治療上、考慮すべき項目が多い
にもかかわらず、幾つかの検討例はあるものの 1, 2, 3)、スタンダードな評価系、評価基準、特に
カルバペネム系抗菌薬をターゲットとしたエビデンスとなる臨床での PK/PD 評価系は必ずしも確
立していない。
これらの情報を整理し、泌尿器科領域における PK/PD を用いた評価系・評価方法を探索、確立
することは医療経済学的にも意義があり、再発防止を含め、科学的根拠に基づいた確実に効果の
得られる抗菌薬治療計画の確立が急務であると考えられる。
腎盂腎炎とは腎盂・腎杯および腎実質の一般細菌感染症である。急性に炎症症状を呈する急性
腎盂腎炎と、繰り返す炎症による腎実質の破壊と瘢痕形成および腎盂腎杯の変形などの腎の構造
変化を伴い腎機能も障害される慢性腎盂腎炎に大別される。尿路異常や尿流障害の有無により、
ない場合の単純性とある場合の複雑性に分けられる。急性の多くは急性単純性腎盂腎炎である。
慢性の場合の多くは複雑性の慢性複雑性腎盂腎炎であり、尿路結石・膀胱尿管逆流現象・水腎症・
神経因性膀胱・前立腺肥大症・尿路奇形などの基礎疾患の合併が多い。起炎菌としては大腸菌が
多くを占めるほか、緑膿菌・セラチアなどグラム陰性桿菌が多い 4)。また、複雑性腎盂腎炎の場
合、本邦では薬剤耐性菌の分離頻度が高く、empiric therapy の標準を設定しにくい病態と言わ
れている。原因菌としては大腸菌、腸球菌、緑膿菌が3大原因菌である 5)。
そこで、今回は複雑性腎盂腎炎を対象疾患、試験薬として大腸菌、腸球菌、緑膿菌などに対し、
幅広い抗菌力を示すカルバペネム系抗菌薬ビアペネム (BIPM)を選択し、抗菌薬投与後の生体内
薬物濃度推移、原因菌の MIC、有効性および安全性について検討し、より臨床上の治療において
安全にかつ有効に使用できる投与設計を行うための知見を得ることとした。
BIPM は生体内でカルバペネムを不活化する酵素、デヒドロペプチダーゼ-I(DHP-I)に対して安
定である事から 6)、Imipenem(IPM)のようにシラスタチンのような酵素に対する安定化剤を必要
としない単剤の製剤である。開発時成績では、腎盂腎炎の臨床効果は 86.4%、複雑性膀胱炎に対
しては 92.6%であり、泌尿器科領域においても有用性が確認されている 7)。マウス緑膿菌大腿部
感染モデルを用いた研究の結果、BIPM の有効性に寄与している PK/PD パラメータは Time above MIC
(T>MIC)である事が明らかとなっている 8)。
腎盂腎炎患者に対する BIPM を用いた治療における PK/PD データを収集し、投与量、投与回数、
投与期間の推定となる指標また、再発・耐性予防の指標となる PK/PD パラメータやそのターゲッ
ト値の探索などを行う事により、臨床上の治療において安全にかつ有効に使用できる投与設計を
行う事を目的とする。
2.研究の目的
対象者は成人の腎盂腎炎症例で試験薬は BIPM とする。本研究では、小規模な臨床試験を実施し、
腎盂腎炎患者の原因菌の同定と薬剤感受性分布について、また患者に BIPM を投与した時の薬物動
態・有効性・安全性・細菌学的効果について検討を行い、有用性の検証を行うと同時に、腎盂腎
炎患者における薬物動態を把握、血中動態および尿中動態と有効性との関係(PK/PD パラメータ
の推定など)について検討することを目的とする。
1
3.試験薬の概要
一 般 名:ビアペネム
商 品 名:オメガシンR (一般名:ビアペネム、略号:BIPM)
インタビューフォーム7)参照
4.対象患者
対象患者:
① 腎盂腎炎患者のうち、下記の選択基準を全て満たし、かつ下記の除外基準に抵触しないも
のを対象とする。
② 体内留置カテーテルは、非留置症例として取り扱う。
(1)選択基準
以下の選択基準に合致する症例を対象とする。なお、研究開始後に選択基準に合致しないと
判断された場合にはその時点で投薬を中止し、他の適切な薬剤に切り替える。
1)成人入院患者で、性別は問わない。
2)本研究の参加にあたり十分な説明を受けた後、十分な理解の上、患者本人および代諾者(患
者本人に同意能力を有していない場合はその親族)の自由意思による文書同意が得られた
患者
3)膿尿:投与前膿尿≧10WBCS/㎣の患者
4)菌数:投与前菌数≧104CFU/mLの患者(男性中間尿および女性カテーテル尿)
投与前菌数≧105CFU/mLの患者(女性中間尿)
膿尿、細菌尿の測定法、採尿法等はUTI薬効評価基準(第4版案)9)に基づいて実施する。
なお、対象としての適格性を確認するため、本研究の開始前に鏡検により真菌の陰性を確
認し、試験紙法により細菌尿、膿尿を確認することとする。
(2)除外基準
次のいずれかに該当する症例は除外する。
1)外科的処置・ドレナージ等が必要な患者
2)重篤または進行性の基礎疾患、合併症を有し(例えば、中枢神経系疾患、広範囲に進展し
た悪性腫瘍など)、研究の安全な遂行と試験薬の有効性および安全性の判定が困難な症例
3)症状が極めて重篤で予後不良と考えられる症例
4)高度の心、肝または腎機能障害を有する症例
5)多くの併用薬を使用しており、試験薬の有効性、安全性の評価が困難な症例
6)β一ラクタム系(カルバペネム系、セフェム系およびペニシリン系など)抗菌薬にアレル
ギーの既往のある症例
7)バルプロ酸製剤(抗てんかん薬)が投与されている症例またはてんかん等の中枢神経障害
を有する症例
8)妊婦、授乳婦あるいは妊娠している可能性のある症例
9)本研究開始前に他の抗菌薬が投与され、既に症状の改善しつつある症例
10)BIPMに耐性な病原体による感染症で、感受性の面から試験薬の効果が期待し難い症例(ク
ラミジア、真菌など)
11)前立腺肥大症術後(TUR-P、ILCP等)1ヶ月以内に発症した感染症患者(ただし、前立腺
癌等により、前立腺全摘除術が施行された患者は可とする)
12)腸管利用尿路変向術(回腸導管等)が施行された患者(ただし、尿管皮膚瘻術が施行さ
れた患者は可とする)
13)尿道炎、前立腺炎、精巣上体炎を疑わせるまたは所見を呈する患者、過去1年以内に前立
腺炎罹患の既往がある患者
14)その他、研究担当医師が本研究の対象として不適当と判断した症例
2
5.患者に説明し同意を得る方法
本研究の実施に先立ち、担当医師は患者(または代諾者)に対し、下記項目について文書およ
び口頭により十分説明し、研究参加について患者(または代諾者)の自由意思による同意を取得
する。同意は文書で得ることとし、同意書は診療録(カルテ)に保存する。
1)臨床研究の目的および方法
2)責任医師の氏名、職名および連絡先
3)予測される試験薬の効果および予測される患者に対する不利益
4)当該疾患に対する他の治療方法の有無およびその内容
5)臨床研究に参加する期間
6)臨床研究の参加を何時でも取りやめることができる旨
7)臨床研究に参加しないこと、または参加を取りやめることにより患者が不利益な取扱いを受
けない旨
8)患者の秘密が保全されることを条件に、治験審査委員会が診療録(カルテ)等を閲覧できる
旨
9)患者に係わる秘密が保全される旨
10)健康被害が発生した場合における実施医療機関の連絡先
11)健康被害が発生した場合に必要な治療が行われる旨
12)健康被害の補償に関する事項
13)当該臨床研究に係わる必要な事項 等
6.試験の方法
(1)試験の種類・デザイン
探索的臨床研究 症例の登録および割り付け(インターネットによる登録)
割り付けプログラムにより登録された症例が対象選択基準に適合していることを確認し、
300mg×2 回投与群(7 症例)、300mg×3 回投与群(7 症例)と 600mg×2回投与群(7 症
例)に割り付ける。
データ解析において、個人識別情報である患者IDや患者氏名、住所、電話番号、生年月日
を削除し、連結可能な匿名化(施設内登録番号等)を行う。
インターネットによる登録であるので、パスワードなしにはアクセス出来ないように設定。
匿名化された診療情報や得られた情報は電子化、暗号化した上で、ハードディスクドライブ
に保存する。内臓ハードディスクドライブにはロック機能を付加し、情報の管理を徹底する。
[設定根拠]
今後、より幅広い施設より症例を集積する必要性から、今回はその予備的検討を
実施するために探索的研究と設定した。また、薬物動態について検討するにあたり、
① BIPM が半減期の短い薬剤であること、② 投与間隔が 8 時間となる群を設定して
いること、③ 患者負担に対する配慮から 1 症例より 5 ポイントの試料採取とした。
1群の目標症例数としては、BIPM の治験(臨床第一相試験)における 1 群の設定が
解析対象として 6 症例であったことから脱落 1 例を考慮して 7 症例を目標症例数と
した。さらに、PK/PD についてあわせて検討する際、炎菌の分離頻度は多くて約 50%
であることから 5)1 群最低 3 症例を確保する事を目的とした。
3
(2)試験のアウトライン
同意取得
適確性の確認
BIPM(300mg×2 回/日)
重症度の判定
BIPM(300mg×3 回/日)
BIPM(600mg×2 回/日)
投与開始
投与終了
投 与 期 間
3∼5 日(最長 14 日間)
前観察期間
(3)試験薬の用法・用量、投与期間
① 300mg×2回/日
② 300mg×3回/日
③ 600mg×2回/日
1)1回1バイアルを生理食塩液100mLに溶解し、60分かけて上腕静脈より点滴静注する。
2)研究担当医師は試験薬を患者に投与し、点滴開始および終了時間を調査票に記入する。
3)投与期間は原則として3∼5日間とし、最長でも14日間とする。
(4)併用薬剤
以下に示す薬剤・療法等の併用は禁止する。但し、患者の利益性から以下に示す薬剤・療法等
の使用が必要と認められた場合には、試験薬の投与を中止する。また、併用禁止薬剤・療法等
の使用が判明した場合は同様に試験薬の投与を中止する。
1)併用してはならない薬剤
① 他の抗菌薬(膀胱洗浄等の抗菌剤を含有する局所療法、抗結核薬、抗真菌薬を含む)
② ヒト免疫グロブリン製剤
③ コロニー刺激因子製剤(G−CSF等)
④ バルプロ酸製剤(抗てんかん薬)
⑤ 他の試験薬
2)試験薬投与開始後新たに併用することを避ける薬剤
以下の薬剤は可能な限り併用を避けることとするが、患者の利益性保持のためやむを得ず使
用する事は可とする。
① 消炎酵素剤
② 抗菌薬の局所療法(点眼剤、点鼻剤、点耳剤、軟膏・クリーム剤等)
③ 抗真菌薬
④ 頻尿治療薬
⑤ 排尿障害治療薬
⑥ 副腎皮質ステロイドの全身投与(試験薬投与期間内は用量の変更を行わないこと)
⑦ 副腎皮質ステロイドの局所投与〔皮膚適用剤(軟膏・クリーム剤等)、吸入および感覚器
官用剤(点眼剤、点鼻剤、点耳剤等)〕
ただし、上記薬剤で試験薬投与開始14日以前から投薬され、研究期間を通じてその種類、用
法・用量を変更しない場合については併用を可とする。なお、上記薬剤を併用した場合には、
その内容を必ず調査票に記入する。
3)その他
対象患者により治療上不可欠と考えられる非ステロイド性抗炎症剤、解熱鎮痛剤の頓用につ
いては可とする。なお、基礎疾患および合併症に対する治療剤を併用した場合または何らか
の処置をした場合には、その内容を必ず調査票に記入する。
また、試験薬の臨床効果に影響を及ぼすと考えられる処置(ESWL・手術等)はできるだけ避
けるが、やむを得ず行った場合は、その処置名および時期(期間)について調査票に記入す
る。
4
7.評価項目
(1)主要評価項目(Primary endpoint)
1)有効性:有効率〔UTI 総合臨床効果が「著効」もしくは「有効」と評価された症例の割合〕
2)薬物動態:血漿および尿中濃度推移、尿中排泄率、PK/PD パラメータ、PK パラメータ
3)安全性:有害事象発現率
(2)副次的評価項目(Secondary endpoint)
1)有効性
①消失率(細菌学的効果が「消失」と評価された症例の割合)
②細菌尿・膿尿に対する効果
2)安全性評価項目
① 有害事象(症状)
② 有害事象(臨床検査)
8.観察・検査項目および実施時期
研究責任医師または研究分担医師は、観察、検査、調査は下表に従って実施し、調査票に記載
する。
観察・検査項目
投与
投与開始
投与開始
投与開始
投与終了・
開始前
1 日後
2日後
3∼5 日後
中止時
●
●
●
●
●
●
●
●
同意取得
●
患者背景の確認
●
試験薬投与
自覚症状の確認
●
有害事象の有無 a)
体重測定
●
臨床症状、所見、体温測定 b)
●
臨
血液学的検査
●
●
●
血液生化学検査
●
●
●
尿検査
●
●
●
●e)
●e)
床
検
査
c)
血中薬物濃度測定 d)
●
尿中薬物濃度測定 d)
●
細菌学的検査
●
●e)
評価判定
●e)
●
●:必須
○:可能な限り実施
有害事象は、試験薬が投与された際に起こるあらゆる好ましくないあるいは意図しない徴候、症状又は病気のことで、
薬剤との因果関係は問わない。有害事象が発生した場合には、原則として試験薬投与開始前の状態に回復または軽快
するまで追跡調査する。
b) 表中の規定日以外の日に必要に応じて観察・測定した場合には調査票に結果を記載する。
c) 臨床検査値異常変動が発現した場合には、原則として試験薬投与開始前の値近くまで回復または正常化するまで追跡
調査する。
d) 試験薬投与後、血漿および尿について患者の状態を確認のうえ実施する。
e) 1 日のうちの1回目の投与直前。
a)
5
(1)臨床症状、所見
① 臨床症状として発熱、排尿痛、頻尿などの自他覚症状について毎日観察する。
② 体温の測定は腋窩にて行う。観察日の最高体温で判定し、不明な場合は観察時の体温で判
定する。但し、平熱の場合は37℃未満としてもよい。
③ その他の症状(排尿痛、尿意切迫感、頻尿、下部腹痛・腰痛、排尿時不快感、下腹部不快
感、残尿感)については問診にて調査する。
④ 尿所見
男性は中間尿、女性はカテーテル尿(膀胱尿)が望ましいが、UTI薬効評価基準(第4版)
「中間尿採取手順」の要領で採取した場合には、女性の場合でも中間尿で差し支えない。但
し、中間尿の所見に疑問がある場合にはカテーテル尿で再検査を行う。実施した採尿法は調
査票に記載する。なお、採尿は投与前後とも同一の方法で実施するが、「投与前:カテーテ
ル尿、投与後:中間尿」の変更に限り、患者の負担を考慮し可とする。
白血球数については自動検尿機にて計測する。
(2)細菌学的検査
1)尿試料の処理
投与開始前、5日目までの毎日、1日のうち1回目の投与直前に採取した新鮮尿を用い、各採
取時点において以下の操作を行う。
① 新鮮尿の一部を臨床検査部に提出
細菌の分離、同定、菌数測定
② 一部(700μL)をエッペンチューブに採取→ 菌数測定まで-80℃にて保存
③ 一部(700μL)を用い抗菌薬を除去 → 菌数測定まで-80℃にて保存
各時点の
尿試料
2)抗菌薬除去後の菌数測定
1)②および③の試料については適宜、細菌の分離・菌数測定を行う。
(3)薬物動態
以下の手順で生体試料中BIPM濃度測定を実施する。
1)対象試料
① 血漿
② 尿
2)検体採取時期
投与2日目以降、1日のうちの初回投与時に、患者の状態を鑑み、以下に示す表に従い、採
取する。
-2
0
2
4
6
8
10 12 14 16 18 20 22 24
薬剤投与①
薬剤投与③
A血漿
B尿
★
★
★
★
★
2
4
6
8
★
★
★
★
Pre
細菌検査
★
-2
0
10
12
14
16
18
20
22
薬剤投与②
A血漿
★
B尿
Pre
300mg/回投与
細菌検査
★
600mg/回投与
6
24
【投与方法】
① 300mg×2回/日
② 300mg×3回/日
③ 600mg×2回/日
60分間かけて点滴静注
60分間かけて点滴静注
60分間かけて点滴静注
【採血時間】
投与終了直前(終了5分前)、投与開始2時間後、投与開始4時間後、投与開始6時間後、
投与開始8時間後
【採尿時間】
投与 2 時間前から投与直前、投与開始∼2 時間後、2∼4 時間、4∼6 時間、
6∼8 時間(投与方法②のみ)、6∼12 時間(投与方法① ③)
3)検体の取り扱い
① 血液:1 回当たり血液約 2mL をヘパリン処理した採血管に採取する。採取した血液は直
ちに氷冷し、速やかに冷却遠心機にて 4℃、3,000rpm で遠心分離し、血漿を得る。
得られた血漿を速やかに−80℃(−60∼80℃)にて冷凍保存する。
② 尿 :随時尿を専用のボトルに採取し、直ちに尿量を計測後、記録する。得られた尿を
良く混和した後、尿5mLを採取し、速やかに−80℃(−60∼80℃)にて冷凍保存す
る。
4)薬物濃度測定
3)にて処理した血漿および尿試料は、下記施設に送付し、HPLC法を用いて測定する。
測定施設:
株式会社ファルコバイオシステムズ 総合研究所 バイオ事業本部 解析センター
京都府久世郡久御山町大字田井小字西荒見17番地の1
7
(4)臨床検査
1)検査項目および実施時期
臨床検査の検査項目を下表に示した。中止例はその時点で必ず所定の臨床検査を実施する。
臨床検査項目
臨床検査項目
血
液
肝機能
腎機 能
尿 所見
電 解質
投与開始前
投与開始5日後
投与中止時
赤血球数、ヘモグロビン
ヘマトクリット、白血球数
白血球分類、血小板数
●
●
●
血清アルブミン、AST、ALT
γ−GTP、ALP、LDH
●
●
●
BUN、S-クレアチニン
総ビリルビン
●
●
●
PSP
○
○
○
尿蛋白、尿糖、ウロビリノゲン
●
●
●
NAG、β2-ミクログロブリン
○
○
○
Na、K、Cl
●
●
●
○
○
○
CRP、ESR、クームス試験、アミラーゼ
●:必須
○:可能な限り行う
(5) 有効性に関する判定基準
投与終了時における研究責任医師または研究分担医師による判定
臨床効果の判定
投与終了・中止後に自覚症状および各検査所見の推移をもとに、下記の4段階で臨床効果を
判定する。判定にあたっては、下記の基準を参考とし、判定の根拠を、また「無効」と判定
した場合には無効理由を症例記録用紙に記入する。
1.著効
2.有効
3.やや有効
4.無効
5.判定不能
《臨床効果判定基準》
著
効:試験薬投与開始後、(自覚症状および)各検査所見が正常化または著しく改善
した場合
有
効:試験薬投与開始後、(自覚症状および)各検査所見が改善した場合
やや有効:試験薬投与開始後、(自覚症状および)各検査所見に何らかの改善が認められ
た場合
無
効:試験薬投与開始後、(自覚症状および)各検査所見が改善しない、または悪化
した場合
判定不能:判定要因が不足し、上記分類ができない場合
8
投与終了時におけるUTI薬効評価基準(第4版暫定案)9)による判定(早期薬効判定)
UTI薬効評価基準(第4版暫定案)により研究終了後以下の判定基準に従って有効性を判定し、
UTI評価票を作成する。作成した評価票は症例記録用紙の所定の場所に貼付し割印する。細菌
尿はUTI薬効評価基準(第4版暫定案)9)の規定に基づき実施医療機関において測定されたウ
リカルト菌数で判断する。なお、投与前細菌尿がウリカルト菌数104CFU/mL 以上を有効性の
評価対象症例とする。但し、女性の中間尿の場合には、105CFU/mL 以上を有効性の評価対象
症例とする。
① 自覚症状に対する効果
総合臨床評価の指標としては取り上げないが、症状ごとに下表に従って3段階で判定する。
判定時
+
++
+++
投与前
+
消失
不変
不変
不変
++
消失
軽快
不変
不変
+++
消失
軽快
軽快
不変
② 膿尿に対する効果
下表に従って3段階で判定する。
判定時
+
++
+++
(0∼9WBCs/㎣) (10∼29WBCs/㎣) (30∼99WBCs/㎣) (≧100WBCs/㎣)
投与前
+
正常化
不変
不変
不変
++
正常化
不変
不変
不変
+++
正常化
改善
不変
不変
③ 細菌尿に対する効果
判定時に残存している原因菌と交代菌の組み合わせにより、下表に従って4段階で判定する。
交代菌
0∼103CFU/mL
≧103CFU/mL
残存原因菌
0
陰性化
菌交代
3
<10 CFU/mL
減 少
≧103CFU/mL
不 変
不 変
④ 総合臨床効果
膿尿と細菌尿を指標として、その推移に基づき、下表に従って著効、有効、無効(増悪を
含む)の3段階で判定する。
膿尿
正常化
改善
不変
細菌尿
陰性化
著効
有効
有効
減 少
有効
有効
有効
菌交代
有効
有効
無効
不 変
無効
無効
無効
細菌学的効果の判定
細菌尿とは別に、個々の尿中分離菌の推移に基づき、菌種別に消失、存続の2段階に判定する。
試験薬投与前に認められた菌種が投与後認められなくなった場合、
消 失
菌交代があっても「消失」と判定する。
試験薬投与前に認められた菌種が投与後にも認められる場合、その
存 続
菌数に関係なく「存続」と判定する。
9
投与後出現菌
投与前に認められなかった菌種が投与後新たに出現した場合、その菌数に関係なく、これを
投与後出現菌として集計する。
9.中止基準
(1) 中止基準
本人または代諾者等から中止の申し入れがあった場合はその時点で直ちに投与を中止する。
また、次のような場合、試験薬の投与を中止し、中止・脱落の日付・時期、中止・脱落の理由、
経過をカルテならびに調査票に明記するとともに、対象症例の利益性を考慮し、適切な処置を
行う。
また、投与中止時点で投与開始5日後に実施すべき観察および臨床検査並びに判定を実施し、
その結果を中止の理由とともに調査票に記入する。
1)副作用、臨床検査値異常発現のために投与継続が困難な場合
2)症状・所見の改善が認められず、投与の継続が不適当と判断された場合
3)対象から除外すべき条件が投与開始後に判明した場合
4)原疾患が完治し、継続投与の必要がなくなった場合
5)本研究開始後に患者、代諾者が同意を撤回した場合
6)その他、研究担当医師が中止の必要を認めた場合
試験薬の投与中止後、他の薬剤に変更した場合には、その結果を調査票に記入する。
(2) 中止手順
1)患者および代諾者に研究の中止を説明する
2)試験薬が投与されている場合は、投与を中止する
3)中止時の観察および検査項目を実施し、評価を行う。
4)研究責任医師は、適切な医療の提供その他必要な措置を講ずる。
5)中止時までの観察・検査内容、中止年月日、中止理由、中止後の処置および経過を調査す
る。
6)有害事象が発現し本研究の試験薬の投与を中止した場合は、可能なかぎり現状に回復する
までフォローする。
10.有害事象発生時の取扱い
(1)有害事象の発生時の患者への対応
研究責任医師または研究分担医師は、研究期間中に自他覚症状の発現または悪化、基礎疾
患・合併症の悪化、偶発症の発現等の有害事象を認めたときは、直ちに適切な処置を行うと
ともに、症状、分類、程度、発現日、試験薬の投与状況、対症療法の有無、経過、試験薬と
の因果関係およびその判定根拠等についてカルテならびに調査票に齟齬なく記載する。また、
投与後に「抗菌薬による治験症例における副作用、臨床検査値異常の判定基準」10)に基づき、
臨床的に有意と判断される臨床検査値の異常変動を認めた場合には有害事象とし、項目、程
度、試験薬との因果関係およびその判定根拠等について調査票に記入する。
試験薬の投与を中止した場合や、有害事象に対する治療が必要となった場合には、患者にそ
の旨を伝える。
有害事象の定義
有害事象とは、医薬品が投与された患者に生じたあらゆる好ましくない医療上の出来事であり、
必ずしも当該医薬品の投与との因果関係があるもののみを指すわけではない。すなわち、有害
事象とは、医薬品の使用と時間的に関連のある、あらゆる好ましくない。意図しない徴候(例
えば臨床検査値の異常)、症状又は疾病のことであり、当該医薬品との因果関係の有無は問わ
ない。
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11. 研究の終了、中止、中断
(1)研究の終了
研究担当医師は、研究終了後速やかに医療機関の長に研究終了報告書を提出し、また、その
写しを研究の代表者および研究依頼者に提出する。
(2)研究の中止、中断
1)研究責任医師は、以下の事項に該当する場合は試験実施継続の可否を検討する。
① 試験薬の品質、安全性、有効性に関する重大な情報が得られたとき。
② 患者のリクルートが困難で予定症例を達成することが到底困難であると判断されたとき。
③ 予定症例数または予定期間に達する前に、(中間解析等により)試験の目的が達成され
たとき。
④ IRBにより、実施計画等の変更の指示があり、これを受入れることが困難と判断されたと
き。
2)IRBにより、中止の勧告あるいは指示があった場合は、試験を中止する。
3)試験の中止または中断を決定した時は、速やかに病院長(あるいは各医療機関の長)にそ
の理由とともに文書で報告する。
12. 試験実施期間
平成19年1月1日 ∼ 平成19年12月31日(登録締め切り平成19年12月1日)
13. データの集計および統計解析方法
(1)主要評価項目
1)有効性
有効性解析対象例において、各群(300mg×2回/日、300mg×3回/日、600mg×2回/日)の
有効率と95%信頼区間を算出する。ただし、有効率は「UTI総合臨床効果が「著効」もし
くは「有効」と評価された症例の割合」とする。
2)薬物動態解析(血漿・尿)
薬物動態解析については、測定された血漿および尿中濃度を、モデル依存的、あるいは、
モデル非依存的方法により解析し、薬物動態パラメータを算出する。また、尿中排泄率を
算出する。患者個々の血漿中濃度と原因菌のMICより、患者毎のPK/PDパラメータを算出し、
臨床効果および細菌学的効果との関係を探索的に解析する。同様に、安全性との関係につ
いても解析する。
3)有害事象・臨床検査値異常の発現率
安全性解析対象例において、各群(300mg×2回/日、300mg×3回/日、600mg×2回/日)の
有害事象発現率と95%信頼区間を算出する。
(2)副次的評価項目
副次的評価項目に挙げた項目について、主要評価項目の解析と同様に各群(300mg×2回/
日、300mg×3回/日、600mg×2回/日)の群間比較を検討するための解析を実施する。
14. 目標症例数および設定根拠
目標症例数 21例(1群7例、3群)
[設定根拠] 今後、より幅広い施設より症例を集積する必要性から、今回はその予備的検討
を実施するために探索的研究と設定した。また、薬物動態について検討するにあた
り、① BIPM が半減期の短い薬剤であること、② 投与間隔が 8 時間となる群を設定
していること、③ 患者負担に対する配慮から 1 症例より 5 ポイントの試料採取とし
た。1群の目標症例数としては、BIPM の治験(臨床第一相試験)における 1 群の設
定が解析対象として 6 症例であったことから脱落 1 例を考慮して 7 症例を目標症例
数とした。さらに、PK/PD についてあわせて検討する際、炎菌の分離頻度は多くて
約 50%であることから 5)1 群最低 3 症例を確保する事を目的とした。
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15. 患者の人権および安全性・不利益に対する配慮
(1)人権への配慮(プライバシーの保護)
研究責任医師または研究分担医師は、研究実施に係る生データ類および同意書等を取扱う際
は、患者の秘密保護に十分配慮し、病院外に提出する調査票等では、患者識別コード等を用
いて行う。試験の結果を公表する際は、患者を特定できる情報を含まないようにする。また、
試験の目的以外に、試験で得られた患者のデータを使用しない。
血漿および尿試料、尿中分離菌等の検体を病院外に出して測定等を行う場合は、登録番号を
用いて匿名化し、測定後は速やかに廃棄する。
(2)安全性・不利益への配慮
研究責任医師または研究分担医師は、有害事象が発生した場合は、速やかに適切な診察と処
置を行う。
1)非治療群における不利益
感染症の悪化、再発などの不利益が考えられる。
2)危険性について
以下に示す副作用、臨床検査値異常変動が認められることがある。副作用、臨床検査値異
常変動等が発現した場合には、研究担当医師は速やかに適切な処置や投薬の中止を行い、患
者の安全性を確保する。
BIPMの副作用は2,348例中64例(2.7%)に認められ、その主なものは、発疹(1.0%)、下
痢(軟便を含む)
(0.7%)などであつた。また、臨床検査値異常変動は2,287例中304例(13.3%)、
522件に認められ、主な変動項目はALT(GPT)上昇144例、AST(GOT)上昇93例、好酸球増多77例
などであった7)。
【重大な副作用】
ショック(0.1%未満)、アナフィラキシー様症状(頻度不明)、
間質性肺炎(0.1∼5%未満)、PIE症候群(頻度不明)、偽膜性大腸炎を含む重篤な大腸炎
(頻度不明)、痙攣、意識障害(頻度不明)、肝機能障害、黄疸(頻度不明)、急性腎不全
(頻度不明)
【重大な副作用(類薬)】
皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、無顆粒
球症、溶血性貧血、汎血球減少症急性腎不全、血栓性静脈炎
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【その他の副作用】
5%以上
過敏症
血 液
肝
臓
腎
臓
消化器
呼吸器
精神神経系
菌交代症
ビタミン欠乏症
その他
ALT(GPT)上昇
血清アミラーゼ上昇
副作用の頻度
0.1∼5%未満
0.1%未満
発疹、瘙痒
蕁麻疹
好酸球増多、白血球減少、プロト
ロンビン時間延長、好塩基球増多、
血小板増多、赤血球減少、ヘマトク
リット値減少、好中球増多、血小
板減少、血色素量減少、リンパ球
増多、単球増多
AST(GOT)上昇、γ-GTP、LAP、
AL-P、LDH、ビリルビン上昇
NAG上昇、尿中β2-ミクログロブリン
血清クレアチニン上昇
上昇、BUN上昇、蛋白尿
下痢、嘔気、腹痛
嘔吐、食欲不振
喘息発作
しびれ感
高カリウム血症、発熱、頭痛
腹痛、気分不良
頻度不明
口内炎、カンジタ症
ビタミンK、欠乏症(低
プロトロンビン血症、出
血傾向等)、ビタミンB
群欠乏症状(舌炎、
口内炎、食欲不振、
神経炎等)
浮腫
16. 患者の費用負担
通常診療の範囲内のため、原則、患者の費用負担の軽減措置はないが、細菌学検査、血漿およ
び尿中 BIPM 濃度測定については今回の研究の必修項目のため、実施の際は研究側の負担になる。
17. 健康被害の補償および保険への加入
(1)健康被害の補償
通常の診療範囲内の研究のため、健康被害が発生した場合は、各医療機関にて適切な措置を
講じ、原則患者の健康保険によることとする。
(2)賠償保険への加入
賠償責任に備え、研究責任医師および研究分担医師は賠償責任保険に加入すること。
18. ヘルシンキ宣言への対応
本研究はヘルシンキ宣言(2000年改訂)および臨床研究に関する倫理指針を遵守して実施
する。
19. 記録の保存
研究責任医師は、研究等の実施に係る必須文書(申請書類の控え、病院長からの通知文書、各
種申請書、報告書の控、患者認識コードリスト、同意書、CRF等の控、その他データの信頼性
を保証するものに必要な書類または記録など)を保存し、所定の期間(研究発表後 3 年)後に破
棄する。
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20. 研究結果の公表
(1)発表者・発表時期・発表方法は下記を予定している。
発表者
発表時期 平成 20 年 5 月頃
発表方法 講演
(2)研究終了後、研究結果を総括報告書等にまとめて病院長に報告する。
21. 研究組織
氏名
○ 門田 晃一
上原 慎也
石井 亜矢乃
和田 耕一郎
(○:研究責任医師)
所属機関
岡山大学医学部・
歯学部附属病院
〃
〃
〃
診療科
泌尿器科
〃
〃
〃
職名
講師
助手
医員
〃
連絡先
086-235-7287
〃
〃
〃
23. 参考資料・文献リスト
1)John S. Moran and William C. Levine, CID 20:S47-S65, 1995.
2)Kurt G. Naber, International Journal of Antimicrobial Agents 17: 331-341, 2001.
3)Johan W. Mouton and Alexander A. Vinks, Clin Pharmacokinet 44(2):201-210, 2005.
4)今日の治療指針 2006
5)抗菌薬使用のガイドライン:日本感染症学会, 日本化学療法学会編, 協和企画,
東京:186-192, 2005.
6)Ubukata K, Hikida M, Yoshida M, Nishiki K, Furukawa Y, Tashiro K, Konno M, and Mitsuhashi
M: In vitro activity of LJC10,627, a new carbapenem antibiotic with high stability to
dehydropeptidase-I. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 34:994-1000, 1990.
7)インタビューフォーム,2006.
8)Takata T,Aizawa K, Shimizu A, Sakakibara S, Watanabe H, Totsuka K:Optimization of dose
and dose regimen of biapenem based on pharmacokinetic and pharmacodynamic analysis.
J Infect Chemother 10:76-85, 2004.
9)UTI 薬効評価基準(第 4 版暫定案):臨床評価法制定委員会 泌尿器系委員会, 日本化学療
法学会雑誌 45(4):203-247, 1997.
10)「抗菌薬による治験症例における副作用、臨床検査値異常の判定基準」
:日本化学療法学会雑
誌 39(7):687-689, 1991. 「抗菌薬による治験症例における副作用、臨床検査値異常の判定
基準」の一部変更:日本化学療法学会雑誌 43(11):巻頭, 1995.
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