目標コスト契約 - Herbert Smith Freehills

建設ニュースレター
(第 53 号)
目標コスト契約
2013 年 7 月 | 東京オフィス
近年では、発注者が請負者に予算内でプロジェクトを完成させる
インセンティブを与えるための手段を模索する中で、目標コスト
契約の利用が増えています。この目的を達成すべく、このような
契約は通常、費用超過分(pain)と費用縮減分(gain)を分け合う
メカニズムについて規定しています。本稿では、目標コスト契約
の主な要素について考察をした上で、それらが標準的な契約
条件書の中でどのように扱われているのかを見ていきます。 1
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目標価格契約は、プロジェクトの終了時に計算式を適用することにより、(実コスト基準
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で)請負者にコストを償還する、コスト償還型のメカニズムに基づいています。この計算
式は、請負者がコストの節減分について分配を受ける一方で、超過分についてはその
一部を負担できるようなものとなっています。
まずは、多少なりとも範囲の定められた工事について、目標コストの合意がなされます。
これは、変更があった場合など、一定の状況下では調整することが認められます。
そして目標コストは 3 つの要素によって構成されます。そのうち 2 つは「可視性のある」もので、1 つ目は主に下請業者にかかる費用や、
プラントの利用および光熱費などの必要経費から構成されるベースコストです。次に、目標コストには、請負者の「報酬(Fee)」と称される
部分である請負者の間接費、利益およびその他の本社諸掛りの要素が含まれます。報酬は、実コストまたは目標コストの一定率として
定められる場合や、固定額として定められる場合があります。3 つ目の要素は、請負者のリスクにかかる価格ですが、これは報酬に組み
込まれます。
1
FIDIC は、まだ目標コスト契約を対象とした契約条件書を発行していません。
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目標コストは通常、入札とその後の交渉を経て決定されます。このコストは、最も可能性が
高いと考えられる生産コストについての真正な推定額を表したものであるべきです。これ
バックナンバー
は、費用の超過分・縮減分を分かち合うためのメカニズム(後述参照)によって、請負者に
2013 年 6 月号
効率を上げることで費用を節減し、実コストを最小限に抑えるインセンティブを与えることを
都合による契約終了
意図しています。適切に構成された目標コストは、(工事は落札することができるかもしれ
ないが)低すぎる入札価格と、請負者において効率化を図る気を削ぐ可能性があるほど
高く設定された価格の中間に相当すべきでしょう。
2013 年 5 月号
英国化学工学協会の契約条件書
2013 年 4 月号
費用超過・費用縮減のメカニズム
アジア季刊版:紛争委員会による裁
定の執行可能性
これは目標コスト契約にとって不可欠な特徴であり、他の支払メカニズムと一線を画する
2013 年 3 月号
ものです。このメカニズムは、ある計算式に基づくものですが、これは請負者の入札書に
ボンドと保証
記載される場合や、発注者が定める場合、または入札後に合意される場合があります。
2013 年 2 月号
このメカニズムで用いられる一般的な方法は、超過分または縮減分を百分率に基づいて
所有権留保条項
複数の「適用域」に分けるものです。これについて考えられる一つの手法として、当事者
2013 年 1 月号
間で超過分または縮減分をすべて折半することに合意することができます。また、これに
代えてスライド制を採用することもできます。例えば、超過分または縮減分の最初の 10%
アジア季刊版:遅延および変更に
起因する請求
については折半しますが、これを超える分については、発注者により多く分担することを
2012 年 12 月号
求め、逆に金額が目標コストの 90%を下回った場合には、請負者が縮減分からより大き
建設プロジェクトにおける裁判外
紛争解決手続(ADR):仲裁および
紛争裁定委員会は唯一の答えに
あらず
な恩恵を受けられるようにすることが考えられます。
このようなアプローチは、より規模の大きい発注者の方が超過分発生の金銭的リスクを
負担できるという前提に基づいています。請負者がリスクを負担することになれば、リスク
に応じて目標コストを高く設定するかもしれません。また、発注者が縮減分から受けられる
2012 年 11 月号
と考えるかもしれません。もっとも、これとは逆のアプローチが採られる場合もあります。
FIDIC 工事下請契約条件書 2011
年版:裁判外紛争解決手続の批評
的考察
分担対象となる一定の範囲を超えた場合に請負者にコストの 100%を負担することを
2012 年 10 月号
義務付けるメカニズムは、発注者において実質的に契約価格の上限が確定することを
アジア季刊版:建設契約における
約定利率
恩恵を減らせば、請負者は、より大きな恩恵を受けるためにコストを抑え、効率を上げよう
意味します。また、分担対象となる一定の範囲を超えた場合の請負者の負担義務をゼロ
に設定すれば、請負者が自らの報酬設定を下げることにつながるかもしれません。
2012 年 9 月号
FIDIC 工事下請契約条件書:
第一版
請負者の報酬の算定に対するアプローチ
請負者の報酬は、本社諸掛りと利益の両方の要素を含みます。請負者が自ら工事を施工
2012 年 8 月号
一部として扱われ、結果として報酬の対象となります。現場の宿舎や駐在員の派遣に
新たな重大判決:2012 年 7 月に
判示された Walter Lilly v. Mackay
事件
要する費用など、請負者が現場で支出したコストも、実コストの一部を構成します。
2012 年 7 月号
請負者の設計作業は、上記のいずれのコスト類型にも分類することができますが、当初で
アジア季刊版:紛争裁定委員会が
下した裁定の執行
する場合(これを下請けに出す場合とは異なり)、その費用は通常、請負者の実コストの
は工事の範囲が明確に定められておらず、固定料率による報酬の計算が困難な場合に
は、実コストの一部となる可能性が高いでしょう。場合によっては、例えば設計要素の早期
完了についてボーナスを組み入れてみるなど、段階的なアプローチの方がより適切かもしれません。
目標コストの取り扱いと標準契約条件書
標準契約条件書を発行している団体の多くは、目標コスト契約による標準契約を発行しており、以下では、それぞれの支払いメカニズムの
特性について考察します。
新土木工事契約書(New Engineering Contract)2013 年版 (以下、「NEC 標準契約書」)
NEC 標準契約書のオプション C および D は、目標コストによるアプローチを可能にしています。オプション C は、工事の内容を規定した
作業工程表と併せて使用する一括総額(ランプサム)契約書です。オプション D(こちらの方が使用頻度が少ないのですが)は、数量
明細書を採用する場合に使用され、請負者は再検測に基づいて支払いを受けます。
請負者は、作業工程表または数量明細書に基づく契約価格(Prices)の見積書という形で、目標価格について入札します。さらに、
実コストの見積金額である規定コスト(Defined Cost)と共に、その規定コストの一定率として計算される報酬の支払いを求め、契約期間を
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通じてコスト償還方式に基づく規定コストの支払い(認められないコストは除外)と、報酬の支払いを受けます。これらの金額は合わせて、
着工以来施工した工事の価格(Price for Work Done to Date:「PWDD」)と総称されます。契約価格は、補償事由の発生により調整され
る可能性があり、またオプション D の場合には再検測によって調整されます。
費用超過分または費用縮減分を分け合うための調整は、契約価格の最終的な合計額(契約期間を通じて調整されたもの)と最終的な
PWDD とを比較して、契約データ(Contract Data)に記載された計算式(費用超過・縮減分を分け合うためのメカニズムを規定)を適用
することによって、契約終了時に行われます。請負者の取分は、プロジェクト・マネージャーの予測に基づいて完成時に暫定的に支払わ
れ、その後、瑕疵証明書の発行後 4 週間以内に実施されるべき最終評価に基づいて調整されます。なお、請負者の取分は、完成前の
支払いまたは控除の対象とならないため、特に契約期間の最終段階においては、請負者の取分について過払いまたは支払い不足が
発生するリスクがあることには、注意が必要です。
ICC 目標コスト契約書 2011
ICC 契約書一式は、以前は英国土木学会(Institution of Civil Engineers)が発行していたもので、これには目標コストを用いた標準
契約書も含まれています。NEC 標準契約条件書とは異なり、請負者の報酬の料率はプロジェクトの目標コストに基づいています。請負者
が毎月提供する計算書には、当該月末までに施工された工事について目標コストとして見積もった評価額と、完成した工事に要した予測
総コストが記載されます。
報酬は、当該月末までに施工された工事の目標コストとして見積もった額に対するエンジニアによる評価をもとに、毎月部分的に認証され
ます。(実コスト償還ベースで計算された)総コストが、工事全体に要するその時点での目標コストを上回ることがあれば、請負者が負担す
る費用超過分を反映させるために、総コストに適切な調整が加えられます。ICC は、この仕組みが、請負者に対する過払いを回避すること
によって発注者を保護し、かつ請負者に対してはコストを抑えるインセンティブを与えることができるとしています。
化学工学会(Institution of Chemical Engineers (I Chem E))バーガンディブック 2013
I Chem E は、プロセス・プラントの工事のための契約条件書を発行しており、施工された工事の内容よりもその成果を重視する契約条件
書を作成することを目的として掲げています。このため、各契約条件書には引受けや性能試験に関する綿密な手続が盛り込含まれていま
す。バーガンディ(目標コスト)ブックは、この支払いメカニズムを採用して NEC と ICC がそれぞれ作成している標準契約条件に相当する
ものです。全体的なアプローチとしては、請負者は実コストベースで、施工した工事について費用の償還を受ける仕組みになっています。
このコストは、当事者が作成した工程表に従って計算されますが、これには、実コストと利益の合計に基づいて計算される場合や、各作業
の単一レートに基づく場合があります。
当事者は、事前にまたは工程表に記載された期間中に目標コストについて合意することができます。変更命令が発行された場合には、
目標コストが調整されることもあります。
(目標コストと比べた)実コストに適用される分担・分配の各範囲についても、契約書の別紙において定めます。
契約期間を通じて実コストについて中間支払いが行われ、目標コストと比較されます。実コストが目標コストを下回った場合、請負者の
最終的な支払請求額には費用縮減分の分配にかかる請求分も含まれなければなりません。
これとは逆に、プロジェクト・マネージャーの判断において実コストが目標コストの最終額を上回ると予想された場合には、請負者に対する
過払いが発生しないように、その時点で中間証明書の金額が調整されます。中間証明書はプロジェクト・マネージャーによる見積りに基づ
いて作成されるため、後に誤りが判明したときは、これを訂正した証明書を発行することができる旨の規定が設けられています。したがって、
発注者の地位は、請負者への過払いを回避することで保護されます。
目標コスト契約に関する最近の判例
AMEC v. Secretary of State for Defense 事件(2013)では、当事者らにおいて、実コストが合意された上限価格を上回った場合、
請負者は 5,000 万ポンドを上限として、超過分について責任を負う旨の上限価格保証条項に合意していました。そして、実コストが目標
コストから上限価格までの範囲内となった場合については、その分担方法について取り決めがなされていました。しかし、契約書には、
実コストが上限額である 5,000 万ポンドを上回った場合の取り扱いについては、明記されていませんでした。
イングランドの高等法院は、この点に関する紛争審査委員会(Disputes Review Board)の決定を検討し、それが「正しいことは明らか」で
ある、と判断しましたが、同委員会は、契約書において上限価格を上回る追加コストに対する請負者の責任は規定の上限額を超えること
はないと定められていたため、請負者は上限額を超過した分の追加コストについて償還を受けることができる、との結論に達していました。
もっとも、上限額を超える実コストを算定する場合、請負者が合理的な理由なく支出したものや不当に支出したコストは償還されません。
なぜなら、これを認めれば契約を通じて採用された支払いに関するアプローチから逸脱してしまうからです。
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結語
目標コスト契約は、請負者は実コストの支払いを受けるものの、プロジェクトの最後に請負者が費用超過分または費用縮減分による調整を
受ける可能性を伴う計算式が適用されるという、特異なコスト償還型の契約です。請負者には、総コストを目標コスト以下に抑え、縮減分に
適用される分配規定の恩恵を受けられるようコスト節減を図るインセンティブが与えられているため、純粋なコスト償還型の契約に伴う
発注者のリスクは軽減されます。
このような契約においては、目標コストが最も可能性が高いと考えられる生産コストについての正確な推定額となることが重要です。一部の
契約条件書(I Chem E など)は、契約の初期段階において規定された目標コストに対し、暫定的な金額が確定していき下請業者から
請求される額が固まっていくのに応じて、当事者らが目標価格の見積りを修正していくことを想定しています。
この作業が適切に実施されれば、請負者は、目標コストが工事を施工するために十分な金額であるとの安心感を得ることができ、かつ
費用縮減の分配を受けるべく費用の節減につながる効率化を図る動機付けも得られることでしょう。
目標コストが過度に低く設定された場合、請負者は補償事由を主張してこれを補完しようとする可能性があります。これに対し、目標コスト
が過度に高く設定されていれば、請負者は生産効率を高めなくてもプロジェクトを完成させることができると分かっているため、効率を高め
ようというインセンティブを欠くおそれがあります。
発注者におかれては、契約期間を通じて過払いが発生するおそれがないように、(費用超過に対する負担分を織り込んだ)中間支払いを
証明する ICC や I Chem E の契約条件書に見られる仕組みを採用することを望まれるかもしれません。これによって、請負者が支払不能
に陥るリスクを、発注者が負担せずに済みます。
なお、コストプラス方式に基づく契約に関しては、請負者が請求するコストが妥当であることを発注者が調べることができるように、透明性の
ある記録管理手続を確保しなければなりません。したがって、契約書には適切な監査条項を盛り込むべきでしょう。
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