偽善者 タルチュフ

2016
TEXTE 5 (和訳)
偽善者 タルチュフ
(タルチュフとオルゴンが教会の前ですれ違う。オルゴンは振り返りタルチュフを見る)
Tartuffe :
(オルゴンが近づいて来るのに気付き、彼の注意を引くため、これ見よがしにお祈りを始める)
主よ哀れみたまえ、私の罪もすべての人々の罪もお許したまえ。
Orgon
:
(タルチュフに近づき話しかける前に、タルチュフに聞こえぬように独りごとを言う)
私は自分の些細でつまらん心配事だけを気にかけてきた。しかし、世の中には自分よりも不幸な
人々がいることが今わかった。神よ、お許しください。自分のことしか考えていない私は本当に
恥ずかしい人間だと思います。
(タルチュフに向かって)
そこのお方、どうかこの金をお受け取りください。いや、拒否なさるな。今、私はあなたがお祈
りされているところをしかと見ましたよ。聖人を見たような気がします。
Tartuffe :
もし、あなた様、そんなことを仰らないでください。私が聖人なんてとんでもございません。
私は罪人の中でもっとも意地汚なく、地上でもっとも罪深き者でございます。
Orgon
:
Tartuffe :
罪人ですって。いったいどんな悪いことをされたのです。
私は昔は裕福でよくお芝居や舞踏会に行ってたものです。でも、復活祭のある日曜日、パリの
ノートルダム寺院でお祈りをあげず、他のことを考えていました。すると突然美しい光が目の前に
現れ私にこう言ったのです。。。いやいやこれ以上話せません。これは秘密です。
Orgon
:
やめないで、話してください。お願いします。
Tartuffe :
いやいや、ある方に話さないようにと言われました。
Orgon
ある方とは、どなたのことですか。
:
Tartuffe :
あなた様にはお分りいただけないと思いますが、ともかくいただいたお金は貧しい方々に与え
ています。それに私のお城もかわいそうな人々のために病院にいたしました。それでも神様は私の
これまでの罪を決してお許しくださらないでしょう。
Orgon
:
Tartuffe :
どんな罪を犯されたのですか。
私の犯した最大の罪は、神の御心に従わなかったことです。許されざる行為なのは重々承知し
ています。実はあなたも自分で気付かぬうちに罪を犯しているのです。
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Orgon
:
何ですって。この私も。そうかもしれませんね。そういえば確かに私は本来あるべきキリスト
教徒ではありませんからね。いいですか、どうかこのお金をお受け取りください。そして私のた
めにお祈りください。
Tartuffe :
ところで、あなた様もタルチュフという人の話をお耳にされたことがございますか。
Orgon
ありませんね、タルチュフですか。そのタルチュフという人はいったいどなたですか。
:
Tartuffe :
実は私のことなんです。あちこちで私のことが非常に噂になっておりまして…今いただいたお
金を私がどうしているのか、ごらんになってください。貧しい方々に与えています。私ではなく、
彼らこそ、そのお金を受けとるに価する人たちなのですから
Orgon
:
Tartuffe :
なんて高尚なお言葉でしょう。あなた様は聖人です。正真正銘の聖人です。
とんでもございません。私は聖人でもなんでもありません。私は哀れな罪人にすぎません。
どうかあなたのお友達に、兄弟にならせてください。
Orgon
:
もちろんですとも。あなた様は今日から私の兄弟です。兄弟よ、それではこれから私の家に行
きましょう、そして家族とともにイエス様のお誕生日を祝いましょう。今日の夜からさっそく私の
家に一緒に住みましょう、だって私たちはもう兄弟ですからね。家内も二人の子供たちもあなたの
存在をきっと喜んでくれるでしょう。
Tartuffe :
兄弟、本当にありがとう。これからはお互いに気軽に呼び合うことにしませんか。
Orgon
もちろんだとも。君は私に気軽に声をかけておくれ。。。私も君にはざっくばらんに話しかける
:
ことにするよ。
Tartuffe :
(オルゴンに気づかれないように軽蔑な笑いを浮かべながら、彼を小馬鹿にしている)
傍白: よし、いいぞ。奴は本当にお人好しだね、おバカさんすぎるよ。私もやすやすと気に入ら
れたようだ。奴の家に入り込めるんだ。幸先良いスタートだ。
Orgon
:
Tartuffe :
兄弟、何言ってるの。一緒に私の家には行かないのかい。
行きますとも、喜んで行きますよ、兄弟の望むところにはどこにでも…
Adaptation du Tartuffe (モリエール原作:タルチュフ)より
脚色
par Yoshinori TACHIBANAKI(橘木芳徳)
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