自立活動だより 平成26年1月発行 今回は、「愛徳分教室」の自立活動の取組について紹介します。愛徳分教室は、愛徳医療福祉センター内に ある紀北支援学校の分教室です。小学部と中学部があり、現在小学部には10名、中学部には7名の児童生徒 が在籍しています。それぞれの学部には肢体不自由普通学級と肢体不自由重複学級が設けられています。 今回、中学部重複学級の取組について紹介します。自立活動の目標を設定するに当たり、生徒の実態把握を 行いました。その中で「口の中によく手を入れる」 「手を触られることを嫌がる」 「手は使おうとしているが物 への関わりが弱い」「AAC機器を使って人とのコミュニケーションを広げたい」という「手」に関する実態 と課題が複数の生徒に見いだされました。それで、 ○「口の中によく手を入れている」→「外に向かう手」 ○「手を触られることを嫌がる…触覚防衛反応」→「触覚防衛反応の緩和」 ○「手は使おうとしているが物への関わりが弱い」→「自分から物に触りに行く、操作性の向上」 などの目標を設定しました。 テーマは「手」です。 私たちの日々の生活に欠かせない手。この「手」には大きく3つの役割があります。 ① ジェスチャーや手話、マカトンなどを通して自分の意思や感情を他の人に伝えるコミュニケーション としての役割 ② 触覚、圧覚、温冷覚、痛覚や物の重みを感じる体性感覚(感覚器)としての役割 ③ 物をつかむ・投げる等の把握と物を弁別する役割 手の機能が高まれば、児童・生徒個々の生活の広がりが見られると考え、下記のような取り組みを 行いました。 【課題Ⅰ】 手を触られるとすぐに引っ込めてしまう、自分から物を触らない(触覚防衛反応) 〈取組内容〉 ①最初に手を洗うことで、温冷の原始系の刺激を入れる。 ②教師の手で防衛反応の弱い部位(例えば上腕や肘)から触覚防衛のある境界まで のマッサージを行う。 ③教師の手を使って生徒の手にマッサージやタッピングを行う。マッサージは 写真1 中心(手首)から末梢(指先)に向けて、指先だけではなく手のひら全体で行う。 ④いろいろな素材(スポンジ、手袋、パフ等 写真1)を使ってマッサージを行う。 〈活動の様子〉 最初は触られることが嫌で、手を引っ込めて逃げていた。手のひらへのタッピングや手のひら全体 でのマッサージを続けていくと、触れられてもじっとしている時間が増えてきた。自分から好きなおも ちゃ(楽器)を触ったり、握って音を出して遊んだりする時間が増えてきた。 =トピックス① 触覚防衛反応とは?= 手に触れられることが苦手、自分から物を触らないことについての話です。前述した②の感覚器としての 役割には、瞬時に熱いもの、冷たいものを触ると手を引っ込めるということがあります。これは自分自身 を守るために行う行動で「原始系」の働きとも言われています。これは私たちが生まれながらに持ってい る行動です。そして③のように触れたものの「素材」や「かたち」「大きさ」を触り分ける働きを「識別 系」といいます。脳の中の「識別系」が発達すると、「原始系」と言われる本能的な働きは抑制され、ほ とんど表にあらわれなくなります。しかし、発達に何らかのつまずきがあると、「識別系」が「原始系」 をうまく抑制できず極端に本能的な行動が残ってしまうと、それが『触覚防衛反応』として出てきます。 =トピックス② 教材教具の宝庫!= マッサージを行う時は優しく触るのではなく、しっかりと触る方が身体で感じる触刺激が小さくなります。 手に触れてのマッサージの後は、いろいろな素材を使いました。今回は手袋やパフを使いました。どのよ うな素材を使えばよいかは触覚防衛の実態によって考えていく必要がありますが、100円ショップの利 用が有効で、スポンジの他いろいろな素材の手袋や化粧用パフ等があり、これらを使えば面白いと思える 素材がたくさん安価で売っていました。また、次の課題に使った風船も100円ショップには大きさや色 のバリエーションに富んだものがありました。100円ショップは教材教具の宝庫です。 【課題Ⅱ】 物への関わりが弱い 〈取組内容〉 ① 天井から吊り下げたキャラクターボードを触る。 (写真2) ② 触りやすく見やすい位置に風船を吊り下げ、集中しやすいように周りに カーテンを付けて風船部屋を作る。 (写真3) 写真2 ③ キャラクターボックスにカラーボールを入れる。 (写真4) ④ 持ちやすい小さなボールを使って玉入れをする。 (写真5) ⑤ お花紙をはさんだ洗濯ハンガーに手を伸ばす。(写真6) 〈活動の様子〉 キャラクターボードや風船は触りやすく見やすい位置に吊り下げ、より関心を 持ちやすいように鈴を付けた。キャラクターボードよりカラフルな風船の方が 写真3 関心を持ち、手を出そうとする様子が見られた。 キャラクターボックスにカラーボールを入れる時、最初手探りで入れていた生徒 も、ボックスの入れる穴を見るようになってきた。カラーボールはやや大きいの で、生徒の手の大きさに合わせた手作りボールを使うとしっかりと握ったり放す 動きがスムーズにできるようになった生徒もいた。洗濯ハンガーを使ってのお花 紙をとる活動では、手元を見ることをより意識させることができた。 写真4 =トピックス③ 教材作り= 今回の活動を行うことで改めて感じたことは、提示する教材の工夫 です。手を使うための教材としては、自分から物に触りたいなあと 思える教材を見つけること(カラフルな風船)や活動に適した教材 (手作りボール)の工夫等が大切であったと思います。売っている 教材もいいですが、児童生徒の実態に合わせた手作り教材の重要性 をより感じました。 写真5 写真6
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