プリウス用高圧ハーネスの新シールド構造 ∼トヨタ自動車 原価改善優秀

自 動 車
プリウス用高圧ハーネスの新シールド構造
∼トヨタ自動車㈱原価改善優秀賞受賞∼
宮 崎 正・紀 平 宗 二・野 崎 隆 男
New Shielding Construction of High-Voltage Wiring Harnesses for Toyota Prius ~Winning of Toyota Superior Award
for Cost Reduction~ ─ by Sho Miyazaki, Souji Kihira and Takao Nozaki ─ As the use of electronic devices in
automobiles continues to expand, so too does the use of wiring harnesses for all power and signal systems at an
accelerating rate. Thus it comes as no surprise that the effect of electromagnetic interference (EMI) generated by the
power system on signal systems and other chassis-mounted electronic devices is a major concern.
Wiring harnesses serve as a route for the direct transmission of EMI, which means that shielding has become an
indispensable element of power system wiring harnesses.
Wiring harness shielding commonly involves the use of electrical cable containing braided shielding together with
shielded connectors. The added cost and size of such countermeasures, however, is an obvious disadvantage.
This paper reports on the development of a new type of low-cost shielded construction for high-voltage wiring
harnesses used in Toyota’s new Prius hybrid electrical vehicle (HEV).
1.
緒 言
近年、車両関連機器の電子化が急速に進み、パワー系及
び信号系のハーネスの増加が加速している。これに伴い、
特にパワー系が発生させる電磁界ノイズが信号系ハーネス
シールド機能付き高圧コネクタの外観写真である。
詳細構造は後述するが、編組電線と電気的に接続が可能
なシールド端末構造を持つコネクタとなっている。
や車載電子機器へ影響を及ぼすことが懸念されている。車
両ハーネスは、そのノイズの伝搬経路になることが多く、
表1
高圧ハーネス外観と車両搭載位置
パワー系ハーネスのシールド対策は必要不可欠となってき
ている。
一般的なハーネスのシールド対策としては、編組線等を
用いたシールド電線の採用及びこれに対応したシールドコ
ネクタの採用があるが、いずれもハーネスコストの増加や
ハーネスの大型化を引き起こすこととなる。
本論文では、トヨタ自動車㈱製ハイブリッド車用高圧
ハーネスを例に、新プリウスに搭載された低コストなシー
ルド構造を持った高圧ハーネスについて報告する。
2 − 1.
編組電線を用いた従来高圧ハーネス
表 1 は、トヨタ自動車㈱製クラウン 42V(マイルドハイ
ブリッド)とエスティマ ハイブリッドに採用されたモー
ターとインバータを接続する高圧ハーネスの外観写真と高
圧ユニットの車両搭載位置を示した図である。
両車両ともに編組電線を用いたシールド構造となってお
り、ハーネス端末にはシールド機能を有したコネクタが用
いられている。編組の端末はコネクタのシールド部及び高
圧ユニットに電気的に接続されている。
写真 1 は、エスティマ ハイブリッドに搭載されている
写真 1
エスティマ HEV 搭載のシールド高圧コネクタ外観写真
2 0 0 5 年 9 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 16 7 号 −( 17 )−
2 − 2.
一括シールド構造を用いた新高圧ハーネス
表 2 は新プリウスに採用された高圧ハーネスである。
表 2 で示された一括シールド構造を用いた高圧ハーネス
を分解した写真が 写真 2 である。
本高圧ハーネスは、防水と通電機能を持った電線とコネ
クタ部及びシールド部そして外装部から構成されている。
シールド部以外の部分では、従来の防水ハーネスとほぼ同
様の構成となっており、一括シールドは言い換えれば従来
ハーネスにシールドを付加した構造で非常にシンプルで
図1
シールドコネクタ構造比較 *
ある。
表2
トヨタ新プリウス高圧ハーネス構造 *
図2
シールド端末処理
通常モーター回路では、3 極が使用される為、上図の
シールド端末処理を 3 箇所行う必要がある。
これに対し、一括シールドでは、編組線端末の固定化を
行うのみの作業であり、電線の皮剥等の作業を省略するこ
とが可能である。また、3 極を一括してシールドする構造
である為、三本の電線を通すという作業は付加されるが、
編組線の端末加工は各電線で行う必要がない。
3 − 2.
編組電線シールドと一括シールドとの比較
図 3 は、エスティマ ハイブリッドに採用されたモー
ターとインバータを接続する高圧ハーネスと、新プリウス
写真 2
3 − 1.
高圧ハーネス構造概要写真
に採用された高圧ハーネスとを比較したものである。
高圧コネクタの比較
図 1 は、編組電線を用いたシールドコネクタと一括シー
ルド構造を用いたコネクタとの比較を行ったものである。
シールド部をコネクタ防水構造の外に出したことにより、
構造が非常に簡単になっていることが分かる。
図 2 はハーネス端末のシールド処理方法を比較した写真
である。
編組電線を用いたコネクタでは、編組電線の段階的な皮
剥処理を行った上で、コネクタシールドシェルと接続する
為の端末構造を取り付ける。
図3
HEV 用高圧ハーネスの構造比較
−( 18 )− プリウス用高圧ハーネスの新シールド構造 ∼トヨタ自動車株式会社原価改善優秀賞受賞∼
一括シールド構造の採用により高圧ハーネス加工工数や部
品点数の削減を行うことが可能となり、大幅な製品コスト
もちろん双方とも、車両ラジオノイズへの影響はないレ
ベルである。
4−3
ダウンを行うことができた。
車両環境暴露後のシールド性能
従来編組線
構造と一括シールド構造の大きな違いとして、従来構造で
4.
は電線被覆にシールド編組部が覆われ車両環境から保護さ
一括シールド性能の確認
れているのに対し、一括シールドはシールド部が暴露され
一括シールド構造におけるシールド性能の確認を行った。
4−1
シールド測定方法
ている。
図 4 に示す、吸収クラン
プ法にてシールド性能の測定を行った。本方法は IEC
そこで、塩害試験(ISO8092-2)後のシールド性能の比
較行った。
図 6 に塩害試験前後でのハーネスシールド性能測定結果
60096-1 に準拠した測定方法である。
を示す。
10MHz 以下の領域に於いて、約 10dB 程度のシールド性
能の低下があった。これは編組線が錆びることにより起こ
るシールド部の電気抵抗の増加が原因と考えられる。
ただ、全体性能が大きく低下するものではなく、本耐久
試験の後であっても車両ラジオノイズに対する影響がない
レベルであった。
Sample :
Initial Period
0.5m (wire length)
90
80
shielding effect [dB]
図4
70
シールド測定方法
60
50
40
After ISO8092-2
0.5m (wire length)
30
20
10
4−2
シールド測定結果
0
0.1
編組電線シールドと一括
1
10
100
Frequency [MHz]
シールドのシールド性能を測定した結果を図 5 に示す。
TEST method :
Absorption clamp
Shielding Effect of Bundle Shield
測定周波数帯は、特に車両ラジオノイズ帯への影響を考え、
0.1 ∼ 100MHz での測定を行った。
図6
耐久試験後のシールド性能
結果、ハーネス端末コネクタも含めた上で、4MHz 以下
の領域で約 8dB 程度のシールド性能の低下が見られたが、
4MHz 以上の領域では最大 20dB 程度の向上が見られた。
これは、ハーネスシールド構造に起因する性能差ではな
く、ハーネス端末のシールド接続構造の違いによるもので
5.
結 言
ハイブリッド車用高圧ハーネスのシールド構造として、
あることが判明しており、編組電線と編組線を用いた一括
一括シールド構造を開発した。本構造は安価にシールド機
シールドではシールド性能に大きな違いはないと考えて
能を付加できる構造であると考える。
シールド性能に関しては、シールド部が車両環境下に暴
いる。
露されているものの、ハイブリッド車用高圧ハーネスの
Sample :
Shielded Cable Type
1m (wire length)
90
shielding effect [dB]
80
70
シールドとして充分実用に耐えるものであると考えられる。
今後車両用ハーネスの低コストノイズ対策方法として、
一括シールドは注目されるのではないかと考える。
60
50
40
Bundle shield Type
0.5m (wire length)
30
6.
謝 辞
20
本製品はトヨタ自動車㈱より 2003 年度原価改善優秀賞を
10
0
0.1
1
10
Shielding Effect of Shielded Cable Type & Bundle Shield Type
図5
頂き大変光栄であると伴に、関係者一同今後の開発の大き
100
Frequency [MHz]
TEST method :
Absorption clamp
な励みとなりました。
初期シールド性能測定結果
2 0 0 5 年 9 月 ・ SEI テクニカルレビュー ・ 第 16 7 号 −( 19 )−
参 考 文 献
(1)電気学会・ 42V 電源化調査専門委員会、「自動車電源 42V 化技術」、
株式会社オーム社、
(2003 年、第 1 版第 1 刷)
執 筆 者 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------宮 崎 正:㈱オートネットワーク技術研究所 E&E 研究部 HEV 開発室
紀 平 宗 二:住友電装㈱ 部品事業本部 コネクタ事業部 第一設計部
コネクタ第 3 グループ 担当課長
野 崎 隆 男:住友電装㈱ EENS 開発本部 HEV 開発部 部長
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−( 20 )− プリウス用高圧ハーネスの新シールド構造 ∼トヨタ自動車株式会社原価改善優秀賞受賞∼