パンデミック対策のモデル国、スイス

2008 年 3 月 4 日
パンデミック対策のモデル国、スイス
パンデミック対策の進んだ中立国 スイスの状況に関するお知らせします。
このように対策が進んだ国でも、国民の側から見ると、パンデミックの脅威を感じていないとい
う気になる最近の報道もあります。
パンデミック対策のモデル国、スイス
2007 年 5 月 15 日
スイス連邦保険局(BAG / OFSP) は 5 月 15 日、パンデミック対策(スイス連邦保健局サイト
http://www.bag.admin.ch/dokumentation/medieninformationen/01217/index.html?lang=de&msg-id=
12571)を発表。
鳥インフルエンザウイルス H5N1 の遺伝子が変異を起こし、
人から人へ感染するウイルスとなり、
世界的に大流行することをパンデミックという。この予防対策の 1 つとして、スイスではマスクを
1 人あたり 50 個備蓄しておくことを勧告している。
このウイルス H5N1 の遺伝子が変異し、いつ人から人への感染になってもおかしくない状況の中、
スイス政府は、国が責任をもって行う予防対策と、国民が行うべき予防対策を区別して発表した。
スイスの完璧な対策
1 パック 50 個入りのマスクが、約 5 フラン(約 490 円)で大手スーパーのミグロやコープで数
日後、販売されるという。なぜ今手に入れるべきなのか?
スイス連邦保険局のジャン・ルイ・ツルヒャー氏は、
「世界中がマスクを必要とする時が来ること
はまちがいない。その時パニックにならないため」と説明。
マスクは、政府がパンデミックの警告を発した時に使用するようにという。さらに「手を石鹸で
定期的に洗う。鼻をかんだり咳をしたりした時はティッシュを使い、すぐゴミ箱に捨てる。握手は
避ける」などを個人の責任で行うことを勧告している。
一方、政府は、国の責任で、800 万人分のワクチンをすでに注文しており、夏前にはストックが
完了するという※1。
タミフルも 200 万人分用意されている※2。ツルヒャー氏は、
「最悪の事態を考えても、人口 700
万人のスイスにとっては 200 万人分で十分」と保証する。
WHO のテーマ
「世界の中でもスイスとオーストリアは、早い時期からパンデミック対策を行っている代表的な
国。対策もやればここまでできるというモデル」と語るのは WHO 医務官、進藤奈邦子氏。
H5N1 鳥インフルエンザは A 型ウイルスで、A 型インフルエンザは四季のある地域では冬に流行
するが、熱帯では夏でも流行する。それが突然変異を起こすのは時間の問題という。変異ウイルス
が飛行機などによるヒトの移動で、スイスに広がることは十分考えられる。
ヒトからヒトへの感染になった場合の新型ウイルスのワクチン確保の問題はまさに、WHO の第
60 回総会の大きなテーマの 1 つ。
鳥インフルエンザウイルス株を提供しているタイやインドネシアは、ウイルス株を WHO と共有
する代わりに、これらの国が早期にワクチンを十分確保できる保証と、長期的にはワクチンを自国
で生産する技術を先進国から移転する保証を要求している。
進藤医務官は、「こうした枠組み作りが今回の総会中に設定できるかが問題の焦点になっている
が、メンバー国が世界の平和と健康を望む強い意志をもっていれば成功する」という。
しかし、スイス国民は・・・パンデミックへの脅威を感じていない?
2008 年 2 月 18 日
http://www.swissinfo.ch/eng/search/Result.html?siteSect=882&ty=nd&sid=8754197
スイス連邦保健省による世論調査では、10 人に 1 人のスイス人は、パンデミック時に使用する
マスクの備蓄を面倒だと感じていることがわかった。
調査では、ほとんどの住民はマスクを購入するつもりがないらしい。調査対象 1,011 人の回答者
の半数は、パンデミックが起こらないだろうと考えており、回答者の 3 分の 1 はパンデミック対策
の意義に疑問を持っているようだ。
保健省当局は、昨年個人の衛生保持−マスクの備蓄のほか、石鹸を使った一般的な手洗い方法、
咳、くしゃみをした際のティッシュの使用、そして握手を避けること−に関する勧告を発したばか
り。
保健省当局は、パンデミック発生の危険性は近年になく高まっていること、そして、インフルエ
ンザウイルスはいつでも変異しうることを警告している。
スイスインフォ・インタビュー
WHO 医務官 進藤 奈邦子 氏
WHO は、パンデミック時には最低でも 200 万∼700 万人の死者がでると
報告しています。また、パンデミックが広がる速度を推定した科学者たちは、
3 カ月で世界の隅々まで広がると言っています。
世界銀行は、世界経済に与える損失は 8000 億ドル(約 92 兆円)と推定
しています。SARS※が 400 億ドル(約 4 兆 6000 億円)でしたから、その
20 倍。インパクトは大きいということです。
スイスは、パンデミックを予想して、今年 5 月に マスクを売り出し、抗
インフルエンザウイルス薬タミフルを 200 万人分、ワクチンを 800 万人分
用意しました。特にワクチンは全人口分を用意しました。
スイスは H5N1 型ウイルスがパンデミック株になるという前提で、このウイルスからのワクチン
を用意しています。もともとインフルエンザのワクチンは、打てばかからないという、はしかなど
のワクチンとは違い、重症化を防ぐワクチンです。
スイスはパンデミックになる前に、老人や子供などを皮切りに短期間に予防注射を打って、部分
免疫を作って入院患者を減らし、そうして時間をつないでおいて、パンデミックウイルスから取れ
る本物のワクチンを打とうと考えています。パンデミックウイルスのワクチン製造には 6 カ月位か
かりますから、最初のインパクトを減らして待つという予防は正しいと思います。
やればここまでできるというモデル国で、しかし、これは例外です。カナダやドイツなどは何も
しないといっていますから。ちなみに日本は 2000 万人分のワクチンを用意しています。
参考:サイト管理者註
※1:2006 年 12 月 5 日のメディア報道で、スイスは世界で初めてプレパンデミックワクチン 800
万人分の備蓄計画を発表している。
http://www.swissinfo.ch/eng/search/Result.html?siteSect=882&ty=st&sid=7322504
※2:2006 年 3 月 9 日のメディア報道では、スイスは全人口の 4 分の 1 に当たる 200 万人分のタ
ミフルの備蓄を完了している。
http://www.swissinfo.ch/eng/search/Result.html?siteSect=882&ty=st&sid=6531552
※3:Severe Acute Respiratory Syndrome の略。日本語では「重症急性呼吸器症候群」、「サーズ」
という。2003 年 11 月から 2004 年 7 月にかけて世界を席巻し、
感染者 8,069 人うち死亡者 775
人を出した感染症。