第33回和漢医薬学会学術大会 和漢薬イノベーションの創生 特別講演 座長:礒濱洋一郎 東京理科大学 薬学部 応用薬理学研究室 経験に裏付けられた漢方薬の効能を明らかにするため の基礎から臨床へのトランスレーショナルリサーチ — 漢方薬六君子湯研究を通して — 上園保仁1,2,3,4、宮野加奈子1 国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野、 国立がん研究センター先端医療開発センター支持療法開発分野、 国立がん研究センター中央病院支持療法開発センター、 4 国立がん研究センター社会と健康研究センター健康支援研究部 1 2 3 特 別 講 演 経験に裏付けられた漢方薬の効能を明らかにするための 基礎から臨床へのトランスレーショナルリサーチ — 漢方薬六君子湯研究を通して — ○上園保仁1,2,3,4、宮野加奈子1 1 3 国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野、2 国立がん研究センター先端医療開発センター支持療法開発分野、 国立がん研究センター中央病院支持療法開発センター、4 国立がん研究センター社会と健康研究センター健康支援研究部 平成 19 年施行の「がん対策基本法」に基づき策定された 「第Ⅱ期がん対策推進基本計画(平成 24 〜 28 年)」に基づ のか?」を明らかにするための基礎研究、「本当に効くの か?」を証明するための臨床研究を行っている。 いて進められてきたがん対策は、昨年 12 月「がん対策加 本講演では、科学的エビデンスが得られてきた漢方製剤 速化プラン」が発表され、1. 予防、2. 治療・研究、3. が のひとつである「六君子湯」の研究を紹介する。これまで んとの共生をテーマに重点的な支援が行われているところ の私たちの研究において、六君子湯に含まれる生薬の各成 である。特に3. がんとの共生においては1)就労支援、2) 分が末梢組織で食思促進効果を持つ唯一のホルモンである 支持療法の開発・普及、3)緩和ケアの推進が掲げられ、2) 「グレリン」の分泌を促進し、さらにその標的分子である 支持療法の開発・普及では、がん治療に伴う副作用軽減の 「グレリン受容体」の感受性を上げるなど、相加・相乗的 具体策として、栄養療法、リハビリテーション療法に加え、 にグレリンシグナルを増強することを明らかにした。また、 漢方薬を用いる治療およびその研究を進めることと明記さ がん患者の QOL を低下させるがん悪液質では血中グレリ れた。 ンレベルがすでに上昇しており、そのためグレリン製剤の がん患者の苦痛はがんにより引き起こされる肉体的・精 追加よりむしろグレリンシグナルを増強する製剤の使用が 神的、社会的な痛みから、抗がん剤、放射線治療の副作 推奨される。これまでに六君子湯がグレリン抵抗性を改善 用によるものなど多岐にわたる。患者の Quality of Life し、グレリンシグナルを増強することを明らかにしている (QOL)の維持・向上には総合的な対応が望まれるが、既 ことから、六君子湯ががん悪液質患者の食思改善、嘔気嘔 存の処方やケア体制では十分な対応ができていない。漢 吐に対する改善作用に有効である可能性が十分考えられ 方薬は日本人の体質および日本の土壌に合わせて発展して る。本年、複数の老化マウスモデルを用いた研究において、 きた症状改善能を有する複合薬剤である。近年さまざまな 六君子湯がマウスの寿命を延長させること、長寿遺伝子と 「漢方薬」が、がん治療の補完療法として、がん患者の症 して知られるサーチュイン遺伝子を活性化すること、心筋 状緩和およびがん治療の副作用軽減に奏効することが明ら の石灰化や脳内ミクログリア過活動を抑制すること、加え かとなってきた。 て骨格筋萎縮(サルコペニア)を改善することを見出し、2 私たちは、国立がん研究センターにおいて、がん患者が 月 2 日には Springer-Nature 社よりプレスリリースが行わ 満足した効果を得られていない、いわゆるアンメットメ れた(Fujitsuka N et al., Mol Psychiatry, 2016)。このよ ディカルニーズに対し、薬物開発、新処方をめざした橋渡 うに六君子湯は本邦が直面する超高齢化社会、日本におけ し研究を行っている。その中でいくつかの「漢方薬」がこ る健康寿命の延伸にも貢献できる可能性を秘めている。今 れまで満足いく結果の得られなかった身体症状を改善する 回基礎から臨床へのトランスレーショナルリサーチを行っ 薬物として注目されてきた。私たちは、終末期がん患者の ている立場から、漢方薬の有効性と可能性、未来について 食思不振、体重減少、抗がん剤による吐き気やしびれ、痛 その一端をご紹介できればと思っている。 みなどの副作用症状への漢方薬の効果について「なぜ効く 【略歴】 平成 60 年 産業医科大学 卒業 平成 元年 産業医科大学大学院 修了 平成 3 年 米国カリフォルニア工科大学生物学部門 ポストドクトラルフェロー 平成 16 年 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内臓薬理学講座 助教授 平成 21 年 国立がんセンター研究所がん患者病態生理研究部 部長 (平成 22 年 11 月名称変更:国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野 分野長) 平成 27 年 国立研究開発法人国立がん研究センター先端医療開発センター支持療法開発分野 分野長 兼任 平成 27 年 国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院支持療法開発センター 兼任 平成 27 年 国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター健康支援研究部 兼任 第33回和漢医薬学会学術大会 29 第33回和漢医薬学会学術大会 和漢薬イノベーションの創生 大会長講演 座長:服部征雄 富山大学名誉教授 漢方理論を基盤とした和漢薬の 薬理・薬物動態学的研究 —和漢薬イノベーションの創生をめざして— 杉山 清 星薬科大学 副学長 大会長講演 漢方理論を基盤とした和漢薬の薬理・薬物動態学的研究 —和漢薬イノベーションの創生をめざして— 杉山 清 星薬科大学 副学長 今日、和漢薬は薬物療法において不可欠なものとなっ して行った研究です。 ている。しかし、「科学」という土俵に立って漢方薬を見 口から飲んだ薬は、小腸から吸収されて、肝臓で代謝 た場合、決して誉められる現状ではない。 を受けて、血管の中を巡り、やがて標的臓器等に達し、 1. 和漢薬は本当に効くのか(薬効の立証) 効果を発揮します。その後、薬としての役割を終え、尿 2. 何が効くのか(薬効成分の解明) や大便中に排泄されます。薬物動態学とは、このような 3. なぜ効くのか(作用機序の解明) 薬の体内での動きを研究する学問領域です。これまでに 4. どの製品も同じように効くのか(品質の保証) 私が行った主な研究は、 「水と薬物動態学」 、 「バイオマー 5. 本当に安全か(安全性の立証) カーとしての薬物動態学」 、「和漢薬動態学の創生」です。 など、西洋医学では当然要求されているようなことが、 これらの研究は、いずれも漢方理論を基盤として生まれ 和漢薬ではほとんど解明されていない。 た研究です。「水と薬物動態学」の研究では、「身体の約 では、科学的根拠の希薄なものは毒にも薬にもならな 65%は水である」、 「薬は水とともに体内循環する」、「水 いのか。その答えは多分、西洋医学では高い確立で「薬 の流れを解明すれば薬の動きがわかる」という仮説の基 ではない」であり、和漢薬の世界では「薬となり得る」で に、水の流れを制御するアクアポリンと呼ばれる水チャ あろう。この見解の相違は、西洋と東洋における思想や ネルの研究を種々展開しました。 「バイオマーカーとして 学問あるいは技術の伝承の差に起因するものと考えられ の薬物動態学」の研究では、 「証」は「兆し」であり疾病の るが、今後の医療における和漢薬の役割を考えた場合、 バイオマーカーです。この研究では、 「未病」のバイオマー これらに客観性を持たせることは不可欠なことであろう。 カーに挑戦しました。 「和漢薬動態学の創生」の研究では、 私は、 「日本人としての心を投影させた教育や研究を行 「効果を示す成分は、必ず吸収される」という常識を捨て、 なおう」を主なコンセプトとして教育や研究を行ってき 「和漢薬においては、吸収されない成分が重要な効果を示 ました。40 代までは,和漢薬の薬理学的研究を行い、そ す」という仮説に立ち、和漢薬中の非吸収成分の機能を、 の後は薬物動態学的研究を主に行ってきました。薬理学 腸内細菌に焦点をあて、種々研究しました。 研究の主なものに、 「シスプラチンの副作用に対する十全 完成を見ない研究も多くありますが、今後若い研究者 大補湯の軽減効果」と「猪苓湯の膀胱発がん予防効果」が が、私の研究を礎として、大きな花を咲かせてくれるこ あります。前者は、 「補気・補血」の考え方を基盤として とを期待しています。 行った研究です。また、後者は、 「水」の考え方を基盤と 【略歴】 学 歴: 1974 年 3 月 1979 年 3 月 【職歴】 1979 年 4 月 1980 年 4 月 1988 年10 月 1997 年 4 月 2001 年10 月 2003 年 4 月 2013 年 5 月 2014 年 4 月 2016 年 4 月 現在に至る 静岡薬科大学卒業 静岡薬科大学大学院 薬学研究科 博士課程修了 薬学博士 取得 米国ピッツバーグ大学理学部・博士研究員 米国ピッツバーグ大学理学部・研究助教授 米国ノースウエスタン大学医学部・客員助教授 静岡県立大学 薬学部 病態薬学教室 助教授 星薬科大学 薬動学教室 助教授 星薬科大学 薬動学教室 教授 学校法人星薬科大学 理事 星薬科大学 副学長 星薬科大学 特任教授 / 副学長 第33回和漢医薬学会学術大会 33 第33回和漢医薬学会学術大会 和漢薬イノベーションの創生 学会賞受賞講演 座長:新井 信 東海大学 医学部 専門診療学系漢方医学 葛根湯の作用機序と「証」(適応症) 白木公康 富山大学 医学薬学研究部ウイルス学 学会奨励賞受賞講演 座長:新井 信 東海大学 医学部 専門診療学系漢方医学 ビノレルビンによる血管傷害に対する マオウ抽出物の有効性に関する基礎的検討 小中 健 徳島市民病院 薬剤部 葛根湯の作用機序と「証」(適応症) 学会賞受賞講演 白木公康 富山大学 医学薬学研究部ウイルス学 和漢薬の研究として、 「グリチルリチンの作用機序」「和 析し、それらの活性物質 Eugeniin と Moronic 酸を同定 漢薬に含まれる抗ウイルス活性の検出と作用物質の同定」 しそれらの作用機序を決定した。 「葛根湯の作用機序の解明」等を通じて、和漢薬の基礎か 「葛根湯の作用機序の解明」 ら臨床への橋渡しの研究を行ってきた。 葛根湯は7 つの構成生薬からなる感冒等を主体として 「グリチルリチンの作用機序」 使われる。インフルエンザ感染マウスを上気道感染症の 慢性肝炎やアレルギー疾患に使用されていたグリチル モデルとして、インフルエンザ感染に伴う「発熱カスケー リチンの作用機序は、グリチルリチンがゴルジ体から細 ド」を明らかにした。その発熱機序に基づき、 「感冒」に 胞膜に至る細胞内輸送のトランスゴルジ領域の輸送を修 対する葛根湯の作用機序を解明した。この葛根湯の作用 飾することによって、細胞表面の性状を修飾し、種々の 機序、作用物質のシンナミル化合物の特徴を明らかにし 作用を発揮することを明らかした。 (平成 6 年和漢医薬学 て、伝統的な葛根湯の「証」適応症の正しさを理論的に裏 会奨励賞) 付けることができた。葛根湯の作用は1 種類のシンナミ 「和漢薬に含まれる抗ウイルス活性の検出と作用物質の ル化合物の作用ではなく、伝統的に言われてきた多成分 同定」 による総和としての作用であることも実験的に明らかに 和漢薬研究所の生薬研究で収集された多くの生薬の抗 できた。以上のように1 つの方剤の作用機序を明らかに ウイルス活性を、DNA,RNA ウイルス、エンベロープウ することで、伝統的な「証」には、奥が深いこと意義深い イルスなど複数のウイルスの細胞培養レベルで増殖阻害 ことが理解できた。 作用をスクリーニングし、抗ウイルス活性を有する生薬 以上のように、ウイルスの研究をベースとして、多く を選択した。そして、それらの生薬を単純ヘルペスウイ の共同研究者の貢献の下、和漢薬の有用性、作用機序の ルス感染動物に経口投与して、治療効果をアシクロビル 解析を行い、上記のような成果を得た。これらの研究成 と比較した。そして、アシクロビル並みの抗ウイルス活 果が、和漢薬研究に貢献してきたとして、評価いただい 性を有する生薬を見出すとともに、薬理作用と薬効を解 たことを光栄に思います。 し ら き きみやす 氏名 白木 公康 63 歳 【略歴】 昭和52 年 昭和52 年 昭和53 年 昭和55 年 昭和59 年 平成 2 年 平成 2 年 平成11 年 平成16 年 平成19 年 平成21 年 平成22 年 平成25 年 大阪大学医学部卒業 大阪大学医学部附属病院小児科にて臨床研修 大阪市立桃山病院感染症センター(54 年 4 月) 大阪大学微生物病研究所助手(高橋理明教授) 米国ペンシルバニア州立大学医学部微生物学教室 大阪大学微生物病研究所助教授(高橋理明教授) 富山医科薬科大学医学部ウイルス学教室教授 遺伝子実験施設長(13 年) 図書館長 医学部副学部長(21 年) 臨床研究・倫理センター長(25 年) 医学部評議員 (23 年 ) 医学部医学科長 (27 年 ) 【受賞】 平成 5 年 多ケ谷勇記念イスクラ奨励賞 平成 6 年 和漢医薬学会奨励賞 平成27 年 富山新聞文化賞 【和漢医薬学会における活動】 平成 5 年 和漢医薬学会入会 平成 5 年 和漢医薬学会雑誌編集委員 平成 6 年 和漢医薬学会奨励賞 「和漢生薬によるウイルス感染症の治療の研究 グリチルリチンの抗 B 型肝炎ウイルス作用機序の解明」 平成 8 年 和漢医薬学会評議員 平成9~10 年 「小柴胡湯による副作用検討班」班員(小橋恭一理 事長、鈴木宏班長) 平成27 年第 32 回和漢医薬学会学術大会会長として学会を主催 第33回和漢医薬学会学術大会 37 ビノレルビンによる血管傷害に対するマオウ抽出物の有効性に関する基礎的検討 学会奨励賞受賞講演 小中 健 徳島市民病院 薬剤部 【目的】ビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍剤であるビノ よびミトコンドリア膜電位の低下に対して有意な抵抗を レルビン(以下,VNR)は投与時に血管痛を発現しやす 示した.これらの結果より,ATP 産生およびミトコン く,血管外漏出時には細胞を壊死させるという難点を持 ドリア膜電位に大きく関与する細胞内カルシウム濃度を つ.これまでに神経系細胞や内皮系細胞における漢方薬 測定した結果,有意に持続的な上昇が得られた.また, の影響について研究を進めて多くの知見を得てきた.今 VNR による血管傷害に深く関わっている eNOS のリン 回,それをもとに,正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(以下, 酸化を測定した結果,マオウ抽出物により VNR による HUVEC)を用いて VNR により酸化ストレスなどを介し eNOS のリン酸化阻害が抑制され,Akt のリン酸化には て誘発される内皮細胞傷害に対する葛根湯構成生薬抽出 影響を与えなかった. 物の影響について,細胞内カルシウム濃度変化と血管内 【考察】マオウ抽出物の前処置により VNR に誘発される 皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性の変化を中心に 細胞傷害だけでなく,脱共役作用も減弱されたことから, 評価・検討を行った. VNR 処置後の生存細胞は正常な ROS 産生やカルシウム 【方法】一定濃度に播種した HUVEC を37℃,5% CO2 条 ホメオスタシスが維持された可能性が示唆された.さら 件下で2 日間培養した後,葛根湯構成生薬の熱水抽出物 に,その機序は Akt のリン酸化に影響を与えないことか を添加し,2 時間インキュベートした.その後,生薬抽 ら AMPK 経路を介した eNOS のリン酸化維持によるも 出物を取り除き,5µM VNR 含有培地に交換し,24 時 のであった.マオウがタンニンを多く含有している点や 間インキュベートし,ATP assay による細胞傷害の評価 主成分であるエフェドリン単独処置では同様の実験結果 や JC-1 によるミトコンドリア膜電位の評価を行った.ま を得られなかった点から,マオウ抽出物中のポリフェノー た,Fluo4-AM を用いて構成生薬処置によるカルシウム ル骨格を有する化合物が関与している可能性が大きいと 濃度変化を測定し,Akt および eNOS のリン酸化の変化 考えられたが,今後,更なる精査が必要である.本研究 を Western blotting にて測定した. 結果は臨床における天然医薬品の適正・有効利用に対す 【結果】7 種類の葛根湯構成生薬抽出物のうち,マオウ抽 るエビデンス蓄積に寄与するものと考えられる. 出物の前処置によってのみ VNR による ATP 産生低下お こ な か けん 氏名 小中 健 生年月日 昭和 62 年 3 月 15 日(29 歳) ※記載日現在 【現職】 徳島市民病院 薬剤部 薬剤師 【現住所】 〒 770-0051 徳島県徳島市北島田町 1 丁目 96-5 (電話)090-5712-8459 【学歴】 平成17 年3 月 徳島文理高等学校 卒業 平成17 年4 月 京都薬科大学 入学 平成21 年3 月 京都薬科大学 卒業 平成22 年4 月 徳島大学大学院博士前期課程 入学 平成24 年3 月 徳島大学大学院博士前期課程 卒業 平成24 年4 月徳島大学大学院薬科学教育部薬学専攻博士課 程 入学 平成28 年3 月徳島大学大学院薬科学教育部薬学専攻博士課 程 卒業 38 第33回和漢医薬学会学術大会 【学位】 博士(薬学) (徳島大学甲薬 221 号) 【資格】 薬剤師 平成 21 年 6 月 16 日(第 437336 号) 認定実務実習指導薬剤師 平成 26 年 8 月 15 日(第 14123966 号) がん専門薬剤師 平成 28 年 1 月 1 日(認定番号 15-0055) 【職歴】 平成21 年4 月日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 入社 平成21 年7 月日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 退職 平成21 年8 月 徳島大学病院 薬剤部 入職 平成28 年4 月 徳島大学病院 薬剤部 退職 平成28 年5 月 徳島市民病院 薬剤部 入職 (現在に至る) 第33回和漢医薬学会学術大会 和漢薬イノベーションの創生 シンポジウム1 【次世代を担う若手研究者の会】シンポジウム 和漢薬のアドバンテージに迫る若手の挑戦 オーガナイザー:窪田香織 福岡大学 薬学部 臨床疾患薬理学 東田千尋 富山大学 和漢医薬学総合研究所 神経機能学 シンポジウム2 和漢薬の有用性を検証するための研究戦略 オーガナイザー:礒濱洋一郎 東京理科大学 薬学部 応用薬理学研究室 赤瀬朋秀 日本経済大学大学院 シンポジウム3 「薬学部における漢方医学教育がめざすもの」 オーガナイザー:新井 信 東海大学 医学部 専門診療学系漢方医学 金 成俊 横浜薬科大学 シンポジウム4 急性期・重症入院患者への漢方治療: 現代医療の最前線に漢方を オーガナイザー:元雄良治 金沢医科大学 腫瘍内科学 小野孝彦 国際医療福祉大学熱海病院 腎臓内科 シンポジウム5 薬剤師シンポジウム 「これからの薬剤師に漢方知識は必要か?」 オーガナイザー:石毛 敦 横浜薬科大学 薬学部 漢方薬学科 シンポジウム 1 【次世代を担う若手研究者の会】 シンポジウム 和漢薬のアドバンテージに迫る若手の挑戦 8 月 27 日(土) 9:00 〜 10:20 A 会場(メインホール) オーガナイザー シンポジウム 福岡大学 薬学部 臨床疾患薬理学教室 東田千尋 富山大学 和漢医薬学総合研究所 神経機能学 和漢薬研究を推進するためには、研究の中心的な 療の充実へ貢献する研究、新しい研究の潮流を生み 担い手である若手研究者が、互いに情報交換し合い 出す研究が推進されることが大きく期待されます。 研究レベルを高めることが必須です。これを実現す 今大会では、 「次世代を担う若手研究者の会」の2 るために和漢医薬学会では、 「次世代を担う若手研究 年目のシンポジウムとして、" 和漢薬のアドバンテー 者の会」を発足させています。現在の入会者はすでに ジに迫る若手の挑戦 " と題して、意欲的な研究を進 50 名を越えました。多くの若手研究者(自称若手も めている若い3 名の先生方のご研究を紹介していただ 含む)が和漢医薬学研究に情熱を持って参画し、切磋 きます。今回報告されるそれぞれのアプローチやコ 琢磨して質の高い研究を進めることは本学会の活性 ンセプトは、和漢薬の大きな可能性を提示するもの 化・発展において必要不可欠です。フレッシュな発 と確信します。 想と実行力によって、和漢薬の叡智が紐解かれ、医 40 窪田香織 第33回和漢医薬学会学術大会 S1-1 S1-2 柴胡剤に対する心拍変動スペクト ル解析の有用性についての検討 脳波解析によるアルツハイマー病 モデルラットを用いた酸棗仁湯の 睡眠障害改善作用 ○須本康寛1、貝沼茂三郎2、村上 綾1、小林大介1、 窪田敏夫1、島添隆雄1 ○森山博史1、高崎浩太郎2、長尾昌紀3、藤田柊平4、 久保田直樹4、窪田香織4、桂林秀太郎4、渡辺拓也4、 江頭伸昭5、岩崎克典3,4 1 2 九州大学大学院 薬学研究院 臨床育薬学分野、 九州大学大学院 医学研究院 地域医療教育ユニット 【目的】柴胡剤は、神経症や不眠症など自律神経失調が強く 福岡大学大学院 薬学部 臨床疾患薬理学教室、 帝京平成大学 薬学部、3 福岡大学 加齢脳科学研究所、 4 福岡大学 薬学部 臨床疾患薬理学教室、5 九州大学病院 薬剤部 1 2 【背景・目的】アルツハイマー型認知症(ATD: Alzheimer-type dementia)では、発症早期から睡眠障害が認められている。 客観的に評価した研究は十分になされていない。さらに、 睡眠障害は ATD 患者の QOL を低下させるだけではなく、介 漢方医学における診断は医師個人の知識や経験によるもの 護者の負担を増加させる原因となっており、睡眠障害への介 であり、客観性に欠けることが指摘されている。また、心 入は ATD 患者と介護者にとって必要である。また現在、睡眠 拍変動は、循環機能の自律調節活動を表す指標であり、心 拍変動解析によって半定量的に自律神経活動を評価するこ とができる。本研究ではホルター心電図で得られた心拍変 動の周波数解析を用いて、柴胡剤の客観的な効果予測因子 の探索を行った。【方法】2008 年 1 月から2013 年 6 月まで の期間に九州大学病院漢方外来を受診した20 歳以上の初 診患者 214 名のうち、初診時に柴胡剤が処方された患者を 対象とし、症状が改善したものを有効群、改善しなかった ものを無効群とした。両群の年齢、BMI、睡眠時間、睡眠 時の各心拍変動成分(TF:0.0001-0.5Hz、HF:0.15-0.4Hz、 LF:0.04-0.15、VLF:0.003-0.04Hz、ULF: 0.0001-0.003 Hz)の比較を行った。さらに、各患者の睡眠時間を早期、 中期、後期に3 分割し、有効群と無効群間における心拍変 動周波数成分の経時的な比較を行った。【結果】 除外症例 を除いた68 名のうち、男性の対象患者が少なかったため 女性のみ54 名を解析対象とした(有効群 27 名、無効群 27 名)。両群において柴胡剤の服用日数および服用量に有意 な差はなかった。心拍変動解析の結果、有効群は無効群 に対して有意に VLF/TF が高く(有効群 0.35 ± 0.05、無 効群 0.30 ± 0.08)、ULF-1/TF は低かった(有効群 0.21 ± 0.07、無効群 0.27 ± 0.08)。ROC 解析によりカットオフ 値は、VLF/TF 0.35(感度 63%、特異度 59%、AUC 0.71)、 ULF-1/TF 0.24(感度 78%、特異度 67%、AUC 0.71)で あった。経時的な比較では、睡眠後期において有効群の VLF/TF 値が有意に高かった(有効群 0.35 ± 0.07、無効群 0.30 ± 0.08)。また、対象患者の最も多かった柴胡桂枝乾 姜湯(有効群 15 名、無効群 12 名)で比較した結果、有効 群は無効群に対して VLF/TF が有意に高かった(柴胡桂枝 乾姜湯有効群 0.36 ± 0.04、柴胡桂枝乾姜湯無効群 0.31 ± 0.07)。【考察】 柴胡剤の効果予測に心拍変動解析が有用 であり、予測因子として VLF/TF および ULF-1/TF が示唆 された。今後、漢方医学的な診断をより客観的に行うため により多数例での検討が必要である。 シンポジウム 疑われる患者に処方されるが、自律神経と柴胡剤の関係を と認知機能の関係性が着目され始めており、睡眠障害改善が 認知機能障害改善に寄与することが提案されている。酸棗仁 湯は不眠症治療に用いられている。現在、酸棗仁湯が認知症 の周辺症状に有効であることが期待され臨床研究が行われよ うとしている。そこで、我々は臨床研究を支持できるエビデ ンスを得ることを目的として、ATD モデルラットの睡眠障害 と空間記憶障害の検出を試み、それら障害に対する酸棗仁湯 の効果を解析した。 【実験方法】8 週齢の Wistar 系雄性ラットを用いて4 血管結紮 法( CI:Cerebral Ischemia )と7 日 間 Aβ(aggregate)脳 室 内投与により、CI+Aβ(aggregate)ラットを作製した。酸棗 仁湯(100、300、1000 mg/kg)、トリアゾラム(0.2mg/kg)、 ドネぺジル(10mg/kg)は虚血後 22 日目から28 日目に投与し た。睡眠の評価は Sleep Sign®(KISSEI COMTEC)の測定器 を用い、虚血後27日目の19:00から12時間馴化後、脳波(EEG) と 筋 電 図(EMG)を24 時 間(7:00 ~ 19:00 を 明 期、19:00 ~翌日 7:00 を暗期)測定し評価した。脳波測定後、Wake、 non-REM、REM、の判定を行い、覚醒と睡眠量を算出した。 また、睡眠の質の評価は熟眠の指標である non-REM 睡眠時 のδ波占有率で行った。さらに、中途覚醒の評価は Wake お よび non-REM 睡眠のステージ移行回数から行った。空間記 憶障害はモリス水迷路課題を用いて評価した。空間記憶の獲 得は1 日 3 施行 5 日間とし、記憶の保持の評価は全脳虚血後 28 日目のプラットホーム到達時間および遊泳速度とした。 【結果・考察】CI+Aβ(aggregate)ラ ッ ト は non-REM 睡 眠 量 減少、熟眠障害、および中途覚醒を発現するモデルであるこ とが明らかとなった。また、これらの睡眠障害は酸棗仁湯 (1000mg/kg)投与により改善された。さらに、同モデルラッ トで発現した空間記憶障害は酸棗仁湯(1000 mg/kg)投与に より改善された。また、酸棗仁湯投与は遊泳速度に影響しな かったことから、酸棗仁湯投与による運動障害は発現しなかっ たことが明らかとなった。したがって、酸棗仁湯はアルツハ イマー病患者の睡眠障害改善薬として応用可能であることが 示された。 第33回和漢医薬学会学術大会 41 S1-3 半夏瀉心湯の口内炎疼痛改善作 用に果たす生薬の役割 ○今井亮太1、人見涼露2、山口喜一郎2、松本千波1、 寺脇 潔1、水野景太1、大宮雄司1、服部智久1、小野堅太郎2、 加瀬義夫1 1 2 株式会社ツムラ 製品戦略本部ツムラ研究所、 九州歯科大学 生理学分野 化学療法や放射線治療を受けるがん患者の4 割以上に有害 シンポジウム 事象として口内炎が認められる。がん治療に伴う口内炎は 患者の QOL を低減させるだけでなく、治療継続の制限因 子にもなり得るが、一方で、十分な治療法が確立されてい るとは言い難い。近年、半夏瀉心湯はラジカル消去、抗炎 症、抗菌など、複数の作用を有することが基礎研究で明ら かとなっており、口内炎改善に寄与すると考えられている。 更に、がん治療に伴う口内炎の疼痛に対する有効性も臨床 研究で示唆されているが、その作用機序は不明である。我々 は、半夏瀉心湯の口内炎疼痛に対する改善機序の解明を通 じ、含有生薬の配合理由について考察した。まず、我々は 実験的口内炎ラットを作製し、口内炎部位への機械刺激に よる疼痛閾値の低下を確認した。この疼痛閾値低下は半夏 瀉心湯の処置によって改善された。次に、疼痛に関連する イオンチャネルに対する半夏瀉心湯の主要な21 成分の活 性を検討した結果、乾姜成分である [6]-shogaol(6SG)及 び [6]-gingerol(6GG)が電位依存性ナトリウムチャネル (Nav)阻害活性を有することを見出した。培養脊髄後根神 経節ニューロンを用いた検討より、これらの成分は Nav を 介した神経伝達物質の遊離を抑制した。この結果から6SG 及び6GG に鎮痛効果が期待されたが、口内炎ラットにお いて6SG 及び6GG だけでは十分な疼痛閾値の上昇は示さ れなかった。半夏瀉心湯の構成生薬である人参は界面活性 作用のあるサポニンを多く含むことから、人参に組織浸透 性亢進作用があるのではないかという仮説を立てた。逆行 性トレーサーである FluoroGold(FG)と人参エキスを口 内炎ラットの口腔粘膜に処置したところ、FG 単独と比べ て三叉神経節における FG 陽性細胞数の増加が認められた。 実際に、口内炎ラットにおいて6SG 及び6GG に人参エキ スを併用することで乾姜成分だけでは示されなかった疼痛 閾値の上昇が認められた。以上より、半夏瀉心湯における 鎮痛作用には乾姜が重要な役割を果たしており、更に人参 の組織浸透性亢進による乾姜成分の標的部位への輸送が、 その鎮痛作用の発現に大きく寄与していることが明らかと なった。天然の薬物輸送として機能する人参の関与は、漢 方薬が複合剤であることの意義を説明する重要な知見であ ると考えている。多種多様な薬理作用を示す半夏瀉心湯は、 がん治療に伴う口内炎に対し、新たな治療戦略となるかも しれない。 42 第33回和漢医薬学会学術大会 シンポジウム 第33回和漢医薬学会学術大会 43 シンポジウム 2 和漢薬の有用性を検証するための研究戦略 8 月 27 日(土) 14:10 〜 16:10 A 会場(メインホール) オーガナイザー 東京理科大学 薬学部 応用薬理学研究室 シンポジウム 44 礒濱洋一郎 赤瀬朋秀 日本経済大学大学院 多くの活性成分を含み多面的でユニークな薬効をも in vivo での有効性検証型研究,②プロテオーム解析 つ和漢薬の作用には,種々の難治性疾患の治療を考 を用いた網羅的解析型研究,③特定の細胞機能に焦 える上での新たな概念が隠れている.しかし,多成 点を当てた細胞標的型研究,④特定の分子に注目し 分系で多面的ゆえに,和漢薬の実効性を検証し,作 た分子標的型研究,そして⑤医療経済学的有用性の 用機序を解明することは容易ではなく,研究戦略に 検証と,5 種類の異なる戦略にて進めているシンポジ は大いに工夫が必要である.本シンポジウムでは, ストに講演をお願いした. 本シンポジウムで方法論 和漢薬を扱う先駆的研究者に,その成果の一端を紹 のあり方を中心に議論することが,和漢医薬学研究 介頂くとともに,研究を実践する上での戦略上の持 を指向する若手研究者の「道標」となれれば幸いであ 論について語って頂く予定である.具体的には,① る. 第33回和漢医薬学会学術大会 S2-1 S2-2 In vivo 型研究(行動薬理) 網羅的解析型研究:香蘇散煎剤の 抗うつ様作用のプロテオーム解析 岩崎克典 福岡大学 薬学部 臨床疾患薬理学教室 ○永井隆之1,2,3、小寺義男4,5、大石正道4、伊藤直樹3、 花輪壽彦3,6、山田陽城7、清原寛章1,2,3 北里大学 北里生命科学研究所、2 北里大学大学院 感染制御科学府、 北里大学 東洋医学総合研究所、4 北里大学 理学部、 5 北里大学 理学部附属疾患プロテオミクスセンター、 6 北里大学大学院 医療系研究科、7 東京薬科大学 薬学部 1 3 漢方方剤の薬効機序を解析する方法として、同様の薬効を の病因が解明されていないことと相まって適切な治療薬が 示す既存薬の作用点や病態の発症機序が明らかになっていれ なく症状の進行抑制に留まっているのが現状である。和漢 ば、そこに対する作用を検討するのは有用である。しかし、 薬の中には中枢神経症状に有効なものもあり、抑肝散、抑 漢方方剤が既存薬とは異なる機序で薬効を発現している場合 肝散加陳皮半夏、当帰芍薬散、酸棗仁湯などは認知症患者 や、病態の発症機序が未解明の場合もある。さらに、漢方方 の周辺症状に用いられるようになった。しかしながら、こ 剤は一般に複数の構成生薬由来の多成分系の薬剤であること れらの薬を現代医療の中で有効に使うためには薬理学的な 実証が不可欠である。今回、認知症モデル動物を用いて各 種和漢薬の作用について行動薬理学に検証した成果を紹介 する。 まず、10 分間の単回脳虚血とβ- アミロイド脳室 内投与を組み合わせた(CI+Aβ)アルツハイマー病モデル ラットを用いて夜間徘徊、不安、攻撃性などの周辺症状に 対する抑肝散の効果について検討を行った。抑肝散は、妄 想・興奮状態の指標になる methamphetamine 投与によ る自発運動量の増加を抑制すること、幻覚の指標としてセ ロトニン 5-HT2A 受容体の作用薬である DOI による首振 り行動を抑制すること、不安に対しては明暗箱を用いた暗 箱滞在時間延長を抑制すること、また、単独隔離飼育して 発現する攻撃性を抑制することが分かった。さらに、これ らの作用が構成生薬の1つである釣藤鈎のセロトニン神経 を介する作用である可能性も分かった。これらの作用は、 抑肝散加陳皮半夏、酸棗仁湯、当帰芍薬散でもみられた。 一方、見当識障害などの中核症状に対する効果も検討した。 8 方向放射状迷路課題を用いて空間記憶を獲得したラット は CI+Aβ処置によって著明な空間記憶障害を発現するが、 これに対して当帰芍薬散、抑肝散が著明な改善作用を示し、 それらの共通の構成生薬の1つである当帰に作用の本体が あり、海馬のアセチルコリン遊離の促進や細胞保護作用を 発揮するなど既存のコリンエステラーゼ阻害薬とは異なる 作用を有することも見いだした。また、培養細胞系を用い た研究では、抑肝散には Trk-B 受容体を介さない NGF と は異なる神経突起伸長作用があることも明らかになった。 種々の作用を有する複数の有効成分で構成される和漢薬の 作用は、単一の作用機序ではなく高次脳機能のアンバラン スを全体的に修正することによって奏功する。これを有効 に使用するには各生薬レベルの薬効の組合せ、すなわち 「配合の妙」を科学的に検証することが重要である。 シンポジウム アルツハイマー型認知症を代表とする認知症の治療は、そ から、生体内の複数の作用点に作用して多面的に薬効を発現 していると考えられる。プロテオーム解析では生体内のタン パク質を網羅的に解析出来ることから、漢方方剤の薬効機序 の解析に有用な手段となる可能性がある。 我々は、香蘇散煎剤(KS)の抗うつ活性について環境スト レス誘発うつ様モデルマウスを用いて検討し、KS の経口投 与により強制水泳試験における無動時間をうつ様状態の指標 とした評価で抗うつ様活性を示すことを明らかにした。ま た、KS の薬効機序について検討し、KS がうつ病の発症機 序のひとつとして示唆されている視床下部 - 下垂体 - 副腎系 の過剰な活性化を抑制し、海馬での神経系幹細胞の減少を回 復させることを示した。そこで、視床下部についてアガロー ス 2 次元電気泳動法を用いたプロテオーム解析を行い、うつ 様モデルマウスで発現量が減少し、KS 投与によって回復す るタンパク質として metabotropic glutamate receptor 2 と 2’,3’-cyclic nucleotide 3’-phosphodiesterase 1(CNPase1) を見出した1)。これらの結果はウェスタンブロッティング (WB)及び免疫組織染色でも確認され、WB では CNPase1 の isoform である CNPase2 が CNPase1 と逆の挙動を示すこ とが明らかになった1)。さらに、2 次元電気泳動法では検出 困難な微量タンパク質を同定するため、視床下部について安 定同位体標識法を用いたプロテオーム解析を行ったところ、 うつ様モデルで発現量が変化するペプチドが784 種見出さ れ、そのうち KS 投与により回復するペプチドが235 種検出 された。そして、131 種のペプチドが無動時間と相関するこ とが明らかとなった。これらのペプチドから synaptosomalassociated protein 25 や myelin-associated glycoprotein な ど56 種のタンパク質が同定された。 以上、プロテオーム解析により、KS の抗うつ様作用に関 連するタンパク質が見出されたことから、プロテオーム解析 を用いた網羅的解析型研究は漢方方剤の薬効機序の解析に有 用であると考えられる。 1)Nagai et al. , Trad. Kampo Med. , 2, 50-59(2015). 第33回和漢医薬学会学術大会 45 S2-3 シンポジウム 46 S2-4 細胞標的型研究:骨髄由来免疫 抑制細胞(MDSC)の分化調節を 介した十全大補湯の免疫調節作用 分子標的型研究:和漢薬成分の 核内受容体を介した生体調節作用 ○堀江一郎、礒濱洋一郎 東京理科大学 薬学部 応用薬理学研究室 井上 誠 愛知学院大学 薬学部 医療薬学科 【目的】十全大補湯や補中益気湯などの補剤には免疫賦活 核内受容体(NR)はリガンド依存的に遺伝子の転写を制 作用があり,腫瘍免疫系を活性化して転移や浸潤を抑制 御する転写調節因子で、これまでにヒトでは48 種類が することや,感染症や慢性炎症などに対して有効である 知られている。我々が注目しているレチノイド X 受容体 ことが示されている.特に腫瘍免疫については,十全大 (RXR)は、サブファミリー1に属するペルオキシソーム 補湯がマクロファージおよび T 細胞を活性化し,一方, 増殖剤応答性受容体(PPAR)や肝臓 X 受容体(LXR)、レ 補中益気湯は NK 細胞を活性化するという違いが示され チノイン酸受容体(RAR)などのパートナー NR とヘテ ているものの,これら方剤が異なる作用特性を示す詳細 ロダイマーを形成することにより、また、RXR ホモダイ な機序については不明であった.我々はこれら補剤の特 マーを形成することにより遺伝子の転写を調節している。 徴的な作用機序の解明を目指し,新たな標的細胞として パートナー NR アゴニストは単独で、あるいは、RXR ア 骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)に着目した. MDSC とは, ゴニスト存在下で相乗的に RXR/NR ヘテロダイマーを活 骨髄由来の未成熟な細胞であり,単球や顆粒球および樹 性化する。一方、RXR アゴニストは、単独で活性化でき 状細胞などに特徴的な表面抗原を発現するヘテロな細胞 る RXR/NR ヘテロダイマーと活性化できないものが存在 集団である.MDSC は特に担がん状態で骨髄細胞から分 する。現在、サブファミリー1に属するパートナー NR 化・誘導され,T 細胞やマクロファージの活性化を抑制 の生理的なアゴニストとして、脂肪酸や脂溶性の生体内 することに加え,制御性 T 細胞を誘導して腫瘍免疫を低 代謝産物が同定されているが、RXR の生理的なアゴニス 下させるなど,免疫の抑制システム上で非常に重要な細 トは同定されていない。 RXR アゴニストは細胞の増殖・ 胞である.そこで本研究では,MDSC が補剤による免疫 分化、糖・脂質代謝、骨代謝、免疫応答などに作用を及 調節作用の標的細胞ではないかと想定し,in vitro および ぼし、その主作用はパートナー NR アゴニストの RXR/ in vivo の実験を行った. NR ヘテロダイマー活性化能の調節であると考えられる。 【結果・考察】まず,C57BL/6 マウスから骨髄細胞を単離・ さらに最近、生活習慣病、自己免疫疾患、アルツハイマー 培養する in vitro 実験系に,十全大補湯または補中益気 病の予防、改善における RXR の役割が明らかにされてき 湯 を 処 理 し,CD11b お よ び Gr-1 の 陽 性 細 胞 す な わ ち ており、脂溶性低分子化合物の宝庫である和漢薬による MDSC への分化に対する作用を調べた.その結果,十全 RXR の機能調節の有用性が大いに期待されると共に、和 大補湯が MDSC 数を著明に減少させることが分かった. 漢薬の様々な調節作用の機序を考える上で RXR は考慮す 十全大補湯は MDSC の免疫抑制因子であるアルギナー べき標的になると思われる。また、RXR やサブファミリー ゼ -1 の発現量も低下させ,本細胞の活性も抑制すると考 1に属する NR は、アゴニストの結合ポケットが比較的 えられた.一方,同実験系で,補中益気湯は MDSC 数を 大きく、そこに結合可能な化合物の構造に多様性が認め むしろ増加させ,十全大補湯と補中益気湯が本細胞の分 られる。アゴニストにより惹起された NR の微妙な構造 化に対し全く異なる作用を示すことがわかった.さらに, 変化が、RXR/NR ヘテロダイマーの構造、転写開始複合 実験的がん転移モデルマウスにおいて,腫瘍の形成に伴 体の構成、及び、活性化される遺伝子特異性に影響を及 い MDSC は劇的に増加するが,十全大補湯を投与すると, ぼし、結果的にアゴニスト依存的に特徴的な遺伝子の発 この in vivo での MDSC の増加は抑制されることが明ら 現が誘導される。すなわち、NR を介した生理作用は、 個々 かとなった. の化合物に依存しており、多くの類似化合物を含有する 本研究では,MDSC というユニークな細胞に焦点を絞る 和漢薬は多彩な調節作用を発揮できる可能性が考えられ ことにより,十全大補湯に特徴的な免疫調節作用に関す る。そこで我々は、天然由来 RXR アゴニストの探索を通 る新たな側面が見出されたと考えられる.多種多様な活 して、和漢薬の作用を考えていこうと本プロジェクトを 性成分を含む漢方薬の作用を薬理学的に解明するには, 開始した。今回はその探索研究を通して見えてきたもの このような研究戦略も必要なのかもしれない. を紹介する。 第33回和漢医薬学会学術大会 S2-5 和漢薬の医療経済学的有用性に 関する研究方法論 赤瀬朋秀 日本経済大学大学院 経営学研究科 現在、医療を取り巻く環境変化は著しく、しかも今ま シンポジウム でに我々が経験したことのないスピードで変化している。 2016 年度診療報酬改定を俯瞰して眺めてみると、こういっ た世の中の変化に対して、医療関係者は相応の覚悟をもっ て対応されたいという国の強い決意までが読み取れてく る。例えば、医療機能の分化・強化、連携や医療・介護の 一体的な基盤整備、2018 年度に予定されている診療報酬 と介護報酬の同時改定など、2025 年を見据えた中長期の 政策の流れの一環としての改定に関しては、個々の医療機 関の対応が強く求められている。今後は、地域包括ケアシ ステムの構築と推進を目指した改革が10 年に満たない短 い期間で推進されることになる。 このような状況下、医療機能に応じた薬物療法の展開、医 薬品使用の適正化は極めて重要である。例えば、高度急性 期を担う医療機関においては、救急、手術、集中治療、術 後管理といった機能を充実させ、在院日数の長期化を未然 防止できるような医薬品の選択が求められる。一方で、回 復期から長期療養といった機能を担う医療機関において は、在宅などへの復帰をスムースにできるよう薬物療法を シンプルにする工夫が必要となろう。さらに、在宅医療の 現場においては、再入院や救急搬送を最少化するような工 夫が必要になってくる。 すなわち、今後の医療業界の変化を見る限り、当該医療機 関の機能や地域における役割を踏まえたうえで、その機能 を支援できるような医薬品の選択が重要であり、ここに和 漢薬の活用が期待できる。例えば、急性期の医療機関にお いて、抑肝散を応用して術後せん妄を防止し、一般病棟へ の移行をスムースにさせたり、六君子湯を応用して経管栄 養剤の逆流を未然に防止して栄養状態を早期改善、それに より早期離床が可能になるなどの報告は多い。 もちろん、在宅の場においても、栄養サポートや感染管理 の視点は重要であり、こういった課題に関しても和漢薬を 活用することに期待はできるのではないだろうか。例えば、 補剤などを適正に応用することによって、体力低下や栄養 状態を改善させ、感染を未然に防止することによって、重 症化や救急搬送を減らすといったストーリーも夢物語では なかろう。本講演では、このように医療機能に応じた薬物 療法を主軸に、和漢薬の経済的有用性を確立させるための 研究方法論について議論を進めたい。 第33回和漢医薬学会学術大会 47 シンポジウム 3 「薬学部における漢方医学教育がめざすもの」 8 月 27 日(土) 14:10 〜 16:10 B 会場(第 2 ホール) オーガナイザー シンポジウム 東海大学 医学部 専門診療学系漢方医学 金 成俊 横浜薬科大学 2002 年度に公表された薬学教育モデル・コアカリ 国レベルでの組織作りが必要であると考えられるこ キュラムに漢方薬が初めて記載されて以来、薬学部 とから、本協議会の設立背景、目的、手順などを紹 における漢方医学教育は大きく発展した。特に2015 介する。 年度には新コアカリキュラムがスタートし、漢方医 ③ 薬 学部における漢方医学教育の歴史と現状(松本 学は医療薬学の一分野として明記されるに至った。 司先生) このように薬学部における漢方医学教育の基盤は着 漢方医学が薬学教育に取り入れられ、国家試験に 実に整いつつあるが、実際の教育は各大学の教育方 も出題されるようになった経緯と現状を説明する。 針に委ねられ、その実態や課題などはいまだに十分 このことは解決すべき課題や今後の展望を考察する に議論されないままである。 上で重要である。 これらのことを踏まえ、本シンポジウムは5 人のシ ④ 臨 床現場の薬剤師が求める漢方医学教育(高塚博 ンポジストにより、新コアカリキュラムにおける漢 一先生) 方医学教育の実態と課題を明らかにし、その対策を 臨床医のほとんどが漢方薬を処方している現状に 検討することを目的とする。 おいて、臨床を担う薬剤師にその知識は必須と言っ ① 全国 74 大学薬学部における漢方医学教育の現状調 ても過言ではない。現場で働く薬剤師が求める漢方 査(新井 信) 医学の知識とスキルとは何なのか、薬学部教育に何 薬学部における漢方医学教育を推進するためには、 を求めるのかを、臨床で漢方医学を実践する立場か まずその現状の調査と分析が必須である。和漢医薬 ら明示する。 学会は全国 74 大学薬学部に対して漢方医学教育に関 ⑤ 薬学の漢方教育、何を教えるべきか!(金成俊先 するアンケート調査を行い、すべての大学から回答 生) を得た。その結果を報告するとともに、薬学部にお 6 年制薬学部において漢方医学は医療薬学として重 ける漢方医学教育の現状と教育を進める行う上での 視され、CBT や国家試験にも出題されるようになっ 課題などを明らかにする。 た。薬学教育を担当する立場から、薬学生に何を教 ② 卒 前教育における漢方医学教育の確立に向けて: えるべきなのかを提示する。 日本漢方医学教育協議会について(松田隆秀先生) 総合討論ではさまざまな立場から薬学部の漢方医 全国 80 大学医学部で漢方医学教育基盤カリキュラ 学教育の現状と課題を明らかにし、その解決策と今 ムを作成することをめざし、日本漢方医学教育協議 後の方向性を示したい。 会を設立した。薬学部の漢方医学教育においても全 48 新井 信 第33回和漢医薬学会学術大会 S3-1 S3-2 全国 74 大学薬学部における漢方 医学教育の現状調査 漢方医学教育―卒前教育の確立 に向けて:日本漢方医学教育協 議会より 新井 信 東海大学 医学部 専門診療学系漢方医学 松田隆秀1,2 1 2 日本漢方医学教育協議会事務局、 聖マリアンナ医大 総合診療内科 薬剤師・医師連携による質の高い医療提供には、両学 調査と分析が必須である。和漢医薬学会は薬学部における 部が手を組んだ卒前教育の確立と生涯教育への展開が必要 漢方教育を充実させるための基礎資料を作ることを目的 となります。「医学部、薬学部の卒前教育に、伝統医療で に全国薬学部 74 施設を対象にアンケート調査を行い、す ある漢方教育をどのような手順で確立していくのが良いの べての大学から有効回答を得た。【現状】6 年制の学科にお でしょうか? 」。現在、医学部漢方カリキュラム担当者に ける2016 年度の臨床漢方医学に関する必修講義コマ数は、 幹事として参画を依頼、日本漢方医学教育協議会を設立し 平均で12.0 コマ、中央値は13 コマだった。必修科目とし 卒前教育の確立に取り組んでいます。ここでは、本協議会 て漢方医学を講義していない大学が4 校(5%)あった。講 の「I. 設立背景」、「II. 目的」、「III. 手順と進捗状況」、「IV. 義の主な立場は、漢方が96%、中医学が24%、西洋医学が 今後の展開」について紹介させていただきます。I. 設立の 34%、生薬学が85% だった。臨床的立場から授業を行っ 背景:1. 全大学でグローバルカリキュラムに向けた改革 ている大学は66% で、そのうち34% は医師が担当してい が行われていること。2.新専門医制度へ連携する卒前教 た。実務実習で漢方コースを設けている大学は15% だっ 育が必要なこと。3. 大学によっては漢方教員が不在であっ た。【意見】新カリキュラムに対応した自学の漢方授業時間 たり、一般目標やコマ数も様々であること。4. 卒前教育 数について、57% がちょうとよい、40% が少ない、3% が には関連学会、企業とは独立した協議の場が必要であるこ 多いと回答した。漢方薬に関連した生薬に関する授業は と、などがあります。II. 設立の目的(主目的は以下の2つ) : 63% が現状で十分だと考え、さらに漢方薬の基礎に関す 1. 国民の役に立つ臨床医を育てるために、漢方卒前教育 る教育は60%、漢方薬の応用に関する教育は43%、漢方薬 基盤カリキュラムを作成する(卒前教育であり、漢方に特 の注意点に関する教育は72% が、それぞれ現状で十分だ 化する専門医育成のカリキュラム作成ではない)。2. 教育 と考えていた。漢方薬の事前実習は選択科目でよいと考え 資源に関しては、必要であれば大学相互間で講師の派遣等 る大学が71% と最も多く、必修科目として必要だと考え を行う。 III. 手順と進捗状況:2014 年夏より全国大学の る大学は22% で、まったく必要ないと考える大学も7% あっ カリキュラム担当者に、本協議会の主旨を説明、幹事とし た。【展望】全国共通テキストは71% が必要であると回答 て参画をお願いしました。そして、メイルによる事前コン した。新カリキュラムに掲載された内容以外でさらに必修 センサスミーティングを開始(SBO 毎にグループ分けした として教育すべき項目として、症例演習(61%)、エビデ グループワーク)、2015 年1月の第1回協議会では基盤カ ンス(51%)、調剤演習(42%)、診療見学(35%)、診療実 リキュラム案が複数提示されました。引き続き、コンセン 習(26%)、漢方マインド(26%)、歴史(24%)、古典(20%) サスミーティングを重ね、2016 年2月に開催された第2 があげられた。【課題】漢方教育の現場で早急に解決すべき 回協議会では、今後も継続的にブラッシュアップを行うこ 課題として、「臨床教育を担う教員の確保」をあげた大学 とを前提に「漢方卒前教育基盤カリキュラム 2016 案」が承 が58% と最も多かった。「かわりやすいテキストの作成」 認されました。IV. 今後の展開:示されるカリキュラムは は50%、「実務実習を行うための環境整備」は41%、「基礎 基盤的なものであり、各大学において特色ある内容が独自 教育を担う教員の確保」は30%、「具体的なコア・カリキュ に付加され、様々な方略で6年間の卒前教育に落とし込ま ラム内容の提示」は29%、「実務実習における実習内容の れるカリキュラムであります。今後、全幹事の下で基盤カ 提示」は19%、 「早期体験学習の導入」は7% だった。【考察】 リキュラムに従ったシラバスの作成や方略の検討、学内試 本アンケート調査から、多くの教育現場で臨床漢方教育を 験のプール問題作成などの作業に取り組みたいと考えてお 担う教員の充足と教育内容の充実、共通テキストの整備な ります。 両学部において整合性のある卒前・卒後(生涯) どが求められていることがわかった。一方で、漢方教育の 教育を確立するには、両者の連携が必要です。漢方の領域 立場や取り組み姿勢に大学間で大きな差があることも明ら におきましても、良好な患者・薬剤師・医師関係が築けま かとなった。薬学部における漢方教育を推進するためには、 すことを願っております。 シンポジウム 薬学部における漢方教育を推進するためには、まず現状の 大学が連携してこれらの課題を解決する必要がある。 第33回和漢医薬学会学術大会 49 S3-3 S3-4 薬学部における漢方医学教育の 歴史と現状 臨床現場の薬剤師が求める漢方 医学教育 松本 司 いわき明星大学 薬学部 高塚博一 千葉大学医学部附属病院 薬剤部 シンポジウム 日本の薬剤師教育は、平成 18 年度に6 年制という新たな 漢方医学は心身一如の考えに基づき、「証」から患者 教育制度に移行した。薬学教育モデル・コアカリキュラ の治療法を決定する診療学であることは説明するまでも ムは、この新教育制度の設置に合わせて初めて策定され ない。西洋医学的には不定愁訴と言われるような患者の たものである。日本薬学会が「薬学教育モデル・コアカ 訴えも重要な判断材料であり、そこから漢方薬の選択に リキュラム」を、文部科学省が「実務実習モデル・コアカ たどり着くことができる。臨床薬剤師が薬剤管理指導を リキュラム」を公開し、この2つが合本として平成 18 年 行う際には、その診療科以外の幅広い知識をもって総合 度からの6 年制課程に使用された。その後、さまざまな 的に薬物治療をサポートすることが求められるが、多診 課題が指摘され平成 25 年 12 月に改訂モデル・コアカリ 療科に携わる薬剤師が漢方の知識を有すれば処方提案の キュラム(改訂コアカリ)が新たに提示された。 手段が増えるということになり、その医療全体への貢献 旧コアカリの中で漢方は、 「化学系薬学」の領域に「C-7 の大きさは想像に難くない。臨床薬剤師に必要な漢方医 自然が生み出す薬物」として盛り込まれていた。また、 学の知識とスキルには「病名」に基づく適応だけでなく 実務実習のコアカリでは、 「薬局実習」の「薬局製剤」に 「証」を考慮した処方提案、気血水などの漢方医学の言語 記載されていた。 を理解すること、漢方薬のエビデンスを知っていること、 漢方は化学でなく医療であり、漢方薬は化学物質では 効果を最大限に発揮するための煎じ方やエキス剤の内服 なく治療薬である。漢方薬は薬物治療の中で扱われるべ 方法を指導できること、生薬単位での効果や副作用を理 きであるとの考えに基づき、改訂コアカリでは「E2 薬理・ 解していることが挙げられる。病名だけではなく証を考 病態・薬物治療」の領域に「医療の中の漢方薬」のユニッ 慮することはすなわち現時点での患者の状態を評価する ト名で盛り込まれた。その一般目標(GIO)には、 「漢方 ことであり、漢方医学的病態認識と西洋医学の画像評価 の考え方、疾患概念、代表的な漢方薬の適応、副作用や や検査値の変化と連結して考えることで双方の理解を深 注意事項などに関する基本的事項を修得する」と明記さ めることができる。 医療の高度化・専門化に伴い臨床 れた。 の現場では特定の領域に精通した専門薬剤師の増加が求 国家試験に目を移すと改訂コアカリに準じた国家試験 められている。一方、気血水、陰陽虚実などの基本概念 の出題基準はいまだ策定されていないが、改訂コアカリ を通した診断である証に基づく弁証論治を行う、すなわ の到達目標(SBO)に掲げられた漢方医学における診断 ち患者の状態すべてを評価する漢方医学に習熟すること 法、体質や病態の捉え方、治療法について概説できる。 は各診療科に渡る普遍的な要素ではないだろうか。平成 気血水や証、生薬の組み合わせによる漢方薬の系統的分 25年度の薬学教育モデルコア・カリキュラムの改訂で 類、漢方薬の副作用と使用上の注意点を例示して説明で は、漢方は化学薬学系領域から薬理・病態・薬物治療の きる、といった実践的能力の観点から薬剤師国家試験は ユニットへと移動しており、 「治療薬」としての位置付け 出題されると思われる。 が明確化されている。それは漢方医学に対する現場のニー チーム医療の中で薬剤師には、医薬品の適正使用や効 ズを反映したものであり、医学教育と同様、薬学教育に 果的な薬物治療への貢献、さらには薬物による患者 QOL おいても「漢方医学は西洋医学とは違った視点で患者を の向上への寄与の他、リスクマネージメントの管理がそ 評価する治療の一つの方法である」ことを伝えることが の役割として求められる。今後の漢方教育においても、 重要であると考える。そのためには漢方医学をどのよう より臨床現場を意識した薬物治療の一分野としての教育 に実践したら効果的であったかの具体例を示すことが重 に重点が置かれるようになるものと期待される。 要であり、漢方医学を実践する医師の講義や、また我々 臨床薬剤師の漢方実践例も蓄積し、示していく必要があ るだろう。 50 第33回和漢医薬学会学術大会 S3-5 薬学の漢方教育、何を教えるべきか! 金 成俊 横浜薬科大学 6 年制薬学部の薬学教育モデル・コアカリキュラムに シンポジウム おいて大きく変わった内容の一つは、漢方に関する項目 が正式に取り入れられたことである。その結果、薬学部 では漢方教育が導入され、CBT や国家試験においても漢 方関連の問題が出題されるようになった。このように、 4 年制薬学部に比べ、6 年制薬学部においては充実した漢 方教育が実施されている。6 年制薬学部が開始されてか ら10 年目の節目である2015 年にはモデル・コアカリキュ ラムの見直しが行われ、この年の1 年生から改訂モデル・ コアカリキュラムによる教育が開始した。漢方も、「化学 系薬学」から「 薬理・病態・薬物治療」の領域に移り、「医 療の中の漢方薬」として、より具体的に一般目標(GIO) や到達目標(SBO)が示された。実際過去 10 年間、イン フルエンザに麻黄湯、術後イレウスに大建中湯など医療 における漢方薬の有用性は多方面で認められており、治 療薬として漢方薬の重要性は益々高まっている。このよ うな理由から、医師のみでなく医療現場で活躍する薬剤 師にとっても漢方の知識は必須であり、改訂モデル・コ アカリキュラムにおいては漢方の領域が「 薬理・病態・ 薬物治療」に組み込まれたものと考えられる。 6 年制薬 学部の漢方教育を振り返ってみると、いくつかの問題点 も浮かび上がってくる。例えば、使用教材、講義時間、 講義内容のレベル、教員の資質、講義内容が CBT 及び国 家試験、或いは薬剤師業務に反映されているかなどが挙 げられる。薬剤師は医療用漢方製剤 148 処方の調剤以外 に、一般薬用漢方製剤として291 処方、薬局漢方製剤と して212 処方取り扱うことができる。一般薬用漢方製剤 や薬局漢方製剤はセルフメディケーションの推進や国民 の健康をサポートする上でも重要であり、薬剤師による 積極的な活用が期待されている。そのためにも薬学部に おける漢方教育は重要であり、教育目標は CBT や国家試 験の問題解決能力だけでなく、将来薬剤師として取り扱 える漢方薬の基礎知識を学ばさせることではないだろう か。「薬学の漢方教育、何を教えるべきか」について、シ ンポジウム参加の先生方と共に考えてみたい。 第33回和漢医薬学会学術大会 51 シンポジウム 4 急性期・重症入院患者への漢方治療:現代医療の最前線に漢方を 8 月 28 日(日) 9:00 〜 11:00 A 会場(メインホール) オーガナイザー 金沢医科大学 腫瘍内科学 シンポジウム 52 元雄良治 小野孝彦 国際医療福祉大学熱海病院 腎臓内科 わが国の伝統医学である漢方医療の特徴の一つと 対する漢方治療への応用の可能性が示唆されている。 して、伝統医学と西洋医学が単一の医師免許・医療 厚生労働省による我が国の医療計画の見直し 現場で行われていることが挙げられ、漢方医療の成 (2013 年から2017 年までの第六次医療計画)の中で 果を世界に向けて発信している。その背景として、 は、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病、精神疾 共通の医療現場であることにより西洋医学の進歩が 患の5疾病と、救急医療・災害時における医療・へ 基礎および臨床研究の評価系を提供して、漢方薬の き地の医療・周産期医療・小児医療の5 事業、および 有用性を見出し、エビデンスを提供していることが 在宅医療がとくに推進すべきとされている。いわば 考えられる。 これらの領域が現代医療の喫緊の課題とも言える。 一方、近現代から現在までの漢方診療は、慢性疾 本シンポジウムにおいては急性期あるいは難治性・ 患の外来診療の形態が一般的であるが、江戸時代の 重症入院患者への漢方治療が、むしろ漢方診療の原 「建殊録」 (吉益東洞)や井観医言 ( 尾台榕堂 ) を読む 点であったことに注目し、現代医療の最前線に漢方 と、かなりの急性期や重症・難治性疾患の治験例の を導入することの意義を考察したい。具体的には急 記載が見られる。当時は重症患者の診療において入 性期の一般外来・救急外来および ICU・急性期入院 院診療が一般的でなかった代わりに、往診、あるい 症例、災害医療、重症入院治療(がんと非がん)に は患家に泊まり込んだ診療が行われていたことが見 フォーカスをあてて、議論が深まることを期待した て取れる。記載された多くの診療形態は今日の在宅 い。また和漢薬研究において、これまで常に先進的 診療に相当することが興味深い。著効例の陰に数多 な取り組みと情報発信を行ってきた本学会において、 くの不応例があったであろうことは想像に難くない このたびの公募シンポジウムでの採用をオーガナイ が、今日の急性期外来・救急搬送・病棟重症患者に ザーとして感謝したい。 第33回和漢医薬学会学術大会 S4-1 S4-2 急性期外来・入院患者に対する サイエンス漢方処方 大災害時の漢方治療 ~その導入時期や活用方法、 注意点などについて~ 井齋偉矢 医療法人静仁会 静仁会静内病院 ○高山 真、齊藤奈津美、有田龍太郎、渡邉秀和、西川 仁、 池野由佳、大澤 稔、菊地章子、沼田健裕 東北大学病院 総合地域医療教育支援部・漢方内科 1995 年の阪神・淡路大震災、2004 年の新潟中越大地震、 寿命が20~30歳、10歳までに70%の子供が亡くな 2011 年の東日本大震災、そして2016 年の熊本地震と過去 るという過酷な時代であった。10歳以上生き延びた人の 20 年の間に、国内で大規模地震が繰り返し発生している。 平均寿命でさえ30~40歳であり、死因の70%は感染 過去の報告から、急性期は地震の直接的影響による建物崩 症であった。従って、傷寒論に収載されている方剤はほと 壊に伴うクラッシュ症候群や外傷が多く災害救助の必要性 んどが救急・急性期に使われる方剤である。シンポジウム が高いことから、自衛隊や Disaster Medical Assistance のタイトルにあるように現代医療の最前線に漢方薬を使う Team が早期に現場に入り介入する時期となる。発災当初 ためには、古典的思考法よりは、免疫/炎症・微小循環障 の避難所では情報の確保が非常に重要であり、多数の避難 害・水分代謝異常・熱産生障害などのシステム変調の程度 者が集まる避難所での水や食料、燃料の確保、衛生管理な から至適な方剤を選択する「サイエンス漢方処方」の手法 どが必要となる。また、長期的には避難生活によるエコノ の方が、臨床医には違和感なく使えて有用である。急性疾 ミークラス症候群への対応や精神面のサポート、慢性疾患 患には、免疫能の低下と炎症が付き物であり、炎症に伴っ への対応なども必要となってくる。大規模災害の際、漢方 て微小循環が滞ることも必発である。また、浮腫や乾燥は 治療はどの時期に導入され活用されるべきか、自身が行っ 急性のイベントの結果として起こることが多い。深部体温 た東日本大震災後の避難所における医療活動から考えてみ の維持は、以上のシステムが円滑に回るために必須事項で る。東日本大震災後、東北大学病院は大規模な災害時医療 ある。今回は、急性期外来疾患として、インフルエンザ・ 支援を行い、我々は主に漢方診療を行った。発災から2 週 急性ウイルス性胃腸炎を、入院対象疾患として、急性肺炎・ までは津波の影響と気温の低下、衛生環境の問題から低体 急性期脳梗塞を取り上げる。 インフルエンザ:抗インフ 温や感冒、胃腸炎が多く、人参湯、桂枝湯、五苓散などを ルエンザウイルス薬に加えて、初期免疫能を急上昇させる 処方、2 週から6 週まではヘドロや土砂、瓦礫による粉塵 大青竜湯近似処方が、罹患直後には重要である。服用のコ などの影響から呼吸器症状やアレルギー症状が多く、小青 ツであるが、投与間隔が重要で、多くは2時間おきの服用 竜湯や越婢加朮湯、麦門冬湯などを処方、6 週から10 週ま となる。服用間隔が4時間を越すと効果的な応答が引き出 では長期化する避難生活に伴い不眠や精神症状が増加し、 せない。 急性ウイルス性胃腸炎:現代医療では補液で脱 加味帰脾湯や抑肝散などを処方した。また、制限された避 水を防いで収まるのを待つしかない。特異的に効果のある 難所での生活により4週頃から身体痛が増えたことから、 抗ウイルス薬はない。これに対して漢方治療では、桂枝人 鍼・マッサージ治療も並行して行った。漢方薬治療に関し 参湯を使って1~2時間おきに治るまで服用するという、 ては、先端医療機器がなくとも、問診や身体所見をもとに 至極単純は方法で、ほとんどは半日以内に終息する。 急 治療が可能であること、温裏、去風熱、補気血、寧心安神 性肺炎:適当な抗菌薬の選択は重要だが、肺に起こってい 作用など西洋薬とは異なる面でサポートが可能である利点 る重篤な炎症をコントロールするには、1週間程度の小柴 がある。しかしながら、甘草含有方剤の長期使用は低カリ 胡湯2~4時間投与が必須である。 急性期脳梗塞:血栓 ウム血症の可能性が懸念されるために漫然とした使用には をオザグレルなどで溶解することは重要であるが、梗塞に 注意が必要と考える。また、鍼・マッサージ治療に関しては、 伴って起こる脳の炎症と浮腫は小柴胡湯と五苓散を使わな 揉み返しや感染対策、出血などの問題を考慮し、十分な病 ければ、短期間では収まらない。この場合も投与間隔は最 歴聴取とリスク管理が重要となる。以上の経験から、大規 長4時間である。小柴胡湯と五苓散の合剤と認識されてい 模災害の漢方治療は主に亜急性期から慢性期に導入される る柴苓湯を使用すると、応答が非常に鈍くなるので使わな のが、災害時の人の移動、疾患の移り変わりに対して効率 い。 急性期治療に漢方薬を取り入れることで、攻撃的薬 的であると考える。シンポジウム当日は、災害と東洋医学 剤である西洋薬が介入できないシステム異常を正常化でき 的治療に関するレビューも踏まえて考察したい。 シンポジウム 今から約1800年前に傷寒論が編纂された時期は、平均 るので、急性期疾患の治療効率が飛躍的に上昇すると考え られる。 第33回和漢医薬学会学術大会 53 S4-3 S4-4 救急外来および ICU・急性期入 院症例に対する漢方治療 内科急性期病棟患者における 漢方治療の応用 中永士師明 小野孝彦 国際医療福祉大学熱海病院 腎臓内科 秋田大学大学院 医学系研究科医学専攻 病態制御医学系 救急・集中治療医学講座 シンポジウム 現代の西洋医学を軸とした医療環境においては、急性期 医療の原点はまず予防医学であり、ついで急性期対応、 に漢方治療を行うという発想はほとんどない。しかし、 さらに回復期を経て寛解導入から再発・再燃の抑制につな 救急医学と集中治療医学のいずれにおいても漢方治療の がる医療が考えられる。地域医療の中核を担う病院の臨床 応用は可能である。歴史を紐解くと、 『傷寒論』 『金匱要 現場においては、急性期医療に多くの人員とエネルギー 略』の中には、急性感染症、中毒、蘇生の対処法につい が振り分けられている。今日の漢方診療は慢性疾患の外来 ての記述があり、まさに当時の「救急マニュアル」とも言 診療の形態が一般的であるが、明治になって西洋医学を導 える。芍薬甘草湯や五苓散は即効性が期待できる。それ 入する前の江戸期の治験録をひもとくと、かなりの急性期 らの作用機序も解明されつつあり、病名処方的に使用で や重症、難治性疾患の記載が見られる。現代の急性期・重 きる。芍薬甘草湯は筋痛に用いられる漢方薬で、われわ れは破傷風の全身痙攣にも応用している。五苓散は水毒 に用いられ、救急搬送されためまい発作にも応用できる。 「気血水」理論も急性期治療に活用できる。外傷による内 出血をお血と捉えると、駆お血作用のある桂枝茯苓丸や 治打撲一方が応用できる。内出血がみられない場合でも、 駆お血薬は外傷全般に併用することができる。炎症性腫 脹も水毒の一種であると捉えると越婢加朮湯が応用でき る。われわれはこれまでに蜂窩織炎や虫刺傷にも活用し てきた。作用機序が解明されつつある大建中湯、 六君子湯、 茵ちん蒿湯などは ICU で活用することが多く、それぞれ の漢方処方を麻痺性イレウス、胃蠕動抑制、肝機能障害 などに併用療法として用いている。西洋医学や漢方医学 など多種多様の医療のそれぞれの長所をうまく活用する ことでさらなる急性期治療の質を高めることができるで あろう。 症医療の基本は西洋医学であるが、漢方治療の併用の可能 性が示唆されている。漢方併用の意義として、西洋医学を 補完し苦痛の軽減と入院期間の短縮につながることが考え られる。 内科医は臓器別の専門性とともに総合的な対応 が必要とされ、平成 29 年度からスタートする新しい専門 医制度においても、内科オールラウンドの研鑽が求められ ている。具体的には学会による専門研修プログラム整備基 準において、内科領域全般の診療能力の修得が示されてい る。 今回のテーマにおいて、腎臓内科が担当科となった 救急搬送 ICU 入室患者や急性期病棟入院患者への漢方治 療の応用例を紹介したい。下記に提示予定症例の一部を示 す。 50 歳代男性:糖尿病で治療中。サルモネラ感染症・ 急性腎不全の重症症例に ICU 管理下で、エンドトキシン 吸着療法、持続的透析濾過療法を行いつつ五苓散を投与し、 下痢、嘔吐の急速な改善を認めた。 40 歳代女性:全身 性エリテマトーデスに伴った急性膵炎後の腸管麻痺に大建 中湯を投与し、翌日から排便があり食欲が回復した。 80 歳代男性:原疾患は糖尿病。慢性腎不全に慢性心不全を合 併した食事・高カロリー輸液併用中の摂食不良・便秘・衰 弱に大建中湯を投与し、便通が良好となり食事も全量を摂 取できるようになり退院に至った。 80 歳代男性:ANCA 関連血管炎にプレドニゾロンにて治療開始後、減量の過程 で強い悪寒を訴え、麻黄附子細辛湯を投与して、悪寒の改 善を認めた。 60 歳代男性:原疾患は痛風腎。尿毒症性 昏睡で救急搬送され、透析導入の後に意識が戻ったが血液 培養で表皮ブドウ球菌と腸球菌検出の敗血症を続発。抗生 剤で一旦おさまった。その後 C. ディフィシル腸炎、緑膿 菌による尿路感染、表皮ブドウ球菌(MRSE)による腎盂 腎炎を次々にきたした。補中益気湯の投与後、再び腎盂腎 炎を生じたものの、以後は感染症を起こさずに安定し、急 性期病棟からの退院に至った。 54 第33回和漢医薬学会学術大会 S4-5 がん医療への漢方の応用: 全人的支持療法としての意義 元雄良治 金沢医科大学 腫瘍内科学 はじめに:固形がんは早期発見され治癒切除される以外、 シンポジウム 完治が困難な疾患であり、重症化して入院となる患者が 多い。一方で、外来化学療法が発達したことから、良好 な QOL を保ちながら治療を継続し、社会生活を送るこ とが可能となっている。本発表では、演者らの施設での がん医療(とくに化学療法)の支持療法としての漢方の応 用について述べたい。化学療法サポートチーム(CST) : 化学療法の副作用は全身に及ぶので、多職種の医療ス タッフがチームを形成し、毎朝のミーティングで情報を 共有し、課題のある患者については担当医も参加するカ ンファレンスを開催して解決策を探るようにしている。 CST は外来だけでなく、入院患者に関する相談も受け付 けている。がん治療サポート外来:外来化学療法中や、 経過観察中の外来通院患者を対象に、化学療法を中心と したさまざまな治療に伴う悩みを拾い上げ、対応策を考 える機会とするのがこの外来である。外来化学療法室に はさまざまな診療科を受診中の患者が集中するので、そ こに常駐する腫瘍内科医は診療科横断的に対応できる。 漢方も診療科横断的であるので、がん治療サポート外来 で漢方医学的観点から患者を診察し、愁訴の解決策のひ とつに漢方を提案できる。入院がん患者への支持療法: 入院を要するような重症のがん患者では、経口摂取不能 の場合が多い。しかし、もし必要なら経管的に漢方製剤 を投与できる。経口摂取可能であれば、積極的に漢方治 療を考慮する。入院患者では、傾聴し、漢方医学的診察 をする時間があるので、より適切な処方を選択できる。 複数の有害事象に1 剤で対応できる漢方方剤:たとえば イリノテカンによる口内炎と下痢に半夏瀉心湯を使うこ とは広く知られている。現在演者らは、オキサリプラチ ンによる貧血と末梢神経障害に対する人参養栄湯の効果 を臨床試験で検証中である。おわりに:がん医療では、 oncologic emergency のような救急の現場から、長期に わたりがんと共生する生き方を全人的にサポートするこ とまで、さまざまな場面に遭遇する。漢方が入院・外来 を問わずがん医療に応用されつつあるが、その有効性と 安全性を今後臨床試験などで検証していく必要があろう。 第33回和漢医薬学会学術大会 55 シンポジウム 5 薬剤師シンポジウム 「これからの薬剤師に漢方知識は必要か?」 8 月 28 日(日) 13:30 〜 15:30 A 会場(メインホール) オーガナイザー シンポジウム 横浜薬科大学 薬学部 漢方薬学科 薬剤師の置かれている環境はめまぐるしく変わっ 次に「かかりつけ薬剤師と漢方」の題で小島薬局代表 ており、今正に薬剤師が変わろうとしています。今 取締役の小島晃先生より開局薬剤師の立場より提言 この時期であればこそ「漢方」の知識が薬剤師には不 をいただきます。先生は、「健康サポート薬局に健康 可欠と考えます。その理由を各先生のお話から明ら 相談、受診勧告、要指導医薬品などの備蓄を求めて かにしていきたいと思っております。 います。同時にセルフメディケーションの推進と健 最初に私から「薬剤師の漢方知識の必要性」につき、 康情報発信も求めています。健康サポート薬局には 当帰芍薬散を例にお話させていただきます。例えば 漢方薬に関して明言されていませんが、要指導医薬 男性に「当帰芍薬散」が処方されたらどうしますか? 品の服薬指導だけではミニ診療所になるだけだと思 男性に処方されるのは問題でしょうか?このような われます。セルフメディケーション推進のカギは「未 場合にどうするかを私なりにお話ししたいと思って 病を治す」という思想がある漢方医学に知恵がある おります。薬剤師は、医師と患者の関係を強固にも といえます。」と述べられており、開局薬剤師に漢方 でき、崩すこともできるのです。 の知識がなぜ必要なのかをお話しいただきます。 次に、医療法人社団三喜会横浜新緑総合病院薬剤部 最後に横浜薬科大学教授の榊原巌先生に製薬会社ご 長の藤本康嗣先生に「チーム医療における漢方処方 との漢方薬の相違についての疑問と思われる点をお への薬剤師の関与について」と題して講演いただき 話しいただきます。「薬局あるいは病院で服薬指導の ます。チーム医療に漢方がどのように関与されてい 際に、「メーカーごとに違いがあるのか?」と患者様 るのかをお話しいただき、さらに「新薬化合物製剤と から問い合わせを受け、説明に苦慮された経験をお の併用が多くみられることから、それらの服用から 持ちの方が少なからずおられるのではないでしょう 得られる効果の評価と相互作用や副作用の発現に対 か。」と問いかけられており、このような場合どのよ するきめ細かい観察が必要である。 」と先生は述べら うに患者様に服薬指導をすべきなのかを提言をいた れており、この点に関しても病棟薬剤師の観点から だきたいと思っております。 お話しいただきます。 56 石毛 敦 第33回和漢医薬学会学術大会 S5-1 S5-2 かかりつけ薬剤師と漢方かかりつ け薬剤師と漢方 チーム医療における漢方処方への 薬剤師の関与について 小島 晃 株式会社小島薬局 代表取締役 藤本康嗣 医療法人社団三喜会横浜新緑総合病院 薬剤部 横浜新緑総合病院(以下:当院)は横浜市緑区に開設した えて、すべての薬局をかかりつけ薬局に再編する道筋を 236 床(一般急性期 DPC 対象病床 161 床、回復期リハビリ 示した「患者のための薬局ビジョン」を公表しました。こ テーション病棟 38 床、地域包括ケア病床 37 床)、外来全 の中で、薬局再編の全体像として2025年までにすべ 面分業、全病棟に薬剤師が常駐している病棟薬剤業務実施 ての薬局をかかりつけ薬局にすることを目指すと明言し 加算届出病院である。 ています。そして、かかりつけ薬剤師は全ての医薬品(処 当院では昨年度、39 方剤が使用された(2015 年 4 月 1 日 方箋薬、OTC 薬、漢方薬など)を一元的・継続手的に把 ~ 2016 年 3 月 31 日)。使用量(投与日数換算)は大建中湯 握することが求められています。つまり、かかりつけ薬 エキス顆粒(以下 大建中湯)3181.5 日分 35.33%、抑肝 剤師にとって漢方の知識は不可欠といえます。さて、 「患 者のための薬局ビジョン」ではかかりつけ薬局の上に「健 康サポート機能」を有する薬局の整備を進めていくと記 載しています。そして、健康サポート薬局に健康相談、 受診勧告、要指導医薬品などの備蓄を求めています。同 時にセルフメディケーションの推進と健康情報発信も求 めています。健康サポート薬局には漢方薬に関して明言 されていませんが、要指導医薬品の服薬指導だけではミ ニ診療所になるだけだと思われます。セルフメディケー ション推進のカギは「未病を治す」という思想がある漢方 医学に知恵にあるといえます。理想の健康サポート薬局 とは、漢方医学の四診、簡易検査、血流計、体組成計な どで患者をトリアージできることが大切になります。程 度が軽い方は栄養学や薬膳の知識を生かした食事指導を 行い、未病の段階で症状を軽減します。病院に行くまで のない機能的疾患の方は、漢方薬やサプリメントを活用 して症状を改善します。そして器質的疾患が疑われる方 は適切な医療機関に紹介します。さらに漢方薬に関する 知識や経験が豊富であれば、西洋医学が苦手な疾患に対 して医療機関に処方提案も行うことも可能です。このよ うに患者の状態を正しく判断して、適切な対応を行うこ とができる薬剤師が真の「かかりつけ薬剤師」となれるの です。 シンポジウム 厚生労働省は2015 年 10 月 23 日地域包括ケア時代を見据 散エキス顆粒 980 日分 10.88%、五苓散料エキス細粒 966 日分 10.73%、補中益気湯エキス細粒 518 日分 5.75%、芍 薬甘草湯エキス細粒 434 日分 4.82%、十全大補湯エキス 細粒 376 日分 4.20%、人参湯エキス細粒 182 日分 2.02%、 六君子湯エキス細粒 182 日分 2.02%、半夏瀉心湯エキス 細粒 154 日分 1.71%が上位 10 方剤になり、その他 29 方 剤 1526 日分 16.95%であった。 このように、大建中湯の使用量が3181.5 日分 35.33%と 圧倒的に多い。添付文書上の通常用量は1 日 15 gではある が、実際は1 日 7.5 gで投与されている症例が多く見受け られるため、実際の使用症例数を加味すると漢方エキス方 剤の半数以上に達すると考えられる。 今回、2016 年 3 月 1 日~ 31 日の1 か月間の大建中湯の 使用実態について調査した。投与症例数 38 例、その投与 量は、7.5 g/日が30 症例、15 g/日 4 症例、10 g/日 2 症例、5g /日 1 症例と圧倒的に7.5 g/日で投与されて いる症例が多いことが分かった。また、酸化マグネシウム との併用が20 症例、モサプリドとの併用が16 症例であり、 そのうち7 症例が両剤とも併用されていた。 このように医療用漢方エキス製剤は投与しやすい剤形で ある事から、新薬化合物製剤との併用が多くみられ、それ らの服用から得られる効果の評価と相互作用や副作用の発 現に対するきめ細かい観察が必要であると考えている。 当院での漢方エキス製剤に対する医師の評価は、診療科 に限らず個々の医師によってさまざまではある。そこで栄 養サポートチームによる回診時に薬剤師から積極的な漢方 処方の提案をすることで、治療の選択肢および漢方エキス 製剤の有用性を広めている。特に食欲低下、下痢、便秘、 悪心・嘔吐などの症状の改善に寄与することが多く、栄 養管理のサポートに漢方エキス製剤は貢献していると考え る。 第33回和漢医薬学会学術大会 57 S5-3 漢方製剤のメーカーごとの違いとは 榊原 巌 横浜薬科大学 漢方薬学科 薬用資源学研究室 S5-4 「これからの薬剤師に漢方知識は 必要か?」 石毛 敦 横浜薬科大学 薬学部 漢方薬学科 シンポジウム 現在,9 割近くの医師が,漢方製剤を何らかの形で治療 薬剤師の置かれている環境はめまぐるしく変わっていま に用いるようになっています。第 17 改正日本薬局方が今 す。本年の「かかりつけ薬剤師」等次々に新しい制度が打 年の4 月に施行され,防已黄耆湯,抑肝散,桃核承気湯, ち出され、薬剤師が変わろうとしています。今こそ「漢方」 防風通聖散,加味帰脾湯の5 処方を追加し,現在までに の知識が薬剤師には不可欠と考えます。漢方の服薬指導 合計 33 処方の漢方製剤が収載されました。医療の中で漢 は難しいという声を聴きます。例えば女性のための方剤 方が確かな地位を占めるようになったことを実感してい と考えられる「当帰芍薬散」が男性に処方された場合どの ます。しかし,それに伴い,薬局あるいは病院の調剤部 ように対処したらよいのか?という質問をいただく場合 署では,漢方製剤の服薬指導の機会も当然増えていると があります。そこで、ここでは女性に良く使われる3大 思います。その際に,患者様から, 「メーカーごとに品質 方剤として知られている「当帰芍薬散」 「「桂枝茯苓丸」 「加 に違いがあるのでしょうか?」と問い合わせを受けられ, 味逍遥散」をお話させていただきたいと思います。「当帰 回答に苦慮された経験をお持ちの先生方もおられるので 芍薬散」は「金匱要略」を出典とし「婦人妊娠篇と婦人雑 はないでしょうか。1986 年,当時の厚生省から出された 病篇」にて「妊娠中のこわばり痛む腹痛」等に使うことが 薬審 120 号通知,別名を " マル漢通知 " と称する行政通 記載されています。 「桂枝茯苓丸」も「金匱要略」を出典 知が出されました。その中には,漢方処方ごとの指標成 とし、 「婦人妊娠病篇」に紹介されています。 「加味逍遙散」 分の設定,標準湯液の設定と含量保証といった項目が記 の出典は、『和剤局方』 、 『女科撮要』 、 『内科摘要』 、 『万病 載されております。各社この通知内容に則り,この30 年 回春』など諸説ありますが、 「和剤局方」に載っている「逍 間,漢方製剤を製造しております。漢方製剤の現状を正 遙散」に「山梔子」と「牡丹皮」を加えた「加味逍遥散」を しく理解し,患者様の不安や疑問を払拭することは,薬 「女科撮要」から始めたという記載が「浅田方函口訣」に 剤師にとって今後,重要な事項になると思います。本会 あります。いずれにせよこれら3方剤は出典から見ると では,以下に記す項目についての紹介をさせて頂きます。 女性に使う方剤とも読めるのです。そのため、これら3 皆様の一助となることを願います。1) 薬審 120 号通知 方剤は女性にしか使えないのではないかという疑問が出 とは2) 標準湯液 3) 指標成分 4) 漢方の出典について てきます。 「当帰芍薬散」を一例として解説いたします。 5) 配合生薬の違い6) その他 「当帰芍薬散」は当帰、川キュウ、芍薬、茯苓、朮、沢瀉 が構成生薬です。四物湯と四苓湯の合方から地黄と猪苓 を去ったものとみることができます。したがって、血虚 の証と水滞(水毒)の証を目標に使用することができま す。大塚敬節先生は「漢方診療 30 年」で、 「当帰芍薬散は、 妊娠中の腹痛、婦人科的疾患に用いるばかりでなく、冷 え症で、血色がすぐれず、頭重、めまい、動悸、肩こり などを訴えるものにも用いる。男女ともに用いてよい。 」 と述べられております。つまり、 「血虚」と「水滞」の「証」 があれば男女ともに用いることができるのです。山田光 胤先生や竜野一雄先生、矢数道明先生等も同様のことを 記されており、男女ともに用いる方剤であることを明ら かにしています。「桂枝茯苓丸」、「加味逍遙散」も同様で あり、男性患者に処方された場合にも適切な服薬指導が 必要と考えられます。 58 第33回和漢医薬学会学術大会 第33回和漢医薬学会学術大会 和漢薬イノベーションの創生 一般演題 口演 O1-1 O1-2 黄色ブドウ球菌感染症に対する辛夷 清肺湯の抗感染症効果の臨床的検討 大建中湯が脳血流改善に有効だっ たと考えられるもやもや病症例 ○南 正明1、小西 徹2、牧野利明2 栗原栄二 東京都立神経病院 神経小児科 名古屋市立大学 医学部 細菌学、 2 名古屋市立大学 薬学部 生薬学 1 敗血症、毒素性ショック症候群等のような様々な重篤な テーマにふさわしいと考え提示した。 【症例】 3 歳発症の 疾患を起こす病原細菌である。最近の黄色ブドウ球菌治 もやもや病女児。左上肢その後左下肢の麻痺で発症し、 療の深刻な問題はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌をはじ 頭部 MRA にてもやもや病が疑われ、脳血管造影で確定 めとする薬剤耐性菌の出現による治療効果の低下と、鼻 診断された。その後右片麻痺・嚥下障害・発語障害が出 腔内などでの長期保菌状態の増加である。辛夷清肺湯は、 現した。間接血行再建術(EDAS 手術)を施行し、その後 耳鼻咽喉科領域の上気道疾患で使用される処方である。 ゆっくり症状は軽快し、支持で歩行わずかに可能、水分 本研究では黄色ブドウ球菌に対する辛夷清肺湯エキス剤 以外の経口食事摂取が可能となり、以降は安定していた。 の抗感染症効果についての背景因子を検討した。 【方法】 10 歳時の冬に坐位がとれず、右手の筋力低下、11 歳の 名古屋市内の病院で分離された患者背景並びに採取部位 夏に疲れやすく、座位保持不能で、飲み込み悪く、歩行 の異なる、黄色ブドウ球菌 203 株について、辛夷清肺 も不能となり、翌年春まで症状持続した。13 歳の冬に再 湯エキスの抗菌活性を、K-B disk(エキスとして7 mg/ び同様症状出現し翌春まで持続、以後同様の症状が毎年 disk)を用いた disk diffusion 法で測定した。更にこの測 反復して出現した。18 歳の冬に四肢の冷感強いため、当 定結果と分離された黄色ブドウ球菌の分離背景因子(性 帰四逆加呉茱萸生姜湯を開始したが改善ないため、大建 別、年齢別、分離部位別、分離診療科別、イミペネム、 中湯を開始したところ、その後は冬期の冷えの改善とと レボフロキサシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、 もに、冬夏の運動障害悪化が消失した。22 歳で再び同様 ミノサイクリンの4種類の抗菌剤の耐性別)についての 床 【目的】大建中湯の新たな臨床応用につき、本学術集会の 臨 【目的】黄色ブドウ球菌は、副鼻腔炎、蜂窩織炎、肺炎、 症状が出現したが、大建中湯の増量で症状が改善した。 関連性を検討した。 【成績】辛夷清肺湯エキスの黄色ブド 【結果】大建中湯により、もやもや病による冬夏にみられ ウ球菌に対する感受性は66.5 % であり、メチシリン感 た運動障害悪化が改善した。【考察】大建中湯は『金匱要 受性菌とメチシリン耐性菌の比較では、57.1% と67.2% 略』腹痛寒疝宿食病篇に記載され、体力が低下し四肢や だった。性別での比較では、 男性59.5% と女性75.9% だっ 腹部が冷えて腹痛・腹部膨満を来す場合に用いられ、術 た。年齢別での比較では、50~60 歳、80~90 歳、70~80 歳、 後イレウスの改善に効果があるとされる。基礎的研究か 60~70 歳でそれぞれ80%、76.7%、69.4%、69.2% だった。 ら、腸管血流の改善効果が証明されており、その効果は 主要な分離部位別では喀痰、血液、尿でそれぞれ77.9%、 アドレノメデュリン(ADM)の増加によるものであると 68.8%、61.9% だった。主要な分離診療科別では呼吸器 する研究成果がだされている。一方で、最近の ADM 研 内科、総合内科、外科、皮膚科でそれぞれ76.7%、75%、 究によれば、ADM は慢性の脳血流低下による認知機能 66.7%、66.7% だった。抗菌剤の耐性別の比較では、レ 低下を予防することがわかってきている。大建中湯の脳 ボフロキサシン、エリスロマイシン、イミペネム、ミノ 血流改善効果についての報告はみられないが、本もやも サ イ ク リ ン で そ れ ぞ れ73.6%、66.7%、63.6%、63.6% や病症例の症状改善は脳血流改善効果による可能性があ だった。【結論】今回の検討結果で、辛夷清肺湯エキス剤 ると考えられた。【結論】血管性認知症のうち、その半数 は、黄色ブドウ球菌に対しても抗菌効果を認め、特に女性、 を占める皮質下認知症は慢性血流障害により白質病変を 高齢者、喀痰、呼吸器内科、レボフロキサシン耐性菌に きたすのを特徴としているが、ADM が治療薬候補のひ 有効性があることが明らかになった。更に辛夷清肺湯エ とつとなっており、研究開発が進められている。大建中 キス剤がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対しての新規 湯により ADM を介した脳血流改善の可能性が考えられ、 抗感染症薬の可能性があることも示唆された。 新たな臨床応用として認知症治療の大きな進展につなが ることが期待される。基礎研究による薬効証明が望まれ る。 第33回和漢医薬学会学術大会 61 O1-3 O1-4 天然物を配合した歯磨き剤による 歯周病改善効果 会陰部痛を訴え慢性前立腺炎と 考えられる症例の漢方治療 ○服部幸治1、佐藤千奈1、高木 寛1、八代洋一1、中田 悟1、 山本弦太2、三谷章雄2 ○及川哲郎1、小田口 浩1、花輪壽彦1,2 日本メナード化粧品株式会社 総合研究所、 2 愛知学院大学 歯学部歯周病学講座 1 1 2 北里大学 東洋医学総合研究所、 北里大学 医学部 医学教育研究開発センター 臨 【目的】歯周病は、歯周病原細菌による慢性炎症性疾患で [症例 1]59 歳、男性。主訴:会陰部の痛み、不快感。現病 あり、我が国において成人の約 8 割が罹患していると言 歴:以前から、春秋など季節の変わり目を中心に会陰部の われている。歯周病の改善には、適切な口腔清掃習慣と 痛みが出現していた。座っていると排尿と関係なくじわっ ともに、抗菌剤や抗炎症剤を配合した歯磨き剤の使用が とした痛みや不快感を自覚し、排尿後に痛むこともある。 有効である。またそれに加え、歯磨き剤に歯肉を構成す 最近 1 カ月ほど、痛みが悪化したため来院した。仕事のス る細胞に働きかける成分を配合することは、さらに効果 トレスが多い。夜間尿 2 回。漢方医学的所見:体格は中等 的であると考えられる。そこで本研究では、天然物であ 度。舌診は湿・淡紅・厚灰苔を認めた。脈診は沈、腹診 るオオムギ、ラフマ、ジュンサイによる歯肉線維芽細胞 は腹力中等度であった。経過:清心蓮子飲を処方したとこ の活性化作用について、さらには、これらの成分を配合 した歯磨き剤を用いてヒト有効性試験を行い、その効果 について検討した。 【方法】 (1)細胞試験:正常ヒト歯肉 床 線維芽細胞(以下、HGF)にオオムギ、ラフマ、ジュン サイを添加して培養し、3 日後、細胞生存活性を測定して、 細胞増殖率の算出を行った。また、培養上清中の FGF2、 FGF7 について、ELISA による測定を行った。 (2)オオ ムギ、ラフマ、ジュンサイ配合歯磨き剤を用いたヒト有 効性試験:歯周病の疑いのある被験者 32 名に対し、当 該歯磨き剤を朝・昼・就寝前に使用させた。使用前、使 用 1 ヶ 月 後、2 ヶ 月 後 お よ び3 ヶ 月 後 に、PD(Probing pocket Depth、単位:mm) 、AL(Attachment level、単位: mm) 、BOP(Bleeding On Probing、単位:%)を指標とし、 歯周病改善効果を検討した。 【結果】 (1)細胞試験:オオ ムギ、ラフマ、ジュンサイはいずれも、HGF に対する細 胞増殖促進を示した。また、オオムギは FGF2 の、ラフ マは FGF7 の産生促進をそれぞれ示した。 (2)ヒト有効 性試験: PD、AL、BOP のいずれの指標においても、歯 磨き剤使用 1 ヶ月後より改善が認められた。改善作用は 使用 3 ヶ月後においても継続しており、当該歯磨き剤の 歯周病改善効果が確認された。 【考察】歯肉線維芽細胞は、 歯肉の中央部に位置し、FGF2、FGF7 といったサイトカ インを介して、歯肉上皮細胞や歯根膜由来幹細胞など、 歯周組織を構成する他の細胞に対して作用を及ぼす可能 性が考えられる。このことから、オオムギ、ラフマ、ジュ ンサイ配合歯磨き剤は、歯肉全体の健康維持に寄与する ことにより、歯周病改善に効果的であることが示唆され た。 ろ、服用 4 日目には会陰部の痛みや不快感が取れ、1 か月 で殆ど症状が消失した。[症例 2]50 歳、男性。主訴:会陰 部・尿道の痛み。現病歴:半年ほど前から誘因なく、会陰 部から尿道口にかけての痛みが出現するようになった。他 医で慢性前立腺炎と診断されたが、3 か月間治療を受けて も改善せず来院した。腰痛があり整形外科にも通院してい る。漢方医学的所見:体格は中等度。舌診は乾湿中間・淡 紅・薄白苔を認めた。脈診は沈、腹診は腹力中等度で右胸 脇苦満を認めた。経過:数処方を試みたが症状が安定せず、 初診より3 か月後に桂姜棗草黄辛附湯加減に転方したとこ ろ、転方 1 週間後に来院。「この4 日ほど、これまでで一番 良い。会陰部の違和感や尿道口のしびれ感は軽快した」と 述べた。その後も諸症状は安定して経過した。[症例 3]61 歳、男性。主訴:会陰部を中心とした痛み、不快感。現病 歴:2 年ほど前から、会陰部を中心に下腹部、陰嚢、肛門、 臀部から内股にかけて、痛みや不快感を自覚していた。ひ どいときは座っていることもできず、車の運転は特に辛い。 泌尿器科で慢性前立腺炎の診断を受け、抗生剤を中心とし た治療を受けていたが、冷えた場所に行くと症状が再燃・ 悪化する。便秘症で痔もある。漢方医学的所見:体格は痩 せ型。舌診は淡紅・薄白苔・舌下の静脈怒張を認めた。脈 診は沈・やや数、腹診は腹力中等度で、小腹不仁・軽度腹 直筋攣急・軽度臍傍圧痛・左右腸骨窩部の軽度圧痛を認め た。経過:当帰四逆加呉茱萸生姜湯を処方したところ、服 用開始 1 か月で徐々に痛みや不快感が取れはじめ、2 か月 後にはだいぶ痛みが改善した。白河附子を加味し諸症状は さらに安定、殆ど痛みを感じずに過ごせることが多くなっ た。[考察・総括]慢性前立腺炎は一般に難治とされ、西洋 医学的には抗生物質以外の有効な治療手段が少ないため、 積極的な漢方治療が考慮されてよいと考えられた。 62 第33回和漢医薬学会学術大会 O1-5 O1-6 ★ 生理痛に対する松康泉の有効性 について 伝統医学における医療安全 ~副作用への取り組み~ ○野崎利晃1,2、邵 輝1 ○関根麻理子、若杉安希乃、小田口 浩、花輪壽彦 北里大学 東洋医学総合研究所 1 株式会社徳潤、2 有限会社漢方の野崎薬局 【背景】当研究所は1986 年に WHO 伝統医学協力センター どの症状がひどく、日常生活に支障のある場合を「月経 に指定され、以来現在に至るまで WHO への協力活動に 困難症」と呼びます。月経困難症には機能性月経困難症 取り組んでいる。WHO における取り組むべき重要な分 と器質性月経困難症があり、機能性とは原因となる病気 野の一つに「医療安全」がある。それは、日本においても の無い月経困難症、器質性とは、子宮内膜症などの病気 重要なテーマであり、漢方薬は副作用のない薬だと誤解 が原因となっている月経困難症ですが、今回、機能性月 され、漢方医学における副作用が軽視されつつある。当 経困難症、器質性月経困難症について松康泉の鎮痛効果 研究所でも、副作用を発現した患者はいるが、個々に対 を検討しました。松康泉の主な成分は松節から抽出した 応しているものの、所内で副作用情報が共有されておら ピネシアコムオイルは抗酸化、蛋白分解酵素及び炎症因 ず、さらに副作用の実態を把握できていないのが現状で 子を抑制し、神経伝達物質を活性化するなど様様作用が ある。 【目的】副作用を早期に発見して迅速かつ適切な患者対応 悩む女性患者、漢方の野崎薬局鍼灸院来院患者に投与し につなげるため、副作用の実態を把握し、また副作用情 ました。評価方法 :5 段階評価 1. 改善しない、2. 少し改 善した、3. 改善した、4. かなり改善した、5. 完全に改善 した。実施方法 : 服用開始から三ヶ月後の痛みに対する 床 あります。この松康泉を用いて楽山中医医院外来痛みが 臨 月経困難症とは月経に伴い起きる腹痛、腰痛、頭痛な 報を共有するシステムを構築すること。 【方法】上記目的を達成するための手段を所内で議論し、 決定した。 効果を検討。楽山中医医院外来頭痛、生理痛 / 腹痛、腰 【結果】まず、厚生労働省より出されている重篤副作用疾 痛女性患者 32 人、漢方の野崎薬局鍼灸院患者 15 名に対 患別対応マニュアル等を参考に、副作用の実態を把握し 象して、松康泉を投与し痛みの評価を実施。対象患者は た。そして、副作用を早期発見するために、6 つの重篤 生理痛症状を訴えるために非ステロイド性消炎鎮痛剤を な副作用(薬剤性肝障害、間質性肺炎、うっ血性心不全、 使用している年齢が18 歳から45 歳の患者。患者は子宮 横紋筋融解症、偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症) 内膜症、月経不順、子宮筋腫、更年期、卵巣腫瘍などの を中心に、事前に患者へ積極的に情報提供することとし、 疾患があり、今回松康泉は鎮痛効果を観察した。47 人の 定期的に血液検査を促すアラートシステムも導入した。 患者は松康泉 6 錠を投与しました。結果 :47 人中 42 人に また、情報共有マニュアルを構築した。 ついて痛み症状が改善したという結果が得られた。また、 【考察】自覚症状のある副作用に関しては、事前に患者へ PMS 症状の改善も3 ヶ月の投与期間中に確認することが 積極的に情報提供すること、定期的な検査で発見できる 出来たので、今後 PMS に対する効果についても検討し 副作用に関しては、検査忘れを防止するアラートシステ たい。 ム導入が、早期発見につながる有効な手段と考えられた。 そして、情報共有マニュアルを徹底することで、副作用 情報の一元管理が可能となり、実態を把握することがで きると考えられた。また、腸管膜静脈硬化症のような副 作用に関しては、個々ではなく、組織としての対応を取 り決めることが、迅速かつ適切な対応につながると考え られた。 【結論】副作用を早期に発見して迅速かつ適切な対応をす るシステムの構築ができた。そして、それが今後の医療 安全につながることを期待する。 第33回和漢医薬学会学術大会 63 O2-1 O2-2 遺伝子組み換え発癌マウスを用い た十全大補湯・補中益気湯・小 柴胡湯による癌治療の検討 阿波晩茶の抗アレルギー作用に おける薬効発現機構 中村隆文 川崎医科大学 産婦人科学1 ○福井裕行1、中野友寛2、伊藤智平2、北村紀子3、 北村嘉章4、水口博之2、神沼 修3、内田勝幸5、武田憲昭4 徳島大学 大学院医歯薬学研究部 分子難病学分野、 徳島大学大学院 医歯薬学研究部 分子情報薬理学分野、 3 東京都医学総合研究所花粉症プロジェクト、 4 徳島大学大学院 医歯薬学研究部 耳鼻咽喉科学分野、5 株式会社明治・研究本部食機能科学研究所 1 2 【目的】当院では周術期や抗癌剤治療中に QOL 改善のため 【目的】鼻過敏症の症状発現に関与する主要病理機構とし 漢方薬を併用しているが、漢方薬の免疫賦活や抗炎症作用 て、ヒスタミン H1 受容体(H1R)刺激による PKC δシグ が癌治療にも応用できるか発癌マウスを用いて検討した。 ナルを介する H1R 遺伝子発現亢進を明らかにし、抗ヒ 【方法】 (1)HPV の癌蛋白が子宮頸癌を発生させるのと同じ ア レ ル ギ ー・ が ん ジイソシアン酸(TDI)感作鼻過敏症モデルラット(TDI 出生時に異形成から上皮内癌を発生して数ヶ月後には浸潤 ラット)において、抗ヒスタミン薬単独投与による症状 癌となる発癌モデルαT3 マウスを開発した。 (2)子宮頸癌 軽減は約40%であり、抗ヒスタミン薬とトシル酸スプ の浸潤には腫瘍浸潤マクロファージが関係することを報告 ラタスト(IPD)の併用投与により約10%に軽減した。 してきたが、αT3 マウスモデルでも同様にマクロファー ジが腫瘍の浸潤進展に関与しているか検討するために、マ クロファージ阻害薬(2-Chloroadenosine)を4 週齢から継 続投与してαT3 マウスの生存期間を比較検討した。 (3)免 疫賦活や抗炎症作用のある十全大補湯・補中益気湯・小柴 胡湯の1.5%の混飼をαT3 マウスに投与して生存期間を比 較検討し、各漢方薬のマクロファージの機能への効果も検 討した。(4)腫瘍局所の炎症が悪化した場合の腫瘍浸潤進 展を検討するために、炎症性サイトカインであるヒト IL-1 βを同時に水晶体上皮に特異的に過剰発現する炎症癌モデ ルαT3βマウスも作製して、病理組織と生存期間を検討 した。(5)さらにαT3βマウスにも各漢方薬の混飼を投与 して生存期間を比較検討した。【結果】 (1)αT3 マウスに 2-Chloroadenosine を投与してマクロファージを減少させ ると生存期間は有意に延長した。 (2)αT3 マウスに免疫賦 活や抗炎症作用のある各漢方薬を投与したところ各漢方薬 投与マウスで生存期間が有意に延長した。(3)αT3βマウ スでは腫瘍局所の炎症が増悪してマクロファージの浸潤が 促進され、腫瘍の浸潤進展が促進して寿命が短縮した。(4) 興味深いことにαT3βマウスにおいては十全大補湯と補 中益気湯を投与しても延命効果がなく、小柴胡湯にのみ有 意に延命効果があることが確認できた。【考察】αT3 マウ スモデルでも子宮頸癌の発生と同じくマクロファージが炎 症を誘発して浸潤進展を促進している可能性がある。十全 大補湯・補中益気湯・小柴胡湯投与はαT3 マウスの生存 期間を有意に延長したが、腫瘍局所の炎症が悪化した状態 のαT3βマウスでは十全大補湯と補中益気湯の自然免疫 賦活では効果なく、小柴胡湯による強い抗炎症作用やマク ロファージの貪食能賦活により有意に延命効果があった。 つまり炎症が強くマクロファージの浸潤の多い癌患者では 小柴胡湯投与が有効である可能性が示唆された。 64 スタミン薬の作用点であると考えられた。トルエン 2,4- 機能をもつ SV40T 抗原を水晶体上皮に特異的に発現させ、 第33回和漢医薬学会学術大会 そして、IPD は第2の病理機構、NFAT シグナルを介す る IL-9 遺伝子発現機構を作用点にすることを明らかにし た。本研究は、IPD と同様の作用点を持つ天然物医薬と して、阿波晩茶の有効成分と薬効発現機構解明を目的と した。 【方法】 TDI 感作鼻過敏症モデルラット(TDI ラッ ト)を用いる症状発現に関する in vivo の研究、及び、培 養 細 胞(RBL-2H3 細 胞、BHK-21 細 胞)に お け る NFAT シグナルを介する IL-9 遺伝子発現亢進機構に関する in vitro の研究を組み合わせて行った。【結果】TDI ラットへ の抗ヒスタミン薬と阿波晩茶との併用投与は、症状を約 10%に軽減した。阿波晩茶は、カルシウムイオノフォ ア刺激した RBL-2H3 細胞における IL-4、及び、IL-9 遺 伝子発現亢進に対して、抑制作用を示し、有効成分とし て、ピロガロールを同定した。抗ヒスタミン薬とピロガ ロールの併用投与は、TDI ラットの症状を顕著に軽減し た。リコンビナント GFP-NFATc1 を発現させた BHK-21 細胞において、ピロガロールはイオノマイシン刺激に伴 う NFATc1 の脱リン酸化、および核内移行も阻害した。 【考察】鼻過敏症の症状に関与する第2の細胞内シグナル、 即ち、NFAT シグナルを介する IL-9 遺伝子発現亢進に対 して、ピロガロールは阿波晩茶の有効成分として、抑制 作用を持つことを明らかにした。薬理機構は、NFATc1 の脱リン酸化の抑制であることが明らかとなった。抗ヒ スタミン薬と阿波晩茶の併用投与は、鼻過敏症に対する 有効性の高い治療法になると考えられる。 O2-3 O2-4 ★ 経口免疫療法による食物アレル ギーの治療における葛根湯の併用 効果のモデルマウスを用いた検討 新規膵臓癌治療薬探索のための in vitro 培養系の構築及び和漢薬 への応用 ○山本 武、長田夕佳、林美智慧、門脇 真 富山大学 和漢医薬学総合研究所 消化管生理学分野 ○高橋哲史1、飯塚美有2、鈴木秀和3、鈴木幸男2、 中村正彦2、五十鈴川和人1、金 成俊1 横浜薬科大学 漢方薬学科 漢方治療学研究室、 北里大学 薬学部 臨床薬学研究・教育センター、 3 慶應義塾大学 医学部 医学教育統括センター 1 2 【目的】食物アレルギー疾患は、未だ有効な治療方法がな 【目的】膵臓癌は早期診断が困難な難治がんであり、5 年生存 い疾患であり、基本的には、除去食療法が行われている。 率も非常に低い。化学療法としてはゲムシタビンを中心とし 現在、原因抗原を微量から漸増させながら経口投与を行 た薬剤が用いられており、一定の効果が認められる反面、重 う経口免疫療法(OIT)が、食物アレルギー疾患に対する 有望な根本的治療法として期待されている。しかし、原 因抗原の投与により治療が行われるために重篤な副作用 分なものではなく、未だに一般治療としては認められて いない。我々は、食物アレルギーモデルマウスを用いた 検討により、葛根湯が大腸粘膜固有層での制御性 T 細胞 (CD4+Foxp3+ 細胞)の誘導を介してアレルギー症状の 発症を抑制することを明らかにしている。制御性 T 細胞 は経口免疫寛容の誘導に関与することが示唆されている。 そこで本研究では、マウス OIT モデルを確立し、制御性 T 細胞を誘導する葛根湯を併用することにより、OIT を 効率良く行なうことが可能か検討を行った。 【方法】鶏卵 白アルブミン(OVA)を腹腔内投与して全身感作した後、 OVA を経口投与してアレルギー症状(下痢)を発症する 食物アレルギーモデルマウスを作製した。このアレルギー 症状を発症した食物アレルギーマウスに対し、低用量か ら漸次増量させて OVA の経口投与を行い、OIT モデル を作製した。OIT に葛根湯を併用した群には OVA 経口 投与の1時間前に葛根湯(500mg/kg)を投与した。 【結果】 未治療対照群では、OVA(20mg/ マウス)の投与により、 ほぼすべてのマウスにおいて下痢症状が発症した。一方、 OVA 投与により OIT を行った OIT 治療群では、下痢症 状の程度と発症率が低下し食物アレルギーに対する治療 効果が認められた。さらに、OIT 治療と葛根湯を併用し た葛根湯併用 OIT 治療群では、OIT 治療群よりも有意に 下痢症状の程度と発症率が低下し、治療効果が亢進した。 葛根湯併用 OIT 治療群では、粘膜型マスト細胞の指標で ある mMCP-1 の血漿中濃度が有意に低下し、制御性 T の感受性を高める薬剤の開発が期待される。しかしながら、 これら薬剤の探索に必要なヒト膵臓癌細胞株を既存のプラス チックプレートで2 次元培養すると、臨床的にがん組織で高 発現が認められる前立腺幹細胞抗原(PSCA)の発現がほぼ認 ア レ ル ギ ー・ が ん が発症するなど安全性に問題があり、また治療効率も十 篤な副作用も多い。そのため、新規抗がん剤や、既存の薬剤 められない。そこで本研究では、臨床を反映した膵臓癌細胞 の培養系の構築を目的とし、より生体内に近いと考えられて いる3D 培養系に注目し、本培養の細胞機能に及ぼす影響及 びスクリーニング系の構築を試みた。 【方法】ヒト膵臓癌肝転移細胞株 KMP2 細胞をプラスチック培 養シャーレ及び低吸着シャーレ(3D 培養)で7 日間培養した。 その後、両条件下で培養した細胞の mRNA および蛋白質の発 現変化を、それぞれ定量的 RT-PCR およびウエスタンブロッ ティングにより解析した。また、KMP2 細胞の抽出 RNA を 用いてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。 さらに、96 穴プレート底面の形状によるスフェロイド形成能 の比較を行った。 【結果】低吸着シャーレで3D 培養を行った結果、KMP2 細胞は 多数のスフェロイドを形成した。両条件下で培養した KMP2 細胞について PSCA mRNA 及び蛋白質発現を比較解析した結 果、プラスチック培養時に比べ3D 培養時において、mRNA 及び蛋白質ともに有意な発現上昇が認められた。さらに、マ イクロアレイ解析の結果、3D 培養時において、TAF9B や GBP2 など転移性膵臓癌で発現増加が報告される遺伝子の発 現増加が認められた。KMP2 細胞を U 底及び V 底の底吸着プ レートの1well あたり1000 個播種した結果、1well あたりに U 底プレートでは幾つかのサイズのスフェロイドが混在した が、V 底プレートでは均一な1つのスフェロイドが形成された。 【考察】KMP2 細胞を3D 培養することにより、PSCA を始め とする転移性膵臓癌で認められる種々の遺伝子発現が認めら 細胞(CD4+Foxp3+ 細胞)の大腸粘膜固有層における割 れたことから、本培養はより臨床を反映した膵臓癌細胞の in 合が有意に増加した。 【考察】 OIT に葛根湯を併用するこ vitro 培養系の構築に有用であると考えられた。和漢薬は多成 とにより、食物アレルギーの治療効果が亢進した。OIT 分系であり、本研究で構築した臨床に近いスクリーニング系 による食物アレルギー疾患の治療に対して、葛根湯併用 を用いて薬効を評価することにより、既存の評価系では見過 の有用性が示唆された。 ごされていた和漢薬の新たな薬効を見出す可能性も期待され る。 第33回和漢医薬学会学術大会 65 O2-5 ★ 没薬による免疫チェックポイント 分子 PD-L1 の発現抑制 ○横山 悟、早川芳弘、済木育夫 富山大学 和漢医薬学総合研究所 病態生化学 O2-6 ★ 食物アレルギーに対する和漢薬の 有効性の検討 ○松井照明1,2、森 幹人1、山下弘高1、田中宏幸1、稲垣直樹1 1 2 岐阜薬科大学 薬理学研究室、 名古屋大学 医学部 医学系研究科 小児科 ア レ ル ギ ー・ が ん 【目的】がん組織は様々な細胞で構成されており、またそ 【目的】食物アレルギー(FA)の一般的な治療方法は現 の細胞間相互作用ががんの増殖に重要である。近年、免 時点では存在せず、原因食物の除去を行い、自然寛解を 疫機構を抑制的に制御する免疫チェックポイント分子 待つしかないため、新たな治療薬が切望されている。当 PD-1/PD-L1 等を標的とする抗 PD-1 抗体・抗 PD-L1 抗 研究室で作製したマウス食物アレルギーモデルを用い、 体の出現により、がん細胞と免疫細胞における免疫チェッ 新たな和漢薬の有効性の探索を行った。【方法】 雌性 クポイント分子が非常に着目されている。これまで我々 BALB/c マウスに、卵白アルブミン(OVA)と水酸化アル の研究室では、漢方方剤である十全大補湯が免疫賦活作 ミニウムを1 週間間隔で2 回腹腔内投与(i.p.)することで 用をもつこと、またその構成生薬である桂皮に含まれる 感作し、その1 週間後から 10 mg OVA を週 3 回の頻度 Procyanidin C1 が転移に関わる上皮間葉転換を阻害する で 4 回経口投与(p.o.)することで FA を誘導した。さら ことなどを報告し、十全大補湯の宿主側、腫瘍側への両 に 1 週間後に50 mg OVA を p.o. することで、FA 症状 方向性の効果を明らかにしてきた。そこで、本研究では、 を惹起した。 治療薬として、i.p. 当日から、症状惹起前 十全大補湯による抗がん作用を増強する生薬を探索する 日まで、黄耆建中湯、小建中湯、当帰建中湯、大建中湯、 ことを目指し、がん細胞における PD-L1 の発現に着目し、 桂枝加芍薬湯、十全大補湯、人参養栄湯、補中益気湯、 PD-L1の発現を抑制する生薬を探索した。 【方法】 ルシフェ 四君子湯、六君子湯、啓脾湯、清暑益気湯、柴胡清肝湯、 ラーゼ遺伝子の上流にヒト PD-L1 プロモーターを挿入し 越脾加朮湯、荊芥連翹湯、滋陰降火湯、黄連解毒湯、黄 たプラスミドを構築した。その後、ヒト悪性黒色腫細胞 連湯(株式会社ツムラ)20 mg/day を p.o. した。治療薬 株 UACC257 で dual-luciferase assay 法を用いて、IFN- 投与期間に溶媒のみを p.o. した陽性対照群と、以下の比 γにより誘導される PD-L1 のプロモーター活性を抑制 較検討を行った。1. アレルギー感作の評価として、初回 する生薬水抽出エキス(100 μg/ml)をスクリーニング 10mg OVA p.o. 前日と50 mg OVA p.o. 前日の OVA 特 した。また、2次スクリーニングとして、細胞表面上の 異的 IgE 値を測定した。2. アレルギー症状の評価として、 PD-L1 の発現誘導が抑制されるものを Flowcytometry に 50 mg OVA p.o. 1 時間後の直腸温変化と下痢症状を観 て検討した。【結果】今回のスクリーニングの結果、3種 察した。3. アレルギー症状の評価後に腸間膜リンパ節と の生薬エキスが IFN-γにより誘導される PD-L1 のプロ 脾臓を回収し、 IL-4、IFN-γ、IL-10、TGF-β の mRNA モーター活性を強く抑制することを明らかにした。また、 レベルを測定した。 【結果】 清暑益気湯では OVA 特異 細胞表面上の PD-L1 の発現誘導を指標に2次スクリーニ 的 IgE の上昇の抑制を認め、体温低下と下痢症状にも抑 ングを行った結果、没薬水抽出エキスが IFN-γにより誘 制傾向を認めた。桂枝加芍薬湯は体温低下を抑制した。 導される PD-L1 の発現を最も強く抑制した。 【考察】今後 四君子湯、柴胡清肝湯、越脾加朮湯は下痢症状を抑制した。 は、in vitro で詳細な作用機序を検討すると共に、in vivo 腸間膜リンパ節における mRNA レベルは、陽性対照群 で十全大補湯に没薬を加えた十全大補湯加没薬による抗 と比較して、清暑益気湯では TGF-β と IL-10 が高く、 がん作用について検討していく予定である。 四君子湯では、IFN-γ と IL-10 が高く、越脾加朮湯では IL-4 が低い傾向が認められた。脾臓における mRNA レ ベルは、陽性対照群と比較して、清暑益気湯、四君子湯、 桂枝加芍薬湯、柴胡清肝湯で IL-4 が低い傾向が認められ た。 【考察】 FA に対する治療効果を有する可能性のあ る新たな和漢薬を複数同定し得た。その機序として IgE 産生の抑制、Th1/Th2 バランスの調整、抑制性サイトカ インの増加等が関与している可能性が示唆された。 66 第33回和漢医薬学会学術大会 O2-7 ★ O2-8 ★ タンポポ由来成分の抗単純ヘルペ スウイルス活性 補中益気湯のインフルエンザ予防効 果と細胞内エネルギー代謝との関係 ○譚 龍1、邵 輝2、薄 海霞2、吉田与志博1、白木公康1 ○高梨馨太1、団 克昭2、神崎 晶1、長谷川秀樹3、 渡辺賢治2,4、小川 郁1 1 富山大学 医学部ウイルス学、 株式会社徳潤 2 慶應義塾大学 医学部 耳鼻咽喉科学教室、 慶應義塾大学 医学部 漢方医学センター、 3 国立感染症研究所 感染病理部、 4 慶應義塾大学 環境情報学部 1 2 【Aim】Dandelion is one of traditional Chinese medicines, which contains special ingredients and a variety of pharmacological activity and is used as the common antiviral medicine.We characterized its unique anti-herpes simplex virus(HSV)activity and found its action mechanism. extract was performed by mixing the extract with virus solution and the inactivation and recovery of infectivity were assessed by a plaque assay. HSV was purified by combination of gradient ultracentrifugations and viral glycoproteins were purified by Concanavalin A column chromatography. The target glycoproteins of dandelion extract were analyzed by SDS-PAGE and the change of molecular weight of HSV glycoprotein were detected by silver staining and Western blot. 【Results and Discussion】 The infectivity of HSV was inhibited after mixing with dandelion extract obviously, but the infectivity could recover when this 生体免疫を高める漢方薬として知られている補中益気湯(補中) には、インフルエンザウイルス(Inf)感染予防効果があることが しばしば報告されているが、そのメカニズムは明らかにされてい ない。Inf 感染は細胞内エネルギー産生と免疫応答を担うミトコ ンドリアの機能障害を引き起こす事や解糖系における代謝産物に 影響を与える事が報告されている。そこで、電子伝達・共役アッ セイによりミトコンドリアの機能評価を行う細胞外フラックスア ナライザー(XF24,SeahorseBioscience)を用いて、ミトコン ドリア機能と解糖系活性の評価を行い、細胞内エネルギー代謝の 変化と補中の Inf 予防効果との関連性について検討した。 【方法】 MDCK(犬腎臓株)細胞を用いて、Inf 感染 24 時間前に補中を添 加した。同時に、予防効果を認めなかった漢方薬(十全大補湯; 十全)を添加した系も検討した。XF24 を用いて、感染後の各過 程でミトコンドリア活性の指標である酸素消費量(OCR)と解糖 系活性の指標である細胞外酸性化速度(ECAR)を測定した。 【結果】 経時的に OCR をスクリーニングし、感染後 4 時間と8 時間にお いて Control と感染単独に差が見られた。この条件下で漢方添加 による影響を検討し Control と比較したところ、次の結果が得ら mixture was diluted. From comparing its inhibitory れた。 activity toward envelop virus and nonenveloped 1. Inf 感染単独 OCR:↓ ECAR:↑↑ OCR/ECAR:↓↓↓ virus, dandelion extract would have worked on HSV 2. 補中前処理 OCR:↑↑ ECAR:↑ OCR/ECAR:↓ envelop glycoproteins. The molecular weight of this target protein was 54kd as shown from SDS-PAGE. We are trying to find and purifythe anti-viral active substances in dandelion extract, the interaction of anti-viral active substance and target protein will be analyzed further. ア レ ル ギ ー・ が ん 【Methods】 The anti-viral activity of dandelion 【目的】 3. 十全前処理 OCR:↑ ECAR:↑↑↑ OCR/ECAR:↓↓↓ ※矢印は Control 値と比較した時の増減を示す。OCR/ECAR は 代謝依割合を表す。 【考察】 本実験の結果から、Inf 感染細胞内でのエネルギー代謝はミトコ ンドリアより解糖系側に偏る傾向が見られた。一方、感染前に補 中を添加すると両方の代謝を活性化しても代謝依存度は Control と変わらなかった。この事から、補中はミトコンドリアと解糖系 のエネルギー代謝のバランスを Control と同等に維持しながら、 両方の代謝活性を増加させる可能性が示唆された。これが補中の 予防効果の一因になっていると考えられた。今後、ミトコンドリ ア膜電位への影響や脱共役タンパクである UCP1 の mRNA の発 現を検討し、より詳細なメカニズムを解析する予定である。 第33回和漢医薬学会学術大会 67 O3-1 ★ 慢性ストレスマウスにおける抑う つ様行動に対する加味帰脾湯の 改善効果 香蘇散煎剤及び慢性社会的敗北ス トレスの免疫系に対する作用の解析 ○大泉寛明、水野景太、植木俊之、今村幸子、田渕雅宏、 川上善治、溝口和臣、服部智久、加瀬義夫 株式会社ツムラ 製品戦略本部ツムラ研究所 ○廣瀬栄治1、伊藤直樹2、及川哲郎2、永井隆之1,2,3、 小田口 浩2、清原寛章1,2,3 北里大学大学院 感染制御科学府、 北里大学 東洋医学総合研究所、 3 北里大学 北里生命科学研究所 1 2 【目的】近年、我が国におけるうつ病患者数が100 万人に 【目的】香蘇散は臨床において抑うつ症状に対し処方される。 達するなど、うつ病をはじめとした気分障害は社会的な 抑うつ状態には脳内の炎症が関与しているとされ、脳内炎症 問題となっている。しかし、既存の抗うつ薬が十分に と全身免疫系が関連していることも想定されている。香蘇散 効果を示さない例も多く、新たな治療法の確立が望まれ は免疫系が関連する疾患である食餌性蕁麻疹に対しても処方 ている。加味帰脾湯は抑うつ神経症やうつ病を改善する との臨床報告があるが、その基礎薬理作用やメカニズム はほとんど解明されていない。本研究では加味帰脾湯 薬 の抗うつ作用を明確にすることを目的に、正常動物およ び慢性ストレスによるうつ病モデル動物に対する加味 帰脾湯の効果を検討した。 【方法】実験には8 週齢の雄性 C57BL/6J マウスを用いた。正常個体に対する単回投与 理 の効果を検討するため、マウスに加味帰脾湯(2 g/kg)あ るいは陽性対照薬であるイミプラミン(30 mg/kg)を経 口投与し、尾懸垂試験における無動時間に及ぼす影響を 評価した。うつ病モデルは、マウスに1 日 2 時間の拘束 ストレスを14 日間連続して負荷することにより作製した (慢性拘束ストレス、CRS) 。負荷後 1、7 および14 日目 に尾懸垂試験にてマウスの抑うつ様症状を評価した。う つ病モデルに対する慢性投与効果の検討のため、加味帰 脾湯(1-2 g/kg)あるいはイミプラミン(20 mg/kg)をス トレス負荷の開始日から28 日間マウスに経口投与し、尾 懸垂試験にて薬物の抗うつ効果を評価した。 【結果】正常 マウスに対する単回投与の結果、加味帰脾湯は尾懸垂試 験において無動時間を短縮させなかったが、イミプラミ ンは短縮させた。うつ病モデルマウスでは、CRS 負荷後 1 および7 日目において無動時間は変化しなかったが、14 日目では有意に延長し、抑うつ様症状の出現を確認した。 うつ病モデルマウスに対する慢性投与の結果、加味帰脾 湯は無動時間の延長を有意に短縮させ、その効果はイミ プラミンと同程度であった。 【考察】 CRS 負荷は抑うつ様 症状を惹起し、加味帰脾湯はこの症状をイミプラミンと 同程度に改善した。正常マウスにおける両薬物の効果の 違いから、加味帰脾湯は、抗ストレス作用も含めてイミ プラミンとは異なる作用機序にて抗うつ効果を発現する 可能性が示唆された。今後、他のうつ病モデルにおいて も加味帰脾湯が奏功するかを確認するとともに、加味帰 脾湯の標的分子を同定して、その薬理作用メカニズムを 分子レベルで解明したい。 68 O3-2 ★ 第33回和漢医薬学会学術大会 されることから、香蘇散の免疫系に対する作用が抗うつ効果 に関連している可能性が考えられる。しかし、香蘇散の抗う つ作用やストレスにより誘発された抑うつ状態と免疫系の関 連は十分には明らかになっていない。そこで今回は、慢性社 会敗北ストレス(CSDS)と香蘇散の免疫系に対する作用を CSDS 誘発うつ様モデルマウスを用いて検討した。 【方法】CSDS 誘発うつ様モデルマウスは、aggressor として CD-1 マウス(リタイヤ、♂)を用いてテストマウスを攻撃さ せることにより作製した。テストマウスには Th1 配向であり 細胞性免疫優位な C57BL/6 マウス(8 週齢、♂)と Th2 配向 であり液性免疫優位な BALB/c マウス(8 週齢、♂)を用い た。うつ様症状の指標として、強制水泳試験(FST)と social interaction(SI)試験を行った。香蘇散煎剤(KS)は1 g/kg/ day の用量でストレス負荷の直前に10 日間、経口投与を行っ た。その後、血清と気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取し、総 抗体価を ELISA により測定した。また、C57BL/6 より脾臓 細胞を調製し、ConA または LPS 存在下で培養後、培養上清 中のサイトカイン量を ELISA により測定した。 【結果・考察】C57BL/6 で は FST で の 無 動 時 間 が CSDS 負 荷 により有意に延長し、KS 投与によって有意に短縮した。ま た、SI 試験において忌避行動が CSDS 負荷により有意に増加 し、KS 投与により有意に減少した。BALB/c では、FST に おける無動時間の CSDS 負荷による延長しなかったが、KS 投与によって有意に短縮した。SI 試験における忌避行動は、 CSDS 負荷によって有意な変化は見られず、KS 投与によっ て減少傾向を示した。一方、BALB/c の BALF 中の total IgG が CSDS 負荷により有意に減少した。C57BL/6 においては血 清中の total IgG が CSDS 負荷群で減少傾向を示し、KS 投与 により有意な回復を示した。また、C57BL/6 において、脾臓 細胞を ConA 刺激することでストレス未負荷群に対し CSDS 負荷群で有意な IL-β産生増加を示し、LPS 刺激することで ストレス未負荷群に対し CSDS 負荷群で有意な IL-6 産生増 加を示した。以上の結果から、CSDS が全身免疫系に影響を 与えることが明らかとなった。また、KS が全身免疫系に影 響を与えている可能性が示された。 O3-3 ★ O3-4 ★ マウス気道上皮線毛細胞の線毛 運動に対する清肺湯の作用 五苓散による血管内皮細胞の 遊走抑制作用 ○堀田瑞希1、堀江一郎1、蒋 志侠2、荒井哲也2、 礒濱洋一郎1 ○村上一仁、堀江一郎、礒濱洋一郎 東京理科大学 薬学部 応用薬理学研究室 1 2 東京理科大学 薬学部 応用薬理学研究室、 小林製薬中央研究所 【背景・目的】五苓散は代表的な利水薬であり,体内の水分 り,その実効性は,気道液量の増加作用や気道クリアラ 代謝調節作用をもつ.我々はこれまでに,五苓散の作用 ンス能の促進作用として古典的な動物実験でも認められ がアクアポリン(AQP)水チャネルと密接な関係にある ている.我々はこれまでに,この清肺湯の作用の薬理学 ことを示してきた.一方,近年では,本方剤が慢性硬膜 的な特性や機序について調べ,気道液分泌に関わるアク 下血腫の再発を著明に抑制するという臨床報告がなされ アポリン 5 水チャネルの細胞内から細胞膜への移行に基 ている.慢性硬膜下血腫の病態では,未熟な血管の新生 づく細胞膜水透過性亢進作用などを明らかにしてきた. とその破壊が繰り返されることで血腫の肥大を来たし増 一方,気道クリアランスの促進には線毛運動が重要な役 悪する.従って,再発予防には,脆弱な血管の新生を抑 割を果たしている.そこで今回は,単離した気道上皮細 制することが重要である.そこで本研究では,血管内皮 胞の線毛運動に対する清肺湯の作用を調べた. 細胞の増殖や遊走に対する五苓散の作用を in vitro の実 【方法】 実験には雄性 ICR マウス(5 週齢)を用いた.マウ 験系で調べた. 【方法】実験標本には,ヒト血管内皮細胞株 HUVEC 細胞 上皮細胞を分散した.得られた細胞は fibronectin コー を用い,本細胞の遊走能は Scratch Assay 法で調べた. トしたカバーガラス上に播種し,栄養液を潅流して非付 コンフルエントの状態の細胞の一部をピペットチップの 着細胞を可及的に除去した.線毛運動は顕微鏡下にビデ 先端で直線状に剥離し,その剥離面積の縮小をもとに算 オ撮影して記録し,薬物投与の前後それぞれ5 分間の線 出した.また,タンパク質の発現は western blot 法にて 毛運動の頻度(ciliary beat frequency: CBF)および振幅 理 スの肺を脱血,摘出し,気道内から elastase で消化して 薬 【目的】清肺湯は痰を伴う咳の治療に用いられる方剤であ 検出した. (ciliary beat amplitude: CBA)を計測した. 【結果・考察】 HUVEC 細胞の遊走は,血管内皮増殖因子 【結果・考察】単離したマウス気道上皮線毛細胞の CBF は (VEGF)によって亢進されたが,五苓散はこの VEGF に 約 10 Hz であったが,清肺湯を処理すると投与 1 分後に よる遊走を処理濃度(0.01-0.1 mg/ml)依存的に抑制し, 著明な CBF の増加が認められ,この作用は少なくとも5 0.1 mg/ml ではコントロールの約 50% と著明な抑制作用 分間持続した.清肺湯による CBF 増加作用は清肺湯の処 を示した.VEGF の受容体(VEGFR)下流のシグナルへ 理濃度(0.3 ~ 3 mg/ml)に依存し,3 mg/ml の処理時 の作用についても調べたが,五苓散は VEGF による ERK の CBF はコントロールの約 1.2 倍であった.CBF と同様 のリン酸化を著明に抑制した.同様の細胞遊走と ERK リ に,清肺湯は CBA も増加させる傾向が認められ,従来, ン酸化の抑制は ERK 阻害薬である U0126 にも認められ 線毛運動の促進作用が報告されているβ2 受容体作用薬や たことから,五苓散の作用は少なくとも一部,VEGFR P2 作用薬と類似の作用を示した.今回の実験に用いたマ シグナルの抑制を介していると考えられた.一方,血管 ウス気道上皮線毛細胞でも,β2 作用薬の terbutaline お 内皮細胞に発現する AQP1 は細胞遊走の方向や活性と密 よび ATP,UTP といった P2 作用薬で促進作用が得られ 接な関係にあることが分かってきている.興味深いこと ている.従って,清肺湯の作用にも細胞内の cAMP ある に,VEGF はこの AQP1 発現を著明に増加させ,五苓散 いは Ca2+ に関連するシグナルが主要な役割を果たすと推 を共処理すると,VEGF による AQP1 発現も濃度依存的 定され,現在,その機序について追求している.これら に抑制されることが分かった.従って,五苓散は血管内 の成績は,清肺湯が線毛細胞に直接作用し,線毛運動を 被細胞で VEGF によって促進される AQP1 依存性および 亢進することを示しており,清肺湯による気道クリアラ 非依存性の細胞遊走をいずれも抑制すると推定された. ンス促進効果の重要な機序になると考えられる. これらの成績は,五苓散を用いた慢性硬膜下血腫の再発 予防の実効性を裏付けるとともに,血管新生が関わる他 の疾患への五苓散の適用を示唆する重要なデータである と考えている. 第33回和漢医薬学会学術大会 69 O3-5 マウス摘出遠位結腸標本における 大建中湯の平滑筋収縮作用: ワサビ受容体 TRPA1 の関与 コウズク(Alpinia galanga ,果実) の耐糖能改善作用成分 ○島田博文1,2、田嶋公人2、浦羽哲平2、野間裕紀子2、 並木隆雄1、堀江俊治2 ○二宮清文、二宮 与、酒井千恵、萬瀬貴昭、村岡 修、 早川堯夫、森川敏生 近畿大学 薬学総合研究所 1 2 千葉大学大学院 医学研究院 和漢診療学講座、 城西国際大学 薬学部 薬理学研究室 【目的】大建中湯(DKT)はバニロイド受容体 TRPV1 ある 【目的】ショウガ科(Zingiberaceae)植物ナンキョウソ いはセロトニン 5-HT4 受容体刺激を介して腸管収縮を惹 ウ(Alpinia galanga )は,中国南部および東南アジア地域 起することが報告されている。今回の検討では下部消化 に分布する多年生草本である.その根茎である大良姜は, 管標本において DKT の平滑筋張力に対する作用を検討 東南アジア地域において香辛料として用いられており, し、その機序にワサビ受容体 TRPA1 が関与するかについ これまでに含有成分の胃粘膜損傷抑制やマクロファージ て検討を行った。 での LPS 刺激に対する活性化抑制作用などを報告してい 薬 理 【方法】動物は ddY 雄性マウスを一晩絶食後に遠位結腸 る.一方,その果実であるコウズクは,嘔吐,下痢およ を摘出し平滑筋標本とした。マグヌス法により標本の縦 び脘腹冷痛などの症状を改善する目的で用いられている. 走筋方向における筋張力を等張性に記録した。標本から 我々は , コウズクから調製した MeOH 抽出エキスにヒ 凍結組織切片を作成し、これを抗 TRPA1 抗体を用いア ト肝癌細胞である HepG2 細胞を用いた実験において細 ビジン・ビオチン・コンプレックス法とタイラマイドシ 胞内中性脂肪(TG)含量の低下を認めたことから,その グナル増幅法を組み合わせて染色し、共焦点顕微鏡にて 活性寄与成分の探索研究を行った. TRPA1 免疫活性を検出した。さらに、抗 CGRP 抗体、ま 【方法】HepG2 細胞を48 穴培養プレートに播種し,培 たは、抗サブスタンス P(SP)抗体との二重染色を行い、 養 1 日後,培養液を高濃度グルコース(4500 mg/L)含有 その共存を検討した。 DMEM で計 6 日間培養し,細胞内に中性脂肪を蓄積さ 【結果】DKT エキスは遠位結腸標本において約 2 ~ 3 分お せた.その後,培養液を被験物質を含む DMEM に交換 きに繰り返し惹起される一過性平滑筋収縮を引き起こし して,さらに 20 時間培養した.培養後,蒸留水中,超 た。この収縮の大きさは0.1 -3 mg/ml において濃度依存 音波処理により細胞破砕液を得た.得られた細胞破砕液 的で、3 mg/ml の濃度で最大値を示した。DKT 誘起消化 中の TG 濃度および細胞増殖の指標としてタンパク質濃 管平滑筋収縮は TRPA1 遮断薬 AP-18、A-967079、およ 度をそれぞれ市販キットにより定量した.さらに,同様 び、アトロピンの前処置により顕著に抑制された。免疫 の条件において,oleic acid-albumin の培地への添加に 組織化学的検討では、TRPA1 免疫活性は遠位結腸の筋間 より観察される細胞内 TG の蓄積過程に与える影響につ 神経叢および筋層の神経上に観察された。また、それら いても検討したので報告する. 免疫活性の大部分に CGRP または SP との共存が認めら 【結果】コウズクより得られた成分の活性を検討した結 れた。DKT の構成生薬の平滑筋張力に対する作用を検討 果,主要成分の一つとして得られたフェニルプロパノ すると、DKT 去膠飴エキスでも DKT とほぼ同様な平滑 イ ド 1'S -1'-acetoxychavicol acetae(1)お よ び 1'S -1'- 筋収縮が認められた。乾姜エキスでは投与直後に一過性 acetoxyeugenol acetae(2)は,ともに 3 μM 以上の濃 の収縮が観察され、山椒エキスでは投与 3 分後から惹起 度において,有意に肝細胞内 TG 量を低下させることを される約 2 ~ 3 分周期の一過性収縮が観察された。一方、 見いだした.そこで,in vivo での効果を検討するため 人参エキスでは顕著な収縮は観察されなかった。 ddY 系雄性マウスを使用して,3 日間の連続投与時にお 【考察】マウス下部消化管の摘出標本において DKT は繰 ける耐糖能の変動について検討した.その結果,化合物 り返し惹起される一過性の平滑筋収縮作用を示した。こ 1 および 2 は,50 mg/kg 以上の経口投与において,グ の収縮には筋層の TRPA1 チャネルが発現している知覚神 ルコース(1 g/i.p. )による血糖値の推移において有意な 経とアセチルコリンの遊離が関与していることが示唆さ 低値を示した.さらに,肝臓中 TG 含量を定量した結果, れた。また、構成生薬である山椒と乾姜の複合作用であ 有意な肝臓中 TG の低下が認められた. ることも見出された。 70 O3-6 第33回和漢医薬学会学術大会 O3-7 O4-1 ★ コンカナバリン A 誘発性肝障害マ ウスにおけるりんごポリフェノール の効果 六君子湯の薬物動態研究 ―活性成分の血中動態及び薬物代謝酵 素ならびにトランスポーターへの影響― ○王 芳1,2、王 塋塋1,2、畢 楚瑶1,2、孫 偉3、李 京耕3、 農 秀蘭1,2、呉 春福2,3 ○松本隆志1、渡辺淳子1、山本雅浩1、服部智久1、 加瀬義夫1、乾 明夫2、花崎和弘3 瀋陽薬科大学 功能食品と葡萄酒学院、 遼寧省ポリフェノール R&D 工程技術センター、 3 瀋陽薬科大学 生命科学と生物制薬学院 株式会社ツムラ 製品戦略本部ツムラ研究所、 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心身内科学分野、 3 高知大学 医学部 外科学講座 1 1 2 2 【目的】Apple polyphenols(AP)extracted and purified 【目的】六君子湯(RKT)は、機能性胃腸症ならびに胃食道 from the unripe apple is now receiving attention 逆流症に対する有効性が報告されている。近年の薬理研究 due to their widespread beneficial effects on human により、その作用に食欲増進ホルモンであるグレリンが関 health. It has been reported that AP improve acute 与していることが示された。RKT の活性成分についても hepatotoxicity induced by CCl 4 in mice due to its 研究が行われ、グレリン分泌促進作用にはチンピ成分の significant antioxidant activity. In this study, the hepatoprotective effect of AP against concanavalin A was investigated.【方法】 Mice were treated with AP daily for seven days prior to a single intravenous administration of Con A. The serum levels of AST, determined and the A/G ratio was calculated. Potential mechanisms were further explored by as well as changes in the levels of endogenous oxidants and antioxidants. 【成績】 AP significantly improved the abnormal levels of ALT, AST, TP and Alb, and the A/G ratio. AP was also associated with improvement of liver histopathological changes after Con A-induced liver injury. Moreover, AP reduced serum levels of TNF-α and IFN-γ, decreased serum NO content, inhibited oxidative DNA single-strand breaks, and improved the abnormalities of MDA content, SOD activity and GSH level.【結論】These results suggest that AP exerts a protective effect against Con A-induced immunological liver injury through suppressing pro-inflammatory cytokines and activating the antioxidant system. 素阻害作用にはブクリョウ成分の pachymic acid 等数種の 成分が関与していることが判明した。しかしながら、ヒト が RKT を服用した時の活性成分の薬物動態については全く 明らかになっていない。そこで、本報では健常成人を対象 に RKT 服用後の血中の活性成分を定量した(試験 1)。また、 RKT は様々な西洋薬と併用される可能性があることから、 薬物相互作用に関与する代謝酵素(CYP)及びトランスポー 薬物動態・品質管理 measuring TNF-α and IFN-γ levels, NO content 同定された atractylodin carboxylic acid、グレリン代謝酵 理 ALT, TP, Alb and histopathological changes were 用にはソウジュツ成分の atractylodin、ラット代謝物として 薬 (Con A)-induced immunological liver injury in mice heptamethoxyflavone、グレリン受容体のシグナル増強作 ター(P-gp)阻害作用についても検討を加えた(試験 2)。 【方法】試験 1)21 例の被験者を対象にランダム化クロスオー バー試験を実施し、医療用ツムラ六君子湯エキス顆粒(2.5, 5.0, 7.5 g/day)を服用した後の主要 9 成分の血漿中濃度 を LC-MS/MS にて定量し、薬物動態パラメータを算出し た。試験 2)RKT エキスによる CYP 阻害作用は、ヒト肝ミ クロソーム中 CYP 分子種の特異的代謝活性を指標に、また、 P-gp 阻害作用は Caco-2 細胞(単層膜)の [3H(G)]- ジゴキ シン透過性を指標に検討した。 【結果】9 成分全てが服用後の血漿中から検出され、RKT 7.5 g 服用後の C max は、glycyrrhetinic acid が55600 pg/mL と 最も高く、続いて atractylodin carboxylic acid(14300 pg/ mL)、atractylodin(1570 pg/mL)の順であった。それぞれ の AUC0-last は、832000、12700、1760 pg・h/mL であった。 各成分の t max は0.25-8 h であった。各 CYP 分子種に対する 阻害作用は弱く(IC50 > 600 μg/mL)、P-gp に対しては高 濃度で阻害作用が認められた(IC50: 4060 μg/mL)。 【考察】RKT 服 用 後、 濃 度 な ら び に t max の 異 な る 活 性 成 分 が検出された。このことは、生体内において様々な濃度と タイミングで薬理作用を発揮しているものと推察された。 RKT エキスの CYP 及び P-gp の阻害作用は弱く、CYP 及び P-gp を介した薬物相互作用を生じる可能性は低いものと考 えられた。本研究成果は、六君子湯の作用機序の裏付け及 び安全性を理解する上で非常に重要な情報となるだろう。 第33回和漢医薬学会学術大会 71 O4-2 ★ 中山間地域における生薬資源研究: 伝統と暗黙知に基づく地域性の強化 ○奥薗彰吾1、楠木歩美1、中村朝実1、小栗一輝1、 後藤一寿2、御影雅幸3、高浦佳代子1,4、高橋京子1,4 大阪大学大学院 薬学研究科、 2 農研機構食農ビジネス推進センター、 3 東京農業大学 バイオセラピー学科、 4 大阪大学 総合学術博物館 1 石川県における当帰の加工条件について ○上野睦美1、伊藤幸祐2、安藤広和1、佐々木陽平1 1 2 金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科、 金沢大学 医薬保健学域 薬物動態・品質管理 【背景・目的】資源小国・日本において、漢方薬原料生薬 【目的】漢方生薬「当帰」は日本各地で生産されており、地 の安定供給を実現するには、生薬自給率の向上が不可欠 域ごとに独自の方法で加工されている。石川県では当帰 だが、生薬基原種の大半が野生植物で、栽培品種はほと の生産実績がなく、原植物の栽培技術や収穫後の加工技 んど確立されていない。経済性優先の輸入依存体質に加 術が確立されていない。発表者らは金沢大学において生 え、農業従事者の高齢化で進行する既存の国内生薬栽培 産技術を確立することを試み、栽培および加工研究を行っ 地の衰退による栽培技術・生産者の暗黙知や地域に適し ている。これまでに自然乾燥(ハサ掛け)が必要であるこ た種苗の消失などが、栽培再開の障壁であり、早急な暗 とを明らかにしたが、加温処理(湯もみ)温度の確立には 黙知の継承が切実である。本研究は、日本古来の篤農技 至っていない。今回、石川県における当帰の加工条件の 術や野生種栽培化の歴史考証による薬種栽培適地情報の 確立を目的とし、ハサ掛けおよび湯もみ工程を実施し、 解析及びウェアラブルカメラ活用による知の映像化によ 成分変化について調べることとした。 り、これら暗黙知を形式知へ変換し、生産者のニーズに 資する新規生薬栽培促進のマッチング支援を目的とした。 【方法】トウキ Angelica acutiloba Kitagawa(金沢大学・附 属薬用植物園栽培品;平成 26 年秋、平成 27 年秋収穫物) 【方法】植物研究雑誌(1916-55 年) 、刈米著『薬用植物栽 について加工工程を実施した。すなわち、3 か月のハサ掛 培法』 (1938 年) 、奈良県薬事年報(1953-78 年)他 110 けの後、40 度、50 度、60 度および70 度で湯もみを行った。 件以上を悉皆調査対象とし検索、リスト化した。日本東 各群について希エタノールエキスの定量(日局 17)および 洋医学会生薬原料委員会調査統計の漢方医による湯液用 生薬使用動向(kg/ 年)から実地医療のニーズ深化を解 析する。古来の栽培歴に根差した暗黙知の可視化にウェ アラブルカメラ(Panasonic HX-A100)を導入し篤農者 目線で作業記録を蓄積する。 【結果・考察】近現代の本草 関連文献など(1916-2014 年)を網羅的に検証すること で、薬草の生息域や栽培歴から、産地情報・栽培方法の 記載の有無・全国生薬使用量・地域使用量・栽培面積な ど7 項目を入力し、地域性を反映する栽培適応品種を抽 出した。特に大和地方を中心とした畿内の植生記録並び に薬用作物に関する報告書などから、伝統殖産として確 立された薬用植物栽培や生薬修治法、収穫・流通量など の栽培実績地域の詳細や数値的根拠を示唆した。地域特 産化の有用情報源と考える。今回、生薬国産化の上位品 目である芍薬(PAEONIAE RADIX, シャクヤク :Paeonia lactiflora Pallas) 、茯苓(PORIA, マツホド :Poria cocos Wolf)に特化し、産地・栽培方法・修治(加工・調製法) の記述や営農継続を困難にする現地事情から、実用栽培 の拡大に対する課題を整理した。一方、営農者農閑期の 高収入源だった「茯苓突き」は技術継承者がほぼ消失して おり、茯苓の採薬技術の普及のため、野生種の生息地域 における自然的生産要因解明に必要な基礎データを収集・ 解析中である。 72 O4-3 ★ 第33回和漢医薬学会学術大会 HPLC 法によるリグスチリドの定量、GC-MS による糖類 (グルコース、フルクトース、スクロース)の定量を行い、 対照群との比較を行った。 【結果】湯もみ加工した当帰は、温度に関係なく日局 17 の 規定である希エタノールエキス 35% を満たし、温度別の 変化も認められなかった(平均 52%)。一方、リグスチリ ド含量は、対照群より70 度の加工では含量が減少する傾 向にあった(対照群 0.21% → 70 度 0.09%)。糖含量は湯 もみ温度が高くなるにしたがって、単糖の含量が増加し た(グルコース;対照群 0.94% → 70 度 1.41%、フルクトー ス;対照群 0.81% → 70 度 1.40%)。 【考察】今回、湯もみによる成分の変化を調査した結果、 糖含量は湯もみの温度が高いほど含量も高くなる傾向が 示された。しかし、リグスチリド含量は70 度の湯もみで 減少し、リグスチリドが温湯へ流出する可能性が示唆さ れた。石川県の環境において、味が甘く辛く、芳香滋潤 な当帰を生産できる加工条件として、糖含量を増加させ、 かつ高温での精油成分(リグスチリドなど)の流出を防ぐ 60 度での温湯処理が適切であると考察した。 今回、湯もみ温度と成分変化の関係を明らかにすること に成功した。さらに細かい条件設定を行うことにより、 当帰の科学的根拠に基づく加工調製を行うことが可能に なる。 O4-4 ★ O4-5 黄連の国内栽培を目指した 必要面積の試算 漢方外来診療に要する時間 ○有田龍太郎1,2,3、吉野鉄大1,2、堀場裕子1,2、渡辺賢治1,2、 高山 真3、安井廣迪1,4 ○小田口 浩、関根麻理子、若杉安希乃、及川哲郎、 花輪壽彦 北里大学 東洋医学総合研究所 日本漢方生薬ソムリエ協会、 慶應義塾大学 医学部 漢方医学センター、 3 東北大学病院 漢方内科、4 安井医院 1 2 【目的】漢方薬の原料となる生薬は、その約 80%を中国か 【背景】漢方医療は患者を全人的に診察する点が、西洋医 らの輸入に頼っている。生薬の急激な価格高騰によって、 学との対比で大きな特徴となっている。その診療に要す 保険調剤による生薬処方は利益を出すことが困難となり、 る時間は、医療経済的な考察を行うに当たり重要な要素 市場規模自体が縮小傾向に向かう危機的な状況にある。黄 連は昭和中期まで国内で需要をまかない、さらにその品質 の高さから輸出もされていた日本の特産薬用作物の一つで である。 【目的】本研究の目的は、漢方外来診療に必要な時間を調 査することである。 【方法】当研究所の一部の漢方診療外来において、一定期 的確立されているが、その栽培量は少ない。本研究では黄 間、診療に要した時間を記録し、その記録簿を基に初診 連を例として、現在の国内使用量をまかなうのに必要な栽 培面積を試算し、国内栽培の実現可能性を模索することを 目的とした。【方法】黄連の総国内使用量を日本漢方生薬製 剤協会の資料から、医療機関における生薬処方に限定し た使用量を日本東洋医学会生薬原料委員会資料から、それ ぞれ抽出した。また生薬栽培に関する書籍 2 種から単位面 積(10a)当たりの収穫量(kg)を抜粋した。これにより、 必要栽培面積(a)=年間使用量(kg)/(10a あたりの収量 (kg)/10)× 栽培に必要な年数(年)として必要栽培面積を 試算した。 【結果】近年 5 年間の年平均総使用量は約 46t で、 このうち国内栽培品は1.4t と全体の3%程度であった。総 使用量を栽培するために必要な面積は約 92-120ha(東京 薬物動態・品質管理 ある。現在も福井県大野市を中心に栽培され、技術も比較 と再診、患者の性別毎に診療時間を調査した。 【結果】初診(再初診含む)1101 件(男性 393 件、女性 708 件)、再診 10275 件(男性 3080 件、女性 7195 件)につい て調査を行った。初診の際に要した診療時間は22.9±7.0 分( 男 性:23.0±7.6 分、 女 性:22.8±6.7 分、 最 短 4 分、 最長 52 分)であった。再診の際に要した診療時間は8.4± 3.4 分(男性:8.3±3.4 分、女性:8.5±3.3 分、最短 1 分、 最長 48 分)であった。 【結論】漢方外来診療に要する時間を調査した。漢方診療 にはある程度の時間がかかることを念頭に医療経済的な 考察を行う必要性がある。 ドーム 20-25 個分)と試算された。医療機関における生薬 処方に限定すると、使用量は1.5-2t であり、3.6-4.4ha(東 京ドーム 1 個未満)と試算された。【考察】黄連の国内栽培 を行うために必要な面積を試算した。医療機関における生 薬処方の量は、現在国内で栽培されている量とほぼ同じで あった。また、現在の黄連総使用量は明治時代に生産し ていた量と同程度であり、量的には実現可能と考えた。実 際には栽培された黄連のうち、ベルベリン含量が日本薬局 方の基準(4.2%以上)を満たしたもののみが使用できるた め、必要な土地は試算結果より大きいと推測される。と はいえ耕作放棄地は全国で40 万 ha 以上、福井県だけでも 1738ha と十分にある。また黄連は林部でも栽培可能で、 適切に管理されていない森林は全国で4 万 -23 万 ha ある とされる。過去の文献や植生調査により黄連の栽培に適し た土地を選定できれば、国内栽培は実現可能と考察された。 また、農林水産省による薬用作物等地域特産作物産地確立 支援事業等の活用によって、地域活性策にもなりうると考 えた。今後も同様の試算を各生薬ごとに進め、国内栽培の 実現へ向けた資料の一つとする方針である。 第33回和漢医薬学会学術大会 73 第33回和漢医薬学会学術大会 和漢薬イノベーションの創生 ポスター P1-1 ★ P1-2 ★ 大柴胡湯のリパーゼ阻害活性 ficinale , 根茎) 川芎(Cnidium of の耐糖能改善作用物質 ○松尾侑希子、稲葉二朗、三巻祥浩 東京薬科大学 薬学部 ○二宮 与、二宮清文、酒井千恵、塩谷美幸、森川敏生 近畿大学 薬学総合研究所 【目的】大柴胡湯は実証の人に適用される柴胡剤の一つであ 【目的】近年,生活習慣病の病態基盤の形成に内蔵脂肪の り,便秘がちな人の胆石症,肝機能障害,高血圧症などの 蓄積および肝臓などへの異所性の脂肪蓄積の関与が注目 ほか,肥満症の改善に有用性があるとされており,脂質異 されている.肥満や脂肪肝を呈した状態では,肝機能が 常症,糖尿病,脂肪肝・肥満,循環系疾患などに関する臨 低下し,肝への糖取り込みおよび耐糖能の低下などによ 床症例やこれら疾患の病態モデル動物に対する有効性が報 り高血糖,インスリン抵抗性の亢進を認め,糖尿病など 告されている. の生活習慣病の素因を形成する.従って,肝臓内の中性 膵リパーゼは脂肪の消化吸収に関する消化酵素である.食 脂肪(TG)含量を低下することは脂肪肝の改善,さらに 事として摂取されたトリグリセリド(TG)はそのままの形 は生活習慣病の予防 / 改善に寄与すると考えられる. で吸収されず,膵リパーゼにより2 つの脂肪酸と2- モノグ リセリドに分解されてから腸で吸収される.これら脂肪酸 と2- モノグリセリドは小腸の細胞内で TG に再合成され, キロミクロンとなりリンパ管へ移行し吸収され,過剰な脂 質は内臓脂肪として蓄積される.したがって,膵リパーゼ を阻害することで TG の分解を阻害し,腸管からの脂質 機序の一つとして膵リパーゼ阻害活性に着目し,大柴胡湯 の in vitro でのリパーゼ阻害活性およびマウスを用いた in 【方法】1)大柴胡湯エキスを常法により調製し,リパーゼ 阻害活性を測定した.2)実験動物は10 週齢 ddY 系雄性マ ウスを用いた.高脂肪食としてイントラリピッド(リン脂 質安定化ダイズ油)を経口投与し,15 分後に大柴胡湯を経 口投与した.2 時間後に腹部大静脈から採血し,血清 TG を測定した.リパーゼ阻害活性および血清 TG の測定は市 販の測定キットを用いた. 【結果】1)大柴胡湯エキスは用量依存的にリパーゼ活性を 阻害した.2)マウスへの高脂肪食(イントラリピッド)の 経口投与負荷によって,血清 TG は有意に上昇した.大柴 胡湯エキス(1700 mg/kg,p.o.)は,この血清 TG 上昇を 有意に抑制した. 【考察】大柴胡湯エキスは経口投与によって,高脂肪食負荷 による血清 TG 上昇を有意に抑制した.この作用機序は, in vitro の実験で認められた大柴胡湯エキスの強いリパー ゼ阻害活性によるものと考えられた.このことから,大柴 胡湯による脂質異常症,糖尿病,肥満等に対する有効性の 一部分にリパーゼ阻害作用が寄与していると考えられた. さらに,大柴胡湯の構成生薬のうち,リパーゼ阻害活性に 関与している生薬を検討したので併せて報告する. of ficinale )の根茎を通例, 湯通ししたものである.婦人病, 冷え性,皮膚疾患の改善や消炎排膿を目的に種々の漢方 処方に配剤される.本研究では川芎より得られた MeOH 抽出エキスに,マウス肝臓中 TG 含量の低下と耐糖能 の改善が観察されたことから,活性寄与成分を明らかに するため,川芎の含有成分についてヒト肝癌由来細胞株 HepG2 細胞を用いた評価を行った. 理 vivo での TG 吸収阻害作用を検討したので報告する. で, セ リ 科(Umbelliferae)植 物 セ ン キ ュ ウ(Cnidium 薬 吸収を抑制できる.今回,大柴胡湯の肥満症に対する作用 川 芎 は, 第 十 七 改 正 日 本 薬 局 方 に 収 載 さ れ る 生 薬 【方法】川芎 MeOH 抽出エキスおよび含有成分について, HepG2 細胞を用いて,肝細胞内に含有される TG 量に 与える影響を検討した.すなわち,HepG2 細胞 48 穴 1 培養プレートに播種し,培養 1 日後,培養液を高濃度グ ルコース(4500 mg/L)含有 DMEM で計 6 日間培養し, 細胞内に中性脂肪を蓄積させた.その後,培養液を被験 物質を含む DMEM に交換して,さらに 20 時間培養し た.培養後,蒸留水中,超音波処理により細胞破砕液を 得た.得られた細胞破砕液中の TG 濃度および細胞増殖 の指標としてタンパク質濃度をそれぞれ市販キットによ り定量した. 【結果】 ddY 系雄性マウスを使用して,MeOH 抽出エキ スの耐糖能に与える影響を検討した結果,250 mg/kg 以 上の経口投与において有意な耐糖能の改善が観察された. さらに,肝臓中の TG 含量の有意な低下が観察されたこ とから,in vitro 試験にて含有成分の肝細胞内 TG 含量に 与える影響を検討した.その結果,川芎に特徴的な成分 である senkyunolide G, senkyunolide H および アセチ レン化合物である falcarindiol などを主活性寄与成分と して明らかにした. 第33回和漢医薬学会学術大会 77 P1-3 ★ 薬 理 1 P1-4 ★ 柴胡含有サポニン成分の肝細胞 内中性脂肪低減活性成分 五苓散の糖尿病モデルラットに おける水代謝調節作用の検討 ○今野拓哉、二宮清文、矢田佳凜、森川敏生 近畿大学 薬学総合研究所 ○条 美智子、久志田郁、入矢美沙、成田絢香、柴原直利 富山大学 和漢医薬学総合研究所 漢方診断学分野 【目的】セ リ 科(Umbelliferae) 植 物 ミ シ マ サ イ コ 【目的】 「水滞(水毒) 」とは生体における「水」に偏在が生 (Bupleurum falcatum L.)は,中国や日本の本州,四国, じた状態であり、漢方医学的病態認識の一つである。こ 九州に分布する多年生草本である.本生薬は解熱,鎮静, の水の偏在を是正して水滞を改善させる漢方方剤の一群 鎮痛,抗炎症や肝障害および高血圧の改善を目的に用い が利水剤であり、その中でも五苓散は使用頻度が高い。 られており,漢方では,小柴胡湯や大柴胡湯など多くの また五苓散は生体の水分の恒常性を維持するだけではな 処方に配剤されている.著者は,ミシマサイコ MeOH く、電解質異常改善効果や腎保護作用を併せ持つ漢方方 抽出エキスがヒト肝癌細胞(HepG2)の細胞内中性脂肪 剤である。一方、2 型糖尿病に対して用いられるピオグ 含量を有意に低減させることを見いだしたことから,そ リタゾンには、末梢性浮腫の発現など副作用が存在し、 の活性成分を明らかにするため本研究を実施した. 糖尿病を悪化させる危険性も指摘されている。我々はピ 【方法・結果】 中国産の B. falcatum 根茎 3.0 kg を MeOH オグリタゾンに五苓散を併用することにより、尿量増加・ にて熱時抽出し,MeOH 抽出エキス 598.3 g(生薬か 血清浸透圧減少、腎組織中 AQP タンパク質発現量減少 ら の 収 率 19.9%)を 得 た. 得 ら れ た MeOH 抽 出 エ キ することを報告してきた。本研究では五苓散をピオグリ スを EtOAc/H2O にて溶媒分配を行い脂溶性分画であ タゾンと併用することによる糖尿病コントロール、腎機 る EtOAc 層および H2O 層を得た.得られた H2O 層を 能に与える影響について報告する。 【方法】 10 週齢の雄 Diaion HP-20 カラムクロマトグラフィーに付し,H2O Zucker Fatty ラットにピオグリタゾン(3mg/kg/day)を および MeOH 溶出部を得た.得られた各分画をそれぞ 胃ゾンデにて経口投与を行い、通常飼料(Cont 群・PGZ れ,順相および逆相カラムクロマトグラフフィー,次い 群) 、あるいは0.5% および1% に調製した五苓散エキス で HPLC により繰り返し分離精製することで,新規ト 粉末含有飼料(0.5%GRS 群・1%GRS 群)、フロセミド リテルペンサポニンとして BF-1 を単離・構造決定する (30mg/kg/day・PF 群)を4 週間投与した。経過中は一 とともに saikosaponin 類および bupleuroside 類を含 週間毎に体重・食餌摂取量、血糖値を測定した。投与期 め計 17 種のサポニンを単離・同定した.ミシマサイコ 間終了後に血液、尿、腎臓を採取し、腎機能および腎組 MeOH 抽出エキスおよび含有成分について,HepG2 細 織中のチャンネルタンパク質発現量を検討した。【結果】 胞を用いて,肝細胞内に含有される中性脂肪(TG)量に 第 1 週目と3 週目の血糖値は、1%GRS 群が Cont 群に比 与える影響を検討した.すなわち,HepG2 細胞を 48 べて有意に減少していた。アディポネクチンについて 穴培養プレートに播種し,培養 1 日後,培養液を高濃度 は、Cont 群に比べ PGZ 群・PF 群は増加したが、その グルコース含有 DMEM で計 6 日間培養し,細胞内に 増加に対して1%GRS 群では有意に減少していた。また、 中性脂肪を蓄積させた.その後,培養液を被験物質を含 尿中タンパク質量については、Cont 群に対し PGZ 群で む DMEM に交換して,さらに 20 時間培養した.培養 は増加し、PF 群では減少したが、1%GRS 群では PGZ 後,蒸留水中,超音波処理により細胞破砕液を得た.得 群・PF 群と比べ増加した。飲水量と尿量は Cont 群に比 られた細胞破砕液中の TG 濃度および細胞増殖の指標と べ PF 群で増加、GRS を投与することにより減少したが、 してタンパク質濃度を市販キットにより定量した. ミ 尿浸透圧、尿中 Na 量については PF 群で減少、GRS 群 シマサイコより得られた成分について検討した結果, で増加した。【考察】五苓散の投与により、フロセミドに saikosaponin b4 および r に最も強い肝細胞内 TG 低減 よる多飲多尿や希釈尿が改善される可能性が考えられる。 活性が認められた.さらに,種々サポニン成分の構造と しかし、五苓散併用によりフロセミドに比較して尿中タ 活性の比較を行っており,得られた知見について報告す ンパク質量が高くなったことから腎機能が悪化する可能 る. 性があり、ピオグリタゾンと五苓散を用いた糖尿病に対 する併用療法は慎重に行うべきと考える。現在は腎組織 中のチャンネルタンパク質発現量を検討中である。 78 第33回和漢医薬学会学術大会 P1-5 ★ P2-1 ★ アルコール性脳浮腫に対する五苓 散の作用に関する研究 パフィアの経口美肌素材としての有用性 -光老化抑制剤を指向したコラーゲン ペプチドとの併用効果- ○堀江一郎1、村上一仁1、上杉晴香2、荒井哲也2、 礒濱洋一郎1 ○島戸陽太、大野高政 松浦薬業株式会社 試験開発センター 1 2 東京理科大学 薬学部 応用薬理学研究室、 小林製薬中央研究所 【背景・目的】五苓散は利水作用をもつ代表的な漢方方剤で 【目的】パフィアは南米に自生するヒユ科の植物で、滋 あり,体内の水分代謝調節作用をもつ.我々はこれまで 養・強壮の目的で用いられることからブラジル人参とも に,五苓散が水チャネルであるアクアポリン 4(AQP4) 呼ばれている。我々は、経口摂取で皮膚老化改善作用が の機能を阻害することで脳浮腫を軽減することを報告し 期待できる素材の探索研究を行い、パフィアのコラーゲ ている.その一方,本方剤がアルコール摂取に伴う頭痛 ン合成促進作用や光老化改善作用を報告してきた。本研 などの諸症状に対しても著効することはよく知られてい 究ではパフィアと美肌成分として使用されることの多い る.その作用機序の詳細は不明であるが,五苓散の作用 コラーゲンペプチド(CP)を併用し、光老化モデルマウ と AQP 類の密接な関係を考えると,本作用にも AQP4 スを用いて皮膚バリア機能改善作用に対する有効性を検 の機能もしくは発現の調節が一部関わると推定される. 討した。【方法】HOS:HR-1 系雌性ヘアレスマウスの背部 そこで本研究では,アルコール摂取による脳内の水分代 に UV-B を週 3 回、9 週間繰り返し照射することにより光 謝への影響と,これに対する五苓散の作用について実験 老化モデルを作製した。UV-B 照射量は60 mJ/cm2 から 薬理学的に検討した. 開始し、1 週間毎に20 mJ/cm2 ずつ増加させ、4 週目以 g/kg)を経口投与し,その1 時間後に抗利尿ペプチドであ れぞれ50 mg/kg、500 mg/kg の投与量を、併用群はパ る DDAVP(0.4 μg/kg)と体重の25% 相当の超純水を腹 フィア 50 mg/kg + CP 500 mg/kg を経口投与し、角層 腔内に投与することで急性水中毒を誘発した.五苓散(3 水分量と経皮水分蒸散量(transepidermal water loss: g/kg)は超純水投与の30 分前に経口投与した.本マウス TEWL)の測定を行った。9 週間の紫外線照射後に背部皮 の生存率を解析するとともに,脳を摘出し,右脳の湿重 膚を摘出し、HE 染色による表皮厚の測定、および摘出 量と乾燥重量をもとに脳内水分含量を評価し,左脳を遺 皮膚組織中のコラーゲン、ヒアルロン酸定量を行った。 伝子またはタンパク質発現に用いた. 理 降は120 mJ/cm2 とした。パフィア、CP 単独投与群はそ 薬 【方法】雄性 ICR 系マウス(8 週齢)に ethanol(EtOH: 3 【結果および考察】 UV-B 照射により角層水分量は有意に 認された。これに対し、パフィア、CP 単独投与群は両 を前投与することで,水分含量は更に増加した.また, 指標で改善傾向を示した。パフィア+ CP 併用群では有 EtOH 投与の有無で水中毒による生存率に著明な差は認 意な改善作用が認められ、特に TEWL では最大値の上昇 められなかったものの,EtOH によって致死時間が短縮 を抑え、パフィア単独投与時よりも早い時期からの改善 する傾向が認められた.興味深いことに,五苓散はこの が認められた。摘出皮膚の解析では、UV-B 照射による 水中毒モデルで,EtOH 摂取の有無に関わらず,死亡率 表皮の肥厚化が確認でき、CP 投与群では対照群と差は を改善したが,EtOH 前投与群でその効果はより著明と 無かったが、パフィア投与群は抑制傾向を示し、併用群 なる傾向にあった.一方,EtOH の投与は脳内の TNF-α では有意な肥厚化抑制が認められた。また、皮膚中のコ や IL-6 の mRNA 発現量を亢進し,炎症様の反応を示す ラーゲン、ヒアルロン酸量は UV-B 照射により低下した ことや,AQP4 発現を増加させることも見出した.これ が、パフィア、CP の併用で有意に改善した。以上の結果 らの mRNA 発現量の変化に対する五苓散の作用につい より、光老化モデルマウスにおいてパフィアと CP の併 ても併せて報告する.これらの成績は,アルコールの摂 用による強いバリア機能改善作用やコラーゲン及びヒア 取によって引き起こされる脳内の水分代謝異常に対して, ルロン酸量低下抑制作用が示されたことから、パフィア AQP4 の阻害薬である五苓散が有効であることを示唆す と CP の併用は光老化抑制剤として有効である可能性が る基礎的データである. 示唆された。 第33回和漢医薬学会学術大会 1 膚 減少、TEWL は有意に増加し、皮膚バリア機能障害が確 分含量が健常マウスに比べて著明に増加したが,EtOH 皮 【結果・考察】急性水中毒を惹起したマウスでは,脳内の水 79 P2-2 ★ P2-3 ★ アダパレン塗布による副作用様症 状に対する十味敗毒湯の改善作 用の検討 Cassia auriculata 種子含有成分の ○今村知代、村山千明、瀬島健裕、韓 立坤、張 紹輝、 藤田日奈 クラシエ製薬株式会社 漢方研究所 薬理研究グループ ○栗木菜津美1、中嶋聡一1,2、王 巍程1、中村誠宏1、 松田久司1 メラニン生成抑制作用および作用機序 1 京都薬科大学、2N. T. H 研 【目的】アダパレンは、選択的レチノイン酸受容体作動薬 【目的】マメ科植物ナチュラルヘナ(Cassia auriculata )は中 であり、面皰形成の抑制などの機序を介して尋常性ざ瘡 国 , インドおよびスリランカなどに分布する多年生植物で に著効し、治療ガイドラインにおける第一選択薬として あり , 伝統薬物として糖尿病 , 結膜炎および皮膚病の治療 臨床で広く用いられている。その一方で高い副作用発現 を目的に用いられてきた . しかしながら , C. auriculata 種 率により、治療満足度やアドヒアランスの低下につなが 子についての含有成分および生物活性に関する報告はほと り、副作用を低減させることが求められている。過去に んどない . 我々の研究室ではこれまでに C. auriculata 種子 臨床において、アダパレンを用いた尋常性ざ瘡治療時に、 から新規アントラセノン配糖体を単離・構造決定し , 報告 十味敗毒湯を併用することにより、アドヒアランスが向 した . 今回 , B16 melanoma 4A5 細胞におけるメラニン 上することが報告されているが、その機序に関する検討 は未だ不十分である。そこで今回、臨床報告されている アダパレンの副作用の一部である皮膚の乾燥、紅斑、掻 痒感に着目し、ICR マウスにアダパレンを反復塗布する ことにより皮膚の水分量低下、赤み、掻破行動が増大す る動物モデルを構築し、十味敗毒湯の副作用低減効果の 皮 検討を行った。【方法】 ICR 雄性マウスの背部を除毛し、 除毛による傷がないものを実験に供した。十味敗毒湯エ キスを300, 600, 1200 mg/kg の用量で1 日 1 回経口投与 し、その1 時間後に除毛部に0.1% アダパレンゲルもしく はブランクゲルを100μL ずつ6 日間連続で塗布した。最 膚 終塗布から1 日後に、水分測定計による皮膚水分量の計 測、CIE L*a*b* 表色系において赤みの指標である a* 値の 計測、後肢による掻破回数の行動観察を行った。また赤 みや痒みの誘発因子の1 つであるヒスタミンに着目し、 ラット腹腔由来肥満細胞を用いてコンパウンド 48/80 を 処置し、十味敗毒湯のヒスタミン脱顆粒抑制作用を検討 した。【結果】アダパレンをマウスの背部に塗布すること により、皮膚水分量の低下、a 値の増大ならびに掻破回 * 数の増加が認められた。さらに、十味敗毒湯の経口投与 によりアダパレンにより生じた皮膚水分量の低下、a* 値 の増大および掻破回数の増加をいずれも有意に抑制した。 また、ラット腹腔由来肥満細胞におけるコンパウンド 48/80 誘発のヒスタミン遊離に対して十味敗毒湯は有意 に抑制した。 【考察】十味敗毒湯はアダパレン使用により 生じる皮膚の赤みや痒みなどの皮膚の諸症状をマウスモ デルにおいて抑制し、その機序としてヒスタミン遊離抑 制が関与していることが示唆された。 生成抑制作用成分の作用様式およびメカニズムについて詳 細な研究を行った . C. auriculata 種子を熱時にてメタノールで抽出した , 【方法】 次に各種クロマトグラフィーおよび HPLC を用いて分離・ 精製を行った . 細胞内メラニン量の変化については B16 melanoma 4A5 細胞を用いておこなった . また , 作用機序 について検討するため , チロシナーゼに対する酵素阻害作 用 , 自動酸化抑制作用およびメラニン生成に重要なタンパ ク質であるチロシナーゼ , TRP-1, 2 および MITF の細胞内 でのタンパク質発現量に与える影響について検討した。 C. auriculata 種子のメタノール抽出エキスについて 【結果】 マウスメラノーマ由来 B16 melanoma 4A5 細胞を用いメ ラニン生成抑制活性評価を行ったところ , 有意な抑制作用 (100 μg/mL で35.1% 阻害)が認められた . また , 単離し た化合物の中では特に新規アントラセノン二量体配糖体成 分が低濃度域で強い作用(auriculataoside A : 0.3 μM で 45.1% 阻害など)を示した . 【考察】活性を示した化合物の作用メカニズムについて検討 するため , メラニン生成の主要な酵素であるチロシナーゼ に対する酵素阻害作用および自動酸化阻害作用を検討した ところ , 活性成分はほとんど阻害作用を示すことはなかっ た . 構造と作用の関係について検討する目的で , 活性成分 の部分構造である emodin について検討をおこなったと ころ , 作用濃度域は高くなるものの有意な抑制作用を示し た . 一方で , チロシナーゼ , TRP-1, 2 および MITF の細胞 内での発現量に与える影響についても検討したところ , そ れぞれのタンパク質の発現量が減少することが観察され た . これらの結果から , アントラセノン誘導体の二量体型 活性成分の作用機序の一つとして , チロシナーゼ , TRP-1, 2 および MITF の発現量低下が推察された . 80 第33回和漢医薬学会学術大会 P2-4 ★ P2-5 ★ ボタン花部成分アピゲニンの コラーゲン生成促進作用 白癬菌に対して漢方薬に由来する 抗真菌物質の探索研究 ○河村友惟1、中嶋聡一1、森浦俊次1,2、砥上宏子1、 中村誠宏1、松田久司1 ○ダ シャ、森田栄伸 国立大学法人 島根大学 医学部皮膚科 1 京都薬科大学、2 株式会社ロータス・21 【目的】ボタン(Paeonia suffruticosa )はボタン科ボタン属 【目的】 本研究は漢方薬に含まれる抗真菌物質を探索す の落葉小低木で , その根皮は牡丹皮として古来より日本や ることを目的とする。【方法】 保険適用されている61 中国で駆お血作用を目的として用いられてきた . 今回 , ボ 種類の漢方製剤から抽出液を作製し、白癬の主な原因菌 タン花部の新規機能性の探索研究の一環として , ボタン花 である Trichophyton rubrum を用いた微量液体希釈法 部のメタノール抽出エキスおよび各フラクションの活性 により、抗真菌活性を示す製剤をスクリーニングした。 評価を行ったところ , ヒト皮膚線維芽細胞 HDF を用いた 活性が認められた漢方製剤およびそれに含まれる生薬の 試験で有意なコラーゲン生成促進作用を示したことから , 抽出液をカラムクロマトグラフィーで分離し、微量液体 活性成分の探索および詳細な研究を行った . 希釈法を指標にして抗真菌物質の精製を行った。 タン 【実験方法】コラーゲン生成量は , プレートに HDF と被験 デム四重極質量分析装置(四重極 LC/MS/MS)にて、抗 サンプル添加後 , 48 時間後にダイレクトレッドを用いて 真菌物質の分子量を測定し、同定した。 【結果】 61 種 生成されたコラーゲンを染色し , 0.1 M NaOH により溶 の漢方製剤のうち7種の抽出物が抗真菌活性を有する 解させ , 540 nm での吸光度を測定して算出した . ことを見いだした。これらの7 製剤のうち6 製剤に共通 して含まれるオウゴンに抗真菌活性があることを確認し キスを Diaion HP-20カラムクロマトグラフィーを用いて , た。オウゴンから分離された低分子成分である Baicalein 水溶出部 , メタノール溶出部およびアセトン溶出部を得 と Wogonin が抗真菌活性を有することを見いだした。 た . 活性の集約していたメタノール溶出部(200 μg/mL におけるコラーゲン生成率:125.6%)を各種クロマトグ ラフィーおよび HPLC を用い繰り返し分離・精製をする 皮 【結果および考察】日本産ボタン花部のメタノール抽出エ 【結論】 漢方製剤に含まれる成分には抗真菌活性を有す る複数の物質が含まれている。 ことで , paeoniflorin, apigenin および gallic acid など 膚 を含む23 種の既知化合物を単離・同定した . これらの含 有成分について同様にコラーゲン生成促進作用を検討し たところ , apigenin(200 μM におけるコラーゲン生成 率:128.4%)および apigenin 7-O -β-D-glucopyranoside (200 μM におけるコラーゲン生成率:110.5%)に有意 なコラーゲン生成促進作用が認められた . 一方で , これら の成分にはコラーゲンを分解する酵素であるコラゲナー ゼの酵素活性に対する阻害作用はほとんどなかった . ま た , コラーゲン合成促進の作用メカニズムを解明する目 的で , コラーゲン Ia の mRNA の転写制御に関わるタン パク質であり , TGF-βによって活性化される Smad3 に ついて , タンパク質のリン酸化体の発現量に与える影響 についてウェスタンブロット法を用いて検討したところ , apigenin による影響にほとんど変化は認められず , 我々 の実験条件では Smad3 の関与する経路の寄与が少ないと 考えられた . これらの結果から , ボタン花部抽出エキスお よび apigenin などの活性成分は , コラーゲンの変質によ る皮膚老化を対症療法的に抑制できると考えられ , ボタン 花部が皮膚老化を抑制する可能性が期待できる . 第33回和漢医薬学会学術大会 81 P2-6 ★ 毛乳頭細胞増殖促進素材および FGF-7 産生促進素材の探索 Magnesium lithospermate B による皮膚老化に関わるシグナル 分子の解析 ○高崎文香1、猪爪優子1、亀岡郁雄1、五十嵐信智2、 落合 和2、杉山 清2 朴 鑽欽1,2、○秋本佳媛3、東海林正弘4、小山内信5、 乾マリコ 6、小栗延子7、楊 達3、鄭 海泳1、横澤隆子8 2 2 1 日華化学株式会社デミコスメティクス、 星薬科大学 薬学教室 国立釜山大学 薬学部、 韓国農村振興庁国立園芸特作科学院、3 イスクラ産業、 4 開気堂薬局、5 高崎漢方薬局、6 イヌイ薬局、7 天心堂薬局、 8 富山大学大学院 理工学研究部 1 【目的】加齢に伴う抜け毛・薄毛の悩みに対して改善方法が 【目的】加 齢 と 紫 外 線 暴 露 に よ る 皮 膚 の 退 行 性 変 化 求められている。毛髪の下端にある毛球の内部には毛乳頭 へ の 関 与 に つ い て、 丹 参 か ら 単 離 し た magnesium 細胞の集合体である毛乳頭があり、この毛乳頭を取り囲む lithospermate B(MLB)を用い検討した。 【方法】加齢ラッ ように毛母細胞が存在している。毛髪の成長には周期があ トとして、20 ヶ月齢の Wistar 系雄性ラット(幼若ラッ り、成長期では毛乳頭細胞が増殖し、毛乳頭が大きくなる。 トとして5 ヶ月齢)を用い、MLB を2 あるいは8 mg/kg また、これと同時に毛母細胞が活発に分裂して細胞を押し 体重 / 日を20 日間経口投与した皮膚を用いた。ヒト皮膚 上げ、毛髪が伸長する。退行期に入ると、毛母細胞の分裂 由来の線維芽細胞を用いた実験では、MLB で前処理した が停止して細胞死を起こし、休止期に移行すると毛乳頭が 線維芽細胞に、紫外線 B(UV-B)を暴露した。 【結果】 (1) 萎縮して脱毛に至る。毛髪の太さは、毛乳頭の大きさ、即 ち毛乳頭細胞の増殖活性が影響しているため、毛髪を太く するには毛乳頭細胞を増殖させることが必要となる。一方、 毛乳頭細胞は、種々の細胞増殖因子や細胞増殖抑制因子を 産生して毛成長を調節していることが知られている。毛乳 頭細胞から産生される線維芽細胞増殖因子 -7(fibroblast 皮 growth factor-7;FGF-7)は毛母細胞の細胞分裂を誘発す る。これまで、薄毛化した毛乳頭細胞では FGF-7 の発現が 減少し、それにより毛母細胞の分裂・増殖が低下するため、 毛髪が成長しにくくなり、薄毛化することが報告されてい る。本研究では、毛乳頭細胞の増殖および FGF-7 の産生に 膚 関する新規素材の探索を行った。 【方法】 (1)毛乳頭細胞増殖促進素材の探索;ヒト毛乳頭細 胞を24well plate に播種し、各種被検物質を添加した。3 日間培養後、WST-1 アッセイを行い、細胞増殖能に及ぼす 各種被検物質の影響を評価した。(2)FGF-7 産生促進素材 の探索;ヒト毛乳頭細胞に各種被検物質を添加し24 時間 後培養した。その後、培養上清を回収し、FGF-7 産生量を ELISA 法により測定した。 【結果・考察】 (1)毛乳頭細胞増殖促進素材の探索;検討し た被験物質のうち、センキュウエキス、キョウニンエキス およびインチンコウエキスは、いずれも濃度依存的に毛乳 頭細胞数を増加させた。(2)FGF-7 産生促進素材の探索; 毛乳頭細胞にコレウスホルスコリ根エキス、チンピエキス あるいはオウギエキスを添加すると、培養上清中の FGF-7 産生量を濃度依存的に上昇させた。さらに、コレウスホル スコリ根エキスとチンピエキスを組み合わせると、FGF-7 産生量の相乗的な上昇が認められた。本研究の結果から、 これらの植物抽出エキスを頭皮に使用することにより薄 毛・細毛・抜け毛の予防・改善が期待できる。 82 P2-7 第33回和漢医薬学会学術大会 加齢ラットでは、活性酸素、NO、ONOO- が増加し、酸 化ストレスと炎症に関係する蛋白(MAPK、AP-1、NFκ B、COX-2、iNOS)の活性化、MMPs の増加、プロコ ラーゲン(I 型、III 型)の低下、TGF-β1 とその下流のコ ラーゲン遺伝子の発現が低下していたが、MLB 投与群で は、これらパラメーターの改善作用が認められ、加齢で 低下していた PPARβ/ δが増加した。 (2) UV-B を暴露 した線維芽細胞でも加齢ラットと同様、皮膚老化に関わ るシグナルの変化をひき起こしていたが、MLB で前処理 した場合、これらはいずれも改善していた。 (3) PPARβ / δの発現機序について線維芽細胞を用いて検討し、ドッ キングシミュレーションによって、MLB は PPARβ/ δ 作動薬の GW501516、GW0742 と同じ結合部位を示し ていた。さらに、DNA への結合活性、免疫蛍光染色、ウ エスタンブロット解析より、MLB は PPARβ/ δの活性 化剤としての働きを有していることが示された。 (4)皮 膚における抗酸化活性が報告されているトロロックス、 カフェイン酸、レチノイン酸と比較検討した結果、MLB が最も強い活性を示していた。【結論】 MLB は酸化ストレ スを介したコラーゲン産生経路と PPARβ/ δの活性化を 介した機序によって、皮膚老化を抑制している知見が得 られた。 P3-1 ★ P3-2 ★ 漢方処方の科学的解析(第15報) アレルギー性鼻炎モデルに対する 麻黄附子細辛湯の作用について 漢方処方の科学的解析(第16報) 補剤の制御性 T 細胞を介した抗 アレルギー作用について ○塩沢真央、廣崎優可子、日坂真輔、能勢充彦 名城大学 薬学部 ○柘植厚志、浅井紀久子、岡本麻莉、日坂真輔、能勢充彦 名城大学 薬学部 【目的】われわれは、これまでに臨床でアトピー性皮膚炎に は増加の一途を辿っており、わが国では国民病の一つと 用いられる漢方処方の作用機構について検討し、補剤に興 なっている。その薬物治療には、種々の抗ヒスタミン剤や 味ある免疫調節作用を見出してきた。すなわち、十全大補 抗アレルギー剤が用いられるものの、眠気などの副作用の 湯(JTT)と補中益気湯(HET)は、マウス接触性皮膚炎モ 出現も含め、その治療効果は十分なものとは言い難い。一 デルにおいて、制御性 T 細胞の誘導・活性化を介した抗ア 方、他のアレルギー疾患と同様に、漢方方剤に対する期待 レルギー作用を示すことを報告している。一連の検討の中 は高く、一定の臨床効果が報告されているが、その詳細な で、JTT の抗アレルギー作用に関わる制御性 T 細胞は抗 作用機構は不明であることが多い。そこで、われわれは臨 原刺激を必要とし、MACS による細胞分画の結果 CD4 陽 床でアレルギー性鼻炎に繁用される漢方方剤について、そ 性 CD25 陽性画分と非 CD4 陽性画分に存在する細胞が関 の作用ならびに作用機序を分子レベルで理解することを目 与すること、また HET の抗アレルギー作用に関わる制御 的に検討を開始した。今回は、PCA 反応を利用したマウ 性 T 細胞は必ずしも抗原刺激を必要とせず、主に CD4 陽 スアレルギー性鼻炎モデルを作製し、麻黄附子細辛湯に有 性 CD25 陽性画細胞を介するなど、両処方が誘導・活性化 効性を確認したので報告する。【方法】実験動物として、雌 する制御性 T 細胞は複数存在し、共通する性質をもつ一方 性 BALB/c マウスを用い、抗 TNP-IgE 抗体を静脈内投与 で、異なる細胞集団であることを示唆する現象が見つかっ することで受動感作した。その3 日後に1%TNBS - PBS ている。今回、両処方の構成生薬に注目し、それぞれ制御 溶液を鼻腔内に投与し、マウスのくしゃみ行動や鼻掻き行 性 T 細胞の誘導あるいは活性化にどのように関わっている 動を計測することで、鼻炎症状ならびにそれらに対する抑 のか検討したので報告する。 【方法】雌性 BALB/c マウス(6 制作用を評価した。麻黄附子細辛湯、小青竜湯、苓甘姜味 ~ 7 週齢)を用い、TNCB による接触性皮膚炎モデルを用 辛夏仁湯は、常法に則って煎じ、凍結乾燥して用いた。そ いた。構成生薬のエキスをそれぞれ作製し、凍結乾燥して れぞれヒト常用量の10 倍量を、鼻炎の惹起 1 時間前に単回 用いた。接触性皮膚炎に対する作用ならびに養子移入実験 経口投与した。【結果および考察】本モデルにおいて、麻黄 により制御性 T 細胞を介した作用をもつかどうか確認した 附子細辛湯は小青竜湯ならびに苓甘姜味辛夏仁湯とともに 後、MACS による細胞分画を行った養子移入実験を行うこ 有意なくしゃみ行動の抑制、鼻掻き行動の抑制作用を示し とにより、各生薬エキスがどのような細胞集団を介して抗 た。その抑制作用は投与量依存的で、ヒト常用量の5 倍量 アレルギー作用を示すのかを検証した。【結果及び考察】両 以上で有意な抑制作用を示した。また、作用の発現時間を 処方の構成生薬の中で、制御性 T 細胞を介した作用を示す 検討する目的で、鼻炎惹起の4 時間前、1 時間前と投与時 ものは人参、柴胡、芍薬であることを確認し、人参・柴胡 期を変えて検討したところ、4 時間前投与では抑制作用が は CD4 陽性 CD25 陽性画分の細胞を介して抗アレルギー 観察されず、麻黄附子細辛湯の作用は短時間かつ一過性の 作用を示すことを明らかにした。一方、芍薬は JTT 同様、 ものであることが明らかとなった。さらに、構成生薬単味 CD4 陽性 CD25 陽性画分と非 CD4 陽性画分の二つの画分 エキスを作製し、有効生薬の探索を行ったところ、麻黄、 に存在する細胞を介して抗アレルギー作用を示すことが判 附子、細辛それぞれのエキスにおいても、くしゃみ行動や 明した。また、主成分である paeonoflorin(PFR)を用い 鼻掻き行動の抑制作用が観察された。麻黄附子細辛湯の抗 て同様に検討したところ、PFR は CD4 陽性 CD25 陽性細 アレルギー作用については、ラット PCA 反応による色素 胞を介して抗アレルギー作用を示し、さらに他の成分が 漏出試験による先行研究があり、麻黄や細辛に抗アレル CD8 陽性 T 細胞を介して抗アレルギー作用を示すことを ギー作用があることが判明しているものの、エフェドリン 見出した。以上の成績から、両処方が誘導・活性化する制 系アルカロイドなど成分の関与については未確定である。 御性 T 細胞はやはり複数存在し、それぞれ構成生薬やその 今後、種々の検討を通して、詳細な作用機序を明らかにし 成分により対象となる細胞が異なることを確認した。現在、 ていきたいと考えている。 それぞれ対象となる細胞や活性成分の同定を目指して検討 アレルギー・放射線・血液 【目的】花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎の罹患者数 を続けている。 第33回和漢医薬学会学術大会 83 P3-3 ★ 放射線暴露による細胞障害に対す る指甲花花部の保護作用 十全大補湯の構成生薬エキスを 配合したビタミン含有保健薬によ る血流増加と抗疲労作用 ○古川茉奈1、中嶋聡一1,2、尾田好美1,2、中村誠宏1、 松田久司1 ○蒋 志侠1,2、荒井哲也1、及川弘崇2、藤川隆彦2 1 京都薬科大学、 エヌ・ティー・エイチ 研 2 【目的】ヘンナ(Lawsonia inermis )は中医学でシコウカ(指 1 小林製薬中央研究所、2 鈴鹿医療科学大学 薬学部 【目的】十全大補湯は、人参、黄耆、川キュウ、地黄など 甲花)と呼ばれ , 日本 , インド , エジプト , 中国南部およ 10 種類の生薬からなる漢方処方で、 「気」 「血」を補い、 び北アフリカなど , 世界的に広く分布 , 栽培されるミソハ 疲労倦怠を改善する。一方、ビタミン B1B2B6 とタウリ ギ科の常緑低木である . 葉部は中医学で創傷の治療 , 収斂 , ンは、糖質・脂質・たんぱく質の代謝に関与し、エネル 清熱薬として外用する . 葉部については多くの研究例が報 ギー代謝を促進することが知られている。本製剤は、十 告されているが , 花部についての研究例はほとんど無い . 全大補湯を構成する各生薬の単味エキスとビタミン B 群 我々はこれまでに指甲花花部にがん細胞転移抑制作用 , メ などを組合せたビタミン含有保健薬であり、疲労改善に ラニン生成抑制作用 ,a) 抗 AGEs 作用 b) および神経様細胞 相乗効果が期待できるため、本研究では、本製剤を用い 分化促進作用 c) などを見出し , 報告している . 今回 , ヘン ナ花部のメタノール抽出エキスに過度な放射線暴露による 細胞障害に対する保護作用を見出したことから , 作用成分 および作用様式について詳細な検討を行った . 【方法】ヘンナ花部のメタノール抽出エキスを酢酸エチル , 1- ブタノールおよび水にて溶媒分配した . 酢酸エチル移行 アレルギー・放射線・血液 部および1-BuOH 移行部を順相シリカゲル , 逆相 ODS カ ラムクロマトグラフィーおよび HPLC を用いて繰り返し分 離精製し , 4 種のアセトフェノン配糖体 , 10 種のフラボノ イドおよび2 種のトリテルペンを単離・同定した . 得られ た成分を HT1080 細胞および HDF 細胞に作用させた後 , 放射線として X 線を照射した後 , 24 時間培養後の細胞生 存率を算出し , 放射線障害に対する予防作用を評価した . L. inermis 花部のメタノール抽出エキス 【結果および考察】 について評価を行ったところ , X 線照射による細胞障害 に対する有意な保護作用が認められた(100 μg/mL での 回復率 : 30.1%). また得られた成分のうちアセトフェノ ン類である polygoacetophenoside(10 μM での回復率 : 76.3%)およびフラボノイドである quercetin(100 μM で の回復率 : 32.5%)が特に顕著な保護作用を示した . 放射 線による細胞障害に対して保護作用が認められた成分に関 して , plasmid DNA を用いて過酸化水素による DNA 構 造破壊へのサンプルの影響についても検討したので併せて 報告する . a)S. Nakashima et al. , Bioorg. Med. Chem. Lett. , 25, 2702-2706(2015). b)中 嶋 聡 一 他 , フ レ グ ラ ン ス ジ ャ ー ナ ル , 41, 68-71 (2013). c)Y. Oda et al. , J. Nat. Med. , in press . 84 P3-4 ★ 第33回和漢医薬学会学術大会 て、臓器の血流に対する影響及び抗疲労作用を評価した。 【方法】Sprague-Dawley 系雄性ラット に本製剤の0.5% CMC-Na 水溶液を経口投与し、単回投与時及び8 日間連 続投与時の組織血流量の変化を Perimid 社製レーザー ドップラーで測定を行った。また、同様に単回投与及び 8 日投与時に強制水泳試験を行った。疲労の判断条件は 水泳開始から尻尾の先が水槽の底に付くまでの時間、或 は水槽底に尻尾を接触させる前に体ごと底面に沈んだ時 間を計測した。 【成績および考察】本製剤を強制経口投与 した場合、単回または8 日間の両投与群において、皮膚 血流量及び脾臓血流量の有意な増加が観察された。また、 単回投与により、水泳時間が上昇傾向、8 日間投与によ り有意な水泳時間の上昇が観察された。以上の結果から、 本製剤は、血流増加と抗疲労作用を有することが明らか となった。本製剤の経口服用により、脾臓や皮膚などの 末梢血管で血流量が増加する血流改善効果と、長期的な 経口服用による疲労回復効果または抗疲労効果が得られ ると考えられる。 P4-1 ★ 漢方生薬「麻黄」の国産化研究 (第二報) ○安藤広和1、倪 斯然2、佐々木陽平1、安井廣迪3、 御影雅幸2 1 2 金沢大学 医薬保健研究域薬学系、 東京農業大学 農学部、3 安井医院 P4-2 ★ 去甘草が漢方方剤中カリウム量に 及ぼす影響 ○入矢美沙、条 美智子、柴原直利 富山大学 和漢医薬学総合研究所 漢方診断学分野 【目的】発表者らは原植物やアルカロイド含量が第十七改 【目的】カリウム摂取量管理が必要な腎障害患者に対して 正日本薬局方(JP17)の規定に適合するマオウの国内生 も漢方方剤は使用される。血圧上昇などが出現した際に 産を目的とした研究を行っている。2013 年春に Ephedra は偽アルドステロン症か否かを区別することは困難であ sinica Stapf を石川県下の圃場に定植して3年が経過し り、甘草含有方剤を中止する、もしくは構成生薬から甘 た。栽培株の総アルカロイド含量の経年変化の動向を明 草を抜いて使用する(去甘草)。しかし、去甘草とするこ らかにするとともに、施肥効果を検討した。 とによる方剤の電解質含量や成分量への影響は不明であ 【方法】2013 年春に発芽後1~3年を経過した株を石川 る。本研究では通常処方と去甘草の煎液および凍結乾燥 県羽咋郡志賀町の砂質土の圃場に定植し、尿素施肥群及 エキス中のカリウムおよび成分量を比較することにより、 び無施肥群の実験区を設定した。毎年秋に地上物を収穫 方剤の通常処方と同様に去甘草を腎障害患者に処方でき し、株ごとに総アルカロイド含量(エフェドリン及びプ るかを検証した。【方法】 (1)臨床において頻用される甘 ソイドエフェドリンの和)の経年変化を調査した。また、 草含有漢方方剤(葛根湯、加味逍遙散、小建中湯、小青 圃場での収穫物の一部を医薬品の製造販売許可を有する 龍湯、麦門冬湯、補中益気湯、抑肝散、六君子湯)につ いて、各方剤の去甘草の煎液とエキスを作製した。 (2) 各方剤の煎液について、半量をメスフラスコで500mL に 株の総アルカロイドの平均含量は栽培年数とともに増加 メスアップし、残り半量からエキスを作製し、偏光ゼー した。しかし個々の株では総アルカロイド含量に年次に マン原子吸光光度計を用いてカリウム濃度を測定した。 よる増減が観察された。尿素施肥実験において、定植1 (3)各方剤の煎液とエキスについて、前処理後、得られ 年後(2014 年)に尿素施肥と醗酵油粕施肥を行った株で た試料を HPLC 分析に供した。HPLC 装置は PD-8020 はブランク群(醗酵油粕施肥のみ施肥)に比して有意に総 (TOSOH)システムを使用、分析カラムは TSKgel ODS- アルカロイド含量が高く、また両群ともに総アルカロイ 80Ts(4.6 x 150 mm i.d. )を用いた。移動相はリン酸水 ド含量の平均値が日局の規定を超えた。両群ともに翌年 溶液(A)- 0.017% とアセトニトリル(B)を用い、グラ 度は尿素施肥を行わずに観察した結果、総アルカロイド ジエント条件として18-20%(B、0-5 min)、20-25%(B、 含量は前年度尿素施肥群では微減し、無施肥群では増加 5-9 min)、25-29%(B、9-15 min)、29-39%(B、15- した。また、2013 年に定植して春に醗酵油粕を追肥して 18 min)、39-43%(B、18-26 min)、43-65%(B、26-34 育成した全 45 株の2015 年収穫株の総アルカロイド含量 min)、65-100%(B、34-45 min)、100-100%(B、45- は平均 1.04%を示した。 【考察】マオウ栽培株のアルカロ 55 min)、100-18%(B、55-65 min)、 流 速 は1.0 mL/ イド含量は発芽定植後少なくとも6年間は増加傾向を示 min とした。 【結果・考察】各方剤の煎液とエキスを比較 した。この傾向がいつまで継続するかは現時点では不明 したところ去甘草としてもカリウム濃度に差はみられ である。また、尿素や醗酵油粕を施肥することにより発 なかった。腎障害患者におけるカリウム一日制限量を 芽定植後3~4年で総アルカロイド含量が JP17 の規定 1500mg とすると、今回検討した漢方方剤中のカリウム を満たす麻黄の生産が可能であることが明らかになった。 量は最大のもので200mg であり、カリウム制限の腎障害 生産した日局「マオウ」を臨床使用した結果、従来品と同 患者に対しては去甘草としても通常処方と同様に注意を 等であることが確認された。以上、日本で国産マオウの 要すると示された。各方剤の成分量については検討中で 栽培生産が可能であることが明らかになり、現在さらに ある。 生薬資源・品質管理 メーカーに依頼し、日局「マオウ」の製品化を行った。 【結果】定植時の元肥以外は無施肥で3 年間継続栽培した 1 大規模な圃場栽培実験に取り組んでいる。 第33回和漢医薬学会学術大会 85 P4-3 ★ P4-4 植物性生薬の煎液に含まれる 微粒子の役割 エフェドリンアルカロイド除去麻黄 エキス(EFE)の MET 阻害を介 したがん細胞の運動能抑制作用 ○飯塚紘史、小泉桂一、須崎美貴子、竹下佳輝、江藤武志、 柴原直利 富山大学 和漢医薬学総合研究所 漢方診断学分野 ○日向須美子1、日向昌司2、大嶋直浩3、丸山卓郎2、 鎌倉浩之2、山下忠俊4、天倉吉章5、袴塚高志2、小田口 浩1、 合田幸広2、花輪壽彦1 【緒言】 北里大・東医研、2 国立衛研、3 国際医療福祉大薬、 (株)常磐植物化学研究所、5 松山大薬 1 4 【目的】こ れ ま で に、 麻 黄 が 肝 細 胞 増 殖 因 子(HGF)受 漢方薬は主に生薬を煎じることで作成される薬剤であり、 容体 MET の阻害を介して、がん細胞の運動能を抑制 漢方薬中には、二次代謝産物を含めると様々な有効成分 し、 転 移 や 腫 瘍 増 殖 を 抑 制 す る こ と を 報 告 し て き た が含有されている。このような既知の成分以外にも多く (J.Trad.Med., 30, 19-26, 2013 & 特 許 第 5786164 の成分が含有されているがあまり検討されていない。当 号) 。麻黄に含まれる herbacetin 配糖体の非糖部分で 研究室は、前回の大会において、甘草の煎液中に微粒子 ある herbacetin が MET 阻害作用を有すること(Planta が存在することを見いだし、この微粒子は免疫細胞の活 Med., 79, 1525-1530, 2013 & 特願 2013-240718) 、エ 性化効果を有することを報告した。今回は他の生薬の煎 フェドリンに MET 阻害作用がないことから、麻黄の 液においても同様の微粒子が存在するのか、存在した際 MET 阻害作用は、エフェドリンアルカロイド(EA)に には生理活性を有しているのかについて検討した。 依存しないことが示唆された。第 32 回本学術大会では、 EA 除去麻黄エキス(ephedrine alkaloids free Ephedra 【方法】 生薬資源・品質管理 1 Herb extract, EFE)(PCT/JP/ 2014/80605) が、MET 5種類の生薬について、前回報告した方法により煎液か チロシンキナーゼ阻害活性や MET 発現がん細胞の増殖 ら微粒子を分離した。この微粒子について凍結乾燥させ 抑制作用を保持していることを報告した。本研究では、 た後に電子顕微鏡により形態を観察し、粒度分布を測定 EFE の MET 阻害を介したがん細胞の運動能抑制作用に し、さらに免疫細胞の活性化効果の確認をした。 ついて評価した。 【方法】 1. MET 発現がん細胞:ヒト乳 がん由来 MDA-MB-231 細胞 2. 細胞運動能:Transwell 【結果】 の上部ウエルから、HGF(50 ng/mL)を添加した下部ウ 生薬ごとに量は異なるが、この微粒子を凍結乾燥し、粉 エルに移動した細胞数を指標とした。 3. MET のリン酸化: 体を得ることができた。この粉体を復水した試料を電子 HGF(50 ng/mL)添加後の細胞溶解液について、抗リン 顕微鏡で観察した結果、いずれの煎液からも微粒子が確 酸化 MET 抗体、抗 MET 抗体を用いたウエスタンブロッ 認できた。次に、この試料を用いて粒度分布を測定した トにより評価した。 【結果】 EFE は、細胞毒性を示さない ところ、生薬の煎液ごとに異なる粒子径を持つことが明 濃度(40 μg/mL)で、麻黄エキス(40 μg/mL)や MET らかとなった。免疫細胞の活性化効果については、各生 阻害剤 SU11274(5 μM)と同程度に、MDA-MB-231 細 薬煎液の微粒子ごとに活性が大きく異なっていることが 胞の運動能を抑制した。また、EFE(10 μg/mL)は、麻 示された。 黄 エ キ ス(10 μg/mL)や SU11274(5 μM)と 同 程 度 に、HGF により誘導される MET のリン酸化を抑制した。 【考察】 今回調べた生薬はいずれも植物性の生薬であり、この微 を、EFE は 添 加 濃 度 依 存 的 に 抑 制 し た。 【結論】EFE は 粒子は同じ方法によって回収できるが、量や大きさ、免 MET リン酸化阻害を介してがん細胞の運動能を抑制し、 疫活性化効果には大きな差異が存在した。前回の甘草を その阻害能は麻黄エキスと同程度であることが明らかに 含め、微粒子に免疫活性化効果を認めた生薬は、漢方薬 なった。EFE は、EA に起因すると考えられる副作用が を構成する生薬として広く使用されている生薬であり、 ないことから(竹元ら、本学術大会)、MET 発現がんの この微粒子が漢方薬の薬効の一端を担っている可能性が 治療薬として応用できるものと期待される。 あると考えられた。 86 さらに、HGF により誘導される運動能や MET リン酸化 第33回和漢医薬学会学術大会 P4-5 ★ P4-6 ★ エフェドリンアルカロイド除去麻黄 エキスと麻黄エキスを用いた麻黄 の副作用の比較検討 エフェドリンアルカロイド除去麻黄エ キス(EFE)の品質管理のための指 標成分の同定及び定量法について ○竹元裕明1,2、高橋 純1,2、日向須美子2、山下忠俊3、 大嶋直浩4、丸山卓郎5、日向昌司5、天倉吉章6、袴塚高志5、 小田口 浩2、合田幸広5、花輪壽彦2、小林義典1,2 ○大嶋直浩1、山下忠俊2、丸山卓郎3、内山奈穂子3、 日向須美子4、日向昌司3、天倉吉章5、袴塚高志3、 小田口 浩4、花輪壽彦4、小林義典4、合田幸広3 3 2 北里大学 薬学部、2 北里大学 東洋医学総合研究所、 (株)常盤植物化学研究所、4 国際医療福祉大学 薬学部、 5 国立医薬品食品衛生研究所、6 松山大学薬学部 1 [目的] 麻黄の副作用である興奮、不眠、動悸はエフェ 1 国際医療福祉大学 薬学部 薬学科、 常磐植物化学研究所、3 国立衛研、4 北里大、5 松山大薬 【目的】麻黄は医療用及び一般用漢方処方の約 1 割に配合さ ドリンアルカロイド(EA)に起因すると考えられている。 れる重要生薬であり,エフェドリンアルカロイド類(EA) 我々は、副作用の軽減を目的として、EA 除去麻黄エキ が主要な有効成分と考えられている . しかし , EA は , 副 ス(EFE)を作製し、EFE が麻黄エキス(EHE)と同程度 作用として動悸 , 血圧上昇 , 不眠 , 排尿障害等を示すため , の鎮痛作用、抗インフルエンザ作用、MET 阻害作用を有 心血管系の疾患を有する患者への投与に制限がある.最 することを報告した(日向ら、第 32 回、第 33 回本学術 近 , 我々は EA 除去麻黄エキス(EFE)を作製し[1],この 大会)。本研究では、EA 除去により副作用が軽減あるい ものが麻黄エキスの持つ鎮痛作用 , 抗インフルエンザ作用 , は消失するかどうかを検証することを目的とし、EFE 及 MET 阻害作用を保持していることを明らかにした[2]. こ び EHE について行動薬理学的解析および心拍変動解析を 実施した。 [方法] (1)試験薬:EHE 及び EFE は(株)常 磐植物化学研究所より提供。Vehicle は水を用いた。(2) 動物及び投与方法:5 週齢の ddY 系雄性マウスに経口投 与。(3)オープンフィールド試験:試験薬投与直後に円 を測定。(4)ペントバルビタール睡眠試験:試験薬投与 30 分後にペントバルビタールを腹腔内投与し、連続睡眠 時間を測定。 (5)強制水泳試験:試験薬投与 30 分後に6 分間の水泳試験における不動時間を測定。(6)心拍変動 解析:腹腔内に心拍測定用テレメトリーを埋め込んだマ ウスを用い、試験薬投与前後にそれぞれ60 分間経時的に 心拍数を測定。なお、本研究は北里大学動物実験委員会 で承認され、北里大学における動物実験等に関する規定 に従って行った。 [結果] EFE(700 mg/kg)投与群は、 全ての試験において vehicle 群と有意差がなかった。一 方、EHE 投与群では、1:総運動量は用量依存的に増加 し、700 mg/kg で vehicle 群の約2.2倍、 カフェイン群(20 mg/kg)と同程度の興奮行動を示した。2:ペントバル ビタールによる誘導睡眠は、vehicle 群の32 分に対して EHE 群では4 分となり不眠作用が観察された。3:水泳 試験での不動時間は、vehicle 群の256 秒に対して EHE 群では153 秒となり興奮作用が観察された。4:心拍変動 解析の結果、EHE(700 mg/kg)で催不整脈作用が観察さ れ、心電図 R-R 間隔変動係数が vehicle 群の約 2 倍に増 加した。[考察] EHE は EA に由来すると考えられる作 用を示したが、等用量の EFE ではこれらの作用は認めら れなかった。EFE は EHE より副作用が少ない安全性の 高い医薬品となる可能性が高い。 となり得ると期待される.しかし , EFE は , 麻黄の定量指 標成分である EA が除去されていることから,EFE の臨床 応用に向け,品質管理のための新たな指標成分の設定が必 要と考えられた.そこで本研究では , EFE の品質確保に資 する指標成分の探索,同定を行うとともに , それらの簡便 生薬資源・品質管理 筒型ケージ(直径 25 cm)に投入し、120 分間の総運動量 のことから,EFE は副作用が少なく,安全性の高い医薬品 な分析法の確立を目的とした 【方法】 . 日局品の麻黄を使用 した.産地や採取年が異なる7 検体の麻黄エキスを調製し , LC-Orbitrap MS で分析した . 指標ピークとなり得る成分 を各種カラムクロマトグラフィーで分離精製し , NMR 等 の分析機器で構造解析した . EFE の定量分析は,LC-PDA による絶対検量線法で行った 【結果】 . PDA(337 nm)にお いて顕著なピークとして検出された2 成分を単離後,精密 1 質量及び NMR スペクトルから , これらを vicenin-2 及び isovitexin 2"-O -rhamnoside[3]とそれぞれ同定した . 定 量分析の結果 , これらの成分は , EFE 中にそれぞれ0.160 ~ 0.180%, 0.340 ~ 0.390% 含まれていた . 更に,二次標 準物質として , それらのアグリコンである apigenin を用 いた定量を検討し,それぞれの換算係数を実測した結果, 1.8 及び1.6 であった 【考察】 . 同定した各成分はいずれもフ ラボン C - 配糖体であり , 特徴的な構造を有することから , これらは EFE の指標成分に適していると考えられた.また , 麻黄からの vicenin-2 の単離報告は今回が初めてである . 更に , apigenin の分析結果により , このものを二次標準 物質として設定し,apigenin の含量から指標成分の含量 を算出することで , より簡便かつ安価に分析することが可 能となった . 参考文献[1]Oshima N., et al. J Nat Med, in press, DOI: 10.1007/s11418-016-0977-1[2]Hyuga S., et al. J Nat Med, in press, DOI: 10.1007/s11418016-0979-z[3]Amakura Y., et al.( 2013)Molecules 18:5326-5334 第33回和漢医薬学会学術大会 87 P5-1 ★ 漢方薬の添付文書改定の根拠と なった副作用症例の解析(第2報) ○飯塚史織1、嶋田沙織1、本間真人1,2 1 2 筑波大学附属病院 薬剤部、 筑波大学 医学医療系臨床薬剤学 筑波大学附属病院における漢方 エキス製剤の処方実態の変遷 ○嶋田沙織1、本間真人1,2 1 2 筑波大学附属病院 薬剤部、 筑波大学 医学医療系臨床薬剤学 【目的】一般に漢方薬は西洋薬と比べて副作用が少ないと 【目的】現代医療において、漢方薬は専門病院以外でも頻 考えられている。しかしながら、医療現場では使用頻度 繁に処方されている。主に急性期疾患を扱う筑波大学附 の高い処方を中心に副作用報告が増加しており、添付文 属病院における漢方薬の使用実態の変遷を明らかにする 書改定に至る例もある。今回、添付文書改訂の根拠となっ ことを目的として、過去 10 年の処方実態を調査したの た症例を調査し、漢方薬投与による副作用の発生状況に で報告する。 【方法】筑波大学附属病院において、2004 ついて検討した。【方法】医療用漢方製剤の製造・販売を 年 8 月、2009 年 8 月及び2014 年 8 月からそれぞれ6 カ月 行っている製薬会社のホームページに掲載されている添 間に漢方エキス製剤を処方された総計 3,945 名(男 / 女: 付文書の副作用の改訂において、副作用の種類と報告数 1,612/2,333、62.1±19.2 歳)を 対 象 と し、 漢 方 薬 の 処 を調査した。また、改訂の根拠となった213 症例につい 方内容と処方件数を調査した。 【結果】処方された漢方エ て、発症時の年齢及び発症までの期間を調査した。 【結果】 キス製剤の種類、処方患者数(処方件数)は、過去 10 年 1999 年 5 月以前に報告されている「重大な副作用」は、 間に着実に増加していた。すなわち、2004 年では49 種 偽アルドステロン症・ミオパチー(101 剤)と間質性肺炎 類のエキス製剤が879 名(3,739 件)に処方されていた (10 剤)であり、「その他の副作用」は、消化器症状(91 が、2009 年には67 種類が1,511 名(5,633 件)に、2014 臨 剤)、過敏症(78 剤) 、肝機能障害(18 剤) 、泌尿器(18 剤)、 年には88 種類が1,929 名(7,015 件)に増加した。処方件 自律神経系(14 剤) 、その他(10 剤)であった。1999 年 6 数が多いエキス製剤(上位3剤)は、2004 年では大建中 月以降に追加された「重大な副作用」は、肝機能障害(40 湯(1,091 件)、十全大補湯(472 件)、牛車腎気丸(220 剤) 、間質性肺炎(20 剤) 、腸間膜静脈硬化症(4 剤)であ 件)であったが、2009 年は大建中湯(1,768 件)、抑肝散 り、 「その他の副作用」は、過敏症(13 剤) 、肝機能障害(11 (557 件) 、抑肝散加陳皮半夏(413 件) 、2014 年は大建 床 剤)、消化器症状(1 剤) 、精神神経系(1 剤) 、その他(1 剤) 中湯(2,308 件)、抑肝散(841 件)、芍薬甘草湯(559 件) であった。すなわち1999 年 6 月以降は肝機能障害に関 に変化した。大建中湯は548 名(59.0±20.8 歳)に対して する改訂は47 剤で51 件(52.6%)と最も多く、次いで間 63 日(3-304)日、抑肝散は215 名(68.8±15.8 歳)に対 質性肺炎が20 剤で20 件(20.6%)と、両副作用で全改訂 して160 日(3-260 日)、抑肝散加陳皮半夏は143 名(75.2 の73.2% を占めた。添付文書改訂の根拠となった副作用 ±12.8 歳)に対して147 日(10-386 日)処方されていた。 症例を解析すると、肝機能障害では50(20-90)歳代、間 【考察】漢方エキス製剤は過去 10 年間で処方患者数が2.2 質性肺炎では70(40-80)歳代であり、いずれも女性が約 倍、処方件数が1.9 倍に増加していた。大建中湯は最も処 60% を占めていた。発症までの期間は、肝機能障害では 方頻度の高い漢方エキス製剤であり、全体の処方の33% 60(3-850)日、間質性肺炎では44.5(10-1119)日であっ を占めていた。抑肝散製剤は、2009 年以降急速に処方が た。【考察】偽アルドステロン症・ミオパチーは、1999 年 増加しており、全体の18%を占めていた。大建中湯に比 5 月以前に甘草含有漢方薬の添付文書全てに記述された 較して抑肝散の処方期間は長く、高齢者に対して処方さ ため、1999 年 6 月以降に改訂がなかった。一方、1999 れており、このような使用実態が、副作用の報告件数の 年 6 月以降の改訂では、肝機能障害や間質性肺炎の報告 違い(医薬品医療機器総合機構データベースでは、抑肝 が増加していた。漢方薬投与による肝機能障害は50歳代、 散が大建中湯の約 3.2 倍)に影響している可能性が考えら 間質性肺炎は70 歳代で頻発しており、間質性肺炎は高齢 れた。 者でリスクが高いと考えられた。いずれの副作用も女性 が60% を占め、投与開始 2 カ月以内の発症が多く見られ た。両副作用のリスクについては、年齢や性別を考慮し、 投与開始 2 カ月間は特に注意が必要と考えられた。 88 P5-2 ★ 第33回和漢医薬学会学術大会 P5-3 ★ 近赤外光を利用した舌裏静脈計測 - 可視光との比較による検討 ○森田 智1、並木隆雄1、中口俊哉3、小林文美奈2、 岡本英輝1、八木明男1、高野静子1、龍 興一1、中村道美1、 三宅洋一4 千葉大学大学院 医学研究院和漢診療学、2 千葉大学大学院 工学研究科、 千葉大学 フロンティア医工学センター、 4 国立大学法人千葉大学 名誉教授 1 P5-4 ★ 漢方論文における「漢方処方名 ローマ字 表 記 法」(2005) 処 方 名の採用状況 ○碇谷奈緒美1、新井一郎1、山路誠一1、津谷喜一郎2 1 2 日本薬科大学 薬学部 漢方薬学分野、 東京有明医療大学 保健医療学部 3 【はじめに】 近赤外光は、静脈血に含まれる還元ヘモグ 【目的】 「漢方処方名ローマ字表記法」は、2006 年の第 15 改 ロビンに吸収されることから、体内の静脈を可視化でき 正からの日本薬局方に漢方処方エキスを収載するため、ま る特徴を有している。本方法を舌診所見に応用すること た、Uppsala Monitoring Centre の "Vigibase" database で、舌裏静脈を正確に測定することが可能になると考え に漢方薬の副作用情報を収載するために、和漢医薬学会、 られた。しかし、従来行なわれている可視光画像と近赤 日本東洋医学会、日本生薬学会の用語委員会委員などが 外光画像を比較し、臨床的意義を示した研究はまだ少な 参加して作成され、2005 年 3 月に公表されたものである。 い。 具体的には、処方名を日本語読みし、ヘボン式表記法と 【目的】 本研究は、舌撮影解析システム(Tongue Image Analyzing System: TIAS)による可視光画像と近赤外光 画像を用いて、舌裏静脈の血管径を比較検討する。 【対象・方法】 対象は、2016 年 2 〜 4 月の間に、千葉大 学医学部附属病院和漢診療科を受診した患者 25 名(男 性 5 名、女性 20 名、平均年齢 63.6±17.4 歳)とした。1) TIAS を用いて舌裏静脈の可視光画像を記録した。2)連 結果から、静脈分岐の認識精度および血管経の計測値を 比較した。4)撮影画像における舌裏静脈の計測は、観察 上舌根部に近く左右何れかの血管径が最大幅になる部位 とした。 中 14 名を認識したが、近赤外光画像は25 名中 21 名を認 識した(可視光画像の認識率 67%) 。舌裏静脈の血管径 は、可視光画像(2.61±0.52 mm)と近赤外光画像(1.75 ±0.42 mm)との間に有意差を認めた(p < 0.01) 。 【考察】 先行研究より舌裏静脈の計測部位は、舌根部に 近い単一の血管径としている。しかし可視光画像では、 近赤外光画像と比べて静脈分岐の判別困難な箇所が多く 存在していた。本調査の可視光画像は7 名の複数分岐し ている静脈を、単一の血管径として認識していた。近赤 外光画像の舌裏静脈径が可視光画像と比較して有意に小 かったことは、静脈分岐の認識精度が向上したためと考 える。 【結語】 近赤外光画像による舌裏静脈の抽出は可視光画 像より優れており、正確な幅径が測定可能と考えられる。 表記法を用いるように定められており、各々の website で 見ることができる。この表記法が公開されてから10 年経 過するが、漢方論文における本表記法の採用状況について 分 析 し た。【方法】2016 年 5 月 6 日 に、PubMed を、 下 記 の検索式で検索し、書誌事項とアブストラクトをダウン ロードした。(検索式:"medicine, kampo"[MeSH Terms] OR("medicine"[All Fields] AND "kampo"[All Fields])OR "kampo medicine"[All Fields] OR "kampo"[All Fields])。 検索された論文のうち、タイトルやアブストラクトに、医 療用漢方製剤として販売されている処方名、もしくは「新・ 一般用漢方処方の手引き」(じほう2013)に収載されてい 床 【結果】 舌裏静脈の分岐に関して、可視光画像は25 名 学会などの投稿規定において、処方名の英語表記は、この 臨 続して舌裏静脈の近赤外光画像を記録した。3) 1)、2)の し、ハイフンで区切らないものである。現在は、これら3 る処方名を含む論文を対象論文とし、タイトルやアブスト ラクトに最初に出現する処方名が、「漢方処方名ローマ字 表記法」に従っているかどうかを評価した。なお、処方名 の書き始めの文字の大文字 / 小文字については評価の対象 とはしなかった。 【結果】 「漢方処方名ローマ字表記法」公開 前として、論文公表年が1983-2005 年の間で、本表記法と 同じ処方名を用いていたものは、387論文中25論文(6.5%) であった。本表記法公開後の2006 年 -2015 年の間は 365 論文中 277 論文(75.9%)が、本表記法に従った処方名を 用いていた。直近の2015 年は、69 論文中 60 論文(87.0%) が、本表記法を採用していた。本表記法を採用していなかっ た論文の大部分は、ハイフンを含む表現、中国語発音を用 いる表現であった。 【考察】 「漢方処方名ローマ字表記法」公 表後、論文における漢方処方名のローマ字表記は、この表 記法に従うものが大部分となったが、未だに全ての論文に おいて本表記法が採用されていない。本処方名は日本薬局 方に採用され、各社の添付文書情報英語版でも採用される 公式の表記法であるため、全ての論文がこの表記法を採用 することが望まれる。 第33回和漢医薬学会学術大会 89 P5-5 ★ 和英・英和辞典における「漢方」、 「中医学」の翻訳語の分析 ○小林直矢、山路誠一、新井一郎 日本薬科大学 薬学部 漢方薬学分野 P6-1 MACH 熱水抽出エキスの 抗ウイルス活性の検討 ○吉田与志博1、塚本麻友1、村岡健一2、吉田 哲2、 白木公康1 1 2 【目的】 「 漢方」は「中国から伝来した医術」(広辞苑第 6 版) 【目的】MACH は、インターフェロン誘起能を持つ4種の であるが、現在の中国医学、中国薬と現在の漢方とは異な 生薬(南瓜子等)で構成された人および動物のサプリメン るところが多い。以前は、本学会誌の掲載論文をはじめと トとして、発売されてから15 年以上になる。これまでに、 して、「漢方」を "Chinese Medicine" と著した英語の医学 人では C 型慢性肝炎患者の HCV ウイルス価の減少、更年 薬学論文が数多くみられた。しかし、2000 年に、PubMed 期不定愁訴患者の症状の改善および難治性不妊症患者での の MeSH(Medical Subject Headings) に、"Medicine, 妊娠率の改善などが報告されている。動物(家畜・水産生 Kampo" が 新 た に 設 け ら れ、 漢 方 の 論 文 は、 従 来 の 物・ネコなど)ではマクロファージあるいは好中球の貪食 "Medicine, Chinese Traditional" から区別されたこと、近 能を活性化し、ウイルス性あるいは細菌性疾病への予防効 年、わが国において、現在の漢方は現在の中医学とは異な 果も知られている。 るとの認識が広まったことなどから、現在の医学論文にお 本研究では、MACH 熱水抽出エキスの抗ウイルス活性を いては、「漢方」は、ほとんど "Kampo" と表現されている。 細胞培養レベルと感染動物レベルでの治療効果を検討し しかし、外国の一般記事の邦訳や、ネット上の記事など、 た。 臨 一般人が目にする文章においては、いまだに、"traditional 【材料と方法】 MACH 熱水抽出エキスは、4種の構成生 Chinese medicine" を「漢方」と誤訳している例が数多く 薬を常水で加温抽出し、固液分離して得た抽出液を減圧濃 みられる。これらの翻訳には、辞書が使われていると考え 縮し、原材料換算量 1:1 にしたものである。ウイルスと細 られることから、現在、使用されている辞書(ネット辞書 胞は、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘帯状疱疹ウイ を含む)において、「漢方」や "Chinese medicine" などが、 ルス、サイトメガロウイルス、ポリオウイルスを、人胎児 どのように翻訳されているかについて調査・分析した。 肺細胞または Vero 細胞を用いて、プラック減少法で抗ウ 【方法】2016 年 1 月 19 日 か ら2016 年 3 月 23 日 ま で に イ 床 ンターネット上の辞典や翻訳サイト(和英、英和)、およ び紙媒体の英和辞典、和英辞典において「漢方」、「漢方 薬」、"Chinese medicine"、"Kampo"、"herbal medicine"、 薬 "traditional Chinese medicine" などについて翻訳語を調査 し、分析した。 【結果】調査した辞書中、34 件が「漢方」の英訳を記載して 理 おり、そのうち、31 件(91%)が「漢方」の翻訳語として "Chinese medicine" など "Chinese" という言葉を含む翻 訳語をあてていた。一方、"Kampo" という言葉を含む翻 訳語を当てていたものは3 件(9%)だけであった。逆に、 2 "Chinese medicine" の和訳は、28 件中 17 件(60%)が「漢 方」だけを含む翻訳語(「中国」という言葉を含まない)、5 件(18%)が、「漢方」と「中国」の併記であった。 また、 "herbal medicine" の和訳28件中、24件(86%)には、 「漢方」 を含む言葉が含まれていた。 【考察】辞書においては、日本語の「漢方薬」、英語での " Chinese medicine" は相互に翻訳される場合が多いことが 明らかとなった。一般記事における中国医学と漢方との概 念の混乱には、辞書における翻訳語の不適切さが一因となっ ていることが推察された。 90 富山大学 医学部ウイルス学、 オリジナル・イメージ株式会社 第33回和漢医薬学会学術大会 イルス活性を評価した。 マウスの HSV 皮膚感染モデルを用いて、皮膚病変の軽症 か遅延を用いて治療効果を評価した。マウスに、非投与対 照群と、エキス原液と10 倍希釈エキス 400μL の投与群 の3 群(1群 15 匹)、1 日 1 回、感染前 1 週間から投与し、 HSV 皮膚感染後も投与し、HSV 皮膚病変スコアの進展を 観察した。皮膚病変の進展は、重複測定分散分析法を用い て、対照群に対する治療効果を検定した。 【結果と考察】 各ウイルスのプラック減少率は、2mg/ml 以上で減少を認めた。興味深いことに低濃度では、プラッ ク数が増加していた。 HSV 皮膚感染モデルにおいては、観察期間中の対照群 と MACH エキス投与群で体重の変動の有意差は認められ ず、その他の変化を認めなかった。一方、HSV 皮膚病変 は、原液エキス投与群では対照群との差異を認めなかった が、10 倍希釈 MACH エキス投与群では、対照群に比べ皮 膚病変の進展は有意(P < 0.05)に遅れた。以上のように、 MACH エキスは体重減少等の毒性は認めないが、HSV 皮 膚感染モデルにおいて有意の治療効果を示した。 以上のことより、MACH エキスの臨床で確認されてきた 効果が、動物実験で確認された。 P6-2 P6-3 褐色脂肪細胞に対する黒ショウガ 酢酸エチル可溶部の効果 リトコール酸誘導胆汁うっ滞モデルマ ウスにおける肝傷害ならびに胆汁酸 蓄積に対する防已黄耆湯の軽減効果 ○小林裕子1、馬場本絵未2、友澤 寛3、鍔田仁人3、 嶋田 努4、北岡 諭1、落合 和1、油田正樹2、杉山 清1 ○渡辺志朗、辻 哲也、藤田恭輔 富山大学 和漢医薬学総合研究所 1 3 星薬科大学 薬動学教室、2 武蔵野大学 薬学部、 株式会社 東洋新薬、4 金沢大学附属病院 であり、様々な生理活性が報告されている。これまで我々 酸が肝臓内に蓄積することによって生じると考えられ は、KP が抗肥満作用や代謝性疾患予防作用を有してい る。すでにわれわれは、マウスにコール酸(CA)を摂取 ることを報告してきた。本研究では、脂肪の燃焼に関わ させたときにみられる肝傷害が、防已黄耆湯(BOT)を る褐色脂肪細胞に着目し、KP の活性画分である酢酸エ 投与することによって軽減されることを明らかにした チル可溶部(KPE)を用いて検討した。 【方法】実験 1:2 (Watanabe et al., Trad. Kampo Med. , 2016)。本研究 型糖尿病モデルマウス TSOD マウスに、KPE を0.3% あ では、より重篤な肝傷害を伴うリトコール酸(LCA)誘導 るいは1.0% 含有した飼料を、8 週間自由摂取させた。経 胆汁うっ滞モデルに対する BOT の影響を評価したので、 時的に体重測定および X 線 CT により内臓・皮下脂肪 以下に報告する。 【方法】マウスに LCA を0.2% となるよ を測定した。投与終了後、肩甲骨間褐色脂肪組織を摘出 うに添加した粉末飼料を、9 日間に渡って自由摂取させ し、その重量を測定した。実験 2:正常マウスより肩甲 ることによって、胆汁うっ滞モデルを作成した。BOT 乾 骨の褐色脂肪組織を単離し、初代前駆褐色脂肪細胞を調 燥エキスは LCA 添加飼料に0.6 および2.0% となるよう 製した。前駆細胞を成熟褐色脂肪細胞へと分化誘導した に添加し、同様にマウスに自由摂取させた。飼育最終日 後、KPE を添加した。添加後 2 日目、褐色脂肪細胞にお にイソフルラン麻酔下にて血液と肝臓を採取した。血液 いて代謝的熱産生を担う脱共役分子(UCP-1)や、その制 中のトランスアミナーゼ活性ならびに総胆汁酸濃度を、 御を担うβ3AR や PPARγの mRNA 発現量を real-time 臨床検査用キットにて定量した。肝臓中の胆汁酸含量は、 RT-PCR 法により測定した。 【結果】実験 1:KPE を与え LC-ESI-MS によって定量した。またオリーブ油に懸濁し た TSOD マウスでは、肩甲骨間の褐色脂肪の増加がみら た LCA を125mg/kg/day において4 回腹腔内投与する れた。実験 2:成熟褐色脂肪細胞に KPE を添加すると、 ことによって胆汁うっ滞性モデルを作成し、それに対す コントロール群と比較して、UCP-1 の mRNA 発現量が、 る BOT の影響についても検討した。 【結果】 LCA 添加飼 上昇傾向を示した。また、KPE は、UCP-1 の制御を担う 料をマウスに与えることによって、血清中のトランスア PPARγの mRNA 発現量を有意に上昇させると共に、β ミナーゼ活性ならびに総胆汁酸濃度が上昇した。これら 3AR の mRNA 発現量を上昇させることが明らかとなっ の上昇は、BOT の添加によって顕著に抑制された。LCA た。【考察】以上の結果から、KPE の抗肥満作用には、褐 を付加したマウスの肝臓中には、LCA の含量が著しく増 色脂肪細胞の増加及び活性化が重要な役割を担うことが 加したが、これに対しても BOT の投与は抑制効果を示 示唆された。また、KPE は、褐色脂肪細胞において、β した。一方、LCA を腹腔内投与することによって誘導さ 3AR の発現量を増加させることによりアドレナリン等に れる血清中トランスアミナーゼ活性の上昇と、血中なら 対する応答能を高めるとともに、PPARγの発現量を増加 びに肝臓中の胆汁酸濃度の増加に対しては、BOT の投与 させることにより RXR とのヘテロダイマー形成を亢進 は軽減効果を及ぼさなかった。【結論】以上ように、経口 し、UCP-1 の発現量を増加させると考えられる。以上本 的に投与された LCA が引き起こす胆汁うっ滞モデルにお 研究により、黒ショウガの抗肥満作用に対する科学的根 いてのみ、BOT が肝傷害ならびに血中および肝臓中の胆 拠の一端が証明された。 汁酸蓄積に対して軽減効果を示した。したがって BOT は、 理 【背景】胆汁うっ滞によって誘発される肝傷害は、胆汁 薬 【目的】 Kaempferia parviflora(KP)はショウガ科の植物 2 消化管における LCA の吸収や排泄ならびに分解に影響す ることによって、その肝臓中の濃度上昇を抑制し、肝傷 害を軽減しているのではないかと推測できる。今後は消 化管における胆汁酸代謝系に及ぼす BOT の影響を解析 する必要がある。 第33回和漢医薬学会学術大会 91 P6-4 大建中湯の構成生薬・乾姜の抗 炎症作用によるマウス術後腸管麻 痺改善効果 ブラジル産プロポリス成分フラボノイド の血小板および血液凝固系への作用 ○遠藤真理1、堀 正敏2、尾崎 博2、及川哲郎1、小田口 浩1、 花輪壽彦1,3,4 ○杉田千泰1、佐藤孔美乃1、宮路 翔1、山下 篤2、堤 重敏3、 吉田裕樹1、渡辺 渡1、山本隆一1、浅田祐士郎2、黒川昌彦1 北里大学 東洋医学総合研究所 臨床研究部、 東京大学大学院 農学生命科学研究科 獣医薬理学教室、 3 北里大学 医学部附属 医学教育研究開発センター 東洋医学研究部門、 4 北里大学大学院 医療系研究科 東洋医学講座 薬 理 2 九州保健福祉大学大学院 医療薬学研究科、 宮崎大学 医学部 病理学講座構造機能病態学分野、 3 アマゾンフード 1 1 2 2 【目的】大建中湯は人参、乾姜、山椒、膠飴から構成され 【目的】プロポリスは、ミツバチが採取した植物性樹脂成 る漢方処方で、開腹手術に伴う術後イレウス(POI)治 分とミツバチ自らの分泌物が合わさったもので、健康食 療における消化管運動促進薬としても処方される。我々 品の1 つとして健康増進の目的で使用されている。これ は大建中湯が POI モデルマウスの消化管運動亢進作用 までに我々は、ブラジル産プロポリス(AF-08)が血液凝 に 加 え て、α7 ニ コ チ ン 性 ア セ チ ル コ リ ン 受 容 体(α 固系に影響を与えずに血小板凝集を抑制することを明ら 7nAChR)活性化を介したマクロファージ浸潤抑制作用 かにしており(日本薬学会第 136 年会) 、また AF-08 に含 による抗炎症作用を示すことを明らかにした。さらに、 まれているフラボノイドを探知している(Kai H et al., J 大建中湯の処方中のどの生薬が抗炎症作用の活性を持つ Funct Foods , 2014) 。そこで本研究では、AF-08 の血小 生薬であるのかを同定するために、POI モデルマウスに 板凝集抑制効果がフラボノイドによるものであるかを検 おける各生薬単味の抗炎症作用への関与を検討したとこ 討するために、これらフラボノイドの血小板および血液 ろ、乾姜成分がマクロファージ浸潤抑制作用に関与する 凝固系への影響を評価した。 【方法】ヒトおよび家兎から 可能性を示唆したことを昨年度の大会にて報告した。そ 採血後、血液もしくは血漿に AF-08 に含まれるフラボノ こで、本研究では、乾姜の抗炎症作用の機序を詳細に検 イド(アピゲニン、ケンフェロール)を段階希釈し添加し 討することを目的とした。 た。これらフラボノイドの血液凝固系への影響をプロト 【方法】 C57BL/6J マウスの回腸に外科的刺激(IM)を施 ロンビン時間(PT) 、活性化部分トロンボプラスチン時 行し POI モデルを作製した。乾姜(7.4mg/kg)を IM3、2、 間(APTT)および全血凝固能で、血小板への影響を血小 1 日前と6 時間後に経口投与した。α7nAChR 阻害剤の 板凝集能で評価した。【結果】アピゲニンはコラーゲン刺 メチルリカコニチンクエン酸塩(MLA) (0.0125 mg/kg) 激による血小板凝集を有意に抑制したが、PT、APTT お を乾姜の各投与 30 分前に皮下投与した。IM24 時間後 よび全血凝固能には影響を与えなかった。ケンフェロー に回腸平滑筋層からホールマウント標本を作製し、ミエ ルは血小板凝集にも血液凝固系にも影響を与えなかった。 ロパーオキシダーゼ(MPO)とマクロファージの染色を 【考察】アピゲニンは血液凝固反応に影響を与えることな 行った。また、セロトニン 4 受容体ノックアウト(5HT-4R く血小板凝集を抑制することが示唆された。したがって、 KO)マウスでも検討した。 アピゲニンは AF-08 の血小板への抑制効果に寄与してい 【結果】IM を施行した回腸筋層部では CD68 と MPO 陽性 細胞数が増加し、マクロファージと好中球の浸潤が認め られた。乾姜は IM によるマクロファージ浸潤を抑制し、 好中球浸潤細胞数を減少させた。MLA の投与は、乾姜 のマクロファージ浸潤と好中球浸潤の抑制効果を解除し、 5HT-4R KO マウスにおいては、乾姜による抗炎症作用 が消失した。 【考察】乾 姜 の POI に 対 す る 抗 炎 症 作 用 は、 直 接 のα 7nAChR 活性化ではなく、5HT-4R を介した神経叢のコ リン作動性神経からの ACh 分泌促進によるマクロファー ジ細胞膜上のα7nAChR の活性化であることが示唆され た。 92 P6-5 第33回和漢医薬学会学術大会 る可能性が推察される。 P7-1 P7-2 社会的ストレス誘発脳内炎症に対 する香蘇散の制御 老化促進マウスの認知機能低下 に対する黄連解毒湯の改善効果 ○伊藤直樹1、廣瀬栄治2、石田達哉3、堀 厚1,4、 永井隆之1,2,5、小林義典1,3、清原寛章1,2,5、及川哲郎1、 花輪壽彦1,4、小田口 浩1 ○吉田 淳1、藤原博典1、星野 遥1、荒井啓行2、工藤幸司3、 松本欣三1 北里大学 東洋医学総合研究所、 2 北里大学大学院 感染制御科学府、3 北里大学 薬学部、 4 北里大学大学院 医療系研究科、5 北里大学 北里生命科学研究所 1 富山大学 和漢医薬学総合研究所 複合薬物薬理学分野、 東北大学 加齢医学研究所 老年医学分野、 3 東北大学 加齢医学研究所 ニューロ・イメージング研究(住友電工)寄付研究部門 1 2 精神疾患の発症リスクを高めると考えられており、近年 目的として,黄ごん含有漢方である黄連解毒湯による老 その発症には脳内炎症が寄与していることが注目されて 化促進マウス(SAMP8)の認知機能低下改善効果につい いる。これまでに我々は、社会的ストレスとして頻用 て検討した.また,その作用機序として,タウ蛋白リン されている chronic social defeat stress(CSDS)の負荷 酸化を引き起こす酵素の一つである Glycogen synthase によるモデルマウスを利用し、漢方方剤である香蘇散 kinase 3β(GSK-3β)の阻害効果,および ERK リン酸 (KS)の抗うつ様効果と、その作用メカニズムとして KS 化増強作用について解析した.【方法・結果】精神疾患に が脳内の免疫担当グリア系細胞である microglia の活性 用いられる漢方の構成生薬の有効成分を用いて,リコン 化を介した炎症反応を抑制する可能性を見出した。活性 ビナント GSK-3βを用いたキナーゼアッセイを行った 化 microglia には、炎症型と抗炎症型の相反する2 つの ところ,黄ごんの有効成分である baicalin, baicalein, phenotype が存在し、またそれらは脳内の神経新生制御 wogonin に阻害作用が認められた(第 66 回日本薬理学会 にも深く関与していることが報告されている。そこで本 北部会にて発表) .そこで,黄ごんを含んだ漢方である黄 研究では KS の脳内炎症反応抑制メカニズムの詳細を検 連解毒湯の SAMP8 認知機能低下に対する影響について 討するために活性化 microglia の phenotype に注目し、 検討した.6 ヶ月齢の SAMP8 および参照マウスである 海馬領域の両 phenotype 挙動に及ぼす KS の効果並びに SAMR1 に黄連解毒湯を一ヶ月間経口投与し,物体認識 それに伴う神経新生への影響について解析した。 試験および恐怖条件付け試験を行った.その結果,物体 探索時間が黄連解毒湯投与群で用量依存的に改善するこ CSDS モデルマウスを作製した(Day1-10) 。KS(1 g/kg/ とが確認された.恐怖条件付け試験においては,SAMR1 day)は、ストレス負荷開始日から12 日間経口投与した 群に対して SAMP8 群では文脈学習記憶ならびに音恐怖 (Day1-12)。Bromodeoxyuridine(BrdU, 150 mg/kg/ 条件付記憶の障害が認められたが,黄連解毒湯投与群で day)は Day-1 と Day0 に腹腔内投与した。灌流固定後脳 はそれぞれの障害が有意には改善されなかった.行動実 を採取し、振動薄切機 Vibratome により脳切片(50 μ 験完了後,大脳皮質および海馬組織を摘出して,組織可 m)を作成した(Day13) 。CX3C chemokine receptor 1 溶化液を用いた GSK-3βキナーゼ活性を行ったところ, (CX3CR1)、nod-like receptor family, pyrin domain- SAMR1 群に対して SAMP8 では GSK-3β活性化が認めら containing 3(NLRP3) 、BrdU、doublecortin(DCX)に れたが,黄連解毒湯投与群では,特に大脳皮質において 対する抗体を用いて免疫染色を行い、各種陽性細胞数に その活性化が抑制されることが確認された.また,神経 より脳内炎症の程度を評価した。 可塑性や神経保護に関わる分子のリン酸化制御について 【結果】CSDS 負 荷 で 認 め ら れ た 海 馬 領 域 の CX3CR1 陽 解析したところ,SAMP8 で低下した ERK のリン酸化が 性 細 胞( 抗 炎 症 型 microglia)及 び BrdU/DCX 陽 性 細 黄連解毒湯投与群により改善傾向を示すことが見出され 胞(未成熟神経細胞)の減少は、KS 投与によって有意に た. 【考察】以上の結果から,黄連解毒湯は SAMP8 の短 増 加 し た。 一 方、CSDS 誘 発 NLRP3 陽 性 細 胞( 炎 症 型 期記憶障害を改善することが見出され,その作用機序と microglia)の増加は、KS 投与で減少しなかった。 して,黄ごんによる GSK-3β阻害作用および ERK リン 【考察】 KS の脳内炎症反応抑制効果は、KS が microglia 酸化増強作用が関わっていることが示唆された.このこ の炎症 / 抗炎症バランスを抗炎症側にシフトすることに とより,黄連解毒湯はこれらを標的分子としたアルツハ よって発揮されると推察された。またこの KS による抗 イマー病の改善に有用であることが期待される. 経 認識試験において,SAMP8 で減少した新規物質に対する stress を10 日 間(10 分 間 / 日)負 荷 す る こ と に よ り 神 【方法】 8 週 齢 の C57BL/6J 雄 性 マ ウ ス に social defeat 神・ 【目的】アルツハイマー病治療効果を有する漢方の探索を 精 【目的】長期的なストレス環境への暴露は、うつ病などの 炎症型 microglia の誘導が海馬の神経新生制御に関与す る可能性も示された。 第33回和漢医薬学会学術大会 93 P7-3 P7-4 ルテオリン−7−グルクロニドは脱酸 素・脱糖によって引き起こされる神 経障害への保護作用及びメカニズム 抑肝散加陳皮半夏の慢性疼痛に 対する影響の検討 ○劉 東春1、鄒 敬韜2、王 芳3,4、王 東1、林 芳3、孫 営3、 王 盈盈3、郭 真真1 ○瀬島健裕、伊東 彩、藤田日奈 クラシエ製薬株式会社 漢方研究所 瀋陽薬科大学 中薬学院 生薬学教室、 通化華夏薬業有限会社、 3 瀋陽薬科大学 功能食品と葡萄酒学院 葡萄酒教室、 4 遼寧省ポリフェノール R&D 工程技術センター 1 2 Luteolin-7-O-β-D-glucuronide(LGU)is a major 【目的】慢性疼痛は炎症や刺激、神経因性、ストレスなど flavonoid compound extracted from "Kudiezi", a の心因性の要因が複雑に関わりあっていることから、治 Chinese medicinal herb using whole plant of Ixeris 療が困難とされている。特に、検査結果からは原因を特 sonchifolia(Bge.)Hance. Kudiezi injection prepared 定することの出来ない心因的疼痛は、西洋薬のみで治療 from I. sonchifolia which containing polyphenols するには限界がある。漢方薬はそれらの患者のニーズを including LGU and chicoric acid, etc., has been used 満たすのに着目されており、ペインクリニックでは近年、 to treat coronary heart disease and cerebral ischemia 駆瘀血剤や補血剤に加え、気剤が有効であるといわれて in China for more than two decades. However, the いるが科学的な検証はほとんど行われていない。そこで、 exact active compound and mechanism in Kudiezi 気剤のひとつである抑肝散加陳皮半夏の鎮痛効果につい injection against cerebral ischemia are unclear. In the て検討することとした。 【方法】 1 週間前に左後肢大腿部 present study, neuroprotective effect of LGU against の坐骨神経を4 箇所 1mm 間隔で緩く絞扼した 6 週齢 SD oxygen-glucose deprivation(OGD)-induced neuronal 系雄性ラット(CCI モデル)を金網吊り下げケージを用い injury and the possible mechanism were investigated. て1 週間集団もしくは個別飼育した後、抑肝散加陳皮半 The neuroprotective effects of LGU on rat cortex 夏(100, 300, 1000 mg/kg, p.o.)を2週間反復投与した。 精 primary neurons and microglia were studied by using 投与開始から隔日後、von Frey 法によって機械的アロ 神・ CoCl2 hypoxia model, OGD-induced neuronal injury model, L-Glu excitatory toxic damage model and LPS- ディニアを、体重負荷測定装置(DWB, BioSeb)を用い induced N9 microglia activation model. The results 神 showed that LGU protected neurons against CoCl2 経 hypoxia and OGD-induced injury. The OGD model was selected to further research. Neuroprotective effects of LGU were assessed by MTT assay and LDH release assay. The intracellular Ca2+ content in OGD neuron was determined using the Ca2+-sensitive fluorescent probe fluo-3 and confocal microscopy. ATP content in OGD neuron was detected by using ATP kit. The mitochondrial membrane potential(MMP)in OGD neuron was detected by fluorescent probe JC-1 and confocal microscopy. The results showed that LGU inhibited OGD-induced neuronal death and scavenged free radicals in the DPPH assay in a dose- and timedependent manner. LGU also reduced intracellular Ca2+ concentration, increased intracellular ATP content and improved MMP level.In conclusion, our results suggest that LGU show significant protective effect against OGD-induced neuronal injury through inhibiting calcium overload, increasing ATP content and improving mitochondrial function. 94 第33回和漢医薬学会学術大会 て自発痛を測定した。 【結果・考察】ラットを集団飼育して いた群では von Frey 法、体重負荷測定のいずれに対し ても抑肝散加陳皮半夏による有意な差が得られなかった が、個別飼育をした群では、von Frey 法において抑肝散 加陳皮半夏投与群は投与開始から3 - 7 日目に有意な鎮痛 効果を示した。一方で、体重負荷では有意な差は得られ なかった。これらの結果より、抑肝散加陳皮半夏は精神 的なストレス負荷が強い場合に効果を発揮することが示 唆された。現在、詳細な作用機序は検討中である。 P7-5 脳虚血 ‐ 再灌流障害モデルマウスを 用いた脳浮腫に対する五苓散の効果 ○西上知佐1、中野貴文1,2、水野寧子1、入江圭一1、 山下郁太1、明瀬孝之1、高瀬友美1、藤岡政行1、佐藤朝光1、 佐野和憲1、本多健治1、三島健一1 1 P8-1 漢方薬中の生薬成分に関する研究 (2)小青竜湯煎液中のグリチル リチン酸量 ○黒田明平、社本典子、木下歩美、三巻祥浩 東京薬科大学 薬学部 漢方資源応用学教室 福岡大学 薬学部 薬学科、2 福岡大学病院 【目的】脳梗塞後の重篤な合併症に脳浮腫がある。脳浮腫は 【目的】漢方薬の多くは湯剤として,複数の生薬を煎じ 虚血 - 再灌流障害の一つであり、頭蓋内圧の亢進や脳ヘル て調製する.そのため,生薬を単味で煎じた場合と比 ニアを引き起こし、脳梗塞患者の予後を悪化させる。現在、 べ,煎液中の各生薬由来の成分量に変化が生じることが 脳浮腫治療薬には浸透圧利尿剤がある。しかし、浸透圧利 予想される.岡村らは,小青竜湯においてはゴミシに含 尿剤は高浸透圧により、水分バランスを崩し、細胞内脱水 まれる有機酸の影響でカンゾウからのグリチルリチン酸 や高血糖および電解質異常を起こす危険性がある。そのた (GA)溶出量が減少することを報告している .1) また, め、水分バランスに影響を与えないような新たな治療薬が 演者らは先に,ゴミシ以外にハンゲも小青竜湯煎液中の 必要である。五苓散は、細胞内への水分子の移動に関与す GA 量を低下させることを報告した .2) 今回,ハンゲが る Aquaporin4(AQP4)を阻害することで、体内の水分バ ランスを調節し、むくみや浮腫を改善する。AQP4 は脳梗 塞後の脳浮腫の形成にも関与していることから、五苓散は 浸透圧利尿剤とは異なり、水分バランスの異常を起こすこ となく、脳梗塞後の脳浮腫を改善することが期待できる。 本研究では、脳虚血 - 再灌流障害モデルマウスを用いて脳 6 週齢 ddY 系マウスの中大脳動脈(MCA)に、4 時間フィ した。MCA 閉塞 24 時間後マウスの脳を摘出し、脳重量を 結果を用いて、脳水分量 =(脳乾燥重量 / 脳湿重量)×100 モデルマウスの脳切片を作製し、抗 AQP4 抗体を用いて、 免疫染色し、顕微鏡下で観察した。五苓散(ツムラ五苓散 エキス顆粒)は、12 時間毎に経口投与(500 mg/kg/ 回)し た。五苓散を5 日間投与した後、脳虚血 - 再灌流を施した マウスの脳浮腫を評価した。【結果】MCA 閉塞処置は、脳 水分量を有意に増加した(Sham 群:77.1±0.5% MCA 群:81±0.4% P < 0.01)。また、脳内の AQP4 は梗塞巣 の周辺部に集積していた。五苓散は、MCA 閉塞による脳 水分量の増加を抑制した(Vehicle 群:82.0±0.6% MCA た.得られた煎液を遠心分離(4000 rpm,10 min)し, 各煎液中の GA 量を前報と同様の条件 2) で HPLC にて定 量した.また,遠心分離後の沈殿物中の GA 量および煎 じ後の生薬残渣中の GA 量を定量した. 【結果】煎液中の GA 量は,ハンゲの配合量の増加に伴い 低下した.一方,沈殿物中の GA 量は,ハンゲの配合量 の増加に伴い有意に増加した.なお,小青竜湯煎液中の GA 量は,超純水,脱イオン水,水道水のいずれを用い て調製しても,それぞれの間に有意な差は認められなかっ 生薬資源・品質管理 を算出し、脳浮腫を評価した。また、脳虚血 ‐ 再灌流障害 600 mL に入れ,60 分間かけて約半量(300 mL)に煎じ 経 件下で乾燥させ、測定したものを脳乾燥重量とした。この 合量を0,2,4,6,8 g と変えた試料をそれぞれ超純水 神 測定したものを脳湿重量、更にその脳を48 時間 100℃の条 【実験】小青竜湯の構成生薬(1 日量)のうち,ハンゲの配 神・ ラメントを挿入し脳虚血 ‐ 再灌流障害モデルマウスを作製 ることを目的に実験を行った. 精 浮腫に対して五苓散が効果を示すか検討した。【方法】雄性 小青竜湯煎液中の GA 量を低下させる原因を明らかにす た. 【結語】小青竜湯の煎液調製時,カンゾウから溶出した GA の一部は,ハンゲの成分と沈殿物(不溶物)を形成し, その結果,煎液中の GA 量が減少することが明らかとなっ た. 1) Okamura N. et al ., J. Pharm. Biomed. Anal ., 19, 603 - 612(1999).2) 木下歩美ら,日本薬学会 第 136 2 年会 要旨集 2,p. 204(2016,横浜). 群:78.4±0.5% P < 0.01)。【考察】今回作製した脳虚血 再灌流障害モデルは脳浮腫を形成することが明らかとなっ た。また、五苓散は、MCA 閉塞 24 時間後の脳浮腫の形成 を抑制した。このことから、五苓散は脳梗塞後の脳浮腫に 対し、有効であると考えられ、梗塞巣の周辺部に存在する AQP4 に作用することが予想された。以上のことから、五 苓散は脳梗塞後の脳浮腫を軽減し、予後の改善に向けた新 たな治療薬となることが期待できる。 第33回和漢医薬学会学術大会 95 P8-2 漢方生薬「黄連」の加工調製方法の 変化に伴うアルカロイド含量への影響 神仙太乙膏の製法検討と品質評 価について ○秋葉秀一郎1、佐橋佳郎1、二瓶恵子2、坪 敏仁1、 鈴木朋子1、三潴忠道1 ○樽井穂乃花1,2、村越佑果1、平井茉衣子1、大迫将也1、 今井 淳2、八木多佳子2、金 成俊1、成田延幸1、飯塚 徹1 1 2 生薬資源・品質管理 2 福島県立医科大学 会津医療センター 漢方医学講座、 福島県立医科大学 会津医療センター 薬剤部 1 横浜薬科大学、2 いまい漢方薬局 【目的】漢方生薬「黄連」は黄連解毒湯、温清飲などの処方 [目的]太乙膏はやけど・とこずれ・切り傷等に用いられ に用いられる主要な生薬の一つであり、日本では医薬品 る漢方の外用剤である。古典(和剤局方)による製法は当 として年間約 50 トンが使用され、その約 97% は中国か 帰、桂皮、大黄、芍薬、地黄、玄参、白芷を室温にてご らの輸入である。黄連は根茎を用いる生薬であり、日本 ま油で抽出し、この抽出油に蜜蝋を加えて加温、濾過し、 では採取時、根茎を覆っている多量の細根をバーナーで 冷後成形したものである(従来法) 。ごま油の抽出時間は 焼く等の加工調製を行っている。一方、中国では従来、 季節により異なり、3 ~ 10 日を要する。我々はこの抽 採取した根茎を温風により乾燥させた後、竹籠の中で篩 出時間の短縮のためごま油を加温(80℃、30 分)する改 い細根を除去する方法が一般的であった。しかし、近年 良法を検討してきた。我々は先に、従来法と改良法の桂 我々が中国産黄連の約 80%を産出する重慶市石柱県にお 皮抽出成分に若干の相違があることを報告したが、桂皮 いて行った調査では、採取した根茎を泥つきのまま円錐 以外の構成生薬成分の差異は不明であった。そこで、本 形の鉄製の篭に入れ、直火で焙ることにより乾燥と同時 研究では、桂皮以外の構成生薬の非加熱抽出試料と加熱 に細根を除去する方法が主となっていた。この方法は効 抽出試料を作製し、両者の抽出成分を比較して改良法の 率的である反面、直火で焙ることにより生薬の性状およ 有用性を検討した。 [方法]従来法と改良法を比較する指 び含有成分への影響が懸念される。そこで、中国産黄連 標となる抽出成分を決定するため、オレイン酸、リノー の日本市場品を入手し、性状と含有アルカロイド成分と ル酸(ごま油主成分) 、酢酸エチルを用いて各生薬抽出試 の相関を検討した。 料を従来法、改良法に準じて作製し、薄層クロマトグラ 【方法】入手した市場品について、色調の変化がないもの フィー(TLC)による生薬由来成分の探索を行った。TLC (以下 A)と黒く変色し、強く加熱されたと推定されるも において比較の指標となるスポットを玄参より検出した の(以下 B)に分別し、それぞれのベルベリン型アルカロ ため、玄参メタノール抽出試料を作製し、カラムクロマ イドについて比較した。 トグラフィーにて成分を分離し、TLC および NMR によ 【結果】市場品について色調を基に分別した結果、いずれ る分析を行った。[結果と考察]玄参より、酢酸エチル加 の検体にも B が混在し、検体によっては20%程度であっ 熱抽出により消失するスポットを検出した。消失した抽 た。また、A に比較し、B ではベルベリン型アルカロイ 出成分を同定するため玄参メタノール抽出試料をカラム ドのうち、ベルベリン、パルマチンの含量に差は認めら クロマトグラフィーにて分離し、TLC および NMR よる れなかったが、コプチシンは減少し、検体によっては 分析を試みた。その結果、テルペノイド類と考えられる 60% 以下であった。 ピークを検出した。しかし、サンプル量はわずかであり、 【考察】最近、市場に流通している黄連には B が含まれる ここまでの検討では、従来法と改良法で抽出成分に大き ものが認められ、ベルベリン型アルカロイドを定量した な差は認められていない。今後は検討成分の同定ととも 結果、B は A と比較してコプチシンの含量が低かった。 にその他生薬成分の差異も検討していく。 ベルベリン型アルカロイドは加熱により減少する傾向が あることは既に報告されており、我々の予備的試験では、 特にコプチシンにおいて減少が明らかである。すなわち B の検体は過剰な加熱により生じた可能性が高い。した がって、現在中国で行われている直火で焙る加工調製が 黄連の品質や薬効に影響している可能性がある。しかし、 現地における加工調製方法の変更は当面困難であると予 想されるため、差し当たりは選別を十分に行うといった 対応が望ましいと考える。 96 P8-3 第33回和漢医薬学会学術大会 P8-4 P8-5 市販薬用酒の構成生薬・効能の 調査および薬用酒含有生薬の抽 出成分に関する検討 Effects of Oleanane-type Saponins from the Leaves of Eleutherococcus senticosus on Axonal Outgrowth ○五十鈴川和人1、山村杏奈1、村越佑果2、平井茉衣子2、 高橋哲史1、飯塚 徹2、金 成俊1 葛 躍偉1、東田千尋2、ZHU Shu1、吉松嘉代3、 ○小松かつ子1 1 2 横浜薬科大学 薬学部 漢方薬学科漢方治療学研究室、 横浜薬科大学 薬学部 漢方薬学科生薬学研究室 富山大学 和漢医薬学総合研究所 生薬資源科学分野、 富山大学 和漢医薬学総合研究所 神経機能学分野、 3 医薬基盤・健康・栄養研究所薬用植物資源研究センター 1 2 【目的】酒に薬草を浸出させて製したものを薬用酒といい、 【OBJECTIVE】 Alzheimer’s disease(AD)is the most 一般的に健康維持の目的で用いられている。薬用酒とし refractory neurodegenerative disease characterized て用いることの利点として、薬草の水溶性成分だけでな by the decline of memory and other cognitive く、アルコールに溶解する成分も抽出でき、抽出成分と functions. Epidemiological surveys indicated that 50- アルコールの体を温める働き、食欲増進、疲労回復など 60% of individuals over 85 years old may develop の効果との相乗作用が挙げられる。我々は、2000 年以降 AD. The current therapies for AD mainly rely on the に発売されている薬用酒の構成生薬の種類や効能を明ら cholinesterase inhibitors(rivastigmine, galantamine かにすることを目的とし、調査を行った。また、調査し and donepezil)and memantine that have weak た薬用酒の効能と『本草綱目』に収載されている薬用酒の beneficial effects on cognitive function. The discovery 効能との関連性も明らかにするために検討を行った。さ of new drugs or lead compounds from natural source らに、薬用酒の構成生薬の抽出成分についても検討を行っ for AD is urgently required. An aqueous extract of た。 【方法】2000 年以降に発売されている薬用酒を調査し、 Eleutherococcus senticosus leaves showed a beneficial 『日本医薬品集 一般薬 2008-09 年版』および『一般用医薬 また、調査した薬用酒の効能と本研究室ですでに調査し た『本草綱目』に収載された効能の比較を行った。それら の結果から使用頻度の高い生薬を選び、含水エタノール、 水による冷浸、および熱水抽出を行い、得られたエキス を TLC および HPLC に付し、クロマトグラムの比較を行っ た。【結果】2000 年以降発売されている薬用酒は、13 種 類であった。それら薬用酒に多く用いられている生薬は、 人参、桂皮、淫羊霍などであった。また、5 種類の薬用酒 に牛黄、反鼻などの動物性生薬も用いられていた。すべ ての薬用酒に共通した効能は、体力増強、病後回復・疲 労回復であり、「虚」に用いられることが明らかとなった。 『本草綱目』に記載された薬用酒は、「痛み」に対して用い られるものが多かったが、現在発売されている薬用酒で は、「痛み」に対して用いるものはなかった。薬用酒に多 く用いられる生薬を上記の3 種の溶媒でそれぞれ成分の 抽出を行ったところ、クロマトグラムに違いがみられた。 【考察】現在発売されている薬用酒は、体力減退のような 「虚」の状態からの回復を目的としてしようされているこ とが明らかとなった。さらに、煎じ薬として用いる際の 熱水抽出と薬用酒として用いる際の含水エタノール抽出 では、抽出成分が異なることから、それら成分の働きを 明らかにすることで漢方薬や薬用酒の作用メカニズムの 一端を明らかにすることができるのではないかと考える。 今後、さらに抽出成分の働きを詳細に検討していきたい。 effect on restoring the neurite outgrowth from A β 25-35-induced degeneration in an axonal density 生薬資源・品質管理 品集 2016』を用いて構成生薬の種類や効能を比較した。 assay. This work is aiming to identify the neuroactive compounds from E. senticosus leaves.【METHODS】 Fresh leaves of E. senticosus were collected from Fujiyoshida, Yamanashi, Japan, in June 2014. An axonal outgrowth assay by using cultured cortical neurons from the embryos of pregnant ddY mouse was carried out to guide the isolation of bioactive 2 compounds. HR-HPLC-MS, NMR, and IR data were used for elucidating the structure of isolates. 【RESULTS】 A bioassay-guided fractionation afforded seven new oleanane-type triterpene saponins, ezoukoginosides A-G(1-7), along with nine known analogues. The structures of 1 - 7 were elucidated through chemical and spectroscopic approaches, and their effects on restoring the neurite outgrowth from Aβ 25-35-induced degeneration were investigated. The results revealed that the hydrophilic oleanane-type saponins substituted with carboxylic acid, hydroxy or formyl group in the aglycone, especially when the oxidation occurred at C-29, not only restrained Aβ 25-35 -induced degeneration but also restored axonal outgrowth significantly. Compounds 2(-COOH as C-29)and 3(-CH 2OH as C-29)showed the highest bioactivity among the isolates. 第33回和漢医薬学会学術大会 97 P9-1 P9-2 院内窓口指導から証を検討し方剤 の処方提案を行った2 例 臍上部圧痛について ○堀慎太郎、永田和也、小川寿子、佐村 優、関根寿一 医療法人社団緑成会横浜総合病院 薬剤科 ○柴原直利1、条 美智子1、木村真梨1、渡り英俊2、 野上達也2、藤本 誠2、引網宏彰3、嶋田 豊2 富山大学 和漢医薬学総合研究所 漢方診断学分野、 富山大学大学院 医学薬学研究部 和漢診療学講座、 3 しきのケアセンター 1 2 【緒言】漢方処方は本来、証を診た上で選択されるのが一般的で 【緒言】漢方医学の診察において腹診により得られる情報 あるが、一般病院では病名処方が行われるため、必ずしも証に は非常に多く,病態の把握や使用方剤の決定に有用であ 合った処方が行われているとは限らないのが現状である。当院 る。腹診所見の中で,臍上悸は気逆に水滞を兼ねた病態 においても、病名処方が中心であるため、その中での漢方薬剤 師の役割は大きい。今回、漢方薬剤師が証を診た上で処方提案 を行った2 症例について報告する。 【症例】症例 1 60 代女性 主訴:呑気 日頃からコーラスに所属し、喉を使っており、空気を呑んで曖 気がよく出ていた。今回、腹満が強く痛みが生じたため来院。 既に半夏厚朴湯を2 週間服用していたが改善せず、今回より半 夏瀉心湯が処方されたが、2 年前にグリチルリチン酸を含む強 力ネオミノファーゲンシー注によりショック症状を起こしてい たことが判明し、甘草は禁忌と考え、処方検討を行った。 望診:多動的で落ち着きない、舌は淡黄苔、体型はやや太りぎみ、 臨 床・ そ の 他 やや苦悶の表情を見せる 聞診:声に力があり、言葉が多い 問診:胸のつかえはあるが喉のつかえはない、自覚できるスト レスを抱えている 切診:座位で胸脇部を自分で触ってみて痛みを感じる 以上から、梅核気はなく、裏熱と胸脇苦満があり、精神的なも のが原因と考え、甘草を含まない柴胡加竜骨牡蠣湯を提案した。 1 週間の服用で調子が良くなり、患者の希望もあり服用を継続。 症例 2 20 代女性 主訴:吐き気 以前より職場の悪夢にうなされる為、酸棗仁湯を服用していた。 と甘草の組合せの適応を考慮する所見でもある。一方, 臍上悸を触知した際,時に疼痛を訴えることがある。し かし,この臍上悸部の圧痛についてはほとんど検討され ていない。今回,我々は臍上悸部圧痛に着目し,使用方 剤との関係について検討したので報告する。 【方法】1999 年 1 月~ 2015 年 12 月に富山大学附属病院和 漢診療科,及び富山協立病院内科漢方診療を受診した中 で,単一方剤を4 週間以上投与し,有効と判断された症 例を対象とした。臍上悸部圧痛はその程度により強・弱・ 無に分類し,その有無と有効方剤との関連について検討 した。 【結果】1999 年 1 月~ 2015 年 12 月に受診した患者は835 例で,その中で明らかに単一漢方方剤が有効であったと 判断された症例は588 例であり,有効方剤は110 種であっ た。臍上悸部圧痛は44 例にみられ,臍上悸を認めずに圧 痛のみを認めた症例はみられなかった。臍上悸部圧痛を 認めた症例の有効方剤は,加味逍遙散(有効 66 例中 28 例) ,抑肝散(有効 19 例中 6 例) ,抑肝散加陳皮半夏(有 効 4 例中 1 例),桂枝加竜骨牡蛎湯(有効 5 例中 2 例) ,柴 職場で受けるストレスが多くなり、度々吐き気が起こることが 胡桂枝乾姜湯(有効6例中1例),女神散(有効4例中1例) , あるとのことで来院され、患者が向精神薬よりも漢方治療を希 苓桂朮甘湯(有効 4 例中 2 例) ,苓桂甘棗湯(有効 3 例中 2 望されていたため、処方検討を行った。 例),当帰四逆加呉茱萸生姜湯(有効3例中1例)であった。 望診:細身で力を感じない 一方,臍上悸はみられたが,圧痛を伴わなかった有効処 聞診:声が弱々しく、話し方が丁寧 方は柴胡加竜骨牡蛎湯と補中益気湯,加味帰脾湯,炙甘 問診:出勤前に吐き気が一番強い、喉のつかえを強く感じる 以上から、強い梅核気があり、心血虚による悪夢も気鬱が原因 と考え半夏厚朴湯の併用を提案した。その後、始め2 週間は好 調であったが、職場の重圧が増え、継続使用したが吐き気が再 燃した。 【考察】上記の症例は外来患者であり、漢方薬剤師が腹証を診る ことは難しかった。しかし、症例 1 では、患者の話から大まか な腹証を推測したうえで方剤の選択ができた。また、症例 2 で は問診だけでもある程度の証を追うことができた。患者の症状 から証を検討し提案することで、より適切な方剤の選択が可能 となり、医師の処方支援につながると考える。 98 の存在を示唆するとともに,龍骨や牡蛎,あるいは桂皮 第33回和漢医薬学会学術大会 草湯であった。圧痛の程度については,強く痛みを訴え た症例は3 例で,その有効方剤はすべて加味逍遙散であっ た。性差は,臍上悸部圧痛がみられた44 例中,男性は2 例で,ともに加味逍遙散が有効であった。 【考察・結論】臍上悸は臍上の正中線上に触知する腹部大動 脈の拍動であり,気の病態に関わるとされ,竜骨や牡蛎, 桂皮+甘草の投与目標とされる所見である。今回の検討 より,臍上悸に同部の圧痛を伴う際には,気血水病態と しては気逆が主体で,方剤では加味逍遙散や抑肝散,苓 桂甘棗湯等の適応となる可能性が高いと考えられた。 P9-3 P9-4 八味地黄丸エキス製剤及び湯剤 の同等性に関する研究(3) 服用性に優れた、漢方エキス含有チュ アブル錠の製剤設計に関する研究 ○堀井周文1、小此木明1、高橋隆二1、鎌倉浩之2、 袴塚高志2、合田幸広2 ○島谷隆夫1、伊東宏子1、永井秀昌2、明官勇雄2 1 クラシエ製薬株式会社、 国立医薬品食品衛生研究所 2 1 テイカ製薬株式会社 研究所、2 富山県薬事研究所 【目的】生物学的同等性は医薬品の有効性・安全性を確保 【緒言】漢方薬は、医療現場で、有用な治療薬として幅広く する品質保証のための概念の一つであるが,漢方処方製 用いられ、錠剤や顆粒剤が一般的な剤形となっている。し 剤の同等性に関する研究は殆ど行われていない.天然物 かしながら、近年、幼児、小児、高齢者の患者などの服薬 医薬品の性質として同製剤には多様な成分が含まれる為, アドヒアランスの向上を目指し、服用時に水を必要としな 同等性に関する試験を網羅的に行うことは極めて困難と い剤形として、口腔内の唾液で崩壊して服用する口腔内崩 考えられる.従ってどのように同製剤の同等性を評価す 壊錠や、口腔内で噛み砕いて服用するチュアブル錠が開発 るか根拠に基づく基準作りが望まれる.我々は既に複数 されている。そこで、我々は、漢方薬を服用する患者にお の同製剤につき同等性評価に関する基礎的検討を行って いても、服薬アドヒアランスの向上が図れるように、水無 きた .今回,八味地黄丸を対象とし,構成生薬タクシャ * 由来の Alisol A monoacetate(AAMA) ,Alisol B(AB), Alisol B monoacetate(ABMA)に関するエキス製剤と湯 剤の血漿中濃度推移をもとに,同等性の評価について検 討を行った. 【方法】 健康成人男性 6 名を無作為に2 群に分 剤または湯剤を投与後,経時的に採血し,前処理した後, LC-MS/MS で分析し,最高血漿中濃度(Cmax) ,最高血漿 中濃度到達時間(Tmax) ,血漿中濃度曲線下面積(AUC) 及び平均滞留時間(MRT)を算出して,生物学的同等性 試験法に準じた統計処理を行った. 【結果・考察】 AAMA では,採血点によっては血漿中濃度に被験者間でのばら つきが認められ,1h の血漿中濃度に湯剤とエキス製剤 との間で有意な差(p < 0.05)が認められた.AB 及び ABMA については,SN 比が十分ではなく定量はできな かった.AAMA について Cmax 及び AUC に関する分散分 析の結果,薬剤,時期,被験者間で有意な差は検出され なかった.検出力 1-βの算出を行い,十分な検出力を得 るための被験者数を推定したところ,1 群 61 でも十分な 検出力が得られないことが判明した.タクシャに関して は代謝により AAMA,AB,ABMA から Alisol A への変 換や,化合物毎の消化管の吸収部位の差や腸肝循環にお ける腸管からの再吸収等の報告 がある.また,タクシャ ** に含まれる Alisol 類の比は生薬毎に多様であり,分解や 代謝等による変換も考慮すると,Alisol 類は同等性を評 価する上での指標成分となりにくいものと考えられた.* 前報 , 堀井他 : 第32回和漢医薬学会学術大会 . Yu, Y. 他 : ** Anal. Bioanal. Chem ., 399, 1363-1369(2011) . いて検討したので報告する。【方法】本錠剤は、内核である 造粒部分と、外核である後添加部分とで構成されており、 更に、造粒工程では、有効成分への影響を考慮し、乾式造 粒法を採用している。そこで、本研究では、本錠剤の内核 を形成する造粒部分に含まれる添加物(結合剤、賦形剤、 臨 床・ そ の 他 けクロスオーバー試験を行った.八味地黄丸のエキス製 しで飲める、漢方エキス含有チュアブル錠の製剤設計につ 滑沢剤)を種々選択し、造粒品、並びにそれを含有した錠 剤に及ぼす影響について検証した。なお、有効成分として 抑肝散エキスを含有し、賦形剤として乳糖水和物、イソマ ル、D- マンニトール、粉末還元麦芽糖水アメを、結合剤 として合成ケイ酸アルミニウム、軽質無水ケイ酸、メタケ イ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウムを、滑沢 剤としてステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシ ウム、フマル酸ステアリルナトリウムを用い、その他に、 内核に、タウマチン、外核に、カルメロースカルシウム、 メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネ シウム、スクラロースを用いた。【結果・考察】本錠剤にお ける製剤処方中で、その内核の添加物を種々検討したとこ ろ、賦形剤としてイソマル又は粉末還元麦芽糖水アメ、結 合剤として合成ケイ酸アルミニウム、滑沢剤としてフマル 酸ステアリルナトリウムを用いた場合が、造粒時において 良好なフレーク形成率を有する造粒品を得た。更に、上述 した添加物として粉末還元麦芽糖水アメ、合成ケイ酸アル ミニウム及びフマル酸ステアリルナトリウムを選択し、粉 末還元麦芽糖水アメと、合成ケイ酸アルミニウムの配合比 率を変動させたところ、広い範囲で、良好なフレーク形成 率を有する造粒品を得た。次に、それらの造粒品を用いた、 錠剤の物性について検証した結果、良好な成形性と崩壊性 を示し、更に、特に問題なく、口腔内で噛み砕くことがで き、水無しで服用可能であった。 第33回和漢医薬学会学術大会 99 P9-5 北里大学東洋医学総合研究所に おける国際交流の課題 ○若杉安希乃、関根麻理子、霜降香織、小田口 浩、 花輪壽彦 北里大学 東洋医学総合研究所 【背景】伝統医学に対する関心は、国際的に高まってきた。本学 会参加施設の多くにも海外からの訪問依頼が寄せられている と思われる。当研究所は、海外からの見学希望者や研修生の受 け入れを積極的に実施している。しかし、国際交流が活発化す るに伴い、受け入れ体制を整備すべき事態が生じてきた。そこ で、2007 年 4 月に海外からの問い合わせ窓口を設置した。 【目的】海外からの見学希望者や研修生の受け入れ状況をまと め、今後の課題を検討する。 【方法】見学希望者に関しては、見学希望日時・見学者リスト・ 見学目的・交通手段等の詳細情報を入手し、対応後は、実際の 対応記録・記念撮影を含めて情報管理した。研修希望者に関し ては、研修希望期間・研修目的の情報と履歴書を請求した。 【結果】2007 年 4 月~ 2016 年 6 月までの見学受け入れ総回数は 63 回であり、見学者総数は296 名であった。受け入れ国別上 臨 床・ そ の 他 位は、韓国(15 回)、アメリカ(12 回)、中国(9 回)、タイ(5 回)、ベトナム(4 回)、ドイツ(4 回)であった。研修生の受け 入れ総数は10 名で、韓国(4 名)、ドイツ(3 名)、イスラエル(1 名)、マレーシア(1 名)、フランス(1 名)であった。研修プロ グラムは、各研修生の希望に合わせた内容としたが、日本語の 能力がないと漢方医学を理解することに困難が生じていた。 【考察】見学プログラムは、対応回数を重ねるごとに改善され、 現在は、当研究所の紹介 DVD 上映・東洋医学資料展示室と薬 局の見学・質疑応答で正味 1 時間半である。質疑応答は、当 研究所に関する質問の他に、日本国内における漢方教育状況・ 漢方医療の普及率・漢方専門医制度など多岐にわたっていた。 プログラムをより充実させるために、(1)日本国内の最新情報 を常に入手し、情報発信する準備を整えておく必要がある(2) 見学希望者側の施設情報や国内医療情報・教育情報を発表する 機会を設ける必要がある等の対策が考えられた。研修生に関し ては、漢方医学の学習を希望する場合は、受け入れ条件に日本 語能力の確認を追加することとした。しかし、この受け入れ条 件により、受け入れを断念する例が急増したため、2013 年か らは受け入れ可否にかかわらず、問い合わせをすべて記録する ことにより、今後の対策を講じることとした。 【結論】国際交流活動の発展的継続を行うために検討すべき課 題が明らかになった。本学会参加施設の国際交流体制について 情報共有できることを望む。 100 第33回和漢医薬学会学術大会 第33回和漢医薬学会学術大会 和漢薬イノベーションの創生 ランチョンセミナー1 共催:株式会社ツムラ 座長:小田口 浩 北里大学東洋医学総合研究所 頭頸部がんに対する化学放射線療法に伴う 口腔粘膜炎に対する半夏瀉心湯の基礎研究と 臨床的効果 細川亮一1,2 東北大学大学院 歯学研究科 口腔保健発育学講座 予防歯科学分野、 東北大学病院 周術期口腔支援センター 1 2 ランチョンセミナー2 共催:小太郎漢方製薬株式会社 座長:服部征雄 富山大学名誉教授 漢方処方の中での生薬の役割 牧野利明 名古屋市立大学大学院 薬学研究科生薬学分野 頭頸部がんに対する化学放射線療法に伴う口腔粘膜炎に対する半夏瀉心 湯の基礎研究と臨床的効果 ○細川亮一1,2、玉原 亨2、丹田奈緒子3、佐久間陽子4、飯嶋若菜3、百々美奈1、渡辺俊介1、 伊藤恵美4、小関健由1 1 3 東北大学大学院 歯学研究科 口腔保健発育学講座 予防歯科学分野、2 東北大学病院 周術期口腔支援センター、 東北大学病院 予防歯科、4 東北大学大学院 歯学研究科 歯学イノベーションリエゾンセンター 【目的】 頭頸部がんに対する化学放射線療法の重篤な副作用と 50Gy 以上を口腔内に照射した頭頸部癌の患者に対して して口腔粘膜炎が挙げられる。口腔粘膜炎による疼痛に 半夏瀉心湯にて含嗽をしたグループと含嗽を行っていな よって、経口摂取困難となることは、がん治療中断の要 いグループで口腔粘膜炎のグレードとその推移を一週間 因となる場合がある。そのため口腔粘膜炎の発症の抑制 に1回、合計8週間観察を行った。 は、がん治療において重要な取り組みであることががん 【結果】 支持療法では広く認知されている。薬剤や天然素材から 細胞培養を用いた半夏瀉心湯の添加実験では、添加後 の抽出物などが口腔粘膜炎予防に効果があることが報告 3時間後において細胞活性を挙げることを MTT アッセ されているが、作用機序が明らかでないものや高額なた イで示した。また、シスプラチンを加えた条件下での培 め臨床応用が困難な薬剤等、それらを積極的に臨床応用 養では半夏瀉心湯非添加群では、細胞が死滅するが一方 出来るまでには至っていない。半夏瀉心湯は保険診療に 添加群では G2 ARREST を示し、シスプラチンへの抵抗 おいて、口内炎への投薬が認められている。近年、半夏 性を示した。 瀉心湯による口腔内細菌繁殖の抑制やフリーラジカル発 臨床において行った後向き調査では、半夏瀉心湯を用 生の抑制効果が明らかになってきた。また、臨床応用に いた患者では口内粘膜炎の増悪を抑制することが示され おいても効果があるとの報告がなされている。本発表で は半夏瀉心湯の上皮細胞への直接作用による創傷治癒促 た。 【考察】 進効果を検証し、更に臨床において口腔粘膜炎発症の抑 我々の結果から、半夏瀉心湯は1)添加後の短時間で 制効果について検討を行った。 は細胞活性をあげる2)細胞周期を制御し、シスプラチ 【方法】 TR146 細胞を用いて、シスプラチンを添加した条件 ランチョンセミナー 1 102 下で半夏瀉心湯の上皮細胞への効果を観察した。また、 第33回和漢医薬学会学術大会 ン抵抗性を示すことによって、化学放射線療法に対する 口腔粘膜炎を抑制していることが示唆された。 ほそかわ りょういち 氏名 細川 亮一 生年月日 昭和 48 年 11 月 24 日 【学歴】 平成 5 年 平成11 年 平成11 年 平成15 年 4 月 3 月 4 月 3 月 東北大学 歯学部 入学 東北大学 歯学部 卒業 九州大学大学院歯学研究院 入学 九州大学大学院歯学研究院 修了 【職歴】 平成15 年 4 月 九州大学歯学部付属病院 口腔外科 平成15 年11 月 南カルフォルニア大学 博士研究員 平成21 年 4 月 東北大学大学院 歯学研究科 助教 平成24 年 4 月 東北大学大学院 歯学研究科 講師 平成26 年 5 月 東北大学大学院 歯学研究科 准教授 平成27 年 4 月東北大学病院 周術期口腔支援センター センター長 (特命教授) 現在に至る 取得免許 平成 5 年 平成11 年 平成15 年 自動車普通免許 歯科医師免許 歯学博士 第33回和漢医薬学会学術大会 ランチョンセミナー Publications 1.Tanda N, Hoshikawa Y, Ishida N, Sato T, Takahashi N, Hosokawa R, Koseki K (2015). 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Journal of Dental Research. 81(10) 688694. 1 103 漢方処方の中での生薬の役割 牧野利明 名古屋市立大学大学院 薬学研究科生薬学分野 漢方薬(漢方処方、漢方方剤)は、複数の生薬を漢方医 な表現で認められているのみであるため、現状では教員 学の理論に基づいて組み合わせたものである。生薬学者 各自が個々で工夫して両者が関連づけられるように教育 である演者としては、それら生薬が漢方薬に配合された しているのが現状である。一方、中国薬典には個々の生 理由について知りたいと考えているが、漢方医学のバイ 薬に中医学における効能と用法・用量まで規定(標準化) ブルと言える『傷寒雑病論』には、○○湯の中で△△とい されており、中医学で使用する処方の中に配合される個々 う生薬は ×× のために配合されている、といった記載は の生薬の役割が伝統医学理論で説明できる状態になって なく、歴代の医師、研究者が自らの経験や古典の記述を いる(なぜその生薬でなければならないかまでは説明で 考証することで処方の中の個々の生薬の配合目的を推定 きないが)。生薬学の教員が漢方医薬学を教育する上では、 し、各種本草書を出版していった。しかし、現在の日本 漢方医学における個々の生薬とそれが配合されている漢 の漢方医学では生薬配合に関する標準的な理論はなく、 方薬の間をつなぐための標準理論がほしい。 各種書籍の記述のバラツキは大きい。日本では生薬単独 本講演では、演者がそのような目的で行ってきた漢方 で使用する例が少なく、また処方内の生薬の配合比が重 処方とその構成生薬に関する基礎薬理研究のうち、小青 要視とされる傾向があるからか、個々の生薬の役割を臨 竜湯と白虎加桂枝湯の抗アレルギー作用に関するものも 床で検証することが難しかったのであろう。 紹介する。白虎加桂枝湯のマウス受動皮膚アナフィラキ 現在の薬学教育では漢方医薬学に関する教育が行なわ シー反応では、知母と石膏の正の相互作用により処方全 れており、薬剤師国家試験にもそれに関する問題が出題 体の薬効への寄与が認められ、中薬学の理論がある程度 されるようになってきている。しかし、生薬学はあくま は正しいことが推測されたが、小青竜湯の作用では、半夏、 で現代科学の学問であるため、個々の生薬の現代科学的 細辛、甘草が正に寄与している一方で、芍薬が負に寄与 な効能と、漢方薬としての効能との間での関連づけは非 しており、なぜ芍薬が小青竜湯に配合されているのか疑 常に難しい。日本では、漢方薬の効能は公的に定められ 問が残るような結果となった。 ているが、個々の生薬の効能は一部の生薬に西洋医学的 ランチョンセミナー 2 【略歴】 昭和47 年 東京都生まれ 平成 7 年4 月 京都大学薬学部製薬化学科卒業 平成12 年3 月京都大学大学院薬学研究科博士後期課程修了 京都大学博士(薬学) 平成12 年4 月 北海道薬科大学漢方薬物学研究室助手 平成14 年9 月から平成 15 年 8 月まで、米国ミシシッピ大学薬学部天然物研究センターにて訪問博士研究員 平成16 年4 月 北海道薬科大学薬理学分野(生薬学担当)および 北海道薬科大学大学院漢方薬物学特論研究室講師 平成17 年4 月 名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野講師 平成19 年4 月 名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野准教授 平成26 年4 月 名古屋市立大学大学院薬学研究科生薬学分野教授 現在至る 104 第33回和漢医薬学会学術大会
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