新しい社会運動 - 比較政治Ⅰ・Ⅱ

2015年度第1学期「比較政治Ⅰ――リベラル・デモクラシーの比較政治――」
10.新しい社会運動
2015.6.29
1.新しい社会運動
・1910~20年代:第1次大戦・ロシア革命
・1940年代後半:民主化、冷戦、ケインズ主義的福祉国家
・1960年代後半~70年代:従来の価値観の見直し
産業構造の変化
1968年
仏:学生による大学占拠、労働者のスト
独:有事法制反対運動
米:ベトナム戦争への反対運動、日:学生運動
1973年:第1次オイルショック(石油危機)
先進国では物価上昇・景気後退、省エネが盛んに
新しい社会運動
新しい社会運動
「旧い」社会運動
環境・女性・反核・反原発
労働組合・経営者団体
脱物質主義
物質主義
ネットワーク型
ピラミッド型
ピラミッド型:集権的な組織
ネットワーク型:複数の組織のゆるやかな連合体
物質主義:生存や身の安全を重視→経済面重視
脱物質主義:自己実現や生活の質を重視
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<1940年代後半~60年代後半>
リバタリアン
縦軸・横軸ともに縮小
縦軸:独裁という選択肢が消滅
国家介入
市場
横軸:社会主義革命という
選択肢が消滅
権威主義
リバタリアン(自由至上主義)
個人の自律性、自由・平等・参加、社会・文化の多様性を重視
権威主義
秩序・上下関係、社会・文化の同質性を重視
<1970年代~>
リバタリアン
左翼リバタリアン
国家介入
市場
右翼権威主義
権威主義
ドイツ
リバタリアン
緑
左翼党
自民
国家介入
市場
社民
キリ民
権威主義
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緑の党
都市計画・高速道路建設・原発建設への反対運動
既成政党の反応は鈍かった
労働組合が経済成長重視であるため、社民党は環境運動に批判的
80年
「緑の人々」(Die Grünen)結成
各種運動の連合体、参加・分権を重視、エリート支配に否定的
83年
議会で議席を獲得→
98年
政権参加
左翼リバタリアン政党の成功の条件
・比例代表制
・連邦制
・包括的な福祉国家の存在
経済成長が鈍化しても生活水準が直ちに悪化しない
政府によるサービスへの不満
・既成政党が「新しい社会運動」の要求に応答しない(とくに社会主義政党)
・長く政権に参加→別の左翼政党に票が流れやすい
・党組織が強固→政策の変更が難しい
・労働組合との結びつきが強い
・合意指向の政治
「政党のカルテル化」:既成政党が協力して国家に依存し、既得権を保持
政党への加入者が減少
→国家の資源(助成金・人事・メディア規制)に依存
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2.「極右」
リバタリアン
S
国家介入
市場
S
②
X
①
R
権威主義
「極右」「新右翼」とは何か?
市場経済重視、排外主義、ルサンチマン(怨恨感情)
このパターンに当てはまらない「極右」---スタイルの問題
ナショナリズム→集団主義→リバタリアンよりは権威主義を指向
経済面で「右」(市場重視)とは限らない
①新しい急進右翼
同質的な文化を持つ市民、権威主義的意思決定、国家介入に否定的
中間層・ブルーカラー中心
②反国家主義的ポピュリスト
市場重視、「小さな政府」、既成政党批判
各階層から満遍なく支持、クライエンテリズムが盛んな地域で登場
イタリア
2つの「極右」/ポピュリスト政党が90年代に政権に参加
国民同盟:旧イタリア社会運動
北部同盟:北イタリアを中心とする地域主義政党
イタリア社会運動:ファシスト運動の後継者的存在、南部の保守層を中心に一定の支持
国民同盟へ改組:反ファシズムやデモクラシーの受容
経済的に遅れた南部や貧困層が基盤→市場原理の徹底には反対
北部同盟:「反ローマ」「反既成政党」
北部の富が公共事業などを通じて南部で浪費され、既成政党の既得権に
連邦制導入、財政分権、経済的自由化、移民制限、南部人批判
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フランス
エリート支配への反感
←グランド・ゼコール(エリート養成機関)の存在
国民戦線:73年に「極右」運動の革新を掲げて結成---非合法・暴力路線との決別
穏健なイメージ:穏健保守層の支持を得て議会に参入
対決姿勢:左翼だけでなく「腐敗した」保守も攻撃→独自色を打ち出す
84年の欧州議会選挙で得票率11%
・保守の危機感---社会党のミッテランが大統領に
・マスメディア:ルペンへの批判が国民戦線を注目させる結果に
・移民問題の争点化に成功
・新自由主義的な経済政策:市場重視、民営化、福祉削減
2002年大統領選挙では17%の得票で第2位に
既成政党の接近、ヨーロッパ統合への不満
保守勢力は「極右」票の取り込みへ
オランダ
「寛容」のモデル、リバタリアンの牙城
2002年総選挙で反移民を掲げるフォルタイン党が突如躍進
党首フォルタイン射殺、主要政党の中道化
移民問題の争点化、公共サービスの質の低下
リバタリアンの価値観を認めてムスリム移民やイスラームを攻撃
男女平等、人権・自由、中絶、同性愛、安楽死、麻薬
<参考文献>
小野耕二『転換期の政治変容』(日本評論社、2000 年)
ウォール『緑の政治ガイドブック』(ちくま新書、2012 年)
小野一『緑の党』(講談社選書メチエ、2014 年)
井関正久『ドイツを変えた 68 年運動』(白水社、2005 年)
山口定/高橋進編『ヨーロッパ新右翼』(朝日新聞社、1998 年)
畑山敏夫『フランス極右の新展開』(国際書院、1997 年)
『海外事情』2002 年 10 月号(特集=移民と右傾化に揺れる欧州)
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