心理臨床学研究 28(3): 279-290, 2010 <原 著> 佐藤 祐基 北海道大学大学院保健科学院 ファンタジーへの没頭を示したクライエントが現実との繋がりを形成するまで -高機能広汎性発達障害が疑われる男子中学生の事例- 要約 本稿は、高機能広汎性発達障害が疑われる男子中学生の事例報告である。クライエントは、 アニメや漫画などのファンタジーに対して、周囲が当惑するほどの没頭を示し、他者との コミュニケーションに問題を生じさせていた。クライエントが現実との繋がりを形成して いった経過を通して、ファンタジーへの没頭の意味を吟味するとともに、有効な援助につ いて次の点が考察された。①面接者がファンタジーを受容することで、クライエントは自 らの自閉的な世界を共有してくれる「よき理解者がいる」と思われた。②クライエントは 描画を物語で繋げることで、言語の繋がりが促されて、原初的な感覚を味わう段階を脱し た。③クライエントは「自己の象徴」となり得る手法を通して、 「自己の器」を成長させる ことができた。④クライエントは課題をこなす達成感とともに、ありのままの気持を表現 する自信を積み重ねた。⑤クライエントは情動を描画で表現したものを物語で繋ぐことに よって、忘れていた母子関係に関する情動が複合体として再構成された。 心理臨床学研究 28(3): 279-290, 2010 Key words: ファンタジーへの没頭、表現の窓、現実との繋がりの形成
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