物理教室年次研究報告書 2004 年度 - 大阪市立大学 大学院理学研究科

物理教室年次研究報告書
2004 年度
大阪市立大学大学院理学研究科・理学部
物理学教室・宇宙線研究所
目次
序……………………………………………………………………………1
2004 年度 物理学教室談話会……………………………………………2
研究報告
物性物理学講座
超 低 温 物 理 学 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … . … … 3
光 物 性 物 理 学 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … . 7
生 体 ・ 構 造 物 性 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … … . 1 2
素 励 起 物 理 学 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … . 2 1
宇宙・高エネルギー物理学講座
超 高 エ ネ ル ギ ー 宇 宙 線 物 理 学 研 究 室 … … … … … … … … … … … … . 2 5
高 エ ネ ル ギ ー 物 理 学 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … . 2 9
宇 宙 ・ 素 粒 子 実 験 物 理 学 ( 重 力 波 分 野 ) 研 究 室 … … … … . … … … . . . 3 6
宇 宙 ・ 素 粒 子 実 験 物 理 学 分 野 ( 宇 宙 線 研 究 所 ) … … … … . . … … . … . 3 9
基礎物理学講座
素 粒 子 論 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 4 3
数 理 物 理 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 4 6
宇 宙 物 理 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 5 1
原 子 核 理 論 研 究 室 … … … … … … … … … … … … … … … … … … … … 6 0
序
わが国の大学は大きな改革期にあり,国立大学は大学法人として大きな一歩を踏み出し
ました。公立大学も多くは法人化を目指しており,大阪市立大学も平成 18 年 4 月の法人化
に向けて着々と準備が進んでいます。
大学改革の流れの中,社会の中の大学のあり方が今まさに問われています。大学の市民
社会への貢献,知的財産の権利化等,わかりやすい形での貢献が望まれています。大学は
何の「役に立つ」のか?そして大学側もそれに答えなければならない風潮が高まっていま
す。俗に言う「アカウンタビリティー(説明責任)」が要求されています。
しかし,我々が希求する科学的知見の価値は,
「役に立つ」かどうか,それだけで測られ
るべきでないと強く信じて止みません。特に,基礎科学である物理学の研究によって得ら
れた知識は,長い歴史の中で培われた人類の共通の知的財産です.われわれ物理学者の最
も大切な役割は,自然をより深く理解し,そこで得られた知見を市民と共有することによ
って,文化をより豊かなものにすることです。
このためには,地道に弛みなく研究を遂行し,その環境の中で学生や院生を育くむ。そ
の過程で,物理の美しさや楽しさを感じることのできる卒業生を育て,社会に送り出す。
これを繰り返し,長い時間をかけて「文化としての基礎科学(サイエンス)」を楽しむこと
のできるような社会を作る.これが我々のなすべき,基本的活動だと考えます.そのこと
と同時に,勿論,世界をリードする研究成果を大阪市立大学から発信し続けることに余念
がなってはなりません。
本年度もいろいろな「改革」が進みました。物理学科の具体的な将来計画の検討が行わ
れ,教員の定員削減の一環としての昇任人事が進みました。学生定員増が認められたとと
もに新たな推薦入試枠が設定されました。評価に耐える大学をなすためには,いろいろな
行動が必要かもしれません。しかし,大学改革の行く末が見えないために疑心暗鬼となり,
目先の変わった事ばかりを重んじたり,自分で自分に枷をはめたりするようなことは避け
なければなりません。あたりまえのことを普通通りにする,これこそが最も重要なことだ
と思います。大学を的確に評価できるのは,そこで育った卒業生ではないでしょうか。
本年度末(平成 17 年 3 月)に,内藤清一助教授,三尾野重義助教授,中川道夫助教授の
3先生が定年退職されました。物理学科への長年に渡る貢献に深く感謝しています。昨年
度末に転出された宇宙高エネルギー物理学講座・講師の吉越貴紀氏の後任に,10 月より荻
尾彰一氏が着任されました。また,平成 17 年 4 月より有馬正樹氏,矢野英雄氏,杉﨑満氏
が助教授に昇任されることが決まりました。新しい体制で,物理学科の教育・研究活動が
益々活性化して行くことを祈念しています。
最後に,本年度年次報告作成のお世話をしていただいた中尾憲一氏に感謝いたします.
2005年12月
2004年度
物理学教室主任
橋本 秀樹
1
2004年度 物理教室談話会
世話人:坪田、安井、清矢
第1回新入生歓迎談話会
日時:4月15日(木)
場所:理学部会議室
講師:唐沢 力 氏 (物性物理学講座光物性物理学研究室)
題目:「物理学教室へようこそ!− 私達の行っている研究− 」
第2回物理教室談話会
日時:7月9日(金)
場所:理学部会議室
講師:川上 三郎 氏 (超高エネルギー宇宙粒子物理学研究室)
題目:「高エネルギー宇宙線の研究」
第3回物理教室談話会
日時:12月20日(月)
場所:理学部会議室
講師:櫻木 弘之 氏 (原子核理論研究室)
題目:「原子核構造研究の最近の進展」
第4回物理教室談話会(退職記念講演会)
日時:3月18日(金)
場所:第2講義室
1.講師:内藤 清一 氏 (素粒子論研究室)
題目:「超弦 Superstring」
2.講師:中川 道夫 氏 (宇宙・素粒子実験物理学研究室)
題目:「気球実験における超長時間観測 − PPB− について」
3.講師:三尾野 重義 氏 (宇宙・素粒子実験物理学研究室)
題目:「活躍する小型加速器」
2
超低温物理学研究室
畑 徹教授
石川修六助教授
矢野英雄講師
小原 顕 助手
中川久司(D5)
半田 梓(M2)
青木紀彦(M2)
嘉戸隆介(M1)
研究概要
1. 超流動ヘリウム3中のエアロジェルの不純物効果
エアロジェルは直径数nmのシリカの紐が平均間隔数nmから100nmの広い範囲で
分布していて、体積に占めるシリカの割合は数%のものである。超低温度ではヘリウム以外
の物質は固化し、また液体状態になるヘリウム4でもヘリウム3とは相分離するために、ヘ
リウム3に不純物を入れることができないので、超流動ヘリウム3の研究は完璧な純粋物質
としての研究の場であった。しかし、シリカの紐の平均間隔は超流動ヘリウム3のコヒーレン
ス長と同程度であるために、超流動性が完全に壊れることはなく、純粋な系に入った僅かな
不純物として振る舞う。
1-1. NMR法によるエアロジェル中の超流動ヘリウム3の相転移現象の研究(矢野、石 川、畑、嘉戸)
空孔率97.5%エアロジェル(不純物2.5%)を用いて、核磁気共鳴法により超流動
相の秩序構造の同定と超流動状態の安定性について調べた。32bar以下の圧力下での超
流動相について調べた結果、非一様な散乱モデルが転移温度の圧力変化、不純物依存性を
良く説明し、不純物効果としてこのモデルが有用であることを示した。24bar以上では
超流動相間の転移を観測した。温度の降下、上昇に対してこの転移は履歴現象を示し、ま
た、冷却時、昇温時ともに相転移に伴う共存現象も明らかになった。共存の比率は履歴に
依存するが、ある温度幅以内では温度変化に対して共存が安定であるだけでなく、比率も
変化しないことがわかった。相境界が不純物のために自由に移動できないことを示してい
る。また、パルスNMRの結果より、高温度側の相はバルク液体中のA相とは異なる凝縮
相であることが明らかになり、理論的に提唱された新しい相の可能性がでてきた。
1-2. 第4音波法によるエアロジェル中の超流動ヘリウム3の不純物効果(小原、石川、
青木)
エアロジェル中の超流動ヘリウム3の音波測定から超流動密度、エネルギー損失を明ら
かにするために、焼結銀中にエアロジェルを直接成長させた。この様な系に、ピエゾ素子
を圧力トランスデューサーに用いた第4音波測定法を用い、系統的にエアロジェル空孔率
を変えた実験を行ったところ、空孔率が小さいもの(不純物が多いもの)ほど超流動転移
温度、超流動密度が抑制されることが明らかになった。また、音波の損失の大きさは低温
では一定値になることが示された。これは、同時に行われた焼結銀のみのセルに対する結
果とは逆の性質であった。損失が低温で一定になるということは、ヘリウム準粒子の平均
自由行程が低温で一定値になることを示しており、シリカの紐の平均間隔が自由行程の上
限を与えていることを示唆している。NMRの測定で明らかになった超流動相関の転移に
起因する損失の履歴現象を初めて観測した。
2.
振動流中での超流動ヘリウム4量子渦のダイナミクス(矢野、石川、畑、半田)
超流動ヘリウム中の超流動速場は位相の勾配で厳密に与えられ、渦は秩序変数0の渦芯
( 1Å)とそのまわりを位相が2π変化する流れで構成され量子化される。このため量子
渦は、渦芯を糸と見なした準安定な構造を持つ。渦糸の端は超流動中では存在せず、端のな
3
いリング構造か、両端が壁に付着した構造をとる。リング構造の渦糸は消失するが、両端が
壁に付着した渦糸はそのまま残り、残留渦と呼ばれている。
我々は振動子に付着した残留渦に着目している。超伝導極微細線(NbTi 2.5 µm 直径)を
用いた振動ワイヤーを開発した。振動ワイヤーまわりの流れは、ワイヤーの速度が上がるに
つれ層流から乱流状態へ遷移し、これらの状態はある臨界速度できれいに分離する。乱流状
態では、速い流れのために付着渦が拡大し、もつれ、渦糸間の距離が接近したとき再結合が
起き、渦糸リングと付着渦とに分かれると考えられる。渦糸の拡大は Graberson Instability
として知られ、拡大の始まる速度は渦糸の曲率と関係する。すなわち臨界速度から付着渦の
サイズを推測することができる。また、同じワイヤーで振動周波数を変えることに成功し、
温度変化と併せて測定を行っている。
3. 回転する超流動ヘリウム3の研究(物性研、京大との共同研究。)(石川)
東京大学物性研究所に相互協力により完成した世界最高速度、毎秒1回転で回転するサ
ブmK温度域の超低温度回転クライオスタットを用いて量子流体力学の研究を行っている。昨
年度は次のプロジェクトについて研究を行った。
超流動ヘリウム3中の渦状態は液中の1次元欠陥である。回転実験装置を用いることに
より渦の生成消滅をコントロールすることができる。バルク液体中では数種類の渦が観測さ
れている。通常、渦の周りの速度場は秩序波動関数の軌道部分の勾配で与えられ、循環の量
子化現象は軌道部分での位相の量子化と関係している。狭い隙間をもつ平行平板間の超流動
へリム3−A相では、軌道部分の波動関数が境界条件によって決まるため、新しい渦構造が
可能となることが予想されている。この渦は波動関数のスピン部分をも含めて位相の量子化
が起こるだけでなく、半整数の量子化が起こると考えられている非常に興味深いものである。
幅12µmの隙間を持つ平行平板内で、この半整数渦の観測を目指して実験を行った。現時点
では実験装置の不備もあり、明確な証拠を得ていない。しかし、装置の回転が平行平板中の
超流動速度場にどのような変化をもたらすかについて、NMRの測定より理解が得られた。
4. 熱音響冷凍機の開発(畑)
ループ型熱音響エンジンは、熱エネルギーを音波エネルギーに変換するエンジンで、圧
縮機などの機械を必要としないため、長寿命という特徴を持っている。可動部が全くないた
めメインテナンス不要、使用ガスとしては特別なものは不用で空気でも可能であること、熱
の再利用に用いると地球温暖化防止にも役立つことなどから、環境に優しいエンジンとして
も期待されているものである。小型のループ型の熱音響エンジンのデータ解析に基づき、大
口径、高出力のループ型熱音響エンジンとそれに直結させた冷凍機の建設が完了した。最適
化の条件(冷凍機の取り付け位置、スタックのサイズ、形状、加熱温度等)を見出すため
に、各場所での気体の仕事流、熱流の解析を行っている。
教育・研究業績
学術論文
1. H. Nakagawa, K. Obara, H. Yano, O. Ishikawa, and T. Hata : “NMR Study of Superfluid Phases
of 3He confined in 97.5% Porous Silica Aerogel”, J. Low Temp. Phys. 134 757-762 (2004).
2. K. Kawasaki, T. Yoshida, M. Tarui, H. Nakagawa, H. Yano, O. Ishikawa, and T. Hata: “PhaseTransition Phenomena of 0.8 µ m Superfluid 3He Slab”, Phys. Rev. Lett. 93 105301-1 –105301-4
(2004)
3.
4.
3
M. Yamashita, A. Matsubara, R. Ishiguro, - - - , O. Ishikawa, et al.: “Rotating Superfluid He in
Aerogel”, J. Low Temp. Phys. 134 749-755(2004)
R. Ishiguro, O. Ishikawa, M. Yamashita, et al.: “Vortex Formation and Annihilation in Three
Textures of Rotating Superfluid 3He –A”, Phys.Rev.Lett. 93 125301-1 –125301-4 (2004)
4
国際会議講演
1. H. Nakagawa, K. Obara, H. Yano, et al:“Impurity Scattering Effects on Superfluid Phases in 3He
in 97.5% Porous Silica Aerogel”(poster) The International Symposium on Quantum Fluids and
Solids, QFS2004, 5-9 July 2004, the University of Trento, Italy
2. H. Yano, A. Handa, H. Nakagawa et al.:“Observation of Laminar and Turbulent Flow in
Superfluid 4He using a Vibrating Wire”(poster) The International Symposium on Quantum Fluids
and Solids, QFS2004, 5-9 July 2004, the University of Trento, Italy
3. H. Nakagawa, K. Obara, H. Yano, et al:“Pulsed NMR Study on A like phase of Superfluid 3He in
low porosity aerogel”(poster) The International Symposium on Quantum Fluids and Solids,
QFS2004, 5-9 July 2004, the University of Trento, Italy
4. H. Nakagawa, K. Obara, H. Yano, et al:“Pressure dependence of the surface magnetization of
3
He on silica strands in aerogel immersed in liquid 3He”(poster) The International Symposium on
Quantum Fluids and Solids, QFS2004, 5-9 July 2004, the University of Trento, Italy
5. H. Yano: “Study of the turbulent flow in superfluid 4He using a vibrating wire” (talk), The
Symposium on Superfluid Under Roration-2004, 9-10 July 2004, the University of Trento, Italy
6. O. Ishikawa:“Intrinsic angular momentum in superfluid 3He -A in narrow cylinders” (talk) The
Symposium on Superfluid Under Roration-2004, 9-10 July 2004, the University of Trento, Italy
7. H. Yano: “Study of the turbulent flow in Superfluid 4He using a vibrating wire” (talk), Vortex and
Turbulence in Classical and Quantum Fluids, October 24-25, 2004, the University of Kyoto,
Japan
8. H. Nakagawa, R. Kado, K. Obara, H. Yano, O. Ishikawa and T. Hata:“NMR Studies on Liquid
3
He in aerogel”(poster) Todai International Symposium 2004 and The ninth ISSP International
Symposium (ISSP-9) on Quantum Condensed System, 16-19 Nov. 2004, Institute for Solid State
Physics, Japan
9. H. Yano:“Observation of Turbulent Flow in Superfluid 4He using a Vibrating Wire”(talk) Todai
International Symposium 2004 and The ninth ISSP International Symposium (ISSP-9) on
Quantum Condensed System, 16-19 Nov. 2004, Institute for Solid State Physics, Japan
10. M. Yamashita, K. Izumina - - - , O. Ishikawa et al. :“Rotating Superfluid 3He-A in Parallel
Plate”(poster) Todai International Symposium 2004 and The ninth ISSP International Symposium
(ISSP-9) on Quantum Condensed System, 16-19 Nov. 2004, Institute for Solid State Physics,
Japan
11. O Ishikawa:“Spin Dynamics of Superfluid 3He in Aerogel”(talk) ESF COSLAB Network
Conference, 17-22 December 2004, Chamrousse, Grenoble, France
学会・研究会講演
1. 半田 梓:「Vibrating Wire による4He超流動乱流の生成機構」
日本物理学会 2004年秋の分科会 青森大学
2. 中川久司:「エアロジェル中超流動3Heにおける不純物散乱効果」
日本物理学会 2004年秋の分科会 青森大学
3. 石川修六:「パルスNMRによるエアロジェル中超流動3Heの研究」
日本物理学会 2004年秋の分科会 青森大学
4. 山下 穣:「平行平板中の回転超流動ヘリウム3」
日本物理学会 2004年秋の分科会 青森大学
5. 矢野英雄:「振動ワイヤーを用いた超流動ヘリウム中乱流の研究」
非平衡系の統計物理シンポジウム 2005年1月19日 21日 筑波大学
6. 畑 徹:「エアロジェル中の超流動ヘリウム3のA−B共存状態」
日本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
7. 矢野英雄:「VibratingWireによる4He超流動乱流の生成機構2」
日本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
5
学位論文
修士論文
1. 半田 梓:「Vibrating Wire法による 4He超流動乱流の生成機構」
博士論文
1. 中川久司:「エアロジェル中p波超流動ヘリウム3」
研究助成金取得状況
1.
2.
畑徹:受託研究:岩谷瓦斯株式会社「熱音響発振器を使った冷凍機の開発」100万円
畑徹:科学技術振興機構先端計測分析技術・機器開発事業:「大気浮遊粒子用傾向X線
分析装置の開発」2004年度分0円 (但し2004-2008年度全体では,3750万円)
海外出張および海外研修
1.
石川修六:イタリアトレント大学とフランスLPSENS、2004年7月3 23日、The International
Symposium of Quamtun Fluids and Solids QFS2004 および、Superfluids Under Rotation – 2004
出席・発表 および 研究打ち合わせ
2. 矢野英雄:the University of Trento, Italy、2004年7月3日 13日、The International Symposium
on Quantum Fluids and Solids QFS-2004、および、Superfluids Under Rotation – 2004 出席・
発表
3. 畑 徹:the University of Trento, Italy、2004年7月3日 13日、The International Symposium on
Quantum Fluids and Solids QFS-2004、および、Superfluids Under Rotation – 2004 出席・
発表
4. 石川修六:Chamrousse, Grenoble, France 2004年12月17-22日、 ESF COSLAB Network
Conference 招待講演
5. 石川修六:英国ロンドン大学(Royal Holloway), 2005年3月22日 9月25日、薄膜超流動
ヘリウムに関する研究
その他
1.
2.
畑 徹 :2004年度 低温工学協会関西支部長
石川修六:2004年度 東京大学物性研究所客員助教授
6
光物性物理学
唐沢 力
赤井一郎
鐘本勝一
教授
助教授
助手
謝 海燕
(D3) 大北健児 (M2) 上田祐士 (B4)
岡田 明
(M1) 中村貴史 (B4)
加藤 賢
(M1) 藤城明弘 (B4)
研究概要
1. 層状結晶半導体中の高密度励起子の非線形光学応答 (大北, 赤井, 唐沢)
高密度励起子系において励起子間相互作用は、励起子高密度相の物性を決定づ
ける。そこで我々は、励起子間に顕著な斥力相互作用を持つ層状結晶 GaSe 中の励
起子系において、励起子間相互作用の位相緩和への寄与に着目し、縮退四光波混合
(DFWM) スペクトルを調べた。その結果、DFWM 信号の励起スペクトルに、共鳴
位置とその高低エネルギー両側に計 3 つのピークを見出した。これらのピークのエ
ネルギー間隔は、GaSe の励起子系で顕著に観測される非弾性散乱過程によって交
換されるエネルギーに相当する。つまり励起子の非弾性散乱状態が関係する非線形
光学過程が、この分裂した DFWM 信号ピークを与えたものと考えた。
(St.Petersburg 大学と共同研究)
2. 高効率蛍光物質ヘキサキス・ピリジンチオラト銅結晶の光物性 (謝, 赤井, 唐沢)
ヘキサキス・ピリジンチオラト銅結晶 [Cu6 (n L − mpyt)6 ](nL は配位子の配置を示
す) は、高い発光効率とそのスペクトルが特異な温度依存性を示す。特徴的な二つ
の緩和発光帯が、銅クラスター内遷移と銅クラスターから配位子間の電荷移動型遷
移によって現れること、発光色の変化はこの二つの発光帯の熱活性過程による強度
交替であることなどを明らかにした。また、時間分解発光スペクトルを調べ、電荷
移動型遷移発光帯が 2 つの異なる減衰時定数をもった 2 つの発光帯の重ね合わせと
して観測されていることを明らかにした。これらの励起子発光の温度依存性やダイ
ナミクスは、銅クラスター内遷移と電荷移動型遷移の 2 つを考慮した配位座標モデ
ルで説明できることを示した。
(物質分子系専攻・分子設計学研究室と共同研究)
3. 小型光捕集性デンドリマーの励起子ダイナミクス (赤井、鐘本)
比較的低世代のデンドリマーにおいて、光捕集性外周側鎖の光励起後の励起子の
伝達ダイナミクスを調べた。その結果、これらの小型デンドリマーでは、外周側鎖
の光励起の後、外周側鎖内部での振動緩和以前にコアへ励起子が伝達していること
が明らかになった。また、これらの迅速な励起子のコアへの伝達を担う物理的機構
は、コアと光捕集性側鎖が結合する部分における、それらの電子励起子状態の波動
関数の重なりによる短距離相互作用であると考えた。
(生体・構造物性研究室ならびに信州大学・繊維学部と共同研究)
4. デンドリマーにおけるエネルギー伝達の温度依存性 (岡田、赤井、鐘本)
光捕集性デンドリマーの光捕集アンテナは、数多くの芳香環によって構成されて
おり、それらの芳香環が中心に位置するコア分子から外側に向かって枝分れしなが
ら結合している形態をとる。そのため、これらの光捕集アンテナ部分には多くの分
子振動の自由度が存在し、室温ではそれらの分子振動の自由度が比較的良く熱励起
されていると考えられる。このような状況でも、光捕集アンテナを光励起すると、
7
極めて高い効率でコアへ励起子が伝達するのが、光捕集性デンドリマーの特徴であ
る。そこで、励起子伝達ダイナミクスにおいて分子振動が担う役割を明らかにする
ため、デンドリマーの励起子伝達ダイナミクスの温度依存性を調べた。その結果、
試料を冷却して溶媒が凍結すると、コアへの励起子伝達効率が著しく低下すること
が明らかになった。この顕著な温度依存性は、室温で熱励起されている光捕集性ア
ンテナ芳香環のねじれ振動が励起子の伝達に大きく寄与していることを意味する。
(生体・構造物性研究室ならびに信州大学・繊維学部と共同研究)
5. デンドリマーにおける励起子伝達の世代・空間形態依存性 (加藤, 赤井, 鐘本)
光捕集性デンドリマーの光捕集アンテナを光励起すると、高効率にコアへ励起子
が伝達する特徴があり、その伝達量子効率は、光捕集アンテナの枝分れ世代数や空
間形態に大きく依存することが知られている。しかし、それらの励起子伝達の物理
的機構は、未だ系統的に理解されていない。そこで、光捕集アンテナが結合できる
結合手を 4 つ持ったコア分子に、2∼4 世代の枝分れ光捕集アンテナを、3 箇所に選
択的に結合させた 3/4-m th デンドリマー (m = 2 ∼ 4:光捕集アンテナの枝分れ世代
数) の励起子伝達ダイナミクスを調べた。その結果、励起子のコアへの伝達量子効
率が、枝別れ世代数 m の増加と共に若干低下する傾向が明らかになった。
(物質分子系専攻・機能化学研究室と共同研究)
6. Cdx Mn1−x Te/Cdy Mg1−y Te 半導体量子井戸中の Mn2+ 内遷移と励起子遷移 (赤井)
CdTe 半導体に Mn をドープすると、Cd サイトに Mn2+ が置換され共有性結合を
形成する。この Mn2+ には d5 電子が存在し、Mn を高密度にドープした Cdx Mn1−x Te
とバリア層半導体 Cdy Mg1−y Te で量子井戸構造を形成すると、Cdx Mn1−x Te のバン
ド間を基礎とした励起子遷移と共存して、それぞれ特徴的な光学遷移を与える。我々
は、原子数比で 40%以上の Mn2+ をでドープした試料について、量子井戸励起子と
Mn2+ 中 d5 電子内遷移の発光を、量子井戸厚を変化させた試料について系統的に調
べた。その結果、特に数 K のネール温度以下の低温において、高密度ドープした結
果、隣り合った Mn2+ の d 電子間の反強磁性相互作用が顕著になり、それを示す発
光を見出した。
(St.Petersburg 大学と共同研究)
7. Cu2 O 薄膜結晶の励起子スペクトル (赤井)
Cu2 O の最低励起子状態である para 励起子は光学禁制で長い寿命を持ち、高密度
に集約させられる可能性を持つことから、励起子系のボーズ・アインシュタイン凝
縮が期待されている系である。そこで我々は、空間的に励起子を閉じ込めやすいよ
うに、Cu2 O 粉末を 2 枚の MgO 単結晶板で挟んで、その間に Cu2 O を溶解浸透させ
て作成した Cu2 O 薄膜結晶を用意し、その光学応答を調べた。その結果吸収スペク
トルでは黄色と緑色シリーズの励起子遷移が観測された。一方発光スペクトルでは、
3 本に分裂した ortho 励起子発光とそれらのフォノンサイドバンド発光が観測され
た。この分裂は、MgO に挟むことによって Cu2 O 薄膜結晶が歪みを受け、分裂した
ものと考えた。
(大阪府立大学と共同研究)
8. 自己形成 CdTe 量子点の励起子スペクトル (赤井)
ホットウォール法で、ZnTe 上に自己形成させた CdTe 量子点の光学応答とその温
度変化を調べた。その結果、CdTe 量子点に閉じ込められた励起子による発光と共
に、結晶成長時に CdTe 量子点とバリア層 ZnTe の間に形成される CdTe ぬれ層に束
8
縛された励起子の発光が観測された。また、試料作成時に CdTe の仕込み量が少ない
CdTe 量子点では、CdTe 量子点の励起子発光が大きく高エネルギーシフトし、ZnTe
のバンドギャップ近傍に現れた。この励起子発光の大きなブルーシフトは、CdTe の
仕込み量の少ない試料において、CdTe と ZnTe の混晶ぬれ層が形成され、その結
果、CdxZn1−x Te 混晶半導体の量子点が形成されているためと考えた。
(山梨大学と共同研究)
9. π 共役高分子の FET デバイスで誘起されるキャリアの研究 (鐘本)
近年、π 共役高分子を用いて電界効果トランジスタ (FET) 特性が実現されること
が報告され、その応用に向けた研究が盛んになされている。π 共役高分子として、
層構造を示すポリチオフェン誘導体ならびに大気中で安定なポリフルオレン誘導体
に対して実際にトランジスタ動作を確認した。そのデバイスに対して、トランジス
タ動作で誘起されるキャリアを吸収分光でとらえる実験を行い、近赤外領域で特徴
的な信号を観測した。その信号は、化学酸化で得られるキャリアに比べて低エネル
ギー領域に信号を有することが確認され、高分子鎖間で広がった状態がキャリアと
して働いていることが示唆された。
(University of Cambridge との共同研究)。
10. 長鎖チオフェンオリゴマーのポーラロンダイナミクス (鐘本)
π 共役高分子はドープ状態で高い導電性を示し、そのキャリアとして電子スピンを
有するポーラロンが重要視されている。それら高分子のモデル化合物として長鎖オリ
ゴマーを用いて ESR 特性を調べた。特にその ESR スペクトルは、高周波 (36 GHz)
の実験において、一般によく用いられる X バンド領域 (9 GHz) と線型及び線幅が顕
著に異なるスペクトルを与えた。このことは、ポーラロンの運動の様子を異なる時
間尺度で観測できたことを反映しており、今後解析していくことでポーラロンダイ
ナミクスについて詳細な情報が得られることが期待される。
(分子科学研究所との共同研究)
教育・研究業績
学術論文
1. H. Xie, I. Kinoshita, T. Karasawa, K. Kimura, T. Nishioka, I. Akai, K. Kanemoto:
“Structure Study and Luminescence Thermochromism in Hexanuclear 6-Methyl-2Pyridinethiolato Copper(I) Crystals”,
J. Phys. Chem. B. 109, pp.9339-9345, (2005).
2. I. Akai, K. Harai, K. Kouno, T. Karasawa :
“Photocalorimetric study on nonradiative relaxation processes and photoluminescence quantum yields in Alq3 single crystals”,
J. Lumin. 108, pp.11–14 (2004).
3. H. Xie, M. Tougezaka, S. Oishi, I. Kinoshita, K. Kanemoto, I. Akai, T. Karasawa :
“Luminescence processes of hexanuclear methylpyridinethiolato-copper (I) crystals”,
J. Lumin. 108, pp.91–95 (2004).
4. V. F. Agekyan, Yu. A. Stepanov, I. Akai, T. Karasava, L. E. Vorobév, D. A. Firsov,
A. E. Zhukov, V. M. Ustinov, A. Zeilmeyer, S. Shmidt, S. Hanna, E. Zibik:
“Luminescence of Stepped Quantum Wells in GaAs/GaAlAs and
9
InGaAs/GaAs/GaAlAs Structures”,
Semiconductors. 38, pp.565–571 (2004).
5. A. Ito, H. Ino, Y. Matsui, Y. Hirao, K. Tanaka, K. Kanemoto, T. Kato :
“A Bindschedler’s Green-Based Arylamine: Its Polycations with High-Spin Multiplicity”,
J. Phys. Chem. A. 108, pp.5715–5720 (2004).
国際会議会議録
1. I. Akai, K. Watanabe, K. Yamashita, K. Kanemoto, T. Karasawa, H. Hashimoto:
“Exciton Dynamics in CdTe/ZnTe Quantum Dots Grown by Hot-Wall Expitaxy”,
6th International Conference on Excitonic Processes in Condensed Matter,
6–9 July 2004, Cracow, Poland.
2. I. Akai, H. Nakao, K. Kanemoto, T. Karasawa, H. Hashimoto, M. Kimura:
“Rapid Energy Transfer in Light-Harvesting Small Dendrimers”,
6th International Conference on Excitonic Processes in Condensed Matter,
6–9 July 2004, Cracow, Poland.
学会・研究会講演
1. 赤井一郎、岡田明、鐘本勝一、唐沢 力、橋本秀樹、木村 睦:
「光捕集性小型デンドリマーにおける光励起エネルギー伝達ダイナミクス」,
I-19, pp.73–76 (2004), 第 15 回光物性研究会 京都大学 2004 年 12 月 3, 4 日.
2. 岡田 明、赤井 一郎、鐘本 勝一、唐沢 力、橋本 秀樹、木村 睦:
「ナノスター型光捕集性デンドリマーのエネルギー伝達ダイナミクスの温度依存性」,
I-21, pp.81–83 (2004), 第 15 回光物性研究会 京都大学 2004 年 12 月 3, 4 日.
3. 大北 健児、丹治 淳、鐘本 勝一、赤井 一郎、唐沢 力:
「層状結晶 GaSe における高密度励起子の非線形光学スペクトル」,
II-24, pp.93–96 (2004), 第 15 回光物性研究会 京都大学 2004 年 12 月 3, 4 日.
4. 謝 海燕、峠坂雅美、加藤 賢、木下 勇、鐘本勝一、赤井一郎、唐沢 力:
「ヘキサキス・ピリジンチオラト銅 (I) 錯体結晶の発光特性 (II)」,
III-66, pp.261–264 (2004), 第 15 回光物性研究会 京都大学 2004 年 12 月 3, 4 日.
5. 赤井一郎, 岡田明, 鐘本勝一, 唐沢力, 橋本秀樹, 木村 睦:
「光捕集性小型デンドリマーにおける光励起エネルギー伝達ダイナミクス」,
12pXD-12, 第 4 分冊 pp.643,
日本物理学会, 2004 年秋季大会 青森大学 2004 年 9 月 12–15 日.
6. 大北健児,丹治淳,鐘本勝一,赤井一郎,唐沢力:
「層状結晶 GaSe における高密度励起子の非線形光学スペクトル」,
13pPSA-21, 第 4 分冊 pp.660,
日本物理学会, 2004 年秋季大会 青森大学 2004 年 9 月 12–15 日.
7. 大北健児,丹治淳,鐘本勝一,赤井一郎,唐沢力:
「層状結晶 GaSe における高密度励起子の非線形光学応答スペクトル II」,
24aPS-44, 第 4 分冊 pp.668,
日本物理学会, 第 60 回年次大会 東京理科大学野田キャンパス 2005 年 3 月 24–27 日.
10
8. 岡田明, 赤井一郎, 鐘本勝一, 唐沢力, 橋本秀樹, 木村睦:
「ナノスター型光捕集性デンドリマーのエネルギー伝達ダイナミクスの温度依存性」,
24aPS-98, 第 4 分冊 pp.681,
日本物理学会, 第 60 回年次大会 東京理科大学野田キャンパス 2005 年 3 月 24–27 日.
9. 加藤賢,赤井一郎,鐘本勝一,唐沢力,大橋正和,篠田哲史,築部浩:
「光捕集性 3 世代 3/4 デンドリマーのエネルギー伝達ダイナミクス」,
24aPS-99, 第 4 分冊 pp.681,
日本物理学会, 第 60 回年次大会 東京理科大学野田キャンパス 2005 年 3 月 24–27 日.
その他
1. 唐沢 力 : 物理学教室談話会(新入生歓迎)
「私たちの行っている研究」 2. 唐沢 力: 高大連携活動: 市大授業 (2004 年 5 月 1 日)
「大学で学ぶ物理 - 物理の面白さと、必然性」
学位論文
修士論文
1. 大北健児 :
「 半導体 GaSe 結晶における高密度励起子の縮退四光波混合スペクトル」,
“Spectra of High-Density Excitons in Semiconductor GaSe Crystal by DegenerateFour-Wave Mixing Method”
博士論文
1. 謝 海燕:
「 銅 (I)-クラスターを中心とする新規複合錯体化合物結晶の光励起状態とその緩和
過程」,
“Photo-Excited States and Thier Relaxation Processes of Novel Cu(I)-Cluster-Dominated
Coordination Compound Crystals”
研究助成金取得状況
1. 唐沢 力 (代表者), 赤井一郎, 鐘本勝一, 飯田 武, 鈴木正人:
文部省科学研究費補助金 基盤研究 (B-2) (課題番号:14340095)
(H14 : 6,200 千円, H15 : 4,500 千円, H16 : 1,200 千円)
「半導体中に光学的に生成された量子凝縮相のダイナミックス」
海外出張および海外研修
1. 鐘本勝一 :
「有機高分子を用いた最先端デバイス技術の習得及びその動作機構の解明」
Cavendish Laboratory, Cambridge University, UK, Mar. 2004 - Mar. 2005.
2. 赤井一郎 :
6th International Conference on Excitonic Processes in Condensed Matter
(EXCON’04), Cracow Poland, 6-9 July 2004.
11
生体・構造物性研究室
橋本 秀樹 教授
丸山 稔
講師
杉
満
講師
佐島 徳武 (PD)
藤井 律子 (PD)
柳 和宏 (D3,学振PD)
西尾
清水
和泉
楠本
下中
藤原
鈴木
重信
若竹
友宏 (M2)
麻登香 (M2)
拓朗 (M1)
利行 (M1)
奨三 (M1)
正澄 (M1)
聡
(B4)
明孝 (B4)
伸幸 (B4)
研究概要
1. サブ10フェムト秒時間分解分光計測システムの構築とフェムト秒時間領域分光(杉 ,佐
島,橋本)
光合成反応系は,生命の40億年とも言われる歴史に基づく自然選択の摂理により改良さ
れてきた,天然のエネルギー変換システムである.この反応系は,人類がこれまで構築し
た如何なるシステムよりも,遥に速い変換速度(< 100フェムト秒)で,高効率のエネルギ
ー変換(∼100%)を行うと考えられている.そのため,光合成反応系の初期過程のメカニ
ズムを明らかにすることは,基礎物理的にも応用的にも非常に重要である.近年,レーザ
ー技術の進歩により,市販のレーザーを用いることで,100フェムト秒程度の超短パルス
を比較的簡単に手に入れることが可能となった.しかし,光合成系の初期過程を明らかに
するためには,それよりも更に一桁以上時間分解能の良い光源の開発が必要不可欠となる.
そのため,我々の研究室では,チタンサファイア再生増幅器からのレーザー光を2つに分
け,一方を自己位相変調により白色光,もう一方を,BBO結晶を用いて第二高調波を発生
させ,これらの光の非同軸光パラメトリック増幅を行うシステムを構築した.
今年度は,フェムト秒再生増幅装置を励起光源とする,非同軸光パラメトリック増幅器
(NOPA)2台の性能最適化を行った.我々の持つ全てのノウハウを傾注し,プリズム対お
よびチャープ鏡対を併用したパルス圧縮を行うことにより,可視波長域(500∼750 nm)に
おいて最短6フェムト秒のパルス幅を持つ「本当の」フェムト秒光パルスの安定発生を達
成した.同レーザー光を用いて,ポンプ・プローブ時間分解吸収分光,縮退4光波混合計
測システムを構築した.本レーザー装置の出力スペクトルに合致する吸収帯を持つ試料と
して,極性カロテノイドアナログ及び共役二重結合数15を持つマクロカロテン分子につい
ての時間領域分光計測を行った.いずれの試料においても,過渡吸収変化にimpulsive
stimulated Raman processに由来するコヒーレント振動が重畳した信号が観測された.比較
的干満な時間変化を示す,極性カロテノイドアナログの場合は,適当な窓関数を設定して
フーリエ変換を行うことにより,コヒーレントフォノンモードの周波数及び強度の時間変
化が観測できた.励起状態の位相緩和時間に対応すると考えられるコヒーレントフォノン
モードの減衰の時定数として∼1 psが得られた.この値は,観測している励起状態の寿命(∼2
ps)の半分程度の値を示している.超高速な緩和を示す,マクロカロテン分子においても
同様なコヒレーントフォノン信号の時間変化が観測された.しかしながら,本試料の場合
は,時間領域に現れるコヒーレント振動が時間と共に変化する大変興味深い様相が確認さ
れた.フーリエ変換を用いた従来どおりの解析は,コヒーレント振動の時間変化が無い場
合に限り適応可能である.上述の観測結果は,単純なフーリエ解析の限界を打破する新た
な解析手法の創出が必須である事を示唆している.マクロカロテン分子に関しては,ポン
プ・プローブ分光の他,4光波混合を用いた予備的な実験も行った.
12
2. 光合成光反応中心複合体におけるカロテノイドの構造安定化(橋本)
光合成系における機能発現には,複数の光合成色素(カロテノイド,及びクロロフィル)
がアポタンパク質により形成される反応場の中で,空間的に規則正しく配列した色素蛋白
超分子複合体構造が密接に関係している.特に光捕集・光保護・構造安定には,カロテノ
イド色素が重要な役割を果たしている.これまでに,紅色光合成細菌Rhodobacter (Rb.)
sphaeroidesを中心に,光保護作用に関する研究が数多くなされてきた.これは,Rb.
sphaeroidesがX線構造解析により蛋白の構造が解明されていること,また,カロテノイド
欠損株R-26.1と所望のカロテノイドを用いることにより,人工の光反応中心を再構成でき
ること,など興味深い研究の場を与えてくれることに起因する.しかしながら,光反応中
心に再構成されたカロテノイドが天然の物と同じ位置に取り込まれるかという,最も基本
的かつ本質的な問題については,これまで明らかにされていなかった.英国グラスゴー大
学,及び米国コネチカット大学との共同研究により,Rb. sphaeroides R26.1の光反応中心に
spheroideneや3,4-dihydrospheroideneを再構成した試料について高分解能X線構造解析を行
った.その結果,カロテノイドのバインディングサイトを明らかにすると共に,フェニル
アラニンM162が門番の役目となり,カロテノイドが一方向からのみ光反応中心に取り込ま
れていくという興味深い結果を得た.更に,トリプトファンM75が鍵の役目となり,カロ
テノイドと水素結合することにより,構造の安定化がなされていることを明らかにした.
得られた結果を学術雑誌(Structure)にて公表した.
3. アナログカロテノイドを再構築した光反応中心複合体の電場変調吸収分光(柳,西尾,清
水,橋本)
カロテノイド欠損光合成細菌Rb. sphaeroides R-26.1 から調製した光反応中心複合体
(RC)と,系外から有機合成により調製したアナログカロテノイドを再構築した,人工の
RCの電場変調吸収分光測定(室温及び低温)を行った.カロテノイド分子の有無により,
周囲に存在するバクテリオクロロフィル分子周辺の静電環境に,どのような差異が生じる
のかを初めて定量化した.室温(生理温度)で測定した場合,カロテノイド分子から16 Å
離れて存在するスペシャルペアバクテリオクロロフィル分子の周辺の静電場に,カロテノ
イド分子の有無により,10 % 程度もの差異が生じることを明らかにした.得られた成果
を学術雑誌(J. Phys. Chem. B)にて公表した.
4. アナログカロテノイドを天然のアポ蛋白質に再構築した人工の光合成光反応中心複合体
のナノ秒時間分解吸収分光(藤井,楠本,西尾,橋本)
カロテノイド欠損光合成細菌Rb. sphaeroides R-26.1 から調製した光反応中心複合体
(RC)と,有機合成により調製した一連の共役鎖長を持つアナログカロテノイドを再構築
した人工のRCのナノ秒時間分解吸収スペクトル測定を行った.得られた吸収スペクトルデ
ータのセットに対して,特異値解析とそれに続くグローバルフィッティングを適用するこ
とにより,極微弱な吸収スペクトル変化を精度良く検出することに成功した.再構成RC
に関する従来の研究では,共役二重結合数(N)が9より少ないカロテノイドを再構築した
場合,光保護作用の発現のために必須の,カロテノイドの三重項状態の生成が全く検出さ
れなかったが,今回の我々の実験により,N=8およびN=9のカロテノイドを再構築したRC
おいても,カロテノイドのT1 → Tn吸収スペクトルが観測できた.この結果は,カロテノイ
ドの光保護作用の発現機構に関して,従来概念を覆す画期的な成果であると考えられる.
5. 光合成膜中でのアンテナ色素蛋白複合体の超分子配置のその場観察(下中,清水,藤井,
橋本)
光合成細菌の光合成系は,二種類のアンテナ色素蛋白複合体(LH1及びLH2)と光反応
中心(RC)の3つの色素蛋白複合体が有機的に結合した,超分子配置を形成することによ
り生理機能を発現している.平坦な光合成膜を持つ紅色光合成細菌Blc. viridisから調製した
13
光合成膜試料に焦点を絞り,画像計測の物差しを作成することを目的として研究を行った.
Blc. viridisにはアンテナ複合体として,LH1複合体のみしか存在しないことが知られている.
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観測により,LH1複合体の直径10 nmに対応する環状
の構造体が細密充填構造を取り配列している画像を取得した.得られた画像をフーリエ変
換することにより,三角格子構造を示唆する良好な回折パターンを得た.回折点以外の余
分な成分を除去し,逆フーリエ変換を行うことにより,RC-LH1コア複合体の良好な画像
を得ることに成功した.この画像データに対して,統計処理を行ったところ,環状構造体
の直径は9.8 ± 0.4 nm で分布しており,その中心にRCに対応する構造が観測されることか
ら,この環状構造体がLH1複合体に帰属できることが明確となった.また,各LH1リング
は細密充填構造を取り配列しているが,再隣接距離は約2 nm程度離れていることが明らか
になった.
単離生成したRC-LH1コア複合体を,リン脂質二重層膜(Egg-PC)に再構築する方法を
確立した.TEMを用いた観察(フーリエ解析)により,再構成直後の人工光合成膜では,
コア複合体は細密充填構造を取らず,比較的ランダムに配列していた.同試料の温度を上
下することで,細密充填構造へ導けることが明らかになった.この結果はコア複合体の超
分子配列が制御可能であることを示唆している.コア複合体を再構築した人工光合成膜に,
さらに他の種類の光合成細菌由来のLH2複合体を再構築した,「本当の」人工光合成膜を
作成すべく,条件出し及びTEMによるその場観察を行っている.
6. 極性カロテノイドの同族体のナノ秒時間分解吸収分光(藤井,楠本,佐島,橋本)
all-trans-レチナールと1,3-インダンジオンを縮合した,2-all-trans-レチニリンデン-1,3-イ
ンダンジオン(RetInd)のTHF溶液に対して,三重項増感励起によるナノ秒時間分解吸収
分光測定を行った.特異値解析とそれに続くグローバルフィッティングを用いたデータ解
析を行うことにより,ジカチオン状態に帰属できる過渡吸収バンドが特定できた.カロテ
ノイド類では,THFのような溶媒系(非重溶媒)でのラジカル生成は報告されておらず,
しかも三重項増感励起の際に見つかったこの特異な現象は,カロテノイド(共役ポリエン
系)の電子構造を探索する上で,重要な知見を与えていることが期待される.
7. LH1アンテナ複合体の再構築とその電場変調吸収分光(鈴木,藤井,柳,橋本)
紅色光合成細菌Rhodospirillum rubrumから,共役二重結合鎖n = 13のカロテノイド
(all-trans-spirilloxanthin)を単離精製した.単離したカロテノイドを,Triton X-100ミセル
中で,カロテノイドを除去したB880色素蛋白複合体の単量体サブユニットと再会合するこ
とにより,Rs. rubrum LH1複合体を人為的に再構築した.吸収スペクトル,蛍光励起スペ
クトルおよび電場変調吸収スペクトルを測定することで,再構成体と天然由来のLH1複合
体についての比較検討を行った.LH1 complex再構成体は,B880吸収帯が3 nm短波長シフ
トしている点とカロテノイド部分の振動構造がより明瞭になっている点を除けば,天然体
と基本的に同様な吸収スペクトルを与えた.蛍光励起スペクトルの測定により,カロテノ
イドからバクテリオクロロフィルへの励起エネルギー移動効率を決定したところ,天然
LH1では35%であったのに対し,再構成LH1はこれより有意に高い40%の効率を与えた.
電場変調吸収分光測定によって,LH1複合体中のカロテノイド及びバクテリオクロロフィ
ル分子の非線形光学パラメータ(光誘起分極率変化∆α・光誘起双極子モーメント変化∆µ)
を決定したところ,バクテリオクロロフィル分子では天然体と再構成体とで同様の値を与
えるのに対して,カロテノイド分子では大きな差異が検出された.この結果は,再構成LH1
複合体中のカロテノイド分子周辺の静電的環境が,天然 LH1の場合とは明らかに異なって
いることを示している.電場変調吸収分光法は,再構成体の構造に関して有意な情報を与
える分光学的手法であることが明らかになった.
8. 非線形光学材料の性能向上を目指した計測と評価(藤原,丸山,橋本)
大出力テラヘルツ電磁波(THz波)発生を実現するための有機非線形光学材料の性能評
14
価について,種々の分光計測法を適用することにより多角的に検討を行った.具体的な測
定対象となる有機非線形材料としては,既に良好なTHz波発生が確認できている2-メチル
-4-ニトロアニリン(MNA)誘導体について検討した.
様々な置換基を有するN置換MNA誘導体の大量合成を行った.ブリッジマン炉を用いた
融液からの結晶成長とゾーン精製による純化を行い,これらMNA誘導体からの良質な単結
晶の作成を目指して勢力的に研究を展開した.特に,単結晶試料の透明性を追求し,種々
の条件だしを行った.得られた結晶の面方位は,X線ラウエ法により評価した.
結晶の2次非線形光学定数(dテンソル)の測定を行うための装置を作成して稼働し,各
MNA誘導体結晶のdテンソル成分の相対値を決定した.dテンソルの決定には,第二高調波
発生法を採用し,その励起光源としてはNd:YAGレーザーの基本波(1064 nm)を用いた.
結晶試料は回転ステージ上に固定し,励起光の偏光(p偏光およびs偏光)に対して任意角
度に回転角を設定できるようにした.原理的に全部で27個あるdテンソル成分に関して,
結晶構造および結晶内における分子配置を考慮することにより,測定結果をシミュレーシ
ョンするコンピュータプログラムの開発も平行して行った.
以上の研究を通じて,1)光学的に良質で大型のBNA単結晶の成長に成功した,2)dテ
ンソルの成分比を実験的に検証し,dZZZ成分の異常な増大を観測した,3)dZZZの異常な増
大は,超分子クラスターを考えることで定性的に説明可能であることを明らかにした,4)
結晶中の水素結合によって形成されるネットワークがdテンソルに大きく影響を与える事
を明らかにした.目標である良質で大きな有機非線形光学結晶の開発と,二次非線形感受
率テンソルの決定等の結晶面方位に即した物性評価をすることができ,当初の計画を十分
満足する研究成果が得られた.
9. 氷六角板結晶の成長と融解の間に生じる非対称なパターン形成(丸山)
結晶にはミクロな構造的異方性があるために,特定の方位の結晶面のみがマクロな結晶
外形を構成する.すなわち,成長形は成長速度の遅い方位の平面によって,融解形は融解
速度の速い面によって囲まれる,という法則がある.両者は違った形になることが予測さ
れるが,その関係をきちんと調べた例はほとんどない.そこで,氷と水の圧力下共存系を
対象にして,系の温度を下げながら氷を成長させ,温度を上げながら氷を融解させた.得
られた成長形はプリズム面と基底面で囲まれた六角板状であるのに対して,融解形は六角
形の角から優先的に解け出して,定常状態では逆六角形を示した.すなわち成長形が30度
回転した相似形になった.ただし,これら六面はわずかに曲がったラフ方位の曲面である.
従来,融解形は角ばった先端から解け始め丸い定常形に落ち着くものと考えられていた.
界面での成長・融解の素過程を考慮した数理モデルを作って,この非対称変化を定性的に
説明した.
教育・研究業績
学術論文
1. K. Yanagi, H. Hashimoto, A.T. Gardiner, and R.J. Cogdell: “Stark spectroscopy on the LH2
complex from Rhodobacter sphaeroides G1C; frequency and temperature dependence”, J. Phys.
Chem. B 108, 10334-10339 (2004).
2. H. Hashimoto, K. Yanagi, M. Yoshizawa, D. Polli, G. Cerullo, G. Lanzani, S. De Silvestri, A.T.
Gardiner, and R.J. Cogdell: “The Very Early Events Following Photoexcitation of Carotenoids”,
Arch. Biochem. Biophys. 430, 61-69 (2004).
3. H. Hashimoto, T. Sashima, K. Yanagi, and M. Yoshizawa: “Ultrafast Relaxation Processes of
Photosynthetic Carotenoids”, Rev. Laser Engineer. 32, 701-710 (2004).
4. R.J. Cogdell, H. Hashimoto, and A.T. Gardiner: “Purple Bacterial Light-Harvesting Complexes:
15
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
19.
20.
21.
22.
From Dreams to Structures”, Photosynth. Res. 80, 173-179 (2004).
W. Wohlleben, T. Buckup, H. Hashimoto, R.J. Cogdell, J.L. Herek, and M. Motzkus:
“Pump-deplete-probe spectroscopy and the puzzle of carotenoid dark states”, J. Phys. Chem. B
108, 3320-3325 (2004).
K. Yanagi, A.T. Gardiner, R.J. Cogdell, and H. Hashimoto: “Effect of the inhomogeneous
band-broadening on the nonlinear optical properties of hydrazones”, Phys. Rev. B69, 205103
(2004).
A.W. Roszak, K. McKendrick, A.T. Gardiner, I.A. Mitchell, N.W. Isaacs, R.J. Cogdell, H.
Hashimoto, and H.A. Frank: “Protein Regulation of Carotenoid Binding: Gatekeeper and Locking
Amino Acid Residues in Reaction Centers of Rhodobacter sphaeroides”, Structure 12, (2004)
765-773.
T. Nakajima, H. Nagasawa, M. Maruyama, T. Komatsu, J. Nelson: “Macroscopic crystallization
of nanocrystals into supercrystals”, Jpn. J .Appl. Phys. 43, 1102-1103 (2004).
D. Polli, G. Cerullo, G. Lanzani, S. De Silvestri, K. Yanagi, H. Hashimoto, R.J. Cogdell,
“Conjugation length dependence of internal conversion in carotenoids: Role of the intermediate
state”, Phys. Rev. Lett. 93, 163002 (2004).
D. Kosumi, H. Hashimoto, and M. Yoshizawa: “Pump Wavelength Dependence of Ultrafast
Relaxation Kinetics in β-Carotene”, Carotenoid Sci. 7 (2004) 29-31.
R.J. Cogdell, H. Hashimoto, K. Yanagi, D. Polli, G. Cerullo, G. Lanzani, and S. de Silvestri,
“Excited Singlet States of Carotenoids and Their Involvement in Photosynthetic
Light-Harvesting”, Carotenoid Sci. 7 (2004) 60.
S. Hirota, H. Inoue, A. Teteishi, H. Hashimoto, Y. Tomita, M. Murakoshi, T. Nigo, K. Sekimoto,
J. Yokoyama, and H. Funayama, “Assessment of Conjunctival Impression Cytology (CIC)
Method of Beta-carotene and Canthaxanthin Fed Vitamin A Deficient Rats”, Carotenoid Sci. 7
(2004) 43-45.
K. Yanagi, A.T. Gardiner, R.J. Cogdell, and H. Hashimoto, “Effect of carotenoid on electrostatic
environment around the bacteriochlorophyll special pair in the reaction center of the urple
photosynthetic bacterium Rhodobacter sphaeroides”, Carotenoid Sci. 7 (2004) 26-28.
T. Sashima, I. Matsuda, K. Misawa, S. Koshiara, and H. Hashimoto, “The Control of
Photoisomerization of All-Trans Retinal by Using Chirped Femtosecond Laser-Pulses”,
Carotenoid Sci. 7 (2004) 24-25.
M. Sugisaki, T. Sashima, K. Yanagi, A. Sugita, and H. Hashimoto, “Stationary and Transient
Optical Absorption Measurements in Polar Retinoid Analogue”, Carotenoid Sci. 7 (2004) 20-23.
K. Yanagi, A.T. Gardiner, R.J. Cogdell, H. Hashimoto, “Electroabsorption spectroscopy of
β-carotene homologs: Anomalous enhancement of ∆µ”, Phys. Rev. B71, 195118 (2005).
P. Wang, R. Nakamura, Y. Kanematsu, Y. Koyama, H. Nagae, T. Nishio, H. Hashimoto, J.P.
Zhang, “Low-lying singlet states of carotenoids having 8-13 conjugated double bonds as
determined by electronic absorption spectroscopy”, Chem. Phys. Lett. 410, 108-114 (2005).
D. Kosumi, K. Yanagi, T. Nishio, H. Hashimoto, M. Yoshizawa, “Excitation energy dependence
of excited states dynamics in all-trans-carotenes determined by femtosecond absorption and
fluorescence spectroscopy”, Chem. Phys. Lett. 408, 89-95 (2005).
I. Akai, H. Nakao, K. Kanemoto, T. Karasawa, H. Hashimoto, M. Kimura, “Rapid energy transfer
in light-harvesting small dendrimers”, J. Lumin. 112, 449-453 (2005).
K. Kanemoto, M. Shishido, T. Sudo, I. Akai, H. Hashimoto, T. Karasawa,
“Concentration-dependence of photoluminescence properties in polythiophene diluted in an
inactive polymer matrix”, Chem. Phys. Lett. 402, 549-553 (2005).
K. Yanagi, M. Shimizu, H. Hashimoto, A.T. Gardiner, A.W. Roszak, R.J. Cogdell, “Local
electrostatic field induced by the carotenoid bound to the reaction center of the purple
photosynthetic bacterium Rhodobacter sphaeroides”, J. Phys. Chem B 109, 992-998 (2005).
M. Maruyama: “Roughening transition of prism faces of ice crystals grown from melt under
pressure”, J. Crystal Growth 275, 598-605 (2005).
国際会議会議録
16
1.
2.
3.
M. Yoshizawa, D. Kosumi, M. Komukai, K. Yanagi, and H. Hashimoto: “Dynamics of
carotenoids probed by femtosecond absorption, fluorescence, and Raman spectroscopy”, Springer
Series in Chemical Physics (2005), 79 (Ultrafast Phenomena XIV), 589-591.
T. Buckup, W. Wohlleben, B. Heinz, M. Motzkus, J. Savolainen, J.L. Herek, H. Hashimoto, and
R.J. Cogdell: “Energy flow in carotenoids, studied with pump-deplete-probe, multiphoton and
coherent control spectroscopy”, Springer Series in Chemical Physics (2005), 79 (Ultrafast
Phenomena XIV), 363-367.
G. Cerullo, D. Polli, G. Lanzani, H. Hashimoto, R.J. Cogdell: “Sub-20-fs study of energy
relaxation in carotenoids in solution and inside light-harvesting complexes”, Springer Series in
Chemical Physics (2005), 79 (Ultrafast Phenomena XIV), 589-591.
国際会議講演
1. H. Hashimoto, K. Yanagi, A.T. Gardiner, and R.J. Cogdell: “Stark spectroscopy on the native and
reconstituted pigment-protein complexes of purple photosynthetic bacteria”, International
Workshop on the Construction of Nano-Devices Based on Bacterial Light-Harvesting Complexes
(2004, June 7-9) Glasgow, UK.
2. R.J. Cogdell, A.T. Gardiner, S. Prince, T.D. Howard, M. Papiz, H. Hahsimoto, K. Yanagi, H.A.
Frank, A.W. Roszak, and N.W. Isaacs: “The organisation of carotenoids in purple bacterial
antenna complexes and reaction centres: analysis of structure and function”, International
Workshop on the Construction of Nano-Devices Based on Bacterial Light-Harvesting Complexes
(2004, June 7-9) Glasgow, UK.
3. T. Buckup, W. Wohlleben, B. Heinz, M. Motzkus, J. Savolainen, J.L. Herek, H. Hashimoto, and
R.J. Cogdell: “Energy flow in carotenoids, studied with pump-deplete-probe, multiphoton and
coherent control spectroscopy”, International Conference on Ultrafast Phenomena (2004, July
25-30) Niigata, Japan.
4. G. Cerullo, D. Polli, G. Lanzani, H. Hashimoto, R.J. Cogdell: “Sub-20-fs study of energy
relaxation in carotenoids in solution and inside light-harvesting complexes”, International
Conference on Ultrafast Phenomena (2004, July 25-30) Niigata, Japan.
5. M. Yoshizawa, D. Kosumi, M. Komukai, K. Yanagi, and H. Hashimoto: “Dynamics of
carotenoids probed by femtosecond absorption, fluorescence, and Raman spectroscopy”,
International Conference on Ultrafast Phenomena (2004, July 25-30) Niigata, Japan.
6. H. Hashimoto and R.J. Cogdell: “Molecular Architecture of Native and Reconstituted Pigment
Protein Complexes of Purple Photosynthetic Bacteria”, Open Workshop on Molecular Modified
Electrodes for Clean Energy Conversion (2004, October 1) Panasonic Center, Ariake, Tokyo,
Japan.
7. H. Hashimoto and R.J. Cogdell: “Stark spectroscopy on the native and reconstituted
pigment-protein complexes of purple photosynthetic bacteria”, International Workshop on
Materials Science and Nano-Engineering (2004, December 11-14) Osaka Univ., Suita, Osaka,
Japan.
8. R. Fujii, M. Shimizu, T. Nishio, T. Kusumoto, H.A. Frank, R.J. Cogdell and H. Hashimoto:
“Triplet States of Carotenoids Having Shorter Conjugation Lengths Reconstituted into the
Reaction Centre of Rhodobacter sphaeroides R-26.1 Detected by Time-Resolved Absorption
Spectroscopy”, 22nd Annual Eastern Regional Photosynthesis Conference (2005, April 15-17)
Woods Hole, MA, USA.
9. H. Hashimoto, K. Yanagi, A.T. Gardiner, A.W. Roszak, and R.J. Cogdell: “Stark spectroscopy on
the native and reconstituted pigment-protein complexes of purple photosynthetic bacteria” 22nd
Annual Eastern Regional Photosynthesis Conference (2005, April 15-17) Woods Hole, MA,
USA.
10. H. Hashimoto, R. Fujii, K. Yanagi, A. T. Gardiner, A. W. Roszak, N. W. Issacs, H. A. Frank,
and R. J. Cogdell: “Structures and functions of carotenoids bound to reaction centers from purple
photosynthetic bacteria”, The 14th International Symposium on Carotenoids (2005, July 17-22)
Edinburgh, UK.
17
11. R. L. Christensen, H. A. Frank, M. Grace, I. Galinato, E. F. Chu, R. Fujii, and H. Hashimoto:
“The optical spectroscopy of cis and trans polymers: models for cis and trans carotenoids”, The
14th International Symposium on Carotenoids (2005, July 17-22) Edinburgh, UK.
12. K. Nakagawa, R. Fujii, K. Yanagi, S. Suzuki, A. T. Gardiner, R. J. Cogdell, H. Hashimoto, and M.
Nango: “Probing the carotenoid in its biding site in a reconstituted light-harvesting complex 1
from the photosynthetic bacterium rhodospirillum rubrum with electroabsorption spectroscopy”,
The 14th International Symposium on Carotenoids (2005, July 17-22) Edinburgh, UK.
13. P. Wang, R. Nakamura, Y. Kanematsu, Y. Koyama, H. Nagae, T. Nishio, H. Hashimoto, and J.-P.
Zhang: “Low-lying singlet states of carotenoids having 8∼13 conjugated double bonds as
determined by electro absorption spectroscopy”, The 14th International Symposium on
Carotenoids (2005, July 17-22) Edinburgh, UK.
14. M. Yoshizawa, D. Kosumi, M. Komukai, K. Yanagi, and H. Hashimoto: “Excitation energy
dependence of relaxation kinetics and nonlinear optical responses in all-trans-carotenoids”, The
14th International Symposium on Carotenoids (2005, July 17-22) Edinburgh, UK.
15. R. Fujii, M. Shimizu, T. Nishio, T. Kusumoto, H. A. Frank, R. J. Cogdell and H. Hashimoto:
“Triplet states of carotenoids having shorter conjugation lengths reconstituted into the reaction
centre of Rhodobacter sphaeroides R-26.1 detected by time-resolved absorption spectroscopy”,
The 14th International Symposium on Carotenoids (2005, July 17-22) Edinburgh, UK.
16. M. Sugisaki, K. Yanagi, R. J. Cogdell, and H. Hashimoto: “Ultrafast coherent otical response in a
β-carotene homologue”, The 14th International Symposium on Carotenoids (2005, July 17-22)
Edinburgh, UK.
17. P. Molnár, H. Hashimoto, G. Tóth: “Comparison of optical absorption-, Raman- and
FT-IR-spectroscopic data of several natural and semisynthetic (all-E)-carotenois”, The 14th
International Symposium on Carotenoids (2005, July 17-22) Edinburgh, UK.
18. R. Nakamura, P. Wang, R. Fujii, Y. Koyama, H. Hashimoto and Y. Kanematsu: “Vibrational
relaxation pathways in the electronic excited state of carotenoid”, 15th International Conference
on Dynamical Processes in Exited States of Solids (2005, August 1-5) Shanghai, China
19. H. Hashimoto, K. Yanagi, A. T. Gardiner, A. W. Roszak, and R. J. Cogdell: “Stark spectroscopy
on the native and reconstituted pigment-protein complexes of purple photosynthetic bacteria”, 6th
International Conference on Tetrapyrrole Photoreceptors in Photosynthetic Organisms (2005,
September 11-16) Lucerne, Switzerland.
学会・研究会講演
1. 赤井一郎,中尾浩士,鐘本勝一,唐沢力,橋本秀樹,木村睦:「デンドリマー構造をも
つ巨大分子の光励起ダイナミクスII」日本物理学会 2004年春の年会,2004年3月27日∼
30日,九州大学 箱崎キャンパス
2. 柳和宏,A.T. Gardiner,R.J. Cogdell,橋本秀樹:「光合成光反応中心複合体の電場変調吸
収分光」日本物理学会 2004年春の年会,2004年3月27日∼30日,九州大学 箱崎キャン
パス
3. 佐島徳武,楠本利行,橋本秀樹:「極性カロテノイド類のナノ秒時間分解吸収分光」日
本物理学会 2004年秋季大会,2004年9月12日∼15日,青森大学
4. 赤井一郎,岡田明,鐘本勝一,唐沢力,橋本秀樹,木村睦:「光捕集性小型デンドリマ
ーにおける光励起エネルギー伝達ダイナミクス」日本物理学会 2004年秋季大会,2004
年9月12日∼15日,青森大学
5. 小澄大輔,橋本秀樹,柳和宏,小向牧人,吉澤雅幸:「フェムト秒分光を用いたカロテ
ノイドのダイナミクスにおける励起光波長依存性」日本物理学会 2004年秋季大会,2004
年9月12日∼15日,青森大学
6. 杉崎満,佐島徳武,杉田篤史,橋本秀樹:「極性カロテノイド類のフェムト秒分光 II」
日本物理学会 2004年秋季大会,2004年9月12日∼15日,青森大学
7. 藤原正澄,柳和宏,丸山稔,杉崎満,黒柳和良,高橋宏典,青島紳一郎,土屋裕,橋本
秀樹:「N-benzyl MNA単結晶の二次非線型光学特性」日本物理学会 第60回(2005年)年
次大会,2005年3月24日∼27日,東京理科大学 野田キャンパス
18
8.
9.
10.
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
19.
20.
21.
22.
杉崎満,柳和宏,橋本秀樹:「β-カロテンホモログ体における超高速光学応答」日本物
理学会 第60回(2005年)年次大会,2005年3月24日∼27日,東京理科大学 野田キャン
パス
柳和宏,杉崎満,橋本秀樹:「βカロテンホモログ体における電場変調吸収分光(II) 」日
本物理学会 第60回(2005年)年次大会,2005年3月24日∼27日,東京理科大学 野田キ
ャンパス
岡田明,赤井一郎,鐘本勝一,唐沢力,橋本秀樹,木村睦:「ナノスター型光捕集性デ
ンドリマーのエネルギー伝達ダイナミクスの温度依存性」日本物理学会 第60回(2005年)
年次大会,2005年3月24日∼27日,東京理科大学 野田キャンパス
小澄大輔,小向牧人,橋本秀樹,吉澤雅幸:「3準位電子系の超高速光学応答II:波長可
変励起光によるβ-カロテンの光誘起過渡吸収」日本物理学会 第60回(2005年)年次大会,
2005年3月24日∼27日,東京理科大学 野田キャンパス
丸山稔、増田詩人:「ファセット形成過程とラフ方位の曲率発展」第34回結晶成長国内
会議 2004年8月25-27日 東京農工大学
Q. Wang,Y. Han,X. Wen,P. Hu,廣田才之,橋本秀樹:「マウス免疫機能における
カロテノイド類の効果」第19回カロテノイド研究談話会,2005年9月9日∼10日,東京大
学 山上会館
井上弘明,本多由美子,関本邦敏,横山次郎,上野隆嗣,富田純史,長田祥二,橋本秀
樹,村越倫明,廣田才之:「ビタミンA欠乏系ラットに投与したカロフィルレッド、カロ
フィルピンクの代謝の影響」第19回カロテノイド研究談話会,2005年9月9日∼10日,東
京大学 山上会館
吉澤雅幸,小澄大輔,小向牧人,柳和宏,橋本秀樹:「共鳴および非共鳴励起によるβカロテンの初期緩和過程および超高速光学応答の研究」第19回カロテノイド研究談話会,
2005年9月9日∼10日,東京大学 山上会館
小澄大輔,柳和宏,橋本秀樹,吉澤雅幸:「共役長が異なるカロテノイド類の超高速光
学応答」第19回カロテノイド研究談話会,2005年9月9日∼10日,東京大学 山上会館
藤井律子,清水麻登香,西尾友宏,楠本利行,H. A. Frank, R. J. Cogdell, 橋本秀樹:「短
い共役鎖をもつカロテノイドの光保護作用−光反応中心複合体における三重項状態の検
出」第19回カロテノイド研究談話会,2005年9月9日∼10日,東京大学 山上会館
柳和宏,橋本秀樹:
「βカロテンホモログ体の吸収スペクトルにあたえるexchange narrowing
の影響」第19回カロテノイド研究談話会,2005年9月9日∼10日,東京大学 山上会館
小澄大輔,柳和宏,橋本秀樹,吉澤雅幸:「ポリエン共役長が異なるカロテノイド類の
時間分解発光分光」日本物理学会 第59回秋季大会,2005年9月19日,同志社大学 京田辺
キャンパス
藤井律子,清水麻登香,西尾友宏,楠本利行,H. A. Frank, R. J. Cogdell, 橋本秀樹:「光
合成光反応中心複合体に再構築したカロテノイドへの三重項エネルギー移動」日本物理
学会 第59回秋季大会,2005年9月19日,同志社大学 京田辺キャンパス
岡田明,赤井一郎,鐘本勝一,唐沢力,橋本秀樹,木村睦:「ナノスター型光捕集性デ
ンドリマーのエネルギー伝達ダイナミクスの温度依存性Ⅱ」
A. Cahoon, M. Maruyama and J.S. Wettlaufer: “Growth-Melt Asymmetry in Ice”, APS March
Meeting, March 21-25, 2005, Los Angeles.
解説
1. 杉
満,“測定法(8) ⎯顕微分光”, Optronics 11月号 (2004) pp.180-188.
2. 橋本秀樹,藤井律子,杉
満,“物質・現象・新技術(5) 有機・バイオ-光合成アンテナ
色素蛋白複合体・カロテノイド・超高速レーザー分光”, Optronics 5月号 (2005) pp.159-169.
その他
1. 橋本 秀樹:「植物が創った太陽電池:光合成系の分子構築,機能,およびコヒーレント
19
2.
3.
制御」 2004年4月30日 立命館大学にて講演
橋本 秀樹:
「紅色光合成細菌の光反応中心及びコア複合体の構造」 2004年6月26日 「光
合成細菌の色素系と反応中心に関するセミナーXII」(京都大学)にて講演
橋本 秀樹:「植物が創った太陽電池:光合成系の分子構築,機能,およびコヒーレント
制御」 2004年7月23日 高エネルギー加速器研究機構にて講演
研究助成金取得状況
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
橋本 秀樹:文部科学省・萌芽研究「原子間力顕微鏡を用いた光合成アンテナ色素複合体
超分子配置のイメージング」500万円
橋本 秀樹:日本学術振興会・基盤研究(B)(2)「人工光合成色素蛋白超分子複合体の動作
機構の解明」1,500万円
橋本 秀樹:日本学術振興会・基盤研究(B)(1)「カロテノイド励起状態中の振動緩和と光
合成系におけるエネルギー伝達の研究」1,500万円
橋本 秀樹:NEDO国際共同研究プロジェクト「人工光合成アンテナとナノデバイス開発:
光合成アンテナ複合体の機能とナノデバイス開発のためのアンテナ複合体の組織化」
1,500万円
橋本 秀樹:科学技術振興機構・さきがけ研究「光合成系の人為操作及び光反応制御」8,000
万円
橋本秀樹:科学技術振興機構・戦略的国際科学技術協力推進事業(日英協力)ナノ空間
に配列させた光合成色素蛋白超分子複合体間における超高速励起エネルギー移動過程の
実時間動画撮影技術の確立」3,000万円
杉
満:学術振興会・若手研究(B)「光合成色素蛋白超分子複合体の単一分子超高速レ
ーザー分光」50万円
杉
満:島津科学技術振興財団・研究開発助成「青色極超短パルス光発生装置を用いた
光合成コヒーレントプロセスの解明」80万円
海外出張および海外研修
1.
2.
3.
4.
5.
橋本秀樹:米国(Ventura Beach Marriottホテル),2004年1月3日∼1月11日,2004年度Gordon
Research Conference on Carotenoids への出席及び会議進行
橋本秀樹:英国(グラスゴー大学),2004年6月5日∼6月13日,NEDO国際共同研究プロ
ジェクトに関するワークショップへの出席及び共同研究打ち合わせ
橋本秀樹:英国(グラスゴー大学),2004年11月23日∼12月3日,NEDO国際共同研究プ
ロジェクトに関するワークショップへの出席及び共同研究打ち合わせ
橋本秀樹:米国(アリゾナ州立大学,コネチカット大学,Woods Hole),2005年4月5日
∼4月19日,アリゾナ州立大学で集中講義,コネチカット大学で共同実験の実施,第22回
米国東部地区光合成会議で研究発表
藤井律子:米国(アリゾナ州立大学,コネチカット大学,Woods Hole),2005年4月5日
∼4月19日,アリゾナ州立大学で講義補助,コネチカット大学で共同実験の実施,第22回
米国東部地区光合成会議で研究発表
その他
1.
2.
3.
橋本秀樹:日本物理学会 2003年度JPSJ編集委員
橋本秀樹:日本カロテノイド研究会幹事役員,Carotenoid Science編集委員長
橋本秀樹:国際カロテノイド学会Council Member
20
素励֬物理学研究室
坪田 誠 教授
༃木 正人 講師
笠松 健一(PD)
R. Hanninen(PD)
金本 理奈(PD)
西岡 圭太(D3)
小林未知数(D2)
三હ ຕ(D1)
星原 庸平(M1)
神野 大典(M1)
研究概要
1. 量子乱流のエネルギースペクトル(坪田、小林)
‫ؼ‬年,ଵ流動乱流(量子乱流)と古典乱流の対応が注目されている.ボース凝縮の巨
視的波動関数が従うGross-Pitaevskii方程式の三次元数値ӕ析を行い,量子乱流が,古
典乱流のもっとも代表的な統‫ڐ‬則であるコルモゴロフ則を満たすことを示した.‫ڐ‬算は
全てフーリエ空間で行い,大スケールの励֬と小スケールの散逸を導入することで,定
常乱流を作った.これは古典乱流と同様のカスケード過程が量子乱流での存在すること
を示した初めての研究である.この業績は,読売新聞,日経産業新聞で報道された.
2. 二成分ボース凝縮体のダイナミクスとテクスチャー(坪田、笠松)
前年度に引き続き,二成分ボースアインシュタイン凝縮体に関する理論的研究を行い,
2つの凝縮体の位相が結合した場合(内൉ジョセフソン効果に相当)渦分子の形成を示
した.また,スピンテクスチャーに関する研究を行った.
3. 交流ଵ流動流れ場中の量子渦の運動(坪田,Hanninen,三ૌ)
現在世界的に関心が持たれている,振動細線によって作られるଵ流動乱流実験に関連
して,簡単なピニングモデルによる,交流流れ場中の量子渦の運動を調べた.交流流れ
場の振動数に共鳴してケルビン波が励֬され,流れ場の強さを増すと,多数の渦の再結
合および生成が֬こり,実験結果と定性的に符合する結果を得た.
4. 回転下ボソン-フェルミオン混合状態(坪田,金本)
回転下の中性原子気体のボソン-フェルミオン混合状態の基底状態の研究を行い,原
子間相互作用と回転振動数に応じて,フェルミオンが様々な状態変化を行うことを明ら
かにした.これらは,量子ドット,量子ホール効果に特徴的な状態を含み,これらの系
との興味深い対応を明らかにしている.
5.ランダムポテンシャル中の強相関ボース流体(坪田,小林)
バイコールグラスなどのナノスケールの多孔体に閉じ込められたヘリウム4を加圧し
た時に,ଵ流動-೪ଵ流動の量子相転移が慶応大学のグループによって観測された.こ
の実験に関連して,閉じ込めポテンシャル中の強相関ボース流体の研究を行い,ボース
凝縮体の局在に関する判定基準を新たに導入することで,実験結果と定量的に良い一致
を得た.
21
教育・研究業績
学術論文
1. K.Kasamatsu, M.Tsubota, M. Ueda: “Vortex molecules in coherently coupled two-component
Bose-Einstein condensates”, Phys. Rev. Lett. 93, 250406(1-4) (2004).
2. M. Kobayashi, M.Tsubota: “Kolmogorov spectrum of superfluid turbulence: Numerical ana
lysis of the Gross-Pitaevskii equation with a small-scale dissipation”, Phys. Rev. Lett. 94,
065302(1-4)(2005).
3. R. Kanamoto, H. Saito , M. Ueda: “Symmetry breaking and enhanced condensate fraction
in a matter-wave bright soliton”, Phys. Rev. Lett. 94, 090404(1-4)(2005).
4. K.Kasamatsu, M.Tsubota, M.Ueda: “Spin textures in rotating two-component Bose-Einstein
condensates”, Phys. Rev. A71, 043611(1-14)(2005).
5. K. Kasamatsu, M. Machida, N. Sasa, M.Tsubota,: “Three-dimensional dynamics of vortex-lattice
formation in Bose-Einstein condensates”, Phys. Rev. A71, 063616(1-5) (2005).
6. K.Kasamatsu, M.Tsubota, M.Ueda: “Vortices in Multicomponent Bose-Einstein Condensates”,
Int. J. Mod. Phys. B19, pp. 1835-1904(2005) (Invited review article ).
7. K.Kasamatsu, M.Tsubota: “Modulation Instability and Pattern Formation in Two-component
Bose-Einstein Condensates”, J. Low Temp. Phys. 138, pp. 669-674(2005).
8. M. Kobayashi, M.Tsubota: “Bose-Einstein Condensation and Superfluidity of Strongly Cor
related Bose Fluid in a Random Potential”, J. Low Temp. Phys. 138, pp.189-194(2005).
9. M.Tsubota, K. Kasamatsu: “Dynamics of Quantized Vortices in Superfluid Helium and Rotating
Bose-Einstein Condensates”, J. Low Temp. Phys. 138, pp. 471-480(2005).
10. R. Hanninen, A. Mitani, M.Tsubota, : “Superfluid 3He-B Vortex Simulations inside a Rotating
Cylinder”, J. Low Temp. Phys. 138, pp. 589-594(2005).
11. R. Kanamoto, H. Saito, M.Tsubota, M. Ueda: “Many-Body Analysis of the Hess-Fairbank Effect
in One-Dimensional Bose-Einstein condensates with attractive interactions ”, J. Low Temp.
Phys. 138, pp. 681-686(2005).
12. M. Tsubota, M. Kobayashi; “Kolmogorov spectrum of the Gross-Pitaevskii turbulence” J.
Physics and Chemistry of Solids 66, pp. 1498-1500(2005).
13. M. Kobayashi, M.Tsubota: “Kolmogorov spectrum of quantum turbulence", J. Phys. Soc. Jpn. 74,
pp. 3248-3258 (2005)..
14. K. Nishioka, M. Suzuki: “Dynamics of unidirectional exciton migration to the molecular
periphery in a photoexcited compact dendrimer”, J. Chem. Phys. 122, 024708(2005).
国際会議講演
1.
2.
3.
4.
5.
M.Tsubota:“Quantized vortices in superfluid helium and Bose-Einstein condensates (Invi
ted), The Third 21COE Symposium : Astrophysics as Interdisciplinary Science, Waseda
Univeristy, Tokyo, Japan, 2005. 9.1-3
R. Hanninen, J. Kopu, E.V. Thuneberg, M.Tsubota: “Stability of Quantized Vortices Und
erRotation: Helically Twisted Vortex Bundle” Ultra-Low Temperature Physics Conference
2005, Gainesville, Florida USA, 2005. 8. 18-20
A.P. Finne, V.B. Eltsov, G. Eska, R. Hanninen, J. Kopu, M. Krusius, E.V. Thuneberg an
d M. Tsubota “Vortex Multiplication in Applied Flow: the Precursor to Superfluid Turbul
ence” Ultra-Low Temperature Physics Conference 2005, Gainesville, Florida USA, 2005.
8. 18-20
M. Kobayashi, “Inertial range of steady quantum turbulence”, Ultra-Low Temperature Phy
sics Conference 2005, Gainesville, Florida USA, 2005. 8. 18-20
A. Mitani, “Correlation between Quantum Vortices and Eddies in Normal Fluid Turbulen
22
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
ce ”, Ultra-Low Temperature Physics Conference 2005, Gainesville, Florida USA, 2005.
8. 18-20
M. Tsubota, M. Kobayashi, “Inertial Range and the Kolmogorov Spectrum of Quantum T
urbulence”, 24th International Conference on Low Temperature Physics University of Flo
rida, Orlando, Florida USA, 2005. 8. 10-17.
A.P. Finne, V.B. Eltsov, R. Hanninen, J. Kopu, M. Krusius, E.V. Thuneberg and M. Tsu
bota, “Relaxation of a Helical Vortex Cluster”, 24th International Conference on Low T
emperature Physics University of Florida, Orlando, Florida USA, 2005. 8. 10-17.
V.B. Eltsov, A.P. Finne, R. Hanninen, J. Kopu, M. Krusius, E.V. Thuneberg and M. Tsu
bota, “Propagation of Quantized Vorticity in a Rotating Column”, 24th International Conf
erence on Low Temperature Physics University of Florida, Orlando, Florida USA, 2005.
8. 10-17.
R. Hanninen, A. Mitani, and M. Tsubota, “Simple Pinning Model for Vibrating Wire Tur
bulence in Superfluid Helium”, 24th International Conference on Low Temperature Physic
s University of Florida, Orlando, Florida USA, 2005. 8. 10-17.
R. Kanamoto, M. Tsubota, “Energy Spectrum of Fermions in a Rotating Boson-Fermion
Mixture”, 24th International Conference on Low Temperature Physics University of Flori
da, Orlando, Florida USA, 2005. 8. 10-17.
M. Kobayashi, M. Tsubota, “Localization of Bose-Einstein Condensation and Disappearan
ce of Superfluidity of Strongly Correlated Bose fluid in a Confined Potential”, 24th Inter
national Conference on Low Temperature Physics University of Florida, Orlando, Florida
USA, 2005. 8. 10-17.
A. Mitani, R. Hanninen, M. Tsubota, “Critical Velocity for Superfluid Turbulence at Hig
h Temperatures”, 24th International Conference on Low Temperature Physics University
of Florida, Orlando, Florida USA, 2005. 8. 10-17.
H. Takeuchi, K. Kasamatsu and M. Tsubota, “Vortex Structures in Rotating Two-compo
nent Bose-Einstein Condensates in an Anharmonic Trapping Potential ”, 24th International
Conference on Low Temperature Physics University of Florida, Orlando, Florida USA,
2005. 8. 10-17.
M. Tsubota, “Quantized vortices in Bose-Einstein condensates”, 14th International Laser P
hysics Workshop (LPHYS’05) July 4-8, 2005, Kyoto, Japan.
R. Kanamoto, H. Saito, M. Ueda, “Center-of-mass fluctuations in a matter-wave bright so
liton”, 14th International Laser Physics Workshop (LPHYS’05) July 4-8, 2005, Kyoto, Ja
pan.
M. Tsubota, “Numerical study of quantum turbulence (Invited)”, Conference on Vortex Ri
ngs and Filaments in Classical and Quantum Systems ICTP, Trieste, Italy, 2005. 6. 6-8.
M. Tsubota, “What we can do from numerical studies (Invited)”, Workshop on New Exp
erimental Techniques for the Study of Quantum Turbulence ICTP, Trieste, Italy, 2005. 6.
9-10 .
学会・研究会講演
1. 小林未知数,坪田誠:「ランダムポテンシャル中の強相関ボース流体におけるボース
凝縮の局在とଵ流動の消失」 日本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
2.坪田誠:「ଵ流動ヘリウムおよび中性原子気体BECの量子流体力学」 (招待講演) 日
本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
3. 佐々成正,町田昌彦,笠松健一,坪田誠:「回転ボーズアインシュタイン凝縮系の3次
元渦糸シミュレーション」 日本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
4.竹内宏光,笠松健一,坪田誠:「೪調和ポテンシャル中の回転2成分ボース凝縮体にお
23
ける渦構造」 日本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
5.R.Hanninen,三ૌຨ,坪田誠:「Quantumturbulencearoundavibratingwire」日
本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
6. 三ૌຨ,R.Hanninen,坪田誠:「「速度に依存しない乱流遷移」は熱カウンター流で
も存在するか?」日本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学
7. 三ૌຨ:「ଵ流動乱流と古典乱流の་似性,相違性」第54回理論応用力学講演会(日
本学術会議メカニクス・構造研究連絡委員会主催)、2005.1.25-27
8.三ૌຨ:「ଵ流動ヘリウム中での乱流遷移」京ற大学数理ӕ析研究所共同研究集会「乱
流現象と力学系的縮約」、2005.1.12-14
9. 小林未知数:「量子流体における乱流現象とエネルギースペクトル:Gross-Pitaevski
i方程式によるӕ析」京ற大学数理ӕ析研究所共同研究集会「乱流現象と力学系的縮
約」、2005.1.12-14
10.坪田誠:「乱流の量子古典対応」(招待講演)九州大学応用力学研究所研究集会「乱
流研究の異分野融合と新たな創成」,2005.6.16-18
11. 金本理奈,坪田誠:「回転ボース・フェルミ混合系における量子渦とフェルミ原子の
相互作用」日本物理学会2005年秋季大会 同志社大学
12.小林未知数.坪田誠;「Gross-Pitaevskii方程式によるଵ流動乱流のエネルギースペ
クトルII」日本物理学会2005年秋季大会 同志社大学
13. 三ૌຨ,坪田誠:「常流体乱流中の量子渦ダイナミクスの統‫ڐ‬的性ࡐ」日本物理学会
2005年秋季大会 同志社大学
14. 藤山将士,R.Hannienn,坪田誠:「量子渦糸と球状粒子の相互作用運動−ଵ流動乱
流の可視化に向けて」日本物理学会2005年秋季大会 同志社大学
15. 佐々成正,町田昌彦,笠松健一,坪田誠:「回転BEC系におけるエネルギー散逸と乱
流状態」日本物理学会2005年秋季大会 同志社大学
学位論文
博士論文
1. 西 岡 圭 太 : 「 樹 木 状 ‫ ݗ‬分 子 デ ン ド リ マ ー に お け る 振 動 エ ネ ル ギ ー
及び励֬子の分子内移動ダイナミクス」
研究助成金取得状況
1.
2.
3.
坪田誠:日本学術振興会・基盤研究(B)「ଵ流動ヘリウムおよび中性原子気体ボース凝
縮系における量子渦の物理」590万円
笠松健一:日本学術振興会特別研究員奨励費 90万円
小林未知数:日本学術振興会特別研究員奨励費 90万円
その他
1.
坪田誠:日本物理学会代議員
24
超高エネルギー研究室
川上三郎
教授
林
嘉夫 助教授
松山 利夫 技術職員
(システム計測室)
小島
田中
野中
大嶋
浩司 (D3)
秀樹 (D3)
敏幸 (D3)
晃敏 (D1)
松本祐輔(M1)
松本慶一郎(M1)
清水伸明(M1)
奥田剛司(B4)
研究概要
1. 宇宙粒子線による点源探索と加速機構の研究(川上,林,松山,小島,田中,野中,大
嶋,松本(慶),松本(祐),清水)
インド・デカン高原南部の Ooty で,タタ基礎研究所との共同研究で表題の研究を行っ
ている。このために大規模空気シャワー観測装置の建設・運転を継続中である。現在,
シンチレーション検出器(1m2)約 280 台および4基のミューオン検出装置(合計 560m
2
,>1GeV)でデータ収集を行っており,データを蓄積しつつ解析を進めている。到来
方向の角度精度の向上を図るために導入した粒子入射時刻較正システムを用いて較正を
行った。また,検出面積の拡張のためにファイバーを使った新しいシンチレーション検
出器 30 台を製作し,空気シャワーアレイに組み込んだ。この様にして得られた空気シャ
ワーの観測結果を解析した結果, 1014∼1015eV 付近においては一次宇宙線の原子核組成
が徐々に重い原子核が増加しているという新しい知見が得られたので,学位論文(田中)
として公表した。
2. 太陽系近傍における宇宙線の異方性の研究(川上,林,松山,小島,田中,野中,大嶋,
松本(慶),松本(祐),清水)
Ooty の大規模空気シャワー観測装置の一部である4基のミューオン検出装置を用いて,
数十 GeV の一次宇宙線の時間変動を高精度で方向別に観測を続け,約 3 年間のデータの
蓄積を得た。これらのデータの解析結果から太陽圏の周辺磁場の構造に関して重要な知
見が得られたので,学位論文(小島)として公表した。
3. L3+Cosmic 実験(川上,林)
L3+C 実験はCERN(ヨーロッパ高エネルギー物理学研究所)において LEP(Large
Electron Collider)のL3実験で用いられた高エネルギーミューオンの運動量を精密に測
定する装置を使用して、宇宙線中の高エネルギーミューオン(15GeV∼1TeV)の測定を
行 っ た 。 実 験 装 置 , 及 び 解 析 の 結 果 は 同 研 究 所 の L3C の ホ ー ム ペ ー ジ
25
(http://l3cosmics.cern.ch:8000/l3c.www)に紹介されている。
L3+C 実験は完了していて現在はデータ解析とまとめが行われている.解析の主なテー
マとしては 1013eV∼1016eV における一次宇宙線の化学的成分の測定,
50GeV∼1TeV
の大気ミューオンのエネルギースペクトラム,ミューオン荷電比,月の影を利用した高
エネルギー宇宙線反陽子の強度観測,太陽フレアに伴う GLE 現象における高エネルギー
ミューオンの観測などが対象となっている。解析の結果 20GeV∼3000GeV の範囲の大気
ミューオンについて高精度なエネルギースペクトラムが得られたので,それを公表した。
4. 新しい日印宇宙線共同研究の検討(川上,林)
ヒマラヤのハンレーにおける高エネルギー宇宙線観測計画の可能性を調査,検討する
ために,タタ研究所を訪れ,今後の共同研究の進め方について議論を行った.その結果
出来るだけ早期に 3m 口径のチェレンコフ望遠鏡を導入することが合意された。
5.宇宙線望遠鏡計画 (Telescope Array Project)(川上,林,田中,野中,松本(祐),松
本(慶),清水,奥田)
宇宙線望遠鏡計画は最高エネルギー領域(∼>1020eV)の宇宙線を,広大な面積を持
つ(∼1000km2)空気シャワー観測装置をユタ州のミラード郡に設置し,観測しようと
する計画である。観測装置の建設には 4 年を要する。この宇宙線望遠鏡は空気シャワー
観測装置としては世界最大であった AGASA(東京大学宇宙線研究所付属明野観にある超
大空気シャワー観測装置;現在は終了)の10倍の規模を持ち,統計精度の良いデータ
の収集が期待されている。
地表検出器はシンチレーション検出器約 500 台を使用し,主として大阪市立大学がこ
の部分の開発・製作を担当している。この他に,大型の固定式蛍光望遠鏡3基により空
気シャワーが大気中を発達する様子を精密に測定し,一次宇宙線の核種やエネルギーな
どを測定する。平成 15 年度から 6 年間の予定で特定領域研究(科研費)が採択され,東
京大学宇宙線研究所を中心として多くの大学が参加している。エンジニアリングアレイ
として 20 台が製作され,その内の 18 台が現地に展開され試験的にデータ収集を行う事
が出来た。
教育・研究業績
学術論文
1.P.Achard, S.K.Gupta, Y.Hayashi, S.Kawakami, S.C.Tonwar et al.
Measurement of the atmospheric muon spectrum from 20 to 3000 GeV
Physics Letters B 598 15‒ 32 (2004)
2.S.K.Gupta, Y.Hayashi, S.Kawakami, H.Kojima, T.Nonaka, H.Tanaka, S.C.Tonwar
et al.
26
GRAPES-3 A high-density air shower array for studies on the structure in the
cosmic-ray energy spectrum near the knee ,
GRAPES-3 ミュオン望遠鏡による宇宙線恒星時異方性の研究
小島浩司:
田中秀樹: GRAPES-3 空気シャワー実験による一次宇宙線原子核組成の研究
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, 540 311-323 (2005)
学会・研究会講演
2004 年秋季大会(2004 年 9 月) 高知大学
日本物理学会
1. 小島浩司:大面積高精度 muon 望遠鏡による方位別宇宙線強度の研究(2)
2. 川上三郎:テレスコープアレイ計画 78:地表検出器の総合試験の評価
日本物理学会
第 60 回年次大会(2005 年 3 月) 東京理科大学
1. 大嶋晃敏:Ooty 空気シャワー実験 20(検出器間の相対時刻較正Ⅳ)
2. 小島浩司:大面積高精度 muon 望遠鏡による方位別宇宙線強度の研究(3)
学位論文
博士論文
(Study of Cosmic Ray Sidereal Anisotropy
with GRAPES-3 Muon
Telescopes)
( A Study of Nuclear Composition of Primary Cosmic Rays
with GRAPES-3
Air Shower Experiment )
研究助成金取得状況
1. 林
嘉夫:学術振興会・基盤研究(B)(360 万円)
「空気シャワーアレイ用粒子到来時刻較正システムによる角分解能向上の研究」
2. 川上三郎:学術振興会・基盤研究C
(50 万円)
「大型ミューオンテレスコープによる太陽フレアと銀河宇宙線の異方性の研究」
3.川上三郎:文部科学省・特定研究
(10,100 万円)
「地表検出器の開発と AGASA 検出器による較正」
4.川上三郎:東京大学宇宙線研究所・共同利用
(55 万円)
「大型ミューオンテレスコープによる銀河宇宙線強度の観測」
海外出張および海外研修
1. 林
嘉夫:インド・タタ研究所「空気シャワー観測による超高エネルギーガンマ線源と
宇宙線化学組成の研究」 2004年8月7日−2004年10月5日
27
インド・タタ研究所「空気シャワー観測による超高エネルギーガンマ線源と
宇宙線化学組成の研究」2005年1月24日−2005年3月8日
2. 川上三郎:インド・タタ研究所,インド・天文物理学研究所
「新しい日印宇宙線共同研究についての打ち合わせ」2005 年 1 月 6 日∼17 日
3.川上三郎:米国・ユタ州・ミラード郡 「宇宙線望遠鏡計画:地表検出器の製作・設置」
2004 年 11 月 15 日∼12 月 1 日
4.奥田剛司:米国・ユタ州・ミラード郡「宇宙線望遠鏡計画:地表検出器の製作及び設置」
2004 年 11 月 15 日∼12 月 23 日
5.松山利夫:米国・ユタ州・ミラード郡「宇宙線望遠鏡計画:地表検出器の製作・設置」
2004 年 11 月 15 日∼12 月 1 日
6.大嶋晃敏:インド・タタ研究所
「空気シャワー観測による超高エネルギーガンマ線
源と宇宙線化学組成の研究」
2004年9月16日−2005年1月10日
その他
1.
川上三郎:東京大学宇宙線研究所実施専門委員
2.
川上三郎:大阪大学附属核物理センター運営委員
28
高エネルギー物理学研究室
奥沢 徹 教授
清矢 良浩 助教授
山本 和弘 助手
平本 潤一(M2)
坂井 俊之(M2)
脇坂 隆之(M1)
東田
翼(B4)
研究概要
1. 陽子・反陽子衝突型加速器を用いた素粒子実験(奥沢,清矢,山本,平本,坂井,脇坂)
米国フェルミ国立加速器研究所における日米協力研究の一環として,陽子-反陽子衝突型加
速器テバトロンと汎用型素粒子検出器CDFを用いた実験を遂行した.Run-Iのデータ収集は
すでに終了しており,重心系衝突エネルギー1.8TeVにおいて積分ルミノシティ約109pb−1の
データが蓄積されている.そのデータを用いた,ヒッグス粒子の探索,トップクォーク性質
の調査,電弱相互作用の測定,QCDの検証,超対称性に関連する新粒子やR-Parityを破る現
象の探索などの実験の解析を行ってきたが,それら一連の解析は終了しつつある.
本年度においても,重心系衝突エネルギ
ー1.96TeV でのRun-IIデータ収集が,順調
に継続中である.加速器のビーム強度も本
年度は10倍以上に増強され,積分ルミノシ
ティも2005 年3月現在で900pb−1となった.
この内,磁気テープに保存されデータ解析
に使用可能な分が約700pb−1となっている.
(図1) この高統計データを用いたヒッグ
ス粒子の探索,ボトムクォークやトップク
ォークの性質をさらに詳しく調べるため
の解析が精力的に進められ,結果も出始め
ている(学術論文1-30).CDF Run-II検出
器の詳細については参考文献1を参照され
たい.我々の研究室では,本年度も検出器
図1:CDFにおける積分ルミノシティ
各部の校正とデータ解析用の大容量ディ
スク装置の更なる整備を行い,解析のため
の計算機能力増強が継続され,主にヒッグス粒子やSUSY粒子探索を遂行している.特に今
年度は中性ヒッグス粒子探索に於いて大きな進展があったので,ここで紹介する.
我々の研究室が担当しているヒッグス粒子の探索モードは
pp → Wh0 → WWW * → A ±ν A±ν X
(1)
というW ボゾン付随生成からのヒッグス粒子がWW * へ崩壊し,終状態に同符号の電荷を持つ
2つのレプトン(e または μ)が現れるというモードである.ヒッグス粒子を除いた素粒子標
準模型ではこの「同符号電荷二重レプトン」という事象は非常に稀なため,標準模型を越え
る素粒子探索には非常にシグナル/ノイズ比が良いという利点がある.我々は2004年夏までに
蓄積された193.5pb−1のデータを用いて同符合電荷二重レプトンを持つ事象を選び出し,様々
な吟味を加えた.先ず種々の検出器からの応答からレプトンであるという同定を与えた後に,
さらに2つのレプトンの横運動量 pT が pT > 20 GeV/c , pT > 6 GeV/c を満たすサンプルを集め
た結果,得られた事象数は標準模型から得られる量と誤差の範囲で一致を見た.特に,図2
に示すようにヒッグス粒子に感度が高い領域(縦軸: pT が小さい方のレプトンの pT ,横軸:
2つのレプトン運動量のベクトル和の横成分)に於いて,期待値0.95±0.61(stat.)±0.18(s
yst.)に対して検出数は0であった.このことから,我々は pp → Wh0 の生成断面積と h0 → WW *
の崩壊分岐比の積 σ ( pp → Wh0 ) ⋅ Br (h0 → WW * ) に対する上限値を95%の信頼度でハドロンコ
ライダーにおいて世界で始めて得ることに成功した.(図3)(参考文献2) 論文は現在執筆中
である.理論値に対してまだ2桁の開きがあるが,現在さらに蓄積された1fb−1のデータを解
29
析中である.また図4は現在までにテバトロンで得られたヒッグス粒子探索全体の様子である.
-1
CDF Run II Preliminary 193.5 pb
60
10
2
Cross section upper limit of WH signal
CDF Run II Preliminary
193.5 pb-1
ee
eμ
μe
μμ
50
10
Signal box
40
Region A
Expected: 0.95± 0.80
Observed:0
Expected: 6.2± 3.4
Observed:3
Observed 95 % C.L. limit
30
1
SM higgs
Region B
Expected: 29.3± 7.1
20
Bosophilic higgs
Observed: 30
10
Region C
1
Expected: 8.1± 3.1
Observed: 12
10
0
0
20
40
60
80
10
100
120
p
(GeV/c)
図2:最終的に得られた事象数に対する期待値との
2
100
120
140 160 180 200
2
Higgs mass (GeV/c )
図3:得られた断面積の上限値(95%C.L.)と理論値と
比較
の比較
Tevatron Run II Preliminary
–
WH eνbb
D0: 382 pb-1
– –
ZH νν bb
D0: 261 pb-1
H WW(*) lνlν
D0: 299-325 pb-1
WH WWW
CDF: 194 pb-1
10
– –
ZH νν bb
CDF: 289 pb-1
1
–
WH lνbb
WH WWW
D0: 363-384 pb-1
H WW(*) lνlν
CDF: 360 pb-1
CDF: 319 pb-1
SM gg H WW
–
(*)
SM WH Wbb
10
-1
SM WH WWW
–
SM ZH Zbb
10
-2
September 29, 2005
110
120
130
140
150
160
170
180
mH (GeV)
図4:現在までにTevatronで得られたヒッグス粒子探索の結果と理論予測
との比較
2. νμ―ντ振動実験(奥沢)
スイス,ジュネーブにある欧州共同利用原子核研究所(CERN)で行ったνμ―ντ振動実験の
解析を継続している.この実験は,ニュートリノの質量の有無を調べることを主目的として
いる.現在は原子核写乾板の画像解析もほぼ終了している.この乾板中に記録された反応は,
通常のν原子核反応としても扱えるので,これを利用してチャームクォークの質量の精密計
測,ν原子核反応前段面積の測定なども行っている(学術論文31-33).
30
3. Hダイバリオン及びペンタクォークの探索(山本)
高エネルギー加速器研究機構(つくば市)の陽子シンクロトロン施設においてK-ビームを
用いたΛΛ超重核探索実験(KEK-PS E373)のデータ解析作業を昨年度に引き続き進行中で
ある.実験内容は昨年度の年次報告を参照されたい.今年度はこれに加えて米国立ブルック
ヘブン研究所または,現在茨城県東海村に建設中の文部科学省大強度陽子シンクロトロン施
設J-PARCで予定されている高統計の次期実験のためのシリコンマイクロストリップ飛跡検
出器の製作とテストを行った.無事に実機の1号機(図5)は完成し,宇宙線を使ったテストも
良好な結果を得ている.また、同じく高エネルギ
ー加速器研究機構においてシンチレーティングフ
ァイバーブロック標的を用いたHダイバリオン共
鳴探索実験(KEK-PS E522)のデータ解析も続行
している.(京都大学,大阪大学,東京理科大学,
岐阜大学,高エネルギー加速器研究機構との共同
研究)これはK-+12C→Λ+Λ+K++X 反応を測
定し,Λ+Λ系の不変質量を再構成することによ
り(uuddss)の6クォーク状態と考えられているH
ダイバリオン共鳴状態を探索するものである.以
前の実験でΛ+Λ系の不変質量にピークらしいも
のが観測された(参考文献3)のを受けて高統計で
図5:シリコンマイクロストリップ飛跡検出器
その真偽を確かめることを目的としている.解析
は最終段階に入っており,プレリミナリな結果ではあるが,やはり今回も理論で予測される
スペクトルよりも多少の超過が確認された(図6).この予想スペクトルに対する統計的優位性
は2.7σである.またこの実験では,同じセットアップを用いて π-+p→K-+Θ+→K-+K
+
+n の反応を仮定してのペンタクォークΘ+の探索も行われた.Θ+は( uudd s )の5クォーク
状態として2003年に世界で始めて日本のSPring-8で発見され(参考文献4),その後ITEP(ロシ
ア),Jeffersonlab(米国),ELSA(ドイツ)等で追認され,測定された質量は1530~1540MeV/c
2である(参考文献5,6,7).しかし,その多くがγ-核子反応からのもので,ハドロン反応での生
成はITEPでの泡箱写真解析による非常に少ない統計しかない状態であったので,今回の
KEKでの実験となった.入射π-の運動量は1.92GeV/cである.データ解析はp(π-,K-)系
でのmissing mass (喪失質量)を計算することで行い,もし終状態に特定の粒子が出来ていれ
ばピークが立つはずである.解析はほぼ終了しており,プレリミナリな結果として図7を得た.
+1.9
2
1530MeV/c 2辺りにバンプが見られる.バンプの中心値は1530 +−2.2
1.9 (stat.) −1.3 (syst.)MeV/c で
あるが,統計的有意性は2.5σであり,統計揺らぎの可能性も否定できないので,今後のより
統計の高いデータが望まれる.
Preliminary
図7:p(π-,K-) 系の missing mass 分布
図6:ΛΛ不変質量分布
31
4.
ハイペロン-核子散乱断面積の測定(山本)
これは山本が大学院時代から参加していた実験で,今年度ようやくデータ解析が終了して
学術雑誌への発表も終わったので,その内容を紹介させて頂く.核子-核子散乱データは今
日まで非常に多くの測定データが蓄積され,
10
10
核子間相互作用の理解は非常に深まっている
8
8
が,その反面,同じバリオンであるΛ,Σ,
6
6
Ξなどのハイペロンとの相互作用の研究は,
4
4
その寿命の短さから来る実験データの少なさ
も相まって未だ発展途上にある.言うまでも
2
2
ないが,その先の目標はバリオン-バリオン
π
0
0
π
間相互作用の統一的理解である.そこで,我々
p
-2
-2
は上記の3.と同じ高エネルギー加速器研究機
Σ
K
K
p
-4
-4
Σ
構陽子シンクロトロン施設において,シンチ
Σ
Σ
レーティングファイバーブロック標的を用い
-6
-6
π
たΣp散乱断面積を求める実験を行い
π
-8
-8
(KEK-PS E289),そのデータ解析を行ってき
-10
-10
た.Σ-p散乱に関しては既に発表済(参考文献
-4
-2
0
2
4
-4
-2
0
2
4
v (cm)
u (cm)
8)であるので,今回はΣ+p散乱の結果である.
図8:シンチレーティングファイバーブロック検出器で
図8はシンチレーティングファイバーブロッ
得られたΣ+p散乱の飛跡
ク標的で得られたΣ+p散乱事象の例で,実験
+
手法としては先ず1.67GeV/c の入射π ビー
ムを使って得られた p(π+,K+)Σ+ 反応を探し出し,そこでのΣ+を今度は入射Σ+ビーム
と見立てて陽子との散乱事象を測定するというものである.Σ + の運動量が350MeV/c ~
750MeV/c の範囲の断面積を求めたのもを図9に示す.理論モデルとの比較においては,
Nijmegenモデル(参考文献9)よりもRGMモデル(参考文献10)の方が近い結果を見せている.
(学術論文34)
+
+
+
+
+
+
+
+
+
(a)
+
(b)
f
T his work
T his work
図9:Σ+p→Σ+pの弾性散乱断面積;(a)Nijmegenモデルとの比較,(b)RGMモデルとの比較
参考文献
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
D.Acosta et al. (CDF Collaboration), Phys. Rev. D 71, 032001 (2005)
http://www-cdf.fnal.gov/physics/exotic/r2a/20041014.lsdilep_whwww/
J. K. Ahn et al. (KEK-PS E224 Collaboration), Phys. Lett. B444, 267 (1998)
T. Nakano et al., Phys. Rev. Lett. 91, 012002 (2003)
V. V. Barmin et al. (DIANA Collaboration), Phys.Atom.Nucl. 66, 1715 (2003)
V. Kubarovsky et al. (CLAS Collaboration), Phys. Rev. Lett. 92, 032001 (2004)
J. Barth et al. (SAPHIR Collaboration), Phys. Lett. B572, 127 (2003)
Y. Kondo et al. (KEK-PS E289 Collaboration), Nucl. Phys. A676, 371 (2000)
Th. A. Rijken, V. G. J. Stokes, Y. Yamamoto, Phys. Rev. C 59, 21 (1999)
Y. Fujiwara, K. Miyagawa, M. Kohno, Y. Suzuki, Phys. Rev. C 70, 024001 (2004)
32
教育・研究業績
学術論文
1. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for Long-Lived Doubly-Charged
Higgs Bosons in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. Lett. 95, 071801 (2005)
2.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “First Evidence for Bs0 → φφ Decay and
Measurements of Branching Ration and A(CP) for B + → φ K + ”, Phys. Rev. Lett. 95, 0 31801 (2005)
3.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the Moments of the
Hadronic Invariant Mass Distribution in Semileptonic B Decays”, Phys. Rev. D 71, 051103 (2005)
4.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the W +W − Production
Cross Section in pp Collisions at s = 1.96TeV using Dilepton Events”, Phys. Rev. Lett. 94, 211801
(2005)
5.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the Forward-Backward
Charge Asymmetry from W → eν Production in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. D 71,
051104 (2005)
6.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for ZZ and ZW Production in pp
Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. D 71, 091105 (2005)
7.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the J /ψ Meson and B
Hadron Production Cross Sections in pp Collisions at s = 1960GeV”, Phys. Rev. D 71, 032001
(2005)
8.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Analysis of Decay-Time Dependence of
Angular Distributions in BS0 → J /ψ φ and Bd0 → J /ψ K *0 Decays and Measurement of the
Lifetime Difference between BS Mass Eigenstates”, Phys. Rev. Lett. 94, 101803 (2005)
9.
D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the Cross Section for Prompt
Diphoton Production in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. Lett. 95, 022003 (2005)
10. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for Anomalous Kinematics in tt
Dilepton Events at CDF II”, Phys. Rev. Lett. 95, 022001 (2005)
11. K. Hara, T. Okusawa, K. Yamamoto et al.: “Sensors for the CDF Run2B Silicon Detector”, IEEE
Trans. Nucl. Sci. 51, 1546-1554 (2004)
12. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya et al.: “Measurements of BB Azimuthal Production Correlations
in pp Collisions at s = 1.8TeV”, Phys. Rev. D 71, 092001 (2005)
13. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya et al.: “Measurement of the W Boson Polarization in Top Decay at
CDF at s = 1.8TeV”, Phys. Rev. D 71, 031101 (2005), Erratum-ibid. D 71, 059901 (2005)
14. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the Forward-Backward
Charge Asymmetry of Electron-Positron Pairs in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. D 71,
052002 (2005)
15. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya et al.: “Measurement of Charged Particle Multiplicities in Gluon and
Quark Jets in pp Collisions at s = 1.8TeV”, Phys. Rev. Lett. 94 ,171802 (2005)
16. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for Scalar Leptoquark Pairs Decaying
to νν qq in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. D 71, 112001 (2005), Erratum-ibid. D 71,
119901 (2005)
17. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for Electroweak Single Top Quark
Production in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. D 71, 012005 (2005)
33
18. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for Anomalous Production of
Diphoton Events with Missing Transverse Energy at CDF and Limits on Gauge-Mediated
Supersymmetry-Breaking Models”, Phys. Rev. D 71, 031104 (2005)
19. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the tt Production Cross
Section in pp Collisions at s = 1.96TeV using Lepton + Jets Events with Secondary Vertex B Tagging”, Phys. Rev. D 71, 052003 (2005)
20. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya et al.: “Comparison of Three-Jet Events in pp Collisions at s =
1.8TeV to Predictions from a Next-to-leading Order QCD Calculation”, Phys. Rev. D 71, 032002
(2005)
21. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of Partial Widths and Search
for Direct CP Violation in D0 Meson Decays to K − K + and π −π + ”, Phys. Rev. Lett. 94, 122001 (2005)
22. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for Excited and Exotic Electrons in the
eγ Decay Channel in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. Lett. 94, 101802 (2005)
23. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of W γ and Z γ Production
in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. Lett. 94, 041803 (2005)
24. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the tt Production Cross
Section in pp Collisions at s = 1.96TeV using Kinematic Fitting of B -Tagged Lepton + Jet Events”,
Phys. Rev. D 71, 072005 (2005)
25. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “First Measurements of Inclusive W and
Z Cross Sections from Run II of the Tevatron Collider.”, Phys. Rev. Lett. 94, 091803 (2005)
26. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Search for Doubly-Charged Higgs Bosons
Decaying to Dileptons in pp Collisions at s = 1.96TeV”, Phys. Rev. Lett. 93, 221802 (2004)
27. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya et al.: “Inclusive Search for Anomalous Production of High pT
Like-Sign Lepton Pairs in pp Collisions at s = 1.8TeV”, Phys. Rev. Lett. 93, 061802 (2004)
28. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al.: “Measurement of the tt Production Cross
Section in pp Collisions at s = 1.96TeV using Dilepton Events”, Phys. Rev. Lett. 93, 142001 (2004)
29. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya et al.: “Direct Photon Cross Section with Conversions at CDF”,
Phys. Rev. D 70, 074008 (2004)
30. D. Acosta, T. Okusawa, Y. Seiya et al.: “The Underlying Event in Hard Interactions at the Tevatron
pp Collider”, Phys. Rev. D 70, 072002 (2004)
31. G. Onengut, T. Okusawa et al.: “Measurement of D*+ Production in Charged-Current Neutrino
Interactions”, Phys. Lett. B614, 155-164 (2005)
32. G. Onengut, T. Okusawa et al.: “Measurements of D 0 Production and of Decay Branching Fractions
in Neutrino Nucleon Scattering”, Phys. Lett. B613, 105-117 (2005)
33. A. Kayis-Topaksu, T. Okusawa et al.: “Experimental Study of Trimuon Events in Neutrino ChargedCurrent Interactions”, Phys. Lett. B596, 44-53 (2004)
34.
J. K. Ahn, H. Kanda, K. Yamamoto et al.: “ Σ + p elastic scattering cross sections in the region of
350 ≤ pΣ+ ≤ 750 MeV/c with a scintillating fiber active target”, Nucl. Phys. A761:41-66 (2005)
学会・研究会講演
1. 清矢 良浩:CDF Run-IIの現状:top, bottom, new physics (特別講演) 日本物理学会2004年
秋季大会,2004年9月27日,高知大学
34
学位論文
修士論文
1. 平本 潤一:「 pp → 2γ + lepton + X によるfermiophobic higgs粒子の探索シミュレーション」
2. 坂井 俊之:「 pp → 4γ + X によるfermiophobic higgs粒子の探索シミュレーション」
研究助成金取得状況
1. 日米科学協力事業費
560万円
海外出張および海外研修
1.
2.
3.
4.
5.
山本 和弘:米国フェルミ国立加速器研究所,2004年8月9日~9月3日,陽子・反陽子衝突型
加速器を用いる実験CDF
清矢 良浩:米国フェルミ国立加速器研究所,2004年8月4日~8月29日,陽子・反陽子衝突型
加速器を用いる実験CDF
清矢 良浩:米国フェルミ国立加速器研究所,2004年12月3日~2005年1月8日,陽子・反陽
子衝突型加速器を用いる実験CDF
清矢 良浩:米国フェルミ国立加速器研究所,2005年2月18日~4月3日,陽子・反陽子衝突型
加速器を用いる実験CDF
奥沢 徹:米国フェルミ国立加速器研究所,2005年3月7日~3月21日,陽子・反陽子衝突型
加速器を用いる実験CDF
35
宇宙・素粒子実験物理学 (重力波分野) 研究室
神田 展行
粟家 律親
本多 了太
教授
(B4)
(B4)
研究概要
1. ブラックホール準固有振動リングダウン重力波の解析 (神田)
本研究室と国立天文台 TAMA300 との共同で、ブラックホールの準固有振動により発生する
重力波をターゲットとしたデータ解析を進めている。TAMA では 10-100 太陽質量のブラッ
クホールを対象として、銀河系内のイベントであればおおむね 60%程度の検出効率が見込ま
れる。ブラックホールの質量および Kerr パラメーターの決定精度についてシミュレーショ
ン計算を行い、重力波を検出した場合の天体に関しての情報について評価している。その結
果、典型的な場合ではブラックホールの質量について 10?20%の精度で決定できることがわ
かり、これは従来の X 線観測などから推定されているブラックホール質量の決定精度よりも
良く、重力波検出による天体物理研究の可能性を示唆した(文献 [1])。
2. レーザー干渉計将来計画 LCGT(神田)
LCGT は重力波の将来計画で、低温サファイア鏡を特徴として、神岡鉱山の地下に 3km の
レーザー干渉計を建設する計画である。現在、検出器の設計や期待される重力波イベントに
よる解析のプロポーザルを製作中である。本研究室では、重力波イベントの探索レンジや角
分布などの基礎的な計算を行い、検出器の満たすべき用件を策定している。
また2台の装置の雑音クロストークの影響をシミュレーションを用いて調べ、全体域での定
常的なバルクの雑音が 40% クロストークしたとして、マッチドフィルターが偶然につくる
雑音(ランダムな2台同時イベント)は SNR > 3 で10倍ほど悪化するという結果を得て
いる。この研究は、装置の独立性についての要求を決めるためのものである。この結果は、
同年の国際会議(9th Gravitational Waves Data Analysis Workshop)にて発表した。
3. 干渉計のデジタルフィードバック制御(粟家)テーブルトップのマイケルソン干渉計をもち
いて、その制御ループの一部をデジタル化しての動作を研究した。従来からのアナログ回路
のみで干渉計を構成した場合に比較して、容易に応答関数を変えたり、高次のフィルタ−を
簡単に実装できるのが有利な点と見込まれている。2004 年度の実験では、アナログーデジ
タル変換器で計算機にとり込んだ信号を、MATLAB 環境で計算処理して、デジタルーアナ
ログ変換器によって電気信号を出力し、制御回路にもどした。ここはデジタルフィルターに
FIR を用い、窓関数を調整して制御を試みた。干渉計動作は実現したが、周波数特性の改善
などを次の課題としている。
4. 変位雑音の観測(本多)前述同様にテーブルトップのマイケルソン干渉計をもちいて、変位
雑音の解析をおこなった。まず、ここではアナログでの干渉計制御、伝達関数の評価をおこ
√
なった。干渉計の感度は、100 Hz で h ∼ 10−12 [/ Hz] 程であった。次に取得した時系列信
号に、非定常な信号(実際にはサインーガウシアン波形)を探索するマッチドフィルター解
析をおこなった。この解析は重力波探索の手法であり、そのためのトレーニングとしての研
究でもあった。
教育・研究業績
学術論文
1. On Detection of Black Hole Quasi-Normal Ringdowns: Detection Efficiency and Waveform
Parameter Determination in Matched Filtering, Y Tsunesada, N Kanda, H Nakano, D
Tatsumi, M Ando, M Sasaki, H Tagoshi, H Takahashi, Phys.Rev. D71 (2005) 103005
36
2. Observation results by the TAMA300 detector on gravitational wave bursts from stellarcore collapses, M. Ando, N.Kanda, et al. (The TAMA collaboration), Phys. Rev. D71,
082002 (2005)
3. Coincidence analysis to search for inspiraling compact binaries using TAMA300 and LISM
data, Hirotaka Takahashi, Hideyuki Tagoshi, Nobuyuki Kanda, et al., The TAMA collaboration and the LISM collaboration, Phys. Rev. D70, 042003 (2004).
国際会議会議録
1. Black hole ringdown search in TAMA300: Matched filtering and event selections, Y Tsunesada, N Kanda, Hiroyuki Nakano, Daisuke Tatsumi, the TAMA collaboration, Class.
Quant. Grav. Vol22, No.18 S1129 (2005)
2. Upper limits on gravitational wave bursts radiated from stellar-core collapses in our Galaxy,
M Ando, et al. the TAMA collaboration, Class. Quant. Grav. Vol22, No.18 S1283 (2005)
3. Burst wave analysis of TAMA300 data with the ALF filter, T Akutsu, N Kanda, et al. the
TAMA collaboration, Class. Quant. Grav. Vol22, No.18 S1303 (2005)
4. Plans for the LIGO-TAMA Joint Search for Gravitational Wave Bursts, Patrick J. Sutton,
Masaki Ando, Patrick Brady, Laura Cadonati, Alessandra Di Credico, Stephen Fairhurst,
Lee Samuel Finn, Nobuyuki Kanda, Erik Katsavounidis, Sergey Klimenko, Albert Lazzarini, Szabolcs Marka, John W. C. McNabb, Saikat Ray Majumder, Peter R. Saulson,
Hideyuki Tagoshi, Hirotaka Takahashi, Ryutaro Takahashi, Daisuke Tatsumi, Yoshiki
Tsunesada, S. E. Whitcomb, Class. Quant. Grav. 21, S1801-S1808 (2004).
5. Analysis for burst gravitational waves with TAMA300 data, M. Ando, K. Arai, R. Takahashi, D. Tatsumi, P. Beyersdorf, S. Kawamura, S. Miyoki, N. Mio, S. Moriwaki, K.
Numata, N. Kanda, Y. Aso, M-K. Fujimoto, K. Tsubono, K. Kuroda and the TAMA
Collaboration, Class. Quantum Grav. 21-5 (2004) S735-S740.
6. Search for Gravitational Waves from Ringing-Down Black Holes, Y Tsunesada, N Kanda
et al. and the TAMA Collaboration, Class.Quant.Grav. 21 (2004) S703-S708
7. ”Present status of large-scale cryogenic gravitational wave telescope”, T. Uchiyama, N.
Kanda, et al, Class. Quantum Grav. 21-5 (2004) S1161-S1172.
学会・研究会講演
1. 神田展行:
「2 台の干渉計信号のクロストークと相関解析における偽イベント棄却」 日本物
理学会 2004 年春 第 59 回年次大会 九州大学
2. 神田展行:特別講演:
「重力波実験の現状と将来計画の重力波源」 日本物理学会 2004 年
秋季大会 高知大学
3. 神田展行:”Simulation Study for Cross-Talk Noise between Two Detectors of LCGT on
Detection of GW”, 9th Gravitational Waves Data Analysis Workshop(重力波源データ解
析国際会議, 第9回)2004 年 12 月 16 日 アヌシー(フランス)
研究助成金取得状況
1. 神田展行:科研費・特定領域 (2)「干渉計のデータ処理とイベント選別・相関解析」1030 万円
37
海外出張および海外研修
1. 神田展行:フランス アヌシー、2004 年 7 月 18 − 24 日、第17回重力と一般相対論国際会
議 出席・座長
2. 神田展行:米国ウイスコンシン州立ミルウォーキー大、2003 年 12 月 16 日∼12 月 22 日、重
力波データ解析国際会議 出席・発表・座長
その他
研究会主催
1. 会議名:第 4 回 TAMA シンポジウム/重力波物理冬の学校
期間:2005 年 2 月 16-19 日
参加登録数:105 名 発表数: 口頭発表 36 件 ポスター 27 件
海外研究者訪問/招聘
1. Prof. Sanjeev V Dhurandhar (ICUAA, 印) : 学術振興会日印自然科学協力事業「高度な技
術による天体観測の総合的研究」により来日 2005/2/9-22
2. Patrick Sutton (Caltech, 米) : 主催会議参加発表ならびに共同研究のため、科学研究費によ
り招聘 2005/2/16-25
3. Rana Adhikari (Caltech, 米) : 主催会議参加発表ならびに共同研究のため、科学研究費によ
り招聘 2005/2/15-26
4. 瓜生 康史 (SISSA, Astrophysics sector, Trieste, 伊) : 主催会議参加発表ならびに共同研究
のため、科学研究費により招聘 2005/2/7-3/21
38
宇宙・素粒子実験物理学研究室
中川 道夫
助教授
三尾野 重義 助教授
寺本 吉輝
助教授
中野 英一
井藤 智史
高橋 渉
寺田 幸司
山本 幸徳
渡辺 雅
貴志 晃治
渡辺 丈智
奥野 裕大
関 郁子
助手
(M2)
(M2)
(M2)
(M2)
(M2)
(M1)
(M1)
(B4)
(B4)
研究概要
1.
KEK Bファクトリー加速器による素粒子実験(Belle)(寺本, 中野, 山本)
高エネルギー加速器研究機構の Belle 実験装置を用いて国際共同実験を行っている.
Belle 実験装置は, Bファクトリー加速器を用いて, 電子・陽電子反応によるB 中間子を大
量生産して, CPの破れの検証やB 中間子の崩壊の測定などを行う目的の装置である. 建
設に置いて, 我々は高抵抗板素粒子検出器 (RPC) を用いた KL 0 ・ミュー粒子検出器を東
北大学などと共同で担当した. データ解析に関しては, 主に荷電粒子の飛跡解析とミュ
ー粒子の同定を担当している. また, 2004年度は物理解析として, 2個の荷電レプトンに
崩壊するモードで, 電荷非対称性を測定する方法を用いて, CP の破れを測定する解析を
担当している.
2.
平行板型素粒子検出器の研究開発(寺本, 中野, 渡辺, 貴志)
高抵抗板素粒子検出器(RPC)は平行な高抵抗板の間にガスを入れ,高抵抗板に8∼10
kV程度の電圧をかけることにより, 荷電を持つ素粒子がこれを通過して時, その位置と
時間を測定できる装置である. 2004年にはRPCの動作メカニズムに関する基礎研究を行
った. RPCには2つの動作モード(アバランチモード,ストリーマモード)があるが, 我々は
特にストリーマモードでの高レートに耐えるガスの研究, 両方のモードの密封したRPC
の特性の研究, アバランチモードのRPCの開発などの研究を行った.
3.
高エネルギー宇宙線の到来時系列のカオス性の研究(寺本, 中野, 井藤)
三石観測所と理学部学舎で観測した高エネルギー宇宙線の到来時系列のフラクタル次
元解析を行なっている. 三石観測所での観測は 1887 日で到来時系列にカオス性を持つ現
象は 607 事象みつかった. また, 理学部学舎での観測は 1536 日でカオス性を持つ現象は
458 事象みつかった.しかしこの 2 箇所で同時に起こったカオス性を持つ現象は見つか
らなかった.
4.
ネットワーク型宇宙線観測装置を使った宇宙線観測(寺本, 中野, 渡辺)
都道府県にまたがって時間相関を持って到来する宇宙線を観測するために,宇宙線の
到来時間を GPS を用いてマイクロ秒の精度で決定でき, インターネットを用いてデー
タをリアルタイムに交換できる簡易型空気シャワー観測装置「宇宙線ステーション」を
開発し, 高校や科学館などに配備し大規模な観測網を構築する計画を 1999 年から始め
ている. 2004 年度には計7台で観測を行なった.今までのところ統計的な揺らぎの範囲
を越えた明確な時間相関を持った現象は見られない.
39
5.
ダブルベータ崩壊測定の準備研究(寺本, 寺田)
ニュートリノがディラック粒子かマヨナラ粒子かを区別する方法として, ニュートリ
ノが放出されないダブルベータ崩壊の存在を見つければマヨナラ粒子であるといえる.
高エネルギー加速器研究機構, および, 日本の数大学との共同研究でダブルベータ崩壊
を測定するための装置の建設の準備研究を行なっている.
6.
ガンマ線バーストの可視光残照観測(中川, 高橋,関)
ガンマ線バーストの発生機構などを研究するために, HETE などのバースト観測専用
人工衛星からのバースト発生報告をGCNからインターネットを通して自動受信し,バー
ストの位置情報に基づいてバースト源の可視光領域の残照を全自動で追尾し,バースト
の可視光天体(OT)の強度変動を自動的に計測記録するシステムの準備を行っている.
7.
PPBを用いたオーロラX線撮像観測(中川)
極地研と宇宙研の共同研究である南極周回気球(PPB)計画に参加して,オーロラの発
生分布を硬X線の二次元像として撮像ができ, さらに硬X線からソフトガンマ線までの広
いエネルギー領域でのスペクトラム観測も出来る観測装置(AXI)を準備し3機の気球に
搭載して3機を編隊飛行させることにより広い空間のオーロラ同時観測を行う計画を準
備してきた.平成15年1月に2機の気球(PPB-8,-10)を放球し, オーロラの観測を行った.
8.
カドテルを用いた新しい硬X線検出器の開発(中川, 高橋, )
最近使用され始めている新素子カドテルおよびGSOを硬X線イメージャーとして使用
するために基礎開発を行っている.
9.
宇宙物質(三尾野)
中国のカンブリア紀, デボン紀, シルル紀, 石炭紀などの堆積岩中の微小鉄塊の抽出
には成功し, 宇宙塵とともにあらゆる堆積岩はこれらを含むことが確認できた.また
PIXE 分析の結果はこれまでの分析と変わりなく, 宇宙起源であることは間違いない.こ
の結果とヒ素汚染の研究結果をつぎの論文にまとめて発表予定である.
(ア) PIXE analysis of native iron nugget in the Paleozoic sedimentary rock of China: Its
provenance and astronomical significance.
(イ) PIXE analysis of hair affected by arsenic ground water pollution on Bangladesh.
教育・研究業績
学術論文
1. T. Lesiak, E. Nakano, Y. Teramoto et al.: “Measurements of masses and branching ratios of Xic+
and Xic0 baryons”, Phys. Lett. B605, 237(2004)
2. G. Majunder, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Observation of B0 →D*-(5π)+,B+→D*-(4π) ++and
B+ →D-bar*0 (5π)+”, Phys. Rev. D(R)70, 111103 (2004)
3. T. Aushev, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Search for CP violation in the decay B0 →D*±D-+”,
Phys. Rev. Lett. 93, 201802(2004)
4. S.U.Kataoka, K. Miyabayashi, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Study of time-dependent CP
violation in B0 →J/ψπ0 decays”, Phys. Rev. Lett. 93, 261801(2004)
5. C.C. Wang, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Study of B0 →ρπ Time dependent CP violation at
Belle.”, Phys, Rev. Lett. 94, 121801(2005)
6. Y. Chao, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Evidence for direct CP violation in B0 →K±π-+ decays”,
40
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
19.
20.
21.
22.
23.
24.
25.
26.
27.
28.
29.
30.
Phys. Rev. Lett. 93, 191802(2004)
Y. Chao, P. Chang, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Improved measurements of partial rate
asymmetry in B → hh decays”, Phys. Rev. D71, 031502(R)(2005)
K. Abe, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Study of double charmonium production in
e+e—annihilation at √s ? 10.6 GeV”, Phys. Rev. D70, 071102(R)(2005)
P. Chang, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Observation of the decays B0→K+π- π0 and
B0 →ρ- K+”, Phys. Lett. B 599, 148(2004)
A. Poluektov, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Measurement of φ3 with Dalitz plot analysis of
B→D(*)K decay”, Phys. Rev. D70, 072003(2004)
Y.-J.Leee, M. –Z. Wang, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Observation of B+→ΛΛ-bar K +”Phys.
Rev. Lett. 93, 211801(2004)
J. Zhang, E. Nakano, Y. Teramoto, et al,: “Measurement of branching fraction and CP asymmetry
in B+→ρ+π0 ”,Phys. Rev. Lett. 94, 031801(2005)
J. Dragic, T. Gershon, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Evidence of B0 →ρ0π0”, Phys. Rev. Lett.
93,131802(2004)
Y. Enari, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Search for the lepton-flavor violating decay τ-→μ- η
at Belle”, Phys. Rev., Lett.93, 0318038(2004)
S. Nishida, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Measurement of the CP asymmetry in B→Xsγ”,
Phys. Rev. Lett. 93, 0318038(2004)
Y. Yusa, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Search for neutrinoless decays τ→3l”, Phys. Lett. B
598, 103(2004)
C.H. Chang, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Measurement of the branching fractions for B→ωK
and B→ωπ”, Phys. Rev. D 70, 012001(2004)
T.R.Sarangi, K. Abe, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Study of CP violating effects in time
dependent B0 B0 bar→D*-+π± decays”, Phys. Rev. Lett. 93, 061803(2004)
P. Koppenburg, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “An inclusive measurement of the photon energy
spectrum b→sγ decays”, Phys. Rev. Lett. 93, 061803(2004)
M. Nakao, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Measurement of the B→K* γ branching fractions and
asymmetries”, Phys. Rev. D 69, 112001(2004)
C. Schwanda, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Evidence for B+→ωl+ν”, Phys, Rev, Lett. 93,
131803(2004)
T. Uglov, E. Nakano, Y. Teramoto et al.: “Measurement of the e+e- →D(*)D(*) cross section”, Phys.
Rev. D 70, 071101(R)(2004)
R.Chistov, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Observation of B+→ψ(3770)K+”, Phys. Rev. Lett. 93,
051803(2004)
K. Abe, E. Nakano, Y. Teramoto, et al.: “Observation of large CP violation and evidence for direct
CP violation in B0 →π+ π- decays”, Phys. Rev. Lett. 93, 021601(2004)
Y. Chao, K. Suzuki, Y. Unno, E. Nakano, Y. Teramoto et al.: “Improved measurement of
branching fractions for B→Kπππ and KK-bar decays”, Phys. Rev. D 69, 111102(R)(2004)
T. Kubo, E. Nakano, Y. Teramoto, “Study of narrow gas gap resistive plate chamber in the
streamer mode”, Nucl. Instr. and Meth. A 516 50 (2004)
M. Watanabe, E.Harimoto, E. Nakano, Y.Teramoto, “Search for a high-rate gas mixture in the
streamer mode operation”, Nucl. Instr. Meth. A 533 50(2004)
I. Nakamura, and M. Nakagawa et al, “Observations of hard X-rays of auroral origin with PPB
No. 8 and 10”, Adv. Polar Upper Atmos. Res. 18, 10(2004)
E.A. Berungi and M. Nakagawa et al., „Balloon observations of temporal variation in the global
circuit compared to global lightning activity”, Advances in space research, (2005) in press
W.Takahashi and M. Nakagawa et al, “Full auto optical afterglow searching system: MIKOTS”,
IL NUOVO CIMENTO (2005) in press
学会・研究会講演
41
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
渡辺雅ほか:
「RPC の rate capability の向上についての研究」日本物理学会 2004 年秋の
分科会 高知大学
井藤智史ほか:
「空気シャワー到来時系列のカオス性について」日本物理学会 2004 年秋
の分科会 高知大学
寺田幸司ほか:
「DCBA 測定器におけるエネルギー分解能の研究」日本物理学会 2004 年
秋の分科会 高知大学
寺田幸司ほか:
「DCBA 測定器におけるエネルギー分解能の研究 II」日本物理学会 2005
年年次大会 東京理科大学
寺本吉輝:
「インターネットを使った中学・高校間宇宙線観測ネットワークの構築と運用」
新世紀型理科教育の科研費全体会議, 日本化学会・化学会館, 2004 年 7 月 30 日
寺本吉輝:
「インターネットを使った中学・高校間宇宙線観測ネットワークの構築と運用」
新世紀型理科教育の科研費全体中間報告会, 日本科学未来館, 2005 年 2 月 18 日
高橋渉ほか:
「PPB8,10号によるオーロラ X 線イメージ観測」大気球シンポジウム,
宇宙科学研究所,2004 年 12 月
中川道夫ほか:
「PPB8 と 10 号によるオーロラ X 線の強度変動について」第 29 回極域宙
空圏シンポジウム,国立極地研究所,2005 年 8 月
学位論文
修士論文
1. 井藤智史:「空気シャワー到来時系列のフラクタル次元解析」
2. 山本幸徳:「Belle 検出器におけるμ粒子検出の向上」
3. 寺田幸司:「二重ベータ崩壊測定器 DCBA におけるエネルギー分解能の研究」
4. 渡辺 雅:「Resistive Plate Chamber の rate capability の向上についての研究」
5. 高橋 渉:「GRB 可視光アフターグロー自動観測装置 MIKOTS の機能と性能」
研究助成金取得状況
1.
中野英一:学術振興会・若手研究(B)「レプトン包含事象による小林・益川行列要素 Vub
の系統的な精密測定」110 万円
2.
寺本吉輝:文部科学省・特定領域研究(2)「インターネットを使った中学・高校間宇宙線
観測ネットワークの構築と運用」370 万円
3.
寺本吉輝:文部科学省・特定領域研究(2)「Belle 検出器の高抵抗板検出器をスーパー
KEKB で使うためのガスの研究」310 万円
4.
寺本吉輝:学術振興会・基盤研究 C「広域空気シャワー観測用の低コスト学校アレイ装
置の開発」200 万円
42
素粒子論研究室
牲川 章
内藤 清一
教授
助教授
尾崎 秀明 (研究生)
乾 雅博 (D1)
幸山 浩章 (M2)
研究概要
1. クォーク物質の磁気的性質の研究(牲川)
クオーク星が存在する可能性が報告されて以来、クォーク物質の性質、特にその相構造の
解明の研究が活況を呈してきた。クォーク物質には種々の相が存在することが指摘されてい
る。それらの内、これまで磁気相についての研究はあまりなされてこなかった。クォーク物
質の磁気的性質を、第一原理の量子色力学( QCD )に基づいて解析した。その結果、クォ
ーク物質は相対的に高密度では常磁性相にあり、密度が下がるにつれて、ある臨界密度で磁
気的相転移が起こり、低密度側では強磁性相にあることが判明した。(論文1、学会・研究
会講演1、4、その他1)
2. クォーク・グルーオンプラズマの圧力の最適化(乾、尾崎、牲川)
大分配関数(圧力)は熱・統計物理学の基本的な量である。クォーク・グルーオンプラズ
マの圧力の QCD の(改良された)摂動論による計算結果には2つの問題点がある。その1
つは、摂動級数の収束性が極めて悪いという事実であり、今1つは現在なされている最高次
数である6次の計算結果が lattice QCD による計算結果と一致しないという事実である。論
文2、学会・研究会講演2、3で、約 20 年前に Stevenson によって提唱された、摂動計算
結果を最適化する方法の1つである Principles of Minimal Sensitivity 処方をクォーク・グ
ルーオンプラズマ圧力の計算結果に適用することにより、lattice QCD による計算結果との
一致が極めて良い結果を得た。
3. 超弦場の量子論( Quantum superstring field theory )(内藤)
アインシュタインの一般相対性理論を量子化すると、
(くりこみ理論を適用できないほどの
)発散が物理的散乱振幅に出現してしまう。この困難を克服するためには、アインシュタイ
ンの重力相互作用を本質的に変更する必要がある。私は既に( 1999 年度以来の年次報告書
に書いたように、)あらゆる相互作用を統一的に記述する統一理論を具体的に構築すること
に成功している。昨年、超弦場量子理論に基ずいて得られた結果を論文としてまとめあげて
発表した。統一理論には、 type 2A, type 2B, heterotic SO(32), heterotic E(8)×E(8), type
1 の5種類があるが、それら全てに共通な性質を簡単に述べる。
超弦( superstring )の生きている世界は二次元の世界であり、これを idean world と呼
んでみる。(プラトン的イデアの世界に比較できるだろう。)一方、我々の観測する物理的世
界( physical world )は 1+9 次元の時空間( space-time )であり、その世界に場( field )
が生きている。この2種類の世界を結びつける量は、開超弦( open superstring )のときは
フィールディーノ( fieldino )であり、閉超弦( closed superstring )のときはフィールドン
( fieldon )である。我々の観測する粒子の相互作用は idean world を伝搬する超弦の運動の
映像として記述できると考える。この idean world における超弦の伝搬は美しい数学形式に
より簡単に記述されるという幸運な特殊事情がある。( idean world の映像である)我々の
物理世界は、無限種類の粒子の存在する世界であり、かつこれらが無限種類の相互作用する
世界である。このように複雑極まりない様相を一見呈しているにも関わらず、時空における
あらゆる物理量が有限値となるのは(重力を含む)統一理論における無限種類の相互作用は
勝手に決められるものではなく、 idean world における超弦の伝搬運動から一意的に規定さ
れるからである。このことが、統一理論のもつ夢のように美しい性質の根源である。
論文3においては、無限種類の場にたいするカイネティック項( kinetic term )を具体的
に与え、その関数形から、fieldon 及び fieldino の伝搬子を具体的に提唱した。これらの場
43
の間に存在する相互作用を具体的に構築している。論文3の主要な結果を述べる。任意の N
粒子の間に相互作用が存在し、かつこれらの相互作用は非局所的である。非局所相互作用を
考えることにより、場の量子論における発散の困難を克服しようとする試みは草創期よりな
されてきたが、このような相互作用をどのようにして(因果律に抵触することなく)構築で
きるのかは今までは知られていなかった。 idean world で超弦が伝搬するモード毎に、我々
の時空における相互作用を決定すれば美しい統一理論が得られるということが論文3の結果
なのである。論文4、5では論文3の結果の導き方を詳細に説明している。
(論文3,4,5
と若干異なる(別の)定式化も可能ではあるが、物理的散乱振幅に関する限り、全く同じ値
を与えることになる。従って、本質的には同じ超弦場量子理論が得られるに過ぎない。)
4. Tsallis 統計力学に基づく熱場の量子論の構築(幸山)
これまでの熱場の量子論は Boltzmann-Gibbs の統計力学をもとに構成されている。この
統計力学は、所謂加法的系を扱う統計力学である。しかしながら、系を構成する粒子が、重力
や(遮蔽されていない)電磁力のような長距離力に支配されている場合は、この「加法性」が
厳密には成立していない。そのような「非加法的な系」を記述する統計力学の1つに Tsallis
統計力学がある。修士論文1で、ǫV T 3 が1の程度の大きさである系の場合に、Tsallis 統計
力学に基づいた摂動論を構築した。ここで、ǫ は Boltzmann-Gibbs 統計力学からのズレを
表すパラメータ、V は系の体積、T は系の温度である。クォーク・グルーオンプラズマでは
、ゲージ粒子であるグルーオンの色磁器部分には遮蔽が生じないか、生じても弱いことがわ
かっている。従って、クォーク・グルーオンプラズマ系では加法性が僅かに敗れている可能
性がある。得られた結果の応用として、このような場合、従来の Boltzmann-Gibbs 統計力
学をもとにしたクォーク・グルーオンプラズマ物理がどのように修正されるかを解析した。
教育・研究業績
学術論文
1. A. Niégawa: ”Ferromagnetism in quark matter”, Prog. Theor. Phys. 113, 581-601 (2005).
2. M. Inui, A. Niégawa and H. Ozaki: ”Improvement of the hot QCD pressure by the minimal
sensitivity criterion”, OCU-PHY-225, hep-ph/0501277 (2005).
3. S. Naito: ”Quantum superstring field theories of five types”, Soryuushiron Kenkyuu, (Kyoto) 108 (2004) 1-15.
4. S. Naito: ”Quantum superstring field theories of type 2 and heterotic type”, (preprint).
5. S. Naito: ”Quantum superstring field theory of type 1 ”, (preprint).
学会・研究会講演
1. 牲川章:
「クォーク物質の磁性」日本物理学会秋の分科会 2004 年 9 月 27 日 高知大学
2. 乾雅博、牲川章、尾崎秀明:
「 PMS 処方によるクォーク・グルーオンプラズマの圧力の最適
化」日本物理学会第60回年次大会 2005 年 3 月 25 日 東京理科大学
3. 乾雅博、尾崎秀明、牲川章:
「クォーク・グルーオンプラズマの圧力の最適化」(素粒子論研
究 110, No.5, E38 (2005) )基研研究会「熱場の量子論とその応用」 2004 年 8 月 9-11 日 京
都大学
4. 牲川章:
「クォーク物質の磁気的性質」(素粒子論研究 110, No.5, E72 (2005)) 基研研究会「
熱場の量子論とその応用」 2004 年 8 月 9-11 日 京都大学
5. 牲川章:
「 Perturbation theory for out of equilibrium quantum-field system and generalized
Boltzmann equation 」YITP Workshop on Non-equilibrium dynamics in the QCD phase
transitions, 2005 年 2 月 22-24 日 京都大学
44
その他
1. 牲川章:
「クォーク物質の磁性相」2004 年 7 月 1 日 広島大学大学院理学研究科にてコロキュ
ーム
学位論文
修士論文
1. 幸山浩章:
「 Tsallis 統計力学を基礎とした有限温度の場の理論の Propagator 」
45
数理物理研究室
糸山浩司
安井幸則
教授
助教授
阪口 真 (COE 上級研究所員)
大田武志 (COE 研究所員)
鷹合孝之 (D4) 藤原和人 (D1)
濱本直樹 (M2)
吉岡礼治 (M2)
丸吉一暢 (M1)
研究概要
1. 超対称ゲージ理論の gluino condensation と prepotential の理論及び N=2 超対称性の部分的
な自発的破れ(糸山、阪口、藤原)
平成 16 年度は、平成 15 年度まで行っていた gluino condensate prepotential に関する A.
Morozov 及び菅野との一連の共同研究の新展開を期すべく、N=2 超対称性の部分的自発的
破れに関する研究を、大阪市立大 藤原・阪口と協同して集中的に行い、二編の論文と一編
の会議録収録にまとめた。局所的な場の理論に於いては、global charge 達の反交換関係に基
づいた議論により、重力を含まない N=2 超対称性の部分的自発的破れは起こりがたいと従
来思われて来た。
第一論文で、我々はこの拘束を逃れ、且つ大統一理論と密接な関係にある U(N)gauge 模型
を構築することに成功した。この構成に際して我々が注目したのは、FI 項の反転を伴う R
不変性と、 Kahler potential の持つ U(N)isometry の gauge 化であった。また前年度まで考
察した、Dijkgraaf-Vafa による、superpotential のためにあらわに N=1 に破れた場合との比
較を行い、fermionic U(1) shift symmetry は近似的にのみ成立し、それゆえ N = 1 ヘの自
発的破れは物理的に興味のある SU(N) 部分に影響を及ぼす事が判明した。
第二論文では、更に進んでこの模型の持っている縮退した真空の同定を行った。SCALAR
場の期待値に対して、 同時対角化可能な配位を持つ真空を尽くし、安定な真空が N=1 を持
つことを示した。 ゲージ群は一般に product gauge group に分かれ、この真空上での N=1
supermultiplet の質量の導出に成功した。質量公式は、Lie 代数の構造定数と prepotential の
三階微分で与えられる美しい形をしている。
上記の研究と並行して、AdS/CFT 対応に於ける Yangian 対称性にもとづいた string spectrum
に関する予備的な考察を、大阪市立大 大田と行った。いわゆる fermionic lightcone gauge
に基づく考察が、量子論 level での Yangian 対称性の考察に最も適しているとの結論を得て
いる。また修士 2 年の吉岡の修論テーマとして、数年前に提唱した USp 行列模型に於いて、
様々な compactT 化に際していくつの超対称性が保たれるかを探索した。以前に開発してい
た formalism を用い、4 次元で 4 個の超対称性を持つ解を見つけた。
2. ブラックホールの幾何学およびコンパクト Einstein 多様体に関する研究(安井、阪口、橋本
(市大数学)、濱本)
Einstein 理論におけるブラックホールの研究は、従来宇宙物理を専門とする物理学者に限ら
れていた。20 世紀後半になって、String 理論および素粒子の統一理論に対する広い関心は、
高次元へブラックホールを拡張する大きなモチベーションを与え、ブラックホールの研究は、
高次元 Riemann 幾何学としてさらにその有用性は拡がっている。
我々は、高次元ブラックホールから、ある種の極限操作を経由することで無限個のコンパク
ト Einstein 多様体が誘導できることを発見した。この研究は、ブラックホールと純粋数学と
しての Riemann 幾何学の間の強い相関を陽に与えるものである。今後、String 理論への応
用を含め、さらなる発展を追究する。
3. 重力/ゲージ理論対応 (安井、阪口)
Tod-Hitchin 空間に基づく weak G2 多様体の構成整数 k ≥ 3 でパラメトライズされた TodHitchin 空間 Ok 上の SO(3) 束として 7 次元 weak G2 Einstein 多様体 Mk を構成し、その上
46
の非等質計量を書き下した。SO(3) × SO(3) があることから、M 理論の解 AdS4 × Mk に双対
な 3 次元共形場理論は、SO(3) フレイバーをもつ N = 3 ゲージ理論、または SO(3) × SO(3)
フレイバーをもつ N = 1 ゲージ理論の IR であることが分かった。
4. AdS 時空上のブレインの共変な分類(阪口、吉田 (KEK))
開弦を使った AdS5 ×S5 および IIB pp-wave 上に存在できるブレインの共変な分類を継続・
発展させ、開膜の境界を調べることで、AdS4 ×S7 、AdS7 ×S4 および M pp-wave 上に存在で
きるブレインの共変な分類を与えた。さらに、Penrose 極限を調べることで AdS 時空上のブ
レインと pp-wave 時空上のブレインの対応を明らかにした。
5. 偶数次元における Berkovits 型ピュアスピノル作用に関する研究(大田)
Green-Schwarz 弦理論を量子化しようとする試みのひとつに、Berkovits らによる、ピュア
スピノルを用いるものがあり、これによって近年、ピュアスピノルにたいする注目が高まっ
ている。そこで、Berkovits 型のピュアスピノル作用の性質について、偶数次元の場合に考
察を行った。ピュアスピノルはある種の拘束に従うスピノルである。とくに、運動方程式に
対するその拘束の影響を調べた。ある射影演算子を含む項が、運動方程式に現れてくること
を明らかにした。
教育・研究業績
学術論文
1. H. Itoyama and K. Kanno, “WHITHAM PREPOTENTIAL AND SUPERPOTENTIAL,”
Nucl. Phys. B686 (2004) 155-164
2. K. Fujiwara, H. Itoyama and M. Sakaguchi, “Supersymmetric U (N ) gauge model and
partial breaking of N = 2 supersymmetry,” Prog. Theor. Phys. 113 (2005) 429 [arXiv:hepth/0409060].
3. K. Fujiwara, H. Itoyama and M. Sakaguchi, “Partial breaking of N = 2 supersymmetry and
of gauge symmetry in the U (N ) gauge model,” Nucl. Phys. B 723 (2005) 33 [arXiv:hepth/0503113].
4. Y. Hashimoto, M. Sakaguchi and Y. Yasui, “New Infinite Series of Einstein Metrics on
Sphere Bundles from AdS Black Holes,” Commun. Math. Phys. 257 (2005) 273-285.
5. G.W. Gibbons, S.A. Hartnoll and Y. Yasui, “Properties of some five dimensional Einstein
metrics,” Class. Quant. Grav. 21 (2004) 4697.
6. Y. Hashimoto, M. Sakaguchi and Y. Yasui, “Sasaki-Einstein Twist of Kerr-AdS Black
Holes,” Phys. Lett. B600 (2004) 270-274.
7. M. Sakaguchi and Y. Yasui, “Seven-dimensional Einstein Manifolds from Tod-Hitchin Geometry,” hep-th/0411165.
8. M. Sakaguchi and Y. Yasui, “Notes on Five-dimensional Kerr Black Holes,” hep-th/0502182.
9. M. Sakaguchi and K. Yoshida, “Open M-branes on AdS(4/7) x S**7/4 revisited,” Nucl.
Phys. B 714 (2005) 51. [arXiv:hep-th/0405109].
10. T. Oota, “Comments on Equations of Motion for Pure Spinors in Even Dimensions,”
hep-th/0411036.
国際会議会議録
1. K. Fujiwara, H. Itoyama and M. Sakaguchi: “U (N ) gauge model and partial breaking
of N = 2 supersymmetry,” arXiv:hep-th/0410132. in the proceedings of 12th International Conference on Supersymmetry and Unification of Fundamental Interactions (SUSY
47
04), Tsukuba, Japan, 17-23 Jun 2004. Published in *Tsukuba 2004, Supersymmetry and
unification of fundamental interactions* 877-882, presented by H. Itoyama
2. M. Sakaguchi and K. Yoshida: “D-branes of covariant AdS superstrings,” arXiv:hepth/0408208. in the proceedings of 12th International Conference on Supersymmetry and
Unification of Fundamental Interactions (SUSY 04), Tsukuba, Japan, 17-23 Jun 2004,
presented by K. Yoshida.
国際会議講演
1. 糸山浩司: “U(N) GAUGE MODEL AND PARTIAL BREAKING OF N=2 SUPERSYMMETRY”
The 12th International Conference on Supersymmetry and Unification of Fundamental
Interactions (SUSY2004) 2004 年 6 月 筑波大学
2. 糸山浩司: “Prepotential and Superpotential”
International Conference “Mathematical Aspects of String Theory” 2004 年 7 月 京都大学
大学理学部数学教室大会議
3. 糸山浩司: “Supersymmetric U(N) Gauge Model and Partial Breaking of N=2 Supersymmetry”
International workshop “Frontier of Quantum Physics” 2005 年 2 月 京都大学基礎物理学研
究所
研究会報告
1. 糸山浩司:「紐理論入門」
研究集会 “Intelligence of Low Dimensional topology” 研究集会報告集 “The Proceedings of
the conference” 2004 年 大阪市立大学文化交流センター
2. 阪口 真: “Dirichlet branes in AdS backgrounds” 研究集会報告集 “Intelligence of Low
Dimensional Topology” 2004 年
3. 阪口 真: “Matrix model on a time-dependent plane-wave” 素粒子論研究「場の理論の基礎
的諸問題と応用」2004 年
4. 阪口 真: “New infinite series of Einstein metrics on sphere bundles from AdS black holes”
基研研究会 場の量子論 2004 年 7 月 13 日-16 日, 素粒子論研究
学会・研究会講演
1. 糸山浩司: “Prepotential and Superpotential”
理研集中セミナー「行列模型と超対称ゲージ理論」 2004 年 7 月 理化学研究所 2. 糸山浩司: “U(N) GAUGE MODEL AND PARTIAL BREAKING OF N=2 SUPERSYMMETRY”
基研研究会「場の量子論 2004」 2004 年 7 月 京都大学基礎物理研究所
3. 糸山浩司: “Supersymmetric U(N) Gauge Model and Partial Breaking of N=2 Supersymmetry”
KEK Theory Workshop 2005 2005 年 3 月 高エネルギー加速器研究機構粒子原子核研究所
4. 糸山浩司,藤原和人,阪口真: “Some Aspects of U(N) Gauge Model with Partially Broken
N=2 Supersymmetry”
2005 年 3 月 日本物理学会 第 60 回年次大会 東京理科大学 48
5. 安井幸則, 橋本義武, 阪口真: “New infinite series of Einstein metrics on sphere bundles
from AdS Kerr Black Holes”
2004 年 9 月 日本数学会 北海道大学
6. 安井幸則, 阪口真: “Seven-dimensional Einstein manifolds from Tod Hitchin geometry”
2005 年 3 月 日本物理学会 東京理科大学
7. 安井幸則: “Kerr black holes and comact Einstein manifolds”
Workshop“Quantum Cohomology and Mirror Symmetry Day” 2005 年 1 月 首都大学東京
8. 阪口 真: “New infinite series of Einstein metrics on sphere bundles from AdS black holes”
2004 年 9 月 27 日-30 日: 2004 年秋季大会 高知大学
9. 阪口 真,安井幸則,橋本義武: “Compact Einstein Metrics and Black Holes”
研究集会「 多様体上の微分方程式 」金沢シリーズ第4回 2004 年 12 月 6 日-8 日 (水) 金沢
大学サテライト・プラザ講義室
10. 阪口 真,安井幸則,橋本義武: “Sasaki-Einstein twist of Kerr-AdS black holes”
05/3/24-27: 日本物理学会 第 60 回年次大会 東京理科大学野田キャンパス
11. 藤原和人,糸山浩司,阪口真: “U(N) Supersymmetric Gauge Model and Partial Breaking
of N=2 Supersymmetry”
日本物理学会 2004 年秋季大会 2004 年 9 月 高知大学
12. 藤原和人,糸山浩司,阪口真: “Supersymmetric U(N) gauge model and partial breaking of
N=2 supersymmetry”
京都大学基礎物理学研究所研究会「場の量子論の基礎的諸問題と応用」 2004 年 12 月 京
都大学基礎物理学研究所 ポスター発表
13. 藤原和人,糸山浩司,阪口真: “Simultaneous realization of Partial Higgs and Partial Breaking of N=2”
2005 年日本物理学会第 60 回年次大会 2005 年 3 月 東京理科大学
学位論文
修士論文
1. 濱本直樹:“Properties of solutions of Einstein’s field equations under the Kerr-Schild
ansatz”
2. 吉岡礼治:「行列模型のコンパクト化」
研究助成金取得状況
1. 糸山浩司 (研究代表者):学術振興会・基盤研究 (C) No.16540262 「ゲージ理論及び紐理論に
於ける可積分性の出現」2004∼2005 年度 230 万
2. 糸山浩司 (研究分担者):学術振興会・特定領域 「超弦理論と場の理論のダイナミクス (A3
超弦理論による素粒子の統一理論と時空構造)」
3. 安井幸則 (研究分担者):学術振興会・基盤研究 (C) No.14570073「特殊ホロノミー群と超対
称サイクルの数理」 4. 安井幸則 (研究分担者):学術振興会・基盤研究 (C) No.14540275「ブレイン宇宙モデルの大
域的構造」
海外出張および海外研修
1. 安井幸則:英国ケンブリッジ大学, 2004 年 11 月, Prof. G.W.Gibbons and S.A. Hartnoll と
の Einstein 計量に関する共同研究
49
その他
1. 糸山浩司:日本物理学会 2004∼2005 世話人
50
宇宙物理研究室
石原秀樹 浜端広充 中尾憲一 三浦輝夫 教授
助教授
助教授
助手
中野寛之(学振PD)
坂根栄作(研究生)
田中泉 (研究生)
栗田泰生(研究生)
古崎広志(D3)
小川浩司(D2)
柳哲 文(D2)
斉藤信也(M2)
松野 研(M2)
岡本一樹(M2)
甲斐智博(M1)
小林信幸(M1)
塩井晋一(M1)
研究概要
<重力理論分野>
現在の宇宙には地球、太陽系から、銀河や銀河団、さらに宇宙全体にわたるさまざまな大
きさのスケールがあります.また時間的にも、宇宙の誕生から百数十億年という宇宙年齢に
いたる長い歴史があります.大きな多様性をもったこの宇宙を理解することは、自然科学の
重要な目的のひとつです.我々は、惑星の運動や地球上での様々な実験をもとに物理法則を
構築し、それを駆使することによって、宇宙に対する理解を深めて来ました.しかし、宇宙
では、現在の技術では実現不可能な高エネルギー、高密度にかかわる物理現象が頻繁に起こ
り、そこでは、ニュートンの万有引力の法則が破綻するほど強い重力場が存在し、重力が物
理現象の主役をなしていると考えられています.このような状況は宇宙における現象でしか
見ることができません.それゆえ、宇宙で起きる物理現象を研究することが、新しい物理学
を開拓するひとつの原動力になります.
宇宙物理(重力)グループでは,アインシュタインの一般相対性理論を基礎として, 宇
宙における強い重力場を伴う物理的現象を重点的に研究しています.2003年度に行った研究
は以下の通りです.
1. ブレイン宇宙モデル
超弦理論は、重力、電磁気力、弱い力、強い力を統一的に記述する理論として最も有望視され
ている.この超弦理論に触発され提案されたブレイン宇宙モデルは、我々の住む4次元時空は高
次元時空に存在する膜のような構造(ブレインと呼ばれる)であると考える.このモデルに関し
て以下のような研究を行った.
1) 静的宇宙モデルにおける重力波の伝播(石原、田中)
ブレインがアインシュタインの静的宇宙モデルと一致するモデルに対する線形摂動を
解析することによって、ブレイン宇宙における重力波の伝播を明らかにした.
2)ブレイン宇宙モデルの量子論 (石原)
一様等方なブレイン宇宙の始まりについて,量子論的なアプローチを試みた.このモ
デルは,1つの自由度だけで記述されるので,それに対して準古典的な量子化条件を課
す.その結果,古典的な宇宙を導くような初期状態は,バウンス状態から始まり,初期
にインフレーションがあることが示唆された.この研究はイタリア,イスラエルの研究
者との共同研究で進めている.
51
3) ブラックホールの熱力学(栗田)
ブレイン宇宙モデルでは、シュバルツシルト解のようなブラックホールの解析解は知
られていない。そのため膜宇宙でのブラックホールの性質は、4次元のEinstein重力の
場合とどのように異なるのかは、はっきりとわからないのが現状である。ところで、4
次元時空に3次元膜が埋め込まれた低次元モデルでは、膜上の局在化したブラックホー
ルの解析解が知られている。そこで東大の工藤秀明氏と共に低次元膜模型で知られてい
るブラックホール解析
解の熱力学量を求め、ブラックホールやブラックストリングの熱力学的安定性を調べた。
そしてブレーンに局在したブラックホールとブラックストリングの間に相転移が存在す
ることを明らかにした。
4) 高次元時空における地平線の形成(柳、中尾)
近年盛んに研究されているブレイン宇宙モデルは、巨視的だが短い距離(0.1mm以下)
では重力相互作用が大きくなるという特徴を持つ.特に、数TeVのエネルギーで衝突する
素粒子間に働く重力は、ニュートンの万有引力から予言される重力より10桁以上大きく
なるため、現在建設中の粒子加速器によって、素粒子質量のブラックホールが形成され
る可能性がある.ところで、ブレイン宇宙モデルでは短距離の重力相互作用は、5次元
あるいはそれ以上の時空次元の重力理論にしたがうため、高次元時空におけるブラック
ホールの形成条件を明らかにすることは、素粒子質量のブラックホール形成を理解する
うえで重要な意味を持つ.そこで東工大の井田氏(現学習院大講師)とともに、5次元
時空の一般相対論を仮定し、ブラックホール形成の条件を数値的に地平線を求めること
により明らかにした.
5) 高次元ブラックホール(石原、松野)
BHと星から成る連星系等では、BHの境界である地平線は、球から歪んだものになると考
えられる。そのような地平線の変形に伴う帯電BH内部の時空特異点の変化を5次元Einste
in-Maxwell系で調べた。軸対称な地平線を持つ帯電BH内部の時空特異点の因果構造は、
球対称な地平線を持つRN-BHと同様に、時間的に伸びたものであった。一方、3軸不等な
地平線を持つ帯電BH内部は、電荷を持たない真空の球対称BHと同様の、空間的に広がっ
た特異点を持つ構造になった。このようなBHでは、物理的でない時間的特異点は存在し
ないので、このBH内のその後の物理現象は、適当な空間的初期面から、余すところなく
一意的に決定される。よって、周囲から受ける影響を考慮した現実的な宇宙において、R
N-BH的な因果構造を持つBHは、一般的でないことが分かった。
2. 宇宙ひも(石原、中野、古崎、小川、斉藤)
近年,宇宙物理や宇宙論あるいは素粒子の統一理論の観点から,「広がりを持つ物体が
盛んに研究されている.これらの運動の軌跡は世界面と呼ばれる部分多様体で,運動を
求めることは部分多様体の埋め込み方を決めることに対応する.その方程式は一般に偏
微分方程式となり,解くことは難しい.しかしながら,世界面がある種の対称性を持つ
場合には常微分方程式になることが知られている.具体的には,世界面が葉層構造を持
ち,各層が,背景時空の等長変換群の軌道となっている場合である.このような世界面
は cohomogeneity-one と呼ばれる.対称性の高い,すなわち等長変換群の次元が大きい
時空では,部分群の構成に自由度があり,様々な軌道を構成できる.このため多くの co
homogeneity-one世界面を得ることができる.しかしながら,それらすべてが独立ではな
い.2 つの世界面を考える.互いに等長変換で写像される場合,それらは幾何学的に同
等となる.これは世界面全体に,等長変換による同値関係が入ることを意味する.我々
の研究の目的は,最大対称空間における cohomogeneity-one 世界面を等長変換により分
類することである.等長変換群の局所構造およびその作用はキリングベクトルによって
52
決まる.よって,キリングベクトルのなす代数の分類を行うことになる.本年はミンコ
フスキー時空中の cohomogeneity-one ひもを分類した.ひもの場合はキリングベクトル
そのものを分類することになる.その結果,cohomogeneity-one ひもの同値類全体が 7
つの 1-パラメータ族に分けられることが分かった.
3. 円筒対称時空の力学的性質(中尾、栗田)
強い重力場を記述する理論の有力な候補である一般相対論によれば、巨大質量の星は
その進化の最終段階で、自らが生み出す重力によって限りなく収縮していく.この現象
は重力崩壊と呼ばれ、エネルギー密度や圧力、温度、そして時空の曲率といった物理量
が無限大になる 領域 を形成する.この領域は時空の裂け目のような構造を持ち、時
空特異点と呼ばれる.時空特異点は観測可能性という観点から二種類に大別することが
できる.一つは、我々のような観測者がそこに行かない限り見ることのできないタイプ
のものであり、ブラックホールはその一例である.そしてもう一つは、原理的に観測可
能なタイプであり、「裸の時空特異点」と呼ばれる.円筒対称時空における重力崩壊は、
よほど特殊な物質でないかぎりこの裸の特異点を形成することが知られている.2004年
度は、基礎物理学研究所の森澤氏と共に,以下のテーマについて研究を進めた.
•
•
ダストが形成する裸の時空特異点からの重力波放出
無衝突粒子から成る無限に薄い円筒殻の力学的不安定生
4. 重力波天文学
1) 重力波の波形予想とデータ解析(中野)
今世紀は、重力波天文学が宇宙における様々な物理現象を理解する上で、重要な役割
を演じることは間違いない.重力波観測によって得られたデータから物理的に有用な情
報を抽出するためには、様々な重力波源からの重力波波形を理論的に予測しておく必要
がある. 2004年度は、この問題に関する3つの研究を行った.まず,既知の重力波源か
らの理論的重力波波形の正確な予測として,銀河の中心にあると考えられる非常に重い
ブラックホール周りを運動する太陽質量程度のコンパクト天体の精密な軌道を議論した.
特に,より効率の良い計算法を発展させた.次に,重力波検出器のデータ解析法の研究
について,ブラックホール固有の減衰振動する重力波(リングダウン)を捕らえる方法
を構築した.この研究を用いて,日本の地上重力波検出器TAMAから得られるデータ
の解析を行っている.
2) 重力波に対する重力レンズ効果(柳,古崎,中尾)
重力は観測を用いて宇宙に存在するコンパクト天体の個数に制限をつける方法につい
ての研究を行っている.重力波は波源から我々に到達するまでに非一様に分布した物質
によって重力レンズ効果を受ける.そこでコンパクト天体連星系からの重力波を用いた
距離-赤方偏移関係に注目する.この場合距離は重力波の振幅によって見積もられる.し
かし重力波が重力レンズ効果を受けた場合その振幅は変化する.その変化は重力波の波
長とコンパクト天体の質量との大小関係によってそれぞれ異なる.宇宙の質量の全てが
一定の質量のコンパクト天体からなるモデルで距離− 赤方偏移関係のシミュレーション
を行った.波長がコンパクト天体の質量に比べて十分長い場合,距離− 赤方偏移関係は
宇宙が完全に一様な場合に一致し,一方,波長がコンパクト天体の質量比べて短い場合,
観測される距離に有意な分散が生じることを示した.重力波の距離− 赤方偏移関係にお
ける分散から宇宙に存在するコンパクト天体の量や質量に制限が付けられる可能性を示
した.
5. 流体を用いたブラックホールアナロジーの研究(中野、栗田、小川、柳)
流体を用いたブラックホールアナロジーを用いて、ブラックホールのホーキング輻射
53
を検証する試みがある。つまり、流体の音波に対する超音速面を音波に対するブラック
ホールとみなすアナロジーを考えるのである。一つの有力候補にボーズ・アインシュタ
イン凝縮体(BEC)を用いたアナロジーがある。ところで、ホーキング輻射の検証の前段階
として音波のアナロジーを何らかの方法で確認しておくことが必要である。我々は、BEC
を用いたアナロジーを確かめる方法として音波の準正規振動数を観測することを提案し
た。それによりアナロジーで対応づくブラックホール時空を識別できることを理論的に
示した。
6. 重力のゲージ理論における重力波に関する理論的研究(坂根)
ポアンカレ群の被服群をゲージ群とする理論は、一般相対論と同様に、強い重力場を
記述する理論の候補の一つである.近年、強力に進められている重力波観測プロジェク
トをにらみ、この重力のゲージ理論における重力波生成とその伝播を研究している.
<流体・プラズマ物理分野>
1. 非線形磁気流体波の厳密解(浜端)
昨年度同様、円筒内の非理想プラズマ中を伝播する非線形磁気流体波の厳密解も見い
だすべく研究を続けている.並進対称性がある場合と軸対称性がある場合については、
波動解のいくつかを見いだし、既に論文として公表しているが、昨年度に引き続き、ら
せん称性がある場合の解についても研究を行い非線形の厳密解を見いだした.現在、よ
り一般的な解を見いだすべく研究を続けている.また、HALL 効果を考慮した MHD 方
程式の非線形磁気流体波の厳密解も見いだすべく検討中であり、近々成果を公表できる
ものと考えている.
また、昨年度に引き続き、自己重力のある、非理想の成層流体中で、温度勾配により
つくられる対流力が存在する場合の非線形磁気流体波の厳密解についても検討中である.
理想流体に対する非線形の厳密解については、既にいくつかの場合について得ており、
以前に報告したことがあるが、これを非理想の場合に拡張している.この問題は、太陽
の対流層や地球の流体核における磁気流体波を、更には、天体磁場生成・維持機構とし
てのダイナモ機構を考えていく上で重要であると考えている.
2. Firehose不安定の非線形発展(浜端)
温度異方性のあるプラズマ中で生じるマクロな不安定である firehose 不安定の非線形
発展について研究し、イオンの有限ラーマー半径効果を考慮した CGL 方程式を数値解
析することにより、firehose 不安定の非線形の時間発展を調べている.既に、firehose 不
安定は、比較的初期の段階では、非線形の解析解とほぼ同じく周期的な時間発展を示す
が、ある時刻を境に解析解から急激に離れ、カオス的な時間発展へと変化していくこと
から、知られている非線形の解析解は不安定で、この解は現実には実現されず、実際に
は firehose 不安定はカオス的になっていくことを明らかにしている.昨年度に引き続き、
解析解がカオス解へ移行するに当たり、乱れの磁気エネルギーの空間一様性が壊れてい
くことに着目し、その効果を取り入れた基礎方程式系を導き、その方程式系を用いて、
firehose 不安定の非線形発展の数値解析を行いつつある.更に、波動・粒子共鳴相互作
用等運動論的効果を考慮するため、Vlasov 方程式を用いた数値シミュレーションも検討
中である.
3. 大 振 幅 Alfvén波 の パ ラ メ ト リ ッ ク 不 安 定 ( 浜 端 )
大振幅のAlfvén波は、太陽風中などで観測され、その安定性の理解が、種々のマクロ
な現象(太陽風の加熱や加速等)を解明する上での基礎として重要であると考えられて
いる.理論的には、平行伝播で円偏波の大振幅Alfvén波は、安定ではなく他のゆらぎ(音
波と他のAlfvén的な波)との相互作用により、パラメトリック不安定を起こし崩壊する
54
ことが知られている.
これまでの研究の多くは単色Alfvén波の限定されていたが、この研究では、大振幅
Alfvén波のパラメトリック不安定に関するGoldsteinの理論をスペクトル幅が有限な場合
に拡張した.その結果、従来から知られている崩壊型の不安定の他、単色波の場合には
現れなかった新しいタイプの不安定も存在することを明らかにしている.
更に、これまで大振幅のAlfvén波について殆ど考慮されてこなかった、波動− 粒子共
鳴相互作用の効果を考慮すべく、Vlasov方程式に基づいた理論解析的及び数値解析的議
論への拡張も検討中である.
4. 非線形ランダウ減衰の数値シミュレーション(浜端、岡本)
プラズマ中の高周波の静電的波動である電子プラズマ波(ラングミュア波)には、ランダ
ウ減衰と呼ばれる現象がある.ランダウ減衰とは、粒子間の衝突による散逸が無視出来るよ
うなプラズマ中においても、波動− 粒子共鳴相互作用によりプラズマ波が指数関数的に減衰
していく、というものである.線形の場合は、解析解が存在するが、非線形の場合は解析的
に解くことは困難である.
この研究では、電子プラズマ波のランダウ減衰を、無衝突プラズマを記述する最も基本的
な方程式であるブラソフ方程式を直接数値的に解くことにより線形・非線形双方の場合につ
いて解析した.具体的には、実空間については、周期境界を仮定し、フーリエ級数展開をし、
また、速度空間については、フーリエ変換をし、変換されたブラソフ方程式を数値的に解い
た.この方法をとることにより、波の伝播や電場が簡単な形で表現出来るようになり、また、
あまり計算時間もかけずに十分な精度のシミュレーション結果が得られた.解析の結果、線
形ランダウ減衰については指数関数的な減衰が見られ、線形の解析解と非常に良い一致を示
した.また、非線形項を考慮した場合、比較的初期については線形ランダウ減衰の傾向を示
すが、時間がある程度経過すると線形ランダウ減衰は終息し、非線形のモード間相互作用及
び非線形の波動− 粒子相互作用により、あるレベルを中心とした有限振幅の振動構造へと移
行していくことを明らかにした.本研究におけるこれらの結果は、今後ランダウ減衰の非線
形過程のみならず他の不安定性等の議論をしていく上でも重要な結果をもたらしたものと考
えられる.
5. 多自由度力学系における時空カオス(三浦)
地球磁場の生成モデルとして研究されてきた力武モデルを高次元に拡張したものは、
高次元カオスの代表的なモデルの一つである.高次元アトラクタの構造を調べることで、
複雑な軌道の中にみられる規則性を調べることができる.
昨年度に引き続き、このような中間自由度系や多自由度力学系でのカオスへ至る道を、
数値計算を実行することで明らかにしている.
6. 情報処理教育用LANシステムでの電子テキストデータベースの構築(三浦)
従来より、学術情報総合センターシステム上で、電子テキストデータベースを構築し
ていた.本年度もこのシステム上で継続して構築している.
教育・研究業績
著作
1. 中野寛之:天文月報2004年5月号シリーズ《ミニラボ。 研究室紹介新ばーじょん(4)
大阪市立大学 大学院理学研究科 数物系専攻 基礎物理学講座 宇宙物理重力分野
55
》
学術論文
1. K. Nakao and Y. Morisawa, High Speed Dynamics of Collapsing Cylindrical Dust Fluid ,
Classical and Quantum Gravity 21, p.2101(2004).
2. Tomohiro Harada and Ken-ichi Nakao, Border of spacetime , Physical Review D70,
041501(2004)
3. K. Nakao and Y. Morisawa, High-Speed Cylindrical Collapse of Perfect Fluid , Progress of
Theoretical Physics 113, p.73 (2005).
4. Hideaki Kudoh and Yasunari Kurita, Thermodynamics of four-dimensional black objects in the
warped compactification , Physical Review D70, 084029 (2004).
5. Yasunari Kurita and Masa-aki Sakagami, CFT description of three-dimensional Hawking-Page
transition , Progress of Theoretical Physics, 113, p.1193 (2005).
6. Hiroyuki Nakano, Yasunari Kurita, Kouji Ogawa and Chul-Moon Yoo, Quasinormal Ringing for
Acoustic Black Holes at Low Temperature , Physical Review D71, 08006 (2005).
7. Hiroyuki Nakano, Hirotaka Takahashi, Hideyuki Tagoshi and Misao Sasaki, An Improved
Template Space for Gravitational Ringing of Black Holes , Progress of Theoretical Physics 111,
p.778 (2004).
8. Wataru Hikida, Sanjay Jhingan, Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Misao Sasaki and Takahiro
Tanaka, A New Analytical Method for Self-Force Regularization I; Charged Scalar Particle in
Schwarzschild Spacetime , Progress of Theoretical Physics 111, p.821 (2004).
9. Hirotaka Takahashi, Hideyuki Tagoshi et al.: The TAMA collaboration and the LISM
collaboration, Coincidence analysis to search for inspiraling compact binaries using TAMA300
and LISM data , Physical Review D70, 042003 (2004).
10. Yoshiki Tsunesada, Nobuyuki Kanda, Hiroyuki Nakano, Daisuke Tatsumi, Masaki Ando, Misao
Sasaki, Hideyuki Tagoshi and Hirotaka Takahashi, On Detection of Black Hole Quasi-Normal
Ringdowns; Detection Efficiency and Waveform Parameter Determination in Matched Filterin ,
Physical Review D71, 103005 (2005).
11. Wataru Hikida, Sanjay Jhingan, Hiroyuki Nakano, Norichika Sago, Misao Sasaki and Takahiro
Tanaka, A new analytical method for self-force regularization II.; Testing the efficiency for
circular orbits , Progress of Theoretical Physics 113, p.283 (2005).
国際会議会議録
1.
2.
3.
H. Nakano, H. Takahashi, H. Tagoshi and M. Sasaki:“Effective search for gravitational ringing of black holes”, proceedings of the 13th international workshop on General Relativity and
Gravitation in Japan, 2003年12月1日 - 4日, 大阪市立大学
Tanaka and H. Ishihara: “Gravitational wave propagation in static brane universe”, proceedings
of the13th international workshop on General Relativity and Gravitation in Japan, 2003年12
月1日--4日, 大阪市立大学
H. Kozaki: Distance-redshift relation in a Swiss-cheese universe”, proceedings of the 13th international workshop on General Relativity and Gravitation in Japan, 2003年12月1日--4日,
大阪市立大学
国際会議講演
1.
Hiroyuki Nakano, Yasunari Kurita, Kouji Ogawa and Chul-Moon Yoo,
Quasi-normal Ringing
th
for Black Holes in Low Temperature , the 14 international workshop on General Relativity and
Gravitation in Japan, Yukawa Institute for Theoretical Physics, December 2004.
56
2.
Kouji Ogawa, Hideki Ishihara, Hiroshi Kozaki, Hiroyuki Nakano, Gravitational Radiation from
Stationary Cosmic String ,the 14th international workshop on General Relativity and Gravitation
in Japan, Yukawa Institute for Theoretical Physics, December 2004.
3. Chul-Moon Yoo and Ken-ichi Nakao and Daisuke Ida, The Condition of Black Hole Formation
in Five-Dimensional Space-Times , the 14th international workshop on General Relativity and
Gravitation in Japan, Yukawa Institute for Theoretical Physics, December 2004.
4. Yasunari Kurita, Yoshiyuki Morisawa and Ken-ichi Nakao,
Mass Deficit in Cylindrically
th
Symmetric System , the 14 international workshop on General Relativity and Gravitation in
Japan, Yukawa Institute for Theoretical Physics, December 2004.
5. Hiroshi Kosaki, Cohomogeneity One Cosmic Strings in Maximally Symmetric Spacetme , the
14th international workshop on General Relativity and Gravitation in Japan, Yukawa Institute for
Theoretical Physics, December 2004.
6. Ken Matsuno and Hideki Ishihara,
Deformed horizon and singularity in 5-dim. Charged black
th
hole , the 14 international workshop on General Relativity and Gravitation in Japan, Yukawa
Institute for Theoretical Physics, December 2004.
7. Chul-Moon Yoo and Ken-ichi Nakao and Daisuke Ida,
The Condition for Higher Dimensional
th
Black Hole Formation , the 17 international conference on General Relativity and Gravitation,
Convention Centre of the Royal Dublin Society, July 2004.
8. Hiroyuki Nakano,
Gravitational Self-Force in the Schwarzschild Spacetime , the 17th
international conference on on General Relativity and Gravitation, Convention Centre of the
Royal Dublin Society, July 2004.
9. Ken-ichi Nakao and Yoshiyuki Morisawa,
Extremely High Speed Collapse of Cylindrical
th
Perfect Fluid , the 17 international conference on General Relativity and Gravitation,
Convention Centre of the Royal Dublin Society, July 2004.
10. Hiroyuki Nakano, Gravitational Self-force under Regge-Wheeler Gauge , Capra Radiation
Reaction Meeting (Capra7), Texas University May 2004.
学会・研究会講演
1. 中尾憲一、中野寛之:「Cosmic StringによるBlack Objectの形成」日本物理学会 2004年
秋の分科会 高知大学朝倉キャンパス
2. 中野寛之,佐合紀親,佐々木節,疋田渉,田中貴浩,Sanjay Jhingan:「シュバルツシル
ド時空での重力的反作用の取り扱い」日本物理学会 2004年秋の分科会 高知大学朝倉
キャンパス
3. 栗田泰生、中尾憲一:「Cylindrical gravitational collapse with null dust」日本物理学会 2004
年秋の分科会 高知大学朝倉キャンパス
4. 工藤秀明、栗田泰生:「Thermodynamics, uniqueness of slicings and stability of brane-black
objects String」日本物理学会 2004年秋の分科会 高知大学朝倉キャンパス
5. 吉野裕高、栗田泰生、冨松彰:「Thermodynamical quantities of deformed black holes」日
本物理学会 2004年秋の分科会 高知大学朝倉キャンパス
6. 柳哲文、中尾憲一、井田大輔:「5次元時空におけるブラックホールの形成条件」日本
物理学会 2004年秋の分科会 高知大学朝倉キャンパス
7. 柳哲文、古崎広志、中尾憲一:「非一様宇宙における重力レンズ効果の波長依存性」日
本物理学会 2005年年次大会 東京理科大学野田キャンパス
8. 栗田泰生、森澤理之、中尾憲一:
「円筒対称時空の質量欠損について」日本物理学会 2005
年年次大会 東京理科大学野田キャンパス
9. 中野寛之、佐合紀親、佐々木節、疋田渉,田中貴浩,Sanjay Jhingan:「シュバルツシ
ルド時空における質点の自己重力の影響」日本物理学会 2005年年次大会 東京理科大
学野田キャンパス
57
10. 中尾憲一、Sanjeev Seahra:「Dynamical Model of a Brane World Black Hole」日本物理学
会 2005年年次大会 東京理科大学野田キャンパス
11. 古 崎 広 志 、 石 原 秀 樹 : 「 Cohomogeneity One Cosmic Strings in Maximally Symmetric
Spacetime」日本物理学会 2005年年次大会 東京理科大学野田キャンパス
12. 小川浩司、石原秀樹、古崎広志、中野寛之、斉藤信也、田中泉:「定常回転する宇宙ひ
もからの重力放射」日本物理学会 2005年年次大会 東京理科大学野田キャンパス
13. 柳哲文、中尾憲一、井田大輔:「The condition of black hole formation in five-dimensional
spacetime」 時空特異点とその周辺 研究会 [特定領域研究2(調弦理論の宇宙論によ
る研究)] 大同工業大学 2005年1月
14. 中尾憲一、栗田泰生:「円筒対称系における質量欠損」 時空特異点とその周辺 研究
会 [特定領域研究2(調弦理論の宇宙論による研究)] 大同工業大学 2005年1月
15. 古崎広志:「Classification of Cohomogeneity One Cosmic Strings in MaximallySymmetric
Spacetime」 時空特異点とその周辺 研究会 [特定領域研究2(調弦理論の宇宙論によ
る研究)] 大同工業大学 2005年1月
16. 小川浩司、石原秀樹、古崎広志、中野寛之、斉藤信也、田中泉:「定常回転する宇宙ひ
もからの重力放射」 時空特異点とその周辺 研究会 [特定領域研究2(調弦理論の宇
宙論による研究)] 大同工業大学 2005年1月
17. 松野研、石原秀樹:「電荷を持つ5次元ブラックホールにおける地平線の変形と特異点」
時空特異点とその周辺 研究会 [特定領域研究2(調弦理論の宇宙論による研究)] 大
同工業大学 2005年1月
18. 中野寛之、高橋弘毅、田越秀之、佐々木節:「シュバルツシルト時空における質点の重
力的自己力」TAMAシンポジウム・重力波物理学冬の学校 大阪市立大学 2005年2
月
19. 小川浩司、石原秀樹、古崎広志、中野寛之、斉藤信也、田中泉:「定常剛体回転する宇
宙紐からの重力放射」TAMAシンポジウム・重力波物理学冬の学校 大阪市立大学
2005年2月
20. 松野研、石原秀樹:「電荷を持つ5次元ブラックホールにおける地平線の変形と特異点」
TAMAシンポジウム・重力波物理学冬の学校 大阪市立大学 2005年2月
21. 小川浩司、石原秀樹、古崎広志、中野寛之、斉藤信也、田中泉:「Gravitational Radiaton
from Rogodly Rotating Cosmic Strings」理論天文学懇談会 東京大学 2004年12月
その他
1. 石原秀樹:出張授業「ブラックホールの物理学」大阪府立大手前高校 2004年6月16日
2. 石原秀樹:出張授業「ブラックホールの物理学」大阪市立東高校 2004年12月20日
3. 中尾憲一:出張授業「ブラックホールの物理学」三重県立上野高等学校 2004年7月2日
4. 中尾憲一:出張授業「ブラックホールの物理学」大阪府立高石高等学校 2004年7月16日
5. 中尾憲一:出張授業「ブラックホールの物理学」大阪産業大学付属中学校
2004年8月27日
6. 三浦輝夫:「情報処理教育用電子テキストデータベース」
ocunes(Osaka City Univ. Network System), 1990-2004
学位論文
修士論文
1. 岡本一樹:「ランダウ減衰の数値シミュレーション」
2. 斉藤信也:「対称性をもつ南部-後藤ストリングの古典解」
3. 松野研:「電荷を持つ5次元ブラックホールにおける地平線の変形と特異点」
博士論文
58
無し
研究助成金取得状況
1.
2.
3.
4.
5.
6.
石原秀樹:学術振興会・基盤研究(C)(2)(代表)「ブレイン宇宙の幾何学的構造」
石原秀樹:学術振興会・基盤研究(B)(1)(分担)「一般相対論的宇宙現象の研究」
石原秀樹:学術振興会・基盤研究(B)(2)(分担)「超弦理論の宇宙論による検証」
中尾憲一:学術振興会・基盤研究(C)(2)(代表)
「高次元重力理論における位相欠陥の重力崩壊とその安定性に関する理論的研究」
中尾憲一:学術振興会・基盤研究(C)(2)(分担)「ブレイン宇宙の幾何学的構造」
中尾憲一:学術振興会・基盤研究(B)(1)(分担)「一般相対論的宇宙現象の研究」
海外出張および海外研修
1. 石原秀樹:アイルランド,フランス,イタリア,2004年7月14日-9月26日,一般相対論
的宇宙物理学の研究打ち合わせのため.
2. 中尾憲一:アイルランド・ダブリン,2004年7月,17th International Conference on
General Relativity and Gravitationに参加,発表及び研究打ち合わせのため.
3. 中野寛之:アイルランド・ダブリン,2004年7月,17th International Conference on
General Relativity and Gravitationに参加,発表及び研究打ち合わせのため.
4. 古崎広志:アイルランド・ダブリン,2004年7月,17th International Conference on
General Relativity and Gravitationに参加及び研究打ち合わせのため.
5. 柳哲文:アイルランド・ダブリン,2004年7月,17th International Conference on General
Relativity and Gravitationに参加,発表及び研究打ち合わせのため.
6. 中野寛之:米国・テキサス大学ブラウンズビル,2004年 5月,Capra Radiation Reaction
Meeting (Capra7)に参加,発表及び研究打ち合わせのため.
その他
無し
59
原子核理論研究室
櫻木弘之
有馬正樹
教授
講師
生田賢吾(D3)
森下正則(D3)
鎌野寛之(D2)
岡村龍也(M2)
富松信右(M2)
前中善行(M2)
古本猛憲(M1)
坂戸裕昭(M1)
村上永里子(M1)
研究概要
1. マスターフォーミュラを用いたπN→ππN反応の研究(鎌野、森下、有馬)
π中間子が関わるハドロン反応を理解するためにはカイラル対称性の役割に着目する
ことが重要である。従来は「π中間子の運動量展開」にもとづくカイラル摂動論による
研究がさかんに行われていた。しかし、πN→ππN反応などでは核子共鳴の影響が大き
いために摂動論的な扱いができない。一方、マスターフォーミュラは摂動論によらない
一般論であり、核子共鳴が活躍する状況でも適用できる理論的処方である。我々は、こ
の方法をπN→ππN反応におけるRoper共鳴:N*(1440) の寄与についての研究に応用し、
その有効性を確かめた。その結果、さまざまな電荷の組み合わせに対する反応断面積を
説明することに成功し、さらにN*(1440) を経由してS波でππを放出する過程が重要で
あることを示した。
2. スキルム模型におけるヘッジホッグ解の安定性について(富松、鎌野、有馬)
有名な構成クォーク模型とは一線を画すスキルム模型は、QCDの非摂動的な性質をソ
リトンの存在という形であらわす核子の有効模型である。しかし、その定量的な取り扱
いはヘッジホッグ解の存在仮定に頼るところが多く、その仮定そのものについての疑問
は従来より存在していた。ここでは安定なπ中間子の配位を求めるために、アイソベク
トル空間での中間子場の配位をベクトル球面調和関数による表現を利用して一般化し、
ヘッジホッグ解も含めて、解の安定性について議論した。その結果、アイソスピン・ス
ピンの量子化を行わない古典的な考察をする限りでは、ヘッジホッグ解が最も安定なπ
中間子の配位をあたえることがわかった。
3. 微視的チャネル結合法を用いた16C非弾性散乱の研究(高階、延与、櫻木)
中性子過剰核である16Cは、核内での陽子と中性子の分布や変形度が大きく異なり、変
形対称軸も陽子と中性子で90°ずれている可能性が指摘されている。この研究では、16C
の構造を解明するため、「微視的チャネル結合法」に基づいて、最近、理研で測定された
中間エネルギーでの16C+208Pb非弾性散乱を分析した。具体的には、AMD(反対称化分子
動力学)が予想する、16Cの異なる構造に対応する数種類の波動関数を用いた反応計算と
実験データを比較する事により、構造の違いや波動関数の微小な差異までも反応分析を通
して検証可能であることを明らかにした。
4.
14
Cの高励起領域における 4He+10Beクラスター構造の研究(前中、櫻木)
14
Cは中性子が陽子より2個多い中性子過剰核であるが、その基底状態や低励起領域の励
起状態は通常の安定核同様、殻模型でよく記述されることが知られている。ところが、
最近行なわれた実験で、7Li+ 9Be → 2H+ 14C*という核反応で励起された高励起の14C*が
14
C*→ 4He+ 10Be に崩壊するチャネルに幅の狭い多くの共鳴状態が発見され注目を集め
60
ている。本研究では、4He+ 10Be 系の弾性・非弾性散乱を、10Beの内部励起効果を取り入
れた微視的チャネル結合法によって分析したもので、14C*→ 4He+10Be(0+) および 14C*→
4
He+ 10Be(2+) 崩壊チャネルで観測された共鳴が 4He+ 10Be系のクラスター構造状態とし
て理解出来る事を示した。
5.
3
Heのグローバル光学ポテンシャルの研究(岡村、勝間、櫻木)
核反応を用いた原子核構造の研究は広範に行なわれているが、反応解析に不可欠なも
のが光学ポテンシャルである。陽子、重陽子、4He散乱の光学ポテンシャルは、豊富な弾
性散乱の実験データをもとに系統的研究がなされ、ポテンシャルの関数パラメータをエ
ネルギーや標的核の原子番号と質量数の関数としてあたえる「グローバル光学ポテンシ
ャル」が確立しており、これらの入射核を用いた核反応分析に重要な役割を果たしてい
る。一方、3Heについては「グローバル光学ポテンシャル」は確立されていない。その最
大の理由は、スピン偏極した3Heビームを生成することが実験的に困難な為で、そのため
光学ポテンシャルのスピン・軌道力部分が決まらないという問題がある。そこで、この
研究では、スピン・軌道力部分を微視的相互作用模型(double-folding model)を用いて理
論的に導出し、その上で中心力部分のパラメータを弾性散乱実験から現象論的に決定す
るという手法で「3Heのグローバル光学ポテンシャル」を構築することを試みた。具体的
には、40Ca および 58Ni 標的核について、3Heの入射エネルギーがElab=30∼450 MeVの散
乱データを分析し、光学ポテンシャルのパラメータをエネルギーの関数として関数化す
ることに成功した。今後は、標的核依存性をも含む完全なグローバル化を目指す。
教育・研究業績
著書
なし
学術論文
1. H. Kamano, M. Morishita and M. Arima : “Chiral Symmetry and N*(1440)→Nππ Decay”,
Phys. Rev. C71, 045201 (2005).
2. M. Takashina, Y. Kanada-En’yo, and Y. Sakuragi : “16C inelastic scattering studied with the
microscopic coupled-channels method”, Phys. Rev. C71 , 0546020 (2005).
国際会議会議録
なし
国際会議講演
なし
学会・研究会講演
1. 鎌野寛之、森下正則、有馬正樹:「N*(1440)→Nππ崩壊におけるカイラル対称性の明白
な破れ」 日本物理学会 2004 年秋季大会 高知大学
その他
1. 櫻木弘之:東京工業大学大学院・理工学研究科特別講義(集中講義)
「原子核反応の理論」(2004年12月2-3日)
61
2.
3.
櫻木弘之: 東工大・原子核物理セミナー講演
「非弾性散乱を用いた不安定核構造の研究」(2004年12月2-3日)
櫻木弘之:物理出張授業「大学の物理学科では何を学ぶのか」
(京都府立南陽高等学校、2004年11月17日)
学位論文
修士論文
1. 富松信右:「スキルム模型の量子化と核子の質量」
2. 岡村龍也:「Global Optical Potential for 3He」
3. 前中善行:「14Cの高励起領域における 4He+ 10Beクラスター構造の研究」
研究助成金取得状況
なし
海外出張および海外研修
なし
その他
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