「人事労務のホームドクター」による 今月の年金情報! 弊社パートナーの 社会保険労務士 野村安弘先生 配偶者の加給年金は変幻自在 Y雄さんは68歳(昭和23年5月10日生)になりました。長年勤めた会社を65歳で退職し、今は年金生活 です。Y雄さんは年金が減ったといわれます。昨年4月は例外として、毎年下がる一方の年金にうんざり していたのに、今度の下がり方は大きいと、かなりご立腹の様子です。 Y雄さんと妻のN子さんは3歳違い(昭和26年1月20日生)。専業主婦で国民年金の加入期間しかないN子 さんもこの1月に65歳になり、すぐに老齢基礎年金の手続きをしました。2月分から年金がもらえるよう になりましたが、事前に年金事務所で聞いていた年金額よりも多く、訳もわからないままに喜んでいま した。ところが、今度はY雄さんの年金が2月分から減ってしまいました。なぜ年金が減ったのかどうし ても理解できず、すっきりしません。 ●加給年金は配偶者が65歳まで 厚生年金に20年以上加入していた夫に扶養されている妻がいると、「加給年金」という、いわば扶養 手当のような加算(年間約40万円)が付きます。しかし、これは妻が65歳になるまでのこと。Y雄さ んの場合も、N子さんが65歳になったので、加給年金はそこで打ち切られてしまったのです。 ●年下の妻の方がお得ということ? Y雄さんは60歳から報酬比例部分の老齢厚生年金をもらい始め、64歳から加給年金が加算されるよう になりました。その時点でN子さんは61歳。結果、Y雄さんは4年間しか加給年金をもらっていないこ とになります。 Y雄さんは考えました。 「では、もし妻が10歳年下だったら、自分が74歳になるまでこの扶養手当はあ ったのか…?」。お考えのとおりです。 ●加給年金はいつから支給? ほかにもY雄さんは疑問に思うことがありました。自分より1歳年下の会社の後輩は、65歳になって初 めて妻の扶養手当を受け取り始めたというのです。Y雄さんの場合は64歳からだったのに、何かの間 違いでしょうか。 Y雄さんは昭和23年生まれの人です。60歳から報酬比例部分(給与の平均で計算した年金)の老齢厚 生年金をもらい始め、一定の年齢(Y雄さんの生年月日なら64歳)になると、その額に定額部分(加 入月数で計算した年金)の老齢厚生年金が加算されるようになる世代です。 ところが、昭和24年4月2日より後に生まれた男性は、60歳からは報酬比例部分の年金しかもらえませ ん。加給年金は、Y雄さんが64歳になった時のように、報酬比例部分と定額部分の両方が受け取れる ようにならないと加算されないのです。後輩は、60歳から65歳までは加給年金はもらえない世代だっ たというわけです。 Y 雄さんの後輩のように、加給年金が加算されないだけならまだしも、昭和 28 年 4 月 2 日より後に生 まれた男性は、報酬比例部分の年金ですら受け取る年齢がだんだん遅くなっていきます。結局は、誰も 65 歳になって初めて自分の年金と加給年金の支給が同時に始まる、ということになります。 ●加給年金の行方 妻が65歳になったら、加給年金は形を変えます。夫の年金からは消えてなくなり、今度は「振替加算」 に形を変えて妻の年金に上乗せされます。加給年金額が振り替わることから、振替加算と呼ばれます。 N子さんの年金が、事前に年金事務所で聞いていた額より多かったのは、振替加算が付いているから です。 加給年金額がそっくりそのまま妻の年金に上乗せされるのならいいのですが、そうではありません。 振替加算の額は低くなります。妻の年齢が若いほど少なくなって行き、昭和41年4月2日より後に生ま れた妻には支給されません。 ●もし妻が年上だったら? Y雄さんが64歳になって定額部分の年金が加算されるようになったとき、すでにN子さんは67歳にな っていたとしましょう。その場合は、Y雄さんは、一度も自分自身の年金として加給年金を受け取る ことなく、いきなり、N子さんの老齢基礎年金の振替加算となってしまいます。 ●熟年離婚・再婚の場合は? 離婚したら、やはり、妻に対する扶養手当なんてつかないんでしょうね…。そのとおり、加給年金は もらえません。加給年金を受け取っている人が離婚をすればそこまでです。もし届け出が遅れて加給 年金をもらい過ぎていれば、必ず返さなければなりません。 余談ですが、加給年金は離婚でなくなってしまいますが、振替加算は離婚してもなくなることはあり ません。たとえ夫が死亡しても、引き続き受け取ることができます。 60歳で離婚。61歳から給与の平均で計算した年金を受け取り、65歳から加入月数で計算した年金を受 け取れる男性の場合、加給年金は65歳からとなるのですが、61歳時点で妻がいなくても65歳までに再 婚していれば、加給年金は支給されます。65歳を過ぎて再婚しても支給はされません。 ●夫婦共働きの場合は? 夫婦どちらもが厚生年金に20年以上加入している場合、夫にも妻にも加給年金の権利ができます。お 互いの扶養手当をもらい合えば、二人の老後の生活はバラ色…? 年の差や生年月日などの条件を考えずにいえば、夫婦両方に加給年金の権利が発生した場合は、夫婦 両方とももらえません。 配偶者加給年金は、特別加算も含めると年間約40万円(昭和18年4月2日以降生)と、結構大きな 金額です。妻が65歳までという期間の限定はありますが、離婚や再婚が絡んでくると、知ってい るのと知らないのでは大きく違ってきます。 「二人とも受け取れないなら 19 年加入以降はパートになろう」、 「加給年金がもらえるうちに再 婚したい」、「振替加算が付いたら離婚しよう」など、制度の複雑さから当事者の気持ちまで複雑 になりそうです。 お問い合わせ先 野村社会保険労務士事務所 TEL 0856-22-1184
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