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LCAによる燃料エタノールのWell-to-Wheel評価 - 小林研究室

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燃料エタノール生産・利用における温室効果ガス排出の削減効果
−
LCA 手法によるサトウキビからの燃料エタノールの Well-to-Wheel 評価
茨城大学農学部
−
小林 久
注)本文は,”Assessment of greenhouse gas emissions in the production and use of fuel ethanol in Brazil”
(サンパウロ州環境局,2004,37p.)の資料を除く推計結果の部分の翻訳をベースに,一部加
筆して作成したものである.
1.分析の要約
サトウキビから生産される燃料用エタノールとサトウキビの圧搾残さである「バガス」
は,石油系の化石燃料の代替エネルギーの消費として,ブラジルにおける温室効果ガス
(GHG)排出の削減に大きな貢献を果たしている.しかし,サトウキビの栽培∼収穫∼輸
送∼加工の各段階には石油などの化石資源が使われているので,燃料エタノールとして適
正に評価するためには,自動車走行のための代替燃料消費の段階だけでなく,製造プロセ
スにも焦点を当てた,Well-to-Wheel(一次エネルギーの採掘から燃料タンクに充填され
[Well-to-Tank],さらに車両走行まで[Tank-to-Wheel])の効果を分析する必要がある。
このような観点から,本文ではサトウキビ栽培からの燃料エタノール製造と使用段階で
の燃料エタノール消費を対象に,GHG排出量を推計し,化石燃料を使用した場合との比較
を試みる.
GHG排出量は,他の研究との対比を容易にするために,CO2換算排出量(CO2 eq.)とし
て推計するが,一般的にエネルギー効率を評価する場合,次のような3水準のエネルギーフ
ローに分けて比較することが妥当である.
水準 1−対象プロセスにおいて直接消費される燃料・エネルギー量(直接的エネルギー
消費)
水準 2−直接的エネルギー消費に加えて,その燃料・エネルギーの生産プロセスに投入
される資源や燃料・エネルギー使用(間接的エネルギー消費).生産プロセス
に投入される資源や燃料としては,農業生産に使用される農薬や肥料,発電
のために燃やされる石炭・天然ガスあるいは添加剤・潤滑剤などがある.
水準 3−「水準 2」に加えて,直接消費をするための機器・機械,さらに燃料・エネル
ギー量生産のための施設・設備などの製造、組み立てや機器のメンテナンス
において使用される付加的なエネルギー量.
サトウキビ栽培とエタノール生産/バガス利用に関連する各種資源・エネルギー・デー
タは,有効性・精度さらにその存在自体の点において多様である.サンパウロ州製糖業者
組合(Coperucar)は,制約はあるものの,比較的信頼性が高く,利用可能な情報を収集し,
サトウキビ栽培∼エタノール/バガス生産までの資源・エネルギー利用に関するインベン
トリ・データを整備している.このインベントリ・データは,透明性が確保されている点,
明確な情報源情報をもつという点において優れたデータベースといえるので,本分析では
基本的にこのインベントリ・データをベースとしている.
ここでの分析では,二つシナリオ(シナリオ1と2)に関するエネルギーフロー評価が
試みられている.シナリオ1は,平均的なエネルギーおよび物資の消費に基づいて,燃料
用エタノール生産/バガスを利用する場合を想定している.シナリオ2は,サトウキビ栽
培∼エタノール生産/バガス利用の一連産業セクターにおいて,現時点で最も優れた省エ
ネルギー/省資源技術・システムを適用し,最も効率的なプロセスで生産する場合を対象
としている.なお,本研究では,各シナリオについてエネルギーの消費/生産の収支をサ
トウキビ1トン当たり(TC)で推計,比較している.
シナリオ1と2のエネルギー消費に関する推計結果は、サトウキビ栽培段階がそれぞれ
48,208 kcal/TC 、45,861 kcal/TC,エタノール生産段階がそれぞれ 11,800 kcal/TC,9,510 kcal/TC
となった.したがって,総エネルギー消費はシナリオ1で 60,008 kcal/TC,シナリオ2で
255,371kcal/TC となる.一方,総エネルギー生産(エタノール、バガス)は,シナリオ1と
2で,それぞれ 499,400kcal/TC、565,700kcal/TC と推計され,産出エネルギー(再生可能エ
ネルギー生産)に対する投入エネルギー(化石エネルギー消費)の割合(産出投入比)は,
シナリオ1が 8.3、シナリオ2が 10.2 と見積もられた.
サトウキビ栽培∼エタノール生産/バガス利用の全プロセスにおける GHG 排出は,化石
エネルギー(軽油、重油等)消費によるものとその他に起因するもの(サトウキビ残渣の
燃焼,肥料類の分解など)に分けられる.
化石エネルギー消費に基づく GHG 排出は,シナリオ1,2で,それぞれ 19.2kg CO2eq./TC、
17.7 kg CO2eq./TC と推計された.一方,その他に起因する GHG 排出は,両シナリオともに
12.2kg CO2eq./TC と見積もられた.自動車走行において必要となる化石資源のガソリンは燃
料エタノールで代替することが可能である.同様に,熱エネルギーを得るために燃焼され
る化石資源の重油は,バガスで代替することができる.このような化石資源の燃料エタノ
ール/バガスの代替によって削減される GHG 排出は、無水エタノールをガソリンで代替す
る場合,シナリオ1,2で,それぞれ無水エタノール 1m3 当たり 2.6t CO2eq./m3、2.7t CO2eq.
/m3 と見積もられた.また,含水エタノールでガソリンを代替する場合はシナリオ1,2
で,それぞれ含水エタノール 1m3 当たり 1.7t CO2eq./m3、1.96t CO2eq./m3 と推計された.
2.背景と目的
ブラジルのサトウキビ産業は GDP の 2.2%を占める経済活動であり、80 億米ドルの売上
げと、およそ百万人の雇用創出に寄与している。最大のサトウキビ生産地であるサンパウ
ロ州では 40 万人以上の雇用創出があり,多くの地方自治体の経済の基幹をなすとともに,
波及的な雇用・経済効果に大きく貢献している。
このサトウキビ産業は、効率的に燃料エタノールを生産・供給することで,枯渇性資源
消費の抑制に寄与している.25%エタノール混合ガソリンとしての燃料利用,アルコール
エンジン専用自動車の燃料あるいはフレックス燃料車(エタノール,ガソリンあるいは両
者の混合物のいずれも燃料として使える車)への利用などによる広範なエタノール利用は、
ブラジルを温室効果ガス排出削減に寄与する中心的な国家としての位置づけを担保してい
る.
2003 年/2004 年作付け期のブラジルの燃料エタノール生産は、14.4 億リットルに達し、
そのうちの 89.6%はサンパウロ州を含むブラジルの中南地域で生産されている.エタノー
ル生産に加え、サトウキビからの製糖/エタノール生産プロセスは,
「バガス」という有益
な副産物を産出している.この副産物は,製糖工場や蒸留所で使用される電力や動力を供
給するための発電や蒸気タービン駆動に広く利用され,枯渇性資源である石油を代替する
燃料となっている.このようなバガスの石油代替も,枯渇性の原燃料の消費にともなう GHG
排出の削減に少なくない貢献をしている.
(1)目的
サトウキビから生産される燃料エタノールなどの再生可能エネルギーの価値とその関連
産業分野が果たす環境保全効果を,より的確に理解するためには,社会的に認知された手
法に基づく適正な評価とそのための情報提供が必要である.そのために,ここではブラジ
ルの製糖工場とエタノール工場における生産プロセスを対象として,燃料エタノールの生
産∼消費までの GHG 削減効果を,ライフサイクル分析(LCA)手法を活用して明らかにす
ることを目的とする.
インベントリ・データは,サンパウロ州製糖業者組合(Copersucar)傘下の工場で 1985
年と 1998 年にサトウキビからのエタノール生産におけるエネルギー消費量を把握するため
の調査データを基本とし,2002 年の調査により更新されたものである.ただし,最初の調
査報告作成時に採用したインベントリ・データ整備の枠組み,とくに分析プロセスの区分
と境界は、本分析でも基本的にそのまま踏襲している.また,1985 年と 1998 年の調査時に
設定した条件のうち,今回最新情報を得ることが難しかったもので,かつ全体のエネルギ
ー消費量の推計に対して及ぼす影響が極めて小さいものは,本分析でも修正を加えずに使
用している.ただし,1992 年に初版が発行され,1996 年データとして 1998 年に修正され
た Copersucar 技術センター(CTC)のエタノール生産∼使用時の GHG 排出の削減効果の評
価についての研究成果は,この分析では大幅に更新/修正されている.
(2)方法
分析対象のプロセスは,資材・エネルギー消費に関して,2つのケースを想定して設定
されている.一つは現在稼動している工場の資材・エネルギー消費量の平均値を採用した
ケース(シナリオ1)であり,もう一つは現時点で採用可能な最も効率のよい技術を用い
た時の消費量を用いたケース(シナリオ2)である。この 2 シナリオの採用は,現状と将
来導入可能な技術体系の分析および比較とともに,先駆的にいくつかの工場に導入されて
いる先端的な技術の有効性の検証をも意図している.ただし,先端的ではあるがまだ実験
室レベルと考えられる技術や発展途上の技術は,まだ実用段階に至っていない技術として
本分析の対象外とした.
一方,圃場で火入れを行なわないサトウキビの機械による収穫法は,既に一般化されつ
つある方法であり,GHG 排出削減に効果が大きいので,現行ケース(シナリオ 1)の分析
において考慮されている.
本分析では,既存の分析結果との比較のために,次のような 3 水準のエネルギーフロー
についての推計を行なった.また,GHG 排出量の算定に用いるパラメータ,原単位は原則
として IPCC が奨励する値を使用している.
水準 1−直接消費される外部の燃料およびエネルギー量(直接的エネルギー消費)
水準 2−資材・燃料として使用される農薬・肥料,電力・天然ガスあるいは添加剤・潤滑
剤などの生産プロセスに投入される資源や燃料・エネルギー量(間接的エネル
ギー消費).
水準 3−直接消費において使用される機器・機械・設備や燃料生産のための施設・設備な
どの製造、組み立て,メンテナンスに必要な付加エネルギー量.
(3)インベントリ・データ
サトウキビ産業の全プロセスにおける全国的データベースは,未だ完成していない.本
分析では,ブラジルのサトウキビ生産の約 85%を占める中南部地域のサトウキビ栽培の農
業∼製糖・エタノール生産のプロセスを代表する信頼性および透明性のある情報を基にし
たデータベースを使用している.本分析において,主に参照した資料は次のようなもので
ある.
・Copersucar: Agricultural Benchmark Program(26 to 21 mills in the State of Sao Paulo):
Copersucar 提携工場の農業プロセスにおけるインベントリ,パラメータなどを多数提
供する報告書で,十分に吟味された月別、年別の平均値が求められている.
・Copersucar: Indusrial Benchmark Program(17 to 22 mills in the State of Sao Paulo):
Copersucar 関連工場から選ばれたいくつかの工場の工業プロセスにおけるインベント
リ,パラメータなど(能率、化学製品使用量など)を整理した報告書で,関係者での
十分な査定を経た月別、年別の平均値が求められている.
・Copersucar: Agricultural MonthlyPerformance Follow up Program(98 mills in the
Center-South region): 中南部地域における Coperscar 関連工場の農業プロセスの情
報を提供する資料であるが,データの透明性とデータ採取手順の一貫性が上記の2資
料より劣っている.
なお,本分析では,基本的に 2001/2002(収穫期)のデータを可能な範囲で使用している.
ただし,サトウキビの生産性などの天候が影響する項目については,5 栽培期間(1998/99
∼2002/2003)の平均値を採用している.
3.排出量推計の枠組みと手順
通常,サトウキビを原料とする燃料エタノールは,製糖と並行するプロセスで生産され
る.エタノール生産を対象に LCA 手法を適用して GHG 排出を評価するためには,“独立し
た蒸留アルコール製造”という概念で捉えられている製糖プロセスを分離したエタノール製
造のみのプロセスを抽出する必要がある.
分析範囲を,“独立した蒸留アルコール製造”のプロセスに限定するというアプローチは,
燃料生産段階の GHG 排出を見積ることができるので,燃料別の GHG 排出量をライフサイ
クルにわたって(Well-to-Wheel で)比較するために適している.同時に,このアプローチ
は、サトウキビから生産された燃料エタノールが使用されない場合(化石燃料のみが使わ
れる状況)と燃料エタノールを使用する場合(ブラジルの現状)を比較するためにも有効
である.
ここで行なう分析は,サトウキビ生産段階∼エタノール製造段階∼燃料としての使用段
階までを対象範囲としている.なお,分析を円滑に行なうために,GHG 排出量は次の4グ
ループに区分して推計されている.
(1)グループ1
光合成による植物生産(大気からの炭素固定)と,植物体の分解・燃焼や燃料エタノー
ルとしての燃焼による炭素放出に関連する炭素フローである.
1.a
大気からの炭素の固定(光合成)
1.b 収穫前に行われるサトウキビ畑への火入れによる炭素放出(約 80%のサトウキビの
穂と葉が 90%燃焼する)
1.c
サトウキビ畑への火入れ時の未焼却部の圃場での酸化
1.d エタノール発酵時に放出される CO2
1.e
ボイラー(発電用など)での熱・エネルギー生産のためのバガス燃焼により放出さ
れる CO2
1.f 自動車エンジンで燃料エタノールの燃焼により放出される CO2
サトウキビ生産による炭素固定∼エタノール・バガスの燃焼による炭素放出は,巨視的
に見れば固定−放出のサイクルを形成すると考えられるので,このグループ 1 の炭素フロ
ーは基本的にカーボンニュートラルが成立するといえる.また,サトウキビ畑における過
去数十年間の土壌炭素含有量変化は微増の傾向を示すが,土壌炭素の富化・劣化について
は,データの不足,精度上の問題から,充分な分析が行なえないものと判断し,分析対象
の炭素フローからは基本的に除外する(サトウキビ栽培が始められる前の土地に比較して,
栽培後は土壌有機物含量が明白に増加する傾向があるといわれる).
グループ1の炭素フローは,このような前提に基づき,バイオマス生産による固定と使
用による放出が均衡することで最終的に収支は「ゼロ」になるものとし,ここでは 1.a∼1.f
については分析に含めないものとする.
(2)グループ2
全ての化学製品の製造およびそれらの農業・工業プロセスでの投入,栽培や生産に使用
される機械・機器の製造および施設・建物の建設・維持に使用される石油系燃料の燃焼・分
解に関連する炭素フローである.グループ 2 は,基本的に炭素放出に寄与する炭素フロー
といえる.
2.a
サトウキビ栽培(耕作、灌漑、収穫、輸送など)における石油系燃料使用にともな
う CO2 放出.
2.b
サトウキビ栽培などにおいて投入される資材等(種、除草剤、殺虫剤、化学肥料、
石灰など)の生産・調達・使用にともなう石油系燃料使用にともなう CO2 放出.
2.c
農業プロセスにおいて必要となる機械・設備などの資本財の製造・維持にともなう
石油系燃料使用にともなう CO2 放出.
2.d
エタノール製造段階の工業プロセスにおいて投入される資材等(石灰、硫黄酸、殺
生物物質、潤滑剤など)の生産・調達・使用にともなう石油系燃料使用にともなう
CO2 放出.
2.e
工業プロセスにおいて必要となる機械・設備・施設・建物などの資本財の製造・維
持にともなう石油系燃料使用にともなう CO2 放出.
(3)グループ3
石油系燃料の使用に関係しない亜酸化窒素(N2O)とメタン(CH4)の排出に相当する次
のような内容のグループである.グループ 3 も,基本的に GHG 放出に寄与する.
3.a サトウキビ畑の火入れにともなって放出される N2O と CH4 の排出.
3.b 化学肥料の分解にともなう土壌から N2O 放出
3.c 蒸気ボイラーのバガス燃焼により放出される CH4 の排出.
3.d エンジン駆動時の燃料エタノー燃焼により放出される CH4 の排出.
(4)グループ4
このグループは、燃料エタノールを使用することによる GHG 放出削減の効果(GHG 排
出回避)を算定するための「仮想的」GHG 排出に関わるフローである.ここでは,燃料エ
タノール燃焼とガソリン燃焼による GHG 排出の差,バガスをとして使う場合と使わない場
合(燃料油使用する場合)の GHG 排出の差を算出して,化石燃料使用による GHG 放出の
回避量を推計する.
4.a ガソリンを代替する燃料エタノールの燃焼により削減できる GHG 放出
4.b 燃料油を代替するバガス使用により削減できる GHG 放出
グループ1のフローは、最終的にカーボンニュートラルが成立すると仮定するので,こ
こではグループ2∼4のフローが主な分析対象となる.なお,一般的にグループ2とグル
ープ3の GHG 放出量は,グループ4のそれよりも概ね 1 桁小さいと考えられている.これ
は、サトウキビからの燃料エタノール生産が,アメリカにおけるトウモロコシからの燃料
エタノール生産と異なり,生産プロセスで直接消費される石油系燃料の消費が小さいうえ
に,生産に必要となる機械・機器や施設・設備などの資本財に関連する原燃料消費がさら
に小さいという,一般的な原材料生産のエネルギー消費構造と類似した構造をもっている
ことを示している.
4.排出量の推計結果と評価
(1)サトウキビ生産における石油燃料消費
サトウキビ生産において考慮されるべきエネルギー消費を,前述の 3 水準に区分して整
理すると次のようになる.
水準 1−農業生産段階に機械使用や輸送などに使用される石油系燃料(軽油).
水準 2−化学肥料、土壌改良剤、農薬(除草剤、殺虫剤)や種子などのサトウキビ栽培
に投入される資材類の製造時に消費される燃料・エネルギー消費.
水準 3−使用する農業機械・施設などの製造・維持のためのエネルギー消費.
水準
表 1 サトウキビ生産におけるエネルギー消費
エネルギー消費
シナリオ 1
シナリオ 2
(kcal/TC)
(kcal/TC)
Fuel
1 Agricultural operations/harvesting (A2)
Transportation (A3)
水準 1 計
2 Fertilizers (A4)
Lime (A5)
Herbicide
Pesticides
Seeds (A6)
水準 2 計
3 Equipment (A7)
水準 3 計
Total
9,097
10,261
19,358
15,890
1,706
2,690
190
1,404
21,880
6,970
6,970
48,208
9,097
8,720
17,817
15,152
1,706
2,690
190
1,336
21,074
6,970
6,970
45,861
水準1における燃料(軽油)消費にともなうエネルギー消費は、軽油の低位発熱量(LHV)
9,235kcal/L に,軽油の製造、加工,輸送時に消費されるエネルギー量 2,179 kcal/L を加
えたエネルギー原単位 11,114kcal/L を用いて算出する。仮に,燃料エタノールを燃料のみの
エネルギー価値として,他の燃料と比較するのであれば,軽油のエネルギー原単位は LHV
値を用いればよい.しかし,本分析ではライフサイクルにわたる燃料としての Well-to-Wheel
の GHG 排出量比較を目的としているので,軽油についても製造∼輸送∼使用の全段階で使
われるエネルギー消費を積算して比較に用いるものとする.このような考え方で,推計さ
れるサトウキビ生産段階のエネルギー消費は表 1 のようになる.
表 1 の数値は,種類を問わず消費する燃料・エネルギーを単純にエネルギー量として推
計したものである.資源の採掘や原料・製品の製造に投入される電力,燃料別熱量などのエ
ネルギー源とエネルギー量の割合は,主にエネルギー白書(BEN-2002)のデータを参照し
ている.
(2)エタノール生産プロセスにおける石油系燃料の使用
サトウキビから燃料エタノールを生産するプロセスにおけるエネルギーフローは,3 水準
について,それぞれ次のような内容となる.
水準 1−購入電力(バガスを利用するため,基本的に外部からのエネルギー資源投入
はない)
水準 2−化学薬品、潤滑油などの必要資材の製造段階に投入されるエネルギー
水準 3−施設,プラントの建設や維持,各種機器の製造時のエネルギー消費
表 2 は、2 つのシナリオについて水準 1∼3 の推計結果をまとめたものである.水準 1 の
エネルギー投入が「0」であることは,エタノール生産プロセスに外部からのエネルギー投
入が一切ないことを示している.これは,ほとんどのサトウキビ圧搾工場が,サトウキビ
残さのバガスを燃料とする蒸気ボイラーを装備し,発電,動力を得ていることによるもの
である.通常,バガス発電による発電量は,工場内での電力需要より大きく,余剰が発生
している.詳細は「(5)間接的 GHG 排出の削減」で詳述するが,余剰分は外部に供給さ
れ,シナリオ1で 40,300kcal/TC,シナリオ2で 75,600kcal/TC と推計される.
エタノール生産、バガス燃焼による余剰電力(余剰バガスのエネルギー生産)および化
石エネルギー消費をエネルギーの産出/投入として整理すると表 3 のようになる.シナリ
オ 1 および 2 のエネルギー産出投入比として,それぞれ推計される 8.3,10.2 は,トウモロ
コシを原料とするアメリカの燃料エタノール生産のそれらと比較して,極めて大きな値で
ある.
水準
1
2
3
表 2 エタノール生産プロセスにおけるエネルギー消費
エネルギー消費
シナリオ 1
シナリオ 2
(kcal/TC)
(kcal/TC)
Electric energy
0
0
Chemicals and lubricants (A9)
1,520
1,520
Buildings (A10)
2,860
2,220
Heavy equipment
3,470
2,700
Light equipment
3,950
3,070
Total
11,800
9,510
表 3 サトウキビ栽培∼エタノール生産プロセスにおけるエネルギーの生産と消費
エネルギー生産と消費
シナリオ 1
シナリオ 2
Activity
(kcal/TC)
(kcal/TC)
Sugar cane production
48,208
45,861
Agricultural operations
9,097
9,097
Transportation
10,261
8,720
Fertilizers
15,890
15,152
Lime, herbicides, pesticides etc.
4,586
4,586
Seeds
1,404
1,336
Equipment
6,970
6,970
Ethanol production
11,800
9,510
Electricity
0
0
Chemicals, lubricants
1,520
1,520
Buildings
2,860
2,220
Equipment
7,420
5,770
External energy flows
Input
Output
Input
Output
Agriculture
48,208
45,861
Factory
11,800
9,510
Ethanol produced
459,100
490,100
Surplus bagasse
40,300
75,600
計
60,008
499,400 55,371
565,700
産出/投入比
8.3
10.2
サトウキビ栽培∼エタノール生産プロセスにおけるシナリオ1のネルギーの投入産出
(エネルギーフロー)は,図 1 のように表わせる.
図 1 シナリオ 1 のサトウキビ栽培∼エタノール生産プロセスエネルギーフロー(Mcal/TC)
(3)化石燃料の使用による GHG 排出
表1,2 に示した化石燃料消費の推計には、燃焼による直接エネルギーの他に,Well-to-Tank
の燃料自体の間接的なエネルギー消費も含まれている.
軽油の使用は、サトウキビの収穫・輸送などの農作業および化学肥料生産時の燃料消費
として求められている.建物・設備の材料・建設・設置・維持など化石燃料消費は,燃料
種別の投入量・割合の一般値を用いて算定されている.一般値を用いた建物・設備等のエ
ネルギー使用量は,分析対象全体に占める割合が極めて小さく,推計全体に及ぼす影響が
少ないと考えられるので,簡素化した算定は十分に許容できるものといえる.
このような考え方で推計したシナリオ 1,2 における軽油の総消費量は、それぞれ
19,358kcal/TC、17,817kcal/TC となる.また,シナリオ 1、2 の燃料油(重油)の総消費
量は、それぞれ 40,650kcal/TC、370,554kcal/TC と推計される.これらの化石燃料消費か
ら推計される GHG 放出は、CO2 換算排出量(CO2eq.)で,シナリオ 1 が 19.2kg CO2 eq./
TC、シナリオ 2 が、17.7 kg CO2 eq./TC と見積もられる.
(4)その他の GHG 排出
燃料エタノールの燃料としての使用時およびサトウキビ生産∼エタノール生産プロセス
における,以下のような化石燃料に由来しない GHG 排出がここでの推計対象である.
―収穫前のサトウキビ残さの燃焼に起因する CH4(メタン)と N2O の放出
―土壌からの N2O 放出
―ボイラーのバガス燃焼による CH4 放出
―ガソリン自動車エンジン駆動時に発生する CH4 放出のエタノールとガソリンの差
■農地でのサトウキビ残さの燃焼にともなう GHG 排出
サトウキビ残さの燃焼にともなう GHG 排出は,サトウキビ畑での燃焼を想定した風洞実
験の計測から求められた CH4 の排出係数(Jenkins,1994),農副産物焼却時の CH4 放出に関
する IPCC の推奨値,サトウキビ残さの成分組成平均値から求められる窒素含量と窒素量に
対する焼却時の N2O 排出割合,および CH4,N2O の地球温暖化係数(GWP-100)を考慮し
て推計されている.
推計値(9.0 kg-CO2 eq./TC)は,IPCC 推奨値より大きくなったが,これはより安全再度
の見積りを採用した結果である.なお,燃焼時の CO2 排出はカーボンニュートラルが成立
するものとして,本分析では対象外としている.
■土壌からの N2O の放出
土壌からの N2O 放出は,窒素肥料の施肥量に基づいて算定される.ブラジル中南部地域
では,平均的にサトウキビの植付け時に約 28 kg-N/ha,再生株を含む株の育成に 75kg-N/
ha-yr の窒素肥料が NH4 の形態で投入されている.このような施肥量と栽培方法の割合から,
サトウキビ栽培の収穫後∼収穫までの1サイクルについての窒素施肥量は,平均的に
87kg-N/ha と見積もられる.NH4 タイプの窒素肥料を施肥した場合,施肥量の 0.5%∼1.5%
(重量比 N/N)が N2O として放出されるとすれば(Lewandowski,1995),窒素施肥量から
推計される N2O の排出量は,1.75kg-N2O/ha-yr と見積もられる.N2O の地球温暖化係数を
296 とすると,GHG 排出量は 521 kg CO2 eq./ha-yr,または 6.3 kg CO2 eq./TC となる.
■バガス燃焼にともなうメタン排出
メタンを含む不完全燃焼ガスの排出は、ボイラーでのバガス燃焼が不安定な時や燃焼を
安定して制御できない障害時などの燃焼プロセスにおいて発生する.エタノールが主に生
産される期間である収穫期には継続的な操業が行なえるので,サトウキビ圧搾工場やエタ
ノール蒸留施設で,そのような障害が発生することは少ない.また、本来は不完全燃焼を
起こさないようなオペレーションを基本として,工場は運営されなければならない.本分
析では,多くの工場で適切なオペレーションが行われているものとし,このバガス燃焼に
ともなう CH4 放出は考慮しないものとする.
■エンジンからのメタン排出
ブラジルでは、エタノールが混合されていないガソリン燃料が存在していないため,燃
料エタノールの燃焼による CH4 排出と純粋なガソリン燃焼によるそれの違いを計測するこ
とは,非常に難しい.また,現在では厳しい排出規制を達成することができるエタノール
混合ガソリン用のエンジン開発も進み,エンジン駆動時の CH4 排出は大幅に低減されてい
る.さらに,エンジン駆動時のエタノール燃料とガソリン燃料の CH4 排出の差は,他のプ
ロセスからの GHG 排出に比較して極めて小さい.このような状況を総合的に考慮し,本推
計ではこのエンジンからの CH4 排出に計上しないこととする.
(5)間接的 GHG 排出の削減
GHG 排出は,他の産業部門における燃料の代替として,バガスの燃料使用だけではなく,
ガソリンをカーボンニュートラルな燃料であるエタノールで代替する自動車走行によって
も削減することができる.近い将来、サトウキビ残さとして処分されている未利用バイオ
マスの新たな利用技術が導入できれば,サトウキビからの電力エネルギーや燃料エタノー
ルのより効率的な生産が可能となり,燃料エタノール使用による GHG 排出削減への貢献は
さらに大きくなると考えられる.
■余剰バガス
サトウキビ 1 トンから,水分含有率 50%前後のバガスが,平均的に 280kg-バガス/TC 生
産される。通常,バガスは発電タービンを回すために必要な蒸気(18∼21 kgf/cm2)を発生
させるボイラー燃料として使用される.タービンを回した後の蒸気は,低圧力(1.3∼1.7
kgf/cm2)の「排出蒸気」と呼ばれ,製糖・エタノール工場内の切断機、脱繊維機、絞り機等
の動力源として使用される.このように,工場内の動力・電力はバガスを燃料とする蒸気
タービンですべて賄われ,基本的に外部からのエネルギー供給は一切ない.一般的に,バ
ガス発電による電力生産量は,工場内需要より大きく,その余剰分が工場外へ供給されて
いる.
シナリオ1では,この余剰電力生産に向けられる「余剰バガス」は,バガス生産量の 8%
と見積もられ,サトウキビ 1 トン当たりのエネルギー量に換算すると 40,300 kcal/TC とな
る.一方,効率化が図れるシナリオ 2 では,その割合が 15%と推計され,エネルギー量と
しては 75,600kcal/TC となる.
バガスのボイラー効率を 78.7%(着火時,消火時には 10%損失があるものとする),燃料
油の低位発熱量,ボイラー効率をそれぞれ 49.19MJ/kg,92%として,シナリオ 1、2の「余
剰バガス」のエネルギー量と等価の燃料油の量を求めると,それぞれ 3.2 kg-燃料油/TC、
6.1kg-燃料油/TC となる.この燃料油をバガスで代替することによって削減される GHG 排
出量(間接的な排出を含む)はシナリオ 1、2で,それぞれ 12.5kg-CO2 eq./TC, 23.3kg-CO2
eq./TC と見積もられる.
■エタノールによるガソリンの代替
工場と蒸留の効率、エタノールの生産性、ブラジルの自動車エンジンに使用される燃料
の等価性,およびガソリンの製造・燃焼による排出などを総合的に考慮すると、燃料エタ
ノールの燃焼は,ガソリンの燃焼に比較して GHG 排出を大幅に削減することができる.
ガソリンの密度を 0.742kg/L,低位発熱量(LHV)を 44.8 MJ/kg とし,炭酸ガス排出係
数を 18.9 kgCO2/GJ-LHV(IPCC)とすると,ガソリン 1m3 の燃焼にともなう炭素放出は 628
g-C/m3 となる.ガソリンの採掘・精製・輸送段階(Well-to-Tank)の GHG 排出まで含める
と,ガソリン 1m3 の燃焼はライフサイクルにわたって 776kg-C/m3-ガソリン(2.82 kg CO2
/L)の GHG を排出すると見込まれる.
燃料の等価性を,ブラジルでの実績を考慮して,以下のように設定すると,無水エタノ
ールおよび含水エタノールを使用した場合のガソリン使用に対する GHG 排出削減量は,そ
れぞれ 2.82kg CO2/L-無水エタノール,1.97kg CO2/L-含水エタノールと見積もられる.
1 L(含水エタノール-E-100 エンジン)=0.7L-ガソリン
1 L(無水エタノール-E-25 エンジン)=1L-ガソリン
したがって,サトウキビ 1 トンから生産される燃料エタノールでガソリンを代替するこ
とによる GHG 削減効果は,次のように見積もられる.
無水エタノール:シナリオ 1
242.5kg CO2eq./TC
シナリオ 2 259kg CO2eq./TC
含水エタノール:シナリオ 1
169.4kg CO2eq./TC
シナリオ 2 180.8kg CO2eq./TC
(6)GHG 排出バランスの推計結果
ここまでの推計結果を集計すると,サトウキビから生産される燃料エタノールのライフ
サイクルにわたる GHG 排出は,表4のようにまとめられる。表4は,現在の平均的な生産
ラインで無水エタノールあるいは含水エタノールが供給・使用された場合,それぞれ 242.5kg
CO2 eq./TC,169.4kg CO2eq./TC の GHG 排出を,ガソリンが供給・使用された場合より
削減できることを示している.
表4
燃料エタノールのライフサイクル GHG 排出/削減量推計
(kg CO2 eq/TC)
GHG 排出/削減
シナリオ 1
シナリオ 2
排出の種類
化石燃料
19.2
17.7
廃物燃焼からの CH4,N2O 排出
9
9
土壌亜酸化窒素
6.3
6.3
排出合計
34.5
33
削減効果
余剰バガス使用(発電)
12.5
23.3
エタノール使用(自動車走行)
242.5 (A); 169.4(H)
259.0 (A); 180.8(H)
削減量 計
255.0 (A); 181.9 (H)
282.3 (A); 204.2 (H)
総削減量
220.5 (A); 147.4(H)
249.3 (A); 171.1 (H)
(A): 無水エタノール,(H): 含水エタノール
既存の分析データとの比較のために,燃料 1m3 当たりの GHG 排出削減量に換算すると,
本推計結果は次のように整理される.
無水エタノール:シナリオ1 2.6 t-CO2 eq/m3
シナリオ2
2.7 t-CO2 eq/m3
含水エタノール:シナリオ1
1.7 t-CO2 eq./m3
シナリオ2
1.9 tCO2 eq./m3
現状を反映していると考えられるシナリオ1の農業生産∼エタノール生産・バガス利用
∼エタノール使用までの GHG フローは,図 2 のよう表すことができる.
図2
シナリオ 1 の各段階における GHG*排出(kg-CO2eq./TC)
現在のブラジルにおける無水および含水エタノールの消費量はほぼ同量で,合計すると
年約 1,200 万m3 になる.したがって,本推計を参考にすれば,ブラジルの燃料エタノール
使用は,GHG 排出を 2,580 万 t-CO2eq./年(700 万 t -C eq./年)削減することに寄与して
いるとみなすことができる.
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