クローンプールライブラリーを用いた 目的クローンの迅速 PCRスクリーニング ゲノムライブラリーもしくは cDNA ライブラリーから特定の たクローンプールプレートの 1 ウェルを寒天培地に播き、得 塩基配列をもつクローンをスクリーニングする場合、一般的 られた 384 個のシングルコロニーについて 2 次 PCR スク には PCR やハイブリダイゼーションが用いられます。どちら の方法にも一長一短がありますが、特殊な技術が不要で簡便 リーニングを行った(図1)。 結果として、約 1 万クローンのライブラリーから、96 穴プ かつ迅速なのは PCR を用いる方法です。しかし、PCR では レート1枚と 384 穴プレート1枚の 2 度の PCR のみで10 数万クローン規模の多検体を処理するのに大きな労力がかか 遺伝子すべてについてフォスミドクローンを取得すること ることが最大のネックでした。 ができた。最終的に得られたフォスミドクローンをシーケン タカラバイオでは、以下の一連の作業を受託サービスとして シングにより塩基配列を確認し、目的の遺伝子配列がクロー 提供しております(弊社ホームページ、カスタムサービスの ニングされていることを確認した。 項参照) 。 【方法】 ・ライブラリー作製 ・ライブラリーから 50∼200 種類の任意のクローンを (1)フォスミドライブラリーの作製 ハタケシメジのゲノム DNA を使用し、フォスミドライブラ プールして増幅 リーを作製した。 ・目的遺伝子を PCR スクリーニング 本稿では、フォスミドライブラリーから10 種類の遺伝子をス クリーニングした例をご紹介します。 (2)クローンプールライブラリーの作製 フォスミドライブラリー(パッケージング液)を宿主大腸菌 に感染させ、形成されたコロニーを約100 種類ずつ増幅し ■本実験の概要 ハタケシメジよりゲノム DNA を抽出し、フォスミドライブラ リーを構築した。1 ウェルに約100 種類のクローンが含ま た後に 96 穴プレート 1 枚に整列化した。 (3)1 次 PCR スクリーニング れるように 96 穴プレート1枚分のクローンプールライブラ 10 遺伝子それぞれについて、80∼500 bpの増幅産物が得 リー(ゲノムサイズの約10 倍をカバー)を調製した。EST 解 られるようにプライマーを 1 組ずつ設計し、作製したクロー 析データより選択した10 遺伝子についてプライマーを設計 ンプールプレート 1 枚分の 96 ウェルのグリセロールストッ し、クローンプールプレートを使用して 1 次 PCR スクリー クを鋳型として TaKaRa Ex Taq ®(Code RR001A)を用い ニングを行った。それぞれの遺伝子に関してバンドの得られ て PCR 反応を行った。 【フォスミドライブラリーの作製】 【クローンプールライブラリーの作製】 (パッケージング液) (20%グリセロールストック) ・宿主大腸菌に感染 させて展開 ・約100 クローン ごとに増幅して プレートに整列化 a a 96 穴プレート ・ゲノムサイズの 10 倍をカバー 【コロニーピッキング】 a 384 穴プレート ・384 個のシングルコロニーを ピックアップし、グリセロール ストックプレートを調製する。 ・10 遺伝子それぞれについ て PCR スクリーニング用 のプライマーを設計する。 【2 次 PCR スクリーニング】 a ・シグナルの得られた クローンが目的遺伝 子がクローニングさ れているフォスミド クローンである。 図1 クローンプールライブラリーを用いた迅速 PCR スクリーニング法の概要 32 ● BIO VIEW No.48 【1 次 PCR スクリーニング】 ・増幅の確認で きたウェル を 1個選択し、そ のウェルを寒 天培地に播く。 a 【クローンの確認】 a ・2 次スクリーニングで選択した クローンのフォスミド DNA を調製し、 それを鋳型に再度 PCR。 ・フォスミド DNA を鋳型とし、 PCR に使用したプライマーを用いて シーケンシングを行い、塩基配列を確認。 ・制限酵素処理により同一クローンを選別。 (4)2 次 PCR スクリーニング 10 遺伝子それぞれについて、1 次 PCR スクリーニングで増 表1 PCR スクリーニングの結果一覧 遺伝子 1次スクリーニング 幅が認められたウェルのうちから任意の 1 ウェルを選択し、 No. ID ヒット数 選択した ウェル クロラムフェニコールを含む寒天培地に播いた。384 個の 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 A C E G H I K L M N 18/96 14/96 6/96 6/96 24/96 4/96 32/96 14/96 5/96 10/96 G02 G02 G02 E07 F02 G01 G01 F09 F02 E07 シングルコロニーをピッキングし、384 穴プレート1枚分の グリセロールストックを調製した。各ウェルのグリセロール ストックを鋳型とし、1 次スクリーニングで使用したプライ マーを用いて TaKaRa Ex Taq ® による PCR を行った。 (5)クローンの確認 増幅が認められたクローンについて、フォスミド DNA を調 製し、それを鋳型として再度 PCR で確認した。その後、スク 2 次スクリーニング ヒット数 1/384 1/384 2/384 1/384 1/384 4/384 5/384 4/384 1/384 2/384 * 目的クローン G04 O21 A04, P06 M01 N12 C13, H15, J15, N19 C16, H18, I19, J16, M01 E20, F14, G05, N04 H04 A09, O23 *:各遺伝子について1クローンのみ(下線)をシーケンス確認に使用した。 リーニングに使用したプライマーを用いてシーケンシング による確認も行った。 【結果と考察】 (1)フォスミドライブラリーの作製 調製したフォスミドライブラリーについては、タイターが高 く、平均インサート長も約 43.5 kbp で、かつそのサイズの 分布も均一であったため、良質のライブラリーであると判断 した。得られたクローンは約 43 万 7 千クローンであった。 今回の結果である1∼ 5 クローンはその想定数の範囲内と言 える。 (5)クローンの確認 2 次スクリーニングで複数のクローンが得られた 5 遺伝子 (E、I、K、L、N)のクローンについて制限酵素処理後、電気 泳動によりバンドパターンを比較したところ、一種類の遺伝 子のスクリーニングで得られた複数のクローンは、すべて同 一の制限酵素パターンを示した。このことから、複数個得ら (2)クローンプールライブラリーの作製 れたクローンはすべて同一のクローンであることが示唆され ハタケシメジのゲノムサイズを 40 Mbとすると、以下の計算 た。そこで 10 遺伝子のそれぞれについて1クローンずつを により 96 穴のクローンプールプレート 1 枚でゲノムサイズ 選択して塩基配列を確認したところ、すべてのクローンで目 の約10 倍をカバーしていることになる。 的遺伝子配列がクローニングされていることが確認できた。 43.5 kb × 100 clones × 96 well / 40 Mb =10.44 倍 (3)1 次 PCR スクリーニング 電気泳動の結果、10 遺伝子すべてにおいて、鋳型とした 96 ウェルのうち 5 ∼ 32 ウェルで増幅が確認できた(表1) 。 プレート 1 枚でゲノムサイズの約10 倍をカバーしていると いう計算上、ゲノム上に遺伝子が 1コピーあるのなら10 ウェ ル前後がヒットしてくると考えられるので、遺伝子 A、H、K 以外のほとんどは想定数の範囲であると考えられる。ただ し、この 3 遺伝子に関しては、 18 ウェル以上で増幅が見られ ■まとめ 以上のように、クローンプールライブラリーを用いた PCR スクリーニング法により、それぞれ 96 穴プレート 1 枚と 384 穴プレート1枚の 2 度の PCR のみで、約1万クローン のフォスミドライブラリーから、10 種類の目的遺伝子がク ローニングされたフォスミドクローンをすべて単離すること ができました。ご参考のために、本解析の場合の受託作業料 金を以下に示します。 ていることから、ゲノム上に複数コピーの遺伝子が存在する、 ・ゲノム DNA 調製 ¥100,000 ∼ もしくはクローニングバイアスがかかりやすくクローニング ・フォスミドライブラリー作製 ¥500,000 ∼ されやすい領域に存在する可能性が示唆された。 ・クローンプールライブラリー作製(96穴プレートあたり)∼¥48,000 (4)2 次 PCR スクリーニング 10 遺伝子それぞれについて 384 穴プレート 1 枚分の PCR ・ PCR スクリーニング(1遺伝子あたり) ¥70,000 ・フォスミドクローンのシーケンス解析(2リード) ¥17,000 を行って電気泳動をしたところ、鋳型とした 384 クローン クローンプールライブラリーは、フォスミドライブラリーの のうち 1∼ 5 クローンで目的の大きさの DNA 断片が得られ みならず、cDNA や BAC ライブラリー等からでもスクリー た(表1)。 ニング可能です。お気軽にお問い合わせください。 今回のクローンプールプレートは 1 ウェル当たり約100 種 類のクローンが含まれるように調製しており、もし 1 次スク 【お問い合わせ先】 リーニングでヒットしたクローンがそのウェルに1 種類含ま タカラバイオ(株)ドラゴンジェノミクスセンター TEL:0593-29-8560 FAX:0593-29-8556 れるのであれば、2 次スクリーニングでは100 個に1 個、つ まり 384 個では 3.8 個のクローンが得られる計算になる。 BIO VIEW No.48 ● 33
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