建物の火災性状 フラッシュオーバー テキストP40~ 3.1 室内火災の成長 まず 建物内部の一空 間における「出火」から 始まるのが普通. 図3.1は,建物の一室 内で出火した火災の典 型的な成長過程を図解 したもの. 火盛り期および減衰期 3.2 初期火災の性状 盛期火災 減衰期, or or 火盛り期 下降期 温度も高く維持され,また換気 条件によっては酸素濃度も低く なるので,有毒ガスである一酸 化炭素(CO)も発生しやすい. 出火室内の火災は,このような初期段階の拡大 傾向を維持したまま,しだいに室内規模の火災に 成長するとは限らない. 少なくとも住宅の居室程度の規模の区画での火 災実験では,初期火源の燃焼が,ある段階で急 に区画全体の火災に拡大する現象が頻繁に観測 される.この現象をフラッシュオーバー(flashover) と呼ぶが,火災実験だけでなく,実火災時におい てもたびたび経験されている. 可燃物が次第に燃え尽きて 燃焼が衰えるので,火災区 画の温度も徐々に低下して くる建築火災安全対策上は あまり重視されない. 室内に発生した火源の燃焼に より生成されたガスは,高温の ため浮力を生じて火源の上方 に上昇気流を引き起こす.この 上昇気流は火災プルームと呼 ばれる.火災プルームは周囲 の空気を連行しながら上昇して, 空間の上部に燃焼生成ガスと 空気との混合気の層をつくる. これを上部高温層または煙層 という.一方煙層の下部には新 鮮空気を主体とした空気層が 保たれる.一般的には下部低 温層と呼ばれる. または煙層 煙層降下の性状 煙 空気 上部高温層または煙層 火災 プルーム 火炎 下部低温層 図3.3は,火源の発熱速度が一定 のときの煙層降下の性状を調べた 実験例である.煙層が降下するに 従い,空気層から連行される空気 量が減少し燃焼ガスが希釈される 程度が小さくなってくるので,煙層 の温度は上昇してくる. 一般には,火源の発熱速度は一定 でなく,しだいに増加するが,このと きは図3.3のような発熱量一定の場 合に比較し,煙層の降下および温 度上昇は加速される. 1 煙の区画外への流出 盛期火災状態の区画における質量 とエネルギー保存 煙の区画外への流出量と火災 プルームを通しての煙層の流入 量が等しくなれば,煙層の高さ もほぼ安定することになる. ただし,開口部が存在しないか, 小さいときには,煙層は火源の 位置近くまで下がってしまう.す ると室内の酸素濃度が著しく低 下し,燃焼も不完全になって, COが発生し,また,火源からの 熱分解ガスが未燃ガスとして室 内に蓄積されるようになる. 盛期火災時の区画内では 図3.4に示すように,区画内 の可燃物から熱分解ガスが 発生し,また浮力換気により 開口部を通して高温ガス (煙)が流出し,逆に外部の 空気が流入している. 区画内空間について気体 の質量の保存を考えると次 式が成立する. 中性帯高さおよび空気の流入速度 z z ・ ma=(0.5~0.52)AH1/2 ・ (3.1) フラッシュオーバーは,いまだ未知 の部分が多い現象であるが, 煙層の温度500~600℃, 床面への輻射熱20kW/㎡等 が発生条件とされる. (3.6) (3.8) ・ ここに,ma空気の流入速度(kg/s), z ρは区画内ガスの密度(kg/m3), z ρ∞は外気の密度 z T∞およびTは外気および熱分解ガスの温度(K) . z Aは窓開口の面積(m2) ,Hは区画開口の高さ(m), z AH1/2 :換気因子(または開口因子と呼ぶ) z なお,絶対温度(K)は,摂氏温度(℃)に273を加えたもの となる. 内装材料の諸性状:F.O.T.への影響要因 まず、内装材料を使用する室内の 「部位」が影響する.フラッシュオー バーまでの時間(F.O.T)の長短 は室容積に対する可燃性混合ガス の蓄積速度と,燃焼に伴う熱の蓄 積速度により定まるので,同種類 で等面積の内装材料であっても, これらの影響が最も強く現われる 天井面が第1に,ついで、壁面がF. O.Tを短くする部位であり,床面は 影響の最も小さい部位となる. ・ フラッシュオーバーの発生条件 Zn/H=1/{1+(ρ∞/ρ)1/3} =1/{1+(T/T∞)1/3} ・ d(ρV)/dt=mp+ma-mg F.O.T.への影響要因 次に,内装材料の「燃焼性」が影響 を与える. 実験例では,可燃材料の普通合板 (ベニヤ)が約6分後に烈しいF.O を生じているのに対し,難燃材料で ある難燃合板はそれより約1~2分 おくれてF.Oを生じているが温度 は大差がない. しかし準不燃材料の石膏ボードに なるとF.Oはさらにおくれ温度もか なり下り,不燃材料であるフレキシブルボードに至るとほとんど 明瞭なF.Oを示さず,温度も著しく下る. 2 熱伝導率:F.O.T.への影響 板厚の影響:F.O.T.への影響 また,内装材料の「熱伝導率」も 影響を与える.すなわち熱伝導 率が小さくて保温性のよい材料 では壁を通ずる熱の放散がおく れる結果,F.O.Tを短くすると 同時にその時の温度を著しく高 くする. 図は,普通合板を用いた場合に 比べ,同じ不燃材料でもコンク リートのままの場合は温度上昇 もゆるやかでF.O.も明瞭に現 われないのに対し,岩綿のよう な保温性のよい材料を用いた場合の方がはるかに高温で烈し いF.O.を生ずる.高層建物の鉄骨被覆材としてこの種の不燃 材料がしばしば用いられるが注意を要する点である. 最盛期の燃焼 さらに,内装材料の「板 厚」も影響する. 板厚の 薄い方が熱容量も小さく, すぐ内部まで加熱されて ガスの放出が速くなるほ か,裏面まで燃え抜ける ようになるとそれまでの 片 面加熱が両 面加熱と なるので,F.O.Tを短く する結果となる. 窓からの噴出火炎 室内火災がF.Oに達した後は, 全室内に炎が渦巻き,黒煙ととも に炎が窓などの開口部から噴出し, 室内の内装材やプラスターなどが 音を立てて落ち,床版下面のコン クリートの一部が大音響を立てて 爆裂落下することもある. また,窓からの炎の噴出により,アルミサッシは溶け, スチールサッシははじめ全体に大きく内側に反り,炎 が通過すると組子が曲り,さらにスチールシャッター も大きく加熱側に湾曲する. 火災が成長し,温度が高く なると,やがて窓ガラスが 破れ,火炎が窓から噴出 するようになる.これは上 階の窓ガラスを割って,火 の粉を侵入させ,あるいは 可燃物を加熱着火させ, 上階延焼をもたらす危険がある. この性状を把握することは,スパンドレル(腰壁)や 庇(ひさし)を設計する場合などに重要となる. 輻射熱による延焼 出火室の火災性状が激し くなると他の建物への延 焼の恐れも生ずる. その原因の一つは,隣接 建物や空間が火災空間に 至近の場合に,窓から噴 出する高温の火災や気流 に直接さらされること. 噴出火炎 上階延焼 輻射熱 輻射熱による他棟への延焼 もう一つの重要な原因は,噴出火炎や火災区画か らの輻射熱である [条件]火災室の温度(T ):727[℃]=1000[K], 外気の温度(T∞):27[℃]=300[K], 開口幅(B ):4.0[m],開口高さ(H):2.0[m] Zn[m]およびma[kg/s]を有効数字3桁 で求めよ 。 3
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