―― 実 施 例 ―― イオン千種ショッピングセンターにおける 電気熱源空調の導入事例 ㈱竹中工務店 名古屋支店 設計部設備グループ 森 田 純 一 ■キーワード/ ■キーワード/店舗・環境計画・空調計画・省エネルギー・冷凍機 1.はじめに 2.建築計画概要 イオン千種ショッピングセンターは,環境配慮型ショ 2−1 建物概要 ッピングセンター, エコショップのプロトタイプとして, 所 在 地 愛知県名古屋市千種区2丁目 愛知県名古屋市千種区に平成17年5月にオープンした。 用 途 物品販売店舗 当ショッピングセンターは,エコショップとして3つ 設計・施工 ñ竹中工務店 のコンセプトにもとづき計画されている。 敷 地 面 積 30,828.24fl その1つは環境性能であり,省エネルギー・省資源・ 外部保全により環境負荷低減をはかっている。 建 築 面 積 16,771.43fl 延 床 面 積 46,647.54fl 2つ目はデザイン性能であり,店内はもちろん外部や 構造・規模 RC,S造,地上3階,塔屋1階 駐車場の環境改善により,総合的に魅力ある空間を提供 工 期 平成16年9月15日∼平成17年5月10日 している。 2−2 環境配慮計画 3つ目はPR性能であり,店舗全体での環境への取り 建物の南側正面には太陽光発電パネルと風力発電装置 組みを,インフォメーション端末によりお客さまに分か を配置し,電力負荷軽減とともに視覚的PR効果をはか りやすく伝えている。 っている。また外部駐車場では透水性アスファルト舗装 特に,エネルギー消費の大きなショッピングセンター による雨水流出やヒートアイランド現象の抑制をはか における空調熱源については,高効率定速ターボ冷凍機 り,北側の広場状公園や内装材にはリサイクル材を積極 およびインバータターボ冷凍機を主熱源として,高効率 的に採用し,環境負荷低減に努めている。さらにエコボ 化による省エネルギーを中心に,環境負荷低減をはかっ イド,ライトウェルによる自然採光,木製ルーバー,壁 ている。 面緑化などにより,エネルギー消費量の軽減をはかるな 写真−1 建物全景 ― 11 ― ヒートポンプとその応用 2007. 11. No.74 ―― 実 施 例 ―― ショップの熱源としては,高効率で省エネルギー性に優 ど,さまざまな環境配慮提案を盛り込んでいる。 その結果,CASBEE−新築(簡易版)平成16年による評 れていることが望ましい。 したがって,セントラル系統の熱源には,高いCOPで 価ではBEE=2.8,Aクラスの評価となっている。 定評のある高効率ターボ冷凍機と,部分負荷効率の高い 3.空調設備概要 インバータターボ冷凍機の採用に至った。 3−1 空調設備 また,飲食店舗系統には時間帯による負荷変動と個別 計量性を考慮して,空気熱源ヒートポンプエアコン(ビ セントラル熱源 ルマルチ)を採用している。 ・高効率定速ターボ冷凍機 350RT×1台 ・インバータターボ冷凍機 350RT×1台 24時間営業のスーパー,マックスバリュ系統には, 熱源の単独化とデマンド抑制を考慮し,ガスエンジンヒ 個別分散熱源 ートポンプエアコン(ビルマルチ)を採用した。 ・空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 1,834kW ・ガスエンジンヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 4.熱源システムの特徴 セントラル系統の熱源フローを図−1に示す。 0,848kW 空調方式 共用部空間のイオン系統と,テナント店舗とで系統分 ・モール・物販店舗系統: けを行い,低負荷時にはインバータターボ冷凍機を優先 外気処理空調機+ファンコイルユニット 運転し,一定負荷を超えると定速ターボ冷凍機をベース ・飲食店舗系統: 運転とする熱源機の台数制御を行っている。 空気熱源ヒートポンプエアコン 冷水温度は,7℃/15℃,温度差8℃の大温度差搬 ・24時間営業スーパー,マックスバリュ系統: 送を行い,また冷却塔の補給水には温度変動が小さい井 ガスエンジンヒートポンプエアコン 戸水を供給することで,ターボ冷凍機の効率向上をはか 3−2 熱源計画と選定 っている。 ショッピングセンターでは,年間を通じて冷房負荷主 体であることが実績として報告されている。また,エコ 図−2および図−3には,夏期 (8月)と冬期(2月) の 運転実績を示す。 BV CT-01 R-01 CTW PCD-01 BFV BFV PC-01 BV CT-02 R-02 PCD-02 BFV MV 冷水ヘッダ(住) CTW BFV PC-02 冷水ヘッダ(環) 〈凡例〉 イオン系統 テナント系統 イオン系統 テナント系統 図−1 セントラル熱源フロー ヒートポンプとその応用 2007.11.No.74 ― 12 ― R-01 R-02 PC-01,PC-02 PCD-01,PCD-02 CT-01,CT-02 CTW BV BFV MV 定速ターボ冷凍機 インバータターボ冷凍機 冷水ポンプ 冷却水ポンプ 冷却塔 自動ブロー装置 電動ボール弁 制御弁(バタフライ弁) 制御弁(ニ方弁) ―― 実 施 例 ―― 製造熱量と外気温度 (MJ) 90,000 80,000 70,000 60,000 熱 50,000 量 40,000 30,000 20,000 10,000 0 冷凍機R-1製造熱量 冷凍機R-2製造熱量 平均外気温度 (℃) 35 30 25 20 15 10 5 8/1 8/3 8/5 8/2 8/7 8/4 8/9 8/6 8/8 消費電力量とシステムCOP 8/11 8/13 8/15 8/17 8/19 8/21 8/23 8/25 8/27 8/29 8/31 8/10 8/12 8/14 8/16 8/18 8/20 8/22 8/24 8/26 8/28 8/30 月 日 R-1系統消費電力量 R-2系統消費電力量 0 システムCOP (kWh) 6,000 6.0 5,000 5.0 消 4,000 費 電 3,000 力 量 2,000 4.0 1,000 1.0 3.0 2.0 0 温 度 8/1 8/3 8/2 8/5 8/4 8/7 8/6 8/9 8/8 8/11 8/13 8/15 8/17 8/19 8/21 8/23 8/25 8/27 8/29 8/31 8/10 8/12 8/14 8/16 8/18 8/20 8/22 8/24 8/26 8/28 8/30 月 日 シ ス テ ム C O P 0.0 図−2 夏期8月の運転実績 製造熱量と外気温度 冷凍機R-1製造熱量 冷凍機R-2製造熱量 (MJ) 12,000 (℃) 16 14 10,000 12 8,000 10 8 熱 6,000 量 4,000 6 2/1 2/3 2/2 2/5 2/4 2/7 2/6 2/9 2/8 消費電力量とシステムCOP 消 費 電 力 量 2/11 2/13 2/15 2/17 2/19 2/21 2/23 2/25 2/27 2/10 2/12 2/14 2/16 2/18 2/20 2/22 2/24 2/26 2/28 月 日 R-1系統消費電力量 R-2系統消費電力量 0 システムCOP (kWh) 1,200 3.5 1,000 3.0 2.5 シ ス 2.0 テ ム 1.5 C O 1.0 P 0.5 800 600 400 200 0 温 度 4 2 2,000 0 平均外気温度 2/1 2/3 2/2 2/5 2/4 2/7 2/6 2/9 2/8 2/11 2/13 2/15 2/17 2/19 2/21 2/23 2/25 2/27 2/18 2/20 2/22 2/24 2/26 2/28 2/10 2/12 2/14 2/16 月 日 0.0 ■熱 量 定 義:◎製造熱量(単位(MJ)) : (冷凍機冷水流量)× {(冷凍機冷水入口温度)−(冷凍機冷凍機出口温度)} ×(比熱)×(比重) ■電力量定義:◎消費電力量(単位(kWh)) :各機器の消費電力量の積算値 ■C O P 定 義:◎冷凍機(単位なし) : (冷凍機製造熱量(kW換算値) (kW) (冷凍機消費電力量) / (kWh) ◎システム(単位なし) : (冷凍機製造熱量(kW換算値) (kW) { /(冷凍機消費電力量合計)+(補機類消費電力量合計) (kWh)} 図−3 冬期2月の運転実績 ― 13 ― ヒートポンプとその応用 2007. 11. No.74 ―― 実 施 例 ―― 表−1 各月の平均COP実績 年 平成17年 月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 平均 R−1:定 速 ター ボ 冷 凍 機 5.5 5.6 5.4 5.8 4.6 3.7 4.7 8.6 3.6 3.6 3.6 5.6 5.0 R−2:インバータターボ冷凍機 6.8 5.9 5.8 6.3 6.7 7.6 10.0 11.5 12.3 11.4 11.7 10.6 8.9 シ ス テ ム 全 体 C O P 5.1 4.6 4.5 4.9 4.3 3.6 2.8 1.5 1.8 2.5 3.4 4.7 3.6 均等に冷熱を製造しているが,図−3の冬期2月では冷 冷凍機製造熱量 代表日負荷カーブ(8/7)分 (MJ) 8,000 7,000 6,000 熱 量 熱負荷の低下により,インバータターボ冷凍機の運転が 主体となっている。 また,図−4および図−5には夏期と冬期の代表日の 5,000 4,000 日負荷量を示す。これからも冬期における冷熱負荷が確 3,000 認でき,年間を通じて冷房負荷が主体となる建物の特性 2,000 1,000 0 を表している。 1 3 5 7 9 11 13 15 時 刻 17 19 (kWh) 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 1 21 23 (時) 5−2 運転実績評価 表−1には,完成後1年間の両ターボ冷凍機単体,お 消費電力量 代表日消費電力量カーブ(8/7)分 消 費 電 力 量 平成18年 よびシステム全体の月別平均COP実績を示す。 これより,定速ターボ冷凍機は冷房負荷の多い時期に ベース運転となるため,夏期でのCOPが高い。それに対 してインバータターボ冷凍機は,冷房負荷の少ない冬期 ∼中間期にかけて優先運転され,より高いCOPを示して いる。 3 5 7 9 11 13 15 時 刻 17 19 21 特に,2月のインバータターボ冷凍機のCOPは12.3を 23(時) 記録,インバータターボ冷凍機の部分負荷効率が高いこ 図−4 夏期代表日の日負荷 とが確認できる。 システム全体では,冷房負荷が多い夏期の5∼9月に 代表日負荷カーブ(2/15)分 (MJ) 1,800 1,600 1,400 1,200 熱 1,000 量 800 600 400 200 0 1 は,COP4.5∼5.1と高い値を示しているが,冬期の12∼ 冷凍機製造熱量 3月では,COP1.5∼2.8と低い。 これは,冬期には冷房負荷が少ないため,インバータ ターボ冷凍機の部分負荷効率は高いものの,ポンプ等補 機動力の消費電力の割合が相対的に大きくなり,夏期に 比べてシステム全体のCOPが低くなるものと考えられ 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 る。 23 (時) 時 刻 年間平均のシステム全体COPについては,3.6を達成 (kWh) 140 120 消 100 費 80 電 60 力 40 量 20 0 1 しており,年間を通じて建物の特性に合致した,高効率 消費電力量 代表日消費電力量カーブ(2/15)分 な空調熱源として運転されていることが確認できる。 6.おわりに イオン千種ショッピングセンターは,エコショップの 3 5 7 9 11 13 15 17 プロトタイプとして,さまざまな環境配慮計画を策定し, 19 21 23 (時) 実現することができた。 時 刻 今後とも,多方面で環境配慮技術が展開されていくと 図−5 冬期代表日の日負荷 思われるが,引き続き運転データの蓄積と運用面でのよ り高効率な稼働,環境配慮が行えるよう見守りたいと考 5.熱源の運転実績 えている。 5−1 年間負荷の状況 今回の計画,実現にあたってのご指導,ご協力いただ 図−2の夏期8月では,両方のターボ冷凍機ともほぼ ヒートポンプとその応用 2007.11.No.74 いた関係各位様に深く感謝申しあげます。 ― 14 ―
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