太陽エネルギーの高効率利用方法の評価と提案 E07100 峯村 崇 指導教員 藤田吾郎 地表に大気を通して入射するため,空気中の浮遊物による 1. 研究背景 近年,風力発電・太陽光発電等の自然エネルギーを利用 相当量の減衰を考慮する必要がある。ここでは,われわれ した発電方式は,二酸化炭素排出や放射性廃棄物等の環境 が,太陽エネルギー利用を考えるとき,よく澄んだ大気を 汚染物質の排出が少なく環境負荷が小さいことから地球 通して,太陽光に垂直な1m2の面に約1kWのエネルギーが 温暖化の防止対策として注目されている。また,太陽光発 放射されていると,想定している。[2] 電は,性能が向上し,設置や保守が容易でありかつ,補助 また,場所によっては,大気の状態によってこの値を下 金制度の開始等により世界的に見ても導入が進んでい まわることも当然考えられる。太陽は,夜間は利用できな る。[1]日本においても,環境問題への関心が高まり,1990 いという絶対条件がある。 (曇りや雨天時も同様である。) 年代から太陽光発電の導入は進んでおり,発電機の大容量 また,太陽は,一日の中でも,方位が常に変化するととも 化に伴い太陽光発電の導入容量も増加している。そこで, に,高度も変化する。これは,季節によっても変化する。 本研究では図1で示すような,太陽光発電と太陽熱温水器 太陽エネルギーを効率よく利用するためには,前述の特性 のハイブリッド運転を行い,特性評価,その実用化を検証 を考えた上で対処しなければならない。 する。 4.太陽光発電(PV) PVとは太陽光エネルギーを利用して発電するシステム のことである。天候による,日射条件や照度,障害物の有 無等により出力に変動が起きること,パネルの照射エネル ギー変換効率が低く,得られる出力の損失が大きいことが 懸念されている。しかし,NEDO技術開発機構は技術開発 の継続・強化により2030年には汎用電力並の7[円/kWh]発 電コストの達成が可能という裏付けの技術開発項目及び 図1 提案システム概要 2. 研究目的 目標を掲げている。 5.提案システムの概要 太陽光発電の発電効率を低下させる原因の一つに,太陽 図2に,提案する電熱併給型太陽光発電システムの概要 光パネルの表面温度上昇が挙げられる。太陽光発電は,太 図を示した。本稿で提案するシステムで使用する電熱併給 陽光による光のエネルギーを電気エネルギーに変換して 型太陽光発電パネルは,太陽光パネル背面に冷却水を循環 いるのと同時に,太陽熱による熱エネルギーも受取ってい させる。このため,一般的な太陽光発電に用いられる蓄電 るのである。その熱エネルギーはパネルの表面温度を上昇 設備や制御回路以外に冷却水を貯める水槽(タンク)と冷 させ,発電効率を低下させる。しかし,日常生活において 却水を循環させるポンプを取付ける。 熱エネルギーは暖房,給湯など様々な場所で使用されてい ここで,今回提案するシステムにおいて期待されるエネ る。この点に注目し,太陽光モジュールの裏面に水冷式冷 ルギー回収効果について試算する。まず,提案システムの 却装置を取り付け,水という媒体を用いてモジュールの表 入力エネルギーとなる太陽光エネルギーについては,表面 面温度を下げると同時に水に熱エネルギーを蓄える(温 積全体に太陽光が均一に照射し晴天と仮定した場合,単位 水)システムを提案する。今回の研究では,提案システム 面積(1 m2あたり1時間で1kWh(3600kJ)である。 の試作機製作し実験的検討と数値解析より提案システム の有効性を明らかにすることを目的としている。 さらに,PVモジュールの変換効率を13%と仮定すると, 1時間に0.13 kWh(468kJ)の電気的エネルギーを得ることが できる。また,太陽熱温水器は,その熱変換効率を40%と 3.太陽エネルギーについて 太陽エネルギーは,大気圏外では,太陽光に正対する 1cm2当たりに1分間に1.95calの熱が得られ,電力に換算す ると,1 m2当たり,1.36kWになるとされている。太陽光は 仮定すると,1時間に0.4 kWh(1440kJ)のエネルギーを得る ことができる。水の比熱は,4.19であるので,水10ℓの温 度を1℃上昇させるために必要な熱量は,水10ℓ=10000gで あるので41900J/℃となる。仮に,単位面積および単位時 間においてチューブ内の水の温度はどれだけ上昇するか を考える。前述したが、太陽熱温水器は太陽から単位時間 表1 太陽光パネル仕様 当たり1440000Jの熱エネルギーを得るので、1時間に 製造会社 型番 種類 公称最大出力 公称開放電圧 公称短絡電流 公称最大出力動作電圧 公称最大出力動作電流 1440000J/41900J/℃=34.36℃ 水の温度が上昇するという計算になる。 さらに,太陽熱温水器が単位時間当たり太陽から得るはず であるエネルギー,1440kJを,今度は,ガスを使ってチュ ーブ内の水を温めるとすると、どの程度のコストが必要か を計算してみる。ガスの標準熱量を45MJ,1m3当たりの買 い取り料金を140円とすると, SHARP NT-87A1 単結晶 87.00[W] 22.14[V] 5.37[A] 17.58[V] 4.95[A] 1440kJ/45MJ/m3×140円/ m3=4.48円≒4.5円 となる。 次に,モジュールが1時間で発電するはずのエネルギー 0.13 kWhを,今度は電力会社から電気を買って発電すると, どの程度のコストが必要かを計算してみる。 電力会社からの買電価格を,17円/ kWhとすると, 0.13 kWh×17円/ kWh=2.2円 となる。 したがって,単位時間当たりのコストは, 図3 太陽光パネル背面(冷却用水路施工後) 4.5円+2.2円=6.7円 となる。 したがって、今回提案するシステムを利用すると単位時間 あたり6.7円程度のコストを削減できることとなる。 7. 試作電熱併給型太陽光パネル 本稿で提案する電熱併給型太陽光パネルの試作機を図3 に示す。また,試作機に用いた太陽光パネルの仕様を表1 に示した。今回,太陽光パネル表面を冷却するために冷却 水路をパネル表面に取り付けた場合,太陽光が冷却水路を 通過する際に光の屈折が起こる等の理由で電気的変換効 率の低下が懸念される。そこで,今回の試作機では太陽光 図4 試作機用冷却水循環ポンプ パネル背面に冷却水路を取り付けることとした。そして, 冷却水路の素材としては,熱伝導率の観点からアルミ,銅 などの金属素材を考えた。しかし,銅は腐食の問題があり 8. 今後の展望 現在までに試作太陽光パネルおよび特性測定用設備(可 水路には適さない。さらに,アルミは溶接加工が困難であ り太陽光パネル背面全面に冷却水路を作成するには高い 溶接技術と設備が必要であり断念した。また,太陽光パネ ル背面に取付けるため,全体重量を考慮し軽い素材が好ま しい。そこで,加工しやすく軽いシリコンチューブを用い ることとした。今回の試作機で使用したシリコンチューブ は内径4mmである。図3に示したように,太陽光パネル背 面に冷却水用の水路をループ状に取り付けており,冷却水 路の容量はパネル1枚あたり約1ℓである。また ,図4に示 変温度・可変照度)を作成した。今後は,従来型とパネル 背面冷却を行った場合とを比較し太陽光パネルの電気的 変換効率を比較し冷却効果について試作機を用いて実測 を行い検討したい。また,冷却水の温度変化を測定するこ とも考えている。さらに,試験機実験より得られた結果を 検討し数値解析シミュレータを作成し季節毎の外気温変 化や日照量の変化に対応した年間を通じた電熱併用型太 陽光パネルの効果を明らかにしていくことを考えている。 す冷却水巡回ポンプはバスポンプを使用することにした。 9. 参考文献 [1] 「太陽エネルギー利用技術」,日本太陽エネルギー学 会編,オーム社,2006年 [2] 「ソーラーエネルギー利用技術」 森北出版 2004年
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