寄宿舎職員研究 - 北海道中標津高等養護学校

セカンドステップとは
~米国生まれの教育プログラム
~3つの章で構成されたセカンドステップ~
セカンドステップは、20年前に米国で開発され、今日では北米を中心に世界の13か国で使われてい
る教育プログラムです。
人が生活するためには円滑な対人関係や社会への適応力が必要ですが、セカンドステップは子どもたち
がそれらを体験的に学び、身に付けていくことを主眼としています。
全体は次のような3つの章で構成され、全部で28回のレッスンから成っています。
第1章 相互の理解
「自分の気持ちを表現し、相手の気持ちに共感して、お互いに理解し合い思いやりのある関係をつくる
こと」をねらいとしています。相手の気持ちを思いやり、自分の気持ちを表現することの大切さを学び
ます。
第2章 問題の解決
「困難な状況に前向きに取り組み、問題を柔軟に解決する力を養って、円滑な関係をつくること」をね
らいとしています。自分の身に問題が起きた時、衝動的に行動を起こすのではなく、解決策を頭のなか
で整理し、考えられる最も適切な手法で解決をはかることを学びます。
第3章 怒りの扱い
「怒りの感情を自覚し、自分でコントロールする力を養い、建設的に解決する関係をつくること」をね
らいとしています。
「怒りの感情を持つのは自然なこと」として否定せず、怒りの感情にどう対処したら
よいかを学びます。
~子どもの力を引き出すプログラム~
セカンドステップでは、子どもの衝動的・攻撃的な行動を和らげ、社会への適応力が高められるように
プログラムが考えられています。しかし、全3章の構成からもうかがえるように、私たちが今まで行っ
てきた子どもの「しつけ」とはだいぶ異なります。
私たちは、子どものころに「人を傷つけてはいけない」
「暴力をふるってはいけない」と、大人に教わ
って育ちました。しかし、人間は、ときには衝動的な行動をとってしまうことがありますし、誰にでも
多かれ少なかれ攻撃的な性質が備わっています。ただこのような傾向や性質にどう対処したらよいかを、
具体的に教わることはありませんでした。
セカンドステップのプログラムは、人間が本来持っているそうした感情や、感情の動きを否定したり、
封じ込めたりするものではありません。むしろ、人間には他人を傷つけようとする感情も能力もあると
いうことを前提として、それらを自身でコントロールし、円滑な対人関係をつくり出せるように働きか
けていきます。
つまり「あれをしてはいけない」「これをしてはだめ」と、制限や抑圧を加えるのではなく「なぜ
いけないのか」を、子ども自身に考えさせ、気づくようにするのです。
友だちとの争いごとなど、問題が生じたときに「こうしなさい」と教えるかわりに「どうしたら良い
か、一緒に考えよう」とうながします。
そして、もうひとつ大切なこと。セカンドステップでは「他人の迷惑になるから大人しくしていなさ
い」というような教え方はしません。
むしろ、身の回りで困ったことが起きたら、何が問題なのかを考え、できるだけ多くの解決策を出し、
そのなかで最良と思う方法を選びます。
「自分でよいと思う方法で、まずやってみようよ」というふうに、実際に行動し、うまくいかなければ
改めて他の方法を試してみるのです。
子どもは、より良い方法を自分で考えだして実行する表現力も、行動力も潜在的に持っています。セ
カンドステップは、子どもが本来持つそうした力を引き出し、意識づけ、ふだんの暮らしのなかで自発
的に使いこなしていけるようにする教育プログラムなのです。
~楽しみながら人づきあいの知恵を学ぶ~
思い通りにならないことがあって腹を立て、それが誰かのせいであればその相手に対して攻撃的な感情
を持つということは、大人でもよくあります。しかし、私たちはさまざまな方法を使って、事態がそれ
以上発展しないように努め、解決に向かわせようとします。
このように対人関係を円滑に保ち、社会に適応した解決法を考え実行していくノウハウを「ソーシャ
ルスキル」といいます。セカンドステップは、このソーシャルスキルを子どものうちから養うことを基
軸としています。すなわち、セカンドステップは、人が社会生活を送るうえで必要不可欠な知恵を学ぶ
ためのプログラムだといえます。その知恵が、暴力を防止する役目をするのです。
全3章、28回のレッスンは、子どもたちが実際に遭遇することの多いトラブルの場面を、写真やイラ
ストなどのレッスンカードで見せ、ディスカッションとブレーンストーミング、そしてロールプレイを
繰り返すかたちで行われます。
<レッスンの流れ>
導入
ゲーム・歌・人形劇などを行い、前回に学んだことや、今回のテーマに関連付けて、レッスンに入りや
すい雰囲気づくりをする。
お話とディスカッション
レッスンカードの場面設定にしたがい、登場人物の気持ちや何が問題なのかを理解するために、意見を
出し合って考える。
ブレーンストーミング
どのような意見も非難されず、意見を妨げられることもなく、受け入れられ、それによって多様な解決
策が考え出される。
ロールプレイ
指導者が、そのレッスンで学習したスキルを、場面設定に合わせて実際に演じてみせる。そののち、子
ども一人ひとりが別の場面設定で学んだスキルを使う練習をする。
日常への展開
ふだんの生活のなかで、レッスンで学んだスキルが使えるように支援や働きかけをする。
レッスンは、互いを尊重したコミュニケーションを基本として進めます。実際に指導者と子どもたちの
間で、どのようなやりとりがされるのかは、次章の事例に紹介されています。
重要なのは、ここでのコミュニケーションが、言葉による表現を主としながら、それにとどまらない
ことです。たとえば、相手の表情や態度から気持ちを読みとる、自分の気持ちを言葉だけではなく行動
としても表すなど、多彩な表現の仕方を試みながらコミュニケーションをとっていく経験を積み重ねま
す。
つまり、問題を解決するための言葉のやりとり、言葉の使い方を覚えさせるというよりは、態度や行
動も含めた「自分なりの表現」を、実際に試みながら発見していけるようにするのです。
また、そのための前提として、レッスンは一人ひとりの考え方や表現の仕方をけっして否定しません。
たとえば、ディスカッションで子どもが実践者の問いかけに対し、的はずれな回答をしたり、過激な回
答をしても「それもひとつの考え方ですね」というふうに認めます。
「こうでなければならない」
「こうするべきだ」というような考え方や指導法は、セカンドステップの
レッスンにはありません。自分で考え、表現し、行動することを大切にするところが、このプログラム
の大きな特徴です。いわば、レッスンそれ自体が「相互の理解」「問題の解決」「怒りの扱い」を実践す
るものになっているのです。
さらにもうひとつ、セカンドステップの大きな特徴は、子どもたちが楽しみながらソーシャルスキル
を学んでいけることです。人形劇や紙芝居のようなレッスンカードは、それ自体が子どもたちの興味を
引き、魅力的です。ディスカッションでは自由に意見がいえますし、ロールプレイは自分が主役で寸劇
を演じるようなものです。
子どもたちの興味と意欲を引き出し、子どもが自分で自分を育てていく力を大切にする。セカンドス
テップは、そういう教育プログラムです。
<参考・引用文献>
キレない子どもを育てる セカンドステップ
2011 年 3 月 1 日
第 2 版 2 刷発行
編集人 井部文哉
発行人 渡辺俊一
発行所 NPO 法人 日本子どものための委員会
印刷所 (有)文修堂印刷
セカンドステップの有効性と課題を考える
寄宿舎
1
卒業後の生活を見据えた、寄宿舎内
研究方針及び研究テーマ
でできる生活力を向上する。
研究方針
(3)余暇の充実
卒業後の社会生活を考える
※生徒からの要望を受け入れ、可能な
研究テーマ
限り実施する。余暇を通して気持ちの
セカンドステップを取り入れた自己認知
(自己解決)
面でのリフレッシュや自分の考えや気
2
持ち、相手に対する要求などを指導員、
研究設定理由(コンセプト)
友人にうまく伝えられるようになる。
卒業後の生活を見据えると、今回の研究
(4)自己認知、自己解決
では、学校教育計画(表1)
(表2)を踏ま
えながら、日常生活に行きつくまでの意欲
※セカンドステップ(教材)を使用し
を重要視し、さらにはさまざまな場面で自
ながら、自分の現在のポジション、次
分の感情を言葉で表現し、対人関係問題や
に何をすればよいのかを自己認知する
悩みを自己解決する能力と怒りや衝動をコ
ことで身につける。
ントロールできる力を身につけること(セ
以下はセカンドステップを基に作成。
○相互の理解
カンドステップ)が必要と考える。
以上のことを踏まえ、中標津高等養護学
自分の気持ちを表現し、相手の気持ち
校でできることとして、目標を卒業後に置
に共感して、お互いに理解し合い、思い
き、尚且つ就労のために必要とされる、働
やりのある関係をつくること。
く意欲、体力、耐性(環境変化に耐える力)、
○問題の解決
危険への回避などの生活習慣を身につける
困難な状況に前向きに取り組み、問題
ことや卒業後の暮らしなどの知識を身につ
を解決する力を養って、円滑な関係をつ
けることを目指し、本設定とした。
くること。
○怒りの扱い
3
対象舎生選定
感情を自覚し、自分でコントロールす
2,3 年生については、1,2 年時の言動、
性格、交友関係、障がい区分、学科、進路
る力を養い、建設的に解決する関係をつ
くること。
実績を基に選定。
選定については、現在のところ明確な数
5 主な指導内容
(1)男子棟 2 階ミーティング
字で表せる方法がない点が今後の課題であ
る。
(日曜~木曜)
就寝前
4
基本の考え~取り組み要点~
8:15
学校での出来事、日
常生活チェックなど
(1) 個別指導計画の徹底。
(2) セカンドステップについて
※できないことを勧めるのではなく、
実施日を決め、20 分程度で実施。
できることを増やしていく。
舎生の実態(課題)に応じて 5 グループ
(2)日常生活能力
に固定。
1
6
8 指導員の思いと長期的な目標
実施内容及び、今後の実施展開
1 学期→第 1 章(相互の理解)
(1)指導員が感じたこと
2 学期→第 2 章(問題の解決)
トラブルが起きた時に、舎生に対して落
3 学期→第 3 章(怒りの扱い)
ち着くことや問題解決のためにステップを
今後は、舎生の理解力、行動特性を配慮
踏むことが必要で、それを舎生自らが獲得
でき、それ以降の生活へ展開していけるよ
しながら、慎重に実施する必要がある。
うに支援が必要と考える。
7
(2)思いや願い
取り組みの中で感じたこと
・友人や大人との適切な関わり方を理解す
(1) 導入前
ること
・限られた条件での実施
・理解力の限界
・自分の個性や長所を理解すること。
・障がい特性に応じた難しさ
・苦手なことも受け入れるようになること。
・短時間で実施できるのか
(3)長期的目標
・社会や職場に適応する力の基礎をつける
(2) 成果
こと。
・話す、聞く、考える基礎力や語彙力が
・場面ごとに合わせた応答や困ったときの
向上した。
解決方法を使用すること。
・質問の一つ一つは理解して、回答がで
9 おわりに
きる。
・気持ちの安定と障がいによる学習、生
本研究では自分の感情を言葉で表現し、
活の対人関係コミュニケーションスキ
対人関係問題や悩みを自己解決する能力と
ルの向上を図ることができた。
怒りや衝動をコントロールできる力を身に
つけること、さらに就労するための意欲を
(3) 課題
高められることを目的に実施した。
・普段の生活、実践場面での使用が難し
今回、男子での実践を通して、自分に関
い。
・レッスンにおいての表面的な理解。
心をもつということが強くなっていったよ
・相手の立場に置き換えて考えること、
うに思われる。
視覚で見えないことを考えることに苦
手意識が見えた。さらにストレス過多
になると不安定になる特徴が見えた。
・発言の際の表現が苦手。
・多くの状況理解はできる。
・気持ちの浮き沈みが激しく、レッスン
への参加が困難なことがある。
2
表1
表2
学校経営方針
寄宿舎運営基本方針
「社会参加・自立をめざし、生き生きと活
学校教育目標
動する生徒を育てる」
「社会参加・自立をめざし、生き生きと活
動する生徒を育てる」
経営方針
「家庭や地域から信頼される学校づくりを
めざし、生徒の社会参加と自立を促す高い
運営方針
専門性に基づいた質の高い教育活動を実践
(1) 学校経営方針に基づき、舎生一人一
する」
人が安全・安心に生活ができるよう
(1) 教育の質を保証するための教育課
に環境を整備する。
程の編成・実施・評価を行い、生徒
(2) 舎生一人一人の特性や能力に応じ
の進路実現を図る教育を推進する。
た指導。支援を行い、社会参加と自
立できる力を育成する。
(2) 生徒・保護者、地域の多様な教育的
(3) 全寄宿舎指導員の協働体制で、活力
ニーズに応える教育活動の展開を
ある寄宿舎づくりに努める。
推進する。
(3) 専門的教育機能を発揮し、生徒の生
指導目標
きる力を育むとともに特別支援教
舎生一人一人が集団生活の中で主体的に
育のセンター的機能を推進する。
活動できるように役割をもたせ、責任を果
(4) 生徒の社会参加と自立を育む寄宿
たすことや仲間と協力することの大切さを
舎運営を推進する。
(5)
自覚させ、将来の生活環境の創造につなが
指導の重点
る指導を行う。
(1) 個別の教育支援計画・指導計画を活
(1) 個別の指導計画に基づき、教務・保
用した教育活動の質的向上を図る。
護者・関係機関と連携・協力を図っ
た指導・支援を図る。
(2) 確かな学力を育む基礎・基本的指導
(2) 社会参加と自立に向けた基本的生
内容の充実を図る。
活習慣の確立を図る。
(3) 就労。社会生活に必要な職業教育及
(3) 集団生活への適応力や責任感、協調
び健康・体力の保持増進を図る健康
性、社会性の育成を図る。
教育の充実を図る。
(4) 自らの健康・安全に留意し、適切に
(4) 生徒の実態の多様化に対応し、自己
対処できる能力の育成を図る。
選択・自己決定を尊重した進路実現
(5) 社会参加・自立を図る生活自立体験
の充実を図る。
や余暇活動の充実を図る。
(5) 多様化・複雑化している生徒指導に
対応する指導力の向上を図る。
3
参考・引用文献
① 平成 27 年度
学校教育計画
北海道中標津高等養護学校
② キレない子どもを育てるセカンド
ステップ
2011 年 3 月 1 日第 2 版 2 刷発行
編集人 井部文哉
発行人 渡辺俊一
発行所
NPO法人
日本子ども
のための委員会
印刷所 (有)文修堂印刷
4
平成27年度 校内研究
「安心できる生活と自立のために」
寄宿舎
1
研究の目的
我々寄宿舎指導員にとって、舎生が安心して寄宿舎で生活を送ることができること、そ
のうえでより自立した生活を送るための様々なスキルを獲得できることは以前から意識し
ていたところである。平成28年4月より、「障害者差別解消法」が施行されることになり、
障がいがある人は誰も「合理的配慮」を学校や職場に求めることができるようになる。この
法律の施行を前に、より一層、障がいの特性に合った支援の内容であるかどうかを検討で
きるよう、本研究を通して、指導員のスキル向上を目指す。
2
対象舎生
本年は、主に自閉スペクトラム症(以下、ASD)の診断がある舎生を中心に選定。ま
た、前年度や入学以前の様子から、ASDの舎生への支援と同様の方法で支援をすること
でより自立した生活を獲得できると判断した舎生を選定した。
3
取り組みの主軸
ASDへの支援として「構造化」の有効性があげられている。本研究でも、
「構造化」を
支援の主軸として推進した。
「物理的構造化」、
「視覚的構造化」
、
「スケジュールの活用」
、
「ワ
ークシステムの導入」を行うことで、舎生に活動内容を明確に情報提供し、自立して取り
組めることを目指した。
「見える形で、わかりやすく」
・ ASDの脳機能についての研究から、その情報処理の特性を考慮した支援を行う。
・ 「三つ組の障害」(社会性、コミュニケーション、想像力についての特性)につい
て考慮した支援を行う。
4
主な実践例と成果
(1) 物理的構造化
活動のエリアと意味がわかりやすいよう、空間の境界を明確にする。
① 整列
これまで、寄宿舎行事の際はイスを使用して着席することが主だったため、舎生
が戸惑う様子はほぼ見られなかった。しかし、避難訓練の整列時のようにその都度
避難場所が変更になったり、広い場所で自分の整列するべきエリアに見当をつけて
行動したりすることは、ASDの舎生にとって困難な様子が見られた。
支援
内容
該当舎生が整列すべき場所に指導員がブルーシートを敷き、舎生には、
事前にブルーシートが着席すべきエリアであることを提示。
成果
舎生が避難先で自発的にブルーシートのもとへ移動し、着席できた。
(2) 視覚的構造化
視覚的な情報処理が得意であることを活かし、活動の内容を理解して自発的に取り組
めるようにする。
① 清掃用具
寄宿舎で使用する様々な清掃用具(雑巾、バケツ等)の用途を明確に提示でき
ていない状況があり、舎生が活動している途中で修正をすることがあった。
支援
用途に合わせた色雑巾を用意した(床拭き用、鏡拭き用、乾拭き用)
。ま
内容
た、それぞれの色雑巾に合わせたバケツを用意し、どのバケツで雑巾を洗
うのか明確にした。使用後の雑巾を干す洗濯ばさみについても色分けし、
混合されないようにした。
成果
舎生が用途に合わせた用具を選択して使用し、所定の場所に片付けるこ
とができるようになった。職員による修正をすることがなくなった。
②
清掃(食堂)
該当舎生が担当する清掃の内容に、食堂のテーブル拭きがある。しかし、何台
もあるテーブルの「どこ」を、
「どのくらい(何台)
」拭いたら終了するのか、ま
た、まだ拭いていないテーブルはどれなのか確認することに課題があり、取り組
めない舎生が見られた。
支援
食堂のテーブル1台ずつに、色分けした画用紙の支柱を設置し、舎生に
内容
もそれぞれ色画用紙で作成したカードを配布した。舎生は、そのカードと
同色の支柱が置かれているテーブルを探し、支柱にカードを貼ったのち、
テーブルを拭く。
成果
舎生が配布されたカードと同じ色の支柱を探し、テーブルを拭くことが
できた。
② 清掃(洗面所)
これまで、舎生が自分で役割を探し、取り組むことが難しい様子が見られた。
また、舎生間で清掃方法の違いや、役割を分担することで生じる混雑等が原因で
話し合いになることがあった。
支援
掃除箇所を指導員が設定し、当番表を使用して、各舎生に担当箇所と開
内容
始時間を知らせた。また、清掃方法や使用する用具について記入した手順
書を作成し、舎生が確認して取り組むことができるようにした。実際に清
掃する箇所には、手順書に載っている写真と同様の印をつけることで、比
較できるようにした。
成果
ASDの特性に見られる実行機能の困難さを清掃当番表の活用によって
補うことで、舎生が自発的に取り組むようになった。また、舎生が手順書
の内容を理解できない様子が見られた場合には、よりわかりやすい手順書
となるよう内容を変更した。このことは、指導員がASDの特性や理解の
仕方を知る機会ともなった。指導員の直接的な言葉かけによる修正がない
ことで、舎生が自尊心を害うことなく理解できたと考える。
(3) スケジュール
「いつ」
、「どこで」、
「なにを」行うかといった情報を舎生が一度に理解できる情報量
に応じて分割等して提供し、寄宿舎の生活に見通しをもつことができるようにする。
支援
舎生の実態に応じて、作成した。
内容
・形態の選択(絵、写真、文字/カラー、モノクロ/)
・情報量の調整(カード式、一覧表式/時間の記載あり、なし)
成果
舎生が次に行う活動を理解して、落ち着いて取り組む様子が見られた。
また、以前は「自由時間」や「活動の合間」に何をしていいかわからない
様子の舎生がいたが、スケジュールを使用することで次に何をしたらよい
か明確になった様子が見られた。余暇活動に関しても、選択肢を用意し、
その時に「できること」
「できないこと」という暗黙の了解をなくすことで
舎生が取り組みたいこととのスムーズな調整ができた。
(4) ワークシステム
ワークシステムに取り組むことで、物事の情報を整理する力を育み、舎生が様々な新
しい活動に取り組む際に自分で判断して取り組むことができるようにする。
支援
指導員が課題を作成し、舎生のスケジュールに活動時間を設定した。活
内容
動の個数や内容は、舎生が集中して、最初から最後まで一人で取り組める
ものとし、職員で情報共有を行った。活動が終わった後は、余暇時間や軽
食の時間といった舎生が期待できる活動を設定した。
成果
舎生が意欲をもって取り組む様子が見られた。また、色のマッチングや
組み立て等、各舎生が得意とする分野を知ることができたため、その他の
構造化を行う際に参考にすることができた。苦手な分野の課題に関しては、
指導員が時間を設定し、舎生と一緒に取り組むことで、課題の内容と意味
を理解し、新たに取り組めるようになった分野もあった。
5
今後の課題
(1) 今後もこれらの支援法を通して、舎生に「何を伝えるか」を指導員間で連携、
検討し、指導を行う必要がある。
(2) 対応する指導員が変わっても、同じ対応ができるように特性に合わせた支援に
ついて職員がさらに各自研修を重ね、正しくツールを使用していく。
(3)
舎生に合った支援の内容、それによって取り組める活動について、進路先でも
支援が継続されていくように引継ぎを行う。
6
まとめ
本研究の対象舎生が入学後や新年度の環境の変化に大きな混乱をする様子がなく生活を
していたことが何よりの成果であったと考察する。また、知的な障がいの程度や、ASD
の診断の有無に限らず、各舎生が自発的に取り組める活動が増えたことは、今後も本研究
テーマと同様の研修を職員が継続していくことの必要性を強く感じた。卒業後、舎生がそ
れぞれの特性を強みとして自立した生活を送ることができるよう、今後も特性に合った支
援を行いたいと考える。
7
参考文献
(1)「障害者差別解消法リーフレット」内閣府
(2)「3.障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎
となる環境整備」文部科学省 初等中等教育分科会(第80回)配布資料より