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菅沼 - 大阪大学 産業科学研究所

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技 術 解 説
1
鉛フリーはんだ国内外開発の現状
菅沼 克昭*
2000年度は、鉛フリーはんだ実装技術が日本の市場に拡大する年となり、新世紀を迎えて
すでに多くの鉛フリーはんだ実装製品を店頭に見いだせるようになった。EUの
WEEE/ROHS指令案の審議も最終段階を迎え、本年から来年にかけて議会で最終投票が行
われる。部品表面処理の鉛フリー化も次第に方向が定まって来ており、真の意味での鉛フ
リーはんだ実装が可能になろうとしている。本稿では、日本と世界の鉛フリーはんだ技術
推進の状況と今後の展望に関して紹介したい。
1. はじめに
エレクトロニクスや自動車などの時代を牽引する産業分
of Electronics Assemblies by Lead-Free Soldering,
野における環境調和技術が、新しい時代のキーテクノロジ
1996-1999)へと続き、一方、我が国では回路実装学会(現
ーの一つになろうとしている。これらの分野が生み出す製
エレクトロニクス実装学会、 JIEP)における鉛フリー
品の数々は、人々の生活を豊かにする反面で、多くの有害
はんだ研究会(1994∼現在)の発足へと繋がった。こ
物質を環境へ排出しエネルギーを消費するもっとも環境負
の間に米国でははんだの鉛フリー化が技術的な難しさか
荷の高い産物でもある。すでに、この4月に家電リサイク
ら法制化から外されたのに対し、替わって1998年にEU
ル法が施行された。まだ、リサイクルが始まったばかりで
で提案されたエレクトロニクス製品全般の廃棄に対する
もあり、効果がどのように現れるかを判断するには時間を
法制化の動き(WEEE: Waste Electrical and Electric
要するだろう。しかし、すでにニュース報道などでは不法
Equipment 3) )にはんだの鉛フリー化が盛り込まれた。
投棄の増加を報じており、リサイクルを取り巻くさまざま
WEEE指令の最終ドラフト(2000年6月)では、リサイ
な社会システムの未整備が懸念されている。家電4製品の
クルに関するWEEEと有害元素の規制に関するROHS
状況ばかりでなく、我が国の国土は狭く、そこに毎年膨大
(Restriction of the use of Certain Hazardous
な廃家電製品が排出され蓄積される。これを考えると、環
Substances in Electrical and Electric Waste)に分離さ
境調和製品の開発において、諸外国をお手本にするのでは
れた。このドラフトでははんだの鉛規制は2008年に予
なく、むしろ手本とならねばならない。また、我が国のこ
定されたが、すでに今年5月のEU議会投票で2006年に
れら最先端産業分野が新世紀に渡って世界をリードするた
前倒しになった。この指令案は、さらにもう一度EU議
めには、個々の製品が優れた機能を備えることはもちろん
会の審議と投票を受ける。
のこと、いかにして環境負荷を低減できているかが重要な
EUでは、この他にデンマークとスウェーデンが法制
鍵になると言えるだろう。
化を個別に検討している。デンマークの法律はすでに昨
年末に制定されたが、「電気部品に使うはんだ」は除外
2. 鉛含有はんだに対する規制動向
項目となっている。「部品」とは、実装全てを含むと考
えてよいそうである。スウェーデンは、2020年までに
鉛含有はんだに対する法的規制は、1990年に米国に
おける法制化検討(Lead
Exposure
Reduction
Act
S2637、 S729)で始まった。この法案の提案によって、
鉛フリーはんだの開発が世界中でにわかに注目された。
鉛フリーはんだ開発の動きは、同国のNCMS Lead-Free
Soldering Project 1) (NCMS: National Center for
Manufacturing Sciences,1994-1997)、EUのIDEALS
P r o j e c t 2)( B R I T E / E U R A M 9 5 / 1 9 9 4 ; I m p r o v e d
Design Life and Environmentally Aware Manufacturing
鉛の使用を全廃する長期計画で検討している。ただし、
いずれもWEEE/ROHSの制定に左右されるものである。
一方、我が国では、今のところ鉛含有はんだに対する
法規制は話題に挙がっていない。しかし、鉛に対する水
質基準の見直し、廃掃法の強化改正、さらに1998年に
成立し今年4月に施行された家電リサイクル法などの下で、
鉛に対する管理が強化されることになった。鉛を含む電
子機器は、適正な処理を経ない限り廃棄ができないこと
になっている。
*大阪大学 産業科学研究所 教授
1
ESPEC技術情報 No.26
3. 世界の鉛フリーはんだ開発プロジェクト
予測(寿命予測ソフトはNCMSプロジェクト所有)、⑧無
毒性・合金組成に関するアセスメントなどの鉛フリーはん
米国では、法制化案の提出された時点でNCMS主導の鉛
だ関連データベースを築いたことを挙げている。
フリーはんだプロジェクトが4年間の鉛フリーはんだ開発
NCMSプロジェクトが終了した後は、法制化も中止さ
研究を行った。このプロジェクトの結果は、代替材料選択、
れたことで鉛フリーはんだ研究熱は冷えた。しかし、日
プロセス、設備変更などへの情報を提供し、データベース
本で進む実用化とEUの法制化を受けて、1999年の5月
として公表されている 。
にNEMI(The National Electronics Manufacturing
プロジェクトでは、まず初期スクリーニングを79種類の
Initiative)は、鉛フリー実装へ対応するための実装業
当時使用可能な対象合金を選択して行った。そのポイントは、
界団体(NEMI Task Force)を組織した。この組織の
毒性、資源、経済性およびぬれ性等の基本物性である。こ
活動主目的は以下の点にある。
れによって7つのダウンセレクションを表1のように得て、
1)2004年の鉛全廃を視野に入れ、2001年には鉛フリー製
1)
第2次評価として実装生産性と信頼性評価に分け評価を行
った。各合金の評価を通して、最終的に一つの選択には至
らなかったが、推奨できる合金として表2の3種類を候補に
品を生産する能力を持つ。
2)鉛フリーはんだ実装のために用いることの出来る部品、
材料、プロセス条件を明らかにする。
挙げている。Sn-58Bi共晶合金は、Bi資源の希少性から標準
3)Sn-Ag-Cu系はんだから、一つの主力候補を選ぶ。
はんだとしては選択できないと、スクリーニング結果から
4)部品メーカー、材料メーカー、装置メーカーとの協力
コメントしている。しかし、200℃以下で実装できるはん
により、最高260℃近くの高温での実装へスムーズに移
だとしては有用であること、さらにメインフレームで使用
行できるよう確認する。
してきた20年以上の実績があることから、特殊用途への利
5)鉛フリープロセスの評価基準を確立する。
用が可能であると結論している。
このプロジェクトでは、リフロー・フローや洗浄・リペ
アなどの観点を持ち、鉛フリー実装のためのプロセス・材
表1 NCMSプロジェクトの7つの鉛フリーはんだダウンセレクション
料条件に関して研究を行っている。メンバーとして
コード
組 成
融点(℃)
Celestica、Compaq、Delphi/Delco、HP、Motorola、Intel、
A1
Sn-37Pb(比較合金)
183
IBM、NIST、Nortel Networks、Solectron、Visteonなどが
A4
Sn-3.5Ag
221
A6
Sn-58Bi
139
E4
Sn-3Ag-2Bi
220
JEDECなどの団体とも重複する内容に関しては協力し合っ
F2
Sn-2.6Ag-0.8Cu-0.5Sb
211
ている。調査研究や部分的な実験開発も行われ、少しずつ
F17
Sn-3.4Ag-4.8Bi
210
データも公表され始めている。本年9月には終了の予定で
F21
Sn-2.8Ag-20In
187
F27
Sn-3.5Ag-0.5Cu-1Zn
221
表2 NCMSプロジェクトが表面実装に推薦する3合金
合 金
液相線
固相線
適用範囲
注意事項
参加して活動している。また、NEMIはEIA、IPC、
あるが、それまでに量産品を出す計画と聞いている。
一方、EUでは、1996年5月から1999年4月にかけて
IDEALSプロジェクトが、PhilipsやSiemensなどが参加し実
施された。プロジェクトの主目的は、Sn-Ag-Cu、Sn-Ag-Bi、
Sn-Cuなどの合金に対してプロセスウィンドウ(温度プロ
低温で実装可能・共晶組成であるが、耐
熱性は問題。
表面実装では、Sn-Pbより優れた熱疲労
特性を持つ。
スルーホールでは、CPGA-84(84ピンの
Pin grid array)はSn-Pbより良いが、
CDIP-20(20ピンのDual inline
package)では悪い。
ファイル等のプロセス条件範囲)を明らかにすることと、
一般家電製品
携帯電話
宇宙・航空
自動車
表面実装では、0℃から100℃の範囲で
Sn-Pb共晶はんだより優れる。
-55°
から+125℃ではSn-Pbより良好。
フローでは、
ほとんどの場合、
リフトオフが
生じる。
IDEALSプロジェクトの主な結論は、以下のようにまと
一般家電製品
携帯電話
Sn-3.5Ag 221℃
(共晶) 宇宙・航空
自動車
表面実装では、0∼100℃ではSn-Pbと
同等であるが、-55∼+125℃では悪い。
他の高Sn合金よりは、
リフトオフの発生
は少ない。Sn-2.6Ag-0.8Cu-0.5Sbに関
しては、
いまだに信頼性は不明確。
Sn-58Bi
139℃ 一般家電製品
(共晶) 携帯電話
Sn-3.5Ag 210℃
-4.8Bi 205℃
実用における信頼性を確認することの2点に置かれている。
同時に、VOCフリーフラックスも開発した。リペア性に関
しては、フラックス入りのSn-Ag-Cu、Sn-3.5Agで全く問題
なく自動または手動で実施できることが確認されている。
められている。
1)鉛フリーはんだは、技術的、工業的に実用化が可能である。
2)Sn-Ag-Cu(-Sb)は、幅広く利用が可能である。
3)フローに関するプロセスウィンドウは、従来とほぼ変
わらない。
4)VOCフリーフラックスが開発された。
5)リフローに関するプロセスウィンドウは、ほとんどの
また、これら以外の成果として、①鉛フリーはんだの適
部品と両立できるが、225℃から230℃では、一部のも
用対象の推薦、②価格と供給性を反映した合金組成ガイド
ので問題が起こる。
ライン、③7種類の選択合金のデータベースとSn-Pb共晶合
6)信頼性は十分得られる。
金との比較、④その他の70種類の限定された特性データ、
プロジェクトの終了に伴って、1999年末からPhilipsが
⑤さまざまな試験基板を用いた最適プロセス条件、⑥選択
Sn-Ag-Bi系の片面フロー基板が照明器具への量産化を果た
された合金と種々表面処理の反応の金属学的な反応解析と
し(図1)、2000年3月の時点ですでに100万台は出荷してい
強度評価、⑦4種類の選択された合金の熱疲労評価と寿命
ると伝えられている。
ESPEC技術情報 No.26
2
JEIDA側の総括としては、以下のようにまとめられる。
【全 般】
1)鉛フリーはんだの諸特性を把握できた。いずれのはん
だも制約事項はあるが、実用可能である。
【リフロー】
2)絶縁性やマイグレーションはほぼ問題はないが、ぬれ
性はSn-Pb共晶はんだより多少劣る。
3)Bi含有量が多いほど、Pbとの両立性が劣化する。
【フロー】
4)リフトオフ発生はBi量の存在により促進されるが、条
件によってBi無しでも発生する。
5)クリープ、温度サイクルに対しては、Sn-Pb共晶はんだ
図1 Philipsが実用化した電灯基板(Co Van Veen 氏より)
<Sn-Ag-Bi系はんだを用いた片面フロー>
よりも鉛フリーはんだは優れている。
2000年度から2001年度に始まったプロジェクトがいくつ
4. 国内のプロジェクト
かある。その一つは、日立製作所の主導するIMSプロジェ
国家プロジェクトとしては、2000年3月にNEDOのサポ
ートする「鉛フリーはんだ規格化のための研究開発」が2
年間の研究を終了した 4)。NEDOから産業環境管理協会を
通して、日本電子工業振興協会(JEIDA、現電子情報技術
産業協会(JEITA*))と日本溶接協会(JWES)の2つのワ
ーキンググループが評価・開発を実施した。両者の役割分
担は、溶接協会が鉛フリーはんだ候補材料の材料特性評価、
標準評価法検討を主に検討し、一方、JEIDAでは実装特性
および実用化の推進を目標とする信頼性評価である。
JEIDAはさらに日本電子機械工業会(EIAJ、現JEITA)と
協力し、さまざまな電子部品の適合性、鉛フリー表面処理
に関する評価を行った。JEIDAで検討されたはんだ合金の
一覧を表3にまとめる。
Sn-Ag
Sn-Cu系
Sn-Ag-Bi系
Sn-Bi系
Sn-3.5Ag-0.75Cu
済産業省であり、2000年度は日立、ソニー、シャープ、沖
電機の他に大学と国立研究所が参加し、2001年度はさらに
拡大構成となった。このプロジェクトでは、鉛フリーはん
だの実装性、信頼性の技術的評価と共に、構成元素の生物
学的影響を明確にし、将来に渡って安全性・環境調和性の
高い実装技術を確立することを目指している。
やはり、経済産業省の予算で溶接協会が主導するプロジ
ェクトが、「環境負荷低減化に対応したはんだ接続に必要
な試験方法等の標準化」というタイトルで、一年間の計画
で始まっている。タイトルからわかるように、試験方法の
標準化を目的としている。JEITAは、部品側から見た実装
評価標準化に関するプロジェクトを計画している。
一方、エレクトロニクス実装学会(JIEP)は、低温実装
を可能にするはんだを集中的に検討することを目的に、
「低
表3 JEIDAグループで1、2期に渡り評価されたはんだ合金
合 金
クト「環境対応次世代接合技術の開発」である。予算は経
第1期
第2期
○
○
リフロー(R)
フロー
(F)
R&F
温鉛フリーはんだ開発プロジェクト」を2年計画で立ち上げ、
2001年度が2年目となる。このプロジェクトはJIEPの係わ
○
F
る研究活動を横断的に組織するもので、はんだ材料はもち
○
R
ろんのこと、基板材料・設計、電磁気設計、電子部品処理、
○
R
実装装置、試験方法など、実装の係わるほとんどの項目を
Sn-3.5Ag-5Bi-0.7Cu
○
R
Sn-3.5Ag-6Bi
○
Sn-0.7Cu-0.3Ag
Sn-2Ag-3Bi-0.75Cu
○
Sn-2Ag-4Bi-0.5Cu-0.1Ge
Sn-57Bi-1Ag
○
R
○
R
包括し、今後、鉛フリー実装の係わる全ての人々への有用
なスペックの提供、各種データベースの構築を目指すもの
である。「低温」の目指すものは、実装温度を現行のSn-Pb
共晶はんだ並以下に下げることであり、このためSn-Zn系、
Sn-Bi系などが材料として候補に含まれている。すでに、
2001年3月に第一回目のシンポジウムを開催し、Sn-Znに関
する報告書が出版されている5)。
*電子情報技術産業協会(JEITA)は、2000年11月に日本電子工業振興協
会(JEIDA)と日本電子機械工業会(EIAJ)が統合して発足した団体で
ある。
3
ESPEC技術情報 No.26
5. 鉛フリーはんだ実用化の現状
NECは、1998年末よりページャ(ポケットベル)の生産
をSn-Ag-Cu系はんだで開始している。1999年10月には、フ
日本の主要エレクトトニクス・メーカーは、鉛フリーは
ラックスの改良でぬれ性の向上したSn-Zn-Bi系はんだを用
んだを用いた量産化においても世界をリードしている。表
いてノートPCの生産を始め、機種を拡大している。基板に
4には、各社の個別の鉛フリー化へ向けたロードマップと、
はAu/Niめっきが施され、窒素リフローによる生産である。
実用化の例をまとめた。ただし、この表は筆者の入手して
図3には、その基板の写真を示す。
いる情報の範囲で記したもので、漏れている部分もあるか
もしれないことをご承知置き願いたい。
表4 各メーカーの自主的目標(各上段)と量産実用化製品(各下段)
メーカー
松下電器
産業
N E C
日立
製作所
取り組み内容
時 期
全 廃
2002年度末
コンパクトMD実用化
カセット実用化
ビデオに実用化
東 芝
1998年10月
2000年 1月 リフロー:Sn-Ag-Bi-In
1999年末
フロー:Sn-Cu(-Ni)
97年度の使用量を半減
全 廃
2001年 3 月 1事業部1製品以上
2002年12月 (Sn-Ag-Cuが主)
ページャ(ポケットベル)実用化
ノートPCに実用化
1998年12月 リフロー:Sn-Ag-Cu
1999年10月 窒素リフロー:Sn-8Zn-3Bi
97年の使用量を半減
社内生産では全廃
日立グループ内で全廃
2002年 3月 国内生産は50%弱削減達成
2002年 3月 海外生産と購入品は対象外
2004年 3月
VCR(ビデオカムレコーダー)、 1999年2,10月 フロー:Sn-Ag-Cu系
冷蔵庫の一部に実用化
掃除機、洗濯機、
エアコン 2000年∼
リフロー+ハロゲンフリー基板
ノートPC実用化
2000年∼
全 廃
ソニー
備 考
VCRに実用化
TV、
ノートPCに実用化
主要製品に実用化
全製品に採用
TV、冷蔵庫、洗濯機、ホーム
ランドリ、
クリーナ等に実用化
2005年
2000年 3 月 Sn-2.5Ag-1Bi-0.5Cu
2000年10月 フロー+ハロゲンフリー基板
2000年度
2003年度
2000年12月 挿入実装
三菱電機
半 減
全 廃
富 士 通
全LSIを鉛フリー化
PWB半数を鉛フリー化
全 廃
2000年10月
2001年12月
2002年12月
セイコーエプソン
全 廃
2001年度末
日産自動車
キーレスエントリー
システムに実用化
Philips
電灯基板に実用化
Erricson
新製品の80%を鉛フリー化
&ハロゲンフリー基板
図2 松下電器産業の世界初の鉛フリーはんだ量産機
コンパクトMDと基板(松下電器産業より)
2004年度
2005年度
家電4製品
2000年 8月 Sn-Ag-Cu系フロー
1999年12月 フロー:Sn-1Ag-5Bi
2002年に
Ford
車両盗難防止システム用
2000年12月 未発表
(Visteon)トランシーバ・モジュール実用化
図3 NECで実用化したSn-8Zn-3Biリフローによる
ノートPC基板(NECより)
日立製作所は、1999年から積極的な鉛フリーはんだへの
世界初の量産実用化は、1998年秋の松下電器産業のコン
転換を進めており、2000年中期には国内生産の5割弱を鉛
パクトMDに始まった(図2)。Sn-Ag-Bi-In系はんだの一括
フリーはんだに転換しているそうである。図4は冷蔵庫の
リフローで生産されており、2000年中期ですでに第4世代
メイン基板であるが、高温系のはんだを用いて片面フロー
に入っており、カセット・プレーヤーなど海外生産にも拡
で量産している。ノートPCでは、Sn-Ag-Cu系はんだでリ
大している。
フローを行っているが、鉛フリーと同時に基板をハロゲン
松下電器産業は、Sn-Cu(-Ni)はんだを用いた片面基板
フリーへと転換している点も注目に値する。図5には、そ
のフロー生産により、1999年末より据え置き型ビデオの量
の基板を示す。
産を開始している。
ESPEC技術情報 No.26
4
2000年度は、自動車にとっても鉛フリーはんだ実装が採
用される年となった。自動車には安全設計が第一と言うこ
とで、昨年制定されたEUのELV指令でもはんだは除外され
ている。しかし、自動車の年間廃棄台数も家電製品と同様
に膨大な数に上り、鉛などの有害元素の代替は早くから望
まれ、各社削減計画を立てている。この状況の中で、日産は、
いち早く2000年夏から量産車のキーレスエントリーシステ
ム基板に、Sn-Ag-Cuはんだ実装を果たしている。おそらく
公表されている実用化では世界初となっている。その基板
を図7に示す。一方、米国でもフォード車がセーフティ・
ロックシステムに鉛フリーはんだ実装を2000年末より果た
している。
図4 日立製作所が実用化した冷蔵庫基板(日立製作所より)
図7 日産自動車が実用化したキーレスエントリーシステム
基板の裏面(日産自動車より)
以上のように、量産に関して日本はまさに世界をリード
図5 日立製作所が実用化したノートPC基板。基板は
ハロゲンフリーも実現している(日立製作所より)
している。2000年6月に公表されたEU指令案が当初の予定
から規制を4年遅らせたことから、各社の足並みは乱れる
ソニーは、ビデオ・カムコーダーへの実用化を2000年3月
のかと懸念されたが、その後の動向を見る限り全く鉛フリ
に果たし、さらにTVの海外生産開始している。はんだは、
ー化への移行スピードは衰えていない。むしろ、前倒しも
Sn-Ag-Bi-Cu系を用いている。図6にはその基板を示す。
見られるほどである。同時に、これは日本ばかりでなく欧
東芝は、すでに2000年度末に多くの製品の生産を開始した。
米でも同じ認識であり、少なくとも大手のエレクトロニクス・
メーカーの情報では、いずれもフルスピードで鉛フリーは
んだ実装を推進していると伝えられている。
6. 鉛フリーはんだ材料
これまでのはんだ付けにSn-Pb共晶はんだばかりでなく、
さまざまな組成のはんだが用いられてきたように、鉛フリ
ーはんだとしても適材適所のはんだの使い分けが必要とさ
れる。特に、Sn-Pb系はんだが幅広い温度範囲をカバーし
ていた部分が、いくつかの合金組成をもって代替する必要
が生じている。表5は、現在鉛フリーはんだとして挙げら
れているはんだの組成、特性および使用上の注意点をまと
図6 ソニーがSn-Ag-Bi-Cu系リフローで
実用化したVCRと基板(ソニーより)
めている。いくつかの候補がある中で、Sn-Ag-Cu系はん
だは、次世代の標準はんだとして最有力候補となっている。
日欧米のプロジェクト研究を通してもこの合金が最も安定
していることが示され、したがって世界が認める標準にな
り得るものと言える。ただし、日欧米それぞれの推奨する
組成は微妙に異なっている。これを表6に示す。科学的に精
度の高い実験とシミュレーションを通して得られた情報では、
共晶組成はおよそSn-3.5Ag-0.7Cu近傍と考えられる。
5
ESPEC技術情報 No.26
表5 鉛フリーはんだ候補合金と留意点(単位はwt%)
プロセス
合 金 種 類
留 意 点
フロー
Sn-Agファミリー:
Sn-3.5Ag、Sn-3Ag-0.5Cu
Sn-Cuファミリー: Sn-0.7Cu
上記合金に微量元素(Ag、
Au、Ni、Ge、In等)を添加
した合金
Sn-Pb部品めっきによるリフ
トオフ、ランド剥離などの
基板ダメージなどには注意。
片面フローであれば、Bi添
加も可能(ただし、42アロ
イとの相性には注意)
Sn-Agファミリー:
Sn-3.5Ag、Sn-3Ag-0.5Cu、
高温系 Sn-(2∼4)
Ag-(1∼6)
Bi
およびこれにInを1∼3%
程度添加した合金
融点高温化に伴うリフロー
温度管理には留意すること。
BiとSn-Pbめっきとの適合性
に注意が必要。
リ
フ
ロ
ー
特殊な腐食環境への適用は
注意する。特に、Clの存在
には注意。
Cu電極に対しては、耐熱性
確保のために、Ni/Auなどの
バリアめっきが望ましい。
Sn-Znファミリー:
Sn-9Zn、Sn-8Zn-3Bi
中温系
低温系
手付け
ロボット
Sn-Biファミリー:
Sn-57Bi-1Ag
Sn-Pbめっき部品との適合性
には注意が必要。
Sn-Agファミリー:
Sn-3Ag-0.5Cu
Sn-Cuファミリー
Sn-Biファミリー
異種のはんだ組成のリペアに
は、適合性に注意すること。
んだに含有すると、Sn-Pbめっき部品との相性が悪いこと
が知られている。これは、Sn-Bi-Pb系の低融点相が界面に
形成することが原因で、この相は100℃以下で融解反応を
生じてしまう。したがって、Pb含有めっきとの共存には注
意が必要である。
Sn-Bi系合金は、139℃の共晶点を有し、200℃以下の実装
を可能とする魅力のあるはんだである。従来延性に乏しい
ことがネックとなってきたが、Agなどの添加により延性改
善が可能になっている。この合金を用いることで、例えば
Sn-Agはんだを高温はんだとして採用することができ、実
装における階層接合(高温-中温-低温の多段階接続)が可
能になる。おそらくほとんどの家電製品では100℃を越え
る耐熱性が要求されることはなく、この低融点はんだでも
かなりの種類の製品に使用出来るだろう。Sn-Pbめっきと
の相性の問題は、Sn-Bi共晶はんだでも同様に注意しなけれ
ばならない。
Sn-Zn-Bi系はんだは、189℃の融点を有し、現行のSn-Pb
共晶はんだに最も近い実装を可能とする期待の合金である。
一方で、Znの酸化が著しいことから実装性が悪く、欧米で
表6 各国のSn-Ag-Cu系はんだの推進組成
地 域
EU
推 進 組 成
IDEALSプロジェクト
リフロー:Sn-3.8Ag-0.7Cu
SOLDERTEC(ITRI)
リフロー、フロー、手付け:
Sn+(3.4-4.1)Ag+(0.45-0.9)Cu
は早くから実用化があきらめられていた。これに対し日本
のメーカーによりフラックスの改良が行われ、大気中で従
来の技術と遜色のない実装を可能とするまでになっている。
今後、耐食性の評価などを通してより信頼性の高いはんだ
米国NEMIプロジェクト
リフロー:Sn-3.9Ag-0.6Cu
へと展開できる可能性を秘めている。Sn-Pbめっきとの相
日本旧JEIDA各社
リフロー、フロー:Sn-3.0Ag-0.5Cu
性の問題は、他のBi含有はんだと同様である。現在、3%Bi
添加が用いられているが、リフトオフ類似の現象など
Sn-Ag-Cu合金で一つのネックとなっていることに、融点
Sn-Pbめっきとの相性の問題は深刻であり、最適組成に関
の上昇による実装温度上昇の問題がある。Sn-Pb共晶はん
しては再考を要している。Bi量は3%以下が望ましいだろう。
だでは融点が183℃であり、例えばリフロー温度は230℃で
Sn-Cu系はんだは、経済性からフロー用としては欠かせ
十分に生産を可能としていた。しかし、Sn-Ag-Cuの共晶合
ない合金である。しかし、Sn-Cuは熱疲労などの信頼性が
金は融点が216℃にあり、現行より33℃の温度上昇となる。
低いことが懸念されており、高信頼性を要求されるような
このため230℃リフローはマージンが小さすぎるためにほ
実装には向かない。また、ぬれ性も悪くスルーホールのぬ
とんど不可能となり、リフロー温度の上昇を余儀なくされる。
れ上がりが十分には得られないので、片面基板のフローな
これによって、半導体をはじめとする各種部品、基板の耐
どへ限定した使い方が必要であろう。信頼性の改善技術と
熱性の向上が要求されるわけである。ちなみに、米国の
してAg、Au、Niなどの第3元素添加による組織微細化、安
NEMIプロジェクトでは260℃耐熱を業界として要求して
定化が試みられている。合金の融点が227℃まで上がるも
いる。部品の耐熱性アップと共に、実装の温度管理にも精
のの、フローの温度条件は従来のSn-Pb共晶はんだに対す
度が必要となる。大小の部品が共存したり、大型基板など
るものと大きな変化はない。しかし、基板の耐熱性やPbめ
の場合でも対応できるように、基板上の温度分布を最小に
っき部品との相性の問題があり、今後の改善が期待される。
するような実装装置の開発が強く要求されている。すでに
電子部品のめっき技術は、NEDOプロジェクトの遂行と
温度分布の小さいリフロー装置も市販されており、設計や
同時期に格段の進歩を示した。従来のSn-PbめっきはBi含
部品レイアウトを最適化すれば大型の基板でもリフロー温
有はんだとの相性が悪く、またリフトオフ発生の原因にな
度240℃程度が可能となっている。
っているので、早い時期の鉛フリーめっきへの移行が望ま
Sn-Ag系はんだへのBiの添加は、融点降下、ぬれ性向上
れている。現在、チップ部品はほぼSnめっきで統一されつ
などの大きな魅力がある。一方で、両面基板のフローでは
つあるが、リード部品ではSn-Ag(ディップめっきが主)、
リフトオフ(Lift-off)と呼ばれる深刻な欠陥の形成があり、
Sn-Cu、Sn-Biなどを使い分けて行くことが必要であろう。
抑制対策とその発生条件を見極めることが早急に望まれて
Sn-Cuめっきは、ある種の基板の上ではウィスカの発生に
いる。その詳細に関しては、別稿をご参照頂きたい 6)。Bi
注意が必要である。
が数%以上添加されたはんだは、42アロイ(ICリードフレ
最近、Snのα-β変態に伴う脆化(錫ペスト)が、Sn-Cu
ーム等に使用されているニッケルと鉄の合金)との界面が
系などで懸念されている。この現象は古くから知られてい
弱いことが分かっている。この界面は初期強度も低いが、
るものであり、抑制対策も十分に知られている 7)。科学的
熱疲労などによって劣化が著しい。界面強度の低さの原因
な見地からの相変態研究は現在でも行われており、本来な
はまだ解明されておらず、詳細な研究が待たれる。Biをは
らば13℃で起こるべき変態が過冷の影響で容易には起こら
ESPEC技術情報 No.26
6
ないことや、Alなどの促進元素や抑制元素の基本的な効果
Sn-Pbはんだは、使い勝手が良かったこともあり、「はん
などを解明することは、今後の産業界にとっても必要なこ
だの横綱であった」と認識されがちである。しかし、この
とであろう。
表現は必ずしも当たってはいない。Sn-Pbはんだを用いて
きたことによって、これまで多くの故障や事故が起こって
7. おわりに
きた。一方、Sn-Ag-Cuを代表とする鉛フリーはんだは、実
装条件さえ適切に選べば実用条件下で間違いなく信頼性を
向上できる。
以上紹介したように、鉛フリーはんだ実装はこの1、2年
Sn-Ag共晶はんだが、これまで信頼性の高いはんだとし
で確実に大きな実用化の展開を見せ始めた。WEEE/ROHS
て用いられてきたことを見ても明らかである。従って、鉛
ではんだに対する規制が2006年と当初の2004年から先送り
フリーはんだ実装の原点に戻れば、鉛を放出し続けること
になったことは、一面では余裕が出来たとも言えるが、国
はすぐにでも止め、技術のノウハウを蓄積し、一日も早く
内外で大手メーカーの鉛フリーはんだへの移行に対する影
信頼性の高い鉛フリーはんだ実装技術を確立することが望
響はほとんど見られない。むしろ、鉛フリーはんだと鉛含
ましい。
有はんだや鉛含有めっきとの相性は悪く、両者の共存する
ここで、少しSn-Ag-Cuに関する特許の問題に触れておき
期間はなるべく短くしたい。したがって、信頼性が確保で
たい。Sn-Ag-Cu合金は、鉛フリーはんだの筆頭候補として、
きたものは、躊躇せずに実用化へ移行してほしい。
世界共通の認められた存在である。この合金系に関し、米
鉛フリーはんだに関して残された主な課題を下記に示した。
国のIowa大学と日本の千住/松下電器産業とで、組成範囲
中には、これまでの共晶はんだでも十分な検討がなされて
は微妙に違いながら別々の特許が成立している。米国特許
いなかった項目があるが、これら未踏の領域へも鉛フリー
の請求範囲には未だに議論もあるが、ユーザーが安心して
はんだ開発努力とともに解決の方向が見えて来たとも言え
世界中のどこでも同等品が使える環境を実現するためには、
るだろう。
少しでも早い時期の両者の歩み寄りが必要であった。これが、
関係者の努力により国内ではようやく両特許の包括合意が
叶った。これによって、 Sn-Ag-Cuを用いて国内で製品を生
鉛フリーはんだの解決すべき技術的な課題
産する限りでは、米国へそれらを安心して輸出することが
1. リフトオフ現象の解明と抑制策の確立
出きるようになったわけである。現在、海外生産への対応
2. 鉛フリーめっき技術の確立とウィスカ対策
も進めているそうなので、一刻も早く合意が成立すること
3. はんだ付け温度の低温化・プロセス最適化
を願いたい。
4. 高温はんだ
一方で、これからの標準はんだをSn-Ag-Cuだけに特化す
5. 低温の脆化(錫ペスト)
るのではなく、Sn-Zn、Sn-Bi、Sn-Cuなどの可能性と適用
6. 物性データベース構築(はんだ、部品、基板)
範囲を見極めることは、是非とも必要である。これらの中
7. 信頼性設計技術の確立
から最終的な標準となるべき合金とプロセス条件を間違い
8. はんだ材料評価技術の標準化
なく選択するためには、確かなデータベースを早急に築く
ことが望まれ、これを可能にするための産官学の強力な協
力関係の構築が望まれる。
鉛フリー化の一つの選択として、導電性接着剤の使いこ
なしに期待が持たれている。将来の超耐熱化、フラックス
レス化、ファインピッチ化など、興味深い技術として拡大
する可能性を秘めている。この辺は誌面の関係で触れられ
なかったが、別の折りに紹介できればと感じる。さらに、
本稿では触れることのできなかった鉛フリーはんだを取り
巻く環境情報、技術動向、課題などに関しては、拙著6)に
紹介したのでご参照いただければ幸いである。
〔参考文献〕
1)Lead-Free Solder Project, NCMS Report 0401RE96 (1997)
.
2)M.R.Harrison and J.H.Vincent, Proc.12th European Microelectronics & Packaging Conference, IMAPS Europe,(1999)
, pp.98-104.
3)Draft of the WEEE Directive, European Commission, DGXI, 1st draft dated 15 April 1998, 2nd draft dated 27 July 1998,3rd draft dated 5 July 1999.4th Draft
dated 10 May 2000.2000年6月公表の最終ドラフトは筆者のホームページ(http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/rci/nano/)やhttp://www.lead-free.org/で
得られる。
4)
「鉛フリーはんだに関する調査研究成果報告書(00-基-17)
」、日本電子工業振興協会、(2000)
5)JIEPプロジェクトシンポジウム・テキスト「Sn-Zn系鉛フリーはんだの実用化」
、エレクトロニクス実装学会低温はんだ実装技術開発プロジェクト、
(2001)
6)菅沼克昭:「鉛フリーはんだ付け技術」
、工業調査会、(2001)
7)C.E.Homer, H.C.Watkins; Metal Ind.,(1942)
, P.364-366
7
ESPEC技術情報 No.26
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