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授乳児と中耳炎(授乳姿勢を中心として - J

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小児耳 2011; 32(3): 248253
第6回
日本小児耳鼻咽喉科学会
シンポジウムⅠ
反復性中耳炎の危険因子とその対応
授乳児と中耳炎(授乳姿勢を中心として)
加
藤
俊
徳
(加藤耳鼻咽喉科医院)
小児中耳炎の発症要因のなかで,頭位(体位)の関与するものに,授乳時の姿勢,胃食道
逆流,寝ているときの姿勢が考えられる。授乳時の姿勢と中耳炎については,1960年ダンカ
ンが哺乳瓶を寝せた状態で授乳させると,ミルクが耳管を経て中耳に入り,中耳炎の原因に
なることを指摘し,哺乳瓶を寝せた状態で授乳したことによりおこる中耳炎を頭位性中耳炎
( positional otitis media)と名づけた。日本でも 30 年前に授乳の時の姿勢により中耳炎をお
こすことが,わかっていた。しかし,多くの母親は,臥位授乳をしているので,その理由を
検討した。そして授乳の姿勢による中耳炎を検討し,さらに,胃食道逆流や,寝ているとき
の姿勢の関与を考察した。
キーワード授乳時の姿勢,添い乳,胃食道逆流,寝相
の関与する要因に,授乳時の姿勢,胃食道逆
はじめに
流,寝ているときの姿勢が考えられる。
1990 年半ば頃から,難治性中耳炎が増加し
授乳時の姿勢と中耳炎については, 1960 年
たといわれだした。耐性菌の出現,増加がその
ダンカンが哺乳瓶を寝せた状態で授乳させる
原因といわれ,これ以上の耐性菌を増やさない
と,ミルクが耳管を経て中耳に入り,中耳炎の
ために 1990 年後半から抗菌薬の使い方を再検
原因になることを指摘し,哺乳瓶を寝せた状態
討することが重要とされてきた。同じ頃から,
で授乳したことによりおこる中耳炎を頭位性中
ウィルス感染の影響も視野に入れた新たな対応
耳炎( positional otitis media )と名づけた1) 。
が必要といわれ, 2002 年からは胃食道逆流の
頭位と中耳炎に関しての本邦での文献は,
関与もあるという報告がみられるようになり,
1979年に古賀は2)授乳に関係なく新生児では臥
中耳炎は細菌感染で抗菌薬投与という図式か
位で下になった側に中耳炎がおこりやすいと
ら,発想の転換が必要と考える。
し,側頭位中耳炎と名づけた。吐物,ミルク,
小児中耳炎の発症要因と,反復化・難治化の
分泌物が耳管経由で中耳に流入したためとして
要因(危険因子)は表 1 のように,直接的要因
いる。1992年中川は3)母乳でも添い寝しながら
と間接的要因に分けることができる。直接的要
の添い乳は中耳炎発症の要因になるとしている。
因(耳管咽頭口付近の粘液,分泌物が耳管を通
1996年丸山は4)生後 6 カ月未満の中耳炎は一側
じ鼓室に入り込む要因)のなかで,頭位(体位)
性の罹患が多いことから,頭位性中耳炎の関与
加藤耳鼻咽喉科医院(〒4450872
( 248 )
愛知県西尾市矢曽根町赤地70番地)
― 14 ―
小児耳 2011; 32(3)
授乳児と中耳炎
表
小児中耳炎の発症要因と,反復化・難治化の要因(危険因子)
間接的要因(宿主関連因子,社会環境因子)
短期間の母乳栄養気候,季節両親の喫煙集団保育(低年齢児)
兄妹の通園家庭内(兄妹からの感染)低年齢(2 歳未満)
未熟児,男児遺伝的要因免疫異常頭蓋顔面奇形
口蓋裂児ダウン症耳管機能不全乳突蜂巣の発育不良例
抗菌薬の前投与中耳炎の既往アレルギー性鼻炎副鼻腔炎
アデノイド増殖症聞き分けのない子(治療拒否,内服拒否)
直接的要因(耳管咽頭口付近の粘液,分泌物が耳管を通じ鼓室に入り込む要因)
鼻閉鼻閉時の嚥下嘔吐授乳時の姿勢おしゃぶり寝相(うつ伏せ)
GERD鼻すすり癖強い鼻かみ両側同時の鼻かみ咳,咳きあげる
くしゃみの方法(鼻をつまんでする)スイミング(飛び込み,もぐり,クイックターン)
風呂でもぐる無理な耳抜き飛行機に乗った後啼泣
を示唆している。このように日本でも 30 年前
結
に授乳の時の姿勢により中耳炎をおこすこと
が,わかっていた。しかし,多くの母親は,臥
1)
果
栄養方法(図 2)
位授乳をしているので,その理由を検討した。
母乳栄養は 2007 年 6 月からの 300 例では 178
そして授乳の姿勢による中耳炎を検討し,さら
例 の 59.3  か ら 2010 年 4 月 か ら の 300 例 で は
に,胃食道逆流や,寝ているときの姿勢が関与
202 例の 67.3 に増え,人工栄養は 68 例の 22.7
する発症要因を考察した。
から46例の15.3に減っていた。
対
2)
象
授乳児と中耳炎(図 3)
初診時に中 耳炎を認めた授乳児は 600 例中
初 診 時 に 授 乳 児 で あ っ た 2007 年 6 月 か ら
239 例で, 239 例を年齢別にみると, 0 歳児は
2008 年 6 月 ま で の 300 例 と 2010 年 4 月 か ら
179例,1 歳児は53例,2 歳児は 7 例であった。
2011年 2 月までの300例を対象とした。図 1 の
0 歳児中耳炎の 179 例を月齢別にみると, 7 カ
上のグラフのとおりで,年齢別では 0 歳児が多
月児にピークがあった。
く,3 歳でも授乳をしていたのは 1 例であった。
3)
栄養方法と中耳炎(表 3)
0 歳児の月齢別は図 1 の下のグラフのとおり
母乳は 600 例中 380 例でそのうち中耳炎を認
で,男では 2 カ月児の 31 例が最も多く,女で
めたのは 136 例で,中耳炎発症率は 35.8 であ
は 5 カ月児の29例が最も多かった。
った。人工栄養,混合栄養はそれぞれ 49.1  ,
方
44.3 であった。有意水準 5 で検定した結
法
果,母乳と人工栄養に有意差があり,人工栄養
授乳児の母親に表 2 のようなアンケートをと
り,赤ちゃんの授乳方法,寝せて授乳をすると
の方が母乳に比べ,中耳炎発症率は高い。
4)
頭位性中耳炎と臥位授乳の関係(図 4)
中耳炎になることがあるということを,知って
寝せて授乳をすると中耳炎になることがある
いるかどうか,哺乳瓶で寝せて授乳をしている
ことを知らないと答えた母親は 600 例中 430 例
か,母乳では添い乳をしているかなどを検討し
の 72 であった。哺乳瓶と母乳の添い乳も含
た。鼓膜は硬性鏡で観察し鼓膜所見から中耳炎
め,寝せて授乳をしていたのは67であった。
の判定を行い,ファイルに保存した。
5)
中耳炎児と臥位授乳(図 5)
寝せなくて授乳をしていた症例のうち初診時
の中耳炎は, 196 例中 78 例の 39.8 ,寝せて授
― 15 ―
( 249 )
小児耳 2011; 32(3)
加藤俊徳
図
2007年 6 月からの300例と2010年 4 月からの300例で合計600例の授乳児
表
頭位性中耳炎(ミルク性中耳炎)についてのアンケート
頭位性中耳炎(ミルク性中耳炎)についてのアンケート
平成
年
月
日
カルテ No
氏名
年齢
男・女
あてはまるところに○印をつけてください。
1.
赤ちゃんの授乳方法は
母乳・哺乳瓶(ミルク)・混合(母乳とミルク)
その他
2.
授乳の時に寝かせてやると,中耳炎になることがあることは,知っていますか
3.
知っている人は,いつ,どこで知りましたか
(
4.
哺乳瓶で授乳する時に,寝かせてやっていますか
5.
母乳をあげる時に,添い乳(添い寝しながら授乳)していますか
6.
寝ている時は,どんな姿勢が多いですか
7.
保育所,幼稚園は
知っている・知らなかった・その他
)
寝かせてやることがある・寝かせてやってはいない
添い乳をすることがある・しない
仰向き・横向き・うつぶせ・決まっていない・その他
いっていない,いっている(いつから
カ月)
乳をしていた 404 例中中耳炎は 161 例の 39.3 
考
であった。この結果からは寝せなくて授乳をし
ても,寝せて授乳をしても中耳炎の罹患率は変
1)
察
母乳育児の増加と添い乳について
図 6 に愛知県の 3, 4 カ月検診時の栄養方法
わらなかった。
の推移を示す。 1981 年から 2009 年にかけて母
乳育児が増え,逆に人工栄養は減っている。愛
知県は全国平均より母乳育児率が高い。母乳育
( 250 )
― 16 ―
小児耳 2011; 32(3)
授乳児と中耳炎
助産師による指導が最も効果的と考える。耳鼻
科医も授乳児が来院した時に,授乳の姿勢を確
認し,指導することが必要と考える。
2)
中耳炎の発症要因
1
◯
新生児から 2, 3 カ月児までの中耳炎の発
症要因(図 7)
新生児期から 2, 3 カ月児では,母親からの
免疫防御機能のため上気道感染症には罹患しに
図
栄養方法
くく,上気道炎症状はあったとしても軽微であ
る。この時期は寝返りがうてず,臥位で一定の
児が増加しているのは,WHO が1989年に母乳
頭位をとる。授乳の姿勢が正しければ,この時
育児成功のための 10 ヵ条をだし, 2001 年には
期の中耳炎は,胃食道逆流が主な要因となり,
生後 6 カ月間は母乳だけで育てるべきである
耳管機能不全の程度により発症すると推定す
と,世界に推奨したためと思われる。日本の助
る。古賀の側頭位中耳炎2)も胃食道逆流が発症
の母乳育児支援ガイド5)に
の要因であることを示唆している。胃食道逆流
そって母乳育児指導を行っている。支援ガイド
現象は新生児や幼少児にはしばしば認められる
は,おしゃぶりは禁止しているが,添い寝,添
現象である。添い寝に伴う添い乳はゲップをだ
い乳をすすめる記載がある。頭位性中耳炎を知
さずに寝ることになり,中耳炎発症の要因であ
っていても,夜寝かしつける時に,添い乳をす
る胃食道逆流現象から,胃内容物が中耳にはい
る母親もいる。哺乳瓶の臥位授乳はミルクが耳
る機会が増えることになり,避けるべきであ
管に入り中耳炎の原因になるが,母乳の添い乳
る。中耳炎の発症を防ぐためには授乳後はゲッ
も母乳が耳管に入る危険性がある。母乳育児は
プの励行や抱っこの姿勢を保持することが必要
増えているが,助産師が添い寝,添い乳を指導
となる。
することが,母乳の添い乳が減らない理由と考
2
◯
産師の多くは WHO
える。正しい授乳の姿勢の普及には,母親への
図
4 カ月児以後の授乳児の中耳炎の発症要因
と難治化の危険因子について(図 8)
乳児600例中の初診時中耳炎を認めた239例の年齢,月齢について
― 17 ―
( 251 )
小児耳 2011; 32(3)
表
加藤俊徳
栄養方法と中耳炎
栄養方法 総数600例
初診時の中耳炎児(239例)
母
乳
380例
136例(35.8)
人
工
114例
56例(49.1)
混
合
106例
47例(44.3)
図
図
図
栄養方法の推移
頭位性中耳炎と臥位授乳
図
新生児から 2, 3 カ月児中耳炎の発症要因について
図
4 カ月児以後の授乳児中耳炎の発症要因と難治化
の危険因子について
中耳炎児が臥位授乳かどうか
4 カ月児以後の授乳児の中耳炎発症要因に
は,胃食道逆流や授乳時の姿勢に加え上気道炎
症状の影響が強くなってくる。また早い子では
4 カ月児以後に仰向きから寝返りをうつように
なる。夜間睡眠中の体位に関し,特に右側臥位
は胃食道逆流が起こりやすいといわれてい
て6),胃食道逆流に睡眠中の体位が何らかの影
響を及ぼしていると考えられる。さらに睡眠中
勢を改善することで,治癒すると考えられる。
の体位は耳管の形態,機能に影響を及ぼすと考
今回寝せて授乳をしても,寝せなくて授乳をし
えられ,特にうつ伏せ寝で下になった側の方
ても中耳炎の罹患率が変わらなかったのは,中
が,難治になりやすいと推定する。さらに年長
耳炎は単独の要因で発症することは少なく,い
になると図 8 以外にも多数の要因がからんでく
くつかの要因が関与することが多くまた個人の
る。授乳の姿勢単独の影響が強ければ,授乳姿
持つ免疫能力や耳管機能の能力によるところが
( 252 )
― 18 ―
小児耳 2011; 32(3)
授乳児と中耳炎
大きいからと考える。
3
◯
道炎症状が加わると,病態が複雑になり難治
授乳時の姿勢と胃食道逆流と寝ているとき
化,反復化すると考えられる。危険因子には避
の姿勢の関与について
けることのできるものと,避けることの困難な
授乳時の姿勢,胃食道逆流,寝相これらは頭
もの,また年長になるにつれ,解消されていく
位(体位)の関与する中耳炎発症の要因である
ものがある。臥位授乳は避けることの出来るも
が,上気道炎症状のないときにも発症する耳管
のであり,耳鼻科医は授乳時の正しい姿勢を指
経由の要因と考えられる。胃食道逆流の関与
導すべきと考える。中耳炎は単独の要因で難治
は,曾根は7)成人の滲出性中耳炎については問
化することは少なく,種々の要因が絡み合い難
診で gastroesophageal reflux disease( GERD )
治になると考えられ,抗菌薬のみに頼るべきも
なしと診断された群より, GERD ありと診断
のではない。
された群で中耳貯留液のペプシノーゲン濃度高
文
値例が有意に効率であった。また proton pump
inhibitor ( PPI )投与により改善,治癒が認め
られたことから,逆流内容液が中耳腔内にまで
到達することを示しており,中耳炎に対する直
接障害としての GERD の関与を示唆する所見
とした。Tasker8)は小児の滲出性中耳炎につい
ては小児の中耳滲出液中に高濃度のペプシノー
ゲンが検出され,胃食道逆流物,特にペプシン
が,耳管開口部経由に耳管粘膜上皮を障害する
とした。新生児,乳児では生理的に頻回の胃食
道逆流が起き,より強く中耳炎との関連が示唆
される。さらに上気道炎症状や他の要因が加わ
ると病態は複雑になり,重症化,反復化すると
考えられる。
ま
と め
中耳炎の発症要因と難治化の危険因子は,新
献
1) Duncan R. B.: Positional otitis media. Archives of
Otolarygology; 1960; 72: 454463 Diagnosis and
Management of Acute Otitis Media, Pediatrics 2004;
113(5): 14511465.
2 ) 古賀慶次郎新生児中耳炎―頭位性中耳炎と院内
感染について―.耳喉 1979; 51(7): 495501.
3 ) 中川清子乳幼児急性中耳炎の発生要因―哺乳位
を中心としたアンケート調査から―.小児看護 1992;
23: 8587.
4) 丸山 純0 歳児急性中耳炎の臨床的研究,日耳鼻
1996; 99: 402410.
5 ) UNICEF / WHO 赤ちゃんとお母さんにやさしい
母乳育児支援ガイドベーシックコース「母乳育児成功
のための10ヵ条」の実践.医学書院2009: 165.
6 ) 本郷道夫逆流性食道炎の病態と診断.病理と臨
床 2004; 22(6); 557562.
7) Michihiko Sone: Relevance and characteristics of
gastroesophageal re‰ux in adult patients with otitis
media with eŠusion. Auris Nasus Larynx 2011; 38:
203207.
8) Tasker: Is gastric re‰ux a cause of otitis media with
eŠusion in children? Laryngoscope 2002; 112: 1930
1934.
生児期から年長になるにつれ,増えてゆきそし
別刷請求先
てある年齢から改善されていくものがある。授
〒4450872 愛知県西尾市矢曽根町赤地70番地
乳時の姿勢,胃食道逆流,睡眠時の姿勢は中耳
加藤耳鼻咽喉科医院
加藤俊徳
炎発症の直接的要因と考えられる。そこに上気
Management of rist factors in children with otitis media prone.
Otitis media in infant during lactation period
Toshinari Kato, M.D.
Kato Ear Nose Throat Clinic
Key words: infant's position during feeding, gastroesophageal re‰ux, sleeping position
― 19 ―
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