マンガ ライフサイエンス・第 32 回 生命現象におけるアナロジー 敗血症と早産の場合 萩原 清文*作 多田 富雄**監修 ◆マンガ・ライフサイエンスでは,脳と胸腺,もしくは関節リウマチとクローン病という,一見似ても似つかないも の同士の類似性(アナロジー)を描いてきた(第 12 回,第 16 回) .一見異なるもの同士の類似性を探ることは, 知的快楽につながるだけでなく,生命現象の背後にある「法則」のようなものを理解することにもつながると思 われる.今回は敗血症と早産という,これも似ても似つかないもの同士の共通項について探ってみたい. ◆そもそも免疫反応には抗原に対する特異性の低い自然免疫と,特異性の高い獲得免疫とがあるが,獲得免疫の過 剰作用が生体に害をもたらしたのがアレルギーにほかならない.一方,自然免疫の過剰作用が生体に害をもたらし たのが敗血症や早産といえる.病原体が感染するとマクロファージからTNF-αをはじめとする炎症性サイトカイン が産生されるわけだが,敗血症や早産においては炎症性サイトカインの過剰な作用が災いしているのである. 病原体 毎度おなじみの マクロファージ マクロファージは病原体を貪食し て興奮するとTNF-αをはじめと する炎症性サイトカインを出す なんだおめ∼は? 大変だ∼ みんな集まれ∼! TNF-α パク パク 食細胞(好中球や単球など) あ∼れ∼ フィブリン血栓 血小板 TNF-αは毛細 血 管を拡 張し 血流を緩やかに する TNF-αは血管内 皮に接 着 分 子を 発現させ,食細胞 を引き止める 106(682)医薬の門 2003 年 TNF-αは毛細血管の透 過性を亢進させるので食 細胞が浸潤しやすくなる TNF-αは毛細血管内に血 栓を形成させるので病原体 は局所にとどまるはずである. − 生命のダイナミズム− *日本赤十字社医療センター内科 **東京大学名誉教授 ◆炎症性サイトカインの作用を振り返ってみよう.炎症性サイトカインの第一の作用は,食細胞を病原体感 染局所に動員することである.すなわち,毛細血管を拡張させて血流を緩やかにし,血管内腔に接着分子 を発現させて食細胞をひっかけ,なおかつ血管透過性を亢進させることによって食細胞を浸潤させるので ある.炎症性サイトカインの第二の作用は,集合した食細胞を活性化して,プロスタグランジンなどの炎 症のメディエーターを産生させたり,タンパク分解酵素や活性酸素などを放出させることである.その結 果,病原体だけでなく周囲の組織までもが道連れに障害される.炎症性サイトカインの第三の作用は,毛 細血管内に血栓を形成し,病原体が全身に広がるのを防ごうとすることである. ◆以上の炎症性サイトカイン作用が全身の毛細血管に及ぶと,全身の毛細血管が拡張しショックに至る. また,血栓形成が全身に及ぶので播種性血管内凝固症候群(DIC)となる.これが敗血症の病態生理であ る.一方,胎児を包む卵膜に病原体が感染することによって,卵膜局所で炎症性サイトカインが産生され ると,誘導されるタンパク分解酵素によって結果的に卵膜が脆弱となり前期破水に至りやすくなる.また, 炎症性サイトカインによってプロスタグランジンF 2αが局所で産生されれば,子宮が収縮し,前期破水と相 まって早産となる.すなわち,早産においても敗血症においても,本来ならば病原体を早期に駆除する上 で重要な炎症性サイトカインの過剰作用が災いしているのである.私が10 年以上かけて考案した「免疫学 の鳥瞰図」 (第 28 回参照)の中に今の話を位置付けると,次のようになるであろう. B 反応の過剰 非特異的免疫(自然免疫)反応 の過剰が害になった場合 特異的免疫反応の過剰が害になった場合 アレルギー,自己免疫疾患 敗血症や絨毛羊膜炎後早産など 非特異的な反応 特異的な反応 免疫反応の非特異的(全般的) な低下 免疫反応の特異的な低下 免疫不全 免疫学的寛容 例:妊娠,経口寛容 T T 反応の低下 VOL. 43 NO.5 107(683)
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