メディアによるスポーツイベント化の是非 2001/09/06

スポーツとメディア ―メ ディアによるスポーツイベント化の是非
2001/09/06
安全保障班 小林麻衣子
1.問題提起
● テレビの強大化による、スポーツイベント化は是か非か。日本のスポーツ放送は、誕生
以来どのような過程を経て現在に至ったか。そして、どんな問題点を抱えているのか。
2.スポーツ放送史
(1)ヨーロッパ
①1936 年ベルリン五輪大会中継←最初のオリンピックテレビ中継
※『オリンピア』(スポーツの芸術性と映像による感動・「やらせ」
・プロパガ
ンダとして利用)←今日の映像メディアとスポーツの関係に影響
②スポーツ商業化 (背景)・当時のヨーロッパ放送の大半が公営放送
・商業放送局の登場(1962 年イギリスの ITV の全国
ネット完成)
(2)アメリカ ①1939 年定期放送開始 (受像機メーカー:バーにテレビ無料で提供)
②スポーツ商業化への工夫 ・他局との差別化のための独占放送
・スポーツのショーアップ(ドラマ性・バラエティー性)
(3)日本
①1951 年日本橋三越の電波展示会の実験放送(後楽園球場でのプロ野球受信)
←日本初のスポーツテレビ放送
②1953 年、NHK・日本テレビ開局→プロレス・競馬・大相撲・プロ野球ナイター戦・
高校野球放送
3.スポーツマーケティングとは
・定義:競技団体、スポーツに関わる企業や組織がグローバルな視野に立ち、スポーツフ
ァンとの相互理解を経ながら、スポーツへの深い理解に基づき、公正な競争を通して行
うスポーツ市場創造のための活動
・条件:スポーツマーケティングは、スポーツの主体者であるスポーツ団体が具体的な権
利なり、イメージなりを「売る」行為がなければ成立しない
・日米比較:
(アメリカ)・プロスポーツの存在←スポーツをビジネスとして捉える
・スポーツマーケティングに関わる人材交流←専門家が育つ環境
(日本)
・スポーツイベントの主催者が新聞社・放送局であった⇒企業は広告
参加のみ、スポーツ団体はセールスの主体になりにくい⇒専門家不要
・種類①「スポーツを売る」 ・価値の創造→興行収入・放映権収入
・要素:特定のスポーツ自体や選手によって創られるイメージ・伝播力
※なぜ「売る」のかスポーツ団体サイドにとって、資金は必須であるため
②「スポーツで売る」 ・企業が特定のスポーツの持つポテンシャルを評価して、マ
ーケテイング戦略に活用できるか検討する
・スポーツ大会の大きな資金源=企業からの協賛
※企業にとってのスポーツマーケティングの効用
①不特定多数の一般市民:スポーツ支援という社会貢献を通じてグッドウイル
を獲得…ゼッケン協賛・ヘルメット協賛
②インナー:社員、特約店のモラルアップを醸成…企業スポーツ
③取引先:ビジネス・トゥ・ビジネス
④消費者…イベント関連プレミアムの制作・チケットプレゼント
⑤競合社:存在感を際立たせ、差別化をはかる
4.テレビとスポーツ
※テレビメデイア=スポーツマーケティングの最も大きな舞台
(1)テレビ技術革新とスポーツイベント
※電波メデイアと活字メデイアの最大の相違点…ライブ性
●テレビ伝送技術の発達
①VTR ―テレビの本放送開始―1937 年ドイツ
<ヨーロッパ>・ユーロビジョン…放送ソフトをタイムリーに明渡しするために
創られたネットワーク
・1954 年 FIFA ワールドカップ・スイス大会 ―ランドラインを通
じてヨーロッパ主要国にライブ中継
<アメリカ>・1948 年 MLB のワールドシリーズ ―ラ ンドラインで全米に放送
②衛星放送 1964 年東京五輪大会 ―開会式をアメリカ・カナダに同時中継
③映像収録 1961 年アメリカでスローモーション・アクション・リプレイの発明
●表現技術関連の技術発展
①スロー再生の技術
(1963 年東京五輪から)
②非日常的な視点からの映像供給
③コンピューター・グラフィック技術
※バーチャル・アドバタイジング ←第三のコマーシャル・メッセージ
―技術発展によって、
「面白く、詳しく、迫力のあるスポーツ映像」の制作が進んだ
(2)スポーツ中継の有料化(1990年代中頃 ―有料衛星テレビ放送の出現)
<ヨーロッパのテレビ業界事情>
・∼90 年代 ―地上波テレビ少ない、大半は公営放送
(企業)テレビ CM ナシ→スポーツ大会における広告看板の価値大
(競技団体)安定した収入+人気
⇒「収入」
「露出」というメリット→スポーツビジネスの拡大生産
・90 年代 ―民間商業放送局の誕生
・90 年代後半 ―商 業放送における有料放送局の出現(放送権)
<アメリカのテレビ業界事情>
・スポーツ放送権のテレビメディアによる独占と権利料の高騰
・NFL の放映権:現在一試合あたりの権利料は 30 億円
<日本のテレビ業界事情>
①CS 放送 ―スカイパーフェクト TV!の存在
②BS(衛星放送)デジタル放送・・・2000 年 12 月
③異業種からの参入 NTT・日本テレコム・セガ・ソフトバンク・・・
④インターネットの急速な普及・拡大
(3)多チャンネル時代
●多チャンネル化と高騰するスポーツ放送権利料
<高騰化の理由>
・メディア側視点 ―スポーツは受信契約者確保のために、最も有効なコンテンツ
・スポーツ側視点 ―放映権の高騰=目先の収入増加
<問題点> ①テレビ局にとってペイするのか
②仮にペイしない場合、それでも巨額の権利料を支払い続ける根拠
③その「異常な事態」はいつまで続くのか
④その点をスポーツ側はどう認識しているのか
●スポーツ番組
<なぜスポーツ中継が多いのか>
理由)テレビ局からの視点①「番組」として作りやすい←製作費・カメラ配置・
時間など想像がつきやすい
②ドラマ性・情報性が高い
企業(スポンサー)からの視点 ―イ メージアップ←スポーツの持つ「さわ
やかさ」「力強さ」
・・・
視聴者 ―ニーズがある、気軽にいつでも観戦可能
<売れるスポーツ・売れないスポーツ>
・
「いい物件」にはそれだけニーズがある=株
テレビ局・企業にとっても獲得メリットが大きい
・番組が作りやすい、CM がいれやすいという要素も重要
(4)問題点
●メディアの影響力増大
①ルール改正(競技時間の短縮・コマーシャル時間の確保・エンターテイメント性)
②試合開始時間への影響←重点放送地域での視聴率優先
③大会の主旨の歪曲
●スポーツジャーナリズム
①スポーツの本質を見せず、番組仕立てにしてしまう
②スポーツ芸能の恐れ
③取材される側とされる側の信頼関係構築
④送り手・受け手のレベルアップ
⑤取り上げ方の偏り
5.結論
現在、メディアとスポーツ組織ではメディアが与える影響が大きい。この原因は今まで
見てきたように、高騰を続ける人気スポーツの放送権料やエンターテイメント化などの問題
が関与していることは明らかである。しかし、双方が密接につながり、関係をたつことは不
可能である。つまり、イベント化が是か非かを問うならば、競技力向上・経済効果をはかる
ことができるという要因からも、答えは「是」と言えるだろう。多チャンネル化が進む現在
において重要なことは、スポーツとメディアの双方にとって有意義な将来の方向性であろう。
参考文献:
橋本一夫 『日本スポーツ放送史』(大修館書店、1992 年)
神原直幸 『メディアスポーツの視点―類似環境の中のスポーツと人』
(学文社、2001 年)
広瀬一郎 『ドットコム・スポーツ ―IT 時代のスポーツ・マーケティング』
(TBS ブリタニカ、2000 年)
海老塚修 『スポーツマーケティングの世紀』(電通、2001 年)
石井清司 『スポーツと権利ビジネス』(かんき出版、1998 年)
西田善夫 『オリンピックと放送』(丸善株式会社、19991 年)